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    元スレ勇者「パーティ組んで冒険とか今はしないのかあ」

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    51 = 44 :


    戦士「ゴメンね、ボクは毎日厳しい修行に身を置いてるから下界のことはよくわからないんだよ。普段は山にこもってるし。
       お嬢ちゃんはいったい誰なのかなあ?」

    「あたしは魔界の「ミレット地区」の「ブドウの風」の看板娘だよ? 知らないのー?」

    戦士「うーん、ゴメンね知らないやー」

    僧侶「と言うか知らなくて当然じゃないか、ブドウの風というカフェの看板娘だろ。わかるわけがない」

    「あれれ? バレちゃった?」

    「ていうか「ミレット」ってなんだ?」

    「ええ!? 私のことは知らなくてもそっちは知っていようよ。
       ミレット地区は別名が「人間地区」。私たち人間の巨大な自治体だよ……ってなんでそんなこと知らないの?」

    「っていうか、待て! 魔界なのか、ここは……?」

    「そうだよ、なにを言ってるの?」

    52 :




    僧侶「見渡す限り、人であふれてるように見えるが……」

    「いや、奴隷ってことじゃないのか? 魔物たちの奴隷としてここで働かされてるってことじゃあ……」

    戦士「なにをキミたちは言ってるんだ、今お嬢ちゃんははっきり自治体って言ったろ?
       少なくとも奴隷ではないし、そうじゃなくても奴隷はこんな顔してないよ」

    僧侶「たしかに、な」

    「なあにかな美人なお姉さん? 私が可愛すぎて見とれちゃってんのかなあ?」

    53 = 52 :


    戦士「とりあえず彼女の店に入らないかい? ボク、歩きすぎて疲れちゃったよ」

    「一旦腰を落ち着ける、か。じゃあ四人がけできる席に案内してくれる?」

    「毎度ありだねー、変なパーティさんたちー。
       じゃあとりあえずブドウの風にようこそ、入って入ってー」

    僧侶「……無駄にさわがしいな」

    「元気があってオレは好きだな、あの娘」

    戦士「おや、もしかして勇者くんはロリコンかい?」

    「オレの年齢でいったらたいていのヤツ好きになった時点でロリコン扱いされちまうけど……ってそういう意味じゃないからな!」

    戦士「年齢だけでいったら仙人だからねえ」

    54 = 52 :

    カフェ店内



    戦士「じゃあ状況を少し整理しよう。
       ボクらは魔法空間を通って魔界には来れたみたい、ただし当初の予定とはちがうポイントに、だけどね」

    「オレが気になったのはオレたちがあの海辺についた時点で既に囲まれていたということだな。
       まるであらかじめオレたちがあそこに現れることをわかってたみたいだ」

    僧侶「あのゴブリンとオークも変だったな。あれは戦闘型の魔物だが、言葉が話せない。
       本来なら指示を出すリーダー的存在がいなければならないし、あの統率の取れた動きにしても奇妙だ」

    魔法使い「……」

    「ていうかここは本当に魔界なのか? とてもそんな風に見えない」

    戦士「魔界についての資料は我が国にはほとんど存在しないからなあ」

    戦士(まあ、存在しない、というよりは意図的にボクらが調べたりできないようになってたり、資料の存在そのものを消している……そんなとこかな)

    僧侶「ここは人間の自治区らしいが……」

    「とりあえず飲むもん飲んだしここから出ようぜ。お会計たのむー」

    55 = 52 :



    「はい、じゃあ……だね」

    「……ちょっと待った、魔界の金なんてもってない!」

    戦士「あ、そーだ! あのゴブリンから本当ならこっちについてから換金してもらうはずだったんだ」

    「じゃあ金がないってこと……?」

    魔法使い「…………」

    僧侶「……」

    戦士「……」

    「おやおや、もしかしてもしかして、まさかのお金が払えないとか?」

    56 = 52 :

    今日はここまで

    この話のはるか昔世界観だけ同じのSS

    魔王「姫様さらったけど二人っきりで気まずい」


    そして感想くれた人ありがとー

    57 :

    あ、あっちもそうなのか。両方読んでるよー乙

    59 :

