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    元スレ菫「見つけた。貴方が私の王だ」咲「えっ」

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    みんなの評価 : ★★★×4
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    1 :

    ※咲の十二国記パロです

    といっても世界観を取り入れただけで話はオリジナルですので
    閲覧は自己責任でお願いします。ほんのり菫咲風味

    SSWiki :http://ss.vip2ch.com/jmp/1403877246

    2 :

    咲のスレならいちゃもんつける奴が出て来ると思うが本気で期待してるから本気で完結させてくれ、頼むわ

    3 = 1 :

    咲には両親がいない。

    物心ついた時より大きな商家の下働きとして働き、とりあえずの日々を細々と生きていた。

    商家の主人からは小さな粗相をしては頭ごなしに叱られ、

    姿が見えないからサボっていたのだろうと決め付けられ容赦なく叩かれたりもした。

    きっと、反抗もせずじっと耐え続けていたのも主人からしたら気に入らなかったのだろう。

    一日に数回は難癖を付けられ、いびられたがそれでも内容は貧相であれ一日二食の食事は約束されており

    冬は辛かったけれどなんとか越せる寝床も用意されていた。

    ここより叩き出されて、外の世界で生きていくほうが何倍も辛いだろう事を、

    商家に出入りする旅商人の噂より咲は聞き知っていた。
     

    4 = 1 :

    この世界は天帝により12の国が定められ、それを治める王がいた。

    咲がいるこの国も、その十二のうちの一つだったが……

    数十年前に前王が倒れて以来、まだこの国に新王は立ってはいない。

    国を治める王は、麒麟という神獣によって人の中より選ばれる。

    選定された瞬間より、王は人では無くなり、神にも等しい存在になるのだという。

    玉座に座り、その治世が正しく続く限り、王は不死となり国はいつまでも栄える。

    だが反面、王が民を省みず悪政を敷くならば天が許さない。

    そのため、この国の前王は数十年前に、100年弱の治世を経て天から見放された。

    聞いた噂によると前王は悪婦に溺れ、政治を省みなくなったのだという。

    長く王の傍らで支え続けた麒麟の声にも耳を傾けず、その神獣を失道させてしまってからはあっという間だったらしい。

    5 = 1 :

    王を神にした麒麟を失えば、王はもはや神ではない。

    そうして、酷い病に冒された前王が死んでから数十年。

    新しい麒麟による選定は始まっているらしいが、今だ新王が即位したという話は聞こえてこない。

    その間に、この国には災いが満ち溢れるようになってしまった。

    「隣町でまた妖魔が出たそうだよ…」

    「南の方では、干ばつが酷いらしい…」

    「それでごうつくな役人が税の上前を撥ねてしまうから…」

    商家を訪ねてくる旅人からは気が滅入るような噂しか聞こえてこない。

    この世界では王が玉座に在るだけで、国はある程度安定する。

    今のように空位な状態が続くと、国中に天変地異が起こり、人を襲う妖魔の出現も増えるのだそうだ。

    だから咲は思う。

    例え今、主人より酷い扱いを受けていようとも、自分がこの商家より放り出されたら

    一日も経たずに身包み剥がされるか、妖魔の餌食になり人生は終わることだろう。

    だから、単なる憂さ晴らしに主人より殴られたのだとしても……それに逆らう道は咲にはなかった。

    6 = 1 :

    ある寒い日のことだった。

    朝の仕事をある程度終えた咲は、桶を持ち裏の勝手口より井戸へと向かう。

    桶に井戸から水を組み入れ、それが終わると赤くなってしまった指先に息を吹きかけ咲は一息ついた。

    昨日尋ねてきた旅商人が言っていたが、今年は天災が続き農作物が大打撃を受けたらしい。

    今はまだいいが、これから雪が降れば食料が品薄になり世間の生活は更に辛くなるだろうと。

    本当に、聞こえてくる話はそんな気が滅入るものばかりで…

    このまま新王が立たない時期が続けば国は更に疲弊しているのだろう。

    明日は我が身に降りかかる火の粉かもしれない、人生に明確な目的があるわけでもないが

    それでも明日一日を無事に生きていきたいと思いながら、咲は小さく息を吐いた。

    そろそろ仕事に戻らなければ主人に怒鳴れるかもしれない。

    殴られるだけならまだいいが食事抜きになったら本当に辛い。

    早く戻らなければ。

    そうして、冷えた指先に力を込め、水がたっぷり溜まった桶を持ち上げた瞬間……

    咲は視界の先に佇む人影に気付いた。

    7 = 1 :

    「えっ」

    ついつい短い声を上げてしまったのは、咲の他に人がいるとは思わなかった事と。

    佇む人影に見覚えがなかったからだ。

    確実に、家内の者では無い。

    ならば、ここは商家の奥まった庭先でもあるし…

    もしかしたら商家を尋ねていた旅商人が迷って入り込んでしまったのだろうか?

