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    元スレ武内P「凛さんの朝」

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    401 = 365 :

    加蓮「プリンセスブルー?」

    奈緒「何だそりゃ? お前達こそ、何でニュージェネで一緒じゃないんだ?」


    卯月・未央「へっ?」

    加蓮・奈緒「えっ?」


    未央「いや、え……ちょ、冗談キツイなぁ、だって私達しぶりんからそう…」

    加蓮「私達の方こそ、凛からはニュージェネ一本でやるから、って断られたんだけど」



    卯月「どういう、事ですか……?」

    402 = 365 :

       ・大槻 唯
       ・鷺沢 文香
       ・橘 ありす
       ・アナスタシア
       ・速水 奏
       ・塩見 周子
       ・宮本 フレデリカ
       ・城ヶ崎 美嘉
       ・一ノ瀬 志希
       ・北条 加蓮
       ・神谷 奈緒



    志希「どうして……凛ちゃんは……?」

    アーニャ「!? な……そんなはずありません! リンは参加するとミオ達が…!」

    美嘉「凛? あの子も呼ばれてたの?」


    常務「渋谷凛か……」

    志希「常務、どういう事……!?」

    403 = 365 :

    常務「今回は辞退させてほしいと、本人から申し出があった旨、
       北条加蓮、神谷奈緒から聞いている」



    加蓮「だから、私と奈緒二人でデュオを組む事になったんだけど、
       先輩である凛から色々とアドバイスももらったりしてたんだ」

    奈緒「でも、何でアイツは、あたし達と違う事を未央達に言ったんだろうな?」



    武内P「『Bu-DOPA』の投与中断……既存のドパミン作動薬への切り替え!?」

    武内P「黒質の、変質の兆し有り……なっ……!」


    ちひろ「凛ちゃん、今……どこにいるんでしょうか!?」

    404 = 365 :

    武内P「すぐに美城病院へ向かいます。諸星さん、千川さん、すみませんが…!」ダッ!

    きらり「ここはいいから早く、Pちゃん!!」



    未央「ッ!!」ダッ!

    奈緒「あっ、おい未央!?」

    卯月「未央ちゃん、私も行きます!!」ダッ!



    常務「むっ? 待ちなさい一ノ瀬志希、どこへ行く」

    志希「志希ちゃんやっぱやる気無くしちゃったー、帰るねー」クルッ

    周子「ちょ、えぇぇっ!? ここに来てドタキャンとかそんな…!」

    志希「ごめんねー失踪は志希ちゃんの趣味だからさー、それじゃバイバーイ♪」ガチャッ

    フレ「また明日ねー♪」フリフリ

    バタン

    志希「……!!」ダッ!

    405 = 365 :

    ピッ ピッ

    プルルルルル…

    プルルルルル…


    ガチャッ

    『もしもし、シキか』

    志希「ドクター、今日の検査結果は!? もう終わってるはずでしょ!?」


    『それが、まだ彼女が病院に来ていないのだ。何か聞いていないか?』

    志希「……!!」

    プツッ!

    406 = 365 :

    タッタッタッ…!

    武内P「……!」


    未央「あっ……プロデューサー!!」

    卯月「はぁ、はぁ、ぷ、プロデューサーさん……!!」

    武内P「本田さん、島村さん……!」


    タッタッタッ…!

    志希「!? はぁ、はぁ……!」

    未央「しきにゃん……!」



    武内P「皆さん……」

    武内P「どうぞ私の車へ。ひとまず、至急病院へ向かいましょう」

    407 = 365 :

    ~車の中~

    ブロロロロロ…!

    卯月・未央「…………」

    志希「…………」


    武内P「…………」

    武内P「……一ノ瀬さん」

    志希「…………」


    武内P「あなたは、何か……」

    武内P「渋谷さんの容体、あるいは……治療方針の経緯について、ご存知でしょうか?」



    志希「………………」


    志希「……『Bu-DOPA』の投与が中断されたのは、ちょうど一ヶ月くらい前」

    408 = 365 :

    ~美城グループ附属総合病院 医務室~

    医師「脳のドパミン生成組織を活性化させる作用があるというのは、
       以前にもお話をしたかと思いますが……」

    医師「こちらをご覧ください」

    医師「脳の黒質と呼ばれる部分……ここが、肥大化の兆候を見せていたのです」


    博士「若干16歳という子供の身体に、薬による負荷が耐えられなかったのか…」

    博士「あるいは『Bu-DOPA』自体が強すぎる作用をもたらすものなのか、
       それは現段階では分かりかねます、が……」

    博士「これ以上の投与は危険と判断し、従来のドパミン作動薬、
       プラミペキソールの投与に切り替えたのです」

    博士「以降、経過を注意深く観察している所なのですが……」


    武内P「なぜ、私にそれを教えてくださらなかったのですか」

    医師「…………」

    武内P「私は彼女のプロデューサーであり、この病院の非常勤スタッフです。
        そう要求されたのは、あなた方のはずでしょう!」


    ガララ…

    看護師「失礼します。先生、先ほど渋谷さんが……」

    409 = 365 :

    タタタ…

    未央「しぶりんっ!」

    卯月「凛ちゃ……!?」



    「ウアアァァァッ!! イヤだ、はなしてっ!!」ジタバタ!

