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元スレさやか「全てを守れるほど強くなりたい」
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† 8月15日
夕陽を背にした煤子の影が、真っ直ぐ杏子へ伸びる。
影の中の杏子は竹刀よりも遥かに長い棒を握り、煤子に立ち向かっているように見えた。
煤子の手の中に納まっているものは、ほんの三十センチ程度の枝切れ。
杏子「はぁ……はぁ……!」
煤子「火と活力の象徴……棒はどこにでもある一般的な生活の道具、けれどそれは武器にもなるわ……棒の武器って何だと思う?」
杏子「棒の、武器……?」
煤子「棒が武器になる理由よ……棒の強み、それが棒の武器」
杏子「……長い」
煤子「そう、長さよ」
右手に持った小枝を掲げる。
掲げられた小枝の影はグンと伸びて、地面の上に一本の木を作った。
煤子「長い……それだけがシンプルな一本の物体に、武器としての力を与えたの」
杏子「……けど!」
煤子「けど?」
杏子「……まだ、全然……一回も、あなたに当てることができていないです」
少女の言うとおりだった。
まだ始まって十分の“実践”の開始だったが、杏子の1mの棒は未だ、煤子の小枝に払われてばかりなのだ。
煤子「棒はどこにでもある道具、そして貴女はそれを持って強くなる」
煤子「もちろん何も持たずに強くあるべきとは思うけれどね」
煤子「目を凝らせばどこにでもある棒、長い物……それには刃物はついてないし、鉄製でもない」
煤子「けれど使いこなすことが出来れば、長い刃物や鉄製の警棒よりも、遥かに頼れる道具になるわ」
そう言って、煤子は手に持った小枝を足元に放り捨てて、傍らに控えさせておいた木の棒へと取り替える。
杏子が持つそれと同じ太さではあるが、2m程の長い棒だった。
煤子「まず棒というものは、長い」
杏子「っ!」
棒の端を握り、それを自然体で掲げ、振り下ろしただけだった。
が、それだけの動作で既に、煤子の棒先は、杏子が構えていた棒の先をコツンと叩いた。
煤子「相手よりも先に届く、それだけで長さは利点になるわ」
杏子「……」
煤子「そして相手より長ければ、相手の攻撃は届かない」
杏子「!」
棒をこちらに向けた煤子が、ゆっくりを歩み寄ってくる。
ぼんやりしている間にも、相手の先端は杏子の腹を優しく小突いた。
杏子の持つ短めの棒は、どう足掻いても煤子には届かず、空を切るばかりである。
しかし振り回しているうちに、偶然ではあるが煤子の棒を叩いて、地面へと叩き落した。
杏子「あ……」
煤子「これが弱点、長いから振りは遅いし横は当てられやすい、かわされやすい」
杏子「……だから私のは、何度も」
煤子「相手が避けられないような棒の使い方を教えてあげるわね」
杏子「……!はい」
† それは8月15日の出来事だった
:じゃあそろそろ出るから、いつもの所でね
:うん!また後で!
というようなメールをいくつか交わして、携帯を仕舞い込む。
昨日の魔女との戦いのこともあって、そんな私を気遣ってか、まどかは朝から体調を気遣ってくれたのだ。
「あら、鹿目ちゃん?」
さやか「うん、あ、やっぱり塩取って」
「はい」
朝ごはんの蒸かし芋に一つまみの塩をかけて、半分齧る。
朝の忙しい時間にバターを付ける動作がもどかしくなったのだ。
本当はバターの方がいいんだけどね。滑るからね。
「最近部活の道具持っていかないじゃない、どうするの?」
さやか「部活は……やらないことにしたの、どうにも合わないわ」
「確かに揉めたりしたけど、勉強の方だって大丈夫なんだからまた戻っても……」
さやか「女子中学生は忙しいのー」
最後の一口を塩味無しで詰め込んで、鞄を肩に掛ける。
さやか「ほいじゃ、いってきまーす!」
「うん、いってらっしゃーい、車に気をつけてね~」
マミさんは自分の魔法を、あそこまで応用し尽くしてみせた。
リボンを変形させて銃にして、変形解除してリボンに戻す。
砲身自体を第二の弾にしてしまう無駄のない攻撃だった。
黄色い蜘蛛の巣が弾けて広がる毎に、相手の行動範囲を奪いダメージを与えてゆく。
マミさんの魔力に対する計り知れない理解と経験が、あそこまでの圧倒的な攻撃技を生み出したんだ。
けれど私の魔法といえば、なんだ?
