元スレ妹「兄さんって呼ばせて下さい」
SS覧 / PC版 /みんなの評価 : ★★★×4
351 = 293 :
妹「だからこそ、今のような自分になったんだと思います」
男「……それは」
妹「お兄ちゃんのような、強い意志」
妹「躊躇わず、今を生きようとするその覚悟」
男「…………」
妹「わたしに、その時が来ても」
妹「どうか、授かっていますように」
男「……妹」
妹「もし、それでも──」
352 = 293 :
妹「わたし一人じゃ、どうにもならない程のものだったとしたら」
妹「お兄ちゃん……」
男「……ああ」
妹「わたしの側にいて……」
妹「一緒に、背負ってくれますか? 助けてくれますか?」
男「…………」
男「……もちろん」
男「──そのつもりだよ」
……………。
………。
356 = 260 :
しえん
357 = 293 :
男『今度こそ、負けないからなっ』
親友『倒せるもんなら倒してみろよ』
男『ちっ、いい気になりやがって』
親友『そりゃ、今まで全勝だから、いい気分ではあるね』
男『くそっ……絶対に倒してやる』
妹『頑張れーっ!』
親友『……おい』
妹『もぐもぐ……ん? わたし?』
親友『菓子食ってばかりいる、そこのお前だよ』
妹『なによ、お兄ちゃん』
親友『そうだ、お前は俺の妹だろ?』
妹『だから?』
358 = 293 :
親友『応援するのは、俺にしろって』
妹『んー……』
妹『やっぱ、兄さんを応援する』
親友『なっ……』
男『残念だったな。この子は優しい『兄さん』がいいみたいだ』
なでなで。
妹『ふふっ』
親友『ちっ……今に見てろよ』
男『はは、燃えてきたじゃねぇかっ』
……………。
359 = 293 :
男『よっしゃーっ!』
妹『やったね! 兄さんっ!』
親友『……まぐれだ……絶対、まぐれだ……』
男『うおおおっ! 勝利の雄叫びっ!』
妹『ひゃあほおおおっ!』
ぎゅっ。
男『この可愛いやつめっ!』
妹『うわっ、に、兄さん……』
男『あ……ご、ごめん』
妹『……え、ええと』
男『その……感極まってさ……本当に悪い……』
妹『い、いや、別に……』
360 = 293 :
親友『…………』
親友『おーい、そこのお二人さん』
男・妹『は、はいっ!?』
親友『キリもいいし、そろそろゲームを止めよう』
男『ん? いいのか、俺の勝ちで終わりで』
親友『ふんっ、たかが一勝で何言ってんだよ』
男『……まあ、そうりゃそうだけど』
妹『良かったね、兄さん。勝ち逃げだよ』
男『お、おう』
親友『そんなことより──』
親友『じゃーん、これはなんでしょう?』
男『ん? ビデオ?』
妹『あっ!』
361 = 293 :
親友『実は、こないだ借りてきた映画があるんだ』
妹『……それは……』
男『?』
親友『他の奴は全部二人で見たんだが』
親友『この一本だけは、未だに見る事ができない』
妹『お兄ちゃん……やめようよ……』
男『どういうことだ?』
親友『見てみろ』
男『……ん……』
男『……ホラー映画か?』
親友『正解』
妹『……うぅ……』
男『ああ、だから嫌がってたわけか』
362 = 293 :
親友『そこで、今日こそは、これを見ようと思う』
妹『お兄ちゃん……やめようよ……』
親友『何だよ、お前、約束しただろ?』
親友『『兄さんも入れて、三人なら見る』ってさ』
妹『言ったけど……』
男『…………』
親友『てなわけで、鑑賞タイムだ』
親友『部屋も暗くして、雰囲気も出そう』
……………。
363 = 293 :
──ぎゃあああああああっ!
妹『きゃああああああっ!』
ぎゅっ!
男『……あっ……』
妹『やだやだっ! もういやっ!』
親友『うわぁ……想像以上にグロいな……』
妹『兄さん兄さんっ』
男『……な、なんだよ』
妹『もう……怖いシーン終わった?』
親友『終わったぞ』
──うぎゃあああああああっ!
