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    元スレ勇者「パーティ組んで冒険とか今はしないのかあ」

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    101 = 83 :


    魔法使い「あぁ……ちょっとまずいかも……き、きもちわるい……」

    「急にどうしたんだよ」

    魔法使い「飲みすぎた、みたい……吐きそう……」

    「は、吐く!? ど、どうすりゃいいんだ!?」

    魔法使い「ちょっとお手洗い……」

    「お、おう」

    五分後

    102 :


    魔法使い「お待たせ」

    「おう、もう大丈夫なのか?」

    魔法使い「……うん」

    「……」

    魔法使い「……」

    「もしかしてもうお酒の効果が抜けたのか?」

    魔法使い「……帰ろう」

    「おう」

    (酒のありとなしじゃあギャップありすぎだろ!)

    103 = 102 :



    隠れ家前


    「情報収集に行ってたあいつらは戻ってきてるかな?」

    魔法使い「……」

    「オレたちは雑談しただけだけどな、なんか申し訳ないな」

    魔法使い「……」

    「……あー、今日は色々ありがとうな、色々知らないことを知ることができた。オレはなにも知らないからさ……」

    魔法使い「ひとつ、質問いい?」

    「なんだよ?」

    魔法使い「……あなたは誰?」

    「は?」

    魔法使い「……今の質問、忘れて」

    104 = 102 :



    戦士「やあおかえりー、勇者くんたち。二人でいったい仲睦まじくなにをしてたのかな?」

    「お前こそなにしてたんだよ?」

    魔法使い「……私は寝る」

    戦士「また明日ねー、おやすみ」

    「……おやすみ」

    魔法使い「おやすみ」

    「で、お前はなにをしてたんだよ?」

    105 = 102 :



    戦士「言ってたじゃん、情報収集に行くって」

    「なんかわかったことはあるのか?」

    戦士「聞いてくれよ! この街の女の子ってすごくカワイイ娘が多いんだよ、いやあ酒屋のお姉ちゃんなんておしゃべり上手だしなかなか楽しめたよ」

    「いや、そういうことじゃなくて……」

    戦士「カワイイ娘はうちの国でもけっこういるんだけどいささか上品って言うかね。
       よく言えばおしとやかだけどさ、楽しく話せる女性の魅力って言うのは美しさに勝ると思うね」

    「……そうじゃなくて。なんかもっとあるだろ?」

    戦士「カワイイ女性が多い、これ以上に有益な情報はあるのかい?」

    「お前なあ」

    戦士「ただ……」

    「なんだよ?」

    106 = 102 :


    戦士「どうも魔王軍の警備が強化されているみたいだね、お姉ちゃんたちに聞いたよ」

    「魔王軍の警備が強化?」

    戦士「空をよーく見てみるとわかるんだけど何体かのワイバーンがいるみたいなんだ、なんのためかはわからないけどね」

    「もしかしてオレたちがここに来たことと関係あるのか?」

    戦士「現時点ではなんとも言えないけど、魔王の宿敵である勇者とその同行の使者が来るんだから警戒は正しいことではあるけどね」

    「オレたちそういえば、オークたちに襲われたけどそっちと関係がある可能性があるよな」

    戦士「どれも考えてもキリがないよ、現時点ではボクたちはこの国のことをよくわかっていないし判断材料があまりに少なすぎる」

    107 = 102 :




    「あとあの女の子のことも気になるよな。ここには来てないんだろ?」

    戦士「うん、そうみたいだね」

    「あの女の子は何者なんだろうな。ただものではないみたいだけど、味方かどうかもわからないからな」

    戦士「ボクのシックスセンスが正しければ彼女は敵であり味方だよ」

    「どっちだよ!?」

    戦士「さあ? 言ってるだろ、判断材料が足りなさすぎるんだよ。今の時点で考えたところでなにもわかりゃしないよ。
       ああでもね、街をうろちょろして思ったことなんだけどね」

    「なんだよ、また女の子がカワイイとかそういうのはいいぞ」

    戦士「まあそれもあるしそれが一番ボクには重要だけど。この街の人間はみんななかなか幸せそうだよ。
       それになによりボクが驚いたのは……」

    108 = 102 :



