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    元スレ武内P「凛さんの朝」

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    101 = 1 :

    ~とある喫茶店~

    志希「そっかぁー講演聞いてたんだねー。ん~~、んまんま♪」モグモグ

    武内P「あ、あの……大丈夫なのでしょうか」

    志希「ん、タバスコかけ過ぎだって? 結構イケるよ、食べる?」サッ

    武内P「い、いえそうではなく、その…」

    志希「支払いなら気にしなくていいよ。
       あたしこう見えていくつか特許持ってるから、お金には大して困ってないんだー」

    武内P「いえ、その……あなたの博士に連絡を取らなくて、良いのでしょうか?」

    志希「あー、そっち? いいワケないけど、いつもの事だしね」

    武内P「はぁ……」ポリポリ…


    志希「それに、あたしに用があったのは、キミの方じゃない?」

    武内P「えっ。あ、はい……申し遅れました。私は、こういう者です」スッ

    志希「……346プロダクション。へぇ。
       芸能事務所の人って事は、ひょっとしてスカウトかにゃ? なんて、にゃはは♪」


    武内P「あなたのお爺様は、嗜眠性脳炎患者にドパミンの補充療法を行ったと」

    志希「! ……」ピクッ

    武内P「しかし、残念ながら病気の根本的な治療には至らなかったと、
        過去の報道資料によりお伺いしております」

    102 = 1 :

    志希「……いやぁビックリ。
       まさか初対面の芸能関係者から、いきなりおじいちゃんの事を聞かれるなんてね」

    志希「確かに、あたしのおじいちゃんはお医者さんで、
       レボドパ補充療法の効果を実証しようとしたんだよね」

    志希「でも、レボドパはパーキンソン病には一定の改善効果が見られたのだけど、
       パーキンソン症候群には有効でなかったのだ」

    志希「嗜眠性脳炎の一時的な症状快復には効果があったみたいだけど、
       やがて体に薬への耐性ができちゃって、長続きはしないんだってさ」

    志希「で、それがどうかしたの?」


    武内P「あなたが講演の中で仰られていた、国と共同開発したという新薬ですが……」

    志希「一応断っとくと、作ってないよ? あたしが提唱したのはあくまで理論であり概念」

    志希「実際に、パーキンソン病の患者に対してどれだけの効果があるのかは分かんない」

    武内P「では、嗜眠性脳炎患者にはどうでしょうか?」

    志希「それこそもっと分かんないよ。
       嗜眠性脳炎自体、半世紀以上、事例そのものが無いらしいしさ」スッ

    志希「臨床試験を行う事なんて、ほぼ不可能なんじゃないかなー」チュー


    武内P「もし、嗜眠性脳炎患者が今いたとしたら、どうでしょうか?」

    志希「……?」

    武内P「よろしければもう少し、お付き合いいただけないでしょうか」

    103 = 1 :

    ~美城グループ附属総合病院 病室~

    ピッ… ピッ… ピッ…


    志希「……この子が?」

    武内P「はい」

    志希「ふぅーん……」ヒョコッ

    志希「それで、この子の治療にあたしの新薬を使いたいって事かぁ」


    志希「いいよ♪」

    武内P「えっ? そ、そんなあっさりと…」

    志希「たぶんドクターだって、薬の効果が実証されればハクが付くって喜ぶだろうし、
       何だったら、あたしの特許の持ち分をあげるって言えば絶対いいって言うよ」

    志希「それに何より……」クンクン…

    志希「あたしの興味をここまで引く対象ってそうそう無いなーって。にゃはっ♪」

    武内P「そ、そうですか……」ポリポリ…


    ガララ…


    医師「一体、何の話ですかな?」

    104 = 1 :

    武内P「先生、お邪魔しております」ペコリ

    志希「誰? あー、この子のお医者さんか」


    医師「一ノ瀬志希さん。あなたのご祖父上とお父上は、私も良く存じていますよ」

    医師「彼らに憧れ、私も医学の道を志したようなものだ」

    志希「それは、んー、ご愁傷様です? 違うか、ゆあうぇるかむ」


    医師「もちろん、あなたが提唱した新薬『Bu-DOPA』も知っている。
       若くしてあまりに完成し尽くされた理論、実に素晴らしい」

    武内P「先生……この新薬を、渋谷さんの治療に使ってはいただけないでしょうか」


    医師「いえ、反対です。薬学士の綿密な実験結果を待つべきだ」

    医師「彼女が評価されているのは、その着眼点と緻密な論理構成。
       実証データすら無い薬そのものが評価されているのではない」

    105 = 1 :