    だけど突如現れた人影は、どうも長旅を主にする旅商人の格好でもないような気がした。

    落ち着いた色彩の身なりだが纏っている生地は高価なものだと思う。

    咲よりも少し上ぐらいの年頃の少女に見えた。

    少女は言葉も無く、ただ、じっと咲を見つめていた。

    「……?」

    そんな不躾な視線を受けて、咲は首を捻った。

    だが、いつまでもここで見つめ合っている訳にもいかないと目の前の少女に話しかけた。

    「あの。店にいらしたお客様でしたら、申し訳ありませんが表に廻って頂きたいのですが……」

    そう言いながら、家屋を回り込む道筋を一方的に教える。

    旅商人には見えなかったが、そうでなければ彼女がここにいる説明が付かない。

    強盗するような身なりにも、雰囲気にも見えないのだから。

    すると意外にも咲の言葉に従うように少女はその場より歩き出す。

    ほっ、と咲は安堵の息を付く。

    8 = 1 :

    どうやら、本当に迷い込んでしまったのかもしれない。

    無愛想だが、世の中、色んな人がいる。

    こんな気難しそうな商人がいても可笑しくはないのだ。

    だが、咲が感じた安堵はすぐに消える。

    自分が指し示した道筋を辿る事無く、真っ直ぐ向ってきたのは…咲の眼前だ。

    咲と、たった一歩程の距離で立ち止まった少女に「あの、」と焦り気味に咲は声を掛ける。

    だけど、その問いかけに答える事無く、代わるよう伸びてきたのは腕だ。

    驚き、咲の体がビクリと震える。

    それでも逃げに入らなかったのは、無愛想な少女だが咲を見下ろすその瞳には

    咲の主人のような蔑みの色が見えなかったからだ。

    伸びてくる腕の先、その指先が咲の目尻に触れる。

    ヒヤリとした指先の冷たさと共に、痛覚へと響いた痛みに咲は顔を顰めた。

    昨日廊下の掃除をしていたら主人がやってきて、有無も言わさず殴られたのだ。

    後から、咲と同じような下働きから聞いたが旅商人との交渉が思っていた程上手くいかず、

    手当たり次第、見かけた者に当り散らしていたのだそうだ。

    まさしく、そんなとばっちりを受けた咲の目尻 は理不尽に受けた暴力から腫れて赤くなっていた。

    今日は寒かったから痛さは引いていたが、触れられた事で痛みを思い出してしまった。

    9 = 1 :

    咄嗟に、触れたままの指先を退けてもらおうと、咲は眼前に立つ少女に訴えようとした。

    が、見上げる先にある端正な顔立ち。その瞳が気難しげに細められた。

    そして、形の良い唇が開く。
     
    「遅くなって申し訳ない」 

    見上げる先の、少女の声は静やかだったけれど。

    なにか真摯な想いが込められたその声を聞き咲は混乱を覚える。

    だって、初めて出会った少女だ。

    こんな身なりの良い知り合いなど咲にはいないし、見たことも無い。

    そんな人間が、なぜ、突然咲に謝るのだろう?

    「あの、すみませんが。人違いではありませんか?」

    咄嗟にそう言い返していた。だって、その理由が一番しっくりくる気がする。

    世の中には同じ顔の人間が数人いるというのだから、

    きっとこの少女は咲と他の見知らぬ誰かと間違えているに違いない。

    10 = 1 :

    だが、そんな咲の希望的観測を否定するよう少女は首を左右に振る。

    「私が、貴方を見間違うはずがない」

    「で、でも、初めてお会いしましたよね?」

    少女は素直に頷く。

    ほらね!と、咲は言葉を返そうとした。だが、

    「それでも、ずっと…私は貴方を探していたんだ」

    「え?」

    どういうことですか?と咲が声を返そうとした瞬間。

    家屋の方より怒鳴り声がした。

    主人「おい!」 

    その鋭い声に対して、咲は長年通して受けたきた恐怖が植え付けられている。

    ひっ、と短い悲鳴を上げながら、咲は声がした方より数歩後ずさった。

    自然、目尻に添えられていた指先も離れる。

    咲の視界の片隅に、その指先を丸め握り締める少女が見えたが構っていられない。

    まずい所を見られた、咲にはその気はなかったが怒鳴り込んでくるに違いない。

    主人からすれば、咲はサボっていたように見えたはず。

    11 = 1 :

