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    元スレ菫「見つけた。貴方が私の王だ」咲「えっ」

    SS+覧 / PC版 /
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    みんなの評価 : ★★★×4
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    503 :

    乙です
    照だと何の葛藤もなく普通に王やってそう

    504 :

    じゃあ照でいいじゃん

    505 :

    照ファンのウザさは異常

    506 :

    咲姉は別の国の王なんじゃね?相方は以外にも和とか。
    久は麒麟っぽいイメージだな。

    507 :

    王といえばシズは?咲よりは王っぽいよね

    508 :

    てかなんで咲なんだろうな
    一番ありえんわ
    原作の咲ぶさいくだし性格屑だし
    平気で民を奴隷のように搾取しそう

    509 :

    照の出番がないから荒ぶってる照ファンに草

    510 :

    照やシズや慕という主人公がいるのに咲とかいうろくでもない奴を主人公にするとか…
    咲豚は少しは自重しろよ

    511 :

    それぞれの好きなキャラいるだろうしさ
    あんまり貶すの止めときなよ
    イッチだって意図があって主人公に置いてるんだろうしさ

    512 = 511 :

    それぞれ好きなキャラいるだろうしさ
    貶すのはやめよーぜ、見てて楽しくないし
    イッチも意図があって主人公に置いてるんだろうしさ

    513 = 511 :

    連投すまぬ、文章変わってるけど

    514 :

    楽しみにしてるスレなのに
    なぜいきなり荒れてるんだ

    515 :

    そんなん他キャラ下げる咲厨が煩いからでしょ?せっかくここで主人公にしてもらえてるのに態度でかすぎ

    517 :

    咲を貶めてる人達が原因なのに咲厨が煩いからってそりゃ通らんよ

    519 :

    久が麒麟だったとしたらきっと、異端な麒麟として扱われそうな気がする

    520 :

    こういう流れ無視して淡々と投下してくれる1が好きだ

    521 :

    お肉食べたいとか無茶苦茶言いそうwww久
    で豆腐を肉に見立てた料理が流行るんですね分かります。
    でもそうなると照を日本から連れてきた方がいいよな、ストーリー的には。

    咲とは違った、それはそれでいい王になるんだろな。

    522 :

    そうそう、やっぱり照だよ。
    咲とは比べもんにならんよ。

    523 :

    >>522
    そうそう、やっぱり照だよ
    ということで照が主人公のssでも書いていて引っ込んどいて下さい^^

    524 :

    咲なんかと比べるのは他キャラに失礼だろ?

    526 :

    >>525
    お前どこの作者?
    あえて酉つけてるけど宣伝かなんか?

    527 :

    一瞬想像してしまったが、眼前の茂みが途切れる現実に気付いて余計な事を考えるのをやめた。

    意を決して途切れた茂みから飛び出すと、向こうに見えた石の土台の影に身を滑らせた。

    背後から喧騒は聞こえていたが、どうやら一瞬姿を現した自分には気付かなかったようだ。

    土台の影の周囲より死角になった場所で身を屈んで腰を落とすと一息付く。

    どうやらここは今は使われていない東屋の石の土台部分で、

    咲はその裏側にできていた窪みに上手い具合に収まっている。

    聞こえてくる声に緊張しながらも頭を少しだけ出して辺りを見渡す。

    先ほどまで咲がいた茂みの向こうに複数の人の気配を感じた。

    反対側に逃げられないか探るが、この場所から建物へと続く道筋に新たに数人の人影が見えた。

    多分自分がここに来てしまったのは相手側にしてみれば幸運だったのだと思う。

    今は使われていない、人気の無い庭の奥地だ。

    逃げようとすれば建物を目指すしかなく、そこまでの要所要所にうろつく人の影が見えている。

    自分を探しているのは明白だ。

    咲は自身の危機管理の無さを呪う。

    菫の使令である妖魔の事を思い出す。

    あの場所を動かないでと言われていたのに咲は破る形になってしまった。

    不可抗力ではあるが、約束を破ってしまった事には変わりない。

    528 = 338 :