妹『嘘つきっ!』
親友『はははっ、騙されるほうが悪いんだぞ』
364 = 293 :
妹『もうやだよぉ……やめようよぉ……』
ぎゅっ!!
男『……お、おう』
親友『本当に、妹は怖い系、苦手だよなぁ』
親友『あー、部屋からカメラもってくれば良かった』
親友『今なら妹のベストショット撮れたのになぁ』
男『おい、タチが悪いぞ』
妹『そうだよ、お兄ちゃんっ!』
親友『分かってるって。撮らないからさ』
妹『……兄さん、終わった?』
男『……うん、大丈夫』
365 = 293 :
妹『はぁ……やっと見れるよ……』
男『…………』
妹『ねぇ、兄さん』
男『ん?』
妹『終わるまで、手握っててもいい?』
男『……え』
妹『だ、駄目かな?』
男『……い、いいよ』
妹『ありがと、兄さん』
男『…………』
369 :
心がざわざわする
だが、④
370 = 293 :
──会社
男「……あの」
上司「ああ、来てくれたか」
男「その、何か、ミスでもしましたでしょうか?」
上司「いや……お前は、ここ最近、よくやってくれている」
男「そうですか……でも、何の用件で?」
上司「聞いたぞ」
男「……は?」
上司「なぜ、もっと早く言わなかった」
男「すみません……その何の話か……」
上司「なかなか、隙を見せない奴だな」
上司「……いや、流石といったところか」
男「……はい?」
371 = 293 :
上司「お前、社長の息子なんだろ?」
男「……え」
上司「さきほど呼び出されたよ」
上司「『いままで黙っていたが、実は……』とな」
男「社長からですか……?」
上司「ああ、全く気がつかなかった」
男「……その」
上司「別に隠していたことを怒っている訳じゃない」
上司「ただ、そんな重大なことに気づけなかった自分を恥じると同時に」
上司「驕りや高慢な態度をとらないお前を凄いなと思ってな」
男「……いや」
上司「正直に言おうか」
上司「ただただ、感心したよ。降参だ」
372 = 293 :
男「……いや、そんなことは全くありません」
上司「それだっ!」
男「へ?」
上司「その低姿勢が君の魅力なんだ」
上司「身分が判明したというのに」
上司「まだ続けようとする、根っからの素直さ」
男「…………」
上司「今まで、なぜかと疑問に思っていたんだが」
上司「やっとしっくりとくる理由が分かった」
男「……疑問ですか?」
上司「ほら、そのだな、初めのうちは君に厳しく当たっただろ?」
男「いえ、それは僕に必要なことでした」
373 = 293 :
上司「君はそう言ってくれるが、やはり私怨がなかったとは言い切れない」
上司「かわいがっていた部下が飛ばされて、確かに、君へ当たった」
男「そんなことは──」
上司「いや、そこは謝らせて欲しい。申し訳なかった」
男「そんな、頭を上げて下さい……」
上司「けれどだ。君をいつの間にか、慕っている自分に気がついた」
上司「初めは無能な部下……いや、これまた、すまん」
上司「その、新入りを俺が鍛えてやろうという気持ちだと思っていたんだが」
上司「無駄に、私の仕事に連れて行きたくなり」
上司「多少のミスも何故だか、自然と許せるようになっていた」
男「……そうだったんですか?」
上司「それが、君の魅力だよ」
374 = 293 :
上司「上の身分の者が醸し出す、独特な高圧感が君にはない」
男「……はぁ」
上司「本当に、今まで、その才能を持っていたというのに」
上司「どこで胡座をかいていたというんだ」
男「……その」
上司「……まあ、そんなことはどうでもいい」
上司「ただ、少しだけ忠告をしておこうと思ってな」
男「忠告ですか?」
上司「というより、だてに長く生きていない年配者の知恵というか、だな」
上司「それを君に授けたい」
男「あ、ありがとうございます……?」
上司「どうせ私は後数年経ったら、定年の身分だ」
上司「出世が遅くてね。もうこれ以上、上にはいけないだろう」
男「いや、そんなことは……」
375 = 293 :
上司「でも、君は違う」
男「…………」
上司「創業者である社長の息子だ」
上司「今しばらくは下っ端で経験させているだろうが」
