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    元スレ勇者「パーティ組んで冒険とか今はしないのかあ」

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    251 :

    できれば場面転換の最中のできごとの種明かしを最後に頂きたいです

    252 :

    姫様災厄呼ばわりか、カワイソス

    253 :

    神父逮捕にワロタ

    254 = 245 :

    再開します

    感想いつもありがとうございます
    ハゲみになります

    >>251いくつか場面転換部分ありますけどどこでしょうか??

    255 = 245 :


    戦士「ああ、魔法使いちゃん、ボクたちは死ぬしかないみたいだよ……」

    魔法使い「……」

    戦士「しかし、ボクにも……いや、ボクらにもプライドってものがある! 
       キミたち魔界の住人に殺されるぐらいなら……ここで自害してやるっ! 魔法使い!」

    魔法使い「……わかった」

    見張り「……なにをする気だ? おい待て……まさか本当に自害する気か!?」

    僧侶「え? それって毒生成の魔法陣じゃ……」

    魔法使い「……さよなら。死ぬ」

    僧侶(右の手の甲に展開した魔法陣から生成した毒液を…………舐めたって……)

    僧侶「な、な、な、なにをやって……! 本当に死ぬぞ!」

    戦士「だーかーら、死ぬのが目的なんだからいいんだよ」

    256 = 245 :


    魔法使い「……っ」

    僧侶(なっ……身体の色が急速に青白く変色し始めてる、だけじゃない……! 痙攣してる!)

    僧侶「ボクも今、そっちに向かうよ、魔法使い。まさか毒を食らって死ぬことになるなんてね、このボクが」

    僧侶「あっ……」

    見張りの「貴様らっ……ふざけた真似を!」

    僧侶(そうか、そういうことか。私たちはここではフォーリナーだ、そしてなにより犯罪者。
      取引材料にも使える、そんな私たちを死なせるわけにはいかない)
      
    見張り「ここで貴様らに死なれたらっ……! オレの首がどうなると思ってんだ……!?」

    僧侶(カギを開けた……!)

    魔法使い「……どん、まい」

    見張り「あっ……」

    257 = 245 :


    見張り「」

    僧侶「一瞬で気を失ったみたいだが。いったいなにをした?」

    魔法使い「これ」

    僧侶(……さっきとは別の手の甲にまた魔法陣が浮かび上がってる)

    魔法使い「一時的に催眠して眠りに落とす、対魔物用の魔法」

    僧侶「対魔物用の魔法か、そういえば魔物を扱う魔法が得意だって言ってたな……ん、魔法使い」

    魔法使い「なに?」

    僧侶「ほんの数秒前まで毒にかかっていた気がするんだが?」

    魔法使い「……」

    戦士「まあまあ、とりあえず宣言通り出れたから、結果オーライでしょ?」

    258 = 245 :


    僧侶「宣言通りって……魔法使いが魔法を使ってる時点で宣言通りではないだろ」

    戦士「ボク自身は使ってないから問題はないよ。
       それにしても、この見張りくんは、勇者くんがいないことに気づかなかったのかなあ?」

    僧侶「たしかにな」

    戦士「しかしまあ、こんな手によく引っかかったもんだよ。正直、こんなあっさりと引っかかるなんてね」

    僧侶「たしかに、子ども騙しのようなやり方だったが……」

    僧侶(あの瞬間、魔法使いが毒液を舐めたのは間違いがない。しかし、今は何事もなかったかのように、涼しい顔をしている。
       肉体活性の魔法は、現在は禁止されている……まさか、毒消しの類のアイテムをこちらで購入していたのか?
       いや、たとえそうだったとしても……)

    戦士「ありがとね、魔法使いちゃん。キミのおかげで色々助かったよ」

    魔法使い「礼には及ばない。それより上の方がなにか騒がしい気がする」

    僧侶「なんだ、なにか起こっているのか?」

    戦士「とりあえずここを出て、勇者くんと合流しよう」

    259 = 245 :


    ………………………………………………………


    「のわああああぁぁっ!?」

    (二回目の魔法陣での移動だが……前回は空間がグニャグニャしててすげえ気持ち悪かったけど。
      今回は恐ろしい速度で、川に流されたような感覚だった。
      なんとか、屋敷には辿りついたみたいだな)

    「いててて、 魔法陣を作った場所がまさかあの姫の手記の表紙だったなんて……」

    (とりあえず、ここから脱出してそれから牢獄へ向かうか……)

    「…………」

    (なぜなんだろ。どうしてこんなにこ惹かれるんだろ。
      魔王にさらわれた姫。そして、そんな姫の魔王との日々を綴った手記。オレはなぜかこれを読まなきゃならない気がしてならない)