    ふと緊張からか額を伝う汗に気付いた。

    片腕を上げてそれを拭った後に、腕を降ろした過程で咲は気付く。

    地を這うように移動してきたせいか手の平は酷く汚れてしまっていた。

    土気色の両手を見比べ、今こうして息を殺し、周囲に気付かれないよう身を潜めている自分に気付く。

    こんな時に。……場違いではあるが、咲は懐かしいと思った。

    ここに来る前までは、こんな風に商家の主人に怯え、息を潜めていた頃があった。

    そのまま汚れた両手をゆっくり握り締める。
     
    だが握り締めた拳を額に当てるように蹲った瞬間、

    ふと何かを感じて咲は閉じていた瞼を開けた。

    少し向こうからは相変わらず自分を探す喧騒が聞こえる。

    だから、その声らに反応してしまったかと思ったが……違う。

    蹲りそうになっていた上体を起こすと、

    感じ取った何かを確かめるために顔を上げた。

    529 = 338 :

    「…………」

    多分、呼ばれた。

    誰に?……今まで必要とされた事もなかった自分を。

    そう思った瞬間、また呼ばれたと思った。

    怪訝に思う……が、すぐにその声が誰のものなのかを悟った。

    不思議だが絶対にそうだと確信した。

    無意識に咲は呼び返す。

    「……菫さん?」

    頼りない声になった、だけどきっと当たっている。

    脳裏に咲が出会ってから今まで見てきた、あの毅然と佇む姿が浮かぶ。

    だから、咲は気付くのだ。

    家族のいない自分は、ずっと誰にも必要とされていなかったかもしれない。

    自分の声など届かないのだと信じていた。

    それを寂しいなと思った過去は確かにあった。

    だけど、それは違うのだと……脳裏に浮かんだ姿が咲に教えてくれる。

    だって彼女は咲を見つけてくれたではないか。

    必要だと言ってくれた。

    今もこうして、自分の事を呼んでくれている。

    その事がどんなにか折れそうになる自分を支えてくれているか、きっと菫は知らないだろう。

    530 = 338 :

    そうだ、今の咲は自分自身しか無かった頃とは違う。

    必要だといってくれる人がいる。

    不思議な感覚だった。

    自分を呼んでくれる声に応えるように、蹲りそうになっていた背が伸びる。

    怯えて俯きそうになっていた頭が上を向く。

    咲は行かなければいけない、自分を必要だと言ってくれた半身の元へ。

    あの姿に伝えたい事がある、聞きたい事もたくさんあるのだ。

    その事に、先ほどやっとで気付けたのに。

    折っていた膝をグイと伸ばす。

    こんな所で蹲ってはいられない。戻らなければ。

    立ち上がった瞬間、周囲に広がる茂みが激しく揺れた。

    葉が落ち、木々が折れる音と共に荒々しい足音が複数、雪崩れ込んでくる。

    殺気立った男達が取り囲むように立ち塞がる。

    その各々が握る刃の鈍い輝きが見えた。

    ただ、咲は自分が思う以上にこうして対峙する暴漢達を目の前に取り乱さずにいる。

    ぐるりと殺気立った顔らを見渡すとその中の一人が言った。

    官吏「ここまでですな」

    恰幅の良い官吏の姿だ。

    自然、彼へと視線を向けた。

    531 = 338 :

