元スレ白望 「二者択一……?」
SS覧 / PC版 /みんなの評価 : ★★★
251 = 206 :
来てたか
支援
252 = 142 :
白望 「……」
辛い現実は忘れてしまえばいい。
確かに、その通りかもしれない。
塞 「それじゃあ、二本場いくよー」
思考が徐々に切り替わっていく。
ホテル火災、意識不明、生死の境……。
……みんなとの麻雀、会話、時間。
胡桃 「そろそろ塞を止めないと!」
白望 「コンビ打ちしよ……」
豊音 「トリオ打ちでもいいよー」
塞 「ちょっと、なんで私だけ!?」
トシ 「ふふ……」
エイスリン 「シロ、ガンバッテ!」
気づけば、私の視野は目の前の光景に限定されていた。
253 = 156 :
さるよけ
254 = 142 :
塞 「うー……ノーテン」
胡桃 「ノーテン!」
豊音 「ノーテンだよー」
白望 「……テンパイ」
東三局二本場は、私の一人聴牌で流れた。
オーラス突入。本場継続で、私に親番が回ってきた。
白望 (さて……)
両面待ちの聴牌がうかがえる、二向聴の好配牌だ。
これなら真っ直ぐ和了りを目指すことができる。
次巡、ドラの四萬を引き入れ一向聴。
さらに二巡後、五筒を引き聴牌。五筒と西のシャボ待ちだ。
256 = 142 :
白望 (聴牌……)
役無し聴牌。リーチをかければ、立直・ドラ2。
五筒も西もまだ一枚も切れていない。和了の目はある。
だが、立直をかければ豊音に追っかけられる危険性がある。
背向のトヨネ――。先制リーチ者から、ほぼ100%の確立で出和了する。
白望 (ここは、手変わりを待とう……)
まだ序盤だ。
豊音が聴牌していない可能性もあるが、場の支配に常識は通用しない。
ここは闇聴で和了れる手を作るべきだろう。
白望 (張った……)
次巡、六筒が入った。
周辺の牌は、二筒・三筒・四筒・五筒・五筒。
五筒との入れ替わりで、一筒・四筒・七筒の三面聴、平和がついて聴牌。
和了り牌は、まだ九枚も残っている。私は迷わず五筒を河に捨てた。
257 = 142 :
白望 「ツモ、2900オール」
聴牌から二巡後、四筒を引いた。
どうやら、今回は配牌、ツモの引き、流れが私に傾いたようだ。
豊音 「リーチかけずかー」
胡桃 「私の真似だ!」
塞 「豊音がいるからでしょ……」
塞が三五三〇〇点。豊音が一五五〇〇点。
胡桃が二一〇〇〇点。私が二八二〇〇点。
白望 (7100点差か……)
本場を差し引けば、五九〇〇点。
塞の背中をほぼ捉えたと言って良いだろう。
258 = 142 :
トシ 「引きが強いねぇ」
麻雀に「流れ」が存在するか、否か。不毛な議論だと私は思う。
「流れ」の存在を信じる人もいるだろう。一時の牌の偏りだと切り捨てる人もいるだろう。
ただ事実として、今回のように自然と上手くいってしまうことがあるのは確かだ。
白望 (楽しい……)
こうした時間を過ごしているだけで、自然と表情が緩む。
私は表情の変化に乏しい性質だ。
それでも、ここにいる彼女らは私の些細な変化を見逃さない。
胡桃 「シロが笑ってるー」
塞 「本当だ。やっぱり、こうやってみんなと打つのは楽しいよね」
豊音 「私もちょー楽しいよー」
穏かな心で過ごせる、大切な時間。
その大切な時間を、みんなで共有し続けることはとても魅力的だ。
259 = 164 :
さる
260 = 156 :
よけ
261 = 142 :
白望 「エイスリン」
椅子の背もたれに体を預け反り返り、後ろにいる彼女に顔を向ける。
エイスリン 「?」