剣を握って、根性と見切りで掻い潜って一撃を浴びせる。
そのシンプルな戦術はどこまでも極められるだろう。けどそれは、あくまでも現実的な動きとしての技量でしかない。
魔法少女としての私の力は、まだまだ眠っているはず。
まさかアンデルセンを生み出して、そっからビームをドバーだけじゃないでしょう。
……ないでしょう?多分。きっと。
さやか(ビームだけだったらどうしよう)
あのエネルギーの放出技は、あくまでも大剣で扱える基本的なものであってほしい……。
もっと応用が利く、魔女に対抗できる技を手に入れたい。
魔女を一人で倒せないだなんて、そんなんじゃ未熟すぎる。
そんなんじゃ……杏子と戦っても負けちゃう。
さやか(……だから、杏子のこと考えてもどうしようもないって)
いつもの待ち合わせ場所が見えてきた。
>>759
コンマすげぇ
コンマすげぇ
仁美「おはようございます、さやかさん」
まどか「おはよー」
さやか「おっはよう」
手をひらひらと振って挨拶する。
もう既に三人とも、待ち合わせ場所に到着済みのようだった。
三人ってのは要するに。
ほむら「おはよう、さやか」
さやか「おいす~、おはよーほむら!」
ほむらも一緒だ。
仁美やまどかとは立ち位置に距離もあるが、数日のうちに私達の空気感にも馴染めているように見える。
まどかも仁美も話しやすい性格だ。きっと残りの僅かな距離感も埋めていけるに違いない。
さやか「んじゃあ、行きましょっか」
ほむら「そうね、急ぐほどではないけど」
仁美「ふふ、ゆっくり歩いて行きましょうね」
まどかの袖を見るに、今朝はサラダトースト……いや、ハムサンドトーストを食べたようだ。
トマトは家庭栽培だろうか?まどかパパはホントすごいなぁ。
仁美の朝食はちょっと解らないけど、問題なく済ませたことを疑う余地はない。
右手の指を見た感じだと和食だろうけど。
ほむらは……あ。
こいつ結構不健康な朝食とってるなぁ。綺麗な髪なのに勿体無い。
さやか(と、ここまで色々思ったことはあるけど、一つでも喋ったら大変なことになるんだよね)
まどかの“なんでわかるの?”欲しさに私生活にずかずか足を突き出すのもマナー違反だろう。解っていても言うのはナシだ。
本当は詮索するように見るのもいけないことなんだけど、見えちゃってわかっちゃっちゃうものは仕方ない。
ほむら「さやか」
さやか「ん?」
前でまどかと仁美が話す姿を眺めながら、ほむらが静かにたずねる。
ほむら「魔女退治は、辛いかしら」
さやか「ん、んー、心配してくれてるの?」
ほむら「……あなた個人だけの問題じゃない、だから皆のために心配しているのよ」
さやか「あっはは、なるほどなぁ」
素直に私が心配って言ってくれたっていいじゃないのよさ。
本心なんだか、恥ずかしがってるんだか。
さやか「魔女退治は……そうだね、壁に当たっちゃったかなとは思ってるよ」
剣という武器の弱点。近づけなければ意味が無い。
相手が魔女でも槍でも同じこと。リスキーな武器で、私は戦っている。
さやか「けどまだまだ出だしだもんね、挫折するのはまだ早いと思うよ」
ほむら「……私達は遠距離からカバーできる、一人でやろうなんて、あまり思いつめるのは」
さやか「頼らざるを得ないときにはもちろん頼んじゃうよ、迷惑はかけられないしね」
けれど、私は強くならなくてはいけない。
どんな魔女を相手にしても、一人で戦えるくらい強くなくては、街の平和を守るなんて不可能だ。
そのためには今のままじゃ不十分。
剣術だけに頼ったスタイルではない、もっと魔法の力を利用した、融合させたスタイルが必要なんだ。
マミさんだってあそこまでの制御をやってみせたんだ。
私もできないことはないはず。
さやか「……ねえ、ほむら」