    主人「そんな所で何をやっている!?」

    野太い怒鳴り声と、寒さで悴む指先で咲は持っていた桶を地面に落としてしまった。

    バシャリと汲んだ水が辺りに染み渡り、その向こう側から荒々しい足音を響かせ主人がやってくる。

    主人「本当に愚図な奴だ、水汲み一つできんとは!」

    主人がそう言葉を吐き捨て、水溜りの上を水滴を飛ばしながら咲の前まで来ると、

    太い腕を伸ばし有無を言わさず咲の髪を鷲掴みにした。

    髪の毛一本一本を強く引っ張られる痛みに、咲は顔を歪ませるが…

    きっと、今感じる痛み以上の折檻がこの先待っているに違いない。

    恐怖でぶるりと震えた体が強い力で引き摺られる。

    頭皮が感じる痛みに逆らえず足を縺れさせながらも数歩分、家屋へと近づいた瞬間。

    主人と、咲との背後より硬い声が響いた。
     
    「その手を離せ」

    主人「あ?」

    険呑な主人の声。

    髪を掴まれているせいで咲は振り向けないが、

    主人は訝しげな表情を浮かべ後ろを振り向いたようだった。

    12 = 1 :

    聞こえてきた声は確かに少女のもので、

    怒りの余り咲にしか意識がいっていなかった主人はやっとその存在に気付いた。

    主人「…どこの馬鹿か知らないが、こいつは我が家の下働きだ」

    主人「水汲み一つできん、役立たずな愚図を主人である俺がどうこうしようとお前には関係ないだろうが!」

    はやくここから出て行け!!

    そう、少女に向かい口汚く吐き捨てた主人の声に咲が怯えた。

    だが罵声を浴びせられた少女が、言葉を返すよう主人に向かう。

    憤怒の塊であり、手の付けられない暴君である主人に対して少しの怯みもみせず、

    一言一言はっきりとした口調で、だ。

    「お前が、主人ではない」

    少女の声に咲が目を見開くのと、「なにぃ?!」と怒り出そうとした主人の唸り声が響くのは同時だったと思う。

    だが、主人の声が続く前に少女は再び言い放った。

    「私の主人だ」

    13 = 1 :

    瞬間、地面を見るしかなかった咲は我が目を疑う。

    堅いはずの地面がぐにゃりと水面のように波打つと、そこからにょきりと腕が生えた。

    それも人の腕とは違う、まるで鳥の羽の如く羽毛を生やした腕だ。

    その先に繋がる、女人の姿をした体躯が地面より完全に這い出てくると

    咲の髪の毛を鷲掴みしていた主人の腕を、横から掴み取った。

    主人「な!?」

    驚く主人の声が、すぐに悲鳴へと変わる。

    咲もミシリ、と人の骨が軋む音を確かに聞いた。

    同時に、鷲掴みされていた髪の毛が開放される。

    その反動でよろけながら後退し、眼前で改めて起こった光景に対して息を呑む。

    地面より這い出てきたのは鳥人間とでもいうのだろうか。

    人では、無い。

    咲は商家を訪れる旅商人から、存在する姿形だけを噂として聞き知っていた。

    あれは…

    主人「…よ、妖魔だ……!」

    主人の震える声が答えだった。

    現れた女形の妖魔は主人の腕を掴んだまま、それを捻り上げる。

    14 = 1 :

    先程骨が軋む音がしたように、そのまま力が掛かっていけば確実に主人の骨は粉々になるだろう。

    狂ったように悲鳴を上げまくる主人の姿を呆然と咲は見返している。

    人を襲い、喰らうと言う妖魔が主人を殺めてしまったら…次は咲の番なのだろうか。

    こんな貧相な体格の咲だから、妖魔は先に主人を襲ったのだろうか。

    埒もあかない事をつらつらと考え込んでいたら、

    そんな思考を遮るように一際、甲高い主人の悲鳴が響き渡った。
     
    ビクリ、体が震える。

    現実に気付いた咲は恐怖で哂いはじめた足をどうにか動かし、後ずさりしようとする。

    途中、踵が地面に躓き視界が廻る。

    あ、と思った瞬間に、咲は後ろへと倒れこもうとしていた。

    すぐに感じるだろう、地面との衝撃の痛みを想像して咲は目を強く瞑る。

    だが、痛みは訪れなかった。体も地面に倒れ込んでもいない。

    背後へと倒れ込もうとした咲を柔く抱き止めたのは、

    いつの間にか咲の後ろに回りこんでいた少女の腕だった。

    触れ合った布越しの暖かさに咲は一瞬怯んだが、掴んだままの腕に、更に強く引き寄せられる。

    15 = 1 :

