元スレ白望 「二者択一……?」
SS覧 / PC版 /みんなの評価 : ★★★
703 = 473 :
だが、シロはそれらを振り切った。
甘い誘惑を断ち切って――私のほうを振り返った。
白望 「……エイスリン」
彼女は私の瞳をまっすぐに捉える。
白望 「エイスリンの気持ち、教えて」
彼女の瞳からは強い意志を感じる。
それでいて……とても、優しい。
そこにいるのは、私の知っている、いつものシロだった。
だから、私は正直な気持ちを吐露した。
エイスリン 「ワタシハ……」
エイスリン 「シロ、シンデホシクナイ」
目尻に涙が溜まっていった。
706 = 473 :
白望 「……ちょい、タンマ」
長い、沈黙。
白望 「……お待たせ」
そこからの、シロは凄かった。
塞と豊音の立直、胡桃の闇聴に臆することなく牌を切っていく。
まるで、その先が見えているかのように。
序盤に見せた、守りを重視した麻雀はもうそこには無い。
「ちょい、タンマ」
この口癖は、彼女が逡巡に陥る合図だ。
そして、今迷うことなく手を進めていく彼女を見ればわかる。
シロは「迷い」、そして「答え」を出したのだ。
やがて、シロが聴牌する。
平和・一盃口・ドラ1、高めで純チャン。
そして二巡後、彼女は引いてきた牌をなぞると呟いた。
白望 「みんな……」
707 = 672 :
しえん
709 = 473 :
この瞬間、私は彼女の意志を完全に理解した。
ならば、私には急いで用意しなければならないものがある。
彼女が前に進むための、二者択一を。
ホワイトボードに金色のペンで文字を書く。
……できた。
『げんじつのせかいをいきる』
続いて、ボードを裏返して銀色のペンを握る。
が、手が止まる。
選択は決まっているのだ。書く必要があるのだろうか。
エイスリン 「……」
最後のわがままだった。
シロはきっと選ばないだろう。
いや、この選択肢を見ることすら、ないかもしれない。
エイスリン (シロ……ゴメンナサイデシタッ……)
それでも、書かずにはいられなかった。
710 = 672 :
しえん
713 = 484 :
繋がるねえ
714 = 473 :
『りそうのせかいをいきる』
――理想の世界。
それは私にとっての、理想が描かれた場所。
シロと一緒に。ずっと一緒に。
絵を描いたり、お話をしたり、手を繋いだり。
それだけでいい。二人で仲良く、ただただゆっくりと……。
エイスリン 「ウッ……ウッ……」
涙が止まらなかった。
私の恋が、人生が終わろうとしていた。
白望 「……私は、前へ進む」
白望 「辛い現実を、生きていく」
白望 「それが……私の選択だから」
白望 「……ツモ。6400オール」
その時が、きた。
715 = 471 :
辛いわ…
718 = 484 :
泣いた
719 = 671 :
エイちゃん…
720 = 473 :
トシ 「これで、終わりだね」
センセイがパンと手を叩く。
……とても暖かな笑みを浮かべている。
胡桃 「あーあ、負けちゃったかー」
豊音 「最後の和了りは、全く迷いが無かったねー」
塞 「やっぱり、シロはそっちを選んだかー」
三人もシロに笑顔を向けている。
優しさに溢れた微笑みだ。
どうやら弱い私は、最後の最後に折れてくれたようだ。
白望 「エイスリン」
エイスリン 「シロ……ヨカッタ」
言葉は本心だった。ただ、涙が止まることは無かった。
だけど、シロのために、強い私でいたい。
だから私も、精一杯の笑顔をシロに向けた。
723 = 473 :
白望 「それじゃあ、私はそろそろ行くから」
シロが席を立つ。前だけを向いて進んでいく。
決して後ろを振り返ることなく、トヨネの背後にある扉の前へと進んだ。
『げんじつのせかいをいきる』
その瞬間、私は幸福に包まれていた。
不思議な能力も、道具もいらない。
私の言葉で、シロを間接的に彼女を導くことができた。
私の気持ちで、シロを助けることができたのだ。
トシ 「シロ、これからきっと辛いことがたくさんあると思う」
塞 「でも……私達も力になるから」
胡桃 「そうそう、現実の私たちが助けるよ」
724 = 473 :
シロを送り出す言葉。
「力になる」、「助ける」
現実の彼女達に、これからがあるからこその言葉。
でも、私にはこれからが無い。
シロと、クルミと、サエと、トヨネと、センセイと生きるこれからが無い。
だから、私はこう言うしかなかった。
エイスリン 「シロ、……ガンバッテ」
視界が霞む。意識が薄れていく。
エイスリン (ミンナ、バイバイ……)
必ず、みんなで現実を一緒に生きぬいてください。
どうか……シロを支えてあげてください。
726 = 473 :
白望 「みんな……ありがとう」
薄れゆく意識の中。
最後に私が聞いたのは、大切な人の感謝の言葉だった。
728 = 473 :
見知らぬ、白い天井。
焦点は定まらず、頭はぼんやりとしている。
エイスリン (……テンゴク、カナ)
死の実感が無い。
意識が朦朧としていると、空間もあやふやだ。
本当に、私は死んでしまったのだろうか。
手を動かしてみる。問題なし。
膝を曲げてみる。こちらも問題なし。
首を傾けてみる。
左。何やらよくわからない機器だらけだ。
右。ミギ……。
胡桃 「エイちゃん……」
大泣きしたクルミが抱きついてきたのは、その直後だった。
729 :
え…
731 :
えっ
732 :
ほう
734 = 473 :
胡桃 「良かった……。良かったっ……!」
ボロボロと涙を流しながら、抱きしめる力は徐々に強くなる。
その圧力が、暖かさが、私に生きていることを実感させる。
エイスリン (ワタシハ、イキテル……?)