上司「もう少し経てば、自ずと上の役に就くだろう」
男「……それは」
上司「今ではもう若くない社長も」
上司「ゆくゆくは、会社を息子に継がせたいと思っているはずだ」
上司「君が今後、幾ら無能だったとしても」
上司「自然と重役となり、ひいては、社の長となるだろう」
男「…………」
上司「だが、それでは、部下はついてこないぞ?」
上司「馬鹿な上司だと思われて、身内は敵ばかりとなる」
男「……はい」
376 = 293 :
上司「だからこそ、今の君の魅力を将来にも生かすんだ」
上司「加えて、実績も出せば、誰一人文句を言わないはずだ」
上司「例えそれが、コネでのし上がった若者であっても、な」
男「……あ」
上司「分かっただろ?」
上司「少しでも私の想いが伝わればいいと思っている」
上司「しかし、本当に、君は恵まれているな」
男「……そうでしょうか?」
上司「何を言ってるんだ。もっと親に感謝しなさい」
男「親に……」
上司「君をこの世界に誕生させ、ここまで育ててくれたんだ」
上司「その魅力ある性格も加えてだ」
男「……そう、ですね」
上司「ああ」
377 = 293 :
男「そうだ……」
男「……そうだよ……」
上司「ん?」
男「今の自分がいるのは……親のおかげ……」
男「だからこそ、俺は……」
上司「お、おい、どうした?」
男「なんで、こんな大事なこと……」
男「……でも」
男「どうすればいい……?」
男「俺は……一体……」
男「…………」
男「やっぱり……駄目だ」
男「……この世界からは、もう抜け出せない……」
男「母さん……」
男「……ごめんね……」
378 = 266 :
良いなぁ
この感じ好きだわ
379 :
いいな、支援
381 :
紫煙
383 = 269 :
しえん
384 = 293 :
──車内
妹「わたしに、月に一度の検査って、なんか不思議ですよね」
男「どうしてだ?」
妹「だって、病院に行ったところで、記憶が戻るわけないじゃないですか」
男「それはそうだが……」
妹「家に戻ってから数ヶ月」
妹「けれど、一向に過去を思い出す気配もないんですから」
男「……それでも」
男「やっぱり、お医者さんに見てもらうのは大事だよ」
妹「……分かってはいるんですが」
妹「どうも駄目ですね。最近、ネガティブな思考ばっかりです」
男「…………」
385 = 293 :
妹「お兄ちゃんはなんでだと思いますか?」
男「ん?」
妹「わたしの記憶が未だに戻らない理由」
男「それは……」
妹「お兄ちゃんが、どう考えているのか、聞きたいです」
男「……いや、俺は専門家じゃないから分からないよ」
妹「お願いします」
男「…………」
妹「…………」
男「……はぁ」
男「こんなことは言いたくないんだが……」
男「昔の生活をなぞっているのに、過去を思い出せないってことは」
男「それが今の日々に必要ないってことなんじゃないか」
386 = 293 :
妹「……必要ない?」
男「もしかしたら、記憶があること自体、問題なのかもしれない」
男「思い出すことによって、今に支障をきたすからこそ」
男「身体が無意識のうちにそうさせているんだと思う」
妹「……自殺未遂するほどですからね」
男「もう、やめよう……」
男「これが建設的な会話だとは、俺には思えない」
妹「でも、お兄ちゃんの意見はすごく参考になりました」
妹「何となく、わたしもそんな気がします」
男「…………」
妹「最近、わたし、思うんです」
男「……さっきの話の続きか?」
妹「はい」
388 = 293 :
男「なら、今は聞きたくないな」
男「病院に着いて、検査を受け終わってからにしよう」
妹「……これで最後にします」
男「……ふぅ」
男「分かったよ……」
妹「……ありがとう」
男「…………」
妹「その、わたしが記憶が戻らないのには多分大きな訳があるんです」
男「……どうして、そう思う?」
妹「調べたんですが、大抵の記憶喪失はすぐに治るみたいです」
妹「それは今までの生活をなぞったりすれば、次第に気づくから」
男「……ああ、だから、今もそうしてるだろ?」