    そうして、頭上から響く声を聞いた。
     
    「黙らせろ」

    『御意』

    少女の声に対して、脳裏に響く女性の声を咲は確かに聞いた。

    直感的に、今の女性の声は目の前の女怪の声なのだと気付く。

    事実、少女に言われた通り妖魔が捻り上げていた主人の腕を開放すると、

    すぐにその顔面を異形の手の平で鷲掴みにした。

    途端、今まで辺りに響き渡っていた主人の悲鳴はくぐもった呻きに変わる。

    女怪に頭部を鷲掴みにされた主人は、そのまま宙吊りになり家屋の方へと連れて行かれる。

    途中、主人の悲鳴に気付いたのだろう、

    家屋の中から息を顰めてこちらを窺っていた他の下働き達が逃げ出す悲鳴が聞こえた。

    去っていく妖魔と主人の後ろ姿を震えながら見つめていた咲だったが、更に怖い事実に気付く。

    あの妖魔を従え、命令を下せる咲の背後に立つ少女は一体何者なのだ?

    16 = 1 :

    コクリ、唾を呑み込み咲は自身を抱きとめる少女を仰ぎ見ようとする。

    だがその途中、視界の隅の地面がまた、ゆらりと波打った。

    ズズズ、と地面より這い出てきたのは虎ほどの大きさの獣だが、

    全身の毛並み真っ赤で……なにより、目が六つある。

    どう見ても新しく現れた妖魔であり、尚且つ、その六ツ目が一斉に咲を凝視した。

    「……っ!!」

    正気の限界。

    恐怖なのか、次々と起こる出来事に対して耐え切れなくなったのか、咲の意識はくらりと揺れた。


    視界が廻り、灰色の空が見えたが…すぐにあの少女の覗き込むような顔が見えた。

    その双眼は咲を見下ろしながら、どこか気遣うように揺れていた。

    そんな眼差しを受けた事は、生きてきて一度も無い。

    どうして…

    薄れ行く意識の中にあって、咲の少女に対する恐怖も少しずつ薄れていった。

    17 = 1 :



    背後より抱きとめていた体が重みを増し、守ろうとした人が気を失ったのだと菫は気付く。

    くたりと垂れた咲の頭を自らの胸元へと引き寄せる。

    そして、短く舌打ちをした。

    『御無礼を致しました、台輔』

    「…いや、私も考えもなしにお前を呼んだからな。ただ、この方にはすまないことをした…」

    現れた獣の姿をした使令は、菫にしてみれば見慣れた姿だったが。

    妖魔に馴染みのない人間ならば、確かに酷い恐怖を覚えてしまっただろうに。

    抱き止めた体躯とて触れ合う部位から小刻みに震えていたのを感じていた。

    でも、気が早ってしまった……

    自分の浅はかさに呆れるが、それほどまでに菫は浮かれていた。


    ようやく見つけた、腕の中で確かに存在する王の姿に。

    18 = 1 :

    とりあえずここまで。
    毎週金曜日に更新予定です。

    19 :

    乙 懐かしいな

    20 :

    十二国記の方は知らないけど面白い
    なんとか完結してほしいな

    21 :

    読みやすいし読みごたえあるし菫咲だし
    非の打ち所がないから来週まで待ってる
    乙です

    22 :

    菫さんは麒麟か

    23 :

    今日が金曜だ
    はよ

    24 :


    残りの国の麒麟と王の組み合わせが気になるな

    25 :

    国がまだどこかわからんね。
    期待

    26 :

    まあ16レスなら頑張った方
    最近の咲-Saki-SSは2~3レスで逃亡もザラだし
    次回作は頑張って完結させてくれ

    27 :

    まだ一週間もたってないんですが……

    28 :

    須賀=アニメ版の浅野君

    29 :

    原作はまだ続いてるんだっけ
    とにかく期待

    30 :

    >>27
    それ荒らし。咲さんメインだと荒らしまくってる奴だよ

    31 :

    最初の更新予定を破る奴は絶対に戻ってこない
    断言できる

    32 :

    次の更新予定は07/04
    咲ちゃんスレは潰そうとしてる暇があるなら、カレンダーの読み方でも学んだら?