    戦士「魔物と人間がごく普通に一緒に飲んでたことだよ」

    「魔物と人間が仲良く酒を飲んでったて……マジか。街の酒場で飲んでたのか?」

    戦士「うん、びっくりだよね。ていうかボクも様子見がてらそばの席に寄ったらゴブリンのおじさんと飲み比べするハメになっちゃったよ」

    「なにやってんだよ、目立ったんじゃないのかそれ?」

    戦士「ちょっとしたイカサマをして勝っちゃったからねえ、拍手喝采を浴びちゃったよ」

    「おいおい」

    戦士「さあ勇者くん、ここでボクからの質問なんだけどさあ」

    「なんかさっきも魔法使いからも質問されたんだけどな、なんだよ?」

    戦士「キミは勇者でありかつては魔王を滅ぼした。
       いや、勇者でありながら記憶喪失のキミにこんな質問をするのはおかしいかもしれないんだけどさ」

    「まわりくどいぞ、なんだ?」

    戦士「ははは、ごめんね、時折回りくどくなるのはボクの悪いくせだ。話を戻そう、そしてボクはこの街をなかなかいい街だと評している。
       さて、そんなステキな街を、人間と魔物を共存させる夢のような街を創り上げた魔王をキミは倒すのかい? 勇者として、勇者の使命に則って」

    109 = 102 :


    「え? いや……」

    戦士「冗談だ、今のキミにはこの質問への解答を求めちゃいない。だいたい記憶喪失のキミが勇者なのかっと言ったらちょっとビミョーじゃないかい?」

    「オレは……」

    戦士「まあまた明日時間があったら話そうよ。さすがに今日は飲みすぎた、それに疲れた」

    「……僧侶のやつは? あいつもお前と同じで情報収集へ行ったんだろ?」

    戦士「彼女なら一番乗りで帰って来たよ。それにもう寝てる、僧侶だから朝が早い代わりに夜も早く寝るのだろうね」

    「そうか」

    戦士「ボクも明日に備えて寝るよ、おやすみ」

    「おやすみ……」

    110 = 102 :



    勇者の部屋にて


    (参ったな……目が冴えちまってベッドについてから二時間以上たってんのにまだ眠れない)

    (魔法使いと戦士に言われたことが引っかかってんのかな、よくわかんないけどモヤモヤする)


    魔法使い『あなたは誰?』

    戦士『魔王を倒すのかい? 勇者として、勇者の使命に則って』


    (そもそもオレは何者なんだ? お前は勇者だと王に言われて他の連中もそういう扱いをしてきたがオレの記憶はあまりにあやふやだ)

    (いや、まったくないわけじゃない。だがそれらの記憶に自信と実感を持てない。まるで他人から見聞きしただけのような、あるいは物語を読んだような不確実な感覚)

    (仮にオレが勇者としてオレはどうすればいい? 王の言うとおりにしていればいいのか? 魔王はどうすればいい?)

    (オレはなんなんだ?)

    111 = 102 :



    次の日、早朝


    「結局ほとんど眠れなかったな……なんか空も明るくなってきたし軽く外の空気でも吸うかな」


    ………………


    「お前、もう起きてたのか?」

    僧侶「勇者か、お前こそずいぶんと早いな。昨日は眠れたのか……って聞くまでもないな、その顔を見れば」

    「ちょっとな。この国に来て感情が高ぶってんのかなあ? なかなか寝れなくてな、そんでもう寝るのはやめたわけだ。
      お前はこんな朝早くからなにやってんだよ?」

    僧侶「食事の準備をすまして祈祷を終えたところだ、私も一応は神に仕える人間だしなにより習慣で朝は早い段階で目が覚めてしまう」

    「そういやお前、僧侶なんだよな」

    僧侶「なにを今さら」

    「昨日の戦闘を見てすっかり忘れてたよ」

    112 = 102 :


    僧侶「どういう意味だ?」

    「深い意味はないよ、ただ昨日はお前のおかげで助かったからさ。そういえば礼をまだ言ってなかったな」

    僧侶「気にしなくていい、お前はまだ戦闘の記憶を取り戻してないんだろ?」

    「まあ、そんなところなんだろうな。
      あ、じゃあこういうのはどうだ? オレとお前で手合わせをすればオレもお前も鍛えられて一石二鳥じゃないか?」

    僧侶「程よくなら付き合わないこともないが」

    「ありがとな、助かる。いやあ、お前の昨日の拳を地面に叩きつける技すごかったな、アレ教えてくれよ」

    僧侶「べつにいいけど……」

    「サンキュー、オレもみんなの足を引っ張るわけにはいかないからな、がんばるぜ。お前に稽古つけてもらえればすぐに強くなれそうだ」

    113 = 102 :



    僧侶「むやみやたらに持ち上げるのはやめてくれ。私はそういうのが苦手なんだ」

    「なんでだよ? 素直にオレはすごいと思ってるんだ。
      厳しい修行を積んで精神的にも肉体的にも強くなって昨日みたいな闘いができるんだろ? やっぱり学校で鍛えるのか?」