    「だけど、そんなことをしている場合じゃないしな……」



    「そうだよ、お兄さん。お兄さんは早く仲間のところへ行かなきゃ」



    「……お前、いつの間に!?」

    260 = 245 :


    「私、わかってたんだ。魔法使いのお姉さんが、その手記に魔法陣を展開してったのをさ」

    「……」

    「あれれ? 毎度同じみのリアクションはしてくれないの? なんだか寂しいなあ」

    「そこをどいてくれ。オレはみんなを助けに行かなきゃならないんだ」

    「助けに、ねえ。お兄さんさ、私を自分の味方だとでも思ってるの? 
       ここから今すぐにでも飛び出して、誰か呼びに行っちゃったらお兄さんは、その時点でアウトだよ?」

    「だったらお前が逃げる前に、とっ捕まえてやる」

    「お兄さんにそんなことができるのかなあ? 私には無理だと思うなあ。だって、お兄さんってばすごい甘いんだもん」

    (くそっ、こんなとこで話している場合じゃないのに。だが、どうすればいいんだ?
      下手な手を打てば、オレはまた牢屋にぶち込まれてしまう。武器も取り上げられたままだし)

    「まあとりあえずさあ、落ち着きなよ。せっかくだからさ、お兄さんがさっきから気になってそうなことについて教えてあげる」

    「オレが気になっていること?」

    261 = 245 :


    「そう。私の予想だけどお兄さんは、その手記の姫様と魔王様のことが気になってるみたいだよね?
       ちがうかな? いや、ちがわないよね?」

    「気になるっちゃあ気になるが、今はそんなことを気にしてる場合じゃない」

    「だからさ、落ち着きなって。お兄さんはひょっとして仲間のみんなが、すぐ助けに行かないと殺されると思ってるの?
       だったら大丈夫。殺すなんてことはまずないし。だいたい殺すなら、武器を取り上げた時点でやってるよ」

    「そ、そうなのか?」

    「そうだよ」

    「だけど……」

    「あーもう、しつこいなあ。仲間が大事なのはわかるけど。いいのかな? これ以上しつこいと、私、誰かを呼んじゃうよ?」

    「でも、話を聞いたそのあとは……」

    「うーん、たぶんちょうどいい感じの時間帯になってるんじゃない?」

    「……よくわかんねーけど、信じるぞ」

    「いいね、信じるって言葉。私はその言葉が大好きなんだ」

    262 = 245 :


    「災厄の女王、彼女がそう呼ばれたのは、彼女が女王となってから取り組んだプログラムにあった。
       『マジック?エデュケーション?プログラム』っていう魔法使いの育成のためのプログラム。そして、この育成した魔法使いを利用した、新しい魔物作りのプロジェクト。
       結局、これらが最終的にキミらの国を破綻寸前にまで追いやった」

    「魔法使いから、その話は聞いたな。でもなんで、姫様はそんなことを?」

    「キミが気になってる手記のこのページに書いてある内容を見てほしい」

    「これは……」

    263 = 245 :




    ……XXX年、魔王と勇者激しく争う。


    ……XXX年、新たな魔王と勇者、激闘する。両者の争いにより争いにより小さな集落が滅ぶ。


    ……XXX年、魔王と勇者この世に生を受け、村を舞台に闘う。死者数百人。


    ……XXX年、魔王と勇者また復活、街で死闘を繰り広げその地を破滅に追い込む。死者数千人。


    ……XXX年、何度目の復活か不明、勇者と魔王因縁の争いにより山を二つ消滅させる。


    ……XXX年、ひたすら続く争い、勇者と魔王、魔王が建設させた魔王城にて決闘。魔王城とともに魔王を、勇者が滅ぼす。



    264 = 245 :



    「これは彼女が文献から抜き出したと思われる、魔王と勇者の争いの記録なんだ。
       見ての通り、魔王と勇者の闘いは時代があとのものになればなるほど、その規模は大きくなっている」

    「……これがなんなんだよ? これがどうさっきの話と結びつくんだ?」

    「魔王と勇者は歴史の中で、延々と終わらない争いを繰り返してる。そして被害もどんどん大きくなっている。
       このまま仮に勇者と魔王が、生死を繰り返して争い続けたら、その先に待っているのは世界の破滅。
       女王はそれに気づいた、だからこそ誤ちを犯してしまった」

    「でも、この記録の最後は魔王城の破滅だろ? 魔王城はさすがに街ぐらいの規模もないだろ? だったら被害の規模は小さくなったってことじゃ……」

    「当時の魔王の城については記憶がないの? 魔王の城は様々な魔術の術式や魔法による結界が張られていて、恐ろしいまでに堅牢になっていたんだ。
       それが滅ぶっていうのが、どれほど凄まじいことか……城は魔王の住処という以上に、被害を最小限に留めるための装置という意味合いの方が大きかったんだ」

    「それじゃあ、まるで……」

    (魔王が世界を守るために、魔王城を造ったみたいじゃないか……いや、自分の手下を守るためか?)