    乙っす
    よくいるエルフ娘の恋愛をショタ扱いされないから大丈夫だろきっと……

    60 :

    待ってました

    61 = 52 :



    始 動

    62 = 52 :


    「いやあ、そんなわけはないんだけどなあ。あははは……」

    「やっすいドリンクかもしんないけど、そんなのがこの店の利益になって最終的には私の懐に入ってくるわけだからねえ。
       払ってもらわないと困っちゃうなあ」

    「いやいや、オレたちはべつに払う意思がないわけじゃない! ただ、その事情があって……」

    「ふーん、ほんとに?」

    「本当だ、この真実を語る者特有の真摯な眼差しを見てくれよ」

    「どれどれ…………まあ、お兄さんたち実際のところ悪い人には見えないんだけどねえ」

    戦士「そうだなあ、もしよかったらボクらになにかお手伝いをさせてくれないかい?
       お金は払えないけどボクらの時間を代価にできないかな?」

    僧侶「そんなことをしている場合ではない……と言いたいところだが完全に私たちに非があるからな」

    63 = 52 :



    「まあ本来なら出るとこに出てもらっちゃおうかなっと思ったけどちょうどいいや。
       じゃあお言葉に甘えて、って言うのも変だけどお兄さんたちには働いてもらおうかな」

    勇者「ああ、まかせてくれ。奴隷のようにはたらいてやるよ!」

    戦士「キミの奉仕の精神は素晴らしいけど、できれば払えていないお金の分だけの労働しかしたくないよ」

    僧侶「と言うより私たちにはやることがあるからな」

    勇者「あーそうだったな。じゃあ、やっぱりそんなに長くは働かないぞ!」

    「本当なら逮捕されてるところなんだから多少長く働かされてもお兄さんたちは文句を言えない立場なんだけどなあ。
       まあ安心してよ、そんな疲れるようなことはしないし。とりあえずあがりの時間まであと一時間だからそれまで待ってて」

    「りょうかい」

    64 = 52 :


    一時間後


    「おまたせー、さあさあ金なしの皆さんにはこれから精一杯働いていただきまーす」

    戦士「てっきりボクは店内の仕事を任されるかと思ったけど森の中に来たってことはちがうみたいだね。
       残念だなあ、客の中に一人すごくボク好みのレディーがいたんだけどなあ」

    僧侶「で、私たちになにをさせるんだ?」

    「…………」

    「どうした?」

    「見知らぬ土地でたまたま入った店をきっかけに起きるイベントに期待したのかなあ、お兄さんたちは?」

    「なにを言ってんだ?」

    僧侶「それより今、「見知らぬ土地」って言ったな?」

    「うん、言ったよ。だって間違ってないでしょ?
       キミたちは外の世界から来たんでしょ、知ってるよ」

    65 = 52 :


    「な、なんでわかったんだ……ってそうか! そう言うことか!」

    「声大きいなあ、勇者のお兄さん」

    戦士「いったいなにがわかったんだい勇者くん?」

    「コイツ、さてはオレたちの会話を盗み聞きしてやがったな! じゃなきゃオレたちが外から来たことがわかるわけがないっ!」

    戦士「残念ながらそれはないんだよねえ、勇者くん」

    「なんでだ!?」

    戦士「彼女の魔法の施しをボクらは受けているからね」

    魔法使い「私たちの会話は周囲の人間の耳を素通りするようになってる」

    「いつの間にそんな魔法をかけられてたんだ!? まったく気づかなかったぞ!」

    「そう言われてみると意識を傾けていないときはキミらの声は聞こえなかったなあ」

    僧侶「いったいなにをお前は知っている?」

    66 = 52 :



    「やだなあ、お姉さん怖いよお。美人の怒り顔ほど人を怖気つかせるものはないんだよ?」

    僧侶「いいから話せ、お前の回答次第では……」

    「警戒したくなる気持ちはわかるけど私はお姉さんが思ってるような人間じゃないよ?
       ただちょ~っとだけ街のうわさとか情報とかに敏感なだけのカワイイ女の子なの」

    「結局誰なんだよ」

    「ふふふっ、教えてあげよう。私は情報屋を営んでいるんだよ」

    「情報屋? なんだよ情報屋って?」

    「そのまま名前の通り。人が求める情報を右から左へ流す職業だよ。
       情報商売は普通にバイトをするよりもはるかに設けられるからね」

    67 = 52 :