    僧侶「……私は尼僧学校には通ってないんだ」

    「じゃあどうやって僧侶になったんだ?」

    僧侶「…………今より五、六年ぐらい前に父に教会に入れられて僧侶見習いになったんだ」

    「そんなこともあるのか。でもそれって珍しいのか?」

    僧侶「わからないが珍しいことでもないんじゃないか? 実際孤児なんかは教会に預けられてそのまま僧侶になってる者もいるし」

    「ふーん、色々とパターンがあるな。でもなんで僧侶になったんだ? 学校にも行ってなかったならお前の実力ならギルドとかでも余裕でやっていけそうなのに」

    114 = 102 :





    僧侶「……当時の私は優柔不断を極めたような人間だったからな。昔の私が今の私を見たら驚愕するかもな」

    「なんか意外だなあ。お前のことはよく知らないけど堅物そうだし根っからの僧侶気質かと思ってた」

    僧侶「もし最初から私が僧侶の道を志していたならここまでの戦闘力はもたなかっただろうな」

    「それってどういうこと?」

    僧侶「……」

    「なんで黙るんだよ、教えてくれよ」

    僧侶「あぁ神よ、なぜこのような恥を晒すような真似を……」

    「急に僧侶っぽいこと言うなよ」

    僧侶「うるさい」

    115 = 102 :


    僧侶「昔の私は勇者のような、強い存在になりたかったんだ。いや、と言うより単純に勇者になりたかった」

    「本気で言ってるのか?」

    僧侶「私は冗談は苦手だ。だいたい尼僧学校でだってここまでの戦闘スタイルを築き上げるような修行はしない、もちろん教会でもだ」

    「ていうか教会で見習いやってたって言うならなおさら肉体に関してはなにもしてないよな?」

    僧侶「そういうことだ、だから今の戦闘能力は教会に入る以前に身につけたものだ」

    「勇者にあこがれてか? でもなんでまた勇者に?」

    僧侶「あるおとぎ話の本が昔から家にあって、それを読んでハマったんだ」

    「へえ、どんな話なんだ?」

    僧侶「簡単に言うと、この世界は実は勇者と魔王のためだけに存在しているっていうおとぎ話だ」

    116 = 102 :

    今日はここまで

    実は自分、ドラクエとかやったことなくて魔物の種類とかなにがあるか全然わかってないんでよろしかったら参考になるサイトとか教えてもらっていいですか?

    ではまた

    117 :

    乙乙
    ドラクエ3の攻略サイト回ってはどうだろうか?
    まおゆう系の基礎ってあっこら辺だし。

    118 :

    モンスター ファンタジー 種類でググったらそれっぽいのがでたよー

    119 :


    逆に知識がないなら「こんな魔物を出したい」てのを考えて
    それのイメージから適当に名前を付けるのもアリと思うよ

    120 :

    ファンタジーもののモンスターの源流はだいたい指輪物語らしいな
    読めとは言わんが時間があったら映画でも参考にしてみたらどうかな

    121 :



    僧侶とか魔法使いのキャラが分ったり世界設定とかも明らかになってきたな

    122 :

    再開します

    質問に対してレスくれた人ありがとうございます
    是非参考にさせてもらいます

    123 = 122 :


    「この世界が勇者と魔王のために存在しているってそんなわけないだろ」

    僧侶「もちろんおとぎ話の中の話にすぎない。ただ今みたいに国争い……人類どうしの戦争とかなんてものがなかった昔は魔王というのは人類共通の敵であったからな」

    「今だって魔王は人間にとっての敵だろ?」

    僧侶「もちろんそうだが、今の時代は我が国でも国家間の争いや関係のほうにばかり傾注しているからな」

    「人間の敵は人間ってわけか……話が逸れたな、勇者に憧れてそれでなんだったけ?」

    僧侶「逸れたのではなく逸らしたんだけどな……。
       まあ見ての通り結局私はこうして僧侶をやっている」

    「諦めたってことか?」

    僧侶「そんな大仰な言い方をするまでもない。挫折したとかじゃなくてなんとなくやめただけ」

    124 = 122 :


    「なんとなくってなんだよ」

    僧侶「なんとなくはなんとなくだ。気づいたらそういう夢をもたなくなった。
       そういえば勇者一行の誰かが書いた自叙伝かな、そういうのを読んでそれでやめようと思ったのかもしれない」

    「自叙伝? 冒険の書とかそういうのか?」

    僧侶「おそらく。あまりに想像とかけ離れていたからな。
       私はもっと和気藹々としたものを想像していた。パーティを組んで時々衝突とかもするけど仲良く、そして苦難の道ではあるが最後は魔王を倒して誰一人死なずに円満に終わる。
       そんな風におとぎ話のような旅を想像していたがやはり現実はそんなに甘くないみたいだ」