    33 :

    蓬山において、女仙よりずっと聞かされて育ってきた。

    麒麟である自分が、数多の人の中より唯一人の王を選ぶ事になると。

    そしてその王気を感じる事ができるのはこの世で唯一人、麒麟だけなのだと。

    そうしてもうどれ程の年月、菫は主を探し続けただろうか。

    王になるため昇山する者もいたが、その人々の中に菫の意識を引く存在はいなかった。

    だから、菫自身が探し始めた。

    数年、緩やかに衰えていく国を見下ろしながら、この国を救うための王を探し続けた。

    そうして今日、突如として、その気配を感じとったのだ。

    ジワリと胸に熱が灯ったような気がした。

    急かされるよう、空へと飛び出し向かった。

    感じ取った存在に近づけば、近づく程に濃くなる王気の中心。

    そこに佇む姿を見た瞬間、菫はこの人なのだとわかった。

    随分と頼りない姿形だったが、それは上辺の形に過ぎない。

    まぎれもない王気。

    彼女こそが、菫が、この国が、ずっとずっと捜し求め続けていた王なのだ。

    34 = 33 :

    そしてその存在が今、とうとう菫の腕の中にある。

    体勢を整え、抱き上げると随分と軽く思えたのが気のせいではないだろう。

    先ほど触れた目尻や、頬に残る痣を見る限り、随分とここの家主より酷い扱いを受けてきたのだろう。

    「……」

    菫は顔を歪ませる。

    元々麒麟は慈悲の生き物だが、王が関われば話は別だ。

    殺生もよしとはしないが、王が望めば菫はそれを実行するだろう。

    麒麟にとって王とは特別な存在なのだ。

    だからこそ、先ほどここの家主に対する怒りを抑えきれなかった。

    自分もまだまだだな、と息を付くと丁度、使令の女怪が戻ってきた。

    『縛り上げ、一室に放り込んでおきました』

    「ああ、それでいい…この分だと他に働く者達にも酷い扱いをしていたのだろうな。文官に相談し、役人を入れさせよう」

    『御意。後ほど伝令に走ります』

    「頼む」

    『王の御容態は?』

    「誓約はまだ交してはいない。…早く交わせれば、よかったのだが…」

    35 = 33 :

    そうすれば、彼女は人では無く神籍を持つ王になる。

    不老長寿を含めた神通力がその身に宿れば、

    こうして見下ろすだけで菫の目に付く数多の外傷も多少は癒えたかもしれないのに。

    ふと、鼻腔に届いた鉄染みた匂いに気付き自然、顔が歪んだ。

    女形の使令が、そんな菫の機微を察して腕を差し出してくる。

    『台輔。血がお辛いようでしたら私がお運び致しますが?』

    「………」

    黙りこみ、菫は眼下の体躯を見下ろす。

    視界に写る肌には腫れやかさぶたが目に付くだけだが。

    確かに血の匂いがその体躯より香ってくる。

    きっと纏う服の下に手当てもされず放って置かれた裂傷があるのだろう。

    その事実に、ここの家主に対して更に強い不快感を覚えた。

    尚且つこの身は神獣であり血の穢れを嫌う。

    肉は決して口にしないし、血に長く当てられれば不調もきたす。

    その事を使令も分かっているから、菫を気遣うのだ。けれど。

    36 = 33 :

    「……いや、いい」

    頭を左右に振ってから、菫は咲を抱き上げる腕に力を込めた。

    血の穢れに対する拒否感よりも、誓約も交わしていない存在をこの腕より手放す方が余程恐ろしいと感じた。

    やっと、やっとで探し当てたこの少女を。

    「戻るぞ」

    短く告げると女形の使令は、それ以上は何も言わず菫に向かい頭を垂れた。

    次いで六ツ目の使令が眼前に進み出てくると、地面すれすれまで半身を折り曲げる。

    菫は慣れたよう、その赤い毛並みの上に腰掛ける。

    いつの間にか横に立っていた女形が用意した厚手の布を受け取ると、それで腕の中の存在を厳重に包んだ。

    準備が整い、腰を降ろす赤い毛並みを撫でると菫を乗せたままの獣が起き上がり地面を歩き出した。

    それは、すぐに駆け足となり、地面を蹴っていた四足は徐々に空気を蹴って空を駆け始める。

    速度が増し受ける風圧から守るよう、菫は更に強く咲を抱き込むと瞼を閉じた。



    ■  ■  ■

    37 = 33 :

    咲が瞼を開けた瞬間、見知らぬ天井が見えた。

    だから記憶が混乱したのは確かで、尚且つ身を起こした場所が今だかつて経験した事もない、

    柔らかい布団が敷き詰められた豪奢な寝台の上だったから腰が抜けそうになった。

    慌てたようにその場所から駆け下りると、床に倒れこみながらも自分の姿に気付く。

    纏っている清潔な白い寝間着は生地も良く、

    こんな品、旅商人より諸侯への献上品だと見せられただけで触った事もない。

    しかも、体中に受けていた打撲や裂傷の痕には包帯が巻かれ、塗布された消毒薬の臭いがした。

    震える腕を上げ、頬に手の平を当てるとそこにも柔らかい布が貼り付けられていて、

    全身を丁寧に手当てされている事がわかった。

    だが、どうして自分がそんな扱いを受けるのか咲に心当たりが無い。

    記憶も混濁している。

    38 = 33 :