    志希「しゅだのーん」

    武内P「えっ?」

    志希「“だよねー”って意味。そりゃ実証データの無い薬なんて、怖くて使えないよね」


    武内P「しかし、これは国の研究でもあり、治験として処方する事になると考えられます。
        国や研究機関が医療費の大半を負担する事になれば、渋谷さんの経済的な…」

    医師「金の話を論じているのではない!」ドンッ

    医師「彼女が嗜眠性脳炎であると決まった訳でもなければ、
       ドパミン療法が嗜眠性脳炎に効果があると立証されている訳でもないのです」


    武内P「これは従来のドパミン補充療法とは違います」

    武内P「脳のドパミン生成組織を活性化させる効果があるとの事です。
        そうですね、一ノ瀬さん」

    志希「うん、まぁね」

    医師「……ふん。素人にしては、あなたもそれなりに勉強されたようですな」

    武内P「…………」


    医師「それでも、私は手放しで同意する事はできません」

    106 = 1 :

    医師「我々医療従事者が、最も行ってはならない事……何だか分かりますか?」

    医師「飛躍と思い込みです」

    医師「無論、切迫した状況下では早急な決断が求められるシーンもありますが、
       強引に関連付けを求めては、患者を危険に晒しかねません」


    医師「ドパミンの生成……すなわち、脳の黒質を活性化させるものとお見受けしたが…」

    医師「治療と破壊は、常に紙一重です。
       そして、一度破壊された脳組織は二度と元には戻らない」

    医師「覚せい剤がなぜ危険であるか、お分かりですか?
       この薬は、脳組織を変質させかねない。我々の責任は、それだけ重いのです」

    志希「だってさ、どうする? ふわぁ……」フニャー…



    武内P「……これをご覧ください」ピッ

    つ 花びら


    医師・志希「?」

    107 = 1 :

    武内P「……」パッ

    ヒラヒラ…


    パシッ


    医師「!? なっ……!」

    志希「おぉ……すごい」


    武内P「渋谷さんはこのように、落ちてくる花びらを掴む事ができるのです」

    武内P「“希望と笑顔”の、カルミアの花びらをその手に。何度でも」


    医師「……しかし、それはただの反射という可能性もある。意識が働いたとは…」

    武内P「この半年以上、微動だにしていない彼女が、花に反応を示したのです。
        無意識的な行為だとは、私には思えません」

    医師「…………」

    108 = 1 :

    武内P「渋谷さんは、希望や笑顔を渇望する心を、カルミアを通し我々に訴えています。
        彼女は、内部では正常なのです」

    武内P「つまり、彼女が抱えている障害は、意思を身体へ伝達し動かす仕組みの障害…
        例えば、パーキンソン病のような何かだと考えます」

    武内P「魂の不在などではありません。彼女の心は、生きています」


    志希「……へぇ」ニコッ



    医師「………………」

    医師「……どうしてもその新薬を使ってほしいのなら、二つ、条件があります」

    医師「一つは、家族の同意を得る事。そして、もう一つは……」

    109 = 1 :

    ~346プロ 常務の部屋~

    美城「兼業命令書……」

    美城「つまり君は、346プロのプロデューサー兼、
       美城グループ附属病院の非常勤スタッフとなるよう、先方から依頼を受けた訳か」

    武内P「はい」


    美城「この書類に、判を押す事はできないな」

    武内P「……!」

    美城「要するに相手は、何かあったら責任を君に、
       ひいては346プロ側に押しつけるために、君を関係者にしたいのだろう?」

    美城「一アイドルのために、我が社がそれだけのリスクを負う理由など無い。
       君も、先方の提案を鵜呑みにして、よくもノコノコと私の元へ来れたものだな」

    110 = 1 :

    武内P「…………」

    美城「本来業務をすっぽかして、何をしているのかと思えば……
       専門家の意見を聞かず、出しゃばった真似をするのは利口な人間のする事ではない」


    武内P「お言葉ですが、私はシンデレラプロジェクトのプロデューサーを担当するよう、
        あなたに任命され、その職責を全うすべく動いています」

    武内P「そして、当プロジェクトには彼女が必要です」

    武内P「私に任す気など初めから無いと仰るのなら、
        この場で私の首をお切りいただいてはいかがでしょうか」

    美城「! ……」


    美城「……随分な口の利き方をするのだな、君は」

    武内P「私は“本来業務”をしているに過ぎません」

    美城「ふん……面白い、そこまで言うのなら君の好きにするがいい」

    美城「だが、もし結果が伴わなければ……」スッ

    武内P「分かっております」

    ギュッ…

    111 = 1 :