    「まあ、おそらくそうなんだろうな」

    僧侶「いつか記憶をお前が取り戻したならその冒険譚も聞いて見たいけど……いや、やっぱりいいか」

    「……パーティ組んで冒険とか今はしないんだよな?」

    僧侶「今そんなことをやっても無意味だからな。いくら選りすぐりのパーティでも数人しかいないんじゃ、ものの数で強引に押し切られるだろうな」

    「そもそも今は魔物が国の中にいるんだから、まず国内へ侵入するっていう課題があるんだもんなあ」

    僧侶「昔は意外と魔王の城の付近に街があったりしたらしい。なぜか魔物側からもなにもされなかったらしいけどな」

    125 = 122 :



    「なんて言うかお互いにアホだな」

    僧侶「まあ少なくとも人間側にはなにか事情があったのだろう」

    「どうだかな。ていうか結局勇者とか諦めたのはなんとなくなのかよ」

    僧侶「そうだ、なんとなくだ。それに今だからこそ思うけど私は団体行動には性格的に向いていないからな。少なくともパーティを組んで冒険なんて無理だ」

    「団体行動が無理って、教会の僧侶ってたしかかなり団体行動をしいられている気がするんだが」

    僧侶「そのとおりだ。朝は起きれば朝食や礼拝やら会議やらで常に誰かといるからな。部屋は狭い上に四人で共有して使う。
       女だらけの教会は意外と人間関係も面倒だしな。毎日が共同生活だから人間関係は濃いし、なにより気を遣わなければならない」

    「なんか聞いてるだけで疲れるな」

    僧侶「二年前に使徒職の関係でその教会から出て、今は人里離れた山の教会に仕えているからだいぶマシになったけどな」

    「へえ、そう言えば山にも教会って稀にあるもんな。でも山なんかでなにやってんだよ?」

    126 = 122 :


    僧侶「基本的には信徒に勉強を教えたりとか掃除とかだが、場所が場所だけに来る人間の数も少ない。
       私みたいなゴリゴリの戦闘タイプは森で人の管理が行き届いていない魔物の退治とか、時々相談事でやってくる信徒の案内なんかをしている」

    「なんか絵が想像できるな」

    僧侶「ここ数年は勇者が現れなくなったことにより教会の権威はさらに落ちていて、うちみたいな辺境の教会に来る人間も減ってるからな。
       それで使徒職の一環としてギルドに登録して働くことしたんだ。おかげでけっこう金は入って最近は欲しい本を手に入れられる割合が増えた」

    「そういやお前って魔界好きらしいけど、そういうのも本で調べたりしてるのか?」

    僧侶「魔界好き? ああ、あの軽薄そうな男が言っていたことか。べつに私は魔界好きなんかじゃない」

    「あれ、でも……」

    僧侶「たしかに一時期魔界に関する書物を読み漁っていたが、それは魔物の起源を知ってより効率よく魔物を倒すためという目的が一つ。
       それと書物によってあまりに魔界に関する記述がちがいすぎてどれが正しいのか妙に気になったのも一理由の一つ。
       あとは……まあ色々あるが魔界好きというより魔物好きのほうがまだしっくりくるな」

    「なんかお前、いろいろ変わってるな」

    僧侶「そうか? まあたしかにそんなことは時々言われるから否定はできないな」

    127 = 122 :




    「て言うか意外とお前っておしゃべりなんだな。てっきり相手してもらえないかと思った」

    僧侶「いや、意外と話すのは嫌いじゃない。信徒への説法とか同僚と仕事で話したりするのは好きじゃないが。
       こういう雑談は好きだ、普段と違って素の口調で話せるしな」

    「なるほどな」

    僧侶「それに短い期間とは言え、私たちはパーティだ。こういう余った時間を交流に充てることはわるくない」

    「そうだな、オレたちはパーティだ。よろしく頼む」

    僧侶「ああ、こちらこそ……ってなんだその手は?」

    「なに言ってんだよ、握手に決まってるだろ」

    僧侶「そうだな……えっとよろしく頼む」

    「おう」

    128 = 122 :


    僧侶「……」

    「……なんだよ、オレの顔変か?」

    僧侶「いや、そう言えば目の前の男はかつては勇者なんだな、と思ってな」

    「まあ今はただの記憶喪失野郎だけどな」

    僧侶「……国で魔界に関する資料や文献を漁っていたという話、さっきしたな」

    「うん? ああ、したけど」

    僧侶「私は昨日は結局この街の図書館に行って幾つかの資料を読んだ。うちの国の書物とは書いてあることが全然ちがった。
       うちのはおそらく十中八九嘘の内容が意図的に書かれている」