    凛父「大人しく、検査を受けなさい! くっ……!」

    「なんでもないっ!! こんなの、なん…!!」ブルブル…!

    「ウウゥゥゥゥァァァァッ!!」ジタバタ…

    ズルズル…



    志希「……ッ」


    卯月「凛ちゃん……?」

    未央「は、はは、え…………なにあれ」

    410 = 365 :

    凛母「病院に行ってくると言って、一人で出て行って……」

    凛母「でも、いつも持って行くはずの検査証が、部屋のゴミ箱に捨ててあったので、
       おかしいと思ったんです」

    凛母「携帯に電話しても、あの子、全然出なくて……」


    凛母「あの子は、家から5駅ほど離れた公園にいました」

    凛母「ママ友の人達から……ツイッターって言ったかしら。
       あの子の目撃情報が無いか、調べてもらって」

    凛母「特に変装もしないから、すぐに見つかったんです。それで、夫と迎えに……」

    凛母「そしたら、あの子、すごく抵抗して……!」

    武内P「…………」


    凛母「凛は……!」

    凛母「凛は、お世辞にも愛想なんて良くないけど、礼儀正しくて行儀の良い子よ!」

    凛母「控え目で、私達にあんなに逆らった事なんて……!」

    凛母「まるで別人みたい、あの子もそう感じているわ!」

    医師「…………」


    凛母「あの子を変えてしまったのね!」

    411 = 365 :

    ~病室~

    未央「し、しぶりん……」

    卯月「…………」


    「みっともないとこ、見せちゃった、ね」

    「でも、大丈夫。心配、しないで」ギュッ

    ブルブル…


    卯月「凛ちゃん……体が、震えて……」

    「心配ない! ってば……気分は、これでもすごく、良いから」

    「……」ガクガク…



    未央「お願い、しぶりん……本当のこと、言って?」

    412 = 365 :

    「……」ギュゥ…

    「私が……嘘を、ついてる、って、言いたいの?」

    「あぁ、そうだ……二人に、渡したいものが…」ゴソゴソ…

    未央「かれんから聞いた!」

    未央「プリンセスブルーなんて、しぶりんがその場で私達に言ったでまかせだって!」

    未央「私達、しぶりんがもっと活躍していくんだって、本当に嬉しかったのに……!」


    未央「何でそんな嘘つくのさ!! そんなに心配されたくない!?」

    未央「ふざけないでよ、いつもそうやって隠して平気ぶって、私達を信用…!!」

    「これ、この間、買ってさ。とりあえず、片耳ずつ…」スッ

    未央「話を聞いてよっ!!」バシッ!

    「ッ!?」

    ガチャンッ! ポロッ…


    卯月「あ……い、イヤリン、グ……?」

    「…………!!」ブルブル…!

    413 = 365 :

    未央「あ……ご、ごめん」

    「未央……!!」

    未央「イヤリング、買ったんだ……へぇ、ちょっとかわい…」

    ガッ!

    未央「うっ! わあっ!?」


    「うるっ……さいっ!!!」グアァッ!

    ドカァッ!


    未央「!! ウアッ……ぐっ……!!」

    卯月「……!!」

    卯月「未央ちゃんっ!!!」ガバッ

    卯月「未央ちゃん、大丈夫ですか!! 頭を……未央ちゃん、しっかり!!」

    未央「え、えへへ、だ……大丈夫、未央ちゃん石頭、へへ、へ……っ!」


    「……ッ」クルッ

    「…………」プルプル…


    卯月「凛ちゃん……」ポロポロ…

    414 = 365 :

    ~医務室~

    博士「……検査の結果は、お世辞にも楽観視できるものではないと言わざるを得ません」

    武内P「…………」

    博士「集中力の低下、痙攣等不随意運動の発現……
       パーキンソン病の初期症状によく似た症状が、見受けられます」

    博士「薬の、副作用によるもの……の可能性がある、という事しか現段階では…」

    凛父「そんな無責任な言い方があるか……!」

    ガタッ!


