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元スレさやか「全てを守れるほど強くなりたい」
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まどか「だ、だって……この子、怪我してる」
殺気はまどかにも伝わったらしい。
ほむら、らしき人物が一歩踏み出すと、まどかは謎の白い猫を抱きかかえた。
まどか「ダ、ダメだよ、ひどいことしないで!」
さやか「やめなよ」
ほむら「貴女達には関係無い」
さやか「何よそれ、関係あるわよ」
私はまどかへの殺気を遮るように立ちはだかる。
よくよく正面から見てみれば、このほむら。実に奇妙な格好をしている。
なんというか、ひらひらしているスカートとか、服とか、ものすごく派手。
この時はなんともなしにイメージした単語が、魔法少女。それだった。
日曜にやっていた小さな女の子向けのアニメを想起させる。そんな格好だ。
ほむら「あなた達には何の関係も無い、早くその白いのを置いて、帰りなさい」
まどか「だってこの子、私を呼んでた……」
ほむら「気のせいよ、帰りなさい」
さやか「聞き間違えなわけない、私も聞いたよ!まどかを呼んでた!」
ほむら「え?」
コスプレほむらが一瞬驚いてみせた直後、その意外な一面を遮るようにして景色は歪んだ。
さやか「!?」
うねる世界。伸びる有刺鉄線。
まどか「な、なにこれ……」
さやか「……いこう!ここはマズい!」
今の一瞬で何が起こったのかは、私にはわからない。
それでも私はこの場にいけないと思った。
まどかの手を引き、もと来た道へと走り出す。
この景色から逃げるために。ほむらから逃げるために。
改装中フロアは、悪趣味の一言に尽きる空間へと変貌していた。
お化け屋敷デザイナーに劇的ビフォーアフターさせた、その丁度中間のような世界だった。
意図不明のオブジェが立ち並び、遠くの方では奇妙なお髭の綿飴らしき生き物がうろついている。
不思議、それだけでは言い尽くせるものではない、どこか危険な臭いもするメルヘン。
早く抜け出さないと。
さやか「ていうかまどかっ、その生き物!?そいつのせいじゃないの、これ!」
まどか「わ、わかんない、わかんないけど…この子、助けなきゃ…!」
さやか「助けてとは言ってたけど、私達にどーにかレベルじゃないと思うよこれ!」
まどか「けど、」
さやか「まぁなんにもわからないし、見捨てたりはしないけどさ…!」
思わず立ち止まる。
まどか「きゃっ……」
勢いづいたまどかの肩を掴んで、引き寄せる。
すぐ目の前を有刺鉄線の束が通過していった。今のまま走っていたら、これに巻き込まれていたかもしれない。
まどか「あ、ありがと……」
さやか「……ここ、どんどん道が変わっていく」
一歩退く。
さらに二歩退く。
左右を確認する。今目の前を掠めて行った有刺鉄線らしきものが、既に私達の周囲を広く囲んでいた。
さやか(……これって、もしかしてまずいんじゃない)
何かに捕まったという事は、私にも理解できた。
不思議な歌とともに近づいてくる綿毛の生き物。
まどかの抱える猫とは全く別次元の恐ろしげな姿。手元の大きなハサミからは悪意しか感じられない。
まどか「どうしよう……!」
さやか「……落ち着いてまどか、大丈夫、今考えてるから…!」
有刺鉄線の内側に入り、のろのろ近づく奇妙な綿毛達。
どんどん中央へと追い込まれていくけれど、どうしようもない。万事休す。
この状況を乗り切るには、どれか一体を無理やりに蹴散らしてから、根性で有刺鉄線を乗り越えるしか……。
――そうね、私はどうかしら
――家族や友達は、とても大切よ
――けれどそれを守るためなら、天秤にかける自分は遥かに軽い
――そんなところかしらね
あの時のほむらの言葉を、ふと思い出した。
答えを聞いた時はいきなりだったし、「ほああ」とか、「変な子」くらいにしか思わなかったけれど。
心の奥底では彼女と同意見だったことに、ふっと微笑む。
さやか「まどか、落ち着いて聞いて、ここから抜け出す――」
決意を込めた作戦を伝えようとした時、私達の周囲は山吹色の閃光に包まれた。
さやか「あれ?」
まどか「これは……?」
目を半分くらい瞑っていたので全てはわからなかったけれど、一部だけは見ることが出来た。
金色の光が飛び交って、綿毛のお化けを蹴散らし、有刺鉄線を砕いていくその様を。
「危なかったわね。でももう大丈夫」
落ち着いた雰囲気の声の主が階段を降りてやってきた。
それは、ちょっと不可思議な格好はしているが、とても綺麗な女の子だった。
ほむらと同じような……。
「あら、キュゥべえを助けてくれたのね、ありがとう」
九兵衛?