    「……それで?」

    僧侶「私はこの国の人間が不幸だとは思えない。そこでだ、勇者。私からの一つ気になることがあるがいいか?」

    「質問、ってことか。最近よくされるなあ……なんだよ?」

    僧侶「お前は記憶を失っているとは言え勇者だ。その勇者の使命は昔だったら魔王を倒すことだったろ。
       今のお前は勇者としてなにをどうしたらいいと思う?」

    129 = 122 :


    「……」

    (オレの使命……それはなんなんだろ? そういえば戦士のヤツにも似たような質問されたな。いや、そもそも……)

    「なんでオレは復活させられたんだ?」

    僧侶「なんだ、藪から棒に」

    「ああ、悪い。ふと気になったんだよ。
      どうして過去に自分を封印したオレを復活させる必要があったのかなって」

    僧侶「それは次の勇者が現れないから……」

    「じゃあどうして次の勇者は現れないんだ?
      これは王から聞いた話だけど、魔王はかれこれ四百年以上もの間生きているんだろ。うん、あれ? 
      魔王を倒したから勇者なのか? 勇者だから魔王を倒すのか……どっちかわかんないぞ」

    僧侶「それについては説がいくつかあるがだいたいは、はじめから世界に生まれた時点で勇者は決まってるという説だな。
       神から予言されてる、みたいな話は聞いたことがある」

    「神からの予言? なんだそりゃ」

    僧侶「私にも詳しいことはわからない、と言うよりこれはどちらかと言うと宗教学的な話で理解できない」

    「お前僧侶じゃん!」

    130 = 122 :



    僧侶「その手の学問は色々と難しいんだ。まあ勇者の生態系的なものは、魔法使いや賢者の学者たちも研究しているからひょっとしたら彼女はなにか知ってるかも」

    「魔法使いか……そう言えばあいつはなにか知ってそうな口ぶりだったな」

    僧侶「ただ、これは個人的な私の意見だが勇者はやはり世界、あるいは運命によって生まれながらにして決められているんだと思う」

    「なにか根拠はあるのか?」

    僧侶「ある著名な歴史家の勇者と魔王の年代記を読んだことがあるんだ。その記録には勇者と魔王の争いの記録が記されている。
       その記録が正しければ勇者と魔王は両者が存在する限り間違いなく争っている」

    「なるほど。でもそれってある意味当たり前じゃないか。自分たちにとっての脅威がいるんだから闘いには行くだろ、たとえ勇者じゃなくても」

    僧侶「いや、もう一つ興味深い記録がある。
       ほとんどの闘いにおいて人類は勝利している、勇者は魔王に勝っているということだ。だが、その一方で魔王を倒したあとの勇者はほとんど例外なく十数年の間に亡くなっている」

    「……」

    僧侶「そしてたとえ勇者が死んでこの世からいなくなったとしても、魔王が復活することでまた新たな勇者が国を出てパーティを組んで魔王を倒しに行っている」

    131 = 122 :



    「つまり、やっぱり勇者ははじめから世界だか運命だか知らないが、とにかく決まってるってことか」

    僧侶「おそらく」

    「じゃあやっぱり次の勇者が現れないのはおかしいよな?」

    僧侶「……そうなるな。だがこれで一つはっきりしたことがある。
       新たな勇者が誕生しないゆえに死なずに封印されていたお前が復活させられた」

    「まあ、そういうことだよな。で、なんで新しい勇者は出てこないんだ?」

    僧侶「私に聞かれてもわかるわけがないだろ。むしろ勇者であるお前が知ってることじゃないのかそれは」

    「残念ながらオレは記憶喪失だ。記憶があってもわからないような気がするけど」

    僧侶「まあこれ以上は考えても仕方ないんじゃないか」

    「それもそーだな。よしっ!
      そうとわかりゃ組み手やろうぜ、勝負だ!」

    僧侶「こんな早朝からか?」

    132 = 122 :



    「身体を動かすのは気持ちがいい朝に限ると思うんだけどな」

    僧侶「……まっ、軽く手合わせならしてやる」

    「んじゃ、簡単な準備運動をしたら始めようぜ」

    僧侶「望むところだ」


    ………………………………………………………………


    僧侶「……大丈夫か?」

    「あ、イテテテ……あうぅ、普通に完敗だったな。我ながらあまりに情けない」

    僧侶「仕方がないんじゃないか? 記憶がないんじゃ闘いの仕方だって忘れてるってことだろ?」

    「そうなんだけどさ」

    僧侶「それにお前は私に合わせて拳で闘ったからな。得物があればまたちがったかもしれない」

    戦士「やあやあ、朝から暑苦しくなにかしていると思ったらなんだい、手合わせかい?」

    133 = 122 :