    「やだなあ、お姉さん怖いよお。美人の怒り顔ほど人を怖気つかせるものはないんだよ?」

    僧侶「いいから話せ、お前の回答次第では……」

    「警戒したくなる気持ちはわかるけど私はお姉さんが思ってるような人間じゃないよ?
       ただちょ~っとだけ街のうわさとか情報とかに敏感なだけのカワイイ女の子なの」

    「結局誰なんだよ」

    「ふふふっ、教えてあげよう。私は情報屋を営んでいるんだよ」

    「情報屋? なんだよ情報屋って?」

    「そのまま名前の通り。人が求める情報を右から左へ流す職業だよ。
       情報商売は普通にバイトをするよりもはるかに設けられるからね」

    68 = 52 :



    戦士「情報屋ねえ、ボクらの国にもいないことはないけれど実際に会うのははじめてかな」

    「そんな胡散臭そうな顔で見ないで欲しいなあ。じゃあそーだね、お兄さんたちがこの国に来て最初に襲われたモンスターを教えてあげようか?」

    「オレたちがゴブリンたちに襲われたのを知ってるのか!?」

    「もーこれから答えを言おうと思ったのに先に言わないでよ!」

    僧侶「……で? 私たちが外部から来たことを知ってるお前はいったい私たちをどうするつもりだ?」

    「逆に聞くけどどうするつもりだと思う?」

    魔法使い「……」

    戦士「あまり想像がつかないなあ。それにこっちも状況的に危険になるようだったらボクらも死に物狂いで何とかしようとするよ?」

    「私がなんの対策も考えないでこんな森にお兄さんたちを呼んだと思う?」

    69 = 52 :


    僧侶(見たところ、十五、六ぐらいの小娘だがなにかできるというのか。いや、この娘の顔…どこかで見たことあるような…)

    「……と、まあこんなセリフを言っておいてなんだけど安心してよね。
       私は情報屋だけどこの情報を回すつもりはないし、むしろお兄さんたちにとっても悪くない話がある」

    「どういう話だよ?」

    「お兄さんたちが用があるのはズバリ魔王様でしょ、正解?」

    「す、すごい! なんでもわかるっていうのかお前!?」

    戦士「おおかた、ボクらが魔方陣から出現したのを見たんじゃない?
       魔方陣の数はかなり少ないし、ボクらは魔王の遣いを通してここに辿りついた。
       おそらくあの魔方陣がどこの誰が使ってるかわかれば簡単に理由はわかるんじゃない?」

    「まあ想像にそこらへんはまかせるよ」

    70 = 52 :



    戦士「悪くない話ってのは?」

    「私がお兄さんたちに隠れ家を提供する。その代わりにお兄さんたちには今から一週間後にある依頼をしたい」

    僧侶「お前の依頼を受ければ隠れ家を提供してくれるのか? 理由がよくわからないが」

    「だから言ってるでしょ、依頼を受けてもらうって」

    僧侶「依頼の内容は?」

    「ひみつ。さあどうする? 私としてはお兄さんたちにはこの依頼を受けて欲しいなあ。
       決して悪い内容じゃないし」

    魔法使い「……」

    僧侶「どうする?」

    戦士「どうする、勇者くん? ボクらのリーダーはキミだからキミにまかせるよ」

    「その依頼うけるよ!」

    「えらくあっさり決めてくれるね、まあキミらがいいならそれでいいよ」

    71 = 52 :


    僧侶「なにを根拠にこの女の話に乗った?」

    「いや、なんて言うか直感」

    戦士「……まあ、いいんじゃない? このままじゃボクら野宿してしまう可能性もあったからね」

    「そうそう。と言うわけでよろしく頼む」

    「こちらこそね」

    72 = 52 :

    蟆代@莨第?

