私的良スレ書庫
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元スレさやか「全てを守れるほど強くなりたい」
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ほむら「さやかッ!」
焦りから出た叫びを聞く前に、私は異常を察知していた。
斬りつけて真っ二つにしたはずの顔面。だがその切れ目から、新たな“顔”が見えていたのだ。
魔女「ぎゃぉおおぉんっ」
脱皮するようにして、新たな魔女の顔が襲い掛かる。
均一に並んだ鋭い牙。
さやか「―――」
サーベルの峰を牙に押し付け、勢いを逸らす。
峰は白い牙の表面だけを削って、魔女の突撃を真後ろにやり過ごした。
魔女「……?」
目を瞑って襲い掛かってきた相手からは、いつのまにか自分が通り過ぎたようにしか思うまい。
さやか「どうした、私はこっちよ」
魔女「……!」
わかったことが3つある。
私の武器は丈夫だということ。
私の体は強力だということ。
そして……。
さやか「格下が相手の打ち合いじゃ、一日中やってても負ける気がしないわ」
魔女「がぁああああぁあ!」
白いマントで体を包む。
サーベルは、裾から剣先だけが伸びている。
魔女「ぉおおおおおおぉおっ!」
蛇のような魔女。
動きは速いが、単純で直線的。エネルギーに任せた暴力的な攻撃が癖のようだ。
癖というよりも性質だろうか?知能は高くなさそうだし、このパターンを変えることはないだろう。
さやか「さすがにそんな攻撃、不注意でもしなけりゃ当たらないって」
マントを翻し、斜め前方に跳ぶ。
蛇の頭部は床を抉った。
……ここまでわかりやすいと、ただの人間だった私でも、瞬発力に任せて避けられるかもしれない。
さやか「ちょっとちょっと、初陣なんだ、せめて“魔法少女で来て良かった~”って思わせてちょうだいよ?」
魔女「~!!」
あ。馬鹿にしていることはわかるんだ。
ほむら(美樹さやかが契約した、それはわかる……けど)
ほむらは、魔法少女になりたてのさやかと、お菓子の魔女との戦いの行く末を見ていた。
単調な質量攻撃を繰り返す魔女の動きを目で追う事は簡単だった。
だが、それを軽々とかわしてゆく魔法少女の姿だけは追いきれなかった。
ほむら(なんて速さなの……!)
地に足を付けたまま、フットワークでもするかのように魔女の攻撃を回避する。
一見簡単かもしれないが、彼女は常に地上で避けている。
魔女の体は蛇であり、多角度からの噛み付きは当然、時として尻尾を振るい、なぎ払うこともある。
だがさやかはそれらを全て、“地上”で回避してしまう。
ほむら(そうか、いくら尻尾をなぎ払おうとも、重心付近の動きは緩慢……さやかは常に、魔女の重心に陣取って回避し続けている!)
その動きに派手さはない。
が、かつて見た“美樹さやか”の動きとは一線を画している。
魔女「ぎゃおんっ!」
ほむら「!」
いつの間にか、魔女の体表には無数の傷が刻まれていた。
我を忘れて怒り、無理にのたうち回り、飛び掛る度に、傷口はどんどん開いてゆく。
標的に執着する魔女といえど、全身に受けた傷に動きを鈍らせていた。
裾の奥で、サーベルの切っ先が光る。
さやか「うん、体の動き、悪くない……これからどんなに脱皮されようとも、叩き潰す自信はあるね」
マントの中からゆらりと、青白いサーベルが突き出される。
魔女「……」
もはや魔女の目には、喰う事への執着など無かった。
自分が“喰う側”ではないと、思い知らされてしまったから。
さやかちゃんマジ無双
力を願ったとかよっぽどの格上か相性負けかでないと負けそうにないな
あんこちゃんと喧嘩になっても初戦で撃破できそうだ
力を願ったとかよっぽどの格上か相性負けかでないと負けそうにないな
あんこちゃんと喧嘩になっても初戦で撃破できそうだ
力を願ったんなら、変身前でも一般人最強レベルなんだろうな
固有魔法はなんだろ
固有魔法はなんだろ
サーベルを両手に2本ずつ握り、重さのままにゆらりと構える。
魔女には抵抗する気配が見られない。
既に戦いを諦めているらしい。
子供っぽく執拗に襲うところも、それができないことを悟って拗ねるように戦いを放棄するところも、どこか子供っぽい。
しかし子供っぽいからといって、私の剣を掲げる手が躊躇することはない。
さやか「覚悟」
頭の上で二本の剣をまとめ持つ。
サーベルは光と共に熔けて交じり合い、長く幅の広い、大きな両刃の剣へ変化を遂げる。
魔法の両手剣。
刀身から噴出す淡い光のオーラ。
体感でわかる、二倍の力とは一線を画したパワー。
直立の体に直立の剣。
振り下ろせばその時点でこの戦いは終わると、私の本能は気の早い福音を鳴らしている。
だからこそ、私は自信たっぷりに技名叫ぶのだ。
さやか「“フェルマータ”!!」
大きな弧を描き、両手剣は軌道上の全てを切り裂いた。
100万パワー+100万パワーで200万パワー!!