389 = 293 :
妹「本当ですか?」
男「どういうことだ……?」
妹「なにか、欠けてるんじゃないんですか?」
男「……は?」
妹「実のところ、わたしも全く思い出せないという訳じゃないんです」
男「……そ、それは本当に?」
妹「はい。誰にも言いませんでしたけど、事実です」
男「いや、待てっ。それは、かなり重要なことなんじゃないか?」
妹「でも、結果的に駄目なんですから意味はないですよ」
男「それでも……」
妹「問題は、思い出そうとする瞬間」
妹「何かが、わたしの記憶が蘇るのを遮ることです」
390 = 293 :
男「……遮る?」
妹「それが何なのか、前までは分からなかったんですけど」
妹「最近、違和感が」
男「……なんだ?」
妹「昔通りと言っている生活に、何か、不自然さを感じるんです」
男「……それは」
男「昔のように、大学に行ってなかったりするからだろ?」
妹「そんな些細なことじゃなくて、もっと根本的な……」
妹「前提をひっくり返すような、そんな感覚です」
男「…………」
妹「お兄ちゃんは、見当つかないですか?」
男「……いや」
391 = 293 :
男「俺には、分からないよ」
妹「……そうですか」
男「すまん……」
妹「いや、お兄ちゃんがそう言ってるなら、わたしの勘違いなんでしょうね……」
妹「でも……何かが、おかしいんですよ……」
男「…………」
男「……少し、焦りが出てきてるみたいだな」
妹「え?」
男「過去を取り戻せない自分に、憤りを感じているんだろ?」
妹「…………」
男「よし、そうだ。今度、時間を作って、どこか──」
392 = 293 :
妹「『前に進みたい』」
男「……え?」
妹「わたしも、前に進みたいんです」
男「…………」
妹「今のままじゃなくて、わたしもお兄ちゃんみたいに」
妹「辛い過去を乗り切って、今を生きたい」
男「……それは……」
妹「ねぇ、お兄ちゃん」
男「……ん?」
妹「最近、見るからにお兄ちゃん、疲れてますよ?」
男「俺が?」
妹「顔も窶れてるし、最近はふざけるのも少なくなりました」
394 = 293 :
男「は、はは……それは、構って欲しいのか?」
妹「はぐらかさないで」
男「…………」
妹「一体、どうしたんですか?」
男「……別に、なんでもないよ」
妹「仕事のこと?」
男「…………」
妹「それとも、人間関係がうまくいってない?」
男「…………」
妹「或いは……」
妹「わたしのことで……」
395 = 293 :
男「――違う」
妹「それは、本当に断言できますか……?」
男「違う、お前のことじゃない」
妹「……でも、なら」
男「…………」
男「あまり、人には話したくはないことだ」
妹「…………」
男「でも、強いて言うなら……」
男「自分自身の存在意義に、疑問を感じてる……ってとこだ」
……………。
………。
399 = 293 :
担任『よし、配り終わったな』
担任『では、志望先を記入しておいてくれよ』
担任『書き終わったら、委員長に渡すか』
担任『それが嫌なら、職員室の私のところまで自分で持ってくるように』
キーンコーンカーンコーン。
担任『……チャイムが鳴ったな』
担任『くれぐれも、適当に書くことはないように』
担任『分かったな?』
担任『では、また明日』
……………。
400 = 293 :
男『んー』
親友『どうした? もう書けたか?』
男『今のところ、普通に進学するつもりなんだけど』
男『どこの高校にしようかなって思ってさ』
親友『何だよ、俺と一緒じゃないのか?』
男『だって、お前、頭いいだろ? 俺は入れそうもないよ』
親友『何言ってんだ。今まで通り二人三脚で助けるぞ?』
男『それはありがたいが……』
男『いつまでも、お前の足を引っ張ってばかりじゃなあ……』
親友『そんなこと言わず、これからも仲良くやろうぜ』
親友『俺はお前と同じ高校いけるなら、少しぐらい苦労構わないさ』
男『……本当か?』
親友『もちろん』
みんなの評価 : ★★★×4
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