    73 :



    「隠れ家の地図を頼りになんとかそれっぽい場所にたどり着いたけど、本当にここであってんのか?」

    僧侶「地図の通りだったらな。
       しかしずいぶんと不親切だな、あの女の子。私たちがこの街の土地に明るくないことはわかりきってたはずなのに」

    「たしかにな。

      『私はこの後もちょっと用事が色々あって案内できないけど地図渡すから自力でたどり着いてねー』って言われて来たけど」

    戦士「おかげでこの街の土地に少しだけ詳しくなったけどね」

    「見たところごく普通の家みたいだな、とりあえず入るか」


    キイィ……


    戦士「……へえ、想像していたよりいい場所を提起してくれたようだね。
       猫の額みたいなサイズを我慢すれば調度品もしっかりしてるし全然いけるね」

    僧侶「猫の額だと? 十分すぎる広さの家だ」

    戦士「ゴメンごめん、ボクってば名門貴族の出身だから家も無駄に広いんだよね」

    74 = 73 :


    「まあ無事についてなによりだ。とりあえず今日は休憩しよう」

    僧侶「勇者がこの程度で疲れたのか?」

    「実を言うとかなりな」

    戦士「仕方がないよ、なにせ八百歳のおじいちゃんなんだから。
       普通だったら腰は曲がって肉も皮もない骸骨の頭頂部に毛だけ生えたゾンビみたいになってるはずだしね」

    「普通だったら生きてないだろ」

    僧侶「休憩するなら私は情報収集に行ってくる」

    戦士「ボクも情報収集兼ねたナンパでもしてこようかな、うちの国とちがってお上品な女の子が多そうだったからね。キミはどうするんだい?」

    魔法使い「私もてきとうにブラブラする」

    「みんななにかしらするのか、じゃあみんなで行動しないか? そのほうがなにかと都合よさそうだし」

    75 = 73 :


    戦士「ボクは悪いけど一人で行動させてもらうよ」

    僧侶「私も少しだけ一人になりたい」

    「え? でも……」

    戦士「情報収集なら手分けしてやったほうが効率がいいでしょ?」
       
    僧侶「そういうことだ。私は荷物を置いたらすぐ行く」

    戦士「ボクもね、善は急げと言うし」

    「……お前は?」

    魔法使い「……付き合って」

    「はい?」

    魔法使い「私は酒屋に行く、付き合って」

    77 = 73 :

    また夜に更新します

    78 :

    乙です
    >>72は「ここまで」みたいなのでいいのかな?

    79 :

    ここでやっとスレタイ通りの流れになったなw

    それにしても勇者の肩書が「勇者」になったり「男」になったりコロコロ変わるのにはなにか意味があるんだろうか?

    80 = 73 :

    再開します

    >>78少しだけ休憩しますと打ちましたけどまあ思いっきり寝落ちしましたすみません

    >>79勇者と男が混じってしまうのは単なるミスです
    ホントは勇者で統一したいんですけどスマホからだと二文字だと都合が悪くて

    81 = 73 :


    魔法使い「ここ」

    「ここか? なんか妙に暗いし静かだけど本当にやってるのか?」

    魔法使い「バーだから当然」

    「バー? バーってなんだよ……って勝手に入るなよ」

    魔法使い「すいている、先に注文。会計は私がする」

    「酒なんてほとんど飲んだことないからな」

    魔法使い「ならビールにするといい。麦芽の粉末をアルコール発酵させて醸造したものだから酒に耐性がない人でも飲める」

    「ふーん、じゃあこれでお願いします」

    魔法使い「私はブラックニッカ」

    82 = 73 :


    「えーっとこういう時はカンパイってやるんだっけ?」

    魔法使い「作法としてはグラスとグラスを合わせて音を立てるのは下品。軽くかかげるだけでいい」

    「おう、カンパイ……うげぇ、なんだこの味? こんなのがビールなのか?」

    魔法使い「……」

    「……」


    (なんて言うかコイツが一番無口でなに考えてるかわからないんだよなあ。
      帽子も目深にかぶってて顔も見えないし。だいたいあの女の子から預かった金はほとんどないのにこんなとこで使っていいのか?
      そもそも情報収集ならこんなとこじゃなくてもっと賑やかなとこでやったほうがいいんじゃないのか?
      ていうかすげえ勢いで酒飲んで……席立ったと思ったらまた注文してやがる! ていうか二つグラスもってきたぞ!)

