元スレ武内P「凛さんの朝」
SS+覧 / PC版 /みんなの評価 : ☆
1 :
ワアァァァァァァァァァ…!!
すごい熱気……!
美嘉ねぇ達が、しっかりお客さんあっためてくれたもんねっ!
? おやおやぁ、しぶりんひょっとしてまた緊張してる~?
手、震えてるよ?
武者震い、ですか……大一番のフェスですもんね!
大丈夫ですよ、凛ちゃん。私達、一緒に頑張ってきたんですから!
そうだよ! じゃあ今回もいっちょ、ハデにやっちゃいますかっ!!
はいっ!! 凛ちゃん、いつもの掛け声、よろしくお願いしますっ!!
? ……凛ちゃん?
しぶりん、どうしたの?
――――――
――――――――――――
SSWiki :http://ss.vip2ch.com/jmp/1479533635
2 = 1 :
~346プロ 執務室~
ガチャッ!
早苗「だっはぁー、今日もよく働いたわー! 楓ちゃんビール飲も!」ドサーッ!
瑞樹「少しは慎みなさい、早苗ちゃん。スカートの中、見えちゃうわよ」
早苗「いいじゃん細かいこたぁ。どーせあたし達しかいないんだし」パタパタ
武内P「……本日はどうも、お疲れ様でした」ペコリ
早苗「うん、お疲れーP君」パタパタ
瑞樹「早苗ちゃん」
3 = 1 :
武内P「明日は、川島さんはブーブーエスTV系列のグルメレポート番組の収録が、
高垣さんは、新曲のプロモーションのお仕事がございます」
武内P「片桐さんは、明後日にセクシーギルティでの営業が表参道…」
早苗「そっか、明日はオフねっ! じゃあ今日は思いっ切り飲むわよー!」ガッツ!
楓「ぜひ、お供させてください」
瑞樹「まったくあんた達ときたら……」
早苗「当然、瑞樹ちゃんも行くでしょ?」
瑞樹「そりゃあ、まぁ、断る理由も無いしね」
早苗「ワハハ、そうっしょそうっしょ! 今日はあたしの奢りよーなんつって!」
武内P「それでは、明日もよろしくお願い致します」ペコリ
ガチャッ バタン
4 = 1 :
楓「…………」
早苗「……相変わらず、P君って事務的ねぇ。機械みたい」
瑞樹「ああいう人の方が合ってるんじゃない?
機械的に業務を整理してもらえた方が、今の私達にとってはやりやすいわ」
早苗「おかげさまで、ひとまずは今の地位で安定してるしねぇ、あたし達」
楓「…………」スッ
早苗「あら、楓ちゃん?」
5 = 1 :
カタカタ カタカタカタ…
武内P「…………」カタカタ カタカタ…
ガチャッ
楓「失礼しまぁす」ソロォ-…
武内P「……高垣さん。どうかされましたか?」
楓「いいえ」
楓「これから、皆でちょこっと飲みに行こうかなぁって、話しているんですけど……」
楓「よろしければ、プロデューサーもご一緒に、いかがですか?」
武内P「片づけなければならない業務が、残っておりますので」
楓「……そうですよね」
武内P「申し訳ございません」
楓「いいえ、こちらこそ」
6 = 1 :
ガチャッ
楓「…………」バタン
瑞樹「ダメだって?」
楓「はい」
早苗「ノリ悪いわねぇ~」
瑞樹「あなたみたいな人の介抱をしたくないんでしょ、わかるわ」
早苗「なっ、何よその言い方!
この間なんて、むしろ楓ちゃんの介抱してあげてたじゃない、あたし!」プンスカ!