ほむら「?」
さやか「もしよかったら今日の放課後、一緒に魔女退治というか……練習に付き合ってくれない?」
ほむら「練習?」
さやか「うん、マミさんも一緒に……色々なアドバイスがほしいんだ」
ほむら「……」
首をかしげ、ほむらは少し悩んだようだった。
ほむら「……やらなくてはいけないことも、あるんだけど……」
さやか「忙しい?」
ほむら「夜までなら、付き合えるわ」
さやか「ありがとう!」
ほむら「ちょ、ちょっと」
手を掴んでシェイクする。
なんだ、ほむら。やっぱり良い奴だよ。
授業中に考えることは、摩擦力を無視して平面を転がる球の速さではない。
私の魔法そのものについてだ。
私の魔法少女としての姿は、軽装だ。
背中に白いマントを羽織っている以外には特に装備もない。
装備として生み出せるのはサーベルだ。
これはマミさんでいうところの銃や、杏子でいうところの槍にあたる魔法武器。
……マミさんの場合は基本がリボンで、銃はそこからの二次生成になるんだろうか?まぁいいや、きっと似たようなものだ。
サーベルは何本も生み出せる。自分の周囲ならどこにでも、パッと生み出すことが出来るのが強みだ。
杏子を目の前に戦闘している最中でも、ほんの少し手に力を込めれば瞬時にサーベルを生み出し握りこむこともできる。
サーベルは2本を手の中で重ねて握りこむことによって、巨大な大剣に変化する。
この大剣がアンデルセンだ。
サーベルよりも頑丈で、リーチは長いしその分の威力もある。
ただ重いから、さすがにサーベルほどの取り回しやすさはないし、個人的に慣れた刀剣とは形も違うから、四六時中振り回していたいものではないな……。
アンデルセンの強みがあるとしたら、それはやっぱり幅の広さを生かした面での防御や……。
魔力を込めてビームとして放出する大技、“フェルマータ”だろう。
一度放てばエネルギーの波が駆け抜け、目の前の相手を一掃してくれる便利な技だ。
……けどこの技の燃費は非常に悪い。
威力も見た目に反して、杏子に直撃しても一撃必殺とはいかない中途半端さだ。
魔女へのトドメや、大勢の使い魔を掃除する際くらいにしか使えないだろう。
私の手持ちのカードは、これらだ。
……手持ちのカードでやりくりするしかない、って言葉はよく言われるけど。
私の手持ちっていうのは、本当にこれだけなんだろうか。
実際のところ、もっと他に使える魔法があるんじゃなかろうか。
そしてあるとしたら、どんな魔法なら私の戦い方に適にているのか……。
考えなくてはいけない。
乙でアリマース。
さやかの新必殺技どないなるだろか。
結構楽しみ。
特訓にほむらを誘おうと決めたさやかの意図も見えるかも知れないし次回更新に期待。
さやかの新必殺技どないなるだろか。
結構楽しみ。
特訓にほむらを誘おうと決めたさやかの意図も見えるかも知れないし次回更新に期待。
まどか「それでユウカちゃんたら、またやっちゃって」
マミ「あらあら、ふふっ」
さやか「上からバケツでなんてねー、もうあの時は大爆笑っすっよ~」
昼休みの屋上は私達のプライベートエリアとなったようだ。
魔法少女の秘密を共有する人たちが一斉に集い、お昼の弁当を食べながら日常会話を交わす。
放課後に特訓する旨をマミさんにも伝えなくてはいけないけれど、なかなか切り出すタイミングが掴めない。
私は別に、海苔弁の合間合間に魔女を挟んで食べちゃうこともできるけれど、マミさんの場合もそうとは限らない。
数少ないとわかりきっている他人の日常の一コマを切り取るには、少し躊躇があった。
悩む間に扉は開いた。ほむらが入ってきたのだ。
ほむら「こんにちは、巴さん」
マミ「こんにちは、暁美さんもこっちきて一緒に食べましょ?」
ほむら「ええ、ところで」
おや?