    魔法使い「……」

    「すごい飲むんだな」

    83 :


    魔法使い「……」

    「なあ、情報収集ならもっと活気のある酒屋とかのほうが良かったんじゃないか?」

    魔法使い「……」

    「……聞いてるか? なんかもう三つ目のグラスの中身も飲み干しそうなんだけど」

    魔法使い「………」

    「もしかして少しだけ顔も赤くなってないか? 大丈夫か?」

    魔法使い顔「…………ヒッ」

    「ど、どうした?」

    魔法使い「……あー、だいぶいい感じにアルコールが回ってきたかな。
         あー少しだけカラダが熱いし頭もポーッとするなあ、いやでもいい感じ、あーいい感じ」

    「ま、魔法使い?」

    84 = 83 :



    魔法使い「ごめんごめん……あぁ、カラダがポカポカするなあ……ふふっ、ごめんね、私ってばお酒が入らないと言葉が出てこなくて」

    「え? え? いやいや、いったいどういうことだ?」

    魔法使い「……そうだね、改めて挨拶させてもらおうかな。勇者くん、よろしく」

    「……!」

    (帽子初めてとったから顔見れたけど予想してたのと全然ちがう! てかカワイイ!)

    魔法使い「急になにが起きているのかわからないだろうけど、ようは今の私は普段の私とはちがって酒の力を借りておしゃべりになってるわけ」

    「そ、そうなのか」

    魔法使い「魔法使いっていうのは魔女狩り以降数も減っちゃったしわりと嫌われていたりするからさあ、沈黙は金ってわけじゃないけど。
         魔術の秘密を守るためにあまりおしゃべりは推奨されてないの」

    85 = 83 :

    魔法使い「そういうわけで魔法使いは無口な人間が多い。私も例外に漏れず……けれど無口な人間がおしゃべり嫌いかと言えばそんなことはない。
         私は本来はおしゃべり好きなの……ふふっ、けれど脳みそと肝臓をアルコールで満たさないと言葉が出てこないんだけど」

    「……」

    魔法使い「驚いている、驚いているよね……ふふっ、仕方ないね。ごめんね、本当は普段から明るく行きたいんだけどね。
         普段から色んな言葉が思考の海を狭めてるんだけど全部沈殿してるんだよ。アルコールで脳みそを熱してやってようやくクラゲみたいに必要な言葉がそこに浮いてくる……ふふふふ」

    「まあなんとなくわかったけどなんでこんなとこに来たんだ?」

    魔法使い「決まってる。あなたと話したかったの。そしてきちんと話すにはアルコールが必要でそういうわけでここに来たわけ」

    「じゃあ情報収集は?」

    魔法使い「ふふっ、知らない。そんなのはあの二人に任せればいい。
         今の私の興味はあなたにしかない。あなたと話がしたかったのよ」

    「オレと話したいこと?」

    86 = 83 :


    魔法使い「はるか昔勇者だった存在、記憶喪失の勇者、そんな素敵な対象に興味を持たないわけがない……私はあなたのことを色々と知りたい」

    「記憶喪失のオレのことを知るって……オレが知りたいよ」

    魔法使い「あなたからしたら確かにそうかも。なにせ自身の記憶を喪失してしまってるんだからこればかりは仕方ない。
         でもあなたの記憶喪失も奇妙よね?」

    「奇妙、なにが?」

    魔法使い「ずいぶんとよくできた記憶喪失だなあって」

    「言ってる意味がわからないぞ、なにが言いたい?」

    魔法使い「あなたの記憶は大半を失っている、しかし昔の常識などは覚えている、生きる上での知識はある。そうよね?」

    「そうだと思うが……」

    魔法使い「でも記憶喪失って下手すると口がきけなかったり歩けなくなったり……結構悲惨な記憶喪失ってたくさん事例があるのよ?」

    87 = 83 :