名前を呼ばれた彼女は、上下が反転した私の顔を不思議そうな表情で見つめている。
手招きをする。彼女が私の横に立つ、耳元に口を寄せる。心なしか、耳が赤く染まって見える。
白望 「みんなで、ずっとここに居てもいいかもね……」
返事を確認することなく、私は体勢を立て直して前へと向き直った。
心はとても穏かだった。暖かな何かで満たされていた。
胡桃 「なに、二人で内緒話?」
白望 「何でもない……」
豊音 「ちょー気になるんですけどー」
白望 「……塞の牌を覗いてきてってお願いした」
塞 「ちょっと!」
異質な空間は、暖かな笑いに包まれた。
262 = 142 :
今度は、私には「流れ」とやらは味方しなかったようだ。
理牌する直前まで、十三不塔ではないかと疑うほどの配牌の悪さ。
有効な牌はなかなか来ず、たまに幺九牌の周辺牌がお情けに来る程度。
白望 (まあ、そういう時もあるか……)
麻雀を長くやっていれば、必ずどうしようもなく悪い時がある。
塞 「とどめのリーチ!」
豊音 「追っかけるけどー」
早速、他家から連続で立直が入った。
塞も豊音の特質を理解している。
モノクルの汚れを拭いて、掛けなおすと豊音を見つめる。
どうやら、豊音の手を塞ぐ作戦のようだ。
白望 (参ったなあ……でも)
これからここで長い時を過ごすのだ。
今、このときの勝負に拘る必要は無い。
私は身体を少し右に避けて、後ろにいるエイスリンにボロボロの手牌を見えるようにする。
そして眉を少し寄せて、「参ったわ」という表情を作りながら後ろを振り返った。
263 = 156 :
しえん
264 = 220 :
しえん
266 = 172 :
おおきてたか
269 = 142 :
白望 「……エイスリン?」
エイスリン 「シロ……」
彼女は、青い瞳を潤ませていた。
突然の出来事に、私は動揺する。
何故、彼女は今にも泣き出しそうな顔をしているのか?
そして彼女は、一筋の涙を流しながら呟いた。
エイスリン 「ホントニ、ソレデイイノ……?」
白望 「え……?」
質問の意味をすぐには理解できなかった。
恐らく、私は怪訝な表情をしていたのだろう。
彼女は、続けて言った。
エイスリン 「ズット、ココニイル。シロ、コウカイシナイ?」
271 = 142 :
後悔?私が?
みんなとずっと、ここで過ごす。
素晴らしい時間……のはずだ。
トシ 「……シロ、手が止まってるよ」
熊倉先生に言われて、私は慌てて卓に向き直る。
これで、後ろにいるエイスリンの表情は見ることができない。
白望 「……」
二家立直の一発目だ、冒険はできない。
とりあえず、引いてきた三枚切れの北を捨てる。
河に視線を落とす。しかし、思考は対局から徐々に離れていく。
私は彼女の目を直視することを避けた。
卓に向き直ったのは、その真意を隠蔽することに都合が良かったからだろう。
273 = 142 :
胡桃 「……」
塞 「……」
豊音 「……」
胡桃、豊音、塞が引いた牌をそのまま捨てる。
立直をかけた二人は声を発さない。どうやら、和了りではないらしい。
一転して、場は静まり返った。
沈黙が私に言う。逃げるな、答えを出せ、と。
胡桃 「シロ、なにを迷ってるの?」
塞 「ここで、ずっと過ごせばいいじゃん」
豊音 「私たちもずっと一緒だよー」
トシ 「今までと変わらない、誰も傷つくことが無い世界でいいじゃないか」
私を引きとめようとする言葉。
甘美な誘惑だ。私だって、それで良いんじゃないかと思っている。
……本当にそれでいいのか?
274 = 210 :
さる避け支援!