    ~夜、346プロ シンデレラプロジェクト事務室~

    カタカタ…

    ちひろ「その、家族の同意書というのは?」

    武内P「先日渋谷さんのご自宅にお伺いし、ご両親からの了解を得ました」カタカタ…

    今西「そうか……それは何よりだったね」


    カタカタカタ…

    今西「……それは、何をしているところかね?」

    武内P「先方の……美城病院の職員登録に必要な手続き書類の作成です」カタカタ…

    武内P「それと、臨床期間中は、日毎の経過報告と、
        毎週の記録映像の撮影を義務付けられておりますので、その準備を…」カタカタ…

    今西「ふむ……」



    今西「美城常務から聞いたよ。言い争いをしたそうじゃないか」

    武内P「…………」カタカタ…

    112 = 1 :

    今西「今回の渋谷君の治療に際し、病院の医師との話し合いが、
       あまり穏やかでなかったという噂も聞いている」

    今西「それに、シンデレラプロジェクトのメンバーである彼女達も……
       一向に活動の展望を示さない君に対し、不安を抱きつつあるようだ」

    今西「いくら、プロジェクトを前に進めるためとはいえ、
       君のやり方も……あまりスマートとは言えないのではないかね」

    武内P「…………」カタカタ…


    今西「今の君は、これが自分の仕事だからと割り切る、というより、
       悪い意味で開き直ってさえいるように見える」

    今西「周囲に目と耳を傾け、その意を汲む事も時には重要だ。
       自分の心を殺し、事業の歯車になる事に終始するのは良くない」

    カタ……


    武内P「……私に歯車になるよう諭してくださった方が、過去にいた気がしてなりません」

    武内P「お言葉ですが、今西部長……それは、あなたではなかったでしょうか」

    今西「!」


    武内P「…………」カタカタ…



    ちひろ「プロデューサーさん、あの時の事を……」

    113 = 1 :

    ~数日後、美城グループ附属総合病院 病室~

    医師「薬は、通常の経管栄養にて投与する栄養剤に混ぜてあります」

    武内P「はい」


    凛母「あ、あの……」

    武内P「……?」


    凛母「本当に、これで凛が元気になってくれるのでしょうか?
       何だか私、脳をどうにかするって聞いて、不安で……」

    凛父「もう既に我々も同意した事だ。今さらこの人達を困らせるんじゃない」

    凛母「分かってるわよ。それでも、いざやるってなると、どうしても……」


    博士「私が開発した『Bu-DOPA』に、問題はありません。きっと良くなりますよ」ニコッ

    志希「そーそー、ドクター“が”開発した『Bu-DOPA』にはねー」


    武内P「凛さんは今、眠っているだけなのです」

    武内P「私達は、彼女を眠りから覚ましてやれる事ができればと、そう思っています」

    凛母「はい……」

    凛父「どうか、よろしくお願いします」ペコリ

    114 = 1 :

    【経過報告】
     報告日:5月22日
     報告者:P

      博士より受領した新薬『Bu-DOPA』の投与開始。
      栄養剤に200mgを投与し、経過を観察するが、外観、脳波共変化無し。
      一週間程度、同量にて継続して投与を行う予定。
      他、特記すべき事項は無し。
      以上

    115 = 1 :

    ――――――――――――

    ――――――


    ドタドタドタ…!

    ガララッ!

    未央「しぶりんっ!!」

    武内P「!?」ビクッ

    志希「おっ?」


    未央「はぁ……はぁ……はぁ……!」

    武内P「ほ、本田さん……皆さんも」

    未央「プロデューサー、何で私達に言ってくれなかったのさ!!」

    みりあ「凛ちゃん、やっと元気になれるんだよね? そうだよね!?」


    武内P「まだ、結果がどうなるかは分かりません」

    武内P「不確定的な事を申し上げて、いたずらに皆さんを混乱させるような事をし…」

    未央「私はしぶりんの親友なのっ!!」

    卯月「私もです!」

    武内P「! …………」

    116 = 1 :

    美波「何より、私達は凛ちゃんと同じプロジェクトの仲間なんです」

    美波「もちろん、プロデューサーさんも」

    武内P「新田さん……」

    莉嘉「杏ちゃんなんて、プロデューサーが仕事サボってるって信じて疑わないから、
       すーっかり最近はグダグダ~ってしてたもん、ねっ?」

    「杏、プロデューサーを信じてたのに……!」

    智絵里「そ、そういう言い方はどうだろう」


    みく「まったく。こういう事ならさっさと言ってにゃあ」フンッ

    きらり「ちゃぁんと凛ちゃんの事、考えてゆ! Pちゃんおっすおっす! うぇへへ☆」

    武内P「ぴ、Pちゃん……」

    李衣菜「部長さんから色々聞きました。
        常務や病院のお医者さんともやり合ったなんて、すっごくロックですね!」グッ!