ほむら「放課後にさやかが、魔法の練習をしたいという話があるのだけど」
さやか「……」
ほむらは弁当の包みも開けずに、着席前の手土産とその話題を出した。
……まぁ、確かに普通は開口一番にでも言うべきことなんだけどね。
先に言われちゃったね。
マミ「あら、そうだったの?」
さやか「え、ええ……私の魔法、マミさんやほむらに見て欲しいかなーって……」
マミ「あら、そういうことなら遠慮なく言って?いくらでも手伝うわよ」
さやか「本当ですか!?ありがとうございます!」
マミ「大切な後輩からの頼みだもの、ふふ」
さやか「あはは……」
QB「魔法の練習か、確かに必要になってくるかもしれないね」
白猫がまどかの膝から降りて、私の肩へと飛び移った。
身軽なものだ。
QB「昨日のマミの成長ぶりには驚いたけれど、さやかの場合はまだ充分に伸び代があると思うよ」
さやか「やっぱりそうなの?」
マミ「私はいっぱいいっぱいみたいな言い方ね、キュゥべえ」
QB「気を悪くしないでおくれよマミ、事実君の魔法はもう極めるところまで極めたと言えるじゃないか」
マミ「ふふっ、冗談よ、褒め言葉として受け取っているわ」
まどか「さやかちゃんは、まだまだ魔法少女として強くなれるの?キュゥべえ」
QB「そうだね、可能性は大いに……いいや、成長への道筋は確実に存在すると言ってもいいだろう」
さやか「そこまで断言しちゃうんだ」
QB「根拠はあるよ」
QB「君達魔法少女はそれぞれ、形を成した特有の魔法を持っている」
QB「マミならリボン、さやかならサーベル、杏子ならば槍、といった具合だね」
さやか「武器ってことね」
QB「“固有武器”とでも言っておこうか、ほむらの場合“固有武器”は……」
ほむら「……」
ほむらめっちゃ睨んでる。ものすごいキュゥべえ睨んでる。
QB「……まあいいや、とにかく君達はそれぞれが、最低限魔女と戦うための武器をもっているんだ、それが固有武器」
まどか「マミさんの鉄砲は違うの?」
マミ「あれはリボンから作り出しているだから、基本的には私の魔法はリボンなのよ」
まどか「ほぇえー……」
QB「固有武器の特徴は簡単に生成可能な点にある……マミも最初は魔法の扱いが苦手だったけど、リボンだけは上手く操れたね」
マミ「ええ、そうね、リボンだけは……何もかも懐かしいわ……」
懐かしみむ遠い目というよりは、過ぎ去った日々を静かに見送るような、そんな目である。
マミさんの魔法少女としての過去の活躍については、あまり聞くべきではないのだろう……。
QB「固有武器を更に強化した形態が“強化武器”だ、これはマミのリボンが生み出すマスケット銃や、さやかがサーベルを重ねて作り出す大剣などだね」
さやか「アンデルセンかぁ」
まどか「マミさんのティロ・フィナーレも?」
QB「あれもまとめて“強化武器”になるだろうね、威力は違えど、固有武器から作り出す二次生成物には違いない」
とすると、マミさんは魔女との戦いでかなりの強化武器を使っているということか……。
QB「強化武器を生み出すのは簡単だよ、そう難しいことではないんだ……現にマミは、強化武器を主体に戦っているからね」
マミ「ふふ、何でも作れちゃうわよ」
まどか「魔法って感じがして、ステキですね」
マミ「ありがとう」
さやか「……杏子の、あの両剣も強化武器なんだね」
マミ「……ああ、ブンタツね……」
ほむら「杏子の?あれって?」
さやか「……杏子とやりあった時に、色々とお見舞いされたのさ……」
コンクリの地面すら漕いでしまうように切り裂く双頭の槍。