いつもの2倍のジャンプがくわわって200万×2の400万パワーっ!!
そしていつもの3倍の回転をくわえれば400万×3の、シャルロッテ、おまえを上回る1200万パワーだーっ!!
いつもの2倍のジャンプがくわわって200万×2の400万パワーっ!!
そしていつもの3倍の回転をくわえれば400万×3の、シャルロッテ、おまえを上回る1200万パワーだーっ!!
振り下ろした剣の余波が正面へ疾走する。
エネルギーの奔流は辺りの空気を巻き込み、しばらくの間、私の髪をなびかせる追い風となった。
目の前に残るのは、巨大な傷跡。
向こうの壁にまで続く大きな地割れは深く、底は暗かった。
魔女の姿は跡形もない。大きなダメージによって消滅してしまったのだろう。
結界も、私の剣の跡を起点として崩壊を始めたようだ。
両手剣を肩に担ぎ、ふん、と息を鳴らす。
きらきらとダイヤモンドダストのような明滅と共に消えてゆく結界を眺めて、私は自分の心の靄が消え去ったことを認識する。
さやか(きっと、これこそが私の渇望していたものなんだ)
守る力。
それが本当に、絶対的に力であることは皮肉にも思う。
けれど守るためには時として、力が必要なのだ。
勧善懲悪とかそういう問題ではない。
もっとシンプル、大きな負を生み出すエネルギーを退ける為に。
景色はもう、病院の外へと変化している。
お菓子の毒々しい世界から一変しての、淡白な白と灰色の世界だ。
ほむら「……さやか」
私の後ろで、ほむらが小さく呟いた。
さやか「言われた通り、私の好きにさせてもらったよ」
振り向きもせずに答える。
ゆっくりと一歩ずつ近づいてきていたほむらの足音が止まる。
さやか「別にほむらがどうこう言ったから、ってわけじゃない」
さやか「私自身が望んで契約したの」
両手剣が消滅し、おぼろげな魔力の光の粒となって私の身体へと還る。
ほむら「……そうね」
さやか「そうよ」
向き直り、ほむらの顔を見る。
彼女はやっぱり、諦めたような顔をしている。
私は正反対に、彼女に対して怒りを抱くでもなく、微笑みかける。
さやか「これでもまだ、私に隠し事しちゃう?」
ほむら「……なおさら言いにくくなったわ」
さやか「へえ」
そういうものなのか。
ほむら「……覚えておいてほしい事がある」
さやか「?」
二人が駆ける慌ただしい足音が、かすかに聞こえてきた。
ほむら「……私は決して敵ではないわ、さやか」
マミさんの姿が視界の向こうで角を曲がった瞬間、ほむらの姿はその場から消えていた。
私の姿を見て驚いたまどかとマミさんが止まり、再び、今度は更に急いだ調子でこちらへ走って来る。
いなくなったほむらの姿を茜空に見て、私はこぼす。
さやか「敵じゃないなんて、最初からわかってるてーの」
駆け寄ってきた二人は、私の姿を見るや否や、怒った。
表情だけのものだ。しかしそれですらもすぐに引っ込めて、哀しげな顔になる。
マミ「……もっと早く来ていれば」
まどか「ご、ごめんなさい……さやかちゃん……」
二人はほむらが来ていたことを知らない。
間に合わず、私が契約して魔女を倒したと勘違いしているらしかった。
私にとっては都合の良い解釈だが、本心は打ち明けておく。
さやか「どうせ契約するつもりだったんだよ…どうしても叶えたい願いがあったんだ」
まどか「願いって……」
マミ「……」
まどか「あ、ごめんね」
人の願い事を簡単に聞くもんじゃない、というマミさんの視線はまどかに刺さった。
私は喋っても構わないのだが、まあ、まどかのためならそれもいいかなと思う。
私は全て納得した上で契約した。ほむらの事もあるけれど、そんな衝動的に契約に漕ぎつけたわけではない。
私自身の考えがあってのことだ。
とはいえ、釘を刺されたり、注意事項を伝えられたり、まどかにやきもきされたり、色々なことをされた夕方だった。
QB「グリーフシードの使い方の確認をしようか?」
さやか「覚えてるからいいよ」
キュゥべえも追い払って、私は一人、自室のベッドで仰向けになる。
さやか「……」
ソウルジェムを噛み、天井を見上げる。
何を考えるでもなかった。
わたしはすとん、と、当然のように眠りに落ちた。