    「だから彼女は、考えたんだよ。世界は平和に導く手段を」

    「どうやって? 魔王と勇者の争いをしなくさせたのか?」

    265 = 245 :


    「いや、今でも大半はそうだけど人と魔物は相入れない。人間にとっては魔王や魔物は恐怖の対象だったし。大衆は勇者が魔王を滅ぼすことを望んでいた」

    「だから、姫様は王女になってその……魔法のプログラムをやったのか? でも、魔法使いを育てるのがいったい勇者魔王とどう関係あるんだ?
      魔物作りがどうとか言ってたけど、それと関係あるのか?」

    「そうだよ。魔法使いを育て上げる目的の一つに、魔物を人間の下僕として扱えるようにするため、というものがあった。
       とは言ってもこれは表の理由なんだよね。まあこの政策だけでもかなりの非難があったみたいだね」

    「表の理由ってことは真の理由があるってことか?」



    「うん。真の目的はべつに、いくつかあった。そしてそれこそが災厄につながったんだ。
       
       その目的は自分たちが操れる魔王と勇者を、人工的に造りあげること」



    「………………はあ?」

    「いいね、なかなかそのリアクションはいいよ」

    「いやいや、意味がわからない。勇者と魔王を人工的に造る? なんのために?」

    266 = 245 :


    「そうだね、より突き詰めて言うと、魔王と勇者を単体の生物にしてしまおうとしたんだよ」

    「なんのために?」

    「勇者と魔王。このある種の運命共同体とも言える二人を一緒にしてしまえば、少なくとも魔王と勇者が争うという構図はなくなる、そうでしょ?」

    「…………頭がついてきてくれないぞ。えーっと、そもそもなんでそんなことを……」

    「ああ、重要なことを話してなかったね。
       彼女はね、勇者と魔王は世界のなんらかの力の働きによって生まれてくるという説に則って、このプロジェクトを推し進めたんだ」

    「世界が勇者と魔王を生む、か」

    「科学とか歴史は確実に進歩してるのにね、なんでか未だに勇者及び魔王の生まれるメカニズムは、完全に判明していないんだよ」

    「なのに、そんなヤバイことをやろうとしたのか?」

    「無謀と言えば無謀だよね。だからね、彼女は同時にいくつかべつのプロジェクトも立ち上げていたんだ」

    267 = 245 :


    「べつのプロジェクト? まだほかにもあるのか? そういえば、魔女狩りの原因もそのプログラムだって魔法使いが言ってた気がするんだけど」

    「それは…………っと、まさにこれから話がいいところに差し掛かってたんだけど。
       そろそろここを出られるタイミングかもね」

    「そうだ! 話に夢中になってたけど、みんなが……!」

    「……お兄さん、牢獄への道は覚えてるの?」

    「たぶん、いや、絶対にたぶん大丈夫だ!」

    「人を不安にさせてくれるセリフだね。仕方ないなあ、この子を貸してあげる」

    「なんだ、この手のひらサイズのドラゴンみたいな魔物は? ていうか、どっから出した?」

    「細かいことは気にしないの。私のお友達で相棒。その子がお兄さんを牢獄まで連れて行ってくれるよ」

    「ホントか!? 助かる!」

    268 :



    「礼には……及ぶけど、ていうか、よく考えたら私って、お兄さんたちのお世話しっぱなしだよね。
       これはいずれ、なんらかの形でお礼をもらわなきゃなあ」

    「なんでも言ってくれよ、本当に色々と世話になってるしな。
      でも……なんで、オレたちにここまで手を貸してくれるんだ? オレたちはよそ者だし、キミになにかメリットがあるとは思えないし」

    「未来への投資、とか言ってみたりして。残念だけど今は理由を説明してるヒマはない。
       あと数分で憲兵が消えるタイミングだしね。一時的に手薄になる、この瞬間がチャンスだよ」

    「あーじゃあ、これだけ答えてくれないか? なんでこんなにオレたちの国のことについて詳しいんだ? 」

    「私は情報屋だからだよ」

    「答えになってないんだが。まあいいか、そろそろ行ったほうがいいな?」

    「うん。頑張って生きるんだよ、お兄さん。そして他のお兄さんやお姉さんも助けてね。
       あと、これも持ってきなよ、中身が気になるんでしょ?」

    「姫様の手記……いいのか? これはキミの主のものなんじゃないのか?」

    「そういうことは気にしなくていいから」

    269 = 268 :