    蘭子「反逆の強手が紡ぐ、解放の序曲よ……!」


    アーニャ「ところで、その子は誰ですか?」

    武内P「えぇ、この人は……!?」

    みく「にゃあああああああああああっ!!」

    117 = 1 :

    志希「さっすがアイドル! 皆ユニークな匂いだねー。もっとハスハスさせて~♪」ワシワシ

    みく「やめてぇっ!! 何なんこの子ヘンタイにゃあ、助けてぇっ!」ジタバタ!

    李衣菜「た、楽しそうだねみくちゃん…」

    みく「どこ見て言ってるにゃっ!!」クワッ!


    武内P「……渋谷さんに投与している新薬の、理論の基礎を提唱された方です」

    莉嘉「え、えぇぇっ!? それって、お姉ちゃんが凛ちゃんの薬を発明したの!?」

    志希「そうだよー♪ と言っても、もうその薬の特許は譲っちゃったから、
       あたしは処方のアドバイスがてら観察に来てるだけだけどね」

    卯月「か、観察ですか?」

    志希「うん。それにしても、これだけの子達に慕われてるなんて、
       この凛ちゃんって子も幸せ者だねー」

    志希「やはり、この志希ちゃんの感性に狂いは無かったのだ。
       すんごいいい匂いするんだよねーこの子、にゃはっ♪」ツンツン

    かな子「えぇ……凛ちゃん良い匂いするんだぁ。わ、私も、ちょっと失礼…」ソォー…

    きらり「かな子ちゃーんっ!」グワシィッ

    118 = 79 :

    (あっちの更新が止まってると思えば、こっちを書いてたのかww)

    119 = 1 :

    未央「何だか心配事が多そうだから、私もしぶりんの事、見守るからね」

    卯月「私にもお手伝いさせてください。どんな事でも、精一杯頑張りますっ」ギュッ

    武内P「……皆さん。ご連絡が遅くなり、申し訳ございません」ペコリ

    美波「い、いいですってそんな、私達相手にそんな、畏まらないで…」

    卯月「あれ?」


    武内P「……?」

    未央「しまむー、どうしたの?」

    卯月「いえ、あの……」


    卯月「凛ちゃん、いつも目が開いてたのに……閉じてます」

    志希「お、良く気づいたね。昨日からかなー」

    武内P「……!」

    志希「あれ? ひょっとしてキミは気づいてなかった?」

    武内P「…………」ポリポリ…

    120 = 1 :

    【経過報告】
     報告日:5月28日
     報告者:P

      渋谷凛の外観に変化有り。
      それまで夜間以外開眼していた目が閉じる。脳波には大きな変化無し。
      明日以降、投与量を300mgに増加予定。
      以上

    121 :

    しぶりんだしオチは分かるけど楽しみ

    122 = 1 :

    ――――――――――――

    ――――――


    博士「400mg……」

    武内P「…………」

    志希「よっと」カチャカチャ…


    凛母「プロデューサーさん。娘の様子は、その……」


    武内P「……以前まで開きっぱなしだった目と口が、閉じるようになりました」

    武内P「自発行動の発現、つまり意識レベル回復の兆候有り……でしょうか、先生」

    医師「えぇ……その可能性はあります」

    凛母「……!!」パァッ


    医師「ですが……以後、薬の量を増やしても特に変化が見られません」

    凛母「…………そう、ですか」

    未央・卯月「…………」

    123 = 1 :

    ~夜、346プロ エントランス前~

    コツ コツ…

    武内P「…………」


    武内P「……?」



    「…………」

    「こんばんは、プロデューサー」

    武内P「高垣さん。どうも、お疲れ様です」ペコリ


    「私も、何度か凛ちゃんのお見舞いには行ったのですけれど、すれ違いになったみたいで」

    武内P「そうでしたか……申し訳ございません」

    「いえ、お気になさらないでください」



    「凛ちゃんの様子、どうですか?」

    武内P「……分かりません。果たして良くなっているのか、いないのか……」

    124 = 1 :

    武内P「そろそろ、フェスの準備も進めなくてはならない時期です」

    武内P「元々、渋谷さんはブランクがあるため、フルに起用する予定はありません」

    武内P「ですが、たとえ踊れずとも、彼女がステージに立つだけで他の皆さんの士気が……
        そして、ファンのボルテージが格段に違う事は、過去のライブ映像から明らかです」