ズキン。
激しい頭痛が私を襲う。
それと同時に、胸が痛む。呼吸が荒くなる。目が霞む。
エイスリン 「ウッ……ウゥ……」
胡桃 「エイちゃん、どうしたの!?」
あまりの痛みに呻く。体が捩れる。
細めた視界の隙間から、泣き叫ぶクルミが見える。
どうやら、これは神様が……。
いや、“the god of death”が与えてくれた、僅かな時間のようだ。
735 = 473 :
ならば、この残された時間をどう使うか。
エイスリン 「ク、ルミ……。シ、ロ…… シロハ……」
胡桃 「エイちゃん……シロは、まだ意識を取り戻してないの」
エイスリン 「ソ……ナン……ダ……」
胡桃 「エイちゃん! 大丈夫!? 苦しいの!?」
エイスリン 「キイテ、クルミ……」
私は力を振り絞って、クルミの目元に手を添える。
そして震える人差し指で、そっと涙を拭った。
胡桃 「エイちゃん……」
エイスリン 「ホワイト……ボード……ペ、ン」
736 = 471 :
さる
737 = 671 :
しえん
738 = 473 :
胡桃 「ホワイトボードとペンだね!?」
クルミが慌てて、辺りを見回す。すぐに見つかったようだ。
手渡された愛用のボードは、少し黒く焦げていた。
死神が私に時間を与えてくれたというのなら、
私はここに記そう。シロへのメッセージを。
全身全霊の力を込めて、私は右腕を動かしていく。
一字、一字、ゆっくりと。震える右手で。だが、なかなかうまく書けない。
胡桃 「エイちゃん、頑張って」
クルミが目を瞑ったまま、手を添えてくれる。
震えが止まる。……いつも、クルミには助けられる。
たった十一文字が、とても遠かった。
やっとの思いで完成させたそれを、クルミに渡す。
エイスリン 「クルミ……コレヲ、シロニ……」
クルミが頷きながら、ボードに視線を落とす。
すると、クルミは私をキッと見据えてこう言った。
胡桃 「エイちゃん、一番伝えたい気持ちを書かなきゃだめだよ」
強気な瞳は、濡れていた。
740 = 473 :
エイスリン (……フフッ)
やはり、クルミには敵わない。
必死に書いたにも関わらず、あっさりと本心を見抜かれた。
『しろ だいすき』
本当はこの六文字が書きたかった。
だが、私はそれを書かなかった。いや、書けなかったのだ。
これから死んでいく私の気持ちを押し付けたら、シロを困らせてしまうことになる。
エイスリン 「マエニ、イッタヨネ……」
胡桃 「……エイちゃん?」
エイスリン 「クル……ミナ……ラ、シ……ロ、アゲル、ッテ……」
胡桃 「嫌だ。嫌だよ、エイちゃん、約束したじゃない……」
ああ、どうやら、クルミとの約束は破棄したほうが良さそうだ。
告白するときは、二人一緒に……。でも、もう私には時間が無い。
大丈夫、クルミ。
私のことは気にしないで、シロに気持ちを伝えて。
エイスリン 「ク、ルミ………シ……ロ…ヨ……シ……ク…」
胡桃 「エイちゃん! エイちゃん!!」
743 = 473 :
シロ。
散々迷わせて、ごめんなさい。
そして。
前に進んでくれて、ありがとう。
745 :
きてた
747 = 473 :
私は一人、病室のベッドでホワイトボードを抱えて震えていた。
さんざん泣き腫らした顔は、きっとひどいことになっているだろう。
胡桃 (エイちゃんを助けられなかった……)
後悔の波が押し寄せる。自責の念に苛まれる。
シロと、エイちゃん。
二人が一緒になれるように、色々と画策をしてきた。
だが、それも全て泡に帰した。
やはり、あのときに選ばれるべきだった。
悔やんでも仕方が無い。だが、それでも……。
胡桃 (あのとき、私が死ぬべきだったんだ)
750 = 473 :
三日の意識不明の間、私は不思議な体験をしていた。
まるで幽霊のように、現実と、暗い世界をいったりきたり。
ベッドで機器に繋がれている自分の姿も見た。
お医者さんと、熊倉先生が話している声も聞いた。
お医者さんは言っていた。
エイちゃんは、助かる可能性がほぼない、と。
それを聞き、私は絶望した。
助けることはできないのだろうか。
その直後、エイちゃんの世界が出来上がった。
何故か私もそこにいた。
そして、私はエイちゃんに近づいた。
芽生えた能力、「自分を隠す力」を利用して。
みんなの評価 : ★★★
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