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元スレ白望 「二者択一……?」
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ホラー?サスペンス?ミステリー?的なものが苦手な人はごめんなさい
だそうです
だそうです
>>1代行thxです
ホラー?サスペンス?ミステリー?的なものが苦手な人はごめんなさい
ホラー?サスペンス?ミステリー?的なものが苦手な人はごめんなさい
私は真っ白な空間にいた。
白望 (……ここはどこ?)
一昨日まで、全国大会の舞台で戦っていた。
結果は……チームは二回戦で負けてしまった。
だから、昨日はみんなと東京観光を楽しんだ。
朝から夜まで、みんなと思い出をいっぱいつくって。
夜に滞在先のホテルに戻ると、一日の疲れからか、すぐに眠りに落ちた。
もし目が覚めたのならば、そこにはホテルの部屋内の風景があるはず。
白望 「……」
だが、周りは見渡す限りの白。
何もない。誰もいない。音もない。
白望 (……夢、だろうか)
夢にしては、妙に現実感がある。
例えば、私自身を形容する姿かたち。
現実と変わらない立体感・質感を保っている。
ただ、服装は寝るときに着ていた寝巻きではなく制服だ。
頭。
首。
腕。
足。
一つ一つ、丁寧に動かしてみる。
私自身の意思に背くことなく、四肢や関節は正常な動きをした。
白望 (夢の世界で、ここまで自由に動けるものだろうか?)
頭の中で、いくつかの疑念が浮かぶ。
この世界は現実か?夢か?
現実だとすれば、ここはどこだ?
ホテルに泊まっていたみんな――
一緒の部屋のエイスリン、隣の部屋の塞、胡桃、豊音はどこにいってしまった?
しかし、考えても現状に変化が起きる様子は無い。
仕方ないので、私は再び寝る体勢に入ることにした。
白望 「……ん」
寝返りをうつ。なかなか寝付くことができない。
不安のせいもあるだろう。ただ、それだけではない。
やたらと、喉が渇くのだ。
白望 「……水」
私は飲み物を探す。
しかし、もちろん辺りにそんなものは見当たらない。
白望 (……暑いなぁ)
無機質と思われた白の世界だが、温度という概念はあるようだ。
さきほどまでは気づかなかったが、けっこう暑い。
実際に行った事は無いが、まるで砂漠にいるような気分だ。
額からは汗が滴り落ち、水分を欲した身体は唾をゴクンと飲み下す。
白望 「水が飲みたい……」
水を渇望したそのとき――目の前の景色に変化が起きた。
まず、白の世界の一部が茶色に塗られていく。
それは歪な形に広がりながら、凹凸が現れ立体感を増していく。
土だ。地面だ。
小石が散らばり、小さな虫が這っている。
次に、地面にぽつぽつと深緑色の植物が生え始めた。
雑草ばかりではない。小さな木々の芽も顔を出している。
自然物の成長は尋常ならざる速度で進んでいく。
草や葉は生い茂り、芽を出したばかりの木々は天に向かって伸びていく。
目の前には、一瞬で森林地帯が形成された。
背の高い木々に囲まれ、奥の空間は暗闇に包まれている。
そして、森から私の方へと、徐々に橋が形成されていく。
やがて私の足元を端として、年季の入った木造の橋が架かった。
私は目の前の超常現象にも、何故か冷静でいることができた。
逆に言ってしまえば、既に理性を失っているのかもしれない。
後ろを振り返る。そこには、未だ何も存在しない白い空間が広がっている。
前に向き直る。そこには、草木に囲まれた黒い空間が奥へと続いている。
私の足のつま先は、ちょうど白と黒の世界の境界線だ。
行くべきか。
行かざるべきか。
白望 「……行ってみよう」
少し逡巡し、その結論に至った。
そして私は、朽ちかけた橋へと足を踏み出した。
いつも以上に重い身体を引きずりながら、森の中をさまよい続ける。
白望 「……はぁっ、はぁっ」
口癖が「ダルい」の私だが、果たしてここまで体力が無かっただろうか。
全身に乳酸が溜まっている。腕も、足も徐々に上がらなくなってきた。
白望 「……っ」
しかし、それでも行かなければならない。私は進むことを選んだのだから。
それに、今まで迷った末の選択が悪い結果を招いたことはない。
それから、どれくらい歩いただろうか。
どこまでも続くと思われた森だが、やがて開けた空間へと出た。
白望 「……うっ」
暗闇に馴れて拡大した瞳が、急に差し込んだ光に痛みを感じた。
やっと、瞳が明るさに慣れてきた。
収縮した瞳で目の前の光景を確認する。
眼前には、立派な黒い門を構えた大きな屋敷がある。
そして、屋敷の庭には紅や白の花が咲き乱れ、
人為的に作られたであろう囲いの中には、沢山のニワトリ、牛や馬などの家畜がいる。
白望 (誰か住んでいるのかな……?)
