元スレ白望 「二者択一……?」
SS覧 / PC版 /みんなの評価 : ★★★
502 = 473 :
咲 「文字は書けますか?」
エイスリン 「アルファベット!」
咲 「……できれば、日本語で」
エイスリン 「……ヒラガナ?」
咲 「急に自信が無くなりましたね。いいでしょう、必要ならば私が教えます」
自信なさげな態度をとったのは、実は照れ隠しだった。
日本に来てからひらがなの会得に苦心していたが、最近になってメキメキと上達しているのだ。
エイスリン (クルミト、ヒミツノトックン、シテルカラ!)
咲 「それでは、ペンを二本貸してください」
彼女に言われるまま、私は左右の耳に挟んだペンを手渡す。
彼女が二つのペンを軽く撫ぜる。
咲 「これで、大丈夫です」
505 = 484 :
シロ編のひらがなはエイちゃん伏線だったのか
506 = 473 :
片方には、「gold」の文字。
もう片方には、「silver」の文字。
咲 「色分けしたのは、選択肢を書き分けるためです」
咲 「二色ですので……二者択一になりますね」
ニシャタクイツ?
私が尋ねると、宮永咲は丁寧に意味を教えてくれた。
二つの選択から、一つを選び出すこと。
なるほど……。また一つ、私は日本語を覚えた。
咲 「では、早速……小瀬川白望が水を欲しがっていましたね」
咲 「ゆっくりでいいです、書いてみましょう」
シロは薄暗い部屋にいた。
ひとしきり部屋を見回した後、扉に手をかけた。
エイスリン (シロ! ミズ! ハヤク、ノマセナイト!)
私は「silver」のペンを手に取り、慌ててホワイトボードにペンをあてる。
508 = 473 :
咲 「ゆっくりでいいです。ゆっくりでいいですから……」
咲 「まずは、『み』の文字を。書けますか?」
エイスリン 「ウン!」
私はホワイトボードに『み』と書く。
急いで書いたが、自分的に綺麗に書けたことに少し満足する。
咲 「あ、文字の形は反映されないんで、汚くても大丈夫ですよ」
エイスリン 「エ……」
咲 「さあ、続きを書きましょう。『みずを』まで書いてください」
言われるがままに、ペンを走らせる。
もう形など気にしていない。一刻も早く、シロに水を飲ませたい。
咲 「そしたら……そうですね。水を得る、とでもしましょうか?」
私の耳に、彼女の言葉は入ってなかった。
一心不乱に私は文字を書いた。彼女との、初めての会話を思い出しながら。
511 = 471 :
エイちゃんこの後胡桃が死ぬって書くんだよな
512 :
続き気になるけど寝ないとあかん・・・
朝まで残ってないよなぁさすがに
513 = 473 :
―――――――――――――――――――――――――
エイスリン 『パン、タベル?』
白望 「うん」
―――――――――――――――――――――――――
懐かしい、教室での一場面。シロとの初めての会話。
そしてこの直後に、私はシロに引かれて麻雀部の部室へ行ったのだ。
エイスリン (……シロ!)
そして出来上がった、選択肢は――
『みずをのまない』
水を飲まない?……思い出に影響され、疑問文となっていた。
いや、見方によっては否定文だろうか。
咲 「エイスリンさん……。もしかして、小瀬川白望のこと嫌いなんですか?」
私がこの後、必死に説明したのは言うまでもないだろう。
515 :
おちょこちょいなエイちゃん可愛い
ただエイちゃんて書くとどうしても永ちゃんの方が頭に浮かぶ
516 = 473 :
咲 「仕方ないですね。では、次の選択肢で整合性を図りましょう」
咲 「ホワイトボードを裏返してください」
エイスリン 「……Why?」
咲 「両面、描けるようにしておきましたから」
ホワイトボードを裏返すと、確かにそちらも表面と同様の材質になっていた。
宮永咲は、「二色にした意味が無い」や「でも、きっとやらかすから」などと呟いてる。
そして彼女は私に金のペンを手渡すと、しかめっ面でこう言った。
咲 「いいですか、私の言うとおり、一字一句間違わずに書いてくださいね」
エイスリン 「……ハイ」
こうして、初めて私がシロに選択肢を与えた。
『みずをのむ』と『みずをのまない』。
試行錯誤して完成させた二者択一だったため、シロが正しい選択をできるか不安だった。
しかし、シロが迷わず前者を選んだのを見て、私はホッと胸を撫で下ろしたのだった。
519 :
>>515
おっちょこちょいなヤザワ
520 = 473 :
それからとういもの、私はこの不思議な空間で何度も二者択一の提示を行った。
シロが求めれば、私はすぐにホワイトボードにペンを走らせる。
食事をするか、否か。
体を洗うか、否か。
排泄をするか、否か。
水を飲むか、否かの選択については、気を遣って何度も行った。
咲 「小瀬川白望は、現実で起きた火事に無意識でうなされています」
咲 「彼女が頻繁に水を求めるのは、そういったことなんでしょう」
エイスリン 「ワタシ、オナカスカナイ……Why?」
咲 「あなたは99.9%死んでいますから。生に関する欲求が芽生えないんでしょう」
咲 「小瀬川白望はどちらかと言えば生に近い状態ですから」
なるほど。
生に近しい状態のシロは、生の象徴である食欲や睡眠欲を覚えている、ということか。
まだ、死の淵に引きずりこまれないように、必死に闘っているのだろう。
522 :
しえんだああああああ