    凛父「お世辞にも楽観視できないだと!? ふざけるんじゃない!」

    凛父「あの子を苦しめる薬だと知っていれば、我々は同意書にサインなどしなかった!」

    医師「……お気持ちは分かります、ですが落ち着いて…」

    凛父「落ち着け!? よくもそんな台詞をのうのうと言えたものだな!!」

    415 = 365 :

    凛母「……ッ」グスッ…


    凛父「納得できるか!? 希望をチラつかされておいて、
       あの子は今まさに絶望に叩き落とされようとしているんだ!」

    凛父「こうなったのは誰の責任だ、えぇ!? 先生か!?」

    医師「うっ……!」

    凛父「それとも博士さんか、芸能事務所の人か!? 誰なんだ、答えろっ!!」

    博士「わ、私はただ……!」オロオロ…

    武内P「…………」



    志希「はぁ~い、あてんしょんぷりーず?」ヒョイッ

    一同「……!?」


    志希「こうなった原因、たぶんあたしでーす♪ にゃははー」ヒラヒラ

    416 = 365 :

    凛父「な……」

    武内P「一ノ瀬さん……?」


    志希「いやー合法的にトリップできるお薬を作れないものかにゃー、ってずーっと。
       あっちに留学してる頃からずーっと考えててねー?」

    志希「今まで色んな研究に駆り出されて論文書いてきたけど、その裏では志希ちゃん、
       人目を忍んでコッソリ研究してたんだー」

    志希「でもさー、研究と関係無いものを経費で落としたらバレちゃうでしょ?
       かと言って、あたしのポケットマネーだけでお薬調達していくのもシンドイし」

    志希「うーんどうしたもんかにゃと、そう思ってた矢先!
       A-10神経系に関する薬について、国からの委託研究をやってる大学が日本にある!」

    志希「そう聞いて、あーやっと堂々と脳にイイお薬を作れるチャンスだーって!
       それからのケミストライフはとても充実したものだったにゃー♪」

    志希「あ、でもここで一つ問題が……作ったお薬を人体実験できる機会が無い」

    志希「そこでまた、うーん困ったにゃー、って思ってたら……」ニヤッ


    志希「そこのプロデューサーが声掛けてくれてね」

    志希「おあつらえ向きに良い子がいるよーなんて。らっきーらっきー、にゃははー♪」ニコッ

    417 = 365 :

    凛母「狂ってる……あなた、悪魔よ……!」

    志希「んまぁー化学の発展に犠牲はつきものだしー、
       せっかくお友達になれた凛ちゃんには申し訳無いとは思ってるよ? ホントに」

    志希「と言っても、世界中のハイになりたい老若男女の希望のため、
       ここは一つ礎になってもらうしかないかにゃー?」

    凛父「きっさま……!!」ガタッ!

    医師「お、お父様、お待ちを…!!」ガシッ


    志希「にゃっはっは、納得なんてできないよねー、求めてもないし。でもさー」ヒクッ

    志希「あたしみたいなクレイジーがいて初めて進歩する技術も、あるって事でぇ…」カタカタ…

    武内P「……?」


    志希「にゃっはっはー……」ガタガタ…

    志希「…………ッ」ガタガタ…

    418 = 365 :

    博士「シキ……お前……」

    凛母「ヒザが、震えて……?」


    志希「…………ッ」ガタガタ…


    志希「あ、あたし……あたしは…………!」ガタガタ…

    志希「わるいこ、だから…………わるいこ、おこって、おこ……」ガタガタ…



    武内P「一ノ瀬さん」スッ

    志希「! ……」ビクッ


    武内P「強がる必要は、ありません」

    武内P「あなたが全て、背負う必要など……」

    志希「ひ、いっ…………」ガタガタ…



    博士「…………」

    博士「……『Bu-DOPA』に関する特許は、彼女にありません。私が持っています」

    博士「この薬による治療の責任は、全て……私にあります」スッ…

    凛父・母「………………」

    419 = 365 :

    ~夜、中庭~

    武内P「……先ほど、渋谷さんのご両親がお帰りになられたようです」

    志希「………………」


    武内P「……本田さんと島村さんから、お聞きしました」

    武内P「渋谷さんを楽しませようと、様々なアプローチを試されていたようだったと」

    武内P「中には、少なからず過激な内容のものもあったそうですが……」

    志希「…………」


    武内P「幸福感は、脳の黒質を刺激し、ドパミンの生成を促進すると」

    志希「…………」


    武内P「一ノ瀬さん、あなたは……
        渋谷さんに幸福感を与え、症状の進行を食い止めようとされたのでは?」



    志希「……プロデューサーや皆に、内緒にしようって言ったの、あたしなんだ」

    志希「細かい話を言っても、皆よく分からないだろうし、不安にさせるだけだろうから」

    志希「まだ悪くなるって、決まった訳じゃないからって、私が、ドクター達に……」

    武内P「…………」

    420 = 365 :