    「プロデューサーには、その確信があるんですね?」

    武内P「はい。彼女には、皆から必要とされるだけのカリスマ性があります」

    「えぇ」


    武内P「あと二週間程度、様子を見て……もし展望が開けないようなら……」

    「……解散、ですか?」


    武内P「無論、渋谷さん抜きでフェスに臨む事も可能ですが……
        彼女達自身、それを良しとしません」

    武内P「そして、彼女達が解散しても自立できるよう、相応の実力を身につけさせる事も、
        基礎レッスンを行っていただいた理由の一つです」

    武内P「おそらく、彼女達も既に気づいている事でしょう」

    「…………」

    125 = 1 :

    武内P「今にして思えば、常務が仰ったように、
        専門家でもない私が首を突っ込むべきではなかったのかも知れません」

    武内P「ですが、結果を出せない者は、排除されればそれで良い。
        組織の中で生きる事を決めた以上、覚悟はできています」

    武内P「あとは、彼女達が路頭に迷わないよう、他のプロジェクトへの引継ぎを…」

    「本当に、それで良いんですか?」

    武内P「…………」


    「凛ちゃんは、生きています」

    「まるで、失敗する事を決めつけるような言い方は、可哀想だなって思います」

    「凛ちゃんも皆も……プロデューサーにプロジェクトを託した同僚の方も、常務も」

    「プロデューサー自身にとっても」

    武内P「? ……私が?」


    「きっと、プロデューサーが助けるのは、凛ちゃんだけではありません」

    「凛ちゃんの快復をお祈りします」

    ペコリ スタスタ…

    126 = 1 :

    武内P「…………?」



    ヴィー!… ヴィー!…

    武内P「! ……もしもし」ピッ

    武内P「はい……はい、資料を取りに事務所へ行った所です。
        これからそちらへ……はい、30分ほどで戻ります」

    武内P「はい……いえ、こちらこそ。では、失礼致します」

    ピッ!



    武内P「…………」コツ…

    コツ コツ…

    127 = 1 :

    ~美城グループ附属総合病院 病室~

    志希「容体は依然、変化無し、だね」

    武内P「……そうですか」


    ピッ… ピッ… ピッ…


    医師「では、すみませんが、私は今日はこれで……」

    武内P「はい。当直は私が行います」

    医師「えぇ。よろしくお願いします」ペコッ

    武内P「お疲れ様でございました」ペコリ

    ガララ… ストン

    128 = 1 :

    志希「……ふわあぁぁ」ムニャムニャ…

    武内P「一ノ瀬さんも、今日はどうかお帰りください」

    志希「ふにゃ?」

    武内P「観察するためと言いながら、毎日遅くまでお残りいただいて、大変でしょう」

    志希「ううん……確かに臨床試験って初めてだから、無意識に緊張してたのかもね」


    志希「それじゃあお言葉に甘えて、志希ちゃんも帰るねー♪」ピョインッ

    武内P「どうも、お疲れ様でした」ペコリ

    志希「うんっ。キミもあんまり無理しない方がいいよ? それじゃあねー」フリフリ

    志希「かえろかなー、かえろかなー♪」

    ガララッ ストン



    武内P「………………」

    129 = 1 :

    スッ

    武内P「……自分の名前を呼ばれたと思ったら、私の手を握り返してください」

    武内P「では、始めましょう」



    武内P「あなたの名前は、四条貴音さん」


    武内P「……佐藤心さん」


    武内P「……最上静香さん」



    武内P「……渋谷凛さん」

    ピクッ

    武内P「…………?」



    武内P「………………」

    130 = 1 :

    武内P「……荒木比奈さん」


    武内P「……舞浜歩さん」


    武内P「……天海春香さん」



    武内P「……渋谷、凛さん」

    ピクッ



    武内P「…………」



    ピッ… ピッ… ピッ…



    武内P「………………」

    131 = 1 :

    ――――――――――――

    ――――――


      良く戻って来てくれたね。

      彼女達の事は、そう気に病む必要は無い。

      たまたまあの子達に、我々の想いが上手く伝わらなかった。それだけの事だ。


      ……何を言っている。もうプロデュースをしたくないだと?

      いいかい。仕事をしているのは君ではなく、君の“役”がやっているんだ。

      君は一プロデューサー。私はアイドル部門の一課長。

      誰もが皆、その仮面を被り、舞台の上で与えられた役を演じているにすぎない。

      組織で働く、歯車になるというのはそういう事だ。

      歯車にさえなれば、仮面の下に隠れた君という個人が傷つく事は無い。


      どうしてもというのなら……よろしい。何とかしよう。

      仕事量は多くなるだろうが、君にならほとんどルーチンとしてこなせるはずだよ。


    ――――――

    ――――――――――――

    132 = 1 :

    ――――――


    武内P「…………」ウトウト…



    武内P「……!」ハッ!