しかし、屋敷は不気味なほどに静寂に包まれている。
廃墟だろうか。
白望 「……ん」
不意に喉の渇きを思い出す。
元はと言えば、水を欲してこの森に入ったのだ。
屋敷の中には、きっと何かしら飲み物もあるだろう。
白望 「……お邪魔します」
私は鉄製の黒い門に手をかけた。
屋敷は外見だけでなく、中身も立派だった。
内装は和を基調としており、私の故郷である岩手に多い家の造りにも似ている。
今、腰を下ろしている座敷は、食事をとる場であろう。
歪な形をした木製の机には、綺麗な柄の食器が多数並べられている。
白望 「すみません、誰かいませんか?」
恐らくいると思われる家主に呼びかけてみる。
が、返事はない。
白望 (本当に誰もいないのか……?)
見れば、火鉢にはまだ火が生きていた。
そして、囲炉裏には沸きっぱなしのお湯がかけてあるのだ。
人がいないと言うには、あまりに不自然な状態だ。
姿は見えないが、僅かに人の気配も感じる。
白望 「……」
しばらく、ぼんやりと火鉢を見つめていた。
暖をとるにしては、少々火の勢いが強いように感じる。
一点を見つめていると、握った手、額、脇が冷たい汗で滲んだ。
とにかく、喉が渇く。早く水が飲みたい。
白望 「誰かいませんか?」
少し、大きな声を出してみる。
けれども、やはり返事はない。
白望 (……家を探ってみるか)
私は重い腰を上げ、屋敷の探索に取り掛かることにした。
まずは、一番先に目に付いた扉に手をかけよう。
扉を開けると、そこには小さな空間が広がっていた。
光源は天井に吊るしてある小さなランタンのみだ。薄暗い。
そして、この小部屋の探索はものの五分で終わってしまった。
なぜなら、なにも無いのである。
存在するのは、小さなランタン。
今入ってきた、後方にある扉。
そして、更に奥に続くであろう前方の扉。
白望 (……どうしようか)
これ以上、勝手に他人の家の中を進むのも気がひける。
一旦、さきほどの部屋に戻ったほうが良いだろうか。
念のため、座敷の様子を少し確認してみよう。
そう考え、入ってきた扉を引こうとする――が、開かない。
白望 「……?」
おかしい。
確か、木製の扉には鍵のようなものはついてなかった。
たてつけが悪いのだろうか。
もう一度、引いてみる。しかし、微塵も開く気配が無い。
白望 (閉じ込められた……)
そう思ったときだった。
信じられない光景が目に飛び込む。
目の前の扉に、銀色に輝く文字が浮かび上がってきたのだ。
『み』
白望 「……み?」
『みずを』
白望 「……みずを?」
『みずをのまない』
白望 「みずを……のまない?」
扉には、銀色の文章が煌々と輝きを放っている。
みずをのまない。水をのまない。
……ああ、『水を飲まない』か。
そのままの意味で理解すると、水を飲むな、ということか。
それとも、水を飲まない? という疑問文だろうか。
考えを巡らせていると、今度は背後から金色の光の靄を感じた。
白望 (まさか……)
振り返ると、そのまさかだった。
奥に進むため、と思われた扉にも文字が浮かび上がっていた。
金色。短い文章。
『みずをのむ』
白望 (水を……飲む)
文章を心で反芻した瞬間、喉がごくりと鳴った。
水。
欲しい。水が欲しい。
白望 「……」
私の身体は自然とそちらの扉へと向かう。
頭の中には、この異常な状況に対する疑問は一切浮かんでこなかった。
ふらふらとした足取り。恐らく、目は虚ろになっているのではないか。
気づけば、それほど水を求めていた。
『みずをのむ』
金色の光を放つ文字の前に立ち、ポツリと呟いた。
白望 「私は……水を飲む」
扉に手をかけ、ぐっと力を込めた。
白望 「……ふー」
喉の渇きが満たされ、一息つく。
傍らには、机の上に置かれたガラス製の水差しとコップ。
白望 「……ダルい」
少し眠気を催したところで、不意にそんな言葉が口をつく。
この未知の世界に迷い込んで、初めて口癖が出た。
水分を補給したことで、精神が安定してきた証拠だろう。
白望 (それにしても……ここは一体どうなってるんだ?)