    ここで目覚める前、自分には今まで生きてきた場所があったはずだ。

    恐ろしい主人と、最低限の生活を送る中でいつの時も肌寒さに震えていた商家での生活。

    そんな場所から、なぜ突如としてこんな豪奢な部屋の中に寝かされる事になったのか。

    咲はぐるり、室内を見渡す。

    置かれた調度品や室内の細工、その一つとっても…商家の主人の部屋のものより煌びやかで繊細に見えた。

    暫し、天井に施された細工に見惚れてしまっていたが、

    ハッと正気に戻ると咲はその場に立ち上がった。

    「……」

    幸いにもここには咲一人だけのようで、辺りに人の気配も感じない。

    そんな中で自分の状況が掴めないのだから、自身が動き出すしかない。

    纏っていた質の良過ぎる寝間着に気後れは覚えたが、

    裸のままで歩き回る訳にもいかないし考えない事にする。

    39 = 33 :

    どれくらいここで横になっていたのか、歩き出した体は多少軋んだ。

    その痛みに顔を歪めながらも、重厚な扉に手を当てて押すと思ったよりもすんなり開いた。

    頭半分、通路に顔を出し辺りを見渡す。

    ガランとした廊下は左右両側に延び、どちらを見ても無限に続いているような錯覚を覚える。

    一体、どれ程大きな建物なのだろうか、ここは。

    また、胸中に生まれてきた気後れに押し潰されそうになるが

    咲は意を決して、誰もいない通路へと足を踏み出した。



    どれ程歩いたのか…同じような景色が続く通路を暫く歩き続けた。

    途中、余りの人気の無さに、見知らぬ扉の先を覗いてみたがどれも豪奢な間取りの部屋だけで。

    鍵の掛かっている部屋もあったがやはり人気はなかった。

    不安に押し潰されそうだったが、そのまま暫く進むとやっとで開けた場所へと辿り着く。

    そうして、抜きぬける風を感じた。

    建物を抜けた先には、東屋があり中庭のような空間が広がっている。

    40 = 33 :

    やっと外に出たのか、と咲は小さく息を吐いた。

    そのまま外へと向かう。このまま歩いていけば、街道にでも出るだろうか?

    そうすれば荷馬車に乗れるかもしれない。

    咲自身が置かれている状況がわからないこの現状より、

    どこかの町にでも辿り着けば自分がどうすればいいのか判断できる。

    多分、自分は何かの手違いでこんな場所に運ばれてきたのだろう。

    間違いだと分かればいらぬ面倒事に巻き込まれるのは必然で。

    その時、咲には何の後ろ盾も、親すらいないのだから反論する術がない。

    ならばこのまま逃げてしまった方がいい。…その後どうするかは、町に無事ついたら考えよう。

    無一文だが、身に纏う衣服と交換すれば暫くの旅費にはなるはず。

    そう道筋を考え、続く芝生の上をサクリサクリ歩き始めた。

    が、そんな思惑は5分ほど歩いた所で閉ざされてしまう。

    41 = 33 :

    咲は呆然と、途切れた芝生の向こうに広がる雲の海を見つめていた。

    吹き抜ける強い風に視界を細めると、雲の合い間を縫って、雲の下にある街の明かりが確かに見えた。


    そんな、馬鹿な―――――戦慄く唇でどうにか呟く。


    「こ、ここは、空の……上?」

    「雲海の上にある居城だからな」


    独り言だった。

    誰かに向かっていった言葉でもなかったが、それに対する答えが背後より届く。

    咲は驚いて振り返った。

    そこには背の高い、見覚えのある姿が立っていた。

    秀麗な顔を僅かに顰めながら、咲だけを凝視するその眼差しは…咲の記憶を呼び起こす。

    ここで目覚める前、咲が最後に見た姿だ。

    やはりこの少女が咲をここへ連れてきたのか。

    だが、見つかるのが早いと思う。

    部屋を抜け出した時に人の気配はしなかったし、何よりあそこからかなり咲は歩いたのだ。

    事実、少しの息切れと動悸を咲は覚えていた。

    42 = 33 :