「その子は私の大切な友達なの」
まどか「……」
QB「……」
白い猫を見て彼女は言った。
白い猫はきゅうべえというらしい。
まどか「私、呼ばれたんです、頭の中に直接この子の声が」
「ふぅん…なるほどね」
さやか「私も見えました」
「あなたもね?まあ当然か」
垂れ目が私達の姿をM字に流し見た。
「その制服、あなたたちも見滝原の生徒みたいね、二年生?」
さやか「あなたは?」
「そうそう、自己紹介しないとね……でも、その前に」
「ちょっと一仕事、片付けちゃっていいかしら」
今日は驚くことの連続だ。
白い銃が宙に舞い、そこで列を成し固定される。
さやか(うわー……)
その光景には終始、口を開きっぱなしだったと思う。
それは、大玉の花火を眼の前で何発撃たれても足りない衝撃だ。
今なら材質不明の砂埃が肺に入っても気づかないだろう。
目の前で繰り広げられた巻き毛少女の射撃ショーは、私の人生で遭遇したことのない、ショッキングできらびやかなものだった。
まどか「す、すごい……」
さやか「……空間が戻っていく」
辺りを光弾が一掃したところで、風景はもとの寂れたフロアに戻っていった。
私は、灯りの無い部屋が端まで見渡せないことを思い出す。
「魔女は逃げたわ、仕留めたいならすぐに追いかけなさい」
巻き毛の人が闇へ話しかけると、言葉に応えるように人影は現れた。
仏頂面の転校生、ほむらだ。
「今回はあなたに譲ってあげる」
ほむら「私が用があるのは……」
「飲み込みが悪いのね、見逃してあげるって言ってるの」
言いかけたほむらの言葉を遮るように、女性は強い口調で畳み掛ける。
荒っぽい表現に、二人の関係を示す剣幕さははっきりと浮かび上がってきた。
「お互い、余計なトラブルとは無縁でいたいと思わない?」
ほむら「……」
けれどほむらの顔には、何か別の感情があるように思えてならないのだ。
どこか、どうしても引き下がりたくない感情。
もどかしさが見える。
さやか(……)
けれどほむらの姿は闇の中へと翻っていった。
まどか「ふぅ」
まどかは事態の騒乱に収集がついたことへの安堵。
さやか「はあ」
私は正体不明のやりきれない気持ちを吐き出すために、ためいきをついた。
QB「ありがとうマミ、助かったよ」
マミ「お礼はこの子たちに、私は通りかかっただけだから」
今更かもしれない。けど私は顔を硬直させて驚いた。
猫が喋った!と。
QB「どうもありがとう、僕の名前はキュゥべえ!」
まどか「あなたが、私を呼んだの?」
まどかの順応性は、私にはよくわかりません。
QB「そうだよ、鹿目まどか、それと美樹さやか」
さやか「…え…何で、私たちの名前を?」
QB「僕、君たちにお願いがあって来たんだ」
まどか「お…おねがい?」
助けて、とはまた別に?
QB「僕と契約して、魔法少女になって欲しいんだ」
ほむらの姿や、マミと呼ばれた女の子の姿を見て、そんな連想はしていたけれど。
魔法少女なんて単語が飛び出すなんて、さやかちゃんはこの瞬間まで、予想だにしていなかったのであります。
(ノ*>∀<)ノ ソレジャマターネッテ♪
壁|;・∀=(ヾ(・; ) カクレテナ!
壁|;・∀=(ヾ(・; ) カクレテナ!