ベッドに入るまでに何かを考えていたわけでもなければ、ソウルジェムを口に入れてどうこうしていたわけでもない。
ただ考える事もなかったので寝た。それだけだった。
それが当然であるかのように。
† 8月10日
“なんでこんな面倒な動きを”と内心馬鹿にしていた私だったけれど、実際に動きがスムーズに運ぶようになって、改めて煤子さんの凄さを知った。
煤子「飲み込みが早いわね、その調子よ」
さやか「はい!」
元々運動センスの良かった私は、煤子さんも驚くほどの速さで動きを習得していったらしい。
この時にやっていた練習といえば、歩きながら続けざまに面打ち、胴打ちをしてくる煤子さんに対して、右半身を向けながら攻撃を受け止めつつ後退するというものだった。
この練習が何を成すのかはわからない。
煤子さんに訊ねれば「役に立たないものはないわ」と言って、「何に役立つのかを考えてみなさい」と、逆に私に考えさせるのだ。
だから私はこの動きの練習中に、これが何に役立つのかを考えていた。
この横向き後退だけではない。素早い後ろ歩きやしゃがみ歩き、竹刀さえも使った咄嗟の動きなど、沢山の動きを教えてもらった。
それら全てを、私の日常の役立ちに結びつけることは難しかった。
けれど、運動は好きだったし、動きの合理性は理解できた。
だから続けられたのだ。
何より……。
煤子「そう、良いわよ、無駄がなくなってきたわ」
さやか「へへっ…」
煤子さんに褒められるのが、うれしかった。
煤子「これ、好きなのね?」
さやか「んっ……んくっ……」
煤子「ふふっ……どう?」
さやか「……美味しい!」
煤子「こら、口元、こぼしてるわよ」
運動の後のスポーツドリンクは美味しい。
煤子さんと二人きり、誰も居ない閑散とした道。
去年までは友達と遊んでいたこの夏休みも、すっかり煤子さんとの時間に取って変わっていた。
そして、夏休みといえば……。
煤子「さて、運動で汗をかいたところで……宿題を見せてくれるかしらね」
さやか「う」
煤子さんは運動だけでなく、勉強も教えてくれた。
運動は楽しい。けれど、勉強だけはどうも苦手だった。
煤子……これがほむらの末路だとしたら今の時間軸のほむらには避けて欲しいとろこだ・・・・
煤子「目算で40点、相変わらずね、さやか」
さやか「ひいい……」
算数のドリルに目を通した煤子さんの、5秒後の感想がそれだった。
このときは瞬時に採点できる煤子さんを「やっぱりお姉さんは違うなあ」くらいにしか思っていなかったが、今にして思えば怪物的な計算速度だと思う。
煤子「……私もつきっきりで勉強を教えるなんて事はできないし、いつか一人で勉強ができるようになってもらわないとね」
さやか「一人でって……私にできるかなぁ」
煤子「できるように、なるの」
採点だけでドリルは閉じられてしまった。
煤子「……そうね、私が勉強が得意になるまでの話でもしてあげましょうか」
さやか「?」
煤子「私も昔、勉強は苦手だったのよ」
さやか「え?うそお」
煤子「本当よ、今のさやかくらい頭が悪かったかも」
さやか「煤子さんも馬鹿だったんですね!」
さすがにげんこつは飛んできた。
† それは8月10日の出来事だった。
マミ「……」
QB「マミ、元気が無いね?大丈夫?」
マミ「……元気が無いわけじゃあ、ないんだけどね」
QB「さやかのことかい?」
マミ「……ええ、そう、なのかしら」
QB「契約は彼女の意思次第だからね、本人に素質がある以上は、僕は断れないよ」
マミ「……そういうものなのね、あまりそのことには、気にしてないんだけどね」
QB「そうなの」
マミ「うん」
マミ「……不安、なのかな、これ」
QB「珍しく、僕にもわからない悩みを抱えているみたいだね」
マミ「美樹さんは、力を願ったと言っていた……」
QB「そうだね、さやか自身が言ったことだ」
マミ「……全てを守れるほどの力、それって、他人のためよね」
QB「使おうと思えば自分のためだけど、そうだろうね」
マミ「……不安だわ」
“甘っちょろいんだよ、あんたは”
“あんた、いつか絶対に「折れ」ちまう”
“「ここ」はくれてやる だが「こっち」には来るなよ”