    「あと、これは言おうか言わないか、迷ってたけどやっぱり言っておく」

    「うん?」

    「キミたちがリザードマンを殺していないことはわかってる。そもそも証拠らしい証拠は、現場になかった。
       だけど、通報者がいたんだ、犯人を目撃したっていうね」

    「……どういうことだ? オレたちに罪をなすり付けたヤツがいるのか? いや、あの地下水路で戦ったヤツらか?」

    「いいや、ちがう」

    「じゃあ、誰なんだよ?」










    「通報者はキミの仲間の一人だ」

    270 = 268 :


    …………………………………………………


    「……ふうっ。なんとか屋敷の脱出には成功したか。あとはお前が道案内をしっかりしてくれれば、無事に着くな」


    「お安い御用です」


    「しゃ、しゃべったああああああぁ!?」

    「ちょっとちょっと、そんな騒ぎなさんな。なんで今さらこんなことで驚きなさるんですか?
      魔物が口をきく場面なんて、いくらでも見ているでしょう?」

    「見てるよ、ただ、人型以外の魔物が話すのは初めてだからさ。あとすごいちっこいし」

    「魔物も日々変化し、成長しているのですよ。
      それにしてもあなたは面白く、なにより素直な方だ。実に話し手の気分をよくしてくれる聞き手です」

    「そうかな、っていうかそのことならお前のご主人にも言われたよ」

    (そういえば、オレってあの女の子に記憶がないってこと話したか? 勇者であるという自己紹介は、ドワーフのとこに行く前にしたけど……)

    271 = 268 :


    「勇者様、この通路は多少遠回りになりますが、あえてここを通ります」

    「なんで? オレは急いでるんだ」

    「街の様子がなにかおかしい。より正確に言えばなにか騒々しい。間違いなくなにかあったのでしょう。
      憲兵もエルフ様の屋敷を抜けたのは、どうも理由があったようですし」

    「もしかして街をうろちょろしてる憲兵が増えてるのか?」

    「ええ、おそらく」

    「なら、仕方ないか。お前の言う通りにしよう」

    「懸命な判断です」

    272 = 268 :


    「でもここがいくら人通り少ない通路だからって、まったく憲兵が来ないわけじゃないだろ?」

    「もちろん。そう時間の経過を待たずとも、いずれはここにも操作の手は及ぶでしょうね」

    「しかも人が二人ぐらいしか通れなさそうな場所だしな、挟み撃ちされたらアウトだ」



    「挟み撃ちされなくてもアウトの可能性、あるかもね」



    「……急に背後に現れて、しかも後頭部に指鉄砲向けて……なんだ、新手の脅しか?」

    「脅しかあ、うーん、なんだろうね。たしかにうまい具合に背後に忍び寄ったんだから、そのまま黙って殺すべきだよなあ」

    (今回、声をあげなかったのは奇跡だ。くそっ、いつの間に背後にいた? 
      しかもこの暗闇のせいでわかりづらかったが、この男、赤いローブを着ている。昨日の連中か?)

    「オレになんの用だ?」

    273 = 268 :


    「質問をするのはいいけど少しは自分で考えたら? 世の中、そんな親切な人間ばかりじゃないよ?」

    「アンタ、オレたちを襲った連中だよな? 地下水路で襲いかかってきた……死ぬかと思ったよ」

    「それはこちらもだね。あの尼僧の攻撃で本当に死ぬかと思ったよ。
      だいたいなんだ、あの格闘家顔負けの前線で盛んに戦うスタイルは? 私は昔ながらの僧侶がいいのに!」

    「……知らねーよ。でもあいつ、なかなか僧侶っぽいっていうか、女らしいところだらけだぜ。
      メシ作るのも上手だし、子供達への本の読み聞かせとか見てみろよ、惚れるよ」

    「それこそ知るか。どちらにしよう、あの女には殺されかけたからね。それ相応の報いを受けてもらわねば気がすまない」

    「で、結局オレはどうするんだよ?」

    「哀れな勇者であるキミにも、そうだね、死んでもらおうか、うん」

    不意に首筋に強烈な殺気が突き刺さる。
    自分の後頭部に向けられた人差し指、それからはっきりとした魔力の膨張を感じた。
    反射的に、振り返りざまに蹴りを繰り出す。当たるとは思っていない。予想通りだった、あっさりと避けられる。