523 = 473 :
当初、私はシロに選択肢を与えることで、なんとも言えない満足感を得ていた。
私がシロを支えている。いや、シロは私によって支えられている。
……この感情は、背徳感、支配欲といったほうが正しいのかもしれない。
しかし、それらはやがて罪悪感へと変わっていく。
日に日に、シロが死んでいくのだ。
それは、生物としての肉体的な死ではない。
長い孤独の中で理性を徐々に失っていく。いわば、人間としての死だ。
白望 『……あー』
白望 『うぅ……うぁっ……ぁ、あ、あ!』
シロ 「サキ! シロガ、シロガ……ドウシヨウ!?」
シロがおかしくなっていく姿を見る度に、私は慌てふためいてペンを握る。
しかし、その度に彼女は私を諌めるのだ。「まだ、そのときではありません」、と。
どうすればいい? 私に何が出来る?
彼女に必要なものは、一体なんだろう?
527 = 473 :
私は答えを知っていた。
何故なら、状況は違えど同じ心境に立たされたことがあるから。
孤独から死んだ人間を救い出す方法。それは……。
咲 「……小瀬川白望に会いに行く?」
私の提案に、宮永咲は眉をしかめた。
この表情をするということは、彼女は提案を快く思っていないのだろう。
しかし、それでも私は必死に訴えた。すると、彼女も思慮に耽っていく。
咲 「ふーむ、なるほど、なるほど、なるほど……」
咲 「そうですね。そろそろ、いい頃合いでしょうか」
エイスリン 「ジャア、イッテキマス!」
シロの様子が映る白い液晶のようなものに向かって、私は走り出す。
しかし、首から提げたボードを宮永咲に掴まれると、喉から「グエッ」と音が出た。
咲 「落ち着くことを覚えましょう。あなたが行くのは、得策ではありません」
エイスリン 「ドウシテ……?」
529 = 519 :
俺「グエッ」
530 = 484 :
>>529
蛙かなにか?
531 :
ふーむ、なるほど、なるほど、なるほど……
532 = 473 :
咲 「今、興奮状態のあなたが向こうに行けば、何をするかわかりません」
咲 「ましてや、向こうの空間は不安定です。精神状態にかなり左右されすい」
咲 「エイスリンさんという刺激が、小瀬川白望にどのような変化をもたらすか予想できません」
「あまりにリスキーです」という言葉で彼女は締めた。
ならば、どうすればいいのか。きっと、私は必死の泣き顔だったのだと思う。
教えを懇願する私に、彼女はとても優しい表情を見せた。
咲 「ここも、あちらも核はイメージです。他の親しい人を、具象化させましょう」
エイスリン 「グショーカ……?」
簡単に言えば、私以外の誰かをイメージとして登場させる、ということらしい。
そんなことが出来るのか、とも思ったが、シロのマヨヒガと私の理想を実現する力は、
この空間においてかなりの支配を発揮するため、可能なことなのだそうだ。
534 = 491 :
ふんふむ
535 :
福路美穂子ちゃんの美乳揉みたい
536 = 473 :
エイスリン 「デモ……」
咲 「どうしました? なにか、問題でもありますか?」
エイスリン 「ズルイ! ワタシモ、シロニアイタイ!!」
咲 「……はぁ」
溜め息をつかれた。私の嫉妬に対する、深い深い失望だろうか。
それでも彼女は、「どうしましょうか……」と私のために思索をしてくれる。
白望 『だ、誰か……話がしたい』
エイスリン 「!」
咲 「話を、ですか……。なるほど、これでいきましょう!」
彼女は笑顔でポンと拳を打った。
彼女の提案はこうだ。
今回提示する二者択一は、「私以外の誰か」と「話だけをする」こと。
やはり、私の登場は危険すぎるとの判断を下したらしい。
ただし、他の人についても、姿は現さず声のみの登場にする。
そうすることで、私の嫉妬をなるべく抑える作戦だ。
537 = 492 :
しえん
538 = 473 :
エイスリン 「……OK」
私はその提案を了承することにした。
少々不満な点もあったが、何よりこれ以上シロが苦しむ姿を見たくない。
私は銀色のペンを持つ。誰にするべきだろうか。
クルミ? トヨネ? サエ? トシセンセイ? ……決めた。
ボードにゆっくりと文字を書き出す。が、一文字目で宮永咲からストップがかかった。
『く』
咲 「ちょっと、待ってください」
エイスリン 「?」
咲 「……なんと書くつもりですか?」
エイスリン 「クルミト、ハナス!」
私が自信満々に答えると、彼女は何度目かわからない溜め息をついた。
何が不満だったのだろうか。……日本人の言う、「空気を読む」ということは非常に難しい。
539 = 492 :
しえん
541 = 473 :
咲 「よく考えてみてください」
咲 「鹿倉胡桃を、胡桃と呼ぶ。そんな人は限定されています」
咲 「小瀬川白望は勘が良い。すぐに、近しい誰かが選択肢を用意していると察するでしょう」
咲 「さっき、言いましたよね。向こうの空間はとても不安定だ、行動は慎重にしたい、と」
エイスリン 「モ、モウシワケ、アリマスデス……」
咲 「次から気をつけてくれれば、いいですよ。さて、どうしたものか……」
どうも彼女には頭があがらない。
しかし私の失敗を、その都度彼女にフォローしてもらうのは申し訳ない。
どうにかできないものだろうか。
エイスリン 「ク……ク……」
く……。ク……。
……ク、クマクラ? クマクラトシ!