    官吏「もはや後はございませんぞ」

    確かに咲の背後には石の土台があって後ろには逃げられない。

    また周囲には凶器を持った男達が立ち塞がっているから四方八方、逃げ場はない。

    それを冷静に理解した頃に、また官吏の声がする。

    官吏「主上の事を今まで誤解していたようです。……もっと、か弱い方かと思っておりました」

    こうして取り囲まれても取り乱さない咲を見ての感想だろう。

    だから咲も自然と頷く。

    「私も、そうだと思っていました」

    官吏「ならば私共が怖くはございませんか?御身を損なう武具で、こうして迫っているのですよ」

    「そうですね。以前の私なら、きっと蹲って震えていたでしょう」

    「嵐を理不尽だと決めつけて、それが通り過ぎるのをひたすらに待っていたと思います」

    官吏「……諦めて自暴自棄にでも成られたか?それならば先ほどの私共めの案を呑んでは頂けないでしょうか?」

    官吏「なに、決して御身を悪いようには致しません。むしろ外の嵐が怖いと言うのであれば…」

    官吏「主上には安全な場所にいて頂いて、御身を煩わせる雑務などは私共が責任を持って変わりを果たしましょう」

    「………」

    官吏「主上」

    催促する声は焦りに満ちている。だから咲は彼に尋ねた。

    「それで、今までと何かが変わるのでしょうか?」

    官吏「変わりません。変わらせないために、こうして主上にお願い上がっているのです」

    532 = 338 :

    官吏の言葉を受け、咲は深く理解した。

    理解したから、その提案に対して咲は首を左右に振るのだ。

    そしてはっきりと宣言する。

    「貴方達が望むのは以前と同じ、王がいなくてもいい…貴方達にとって都合の良い国を続けていく事」

    「なら例え貴方達に付いて行っても、私は前の無力な自分と変わらないでしょう」

    官吏「………」

    「それでは意味がありません。だから私は、ここで私を必要としてくれる人達の所に行きます」

    「その人達が苦しみながらもずっと目指してきた国をつくる為に……」

    「私はこれから、王としての役目を果たします」


    言い切った。尚且つ言い終えた瞬間に咲自身も自覚した。

    だからこうして凶器を向けられた中であっても怯まずに顔を上げている。

    咲が迷いも無く言い返した事に少なからず彼らは驚いたようだ。

    首謀者であろう官吏は真っ向から反論されたからか顔が蒼褪め、体躯は小刻みに震えている。

    周囲に広がる兵士達は、咲に剣を向けながらもその切っ先は生まれた迷いからか揺れていた。

    彼らは今までの咲の見た目や控え目な態度上、此度の王はか弱いと侮っていた。

    だが咲は凶器を向けられても取り乱さず真っ向から反論した。

    その姿勢に、彼らは動揺したのだ。

    533 = 338 :

    取り囲む周囲をゆっくりと見渡すと、咲は歩き始める。

    できた人の壁の薄い箇所に目星を向けてそこへと突き進む。

    向けられる切っ先、それを構える兵士に向かって咲は言う。

    「通して下さい。私は行きます、私を呼んでくれる人の所へ」

    切っ先は向けられたままだ。

    それでも咲は前へと歩みを止めない。

    だから必然的に、それは突き刺さる事になるだろうが……直前で兵士側の声が上がった。

    怯えた声。突き刺さるはずの凶器が地面に落ちた。

    当の兵士本人は咲を前に仰け反って倒れ込んでいる。

    異様な光景だった。

    武器も何も持たない儚い様相の少女を前に、屈強な兵士一人が怯えて地に倒れ伏している。

    周囲を取り囲む兵士にもその異様な空気が広がっていく。

    誰一人、凶器を握りながらもその場から動こうとしない。

    咲からすれば自分の進むべき先を阻んでいた壁は崩れた。

    なら、宣言通りそこを通って行くだけだ。

    倒れ込んだ兵士の横を、咲は静かな足取りで通り過ぎて行く。

    官吏「……ま、待てっ!!」

    この場を包む異様な空気に逆らうように、裏返った声が響く。

    咲が確かめるまでも無い、蒼褪めた官吏の声だ。

    534 = 338 :