    「……お前か、おはよう」

    戦士「派手な物音がするから目が覚めちゃったよ。朝から元気がいいね、二人とも」

    「少しでも訓練とかしておかないと、と思ってさ。このままじゃオレはみんなの足を引っ張ることしかできないからな」

    戦士「へえ、なかなか気丈だね。そうだね、今のままだと足手まといにしかならなそーだからね。なんならボクが手取り足取り教えてあげようか」

    「そういやお前が闘ってるところはまだ見てないな」

    戦士「そうだっけ? まあどーでもいいや、いいよ、魔法使いちゃんが起きるまでの間稽古付けてあげよう」

    「ずいぶんと上から目線だな、いいぞ。望むところだ」

    戦士「本気で来ていいよ、ボクは強いからね」

    …………………………………………………………………

    134 = 122 :


    「ハァハァ……本当に、つよ、いんだな……」

    戦士「おやおや、ずいぶんと奇妙なことを言うねえ。ボクはこれでもこの若さで幾つかのギルドを任されてるんだよ。
       弱肉強食の世界なんだから強く、そして賢く戦わなきゃ上にはのし上がれないんだ」

    「くそっ……」

    僧侶(この男……軽薄そうな外見とは裏腹に実に堅実な闘い方をしている。
       基本的には素早く出せる低下力の魔法で攻撃しつつ、相手に近づかれたら剣術で素早く相手をいなして距離をとる。
       基本的なヒットアンドアウェイ戦法だが、ここまで洗練されているのは初めて見る)

    戦士「まあキミも頑張ったんじゃない? 勇者くん、でもまだまだダメだよ、それじゃあまるでダメだ」

    「……くそっ」

    戦士「また機会があったら相手してあげるよ」

    「……次は見てろ、次は勝てなくてもいい勝負ぐらいはしてやる」

    戦士「期待しているよ、せいぜいガンバってね」

    135 = 122 :



    …………………………………………………………


    「打ち所が悪かったせいか歩くだけで足が痛いな」

    僧侶「薬草軟膏を塗ったから多少はよくなるだろうが……ひどくなるようだったら言ってくれ」

    戦士「うーん、情けないねー勇者くんは。そんなんで大丈夫なのかい?」

    「うるさい」


    (魔法使いが起きたあと僧侶が作った朝食を食べて、休憩を挟んだあと、オレたち四人は街へ繰り出した。
      目的は今回の隠れ家を貸してくれた女の子を探すためと、魔王と連絡をとるための手段を模索するため。提案者は戦士だ)


    戦士「さてさて彼女が働いている喫茶店にでも行けばおそらくバイトしてるんじゃないかなあ、と思うんだけど……って、勇者くんはちょっとキョロキョロしすぎじゃない?」

    「いや、だって本当に魔物が普通に街を歩いてんだもん」

    魔法使い「ここではそれが普通。慣れて」

    「うん、まあわかっちゃいるんだけどな、とっ、案外早くついたな」

    136 = 122 :



    「いらっしゃいませーってお兄さんたちじゃん? なに、どうしたの?
       まさかまたここのコーヒー飲みにきたのかな、まあ安いしそこそこコクがあってうまいから評判いいからね」

    戦士「たしかになかなかその水だしコーヒーはうまかったけど今回はキミ自身に用があってね」

    「私? えー今バイト中だから手がはなせないんだよねー」

    僧侶「どれぐらいで仕事は終わるんだ?」

    「あと三時間ぐらいかな、あっ、おじさんいらっしゃーい」

     「おう、今日もいつもの頼む……ん?」

    戦士「あっ……昨日のゴブリンの……」

    ゴブリン「おい、お前!」

    「なんだ、お前の知り合いなのか?」

    137 = 122 :


    戦士「いや、知り合いというのとはちょっとちがうかな」

    ゴブリン「そうだな、オレたちゃソウルメイトだからな! なあ!?」

    戦士「えーっと、あれ? ソウルメイト、あーうん、そーだったけなあ」

    僧侶「なんだソウルメイトって?」

    ゴブリン「おいおい、この俺に飲み勝負で勝つツワモノのくせに、もっと堂々としろよ! あぁ!?」

    戦士「イタイイタイっ、背中叩くのやめてくれよ~」

    「……なんか仲よさそうだな」

    ゴブリン「おい、若いの。コイツらはお前の連れかなんかか?」

    戦士「まあそんなところかな。しかしなんでこんなとこにおじさんはいるんだい?」

    ゴブリン「ここのブラックを朝は絶対飲むようにしてんだよ、俺は朝が苦手だからな。
         それにモーニングだとトースト三枚とスクランブルエッグとデザートがタダで食えるからな」

    「おっちゃんはうちの店の常連だからのサービスであって、キミたちの場合はトーストは一枚しかついてこないよー?」

    138 = 122 :