    「前回は勇者、お前と手合わせをするまでもなく、私がやられちゃったからね。楽しませてもらうよ」

    274 = 268 :


    赤いローブの男は人差し指をこちらに向ける。同時に、小さな光の粒子が集約していく。数瞬して、光の球が勇者めがけて放たれれる。
    光の球は、前回やりあった男のそれとスピードはほとんど変わらなかった。間一髪、なんとかかわす。
    が、光球が頬を横切った瞬間、感じ取った魔力の量は決して少なくない。喰らえば十分すぎるほどに危険だ。

    なにより、今、自分は武器を持ってない上に装備もない。頼れるのは己が拳だけだ。
    しかもこの通路が行動範囲を極端に狭めていた。明らかに分が悪い。

    「私も忙しいからねえ、さっさと終わりにしよう」

    再び人差し指がこちらに向けられる。もはや躊躇っている場合ではなかった。
    相手が攻撃する前にこちらから仕掛けるしかない。勇者は地面を蹴り、一気に敵との距離を詰めようとする。


    「残念だけど、だいぶ遅いなあ」


    男の人差し指の先端で光が弾ける。だが、それは勇者に向けられたものではなかった。
    光球は通路を形成する建物へと打ち込まれていた。衝撃と建物が破壊されるけたたましい音。
    崩れた建物から発生した煙で、視界はあっという間にゼロになった。


    「くそっ……」

    「のんびりするなよ」


    勇者が悪態をつき終わる頃には、煙を振り払い、あっさりと距離を詰めた敵が目の前にいた。

    275 = 268 :


    声をあげる暇すらなかった。腹に鉄球でもぶつけられたかのような、強烈な衝撃。蹴りか、或いは拳か。
    敵の攻撃は勇者の腹をはっきりと捉えていた。あまりの衝撃に勇者は床に転がりうずくまることしかできない。

    「弱す……も感……ね…………しょせんお前は……か」

    上から降ってくる男の声はひどく淡々としていた。腹の痛みが聴覚の働きを阻害しているのか、うまく聞き取れない。


    「終わり…………なに、安心……よ。死は唯一人間が平等に神から授…………ものだ。それゆえ………………ごの世界は心地………ずだよ」


    顔をなんとか起こす。鈍い輝きが視界に入ってくる。
    ナイフは残像が空間に滲むかのような緩慢さで、勇者の首筋へと運ばれていく。


    (やばい、このままじゃ……死ぬ。殺される。なんとかしないと……なんとか…………)


    勇者の目にあの姫の手記が飛び込んでくる。手を伸ばせば、届く距離に手記が落ちていた。
    おそらく吹っ飛ばされた衝撃で、ポケットから出てしまったのだろう。
    不意に勇者は思いついた。可能性としては限りなく低いが、もはやこれ以外に自分が生き残る方法が浮かばなかった。


    「 し   ね 」


    その二文字だけは明確に聞こえた。勇者は最後の力を振り絞り、手を伸ばす。

    災厄の女王が残した手記へと。

    276 = 268 :


    今日はここまで

    なんとかテンポ良く進もうと話飛ばしててわかりづらいところも、あるかもしれません

    277 :


    勇者弱っ!

    278 :

    乙でした

    279 :

    軽く再開

    280 = 279 :


    伸ばした手は手記を掴んでいた。掴んだ手記にはまだ魔力の残滓が感じられた。
    戦士と手合わせしたとき、彼が言っていた言葉を思い出す。


    戦士『魔力が勇者くんにはないのかって? そんなわけないじゃん。多かれ少なかれ、魔力は誰もが保持しているものだよ。
       え?じゃあなんで自分には魔法が使えないのかって? そりゃあ使い方がよくわかっていないからだよ。まあ、けっこう魔法って才能とセンスに拠るところが大きいからね。
       でも、自分が触れてるものに魔力を流すぐらいなら、できるんじゃない? どうやるのかって?』


    わずか一秒か、否、それ以下の時間。刹那を永遠に引き伸ばすかのような集中力。頭にイメージを一瞬で浮かべる。
    魔法使いによって手記に展開された魔方陣。それに勇者は自身の魔力を流し込む。想像の中で魔方陣に力を注いでいく。


    「なっ――」


    手にした手記から力の波動が蘇るのがわかった。まばゆい光が弾ける。勇者はその強すぎる光に目を閉じた。
    やがて、まぶたの裏を包む光は消え失せ、闇と静寂に取って代わった。

    281 = 279 :


    ……………………………


    「……はあぁつ!」

    (ここは……あの、牢獄だな。手記に無理やり魔力を流し込んで、魔方陣を展開させたけど、どうやら成功したみたいだな)