    が、その声に反応する義理は無い。

    咲は前へと突き進む足を決して止めない。

    去ろうとする咲の背後から声が続く。

    官吏「お前達!何をしているっ…丸腰相手に、早く捕えろ!はやく、はやくっ!!」
     
    背後を振り向かない咲でも、その官吏の声に反応しようとする他の兵士の気配は感じ取れない。

    動揺に震える官吏の声は要領を得なくなっていく。

    官吏「どうして、なぜ従わない」

    官吏「あの方をここで逃がせば、私たちは破滅だ」

    官吏「こんな騒動も起こしてしまった、もはやいくら金を積んでも無理だ、揉み消せない」

    官吏「ハハハ、破滅か……私が、私が」

    動揺が困惑へと変わり、聞こえてきたその声の質が突然変わった。


    官吏「………ならば、いっその事」


    さすがの咲も異変に気付く。

    前を進む足を止めると同時に、急激に背後に迫る気配を感じた。

    ゾワリと背中に悪寒が走った。

    地面を駆けてくる音、背を向ける咲に接近する気配は風圧を伴って襲い掛かる。

    思わず振り向いた。

    恰幅の良い体躯が剣を振り上げる光景を、咲はゆっくり見上げていた。

    感情が突き抜けどこか壊れてしまった表情。その官吏の声がする。

    535 = 338 :

    官吏「主上…貴方のいない国に戻ればいいのです。そうすれば何もかも元通りだ」

    振り下ろされる刃は一瞬で咲を襲った。

    首の付け根から胸部にかけて走る一筋の線。

    え、と思う間も無く、続けて目の前に赤い何かが散った。

    「………ぅっ!!」
     
    くぐもった声が勝手に口から出た。

    そのまま唇を噛みしめて耐えると咲は腕を上げ、

    体躯を庇うように抱きしめる。

    遅れて痛みがやってきた。

    地面へと仰向けに倒れようとしていた体躯をどうにか押し留める。

    だけど腕で庇うようにした体躯の内側からジワジワとした熱と痛みとが咲を苛み始めた。

    顔を顰めながら、半分狂ったように宣言する官吏を咲は見上げる。

    彼は間合いの向こうで、切っ先が血で濡れた剣を掲げながら声高々に叫んでいる。
     
    官吏「見たか!!怯える必要などない、私達には冬器がある!王とて、絶対ではない…!!」

    その声と、傷を庇う咲の姿を見て、今まで怯んでいた周囲の兵士たちの空気が微妙に変化する。

    官吏の狂気に引き摺られているのか、それとも王が絶対ではないというその言葉に賛同したのか。

    536 = 338 :

    先ほどまで王を前に怯んで下げていた兵士達の切っ先がまた上がり始めた。

    官吏「貴方さえ、いなければ。王さえいなければ、以前のように」

    もはやそれが使命のように官吏は謡う。

    そして、血で赤く濡れた切っ先を再び咲に向けた。

    苛む痛みと熱とで乱れそうになる呼吸を整え、咲は逃げ道を探す。

    絶望的な状況ではあったが、それでも最後まで諦めたくは無いから。

    ここで倒れる訳にはいかない。

    折角自覚した事を、咲は何一つ、大切な人に伝えていないのだから。

    官吏「残念です、主上。私達は分かり合えなかった」

    声に導かれるように周囲の兵士も凶器を手に迫ってくる。

    目の前の官吏が再び血に濡れた冬器を振り上げようとしていた。

    咲は意を決して地面を蹴り、避けようとした。


    その行動らが一斉に動き出す直前。

    突然、咲の視界が不自然に翳った。

    「……?」

    気のせいでなければ、何か人の悲鳴のようなものも聞こえていたかもしれない。

    ただ咲の視界一杯に大きなものが飛んできて……

    今まさに、目の前で冬器を振り上げようとした官吏に直撃したのだ。

    537 = 338 :

    官吏が上げた短い悲鳴と一緒に、ドスン、と重い物が落ちた鈍い音が響く。

    その衝撃で周囲の地面も微かに揺れた。
     
    「………え?」

    咲にしてみれば肩透かしを喰らったようなものだ。

    迫ろうとしていた強行は狂気の官吏の姿共々、突然消えてしまった。

    思わず咲は追うように地面を見下ろす。

    そこには、恰幅の良い官吏を下敷きにしている体格の良い兵士の姿がある。

    なぜ、兵士が突然空を飛んでくるのか?