    志希「何であたしが、これの研究していたかって、言ったっけ?」

    武内P「いえ……」


    志希「この研究ね……元々、ダッドがやってて、挫折したものだったんだ」



    志希「あたしの両親は、赤ん坊の頃からあたしの事、何でも褒めてくれた」

    志希「天才だ、神に愛された子だ! って、あたしが何かをする度に一喜一憂するの」


    志希「お箸を持てばオーブラボー、四元数の演算を解けばワンダホー。
       子供の頃のあたしにとっては、どっちも難易度変わらないのに喜んじゃってさ」

    志希「あたしも、二人が喜んでくれるのが嬉しかったから、何でもやってみせた。
       その度に、ご褒美もいっぱいもらえた」

    志希「美味しいケーキも、可愛い服も、おもちゃもお人形も……」


    志希「最初のうちは、それで良かった……でも、後になるほど、だんだん辛くなって……」


    志希「あたしのダッドも、天才なの。たぶん、あたし以上に」

    421 = 365 :

    武内P「……お父様からの要求が、高くなっていった?」


    志希「応えられなかった事なんて無かったよ」

    志希「未だこの国で流通されない、花粉症を即根治させる特効薬だって非合法で作ったし、
       四色定理の証明だって解いてみせた」

    志希「何でもやってみせたし、ダッドはいつもあたしを褒めてくれた。
       怒られた事だって無かった。だから……」


    志希「どんどんレベルが高くなって、いつか、解けない問題を突きつけられたら……
       ダッドの期待に応えられない時が、いつか必ず来るんじゃないかって」

    志希「結果を出さないあたしに、ダッドはどんな顔をするんだろうって、怖くなって……」

    武内P「…………」


    志希「ダッドが突然、外国に行く事になった時、あたしも誘われたんだけど、断ったの」

    志希「断って、全然違う国に留学したんだ……それから先は、連絡なんてしてない」

    志希「たまたま受けた大学で特待生扱いされて、さらに違う大学に点々と引き抜かれて、
       適当に特許取って生計立てて……」

    422 = 365 :

    志希「したい事なんて、何も無かった」

    志希「どうでもいい人達から寄せられるしょうもない期待に適当に応えて、
       安い優越感を得るのが自分の幸せなんだって、信じたの」

    志希「あたしに過度な期待を寄せるダッドとは、もう会う事は無いんだからって、
       そう思ってたのにさ……」


    志希「おじいちゃんがやってたパーキンソン病の薬物治療法を、ダッドが研究し直して、
       ニューデリーかどこかの学会で発表したっていうニュース、見たんだ」

    志希「ちょうど一年くらい前かな……皆から、笑い物にされたみたい」

    志希「“幸せ因子”など絵空事だとか、麻薬や覚せい剤と何が違うんだとか」

    志希「ドクター一ノ瀬の息子も、ついにヤキが回ったとか、ね……」


    武内P「……言葉は悪いですが、あなたの研究は、お父上の敵討ちだったと?」

    志希「にゃははは! そんなリッパなもんじゃないよー」


    志希「あたしはただ、ダッドに褒められたかっただけ」

    志希「ダッドでさえ解けなかった難問を、文句の付けどころが無いくらいに、
       見事スパッと解いてみせたら、どんなに喜んでくれるだろうって」

    志希「ふふ……ちょっと前まで、ダッドに会いたくないなんて言ってたくせに、
       自分勝手だよね」

    武内P「…………」

    423 = 365 :

    志希「そこで、似たような研究やってる機関を片っ端から調べて、
       一番設備の整ったこの国の大学を見つけたの」

    志希「国からの委託研究だったから、それなりにお金も使えたしね」


    志希「そして、あたしは『Bu-DOPA』の理論を完成させた」

    志希「自信はあったんだ……ちょうど良い所に、その薬を欲している人まで現れた」

    武内P「…………」

    志希「悪いけど、本心だったよ」

    志希「どんどん良くなっていく凛ちゃんを見て、自信は確信に変わっていって……」


    志希「でも、ある時、重大な欠陥を見つけてしまったの」

    志希「『Bu-DOPA』は強すぎた……治療と破壊は紙一重なんて、あの先生もうまいよね」

    志希「黒質を活性化させ、働かせすぎて、脳の寿命を縮めてしまうものだった」

    武内P「……!」



    スッ

    博士「…………」

    424 = 365 :