マミ「……美樹さん、信念が折れなければいいのだけれど」
QB「それは彼女の心次第だね……」
目覚めが快適すぎる。
さやか「……」
ぱっちり覚醒。眠気も何もない、完璧な覚醒だった。
それはとても、前日なかなか寝付けなかった私からは想像もできないほどの快調具合で。
起き抜けの頭で“魔法少女”を再認識するには、十分すぎる異変だった。
さやか「うわー、こんな所でも強くなってんのかな、私」
ベッドから起き上がって、跳ねた髪を指で解かす。
強くなるってことは、朝にも強くってことなのかな。
それとも魔法少女だからなのかな。
マミさんはどうなんだろう、詳しく聞いてみたいものだ。
さやか「魔法少女なら誰にでもできることなのか、私にしかできないことなのか……わからないしね」
契約したとき、私の頭の中にソウルジェムというものの扱い方全てがインプットされた。
それは漠然と、自分の手足を動かすような感覚で扱う術であって、当然の事のように操ることができる。
それゆえに、他の魔法少女とどう違うのかがわからなかった。
さやか「私には、マミさんが使ってたような銃は出せないし……リボンも出せないからなぁー」
装備でいえばサーベル、そしてマントだけだ。
ファッションではちょいと味気ないような気もするけど、ほかにも色々な事できるみたいだし、よしとしておこう。
さやか「んでユウカが泣きそうな顔して“もうやめてよー”ってさぁー」
まどか「あはは、相変わらずだね」
仁美「ユウカさんって面白い方ですよねー」
一見変わらない日常だった。
いつものように登校し、いつものように校門前まで駄弁る。
けれどここで、私だけは違う存在だ。
今この場に3頭の熊がそれぞれ私たちに襲いかかってきても、私だけは確実に生き残るだろう。
突然の洪水がこの坂の上から流れてきても、私だけが助かるだろう。
けど私の願いは、私だけが助かるためのものじゃあない。
たとえこの瞬間に何かが飛んでこようとも、私は二人ともを守ってみせるよ!
まどか「てぃひひひ」
仁美「うふふふっ」
まぁ、なんもこないんですけどね!
ほむら「……」
まどか「あ……」
仁美「あら」
前言撤回。なんか来てました。
多分、場合によっちゃ落石や濁流や熊よりも怖いものが、坂の上で待ち構えていた。
眉をの端を少し吊り上げて。
仁王立ちで。
ほむら『さやか、話があるわ』
その立ち振る舞いを見ただけでわかっておりますとも、はい。
さやか『……何の話よ。仁美が対処に困って慌ててるから、私たちがすれ違う前に終わらせてくれない?』
ほむら『難しいわね』
長い話ってことですか。
なんて言ってる間にも、私たちはほむらのすぐ近くまで歩いて来てしまった。
もはや無視して踵を返すことは敵わない距離だ。
仁美「えっと……」
ほむら「一緒に行きましょう」
まどか「えっ」
なるほど、そう来ますか。
まぁ、クラスメイトだしね。
さやか「おう、これからは毎日、一緒に通学だね!」
ほむら「!」
大胆に出たほむらだったけど、私のこの返し方は予想してなかったみたい。
仁美は無愛想な転校生の積極的な一面に気を良くし、何度もほむらに話しかけていた。
そのたびにすんでのところで話を華麗に逸らすほむらを横目に、まどかは淡々と、いつもより少し早めに歩いている。
ギクシャクはしていない。
けれど、まどかはまだ、ほむらに対して懐疑的な様子を見せている。
私もそうなんだけどね。
それでもほむらからは、悪っぽいオーラを感じないというか……。
同年代に使う言葉じゃないけど、保護欲を掻きたてるというか。
時々見せる隙に、私も油断しちゃったり、なんかして。
さやか(まぁでも、これからほむらが話す内容を聞いて、全てが変わっちゃうのかもしれないけどさ)
ほむらは病院での別れの際に、「敵ではない」と宣言した。
けれどますます言えないことが出てきてしまったとも。
私の頭でも、なかなかその答えは出ない。
今日、ほむらが打ち明けてくれるといいんだけど……。
あまり期待はしないでおきますか。
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