    咲の脳裏に当たり前の疑問が浮かんだ。

    だがそんな疑問を浮かべる咲の視界がまた不自然に翳った。

    地面を見下ろしていた顔が自然に上がる。

    すると、今度こそ咲には見えた。

    先ほどまで咲が隠れていた石の土台の上……そこから飛び降りてくる人影が。

    丁度咲と迫ってくる兵士たちの間に飛び降りた軽快な姿は、その余韻を残す事なく俊敏に動き出す。

    腰に差していた鞘から刀身を抜くと、地を蹴って一番近くにいる兵士の一人を躊躇いもなく切り捨てた。

    倒れた兵士は悲鳴を上げる暇も無かった。

    故に周囲にいる兵士達は凶器を手にしたまま気付いていない者も多く、反応が遅れていた。

    指揮系統だった官吏が地面に沈んだことも助けになっていたのだろう。

    突如現れた人影は二人、三人と兵士を切り捨てていくと、真っ直ぐに咲の元へと走ってくる。

    538 = 338 :

    その頃には周囲の兵士達も異変に気付いたようだ。

    現れた人影に殺到するか、または咲へと兵士らは迫ろうとしている。

    だがそれよりも何よりもまず、咲は真っ直ぐに自分の元へと走ってくる姿を見て驚いていた。

    あの女性の姿を咲が見間違えるはずもない。

    駆けてくる彼女との距離がどんどん縮まる。

    思わず、咲は口を開けた。

    「どうして、純さ……っ!!」

    その言葉は途中で途切れた。

    とうとう距離がなくなって咲の元に辿り着いた純は、一瞬屈むと有無も言わさずその肩に咲を担いだ。

    咲にしてみれば体が折り曲げる形になるから負った傷に響いて、思わず痛みで顔を顰めた。

    すると聞き知った声ではあったが、そのどの時よりも真剣な声が返ってくる。

    「少しの間、だ。ここを切り抜けるためにも両腕は使えねぇ」

    そう言いながら彼女が利き腕に振る刀身が見えた。

    「……純さん」

    間違いない、だけど返事の代わりに彼女は言う。

    「喋るな、揺れるから」

    強い口調で言われ、咲はぐっと息を呑み込んだ。

    その動作が伝わったようで、純は咲を担いだまま、迫る兵士達を背にし再び走り出した。


    ■  ■  ■



    539 = 338 :

    今回はここまでです。
    次はまた来週の木曜に更新予定です。

    541 :


    純くんがカッコ良すぎて痺れた

    542 :


    これで主上が咲じゃなければな

    543 :

    咲さん強くなったな

    544 :


    咲特有の強さだよな
    てっきり純ちゃんが兵士全部やっちゃうかと思ったんだけど、走って逃げちゃうのね

    545 :

    咲ちゃんも純くんもかっこいいわ

    546 :

    おつおつ

    547 :

    一瞬、剣の柄を持ち直して、それを強く握り締める。

    純にしてみれば程よく手に馴染んた刀剣の重さだ。

    誠子程マメではないが、手入れは人並みにしている。

    思い返せばこいつとも随分長い付き合いになった。

    こんなご時世だが、たまたま新調した時の刀匠が優れていたお陰で

    散々血糊を浴び、骨を断ってきたが刀身は刃毀れ一つ起こした事がない。

    だから軍に在籍していた頃であれ、出奔した後であれ有事の際に純は一番に握り締めてきた。

    今回も同じ。大丈夫だ、いける。

    地面を蹴って駆ける。

    背後から罵声が聞こえた。

    今し方2~3人を切り捨てたが、あれは不意打ちだったから苦もせずやれたのだ。

    軍よりも柔い奴らだとは思うが、それでもあの体格と残っている人数を考えれば純一人で対峙するべきではない。

    短気ではあるが、純はそれで無謀に走ったりはしない。

    冷静に状況を把握する。

    最優先は、今この包囲網より抜け出す事だ。

    人がいる所へ辿り着けばいい。

    建物の中へ逃げ込めれば、こいつらとは関係ない守備兵とも合流できるだろう。

    548 = 338 :