    「あ、イテテ。しかし、さっきもそうだったけどこの魔方陣、勢いが強すぎるだろ……ってみんながいない!」


    (この魔物は、オレたちを捕まえた憲兵と同じ格好をしているってことは、見張りかなにかか?
      だがなぜか気絶しているみたいだ。みんなもいないし……カギが開いている。
      もしかしてみんなここをどうにかして脱出したのか……)

      
    「いや、でも結果的によかったな。
      もしこれでみんながここにたら、オレがなんのために脱出したのかって話になるからな」

    (とにかくここから、脱出して……いや、できるなら、脱出前にみんなと合流しよう)

    282 = 279 :



    ……………………………


    僧侶「なんとか勇者の剣も含め、すべての武器の回収には成功したが、まったく懸念していない方面の事態になったな」

    魔法使い「……うん」

    僧侶「まさか、見張りとの戦闘中に戦士とはぐれることになるなんて。
       なんとか合流しないと。ただでさえ、勇者と別合同しているというのに」

    魔法使い「……」

    僧侶(まったく、戦士め。だいたいあんな雑魚相手に、煙幕を張る小細工をした意味がわからない。
       結果から見れば私たちパーティがはぐれただけだしな)

    魔法使い「どうする?」

    僧侶「なにがだ?」

    魔法使い「……このまま私たちのみで脱出するか。もしくは、ここに残って戦士を探すか。
         あるいはここを出て勇者と合流するという選択肢もある」

    283 = 279 :



    僧侶(どうするのが正解だ? 実のところ戦力としてきちんとそろっているのは、今のところ私たちだ。
       戦士はまだ一人でも上手に立ち回れるかもしれない。だが、勇者はどうだ?)

    魔法使い「勇者が心配?」

    僧侶「……よくわかったな」

    魔法使い「それぞれの実力のことを考えれば、わかる。それに表情に出てる」


    僧侶(もう一つ気になるのは、武器を回収した際、戦士がいくつか魔法使いになにかを渡していたが……)


    僧侶「もしここを脱出したとしても、外は見張りだらけだ。いや、それはここも同じだが。
       あの牢屋でおとなしくしている方が、ベターな選択肢だったのかもな」

    魔法使い「あのときの私たちの行動はいささか軽率すぎたかもしれない」



    「そうだなあ。だから、この俺と戦うハメになる」



    僧侶「赤いローブの……あのときの連中の一人か」

    284 = 279 :


    「ふっ……あの勇者の亡霊と生意気な戦士はいないのか?」

    僧侶「生憎な。いったいなぜこの牢獄にキサマがいる?」

    「話す義理はないなあ。昨日俺に傷を負わせた勇者と戦士なら、まだ軽口を叩く気にもなったが。
      いや、だが、キサマには俺の仲間がやられていたな」

    僧侶「それはこちらも同じだ。私も危うくキサマに殺されかけた」

    「そうだったな。あと一歩というところで、あの勇者に邪魔をされた。
      だが、こちらは先にケンタウロスもやられているからな……そうだな、やはりお前たちは始末しておいたほうがいいだろう」
      
    僧侶(戦いは避けることはできない。決して狭くはない通路だが、さすがに隙をついて逃げられるという広さではない。
       昨日の水路には及ばないが…どういう戦術をとるべきだ? 
       一対一では十中八九、勝てない。しかもまだ、私のコンディションは完全ではない)


    魔法使い「先手必勝」


    思考をめぐらす僧侶の背後から、魔法使いがつぶやく。
    一筋の水が刃となって男に襲いかかる。さらに、水の刃を間髪入れずに魔法使いは次々と繰り出していく。

    285 = 279 :


    「この程度で俺を止められると思うなっ!」

    男が長剣で水の刃を容赦なく斬り捨てる。おそらく魔力を剣に流し込んでいるのだろう。
    魔法使いに襲いかかろうとする男の前に、僧侶は立ちはだかる。
    僧侶はグローブから衝撃波を放つ。地面を凄まじい勢いで這いずる衝撃を、しかし男は跳躍で避ける。


    「あまいっ!」


    男の長剣が跳躍とともに振り落とされる。余裕を持って避けるが、男の剣が地面を穿った衝撃で足もとがふらついた。
    そして、それを見逃す敵ではなかった。一瞬で距離を詰められる。避けられない――


    「……!?」


    突如、地面から天井を突き刺すかのような勢いで、僧侶と男の間に水柱が湧き上がる。魔法使いの術だ。
    すぐさま飛び退き距離を稼ぎつつ、衝撃波を続けざまに放つ。
    魔法使いも僧侶に続くように、水弾で連続攻撃する。