    ピィ------ッ…


    武内P「…………!?」キョロキョロ

    ガタッ



    武内P「渋谷さん…………?」キョロキョロ



    武内P「………………」



    ガララ…

    133 = 1 :

    ~病院の中庭~

    テクテク…

    武内P「…………」キョロキョロ


    武内P「…………」キョロキョロ


    ピタッ



    武内P「………………!」

    134 = 1 :

    ヒュオォォォォォ…  サラサラ…







    「……………………」





    武内P「………………」


    スッ…

    135 = 1 :

    ザッ…

    「………………?」


    武内P「………………」



    「…………暗いね」

    「それに…………とても、静か」



    武内P「……今、午前3時38分です」

    武内P「あと、2時間ほどで、朝日が昇るかと思われます」


    「…………ふーん」


    「……それで、アンタは、誰?」



    武内P「渋谷、凛さん……ですね?」


    「私の名前……」

    「何で、アンタが私の名前を……?」

    136 = 1 :

    武内P「シンデレラプロジェクトの、担当プロデューサーとなった者です」ゴソゴソ…

    武内P「この春より……」スッ

    「春……?」


    「……そうなんだ。私、あの日から、ずっと…………」



    「……それで、アンタが私の、プロデューサー?」

    武内P「はい」


    「ふーん……まあ、悪くないかな」

    「私は、渋谷凛。よろしくね」


    武内P「存じております」

    武内P「私は、あなたのプロデューサーですから」



    「…………そう」ニコッ


    武内P「…………」ニコッ

    137 = 1 :

    ~翌朝、美城グループ附属総合病院 病室~

    医師「まさか、信じられん……!」


    「…………」

    武内P「あなたのお母様が、幾度となく水を替えに来られていました」

    「カルミア……か……」



    ドタドタドタ…!

    ガララッ!

    未央「しぶりんっ!!」

    卯月「凛ちゃんっ!!」

    莉嘉「起きてる……凛ちゃん起きてるよーっ!!」

    みりあ「やったぁーーっ!!」ピョンピョンッ!

    138 = 1 :

    「卯月、未央……! ……皆まで」


    卯月「凛ちゃん……凛ちゃんだぁ…!」ジワァ…!

    未央「もう……しぶりんったら、寝坊しすぎだよっ!!」ダキッ!

    「ちょっ、未央。苦しい……痛いってば…」


    未央「バカ。しぶりんの、バカぁ……う、うあぁぁ……!!」ポロポロ…

    卯月「良かった……本当に、夢みたいですっ……!」グスッ

    「……なんか、ごめん」


    蘭子「ごめんなさい……私、こういうのに弱くてぇ」ズルズル

    みく「ら、蘭子ちゃんそれみくの服! 鼻水拭かないでっ!」

    李衣菜「こっちまでもらい泣きだよぉ。ふえぇぇ…」グスッ

    「何はともあれ、一件落着って事でいいんだよね」

    アーニャ「ダー。リンが元気になって、とても嬉しいです。ラーダスヌィ…」ホロリ…


    智絵里「……あれ?」キョロキョロ

    かな子「ぐすっ……智絵里ちゃん、どうしたの?」


    智絵里「プロデューサー、どこに行ったのかな……?」

    139 = 1 :

    武内P「………………」



    コツッ…

    凛母「あ……」


    武内P「…………」ペコリ

    武内P「凛さんは、こちらの病室の中にいらっしゃいます」


    凛父「この度は、本当に……何とお礼を言ったら良いのか」ペコリ

    凛母「ッ……」ペコッ

    武内P「いえ……」


    ガララ…

    きらり「あ、いたぁ。Pちゃん?」

    美波「どうしたんですか? 中に入らなくて……あっ、どうも」ペコリ

    凛母「……」ペコッ


    武内P「いえ……私がいたら、お邪魔ではないかと思い」

    140 = 1 :

    美波「邪魔だなんて……!」

    きらり「えいっ!」ガッシィ

    武内P「うっ!?」


    美波「凛ちゃんの……私達の恩人を、どうして私達が邪魔に思うんですか」

    凛父「彼女の言う通りです。我々と共に、凛の快復をお祝いしてください」

    きらり「Pちゃんも主役なんだよ? さぁさ、皆と一緒にハピハピするにぃ♪」グイィーッ!

    武内P「う、うぉ、あの……」

    ガララッ!