    魔法使い「そう思うとなかなかあなたの記憶喪失は都合がいいわよね」

    「たしかにまあ、そう言われてみるとラッキーかもな」

    魔法使い「勇者的ラッキーよね……ううぅっ」

    「ど、どうした!?」

    魔法使い「あなたと一刻も早く会話したくて……ふふっ、勢いよく酒を飲みすぎたわね。少しだけ気持ち悪い」

    「おいおい大丈夫か? なにか呪文を自分にかけられないのか?」

    魔法使い「ああぁ……そうね、あなたは知らないのね。今は人体に影響を及ぼす魔法はほとんど禁止されてるのよ」

    「人体に影響を及ぼす呪文が禁止!?」

    魔法使い「ええ、はるか昔のある事件がきっかけで私たち魔法使いは魔女狩りにあったわ」

    「魔女狩りって……魔法使いが裁かれたのか?」

    88 = 83 :


    魔法使い「ふふっ……あぁ……うん、異端審問局によってね、たくさんの、魔法使い、殺されちゃったの」

    「異端審問が絡む上に魔法使いが殺されるって……なんで?」

    魔法使い「今から五百年前、いえ、それより五十年ぐらい前かな。
         歴史はあまりわからないけど、とにかくその時代から『マジック?エデュケーション?プログラム』とかいうのが発足されたらしい」

    「それが魔女狩りと関係があるのか?」

    魔法使い「はあ……ああ、ちょっと待って」

    「大丈夫かよ、ほんとに」

    魔法使い「そしてその年から二十年ぐらいあとに人々の記憶が次々消失するという怪事件が相次いで起きた。
         人体に影響を与える魔術とそのエデュケーションプログラムを関連づけて、私たち魔法使いを次々と異端審問局の連中は裁いていったわ」

    「その際に魔術に制限ができたってことか」

    魔法使い「ついでに言えば人体に影響を与えるという理由で魔法使い以外にも僧侶たちも多くの魔術を禁止されたわ。
         ここらへんから僧侶はギルドなどにおいてはその役目を変えて来たわ」

    「じゃあ僧侶が昔と全然やってることがちがうのも……」

    魔法使い「そういうこと、時代の流れにより使える術のほとんどがダメになったから」

    89 :

    状態異常系の魔法は下手な攻撃系魔法よりもえげつないもんなぁ…。
    敵の体を麻痺させた状態でありとあらゆる手段を用いて金銭を要求する酷いサムライもいるらしいしw

    90 = 83 :


    「なるほどな、なんて言うか色々としっくり来たよ」

    魔法使い「……ぷはぁっ、うまい……」

    「飲み過ぎじゃないか? いつの間にまた酒を追加したんだいったい」

    魔法使い「飲めば飲んだ分だけ舌が回り会話が弾むからいいの。
         まあそもそもそんなことになったのもすべては変わり者の女王のせいなんだけれどね」

    「変わり者の女王って言うのは?」

    魔法使い「かつての魔王に誘拐されて結局当時の勇者に助けられたのだけど、城に戻って以降は魔物研究に没頭した人」

    「変わり者のなのか、それ?」

    魔法使い「即位して以降はそのプログラムをはじめ色々な政策をしたと言われてるけど私もそこまで興味ないしよく知らない。
         ただ色々と黒いウワサの絶えない女王だったのは確かみたい」

    「今の時代は王族ですら汚職に手を染めるとは聞いたが本当なんだな」

    魔法使い「汚職、とはちがうかもしれない。結局彼女は国の混乱期に死んだわ」


    91 = 83 :

    今日は短くてすみませんがここまで

    92 :

    乙です
    酔っ払った魔法使いと二人きり……

    93 :



    あの姫様なのかな?

    94 :

    魔法使いかわいい

    95 = 83 :

    再開
    します

    96 = 83 :


    魔法使い「少しだけ休憩させて。ふぅ……まあとにかくそういうわけで私たちの能力はあなたの知っている時代の魔法使いとはだいぶちがうわ」

    「状態異常の魔法が使えない上に回復魔法までダメだなんてな……でもなんで回復魔法までダメなんだ?」

    魔法使い「これについては諸説がいくつかある。回復魔法の使用者への負担を考慮してというの」

    「上級魔法だとかなり術者への反動もヤバイっぽいもんな」

    魔法使い「でもそれ以上に術をかけられる側の負担を考えてのことみたい、ふふっ……これはなかなか面白い説なんだけどね。
         あの手の回復魔法って実際には術者の力量よりもかけられる側の方が重要みたいなの」