私がサーベル二本から生み出すアンデルセンよりも、遥かに強い武器のように感じた。
QB「生み出される強化武器の威力や魔力の消費、強さから使いやすさはまちまちだね、これは比較のしようがないから優劣を感じる必要はないよ」
さやか「剣二本VS槍二本で悩まなくて良いってことね」
QB「うん、固有武器やそれから成る強化武器については、ひとまず置いておく形でいいと思うよ」
さやか「ひとまず置いておくって……そしたら私、マントしか無いんスけど……」
QB「重要なのは形のある魔法ではなく、もうひとつの形の無い魔法だ」
ほむら「……?形の無い魔法?」
QB「魔法少女としてのさやかが強くなるには、そこを伸ばすしかないと思っているよ」
さやか「形の無い、魔法……」
それは一体……?
大いなる謎は予鈴のチャイムと共に闇へ解け、放課後へと続いてゆくのであった……。
待ち遠しい放課後ほど長く果てしない時間はないけれど、自分の魔法について考えているだけでも時間は矢のように過ぎていった。
あっという間に放課後になったので、私はいつもより二割増しの付き合いの悪さで教室を出て、待ち合わせの場所へと急いだ。
とにかく、今の私は強くなりたかった。
キュゥべえの話を聞いて、マミさんからアドバイスをもらって、奥ゆかしく見守ってくれるほむらからさりげない助言なんぞもいただいたりして、とにかく自分を高めたかったのだ。
QB「放課後のチャイムと同時に飛び出すものだから、何事かと思ったよ」
風力発電の大きな羽の影がちょっとだけ恐ろしい、待ち合わせの土手へとやってきた。
首根っこを掴んで連れてきたのはキュゥべえだ。
さやか「ごめんね、魔女退治とは関係ないんだけど、今日はたっぷり勉強したい気分なんだ」
QB「勉強熱心なのはいいけど、お手柔らかに頼むよ、それだけが心配なんだ」
さやか「へへ、ごめんごめん」
白い毛並みを撫でながら少し待っていると、小走りの音が近づいてきた。
まどかだろうか、と思って振り向いてみると、意外にもその人物はほむらだった。
ほむら「はぁ、走って帰るなんて、よほど続きが気になっていたのね」
さやか「へへ、いやぁ、自分の可能性が広がる話ってのは、聞いてて楽しいもんね」
ほむら「……確かに、そうかもしれないけど」
ほむらはキュゥべえを挟まないように私の隣に座った。
さやか「ほむらの固有武器って、何なの?」
ほむら「……さあ、何かしらね」
さやか「む、そのくらい教えてくれても良いんじゃない」
ほむら「……」
ちょっとだけ困ったような顔をしたが、すぐにいつもの仏頂面に戻った。
ほむら「左手につけている盾、あれが固有武器かしらね」
さやか「ああ、あれが……なるほど」
QB「珍しい形の武器だね、興味は尽きないよ」
さやか「……なるほど、キュゥべえがいると喋りたくないんだね」
ほむら「察してくれてありがとう」
QB「それは酷いな、僕はみんなに教えているというのに」
さやか「あはは、確かにそうかも」
剣幕なんだかそうじゃないんだか。
マミさんがやってくるまで、しばらくはそんな不思議な空気が続いたのでした。
人目を気にしない高架下で、三人が集まった。
マミさん、ほむら、そして私だ。まどかは私用もあってか、来れないとのこと。
まどかも魔法少女関係者とはいえ、常に私達と行動を共にする必要はないのだ。
一緒にいる分だけ魔女や使い魔の流れ弾を受けるリスクが増す。
もちろんお荷物の一言で切り捨てていいはずはない。一緒に居ることは、魔法少女に憧れるまどかにとっても、私達魔法少女にとっても意味がある。