275 = 164 :
さる
276 = 142 :
白望 (私は……)
後ろを振り返る。
エイスリンの言葉を聞きたかった。
何故なら――
さっきの涙は、きっと私のために流してくれたものだと思ったから。
白望 「……エイスリン」
私は彼女の瞳をまっすぐに捉える。
白望 「エイスリンの気持ち、教えて」
エイスリン 「ワタシハ……」
エイスリン 「シロ、シンデホシクナイ」
それだけ言うと、エイスリンは俯いて黙ってしまった。
両手で持ったホワイトボードは、微かに震えている。
白望 「……ちょい、タンマ」
これはきっと、最後の逡巡だ。
277 = 156 :
しえん
278 :
しえんた
279 = 142 :
二者択一。
辛い現実を受け入れて、なおそれでも生き続けるか。
辛い現実から目を背けて、誰も傷つくことのない安穏の世界を選ぶか。
前者の選択は……怖い。
私が現実で目を覚ましたとき、もしみんなが死んでいたら。
あるいは、心に、身体に、大きな傷を負っていて、生きていくのも辛い状況だとしたら。
恐怖が増大すればするほど、後者を選択したくなる気持ちが強くなる。
――辛い現実を選ばないことは、逃げることじゃない。
――誰もがそんなに強い人間じゃないのよ。
熊倉先生はそう言った。
後者の選択への後ろ盾とするわけではないが、
私はその言葉が間違っているとは思わない。
ただ、それが「自分」だけの問題ならば。
280 = 160 :
しえん
281 = 142 :
私は、エイスリンの一言で大切なことに気づいた。
宮守女子麻雀部の仲間。
きっと、私たちはお互いのことを大切な存在として認識しているだろう。
だからこそ、想いは共通しているはずだ。
私はみんなに対して、みんなは私に対して――
生きていてほしい、と。
もし私が今、現実で目を覚ましたら、みんなの無事を祈る。
例え、みんなが目を覚ましてから、辛い現実が待っていようと。
断言する。
ただただ、願うはずだ。
どうか、死なないで。
282 = 142 :
それはきっと、逆の立場でも同じ風に考えてくれるのではないか。
みんなが目を覚まして、私が死の淵をさ迷っているとき。
塞。
豊音。
胡桃。
エイスリン。
熊倉先生。
みんなは、私に生きていてほしい、そう願ってくれるはずだ。
……なんて、驕りかもしれないけど。
白望 (ならば……)
私がもし、この空間で悠久の時を過ごすことを選ぶ。
イメージの中で、みんなと麻雀を打ち続ける。
いつまでも、いつまでも、いつまでも、変わることの無い世界で。
そのとき、現実の私は死ぬだろう。
その選択は、私の生を望んでいるみんなに対する、裏切りだ。
さきほどの考えを、頭の中で訂正する。
誰も傷つくことのない安穏の世界――それは違う。
みんなのためじゃない。自分が傷つくことを恐れているだけの、逃げの選択なのだ。
283 = 230 :
さるよけ
284 = 216 :
しずよけ
285 = 142 :
人生はいつも上手くいくことばかりではない。
時に理不尽な不幸が降りかかることもあれば、
どうしても乗り越えなければいけない、大きな壁が立ちふさがることもある。
上手く事が運ぶときは、力を入れずとも、自然に前に進むことができる。
障害を乗り越えなければいけないときは、流れに抗いながら、全身全霊の力を込めて、前を目指さなければならない。
白い空間で目を覚ましてから、ここでみんなと麻雀を打つまで。
私はいくつかの二者択一に迫られてきた。
突如現れた、森。
はじまりの選択は、その先に進むか、否か。
水を求めてさ迷った。人との関わりを渇望した。
友人の死を拒絶した。現実に目を向けることを決めた。
そう。私は常に、選び続けてきたじゃないか。
前へ進む、その選択を。
286 = 142 :
白望 「……お待たせ」
みんなに一礼し、河と手牌に視線を送る。
まずは、この一局を闘いぬかなければならない。
これはお遊びではない。
私が前に進むための、通過儀礼なのだ。
状況を整理する。
対面でラスの豊音、上家でトップの塞から立直がかかっている。
下家の胡桃も、両者の立直一発目に危険牌をツモ切りしてきた。
胡桃のツモ切りは三巡前から続いている。張っていると考えて良いだろう。
手がまったく伸びず、親被りの危険性もある。辛い状況だ。
続いて、点棒状況の確認だ。
塞が三四三〇〇点。豊音が一四五〇〇点。
胡桃が二一〇〇〇点。私が二八二〇〇点。
四本場、リーチ棒が二本。
和了には三二〇〇点がついてくる。
誰かが和了れば、順位の変動は自然についてくるだろう。