    いつしか地面は水で満たされていた。

    286 = 279 :



    「どうした魔法使いよ!? 前回はもっと繊細な魔法を俺に見せてくれたではないか!?
      それがどうだ!? 俺は水遊びにでも付き合わされているのか!?」

    魔法使い「……」


    魔法使いは、男の言葉には構わず、水の波動を飛ばしていく。しかし、これを男はどれも神業的身のこなしで捌いていく。


    「つまらんなあ! そろそろこっちから仕掛けさせてもらうぞ!」


    刺突の構え、男は猛牛のごときスピードで僧侶に迫ってくる。
    不意に僧侶の身体を淡い光が包んだ。そしてそれは魔法使いも同様だった。


    僧侶「悪いが、これで詰みだ」


    いつの間にか僧侶の拳は雷をまとっている。
    前回と同じように、自分たちには魔方陣を展開して守りの体勢は作ってある。

    僧侶の拳がみなもを撃つ。雷の奔流が炸裂し、通路全体が鮮烈な光でいっぱいになる。

    287 = 279 :


    電撃による光が一瞬だけ、僧侶の視界を奪った。前回とはちがい、かなり距離を詰めさせた上で攻撃した。
    成功していれば、それ相応のダメージを負っているはずだが……そこまで思考したところで、僧侶は目を見開いた。
    部屋を満たしていた光が鳴りを潜め、代わりにに巨大な影が滲むように浮かび上がってくる。


    僧侶「これは……」

    「芸がなさすぎるんじゃないか? 一回見れば見飽きる技だ。そして、たいていそんな技は簡単に攻略される」


    僧侶の目の前には、巨大な犬の魔物がいた。その巨躯を覆う漆黒の毛は、怒り立つように逆立っていた。
    おそらくこいつが自分の攻撃を受け止めたのだろう。いったいどのようにして、電撃を放電したのだろうか。
    さらに足の付け根の部分と爪先部分には、鎧のようなものが装備されている。明らかに人工的な施しを受けていた。


    魔法使い「ケルベロス……」


    「正解だ。近年の研究が生み出した優秀な魔物だ。
      せっかくだ、お互いフェアプレーと行こうじゃないか。お前ら二人のペアと俺とケルベロスのペア」

    僧侶(動物から魔物を生成する技術、魔界では既にこのレベルの魔物を作り出せるのか)

    魔法使い「……構えて。来る」


    相変わらず魔法使いの声は淡々としていた。
    が、その小さな声に焦りのようなものを感じたのは自分こそが、焦燥感に駆り立てられているからだろうか。
    こめかみを伝う汗をぬぐう余裕すらなかった。僧侶は言われたとおり構える。


    ケルベロスが咆哮する。それが戦いの火蓋を切る合図となった。



    ……………………………

    288 = 279 :

    とりあえずここまで

    289 :

    戦闘力の差が顕著だなぁ…。鍛えてはいるけど戦闘が本業ではない警察官と、戦闘行為が主な仕事であるプロの軍人がドンパチやってるような感じを受ける

    290 = 268 :

    まったりと再開

    291 = 268 :



    「見事に迷ったな、これは」

    (牢屋から脱出しようと、特になにか考えるわけでもなく、上に向かっててきとーに歩いていたら見事に迷ってしまった。
     不幸中の幸いなのは、今のところ見張りの連中に遭遇してないことだ)


    「っ……!? なんだ、今のでかい音は……?」


    (そうだ、仮に他の三人が見張りのヤツらと争っていたら……音がした方はあっちだ)

    「急がないと……!」


    ………………………………………………………

    292 = 268 :



    (さっきから何度かでかい音がしてるが、おそらくそれはこっちから聞こえていた……)

    「あれは……まさか行き止まり!? いや……」

    (パッと見だと壁のように見えて、行き止まりかと思ったが、ちがう。扉のよう…………)


    再び轟音がした。激しい揺れに転びそうになるのをなんとかこらえた。
    またもや恐ろしいほどの衝撃が起こる。真上からだ。

    「なっ……!?」

    ほとんど反射的に飛び退く。天井だった部分が瓦解して、なにか巨大なものが落ちてくる。
    瓦礫により発生した煙のせいで、前が見えるようになるには時間が必要だった。


    「魔物!?」


    巨大な犬ような魔物が瓦礫の下敷きとなっていた。
    だが、それだけではなかった。瓦礫の隙間から淡い光が漏れていた。
    次の瞬間、大量の破片が爆ぜる。

    「魔法使い……と僧侶!?」


    瓦礫の中から現れたのは、魔法使いと彼女の腕に抱かれて気絶している僧侶だった。

    293 = 268 :