    志希「だから、一旦『Bu-DOPA』の投与を取りやめる事を提案したんだ。
       その後凛ちゃんに渡してたのは、中身は塩酸プラミペキソールってヤツ」

    志希「でも、たぶん恒常的な効果は期待できない。このままじゃいずれ終わりが来る。
       だから……」


    武内P「渋谷さんを楽しませようと、わざと大袈裟な行動に出た、と」

    武内P「プロジェクトクローネに参加するのも、渋谷さんを見守るため……」


    志希「……フレちゃんっていう、最近できた友達がいてね?」

    志希「346プロのカフェでいつも話すんだけど、本当に楽しいんだー♪」

    志希「くだらないのに刺激的で、実のある話なんて何一つ無いのに、夢中になるの」

    志希「あたしの悩みなんて、全部忘れさせてくれちゃうくらいに」

    武内P「…………」

    志希「で、そんなフレちゃんの事、あたしは本心ではどう思っていたかと言うと……」


    志希「“使える”って、言ったの……フレちゃんの事、あたし」


    志希「フレちゃんだけじゃない。
       智香ちゃんも友紀ちゃんも茜ちゃんも、ニュージェネの二人も皆……」

    志希「あたしの失敗をフォローするための、道具としか思ってなくて……!」ジワァ…

    425 = 365 :

    武内P「一ノ瀬さん……」

    志希「いつも結果を求められた。それが当たり前だった」

    志希「結果を出せない子は、悪い子なんだって、ずっと感じてた」

    志希「頑張ったんだよ? ダッドの研究やれば、ダッドも、見てくれる、かなって……」


    志希「でも、う……結局あたし、自分は頑張ったって、え、ぐっ、思いたいだけで…!」ポロポロ…

    志希「ひっぐ、あ、あたしは、何も、なにも、できな、かっ、あ、うぅ……!!」ポロポロ…


    志希「ごめんなさい……う、ご、ごめんなさい……!!」ポロポロ…



    未央「あ……」

    卯月「志希さん……」


    武内P「…………」

    志希「ひ、い……う、うあぁぁ……!!」ポロポロ…

    426 = 365 :

    武内P「結果を出す事が、全てではありません」

    志希「え……」

    武内P「私達のいる世界は、結果だけで回っているのではありません」


    武内P「あなたが渋谷さんのためを思い、行動した事に意味があるのです」

    武内P「あなたは頑張りました……それが、何より尊い事です、一ノ瀬さん」

    志希「………っ!」



    卯月「プロデューサーさん……」

    武内P「……お疲れ様です。渋谷さんのご様子は、いかがでしたか?」

    未央「うん……ちょっと、一人にしてあげた方が良いかも」

    武内P「そうですね……」


    武内P「これ以上遅くなる前に、事務所に一度戻りましょう」

    武内P「さぁ、手を……一ノ瀬さん」

    志希「…………」コクン

    427 = 365 :

    ~346プロ 常務の部屋~

    今西「うむ……そうか」

    今西「分かった。今日の所は、もう休むといい……うむ、お疲れ様」

    ピッ!


    今西「……やはり、容体は良くなかったようだ」

    美城「そうでしょうね」


    ちひろ「…………ッ」ギュッ…!

    常務「私を恨むか?」

    ちひろ「! い、いえ……」

    常務「本来、彼が最初に気づくべき事だった。私が節介を焼いてやる義理など無い」

    ちひろ「でも、凛ちゃんの命がかかっていたかも知れないんですよ!?」

    常務「その命を救うのは我々ではない。医者の仕事に首を突っ込むなどナンセンスだ」

    ちひろ「……~~ッ!」


    今西「資金面の援助は、首を突っ込む事にはならないのかな?」

    428 = 365 :

    ちひろ「えっ……?」

    美城「……今西部長。何を仰っているのか、分かりかねますが」

    今西「ふっ、説明しないとダメかい?」


    今西「国から交付される補助金というのは、大抵の場合、事業終了後の清算払いだ。
       そしてその上限額は、事業開始前の申請に基づいて予め枠が定められる」

    今西「第3四半期をも過ぎてから、追加で補助額を得ようとするのは、
       他の事業から流用するとか、余程の事でない限り認められないだろう」

    今西「一方で、彼女の再入院や今後行われるであろう諸々の検査、治療にかかる費用を、
       当初の交付申請の段階で見積もられていた可能性はおそらく低い」


    今西「彼女の入院がスムーズに決まったのは、つい先日、我が社から先方に、
       有事における費用負担についての協力が約束されていたからなのだそうだ」

    今西「おそらく、手を回したのは君だろう。違うかね?」

    429 = 365 :

    美城「…………」

    ちひろ「じょ、常務……」


    今西「わざわざ一アイドルのために自ら病院に連絡を取り、検査記録を入手するほどだ」

    今西「慈善行為ではないと君は言っていたが……
       やはり、何かに寄与したいと願うのが、人の本質なんだろう」

    今西「電話口で、彼は最後に、君に感謝していたよ」



    クルッ コツ…


    美城「扶助を行う理由など無かった……ですが、今は違う」

    美城「私は経営者として、私のやり方で舵を取る。それだけです」

    430 = 365 :