    僧侶「そんなことはどうでもいい。だいたい私たちはここで朝食をとるつもりはない」

    戦士「目的はキミ自身だからね」

    「えーなんか、目的はキミ自身ってエッチな響きー」

    僧侶「おい」

    「やだーお姉さんってばだから顔が怖いってー。お兄さんたちの言いたいことはだいたいわかるからー
       とりあえずこの街のどこかで時間潰しておいてよ」

    「そうだな、じゃあまた時間になったらここに戻ってくるか」

    ゴブリン「おい、若いの。また今日時間があるなら酒屋に顔出しな。もう一度勝負だ、勝負!」

    戦士「え? あー、うん気が向いてなおかつ時間があったらね?」

    ゴブリン「待ってからな、這ってでもこい!」

    戦士「あ、あははははは……」

    「えらく絡まれてんな」

    戦士「勘弁して欲しいよ……」

    139 = 122 :



    ………………

    僧侶「そういうわけで時間を潰すハメになったが、しかし、どうする? 情報収集とかも今の状態で下手なことはできないしな」

    戦士「迂闊なことを言うと一発でボクらが外部の人間だってわかるからね」

    「……ほえー」

    僧侶「どうした、さっきからキョロキョロとしてばかりで口も開きっぱなしだし」

    「いやあ色んな魔物が街を歩いてるんだなあと、思ってさ」

    僧侶「あれはオーガだな、どうもこの人間地区、ミレットには屈強な魔物が多くいるんだな」

    戦士「と言うよりここにいる魔物はそういう系統が多いみたいだね」

    「でもここって人間の管理する街っていうか、自治区なんだろ? なんで魔物たちがいるんだろ?」

    戦士「ささいな問題じゃないのかい?」

    僧侶「昨日、私がこちらの文献で調べて得た情報によるとこの街は間違いなく人間地区と呼ばれる人間の自治区だ」

    140 = 122 :




    「じゃあなんで魔物が?」

    僧侶「人間が管理しているから人間地区なんて呼ばれてるだけで、この街の創設にはゴブリンやオーク、他にもデーモンなんかの魔物が関わったらしい」

    「たしかに力作業は人間より魔物がやったほうが効率いいもんな」

    僧侶「そういう歴史があるからこちらの人間は自治区であったとしても魔物たちを受け入れるみたいだ。
       そういう文化や風習がもはや完璧にできているんだろうな、完璧とまではいかないがなかなかいい関係を築けているみたいだ」

    「なんかなあ」

    戦士「勇者くん、キミの思うことはだいたいわかるけどなんでもかんでも自分の物差しで考えるのはよくないんじゃない?」

    「そうだな、そのとおりなんだけどそれでもなんだかモヤモヤした感じは残っちまうな。
      あ、でもこっちの人間地区の方に魔物がいるなら、逆に帝都の方には人間いるのか?」

    僧侶「それについてだが、いるみたいだな」

    141 = 122 :


    僧侶「ただこちらの人間地区とは違ってあちらに行ける人間は限られているようだ」

    「どんなヤツがあっちに行けるんだ?」

    僧侶「制度の名前は忘れてしまったんだが、魔界には人材補給制度及び人材育成制度がきちんと整えられているみたいだな」

    「どういうことだ?」

    戦士「勇者くんバカだからわかりやすく説明してあげて」

    「……おう、頼む」

    僧侶「簡単に言えばこちらの人間地区で暮らせない人間を自分たちの奴隷、というか遣いというか、とにかく幾つかの基準に則って帝都の貴族たちが人間の子どもを引き取るらしい。
       そうして選ばれた子どもは奴隷として主人に仕えるそうだ」

    「なんだよ、それ! 人間側には選択権はないのかよ?」

    僧侶「私が調べた範囲では任意で、なんてことはないみたいだ」

    「それって子どもと親は引き裂かれて、しかも下手したら一生会えないかもしれない上に奴隷にされてしまうってことだろ?
      そんなのいいわけないよな!?」

    戦士「うーん、どーだろうね」

    142 = 122 :



    「なにがどーだろうね、だよ!? 許せるのかよ、そんな理不尽なこと」

    戦士「落ち着いてほしいな、勇者くん。たしかにキミの意見はごもっともだよ、でもこれは考えようによっては素晴らしい制度とも言えるんじゃないかな?」

    「……どういうことだよ」

    僧侶「つまり人間地区にすら住めない人間っていうのはそれだけ貧しいってことだ。この国に住む以上は国民のすべてが人頭税を払わなければならない」

    「だからなんだよ」

    僧侶「それすらも払えない貧しい家庭の子どもはさぞひもじい思いをしているんだろうな。
       だがこの制度によって少なくとも選ばれた子どもは、奴隷という立場ではあっても貴族の遣いだ、今までと比較にならない良い生活が約束されるだろうな」