    だが、目の前の少女は少しの体調の乱れもみせず、

    まるで咲の後ろに立っていたのが当たり前という風情で佇んでいる。

    「どうして、ここが…」

    「私にあなたを見失えという方が無理な話だ。どこにいても居所は分かる」

    「?」

    意味がわからない。もしかして見張られていたのだろうか。

    怪訝な表情を浮かべた咲の胸中などお構いなしに淡々と問われる。

    「…ここにいる理由も確かめず、逃げようとしたのか?」

    核心の言葉。しかも的確であり、咲は責められている気がした。

    「………だって、こんな所、怖いじゃないですか」

    知る人など誰もいない。むしろ、人すらいない。

    尚且つ、空へと隔離されたこの景色。

    なにもかも現実離れしている。

    そう咲が吐き出した言葉をどう思ったのか……少女はその双眼をスゥ、と細める。

    43 = 33 :

    「元々、いた場所よりも?」

    「…っ!」

    鋭く指摘され、咲は咄嗟に包帯が巻かれた腕を擦った。

    …手当てされているが、擦れば仄かな痛みを感じる。

    確かに、今まで咲がいた場所は決してよい所だったとは言えない。

    それでも、咲にはあの場所でしか生きていく術が無なかった。

    生傷は耐えなかったが、あそこにいる限り咲は自分がどこに立って、何をすればいいのかは理解していた。

    間違っても今のように、現状を理解できず足元が覚束無い感覚を受けた事はないのだ。

    だから、ジリ、とその場より一歩後退する。背後より、強く吹き抜けてくる風を感じた。

    そんな様子の咲へと、少女の言葉は続く。

    「私の話を聞く気もないか?」

    咲は頷く。咲には理解できる世界だけでいいのだ。

    今までそうやって、目立たず生きてきた。

    「聞いて面倒事に巻き込まれるのは御免です。…お願いです、下に降ろして下さい」

    「………」

    44 = 33 :

    そう言い捨てた咲の言葉を聞き、一瞬見返す先にある紫色の瞳が動揺したかのように、ゆらり揺れた。

    気難しそうな少女の眉が顰められ、思案するよう押し黙る。

    そのまま、どれだけの時間が経過したのか。

    きっと1、2分の事だったと思うが咲には凄く長い時間に思えた。

    「なら、一つだけ。私の頼みを聞いてくれたら帰してやる」

    「…頼み?」

    訝しげに咲が聞き返すと、少女は浅く頷いた。

    「今から、一文の文句を言う。他愛も無い、まじないのようなものだ」

    「それを私が言い終えたら『ゆるす』と言え」

    「???」

    「『ゆるす』だ。それだけでいい。簡単だろう?」

    「言えば、帰してくれるんですね?」

    「ああ、……信じるか信じないかは勝手だがな」

    そう硬く言い放つ少女の姿を、改めて咲は見つめる。

    45 = 33 :

    考えてみれば不可思議な存在だ。

    どこからともなく現われ、こんな奇怪な所に住んでいる。

    しかも、どんな手品かは知らないが彼女は人に恐れられる妖魔をも従えている。

    決して普通の人間とは言えず、咲は少女に対して恐れを抱いてもいいはずなのに……

    なぜか、そんな気持ちは沸いてこなかった。

    多分、彼女は気難しい雰囲気を纏ってはいるが、いつの時も咲の意志を尊重しようとする。

    体格を考えても、妖魔を従えるその力を考えても、咲に対してそんな譲歩など無用のはずなのに、

    どうしてか少女は咲の声を聞こうとしていた。

    なぜ……そう思った瞬間。

    あの時、妖魔に怯え、咲が気を失おうとした時。

    閉じる寸前の、視界の向こうで咲を気遣うようにして揺れた彼女の瞳を忘れてはいない。

    だって、咲は生まれてこの方、あんな風に誰かに気遣われた瞬間など唯の一度も無かった。

    だから、気が付いたら言っていた。

    46 = 33 :

    「…あなたは、嘘を付く様には見えないから…信じます」

    その言葉が届いたのだろう、少女は一瞬目を見開く。

    と、すぐに薄っすら微笑んだ。

    気難しそうな雰囲気は成りを顰め、どこか嬉しそうに笑う姿を見るのは初めてで、

    咲は自分がそんなに可笑しな事を言っただろうか心配になってきた。

    「何ですか?」

    「…いや、たかが言葉一つで。私も随分単純だなと思って」

    「???」
     
    混乱する咲を前に、少女は浮かべていた笑みを消すと一気にこちらへと詰め寄ってくる。

    後ろに逃げる間さえ与えず、ずいっと眼前に立ち塞がった姿を咲は見上げる。

    「あの」

    声を掛ける。が、それに反応するでも無く、少女はすぐに目の前で膝を折った。

    咲はぎょっとする。

    突如消えた姿を追いかけ、下を向くとまるでそこに蹲るようにする少女の姿があって、

    そのまま放っておけば彼女の頭が、自分の足に当たってしまうと焦った咲は足を引き下げようとする。

    47 = 33 :