    「な、なにがあったんだ!?」

    満身創痍の二人に駆け寄ろうとしたときだった。
    低い腹の底から響いてくるかのような咆哮がして、勇者は思わず足を止める。そして見た。

    巨大な魔物が起き上がり、こちらを睨んでいるのを。犬のような魔物は傷だらけであちこちの皮膚がただれていた。
    特に顎の部分はまるごと吹っ飛んでおり、剥き出しの歯は血に染まっていた。
    しかし、異様に蘭々と光る目や荒い息遣いからはとてもそんなダメージを感じさせない。

    ケルベロスが魔法使いたちの方へと身体を向ける。

    「魔法使い!」

    魔法使い「なぜ来たの? ……あなたでは、ケルベロスには勝てない……」

    「ケルベロスって言うのか、あの魔物」

    魔法使い「逃げたほうが、いい」

    「逃げるのはべつにいい。だけど、お前らをおいていくわけには……」

    294 :


    魔法使い「……どうする気?」

    「お前と僧侶の二人がかりでも勝てなかったんだよな?」

    魔法使い「……うん」

    (どう戦えばいいんだ? いや、ちがう。どうやってこの二人を逃がすか、だ。僧侶は気絶してるし……)

    僧侶「……おい、勇者」

    「僧侶! 意識が戻ったのか……立てるか?」

    僧侶「なんとか、な……だが、さっきヤツとやりあったときに攻撃を食らってる。長くはもたない。
       それと、お前の武器だ」

    「オレの剣……お前、ずっと持っててくれたのか?」

    僧侶「……話しているヒマはない。逃げるなり戦うなり、なにかしなければ私たちは、ただ死ぬだけだ」

    「……オレが最前をやる。二人はバックアップを頼む」

    295 = 294 :



    勇者は僧侶から渡された剣を構えた。握った柄から魔力を注ぐイメージを浮かべる。


    僧侶「くるぞっ!」


    ケルベロスが地を蹴り、高く飛び上がる。僧侶と魔法使いの背後をとられる。
    魔法使いが火球を放ち、僧侶も衝撃波を拳から繰り出しケルベロスを牽制する。

    だが、まるで効いていないのか、敵は構わず突っ込んでくる。
    勇者は二人を守ろうと距離を詰めようとしたが、ケルベロスの速度はあまりに速い。追いつけない。
    勇者は剣に魔力を注ぐイメージとともに、剣をケルベロスに向かって投げつける。

    剣はケルベロスの目に吸い込まれていく。直撃、ケルベロスの咆哮が響き渡る。

    296 = 294 :








    「いけるかっ!?」


    仰け反るケルベロスのふところに飛び込む。目から剣を引き抜きとどめをさせば……という勇者の思惑は大きく外れる。
    ケルベロスは痛みに暴れ出し、めちゃくちゃに巨大なかぎ爪のついた手を振り回す。

    咄嗟に避けるも、巨大なかぎ爪は瓦礫の山を吹っ飛ばし、その破片は勇者に直撃する。


    魔法使い「……!」


    ケルベロスはさらにそのまま勇者へと向かって突っ込んでくる。
    どうすることもできない、瓦礫の破片のせいで体勢を崩した勇者へとケルベロスの爪が振り落とされる。


    僧侶「勇者……っ!」


    僧侶がいつの間にかそばにいた。華奢な腕が勇者を突き飛ばす。そして……。


    勇者「あっ……」


    僧侶はケルベロスの爪に切り裂かれた。飛び散る赤い血がやけに遅く見えた。

    297 = 294 :


    だが、それだけでは終わらなかった。ケルベロスは大きく口を開いたと思うと低い唸り声をあげた。
    本能が危険だと告げる。ピタリと魔物の声が止まる。次の瞬間、ケルベロスは巨大な炎弾を口からはいた。

    強大な火の塊が迫ってくる。

    不意に勇者の足もとから水柱が沸き起こる。その水柱は勇者を勢いよく吹っ飛ばした。

    「ぬあぁっ!?」

    なんとか受け身をとったが、さすがにすべての威力を吸収するのは不可能だった。
    それでもなんとか身体を起こし、勇者が構えようとして気づく。

    炎弾は今まさに魔法使いに当たった。勇者を庇うために結果として、魔法使いは自身の身を守ることができなかった。
    巨大な火の玉は魔法使いに直撃し、そのまま壁を破壊した。

    「あ、あああぁ…………」

    二人は死んだのか? なにが起きてしまったのか、勇者の脳はすでに考えることを放棄しようとしていた。

    298 = 294 :

    ここまて

    300 :

    こんなところで止めるなんて・・


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