瑞樹「その前はあなただったでしょう。その前も、その前も前も…」
楓「…………」
瑞樹「楓ちゃーん、行くわよー」
楓「あ、はい」
スタスタ…
7 = 1 :
――――――
武内P「…………」カタッ カタカタ…
カタカタカタ…
武内P「………………」カタカタ…
カタカタ タンッ…
武内P「………………」フゥ…
ギシッ
武内P「…………」ンー…
コキッ コキッ…
ガチャッ バタン
8 = 1 :
コツ コツ…
武内P「………………」コツコツ…
武内P「…………?」ピタッ
美城常務「更衣室も見ておきたいのだが」コツコツ…
役員「はっ。こ、こちらです……」スタスタ…
武内P「…………」
同僚P「まったく、こんな遅くまで。よくやるよなぁ」ヌッ
武内P「…………」
同僚P「よぅ。お前もこんな時間まで残業か?」ポンッ
武内P「はい」
9 = 1 :
武内P「……あの方が美城常務、でしょうか」
同僚P「あぁ。会長のご息女で、アイドル部門の新しい統括重役。
アメリカから帰国してソッコーこっち来て、ウチの設備を見て回ってるんだと」
同僚P「見ろよ。お付きの役員連中の方がヘバッてやがる」
武内P「そのようです」
同僚P「とりあえず、お前も気をつけといた方が良いぜ」
武内P「……気をつけろ、とは?」
同僚P「欧米帰りの新任女社長なんて、ロクなもんじゃねぇって事さ」
同僚P「実力社会で勝ち残ってきた自負と地位、さらにフェミニズムを笠に着て、
俺達のようにうだつの上がらねぇ社員を冷遇しにきてもおかしくねぇ」
武内P「正確には、社長ではないのでは…」
同僚P「雲の上っつー意味では同じだろうが、頭かってぇなお前はホント」
10 = 1 :
同僚P「とにかく、あれだけバイタリティのある女は何をしでかすか分からん。
お前のためを思って言うが、覚悟はしとけよ」
同僚P「ぶっちゃけ、今のお前はアイドルに仕事を与えるどころか、
逆にトップアイドル達に仕事をさせてもらってるようなもんだ」
同僚P「新規プロジェクトで冒険する必要が無いアイドル達の、
身の回りを世話するマネージャーという、な」
武内P「…………」
同僚P「ま、担当事業が伸び悩んでる俺も、他人の事を言えたクチじゃねぇけどさ」
同僚P「お互い、頑張ろうぜ」ポンッ
テクテク…
武内P「………………」
11 = 1 :
――――――――――――
――――――
頑張って、どうしろっていうの?
いっぱいレッスンして、お仕事して、売れて有名になって……
そんなの全部、私達じゃなくて、“この会社”がやりたい事じゃない!
確かに、あなたの言う事を聞いていれば大成できるのかも知れないわ。
でも、私達が夢見ていたものと、それは違うよ。
もっと、皆に夢を与える事をしたかった……それなのに!
会社の言いなりになって、訳も分からず走らされるのはもうイヤなの!!
私達は、あなたのお人形なんかじゃないっ!!
――――――
――――――――――――
12 = 1 :
――――――――――――
――――――
武内P「………………」
チュン チュンッ… ピヨッ
武内P「………………」
13 = 1 :
~346プロ エントランスホール~
ウィーン…
受付嬢「おはようございます」ペコリ
武内P「おはようございます」
ザワザワ…
武内P「……?」
ザワザワ… オイオイ…
タッタッタッ…!
同僚P「おい、お前聞いたか!?」
武内P「おはようございます。何かあったのでしょうか」
同僚P「暢気にしてる場合じゃねぇ! その様子だとまだ知らねぇようだな」
同僚P「あの新しい常務、さっそくしでかしやがった。個人面談だとよ」
14 = 1 :
武内P「個人面談?」
同僚P「幹部や役員連中だけじゃなくて、現場で働くプロデューサー達も対象らしい」
同僚P「さすがにアイドル達まで声がかかってはいないようだが…」
社員A「おい、聞いたか? 川島瑞樹の話」
社員B「あぁ、常務に呼ばれたんだろ?」
社員A「実力のあるアイドルは、名指しで面談を行ってるようだな」
社員B「ウチの会社もワンマン経営になりそうだな。やれやれ……」
武内P「アイドルも、ですか」
同僚P「……みたいだな」
同僚P「とにかくだ。噂では、この面談で事業仕分けが行われるらしい」
同僚P「実績が上がらない事業があるなんて知られたら、どうなる事か…!」ソワソワ…
社員C「あのー、そこのお二方」
同僚P「は、はいっ!?」ビクッ!
社員C「常務がお呼びだそうです」
15 = 1 :
~常務の部屋の前~
同僚P「…………!」ゴクリ…
武内P「…………」
同僚P「ま、まずは俺からのようだな……」
同僚P「ハハ、ハ、な、なぁに大したこたぁねぇ。
相手はたかだかこの間来たばかりのし、新人だ。ちょ、ちょちょいと適当に…」
武内P「あの……」
同僚P「し、ひ、心配す、すんな。
じゃあ、ちょ、ちょっと行ってくらぁ」カチコチ…
コンコンッ
「どうぞ」
同僚P「……し、失礼します…」ガチャッ
バタン
武内P「ネクタイが、曲がっていたようですが……」
16 = 1 :
チク タク…
武内P「………………」
チク タク…
武内P「………………」
武内P「………………」