289 = 142 :
そして、私の手は……。
二索・三索・五萬・七萬・八萬・八萬・九萬・一筒・三筒・五筒・八筒・九筒・西
三向聴のクズ手で、攻めるにはあまりに不格好な形だ。
八萬は、塞が今ツモ切りした。完全に安牌だ。
また、八萬は私から四枚見えている。九萬は場に出ていないが、一応壁の向こう側だ。
九筒は胡桃と豊音の現物で、塞の捨て牌には六筒がある。ドラだが、比較的通りやすい牌だろう。
西は胡桃が二枚切っている。三元牌の白が四枚切れ。西は、地獄単騎以外は有り得ない。
落としていくならば、八萬・西・九筒・九萬の順だろう。
残りのツモが八回。オリきることは恐らく可能だ。
他家同士で叩きあいもあるが、お互いにアタリ牌を手に抱えている可能性もある。
もし流局になれば、私の一人ノーテンでも二位は確保できる算段だ。
一ゲームの結果としては、悪くない。
山から牌をツモる――九萬。
向聴数は変わらない。捨てやすい牌が増えたというところか。
白望 (いつも上手くいくことばかりではない、か)
こんなところで、ふと人生と共通したものを感じる。
いや、人生と麻雀を同列に語るなんて、あまりに馬鹿馬鹿しいか。
私はツモった九萬を手牌に引き入れると、五萬を河に捨てた。
290 = 142 :
そこからも、私は危険牌を切り続けた。
手牌から、まず五筒、続いて三筒。
さらに山から引いてきた、六萬、七索。
胡桃 「……むむ」
塞 「突っ張るね……」
豊音 「ちょっと怖いよー……」
振り込むこと、他家が和了ることなど考慮せずに。
ただ、真っ直ぐに前を進み続けた。
そして、五萬を捨ててから五順後、私は手牌から西を切り出した。
白望 (やっとかぁ……)
二索・三索・七萬・七萬・八萬・八萬・九萬・九萬・一筒・一筒・七筒・八筒・九筒
平和・一盃口・ドラ1、高めで純チャン。
安めでも塞を捲くることができるが、そんなものは関係無い。
291 = 278 :
しずもんキラー
292 = 164 :
鴨だか猿だかはっきりしろ!
という支援
293 = 142 :
二巡後、三人が引いてきた牌を河に捨てる。
私はそれを確認すると、残り少ない山へと手を伸ばす。
そして掴んだ牌の下側を、親指でなぞる。
白望 (深いところにいたなぁ……)
確認。そして、確信する。
白望 「みんな……」
深く、深く、深く、息を吸い込むと、一人ずつに顔をしっかりと向けた。
何故かカップラーメンを啜る、熊倉先生。
ホワイトボードにペンを走らせる、エイスリン。
背筋をピンと伸ばして椅子に座る、胡桃。
目深に被った黒い帽子を少し上にずらす、豊音。
モノクルを外して布で磨いてる、塞。
295 = 142 :
瞼を閉じる。
吸い込んだ空気を、ゆっくりと時間をかけて吐き出していく。
全て吐ききると、私は前を向いた。
対面に座る豊音の向こう側には、新しい扉がぼんやりと現れていた。
金色の光が輝いている。まるで豊音に後光が射しているかのようだ。
白望 「……私は、前へ進む」
白望 「辛い現実を、生きていく」
白望 「それが……私の選択だから」
一索を卓に置く。
そして、ゆっくりと手牌を倒す。
白望 「……ツモ。6400オール」
勝負が、決した。
296 :
やだイケメン
298 = 142 :
トシ 「これで、終わりだね」
熊倉先生がパンと手を叩く。
……とても暖かな笑みを浮かべている。
胡桃 「あーあ、負けちゃったかー」
豊音 「最後の和了りは、全く迷いが無かったねー」
塞 「やっぱり、シロはそっちを選んだかー」
三人も私に笑顔を向けている。
優しさに溢れた微笑みだ。
そして……。
白望 「エイスリン」
エイスリン 「シロ……ヨカッタ」
涙で顔を濡らしたエイスリン。
それでも、やっぱり彼女もまた笑顔だった。
299 = 142 :
白望 「それじゃあ、私はそろそろ行くから」
別れに時間はいらない。
私は席を立つと、豊音の背後にある扉の前へと進んだ。
『げんじつのせかいをいきる』
金色に輝く文字。
もう一つの選択肢は……いや、確認する必要も無いか。
トシ 「シロ、これからきっと辛いことがたくさんあると思う」
塞 「でも……私達も力になるから」
胡桃 「そうそう、現実の私たちが助けるよ」
エイスリン 「シロ、……ガンバッテ」
豊音 「ちょー力を合わせていこう!」
餞の言葉は、前に進む足を重くする。
固めたはずの決心を鈍くさせた。
300 :
さるっていうなー
みんなの評価 : ★★★
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