    141 = 1 :

    莉嘉「あ、いたーっ!」

    みりあ「プロデューサー、かくれんぼ好きなんだねー」

    武内P「み、皆さん……」


    一同「……」ニコニコ


    「プロデューサー」

    武内P「は、はい?」

    「いや、あの……ありがとう」ポリポリ…

    「私なんかのために、色々走り回って、頑張ってくれてたんだって、皆から聞いて……」

    「ずっと寝たままだったなんて、今でも信じられないけど、こうして治してくれたんだね」


    「皆にも、すごく迷惑かけちゃったね……ごめん」

    未央「……っ」フルフル


    凛父「…………凛」

    「! お、お父さん……お母さんも」

    142 = 1 :

    凛母「…………ッ」ギュッ

    「えっ……やだ。お母さんちょっと、恥ずかしいよ……!」

    凛母「凛……本当に、おかえりなさい」

    「……た、ただいま?」


    「も、もういいでしょ。ほら、離れて」

    凛父「なんだ、凛。皆さんには素直になる癖に、我々に対しては随分だな」

    凛母「少なくとも、精神的には入院前より健全のようで、安心したわ。ふふっ…」グスッ

    「ふ、普段と変わらないよっ! からかわないで!」

    ハハハハ…!


    ガララ…

    志希「ぐっもーにぃーん…」

    志希「? う、にゃあっ!? ひ、人がいっぱい……?」ビクッ

    143 = 1 :

    みりあ「あっ、志希ちゃんだー!」

    蘭子「天使の眠りを覚まさせし救世主がここに!」

    志希「え、えっ?」


    武内P「一ノ瀬さん。メールは、ご確認いただけましたか?」

    志希「メール?」スイッ

    志希「……あれ、既読になってる。寝ぼけながら携帯いじってたのかにゃ?」

    武内P「とにかく、ご覧の通りです」


    「この人が、私の薬を作った人……」

    志希「……おぉ~~っ!」プニプニ

    「!? なっ、う……」

    志希「起きたんだねー、ぐっもーにん凛ちゃ~ん。まさに光芒一閃」プニプニ

    志希「滴定曲線よろしく、急激な変化が見られるのは想定の範囲内ではあったけど、
       こうして間近に観察できるとちょっとカンドーかも」

    志希「どれ、匂いもみてみよう。ちょっとハスハ…」

    みく「ご両親いる前で何してるにゃーっ!!」

    144 = 1 :

    凛母「本当にありがとうございます。
       もう駄目かと何度も思って、それがあなた方のお薬で無事に治って…!」ペコペコ

    志希「い、いえいえどういたしまして。あたしは興味があったから観察してただけで。
       ウチのドクターも喜ぶと思います、はい」フリフリ


    志希「あ、それで。この後の治療はどんなカンジになりそーですか、先生?」

    医師「えぇ、そうですな……最低でも一ヶ月は入院を続け、経過観察が必要でしょう」

    莉嘉「えっ、もう退院じゃないの?」

    医師「水を差すようで恐縮ですが、油断は禁物です。
       快方に向かっているとしても、半年以上も眠っていた凛さんの体は衰弱しています」

    医師「脳だけでなく、筋肉や臓器も……
       精密検査を行いつつ、軽い運動訓練を、食事は流動食から試していきましょう」

    武内P「はい」

    志希「しゅだのーん」

    かな子「しゅだのん?」

    美波「“Should have known.”?」

    志希「そーそー♪ ロシア語だと、んー、プラーヴィリナ? あ、ニサムニェーンナ?」

    アーニャ「ダー。シキ、ロシア語もすごく上手です」

    志希「あっちの大学にロシア人もいたからねー」

    145 = 1 :

    卯月「じゃあ、今度のサマーフェスに、凛ちゃんは……?」

    「やれるだけやってみるよ。心配しないで、卯月、未央」

    未央「心配するのなんてもー飽き飽きなのっ! しっかり治してよ、しぶりん!」

    「ふふっ……うん」ニコッ


    志希「んー、まぁひとまず凛ちゃんの臨床については一応の成果を見たとゆー事で。
       志希ちゃんのお役も御免なのかにゃ?」

    智絵里「えっ、そ、そんな事無いですよぉ。私達、まだ感謝を伝えきれてないし…」

    志希「いや~致命的な事に、結果が見えてる物には志希ちゃんの興味は薄れちゃうんだよ。
       普段あたし3分しか興味持続しないんだから、これでも驚異的な記録だよねー♪」

    李衣菜「いやそんなウルトラマンみたいな事言わないでさ」


    武内P「…………」

    武内P「一ノ瀬志希さん」

    志希「ん? 何でフルネーム?」


    武内P「アイドルに、興味はありませんか?」


    志希「…………?」キョトン

    146 = 1 :

    【経過報告】
     報告日:6月25日
     報告者:P

      渋谷凛は順調に快復。
      日常生活に支障の無い程度の運動は可能。
      脳波は安定しており、便の状態も良いとの事。
      『Bu-DOPA』の投与については、量を200mgに減らし、今後も経過を観察。
      以上

    147 = 1 :

    ――――――――――――

    ――――――


    タンッ タンッ タンッ…!