けれど、それを解っていてもなお、まどか本人には一般人としての負い目があるらしい。
こういうことで焦らなければ良いんだけど……あの子の性格上、チクチクと自分を責めてそうだ。
QB「集まったね、それじゃあ話の続きをしようか」
さやか「!」
おっと、いけない。
今はキュゥべえ先生の講義に集中しなくては。
さやか「えっと、“固有武器”や“強化武器”とは違った魔法があって、私はそれを鍛錬できるって話だよね?」
QB「鍛錬というとひどく地道な印象だけど、そうだね」
QB「その魔法を仮に“特性魔法”とでもしておこうか」
さやか「特性魔法?」
QB「特性魔法に明確な形は無い、これは言うなれば君達魔法少女それぞれが持っている、魔法の性質だ」
ほむら「初耳ね」
QB「魔法少女個人のものだからね、言ってどうなるものではないんだ。言って伝わるかも怪しいしね」
さやか「特性魔法って、例えばどんなの?」
マミ「私にもあるのかしら」
QB「マミを例にあげるとしよう、マミの特性魔法、その性質は“収束”と言えるだろう」
マミ「……収束?」
随分と漠然とした単語が出てきたなぁ。
QB「マミの魔法は全般的に、エネルギーをひとつの形に形成することを得意としている」
ほむら「……それはリボンが銃を作ることにも関わるのかしら」
QB「大いに関わってくるね、魔法による新たな物体の創造、銃としてのエネルギーの圧縮、回転の圧縮……今のマミは、収束という性質を体現した魔法少女であると言えるよ」
とおそらく褒められているであろうマミさん御当人は、照れればいいんだか話の小難しさに首を傾げればいいんだか、悩んでいる様子。
QB「様々な魔法少女を見てきた僕の経験上、特性魔法には色々パターンがある……収束、解放、修復、破壊、それぞれ得意とするものは違ってくるし、戦い方も当然変わる」
ほむら「……」
さやか「物騒な響きだけど、破壊っていう特性魔法は魔女との戦いが楽になりそうだね」
QB「うん、かなり影響してくると思うよ」
さやか「私の特性魔法って何なのかな?これっていわゆる、ゲームでよくある属性とか、タイプとか、そういうヤツだよね。キュゥべえにはわかるでしょ?」
QB「わからないよ?」
さやか「えっ」
QB「特性魔法、これは魔法少女の魔力の性質、その傾向だ」
QB「実はこの特性魔法というものは、君達が魔法少女となる契約を交わしたときの願い事が反映されたものだよ」
QB「特性魔法は、僕が選択し、振り分けるようにして君達に与えているものではなく……あくまで君達の選択によって得られた、奇跡の片鱗なんだ」
願い事が自分の魔法に反映される。ふむ。
マミ「え、っと、じゃあ私の“収束”っていう特性魔法も」
QB「マミの願い事が影響した結果、身についたものだね」
さやか「じゃあ私の特性魔法は?私の願い事、強くなることなんだけど」
私の魔力の性質と言われても、パッと頭の中には浮かんでこない。
力が強い?剣を出せる……?うーん、違う、魔力の性質とか、そういうことを考えるとそんなことではなさそうだ。
QB「それはまだ僕にもわからない……さやかの特性魔法については、まだまだ見出せてない部分が多い」
ほむら「観察不足といったところかしら」
さやか「……か、観察かぁ……まぁでも、確かに」
まだまだ私は経験の浅いヒヨっ子だ。
力の出し方、自分の得意なこと。何もかも知らない魔法少女ド素人なのだ。
己を知れば百戦危うからず。つよくなるためにはまず、自分の力を見極めなければなるまい……。