エイスリン 「ジャア、トシセンセイデイイヤ」
またしても溜め息が聞こえてきたが、私は聞こえないふりをした。
542 = 492 :
エイちゃん…
543 = 484 :
エイちゃん編和みすぎぃ!
544 :
ジャア、トシセンセイデイイヤ…じゃあ、トシ先生でいいや
トシさん泣くで
545 = 473 :
『くまくらとしとはなす』
『うすざわさえとはなす』
二者択一が完成した。
センセイを選んだのは前述した通りだ。
サエを選んだのは、クルミと並んでシロと付き合いが長いと思ったから。
なんとなくだけれど、彼女らは私とトヨネよりシロを理解している気がした。
咲 「さて、小瀬川白望はどちらを選ぶんでしょうか」
エイスリン 「……ドキドキ」
シロは吸い込まれるように、『うすざわさえとはなす』と書かれた扉の前に進んでいく。
必死に扉を開けようとしているのだが、手が震えているのか、うまく取っ手を掴むことができていない。
エイスリン 「シロ……ガンバッテ……」
そして、やっとのことでシロが取っ手を掴むことに成功する。
ゆっくりと扉を押し、徐々に速度を上げていくと……扉を完全に開け放った。
エイスリン 「ヤッタ! サキ、ヤッタネ!」
喜びのあまり、隣にいた宮永咲に抱きつく私。
「キョーキランブです」と呟きながらも、彼女は頬を掻いてはにかんでいた。
546 = 492 :
しいいいいいえんんん
547 = 473 :
しかし、喜びで膨らんでいた心は徐々に萎んでいった。
何故か。簡単に言えば、嫉妬だ。
塞と楽しげに話すシロの姿を見て、また私の心の汚い部分が姿を現したのだ。
白望 『えーと……塞の好きな食べ物って、なんだっけ』
エイスリン 「マーマイト、タップリノ、パン……」
シロと擬似的に会話をすることを試みるも、空しくなってすぐにやめた。
確かにシロの孤独は辛いと思う。けれど……私だって、孤独なのだ。
心が急速に冷えていく。
エイスリン (シロ……デンワオワラナイカナ)
ぼんやりと、そんなことを考えていた。
いけないとはわかりつつも、心の悪魔はチラチラと自己主張する。
きっと、私はシロと「孤独」を共有することで、自我を保とうとしているのだ。
そして次の瞬間……
白望 『塞、友達になってくれてありがとう。本当に大好きだから……』
私は心の底から、親友であるサエに嫉妬してしまった。
548 = 495 :
なまじエイスリンの必死さが伝わってくる分、
終末に待ってる悲しみの大きさを思うとどうにも堪らんね
549 = 492 :
エイちゃああああん!!!
550 = 473 :
「本当に大好きだから」
その言葉が私ではなく、他の人に向けられたことが悲しかった。
もちろん、シロがみんなのことを好きなのはわかっている。
それと同様に、私だってみんなのことが大好きだ。
ただ、死を待つしかない運命、この暗闇での長い孤独。
シロだけではない、気づけば私も狂気の世界へ堕ちているのだ。
エイスリン 「シロ……ヒッグ……エグッ」
涙が止まらない。
シロの名前を呼べば呼ぶほど、涙の量が増えていく。
このとき私は初めて、自分の死に対する運命を呪ったのだった。
咲 「エイスリンさん……」
涙を流し、嗚咽を漏らし、肩を震わせる。
そんな私を、宮永咲はずっと抱きしめてくれていた。
みんなの評価 : ★★★
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