現実は小説より奇なり、なんて言葉、恭介の時だけで十分だなとは思ったんだけど。
小説よりも広いジャンルで、不可思議な現実は、突如として訪れるのです。
だがしかし、誰が予想できるか、魔法少女。
――僕は、君たちの願いごとをなんでもひとつ叶えてあげる
さやか(なんだろ、それ)
毛布の中で、夕べの会話を思い出す。同じ見滝原中学の上級生、マミさんとの話。
魔法少女という存在。
魔女という存在。
――願いから産まれるのが魔法少女だとすれば、魔女は呪いから産まれた存在なんだ
――理由のはっきりしない自殺や殺人事件は、かなりの確率で魔女の呪いが原因なのよ
――キュゥべえに選ばれたあなたたちには、どんな願いでも叶えられるチャンスがある
竹刀を握った、ベッドからはみ出た右手に力が入る。
昨日の夜からずっとこのままの体勢だ。
つまり、私は寝てません。
一晩ずっと考えていたけれど、いまいち結論は出ない。
何を考えていたかって、それはもちろん魔法少女のことについてなんだけど。
眠気でもあっとした頭では、そんな難しい事は考えられないようであります。
まどか「おはようさやかちゃあ」
さやか「おあよーー」
まどかも同じ感じらしく、少し安心する。
お互いに真面目に考えていた証である。
仁美「おはようございます……あら、二人とも眠そうですね…」
さやか「ははは、今日の英語は寝かせてもらおうかなって……」
仁美「もう……」
QB「おはよう、さやか」
さやか「おはよおー」
仁美「?」
まどか(あ、さやかちゃん!)
さやか「うええ!?」
突然、まどかに囁かれたような感覚に襲われた。
まどか(頭で考えてるだけで、会話ができるんだって)
さやか(なにっ!)
まどか(だから、キュゥべえに普通に話しかけるのは、怪しまれるよ…)
さやか(あ)
QB「やれやれ……」
仁美が不思議そうな目でこちらを見ている。
助け舟を借りようとまどかの方に目配せすると、「えー」と念話で断られた。
「えー」て。念話で「えー」て。
QB「今は僕が中継役になってるから話せるけど、普通は魔法少女にならなきゃ無理だからね……」
さやか『そうなんだ……ふーん、一緒に何人かで魔法少女になれば、カンニングも楽勝だね』
まどか『そういう使い方は良くないよ……』
そう考えてみると、色々な使い道は思い浮かぶ。
カンニングなら百選練磨、クイズ番組でも一攫千金!
携帯代も浮くし、言い事尽くめ!
……ああ、かけられる相手が個人じゃちょっと不便か。
さやか(おっと、いけない)
またやってしまうところだった。
私の悪い癖が出てきてしまったみたいだ。危ない危ない。
まったく、考えると楽しくなっちゃうんだから、魔法少女って怖いよなぁ。
『だからあなたたちも、慎重に選んだ方がいい』
『キュゥべえに選ばれたあなたたちには、どんな願いでも叶えられるチャンスがある』
『でもそれは、死と隣り合わせなの』
『んー……んぅ~……』
『どうしたの?美樹さん』
『あっ、いやぁ、なんていうか、教訓にしてるだけなんですけど』
『ちょっとでも“美味しい”と思えた事には、最大限警戒するようにしてるんです』
『? そうね、よく悩むことに越したことはないわ』
† 8月4日
蝉がよく鳴く、暑い日だった。
約束の場所まで歩いていく途中はゆるい坂道で、先はふらふらと足取りのように揺れている。
煤子「大丈夫?ちゃんと水を飲んで」
さやか「おはようございまあす……」
坂の上の煤子さんのもとにたどり着いた私には、一本のペットボトルが手渡された。
ほどよく塩の足されたスポーツ飲料を半分飲み干し、息継ぎをする。
煤子「少しずつ飲まないとお腹を壊すわよ」
けど私は煤子さんの言葉を振り切り、残りあと指一本くらいのところまで一気に飲んでしまうのだった。
煤子「もう」
さやか「ぷはぁー!」
煤子さんは麦藁帽子を被っていた。シャツに、スカートに、タイツを履いている。
夏だというのに、とても暑そうな装いだ。
けれど不思議と彼女は、汗ひとつかいていない。
煤子さんの乾いた頬を見ながら、腕で額の汗をぬぐい、思う。
そこに存在しているはずなのに、存在していないような人だな。って。
近くの林道まで歩き、まばらな木陰にかかったベンチに腰掛ける。