    ~346プロ シンデレラプロジェクト事務室~

    ガチャッ

    未央「ふぁ~……何だか、疲れちゃったね!」

    志希「…………」


    武内P「? ……本田さん、右の側頭部に…」

    未央「ん……あぁ、これ? えへへ……ちょっと、転んで頭ぶつけちゃって……」

    卯月「…………」


    武内P「……そうですか」

    武内P「…………」ピラッ

    卯月「それは?」

    武内P「……本日分の経過報告です。新田さんが書いてくださったようです」

    未央「帰り、遅くなると思って、代わりに書いてくれたんだね」

    431 = 365 :

    武内P「…………」

    武内P「……渋谷さんのお仕事についての、諸々の関係先との調整は、
        私が明日以降、行ってまいります」

    武内P「皆様は、今日の所はお帰りください」ギシッ

    卯月「いえ……」

    武内P「?」


    卯月「今日は何だか……色々な事がありすぎて、頭がいっぱいです」

    卯月「本当は、病院にずっといたかったですけど、凛ちゃん、あんな状態だったし……」

    卯月「でも、少しでも凛ちゃんを感じられる所にいないと、落ち着かないかなって……
       えへへへ……」

    未央「分かるよ、しまむー」


    志希「今日はさ……ココに皆、泊まろっか」

    432 = 365 :

    武内P「えっ?」

    未央「さんせーいっ!」

    卯月「杏ちゃん専用のフカフカ椅子、私使いまーす!」ボフッ!

    未央「あっ、ズルいぞしまむー! 半分こしろー!」グイ-ッ

    志希「あたしはこのカッチカチのソファーでいいやー。毛布無いー?」モゾモゾ…


    武内P「あ、あの、皆さん……」

    卯月「プロデューサーさん。今さらダメだなんて、言っちゃダメですよ?」

    未央「ご家族が心配されるので、どうかお引き取りください。なんて言わないでよ?」

    武内P「いえ、あの……」


    武内P「レッスン室そばのシャワールームは、24時間使えます」

    武内P「それと、毛布であれば、エステルームの管理者に連絡すれば、何枚かは……」


    志希「! ……にゃははーっ、否定しないのかーい!!」ツンツン!

    未央「プロデューサーのエロオヤジめーい、このこのー!!」デュクシデュクシ!

    武内P「お、オヤ……!」

    卯月「あわわわ、プロデューサーさんはオジさんじゃないですよぉ……!」オロオロ…

    433 = 365 :

    ~美城グループ附属総合病院 病室~

    「…………」ブルブル…

    「……ッ」プルプル…


    つ イヤリング


    「……」プルプル…

    「くっ…………」プルプル…


    プルプル…

    カチャッ

    カチ… ガチン



    「うっ、あ…………!」プルプル…

    「……ん…………いっ!」ギュウ…!


    「…………ッ」カタカタ…

    434 = 365 :

    【経過報告】
     報告日:11月1日
     報告者:新田 美波

      凛ちゃんは、即入院する事になりました。
      公園にいる所をご両親に見つけられ、病院に連れられたのだそうです。
      その日のうちに入院するという事は、検査の結果がかなり深刻だったと思われます。

      未央ちゃんや卯月ちゃんに、プロジェクトクローネに入ると言っていたのが、
      二人を心配させたくなかったからであろう事は、想像に難くありません。

      ですが、誰にも打ち明けず、一人病気と闘う凛ちゃんの辛さはどれだけでしょう。
      刻一刻と症状が進行する自身の体を見つめる恐怖は、いかほどだったでしょう。

      私は、もとい私達は、また同じ事を繰り返してしまいました。
      またしても、気づいてあげる事ができませんでした。

      凛ちゃんに掛けてあげられる言葉が、今の私には何一つ思い浮かびません。
      今はただ、凛ちゃんが無事に回復し、もう一度元気な姿を私達に見せてくれる日が、
      いち早く来る事を祈るばかりです。

    435 = 365 :

    ――――――――――――

    ――――――


    チュン チュンッ チュン…


    カタカタ… カタカタカタ…


    卯月「…………んんぅ~~~~……」モゾモゾ…

    卯月「あれ……」


    武内P「…………」カタカタ…

    武内P「……おはようございます。眠れましたか?」ギシッ

    卯月「プロデューサーさん……」


    志希「キーボードがカタカタうるさくて全然寝れなかった……」ワシャワシャ…

    未央「同じく……もー、プロデューサーさぁ?」

    武内P「も、申し訳ございません……」


    卯月「病院、行きませんか……?」

    武内P「えぇ……準備ができ次第、出発しましょう」

    436 = 365 :

    ~美城グループ附属総合病院~

    ブロロロロロ… キキィッ


    未央「ここ……裏門?」

    武内P「時間的に、正門は閉まっていますから、職員用の通用口から入る事になります」

    卯月「早く来すぎちゃったでしょうか」

    志希「夜が明けてすぐだもんね」

    ガチャッ バタンッ



    武内P「……」ピッ

    ガチャッ


    武内P「どうぞ、中へ」

    437 = 365 :

    コツ コツ…

    武内P「…………」コツ コツ…


    未央「また、ここに来る事になるなんて……」

    卯月・志希「…………」


    コツ コツ…



    武内P「…………こちらでしたね」


    ガララ…


    武内P「…………!?」

    438 = 365 :

    「う、うっ…………」


    未央「!? し、しぶりんっ!!」ダッ!