    「……」

    僧侶「それにこの制度にはまだ続きがある。選ばれた子どもは基調な人材として大事に育てられる。
       やがてはその奴隷たちから軍を束ねる地位になれる可能性や騎士として勇猛果敢に戦うチャンスが生まれる」

    戦士「一見勝手に奴隷にされちゃう上に家族とも引き裂かれてしまうヒドイ制度かもね。でもね……」

    僧侶「見方を変えればその魔物貴族の奴隷になる代わりに立身出世のチャンスをつかむことのできる制度なわけだ。
       実際この国には魔物の軍を束ねる人間も多くはないけど存在しているみたいだ」

    143 = 122 :




    「…………そうか」

    僧侶「こういうことを言われるのはイヤかもしれない。でもお前の気持ちは私にも多少はわかる。一番始めに知った時は私とお前と同じような憤りを感じた」

    戦士「でも物事は一つの面から見るのでなく、色んな方面から見るものだ。そしてそうすることで新しいことが見えてくる、今回みたいにね」

    「……その、さ」

    戦士「なんだい、勇者くん?」

    「オレみたいな頭の悪いヤツにもわかるように教えてくれてありがとな……あっ、言っておくけど嫌味とかじゃないからな」

    戦士「知ってるよ、キミがそんな嫌味なんてものを思いつく脳みそを持ってるわけがないからね」

    「なんだとぉ!?」

    魔法使い「待って、あれは……」

    「ん? どうしたんだ魔法使い?」

    144 = 122 :


    戦士「あの建物の影に隠れるんだ!」

    「お、おうっ!」


    …………………………


    僧侶「少人数とは言えなぜこんなところに騎士の部隊が……しかも、あの先頭で先導している騎士は……」

    戦士「これは驚いたね、人間が指揮しているのもそうだけどその人が乗っているのはペガサスだね」

    「ペガサス……初めて見るタイプの魔物だ」

    戦士「ここ数十年の間で見かけられるようになった魔物だからね、キミが知らないのは当然だ」

    僧侶「あとは人型サイズの魔物と一番後ろにいるのはトロールか」

    「て言うかわざわざ隠れる必要はなかったんじゃないか?」

    戦士「いや、こんなとこにおこらくは帝都から来たであろう騎士が率いる隊がいるんだ。もしかしたらボクらを探しているのかもしれない」

    145 = 122 :


    僧侶「どうする……?」

    戦士「このまま抜けられるなら路地裏から抜けようかと思ったけど無理みたいだしね」

    「魔法使い、お前近距離系の空間転移魔法とか使えないか?」

    魔法使い「……」

    「魔法使い?」

    魔法使い「空」

    「そら? 空っていったい……ってワイバーン?」

    戦士「建物の間にいるせいでそんなには見えないけどそれでも今、ボクらの上を三体はワイバーンが過ぎてったね」

    僧侶「まさか本当に私たちを探して?」

    「おいおい、どうすりゃいいんだ」

    「お兄さんたちー」

    「ぬおあ!? お前っ、どうしてここに!? ていうかどうやって壁しかない背後から現れた!?」

    146 = 122 :



    「あーんもうっ! 質問多すぎるよ! とりあえずこっちこっち」

    戦士「なるほどね、この店の勝手口から出て来たんだね」

    僧侶「それっていいのか?」

    「はいはい、細かいことはあとにしてとりあえずこの場は退散するよ」


    ………………………………


    店内


    戦士「とりあえずはキミのおかげで助かったよ」

    「ホントに感謝してよねー。バイト抜けて来ちゃったし、まあ実際にはキミらが思ってるよりも全然深刻な状況じゃなかったけどね」

    「そうなのか?」

    「今、騎士さんたちやワイバーンが空を徘徊しているのにはべつの理由があるんだよ」

    「なにか起こってるのか?」

    147 = 122 :



    「かなり深刻なことがね、起きてるんだよ」

    「もったいぶらずに教えろよ」

    「私の手に入れた情報が正しければね、失踪したんだよ」

    僧侶「まさか……」

    「魔王様が失踪して今、上はてんやわんやなんだよ」

    「魔王が失踪って……それって本当なのか?」

    戦士「昨日、酒屋のお姉ちゃんが街の警備が強くなったって言ってたけど、あれはボクらを探すためじゃなくて魔王を探すためだったってことか……」

    「さらにもう一つね、ここに来て国にとって困るかもしれないことが起きているみたい」

    「……なんだよ?」

    「五日前に来たんだって。


       勇者たち一同と思われるパーティがね」

    148 = 122 :

    今日は
    ここまで

    149 :

    乙です
    どんどん面白くなってきましたね
    超続きが気になります!!


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