    が、その足首をガシリと掴まれた。

    「え?」

    そのまま、掴まれた足の先、そこに少女の額が当たった事を悟ると同時に

    その声が嫌に鮮明に辺りへと響いた。

     
    「ゴゼンヲハナレズ ショウメイニソムカズ チュウセイチカウト セイヤクモウシアゲル」


    言葉の羅列。

    これがまじないの文句なのか。だけど足に触れる感触の方に強く意識が引かれて、

    彼女が何を言ったのか咲には良くわかっていない。

    「言え」

    怯んだ咲を制するよう、鋭い言葉が飛ぶ。

    「ゆ、…」

    「はやく!」 

    怒鳴られ、ビクリと肩が揺れた。

    酷く心が急かされ、言われたままに咲は叫んだ。

    48 = 33 :

    「ゆるす!」


    瞬間、目の前で火花が散る。

    雷に打たれたような、電流が体を駆け巡る衝撃に対して何の心構えもしていなかった。

    痛いのかすら分からず、ただただ体を貫いていった強い衝撃に耐え切れず、咲の意識は途切れた。


    そうして、次に目覚めた時は、芝生の上に大の字で寝っ転がっていた。

    雲一つない薄暗い空を見上げ、吹き抜ける風を肌が感じる。

    パチリ、パチリと瞬きを繰り返して、何か、違和感を覚えた。

    それが何なのかは分からなかったけれど、芝生の上に起き上がると

    隣よりカサリと芝生を踏み締める音がする。

    自然、意識が引かれ横を向く。
     
    そこには、吹かれる風に長い鬣を揺らして、じっと咲を見つめている美しい獣の姿があった。

    「……」

    咲は呆然と、その姿を見返している。

    どこかで、この姿を見かけたような気がする。

    普通の獣ではない。纏う雰囲気が、もはや違う。

    それを証明するよう、獣は咲に向かって応えた。

    49 = 33 :

    「まずは謝罪を」

    その声を聞き、咲は瞳を限界まで見開く。

    だって、つい先程まで会話を交わしていた声だ。

    間違いない。どこか硬く神経質そうな声は、咲をここへと連れてきた少女の声そのもので。

    ならば、目の前の……額に一角を持つこの獣はあの少女なのか。

    戦慄く唇を幾度か開閉させて何か言おうとするが …その前に、咲の脳裏に閃いた光景がある。

    あれは、いつぞや商家の使いで街に出た時だ。

    使い先の小塾へ行き人を待つ間。広い部屋の壁に掛けられた美しいタペストリーを見上げていた。

    物語を描いたそれを見上げていると、やってきた小塾の先生が教えてくれた。

    タペストリーに描かれているのはいつかの時代に立ったこの国の王と、それを支える神獣の姿なのだと。

    煌びやかに描かれた人物の横に、一角を持つ獣の姿が確かに描かれていた。

    あの獣の名前、商家を訪れた旅商人よりも幾度か、その名前を聞いた。

    確か、国の王を天意で持って選ぶという神獣の名前。

    咲は戦慄くからようやっと音を搾り出す。

    50 = 33 :

    「麒麟…じゃあ、さっきのは…」

    「御察しの通り。麒麟が天意を得た王と交わす誓約」


    「もはや貴方は、この国の王だ」


    淡々とした声で喋り続ける目の前の麒麟を眺めながら、咲は返す言葉も失った。

    「誓約により御身はもはや人では無く、神と成った。主上、どうかこの国を救って頂きたい」

    「私…が?」

    「貴方しかいない。この才州国にも、私にも」

    そう言って寄ってくる獣は、咲の傍でゆっくりと頭を垂れる。

    鼻先が咲の頬を掠め、艶やかな鬣の合間を縫って、紫色の瞳が揺れていた。

    あの少女と、全く同じ色の瞳が。

    「………」

    ただ、その揺れる瞳に吸い寄せられるよう、延ばした腕の先……

    手の平で眼前を流れる鬣を撫でた。

    神獣と呼ばれる獣は、咲が触れても嫌がりはしない。

    むしろどこか満足気に伏せられる瞳を見届けてからも、

    咲は暫しの間、その鬣を撫で続けていた。

    そうして、ふと、自分が感じていた違和感の正体を知る。

    倒れる前までは確かに感じていた全身を覆う、緩やかな痛みが引いてたのだ。

    どこまでも歩いていけそうな体力の源も、体の奥底にふつふつと感じる。

    だけど、だけど。

    この触れる先の、美しい獣を残していけと?

    咲の、先ほどまで心中にあった気持ち。

    ここから逃げるため、立ち上がろうとする気力は……もはや咲の中には残っていなかった。



    ■  ■  ■


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