    卯月「凛ちゃんっ! 床に倒れて……!?」


    「み、お……うづき……?」

    未央「どこか痛いの!? 脚、大丈夫!? それともお水!?」

    卯月「お、お水っ! 私、すぐに…!」ダッ!

    志希「待って!」

    卯月「!」


    武内P「渋谷さん……」スッ

    「ぷ、ぷろ、デューサー……はぁ、はぁ……」ブルブル…


    武内P「手に、何か……?」

    「…………ッ」ブルブル…

    439 = 365 :

    武内P「そっと、手を開いて……力を抜いてください……」グッ

    「う、うぅ……!」ググ…

    ジワッ…

    未央「て、手に血が……えっ?」


    「はぁ、はぁ…………」プルプル…

    未央「これ……昨日の、イヤリング……?」



    「昨日、渡し、そびれちゃった、から……」

    「壊れちゃ、たから……さっきまで、直そう、としてて……」


    未央「……私達のために?」

    440 = 365 :

    「未央と、卯月……え、えへへ……志希の分、は、また今度……」

    志希「……」フルフル

    卯月「凛ちゃん……!」


    「う、ふふ……ご、ごめんね」

    「汚く、なっちゃって……ごめん、ね……?」

    未央「……ッ!!」ガシッ!

    ギュウッ…!

    未央「バカッ!!」

    未央「しぶりん、ほんっとに……バカぁ!!」ポロポロ…

    「痛いよ……未央、痛いよ……」


    武内P「…………」

    卯月「プロデューサーさん……お願いです」

    卯月「助けてください……!」

    卯月「凛ちゃんをどうか、助けてくださいっ!!」

    441 = 365 :

    武内P「………………」


    武内P「肩を、渋谷さん……立てますか?」スッ

    「はぁ、はぁ…………」

    武内P「ベッドに横になって……」



    武内P「必ず何とかします」


    武内P「一緒に、頑張りましょう」

    442 = 365 :

    ~医務室~

    医師「馬鹿な。これ以上の投与は危険だ」

    志希「従来の『Bu-DOPA』であればの話です」

    医師「……何だと?」


    武内P「彼女は『Bu-DOPA』の欠陥を誰よりもいち早く発見し、
        その改善に向けた研究開発を、水面下で続けていたのです」

    志希「と言っても、まだ試用のレベルにも至っていないですけどねー♪」

    医師「あなた方は人の命を軽々しく見過ぎている! 世迷言もいい加減に…!」

    ドンッ!

    医師「!?」ビクッ

    武内P「……?」


    志希「……ドクター?」


    博士「シキはウチの大学が誇る偉大なケミストだ」

    博士「そして、彼女以上に今回の臨床に真摯に向き合っている者はいない」

    博士「責任は全て私が取ります。どうか、彼女の話を聞いていただきたい」

    443 = 365 :

    医師「………………」

    医師「……良いでしょう。どうせこのままでは負け戦だ」


    志希「ドクター……」

    博士「先ほどチラッとモノを見せてもらったが、つまりは薬効を薄めたものだろう?」

    志希「うん……半分以上薄めた、カプセル状の経口薬を考えてるけど」


    博士「プロデューサーさん……医学的には強いお勧めはできません」

    博士「ですが、どうか彼女の…」

    武内P「存じております」

    博士「えっ?」

    武内P「私は、一ノ瀬さんのプロデューサーでもあります」


    武内P「一ノ瀬さん……開発中のものが試用できる段階になるまで、
        あとどれだけの日数が必要ですか?」

    志希「一週間はあると嬉しいかなー。最適な触媒の検討にはまだ時間かかりそうだし」

    志希「でも、三日でやれって言われれば志希ちゃん頑張っちゃうけど、どうする?」

    武内P「それでは、二日でお願いします」

    志希「Should've known.」ニコッ

    444 = 365 :

    【経過報告】
     報告日:11月4日
     報告者:P

      渋谷凛より、今後の報告用記録映像の撮影を、週に一度ではなく、
      必要に応じてこまめに撮影するよう申し出有り。
      自身の病状を逐次記録に残す事で、後世の治療に役立ててほしいとの事。

      そのため、有事の際に都度彼女の様子を撮影できるよう、
      スタッフはハンディカメラを常に所持。
      スタッフ不在時における、面会人への撮影代行の依頼も今後要検討。