座り、長い黒髪を掃い、脚を組んでから、煤子さんは話を始めた。
煤子「さやかには、守りたいものってある?」
さやか「守りたいもの?」
煤子「そう、身を呈して、何かを捧げて、そうすることで守りたいものよ」
さやか「……どういうこと?えっと、大切なものは守りたいけど…」
煤子「んー、大切なもの、それでもいいかもしれないけど、ちゃんとそれぞれを言葉に出したほうが良いわね」
さやか「……」
深く考えてしまう。
煤子さんの表情を伺おうとしてみたが、彼女は正面の林をじっと見つめていた。
さやか「……お父さんとお母さんは守りたいなぁ」
煤子「ええ」
さやか「あと友達、たくさんいるよ、恭介と、みーちゃんと…」
煤子「なるほど」
さやか「煤子さんも!」
煤子「ふふ、そう、ありがとう」
煤子「けれどさやか、そうね、たとえ話をしましょう」
さやか「うん」
煤子「私は重篤な末期の食道がんに侵されていて、余命はあと1ヶ月だとする」
さやか「え」
煤子「もちろん違うけど、例えよ」
さやか「なんだぁ」
煤子「……私を助けるためには、現金で10億円が必要なの」
さやか「げえ、じゅ、じゅうおく……?」
煤子「さやかはそんな私を守れる?」
さやか「……ま、もれるの?いや無理…かなぁ…」
さやか「……難しすぎるよ、そんな、私のおうちそんなお金もちってわけでもないし、私もおこづかい少ないし……」
煤子「じゃあこうしましょう」
さやか「?」
煤子「さやかにはお金がない、けれど、10億円のお金を、銀行から借りることができる」
さやか「……え」
煤子「それを使えば、私を助けることができるわ、どうする?もちろん借金は私ではなく、さやかのものよ」
さやか「……う、ぐ」
煤子「難しいわね?」
さやか「……むず、かしい」
煤子「ふふ」
煤子「じゃあ次のたとえ話をするわね、さやか」
さやか「うん」
煤子「……そうね、その前にまず、さやか、あなたの家の玄関には、靴は何足ある?」
さやか「え?……5つくらい?」
煤子「じゃあ他に、靴以外では何があるかしら」
さやか「えーっと、傘でしょ?バットでしょ?あとはスプレーとブラシ……かな」
煤子「なるほどね、じゃあ本題に入りましょう」
さやか「? うん」
煤子「さやかはお父さんとお母さんを、守りたい、と言った」
さやか「うん」
煤子「じゃあ、ある日さやかが家に帰ると、そこには…さやかのお父さんとお母さんを殺そうとする、強盗がいた」
さやか「え!」
煤子「強盗の身長は160cm、小柄な青年、だけど手元には木刀が握られていて、その上剣道を経験したことがある」
さやか「わわわ」
煤子「普通ならお父さんとお母さんが一緒になればなんとかできなくもないけど、二人は既に手と足に怪我をして、身動きはできないわ」
さやか「……」
煤子「強盗の青年は今まさに、玄関の少し先の廊下で両親に木刀を……」
さやか「いや!そんなのやだ!」
煤子「…さやかが手を伸ばせる玄関にあるものには、7足の靴、1本のバット、ブラシ、あとスプレーがあるわ、さあどうする?」
さやか「……」
煤子「というよりも、どうなると思うかしら」
さやか「……私じゃ、なんもできないよ」
煤子「……わかるみたいね?」
さやか「うん……だって相手は私より大きいんでしょ?しかも、木刀なんて持ってるし」
煤子「そう、さやかでは、バットを握っても難しいでしょうね」
煤子「もちろん、こんな状況、そう起こるものではないわ」
さやか「うん……」
煤子「けれどねさやか、私が今抱いている未練はね、悔しい気持ちはね、そういうことなのよ」
煤子「私にもっと力があれば……」
さやか「……」
煤子「10億円があれば……バットで青年に勝てるほど、強ければ……」
煤子「失ってから、自分には何が足りなかったのかがわかる」
煤子「失ってから、何が間違っていたのかがわかるのよ、さやか」
さやか「……私も剣道習えば、良いんだね」
煤子「……ふふ、まあ、そうすれば、今話したことが起こっても大丈夫ね」
煤子「後で後悔しないように、よく備えておくことよ……いつでも落ち着いて、間違えないよう、慎重に」
煤子「甘い言葉や、美味しいと思うような話には、すぐに流されてはダメよ?…良と思える話には最大限に警戒すること…」
さやか「うんっ」