    時間も余り掛けたくはない。

    そう思った瞬間。進む先に段差があったせいで純は地面を殊更強く蹴った。

    反動で飛び上がり着地はしたが、そのせいで体が大きく揺れた。

    すると噛み殺した声が至近距離からする。

    純は人一人を担いで走っている。

    しかも彼女は怪我も負っているから、きっと今の声は振動で響いた痛みを噛み殺した声だ。

    無理をさせていると分かっている。

    本来ならば怪我をしているのだしこんな窮屈な姿勢を強いるべきではない。

    それでも、彼女を死なせたくないから純は無理に担いででもここを抜け出すために走っているのだ。

    だが、それを阻むかのように背後から殺気が迫ってくる。

    荒々しい複数の足音も、先程、距離は稼いだ。

    本来の身軽さがあれば逃げ切れる。

    だが今の純は人を担いで走っているから、追い付かれるかどうかは微妙だと思った。

    すると新たな問題に気付く。

    向かう前方から敏感に人の気配を感じ取った。

    立ち塞がる茂みが突っ切り、開けた視界を純は見渡す。

    神経は尖っていたから一瞬で障害物を把握した。

    纏まってはいないが、建物へと続く距離がてら幾人かの兵士の姿がある。

    549 = 338 :

    向こうも突然飛び出してきた純達に驚いたようだが、すぐに剣を抜いて構えた。

    なるほど……逃げられそうな所には残った兵士を配置していたという事か。

    存外、考えている。

    だが現状に対して純が気後れする必要は無い。

    阻む相手がいるのならば切り捨てればいい、そのために片腕は刀身の柄を握っている。

    判断を下すのと加速するのとは同時だった。

    立ち止まりもしない純の姿に対して、剣を構え向かってくる兵士の姿。

    距離が縮まり振り下ろされた太刀筋を、最小限の動作で避けてみせる。

    体越しに伝わってしまう振動だけが気になった。

    しかし、続く行動だけは粛々と行う。

    空振った姿勢の兵士に、純は横薙ぎの一閃を喰らわせてやった。

    赤い線が目の前で飛び散り、それが振り下ろした刀身へと続く。

    目の前で呻き地面に倒れる姿を見届けはしない。

    先を急ぐ事に集中する。

    しかし、呻き声と人が倒れた振動が響いたせいか向かう先の兵士らも純達の存在に気付いた。

    鞘から刀剣を引き抜く音が幾重にも聞こえる。

    舌打ちした。背後に迫っている殺気も気になっているのだ。

    前方の兵士をいちいち相手していれば、いずれ挟撃されてしまう。

    550 = 338 :

    ならば、最小限の相手だけを退けるべきだ。

    純は地面へと赤い線を垂らす刀身を振り上げた。

    多分、ここからは気遣ってやれない。

    「我慢しろよ」

    地を蹴り上げながら言い放つ。

    伺う訳じゃない、だから反応は期待していなかった。

    が、担ぐ体躯を支えるために廻していた片腕を、震える指先でぎゅっと掴まれた。

    その感覚が鮮明に伝わってくる。

    正直、振り落とされないようにしてくれるのは有難い。

    刀身を振る腕に余力を廻せる。

    純の、兵士としての現実的な話はそこまでだ。

    「………」

    でも、それ以外の琴線に何かが触れた。

    何だろう。余計な事を考えている暇はないけれど、

    いま形としては一人を守って走っている自分の姿に気付いたから。

    そんな現状に、一瞬戸惑いを覚えた。

    今まで純がこの刀身を振り上げてきたのは、必要にせまられていたからだ。

    軍という性質上やむを得なかったのかもしれない。

    軍属の兵士にとって上から命令は絶対だ。

    命じられれば反乱分子の排除も、妖魔の討伐も粛々とこなしてきた。

    まぁ最終的にはその筋が通らない、軍の濁った水が合わなくなってしまい反発したのだが。


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