さやか「……なるほどね、まだビジョンがハッキリとはしてないけど、私にも得意な魔法があるってことか」
ちょっと希望が湧いてきたかも。
川のせせらぎだけが聞こえる。
橋の下は暗く、肌寒い。
閉じた目には何も映らない。
ただ脳裏には、魔法少女となった自分の姿を思い描く。
“全てを守れるほど強くなりたい”。
全てを守る、私の姿……。
マミ「つまりはイメージ修行よ」
ほむら「砂利の上で胡坐かいて実践しちゃってるけど、効果は出るのかしら」
マミ「キュゥべえの話を聞くに、必ず効果があるはずよ」
ほむら「……巴さん、根拠無しに言ってるでしょう」
マミ「こういうのは思い込みを含めて、本人のイメージが大切なのよ!」
ほむら「実際はどうなの、やらせておいて良いの」
QB「本人がやる気十分に望んだんだ、僕に止める権利はないよ」
ほむら「……不安だわ」
おいついた>>1,がんばって
この手の届く範囲の限り、全てのものを守りたい。
暴力も理不尽も、なんでも跳ね返せる力こそ、私は欲しかった。
私の身の回り、私の目の届く限りでもいい。
自分にできる限りの全力をもって、正義の味方というものになりたい。
摩天楼の上でマントをはためかせる、マーベルなヒーロー。
屈強な鎧に身を包んだ、陰から見守る謎のナイト。
小さな村のために命をかける、負け戦続きのサムライ。
私が憧れた全てのヒーロー達に、私はなりたい。
漠然としすぎているかもしれない。
だとしても、それこそ私が望んだ強い者の姿なのだ。
QB「さやか」
さやか「はっ!?」
キュゥべえの声に目を開く。
目の前に、夕陽に照らされた川の水面が、きらきらとルビーのように輝いていた。
さやか「あれ?私……」
ほむら「瞑想してるんじゃなかったの?」
マミ「やけに長いなって思っていたら、寝てるなんてね」
目を閉じて考えている間に眠ってしまったらしい。
いやぁ、うららかな日和だから仕方ない。
ほむら「真面目にやりなさい」
さやか「ごめんなさい」
マミ「それで、どうだった?自分の魔法のイメージは掴めたかしら」
さやか「……すいません、あんまし有意義なものは思い浮かばなかったかもしれないっす」
マミ「あら……」
さやか「やっぱり、形の無いものを考えるのって難しいなぁ……」
QB「焦らずに魔女との戦いの中で探していくのが良いと思うよ」
まどかに言われた言葉と似たようなことを、キュゥべえにも言われてしまうとは。
……やはりどうも、焦って突っ走りすぎたのかもしれない。
……それをわかっていて尚、焦燥には駆られてしまう。
自分の形を捉えきれていないだなんて、そりゃあ焦るよ。
結局この日は、暗くなるまで魔女散策をして、その後に解散となった。
魔法について何も掴めなかったし、魔女は見つからなかったし、放課後はダレ気味だった。
キュゥべえから魔法少女についての興味深い話を聞けたのはいいけど、私の都合でマミさんやほむらを振り回しすぎた。
明日学校に行ったら、また改めて頭を下げておこう。
そしてこれからは魔女退治に同伴しながら、自分の魔法少女としての形を掴むよう、努めなくてはいけない。
キュゥべえの言うとおり、焦らず戦いの中から見出すのが吉であろう。
ガトンボヤゴの魔女の時みたいに、足手まといになるパターンがあってはいけない。
さやか「早く成長しないと……」
毛布の中でまどろむ。
力不足の歯がゆい思いに懐かしく枕を掴みながら、意識が沈んでゆく。
強くならなきゃ……。
……杏子……。
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