煤子「……はあ、言いたいことって、沢山出てくるものね」
さやか「へへへ、わかるよ!」
煤子「ふふ……リフレッシュしましょうか、少し、暑いけれど走る?」
さやか「うん!私、走るの好き!」
† それは8月4日の出来事だった
やっぱりあなたか。顔文字で確信した
無事完結できるよう応援させてもらいます
無事完結できるよう応援させてもらいます
この>>1が誰なのか知らない俺も期待するぜ
さやか「……ん」
「こおら」
ごつ、と教科書が頭へのしかかる。
「最初から居眠りとは、良い度胸だぞ」
さやか「あえ?」
見回せば、クラスメイト全てが私の方を向いていた。
あのちょっと怪しい雰囲気の転校生、暁美ほむらも。
さやか「あひゃぁー、やっひまいまひた」
「涎を拭きなさいっ」
私の授業態度への減点を糧に、教室はちょっとした笑いに包まれた。
念話の途中で居眠りしてしまったらしい。
えっと、まどかやマミさんとどこまで話したっけ。
正直、うつらうつらと空返事ばかりをしていた気がする。内容が曖昧だ。
まどか『もう、さやかちゃん』
さやか『たはー、だって寝不足すぎるんだもーん』
随分と先に進んでしまった板書をがりがりと進めていく。
授業が終わる頃にやっとノートも取れそうなくらいだ。
さやか(……そういえば、ほむらの話をしていたんだっけ)
ちらりと、ボードの手前にいるほむらの後ろ姿を見る。
綺麗な黒髪。
前を走る煤子さんの、揺れる黒いポニーテールを思い出した。
さやか(マミさんはほむらに敵対心を持ってるけど)
さやか(そこまで悪い奴なのかな)
キュゥべえの姿を探そうと見回すと、白いのはまどかのかばんの上で居眠りしていた。
私もそうやって、堂々と居眠りがしたいよ…。
「美樹、じゃあここ、答えなさい」
さやか「え?3と4?」
「……ん、正解です」
まどか「はい」
箸が摘むは、ぷりぷりした美味しそうな卵焼き。
QB「んあむっ」
それを頬張り、咀嚼もなしに一飲みにしてしまう白猫。
美味しそうな料理なのに味わいもしないなんて、罰当たりな。
さやか「まどか、私にもひとつ!どうかひとつ!」
まどか「えー、私も分だよぉ」
さやか「……じゃあ仕方ない!せめて、よく味わって食べてくれぇ…!」
まどか「な、なんでそんな顔するのー!?」
とまぁ、いつもこのような感じで、まどかの弁当を食べているわけです。
さやか「ありがとう、はい唐揚げ!」
まどか「えへへ……」
私があげるのはいつも唐揚げだ。
当然。だって私の弁当には、唐揚げと白米しか入ってないのだから。
まどか「……ねえ、さやかちゃんは、どんな願い事にしたか、決めた?」
さやか「……」
まどかの顔を見て、箸を休める。
まどか「私、昨日の夜ずっと、色々考えてたんだけど……全然浮かばない、っていうか」
さやか「じゃあ、一緒に満漢全席食べよっか?」
まどか「そ、それじゃつりあわないよお」
さやか「そうだよね、釣り合わないんだよね」
箸を唐揚げに刺して、頬張る。
30回噛んで飲み込むまで、まどかもキュゥべえも黙って私を見ていた。
さやか「満漢全席も、世界一のオールラウンドアスリートも、五千年モノのストラディバリウスも」
さやか「考えたけど、やっぱ命のが大事だったよ」
保温機能の高い弁当箱の中で未だに暖かい白米を、がつがつと口の中に掻き込む。
さやか「ぷふぅー」
まどか「…やっぱり、何事も命がけで打ち込めない大人になるのかな、私」
さやか「……」
まどかの表情は、見滝原に来たばかりの頃のそれに戻っていた。
この憂いと陰りのある顔に、何度悩まされたことか。
さやか「心配ないって、まどか」
まどか「……?」
さやか「大人になってから見つけてもいいんだからさ」
そう。
満漢全席もアスリートも、何だって現実で不可能なわけではない。
人間、諦めなければ何でもできるものだと思う。
夢のために命をかけるだとか、そう焦るにはまだまだ早いと、私は思う。
ぴり、と、空気を伝って張り詰めたものが伝わった気がした。
ほむら「……」
扉の方を向くと、ほむらが立っていた。
けど違う、これは……。
さやか「……」
ほむら「……」
顔を横に向けると、隣の棟にマミさんが立っていた。
ソウルジェムを手にこちらを見守っているようだった。
マミ(あら、わかってた?)