    「んー、どういうことだ?」

    魔法使い「回復魔法はかけた人間の自己回復力を無理やり促進しているだけって説があるの……ふふっ、意味がわかる?」

    「えーと、うーん、なんとなくわかるような……」

    97 = 83 :



    魔法使い「人間のカラダは薬草や回復魔法がなくても勝手に傷や病を治す力があるでしょ?」

    「あるな」

    魔法使い「その自然治癒力を無理やり促進して回復させるのが、回復魔法の本来の力なのかもしれないっていう説が最近の研究でわかってきた。
         つまり、無理やりカラダの回復力をあげてるわけだから後々響いてくるって可能性があるの。勇者たち一行の寿命が勇者を含めて短いっていうことも資料からわかってね」

    「回復魔法が……」

    魔法使い「でも考えてみれば当たり前なのかも。昔の賢者は指一本から人間のカラダすべてを作り直したとさえ言われてるわ」

    「なんて言うか月日の流れとともに色んなことがわかってきてるんだな。ていうか、お前は色々と詳しいんだな」

    魔法使い「私は将来的には生物学者になるつもりだから、これぐらいは当たり前」

    「学者? なんか魔法に長けた魔法使いが学者っていうのに違和感あるんだけど」

    98 = 83 :


    魔法使い「あなたの感覚からそうなのかな? でも私たちからしたら今の魔法使いはほとんどがそういう道へと進むものなのよ。
         ふふっ……たしかに私たち魔法使いが物事を論理的に考えて紐解いていく学者っていうのは、少しだけ面白いわね」

    「べつに面白くはないけど」

    魔法使い「私たち魔法使いは今は人体になんらかの形で関わる職業に就くことが多いわ」

    「魔法使いは職業ではないのか?」

    魔法使い「昔は魔法使いは職業扱いされたかもしれないけど、魔女狩り以降はそういう扱いはされないわ」

    「なんでだ? お前はギルドに魔法使いとして登録してあるだろ?」

    魔法使い「それはそうよ。でもそれはそれで今の話とはちがうわ。
         今の私たちみたいな魔法使いっていうのは生き様や国籍みたいなものなのよ」

    「生き様……」

    魔法使い「そう、あるいは人間や魔物やエルフと言った種族ね。魔法使いは職業じゃない、こんなこと覚える必要なんてないけれどね。
         だから今は学者だったり医者だったりその手の仕事に就く魔法使いがほとんどなの」

    「医者になっても魔法で身体の傷を治したりはできないんだよな?」

    99 = 83 :


    魔法使い「ええ、それじゃあ意味がないから。あくまで医者は医者で魔法使いは魔法使い。
         魔法使いってだけでけっこう疎まれたりするしね、現代だと」

    「疎まれる? 魔法使いが?」

    魔法使い「そうね、こういうことよ」

    「グラスを浮かせることがつまり、どういうことなんだ?」

    魔法使い「私たちは普通の人間よりもはるかに手間をかけずになんでもできる。
         だから、魔法使いは人によっては職業泥棒とか畑荒らしなんて言われてね。
         筋骨隆々な屈強な男より私みたいな可憐でほっそりとした魔法使いである私のほうが、重いものを持てるっていうのはその人からしたら面白くないわよね」

    「……自分で可愛らしいとか言うなよ」

    魔法使い「女にとって一番可愛いと思える生き物は自分よ。あの女傑さんだってね」

    100 = 83 :


    「女傑……僧侶のことか?」

    魔法使い「そう、彼女のようなタイプの女でさえ自分が一番可愛いのよ。だって女だもの」

    「女、か……って話がズレてるぞ」

    魔法使い「そうね、なんの話だったかしら? ああ、魔法使いとお仕事の話ね。
         そう、結局魔法はチートってことよ。私たちはこの力で普通の人間より楽して生きられる。普通の人からしたら面白くないし社会的にもよくないわよね」

    「土木作業とかだったら魔法を使えばかなりの早さで終わりそうだな」

    魔法使い「そういうこと、社会の秩序をかつて乱した魔法使いは現代で再び秩序を乱そうとしている。疎まれるのは当然よね」

    「……」

    魔法使い「ふふっ、そんな顔をしないで。私たちを嫌う人間の気持ちもわかるもの」


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