私が扉を開けたその先にあったのは、まったく同じ小部屋だった。
存在するのは、小さなランタン。
水を求めて開けた、後方にある扉。
そして、何処へ続くかわからない前方の扉。
違ったのは、机と、その上の水差しとコップだけ。
白望 (恐らく水が置いてあったのは、『みずをのむ』と書かれた扉を選択したから)
二つに一つの選択が、結果として現実に反映された。
馬鹿馬鹿しい結論ではあるが、それ以外あり得ないのも事実だ。
思えば、白い空間で目を覚ましたときから、森を抜け、
この屋敷に迷い込むまで、不可思議の連続であった。
夢か否かはわからないが、この世界ではあり得ることなのだ。
白望 (みんなは……どうしてるかな)
眠気におされて瞼を閉じると、部活の仲間たちの顔が浮かんでくる。
……塞。……胡桃。……豊音。……エイスリン。
……それから、熊倉先生も。
もし、この世界から戻ることができなかったら、みんなとはもう会えないのだろうか。
いや、これ以上そんなことを考えるのは……。
白望 (……ダル……い……)
さ迷う思考をシャットダウンし、私は眠りへと落ちていった。
それからとういもの、私はこの不思議な空間で何度か二者択一を行った。
食事をするか、否か。
体を洗うか、否か。
排泄をするか、否か。
水を飲むか、否かの選択も何度か行った。
私はこれらの二者択一に対し、迷うことなく前者を選択してきた。
何故なら、これらの二者択一には迷う要素が無い。一方がメリットで、一方がデメリットなのだから。
第一、扉に文字が浮かび上がるのは、きまって私が何かを望んだときだった。
それに気づいてからというもの、私は生理的欲求に従い、人間としての生活に関する事項を優先的に望んだ。
白望 「……ぁ」
しかし、もはや限界だった。
薄暗い空間、そして長い長い時間の中で、私は孤独に耐えることができなかった。
白望 「だめだ……」
白望 「頭が変になりそうだ……」
白望 「だ、誰か……話がしたい」
白望 「誰でもいい……話し相手が……」
部屋の中央に蹲った私は、右手で頭を掻き毟り、左手の親指の爪を噛む。
「誰でもいい」と口にしたものの、錯乱寸前の頭の中で浮かぶのは、
やはり、宮守女子で一緒に過ごしてきた仲間たちの顔だった。
そのとき、視界の両端にぼんやりとした光が入り込んできた。
白望 「……!」
私は慌てて立ち上がる。
まずは左だ。選択の度に入り口となる、後方の扉を見る。
『く』
白望 「……く?」
銀色の文字は、そこで動きを止めた。
そしてしばらくすると、続きの文字が浮かび上がってくる。
『くまくら』
白望 「くまくら……」
『くまくらとしとはなす』
白望 「熊倉トシ……先生と話す」
思わず、扉を開こうとした。
先生と会える。話すことができる。
そう考えただけで心が躍ったが、その思考は金色の光に遮られた。
白望 「……」
ゆっくりと動きを止める。
そうだ。これは二者択一なんだ。
もう一つの選択肢が、私には用意されている。
振り返った先の文字は、あまりに魅力的な光を放っていた。
『うすざわさえとはなす』
白望 「……塞」
決して、熊倉先生が嫌いだったとか、そういう訳ではない。
先生のことはとても信頼している。豊音とエイスリンに引き合わせてくれて、
インターハイ予選出場すら危ぶまれた麻雀部を、全国まで率いてくれたことも感謝している。
ただ、それ以上に会いたかったのだ。話したかったのだ。
かけがえのない友達である、臼沢塞に。
金色の光に誘い込まれるように、私はゆっくりと歩みを進める。
白望 「……」
塞に会いたい。
白望 「塞……」
塞と話したい。
白望 「塞っ……」
塞。塞。塞。
私は縋り付くように、扉の取っ手を掴もうとする。
緊張しているためか、なかなか取っ手を捉えることができない。
カリッ、カリッ、とさ迷う指が扉を引っかく。
その様は、まるで隔離された者の末路を辿っているかのようだ。
やっとの思いで取っ手を掴むことができた。
震える右手を左手で抑える。体の芯から深呼吸をする。
大丈夫。塞はこの扉の向こうにいる。
白望 「……よし」
気持ちを落ち着かせるように、ゆっくりと扉を押す。
扉がギギ……と軋みをあげる。金色の光の筋が漏れ出す。
白望 「私は……」
扉を引く速度を、徐々に速めていく。
それにともない、金色の筋は太さを増し、帯となる。
白望 「私は……臼沢塞と話す」
完全に扉を押し切ると、私は金色の光に包まれた。
白望 「……」
光が徐々に引いていくと、次の小部屋の様子が明らかとなってくる。
小部屋は相変わらず殺風景で、ぼんやりと光を放つランタンが揺れ、机が置かれているだけ。
そしてそこには……塞の姿は無かった。
白望 「そ、そんな……」
膝から崩れおちる。
待ち望んでいた結果が、裏切られたのだ。
ひどい裏切りだ。ルール違反だ。
期待させてから、どん底に落とす最悪のやり方だ。
私は誰かも分からない、存在するかもわからない、
この二者択一の小部屋を用意した『ナニカ』を呪った。
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