    ベテトレ「1、2、3、4、1、2、3、4、1、2……」パンッ パンッ!

    ベテトレ「ストーップ! ほら、またズレだしたぞ!」パンパンッ!

    ベテトレ「目で追うな! 互いの動きを拍数とイメージで捉えろ!
         同じ事を何度も言わせるんじゃない!」


    みく「はぁ、はぁ、だって……!」

    李衣菜「しょうがないじゃん……!」


    みく「何でみくと李衣菜ちゃんがユニット組まされるハメになるにゃっ!!」

    李衣菜「こっちの台詞だよ! この子とは絶対合わないのに合わせろなんて無理です!!」

    ベテトレ「そうか? 私は、お前達ほどお似合いのユニットはいないと思うがな」

    みく・李衣菜「はあぁぁぁあっ!?」

    148 = 1 :

    美波「私が、アーニャちゃんと組んで……」

    かな子「私は、智絵里ちゃんと杏ちゃん」

    みりあ「私は莉嘉ちゃんときらりちゃーん!」

    きらり「にょわーっ! きらりんトース☆」ガシッ ポーイ!

    莉嘉「きらりちゃん怖い怖い怖いっ!!」


    智絵里「プロデューサーなりに、考えてユニットを組み直してくれたんだよ、きっと」

    李衣菜「でもよりにもよって…!」
    みく「この子とだけは…!」

    李衣菜「何、文句あるの!?」

    みく「そっちこそ不満タラタラのクセにっ!!」

    みく・李衣菜「むうぅぅぅ~~~っ!!」ワナワナ…


    アーニャ「アー……嫌よ嫌よも好きのうち、ですね?」

    みく・李衣菜「違うっ!!」クワッ!

    149 = 1 :

    卯月「個性……かな?」

    李衣菜「えっ?」

    志希「ふむふむ、皆の個性が際立つように組み直してるってこと?」


    莉嘉「なるほどー。美波ちゃんとアーニャちゃんはアタシ達のキレイ目担当でー?」

    美波「キレイ目というのは、ともかく……莉嘉ちゃん達は、その見た目の凸凹具合ね」

    「どーも、自宅警備担当です」

    かな子「せ、せめておっとり担当とか!」

    きらり「Pちゃんはぁ、きらり達の事すっごくすっごく考えてくれてるにぃ♪」

    みく「にしたって……じゃあ何、みく達はこうしてケンカしてるのが個性ってこと?」

    未央「そりゃあ賑やかしとして強烈な個性だよねー、にひひー♪」

    李衣菜「笑わないでよ、こっちは死活問題なんだから!」


    ベテトレ「死活問題と言えるほど立派なハードルがあるなら上等じゃないか」

    ベテトレ「前進してなきゃ躓く事もできないんだ。
         お前達の目の前にある壁なんて全部扉だと思え! さぁレッスン再開するぞ!」

    みく・李衣菜「うわあぁぁんっ!!」

    150 = 1 :

    志希「ふぅーむ……個性、個性かぁ」

    卯月「志希さん、どうかしたんですか?」

    志希「いや、前のプロデューサーは、そんなに個性を重視してなかったんだよね?」

    未央「あー、確かにみくにゃんの猫耳とかリーナのロック、
       あとらんらんの、こう、ぶわっ! っていうのも抑え気味だったかなー」

    蘭子「ぶわって……」


    志希「化学って、方法と状況さえ同じなら、誰がやっても同じ結果になるんだよね」

    志希「でも、アイドルの世界はそうじゃない。誰がやるかで全く異なる事象が導かれる」

    志希「でもさ、取り巻く環境を制御して望んだ事象を手繰り寄せるってアプローチ?
       そこは同じなんだよねー。何でだろう、逆に新鮮でさー♪ にゃははーっ!」

    卯月「はぁ、そ、そうですね……えへへ」


    志希「ところで、あたしは誰とも組まずにソロなんだ?」

    「組まなくても十分キャラが立ってると思われたんじゃない?」

    志希「あー……」チラッ

    蘭子「?」


    志希「……あぁ~~」ウンウン

    蘭子「イヤミかッッ!!」


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