      それまで健康だった彼女を再び襲う病気に向き合う事は、
      彼女自身のみならず、周囲の人々にとっても相応の心的負担が想定される。

      一方で、シンデレラプロジェクトのメンバーは本臨床に非常に意欲的である。
      過去に渋谷凛が倒れた際、力になれなかったという意識が大きいためと思われる。

      彼女達の意志は、ある種危険と考える。
      罪の意識に囚われ、自身を過剰に責める余り、心が押し潰されかねない。
      言うまでも無く、スタッフが率先して渋谷凛の臨床に携わる事が望ましい。

      一ノ瀬志希による新薬『Bu-DOPA』改良型の試作品が完成。
      明日より投与を開始し、経過を観察。
      以上

    445 = 365 :

    【経過報告】
     報告日:11月7日
     報告者:P

      重度の痙攣。
      手、口腔顔面だけでなく、体全体が大きく振動。

      薬の効果は目覚ましく、投与から2、3時間ほどでこれらの症状が緩和。
      一方、効果が持続する時間は2錠服用して約半日程度。

      改良前と比べ薬効は薄いが、投与量が増えれば副作用の恐れも大きくなる。
      脳へのこれ以上の負荷は危険であるため、投与については慎重にならざるを得ない。

      先日、歯磨きを上手く行えず、口内を傷つけた模様。
      ひとまず毛先の柔らかい歯ブラシに取り換えたものの、依然苦しんでいる。
      どうか気にしないでほしいと彼女は言う。

      以上。

    446 = 365 :

    ――――――――――――

    ――――――


    武内P「このところ、事務を行う事ができず、ご不便をお掛けしております」

    美波「良いんですよ。皆、意欲的に自分達のお仕事に向き合っています。レッスンも」

    武内P「私が心配しないように、ですね」

    美波「でないと、プロデューサーさん、凛ちゃんの治療に集中できないでしょう?」


    「ふふ……どっちがどっちを心配してるのか、分かんないね」ニコッ

    武内P「うっ……」

    みく「あはは、それもそうにゃ! 凛ちゃん相変わらずツッコミ上手いねー」

    「喜んでいいのかな、それ」

    李衣菜「私だったら素直に喜ぶと思うなー。
        ツッコミが上手いってのは、それだけ物事に敏感に気づくって事だし」

    みく「ふふーん、さすが李衣菜ちゃんは自分の事良く分かってるにゃ」ニヤニヤ

    447 = 365 :

    李衣菜「は、どういう意味?」

    みく「ニブい李衣菜ちゃんはツッコミには向いてないって事。
       自分で言ってて分かんない?」

    李衣菜「な、そんな事無いよ!
        気づいててもあえて受け入れるってのがロックなんだしさ!」

    みく「ロックを言い訳にするの、そろそろ止めたら~?」

    美波「ふふっ、確かに漫才なら李衣菜ちゃんがボケで、みくちゃんがツッコミね」

    みく「ほら、美波ちゃんもそう言って……ん?」

    みく・李衣菜「漫才じゃないからっ!!」

    武内P「ふっ」

    李衣菜「あーっ、プロデューサーまで笑ってるー!」

    武内P「あ、いえ……!」

    みく「ヒドいにゃ、勝手にコンビ組んどいて! ねぇ凛ちゃんもそう思うでしょ!?」

    李衣菜「こんな事が許され……」


    美波「…………凛ちゃん?」ユサユサ

    448 = 365 :

    『凛ちゃん、どうしたの?』

    『凛ちゃん……凛ちゃんってば!』

    『えっ……あ、あぁごめん。何?』

    『何じゃないにゃ! ひょっとして、さっきの話聞いて無かった?』

    『え、と……ごめん、その……』

    『あ、うん、謝らないで。大丈夫、そんな大した話じゃ……』



    「ビデオ撮っていると、色々な事が分かって面白いね」

    「さっきまで会話に参加してたのに、私……こんなに唐突に、気を失ってたんだ」

    武内P「…………」


    「気にしなくて大丈夫だよ」

    「別に気分が悪い訳じゃない。ただ……何も感じない」

    「死んだように、何も……」


    「何か、不思議な気分だね……魂が無い自分を、見るのってさ」

    「以前の私も、ずっと、こうだったんだよね……」

    449 = 365 :

    ~夜、病室~

    武内P「渋谷さん、それは…」

    「大丈夫だよ、歯磨きくらい自分でやる」ブルブル…

    「おかげで、この痙攣にも、大分慣れてきた所だから」ブルブル…


    グッ…

    「……ッ」ゴ… ゴシゴシゴシ…!


    ゴシ… グリグリ…! ゴシゴシ…!


    ゴリゴリ…! ゴシゴシゴシ…


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