さやか(ええ、なんとなくっていうか……)
マミ(ふふ、ここにいるから、安心して)
まどか(はい)
さやか「魔法少女の話?」
一緒にお昼かもしれない。
ほむら「そうよ」
そういうわけではなかったみたい。まぁ当然か。
ほむら「魔法少女の存在に触れないようにしたかったけど、それも手遅れだし」
さやか「魔女の結界だっけ?私たちがあそこにいったから?……あ」
いや、ちょい待ってみよう。
それは少し違うかな?全部間違ってはいないだろうけど。
さやか「キュゥべえと出会ったからってわけね」
ほむら「……そうよ、」
なるほど。あの時私たちを遠ざけようとしたのは、そんな理由があったのか。
マミさんの言ってたとおりってわけね。
ほむら「それで、」
マミさんがモールの近くにいたのは偶然らしいけど、ほむらはどうしてあの場所に居たんだろう。
いや、それはキュゥべえを追っていたからか。私たちを魔法少女にしたくないわけだし。
あれ、なんか違和感あるな。なんだこれおかしいぞ。ん?
ほむら「どうするの?」
ほむらは私たちに魔法少女としての素質があることに気付いていた。それは学校で出会った時からだと思う。
私に意味深な話をしてきたり、まどかに対しても、きっと何かアプローチをしてきただろうから間違いない。
けどやっぱり違和感はある。キュゥべえと契約させないようにするだけなら、脅迫でもなんでもすればいいのに。
そうはせずに、あえてキュゥべえを狙う。随分と私たちにソフトタッチだ。
なぜキュゥべえを?私たちが友達だから?そりゃ考えすぎか。
ほむら「貴女達も魔法少女になるつもり?」
まどか「私は……」
さやか「ねえ、どうしてそこまでして、私達に魔法少女になってほしくないの?」
ほむら「…」
表情は固まったままでわからない。
けれど言葉を受けて、口を閉ざすような奴ではなかったはず。
ほむら「そいつを消して済むのなら……それが楽だから、よ」
さやか「……」
歯切れは悪かったけど、嘘を言っているようには見えない。
けれど答えてもいない。
さやか「私達を魔法少女にしたくない理由は何?」
ほむら「……」
目が泳いだ。私ってばこういうのだけは見逃さない。
……ん、泳いでいたわけじゃなかった。
ほむらは“見た”んだ。隣の棟にいる、マミさんを。
そしてそのジェスチャーがある意味で、気持ちの片鱗を語った。
ほむら「危険だからよ」
きっと嘘じゃない。けどそれだけじゃないことを、私は薄々感じている。
ほむら「ねえ、まど……」
まどか「え?」
ほむら「……いえ」
ほむら「さやか、昨日の話、覚えてる?」
さやか「昨日の……」
――貴女は自分の人生が、貴いと思う?
――家族や友達を、大切にしてる?
そう、こういうことだったわけだ。
だからあえて訊いたのだ。キュゥべえと出会うことを、ある程度想定して。
さやか「それを守るためなら、天秤にかける自分は遥かに軽い、っていう話よね?」
ほむら「……貴女がそうだとしても、今とは違う自分になろうだなんて、絶対に思わないで」
クールビューティの静かな睨み。おお、怖い。
ほむら「でないと、全てを失うことになるわ」
振り返り際に苦虫の脚を食ったような顔を半分見せて、ほむらは屋上から去ろうとする。
まどか「ま、待って」
ほむら「……」
まどか「ほむらちゃんは……どんな願い事で魔法少女になったの……?」
ほむら「……貴女もよ、鹿目まどか」
半分開いたドアへ、ほむらは消えていった。
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