ガチャッ…
同僚P「失礼しましたぁ……」フラァ…
バタン
武内P「どうもお疲れ様でした」ペコリ
同僚P「へ、ヘヘ……あとは、たのんだぜ……」ニヤッ
フラフラ…
武内P「……?」
17 = 1 :
武内P「…………」
武内P「……」キュッ
コンコン
「入りたまえ」
武内P「……」ガチャッ
武内P「失礼致します」
バタン ペコリ
美城「なるほど、君がそうか」
武内P「……?」
美城「どうぞ、こちらに」
武内P「……失礼致します」
18 = 1 :
美城「…………」ペラッ
武内P「…………」
美城「……現在は、川島瑞樹、片桐早苗、高垣楓の三名を中心に担当」
美城「安定的に得られる仕事の依頼を、堅実に捌く実直なプロデューサー、か……」
美城「新しいプロジェクトを企画しないのは、する必要が無いからである、と?」
武内P「はい」
美城「なるほど。それで彼女達も満足しているのなら、確かにそうだろう」
美城「だが、君が今行っている事は、多少の処理能力があれば誰でもできる事だ」
美城「プロデューサーという肩書きでありながら、やっている事はマネージャーのそれだな」
美城「つまり、君はプロデューサーとしての本来業務を果たしているとは言えない」
美城「今の君に代わる者はいくらでもいるという事だ」
武内P「……承知しております」
武内P「自分が、この会社に必要とされてはいないであろう事は」
19 = 1 :
美城「自覚はあるようだな」
武内P「自慢できる事ではありませんが……」
武内P「残念ですが、これ以上、346プロにご迷惑をお掛けする訳にもまいりません」
武内P「どうか、私以外の誰か優秀なプロデューサーを…」スッ
美城「待ちなさい」
武内P「?」ピタッ
美城「私個人としては、君が自覚した通りの考えを君に対して持っている」
美城「しかし、自覚した事が必ずしも正しいとは限らない」
美城「とあるアイドル……そして、君の前に面談した先ほどのプロデューサーから、
ぜひ君を担当として選任してほしいと要望されたプロジェクトがある」
武内P「えっ……」
美城「なぜ、プロデューサーらしからぬ考えを持つように至ったかはともかく、
“本来業務”をこなす君の姿を見たいと願う声がそうあっては、無下にはできない」
美城「君が、我が社が必要とすべき人材かどうか、見極めさせてもらおう」
20 = 1 :
ガチャッ
武内P「失礼致します」ペコリ
バタン
武内P「…………」
同僚P「おぅ、終わったか?」ヒョコッ
武内P「…………」
同僚P「そ、そんな怖い顔すんなよ。あの状況じゃ仕方が無かったんだ」
同僚P「俺が継続してたんじゃ、今やってるプロジェクト、潰されそうだったからよ。
とびきり優秀なプロデューサーが同期にいるから、そいつに任せてほしいってな」
武内P「そう言われましても…」
同僚P「だぁー細かい事は言いっこなしだぜ!!
頼む! 哀れな同期とそのアイドル達のためと思って、一肌脱いでくれ!」ペコッ
同僚P「事務室はロビー奥の通路を地下に降りてすぐの所だ、じゃあな!」ダッ!
タタタ…
武内P「………………」ポリポリ…
21 = 1 :
コツ コツ…
武内P「…………」コツコツ…
コツ コツ…
ピタッ
武内P「………………」
武内P「“シンデレラプロジェクト”……」
22 = 1 :
武内P「……」スッ
ガチャッ
莉嘉「やったぁー!! 新しいモンスターゲットー!!」カシャッ!
武内P「!?」ビクッ!
みりあ「莉嘉ちゃんずるーい! みりあもやりたいー!」ピョンピョン!
莉嘉「えっへへーん、アタシのケータイだもーん☆」ドタドタ…
みりあ「あっ、待ってよぉー!」ドタドタ…
武内P「……?」ポカ-ン
智絵里「あ、あの……」
武内P「えっ?」
智絵里「な、何か……御用でしょうか?」オドオド…
23 = 1 :
武内P「えっ……あ、あぁ。これは失礼しました」
武内P「私、この度こちらのプロジェクトを担当する事となりま…」スッ
きらり「杏ちゃーん! 寝てばっかりは体に良くないにぃ☆」ガドーン!
武内P・智絵里「!?」ビクッ!
杏「えぇぇ……どうせ今日もやる事無いでしょ」ムニャムニャ…
きらり「やる事はぁ、皆で見つけて頑張ろう? そしたら皆でハピハピ!」
アーニャ「ダー。皆でできる事を探す、とても大事な事です」
きらり「にゃは! さっすがアーニャちゃぁん分かってゆぅ!」ダキッ!
アーニャ「おうふっ! き、キラリ、苦しいです…」ギューッ…!
武内P「……元気のある方ばかりですね」
智絵里「そ、そうですね。私も見習いたいんですけど……」
かな子「あれ、お客さんですか?」
24 = 1 :
智絵里「あ、かな子ちゃん」
武内P「前任に代わり、本日よりこちらのプロジェクトを担当させていただきます」スッ
かな子「えっ……ぷ、プロデューサーさんですか!? それも新しい!?」
智絵里「そ、そんな! すみません、私、すっごく失礼な事を…!」ペコペコ…!
武内P「い、いえ、お気になさらず…」
ガチャッ!
李衣菜「だからしょうがないじゃん! 壊したくて壊したんじゃないんだしさ!」プリプリ!
みく「しょうがないで済むなら警察は要らないにゃ!!」プンスカ!
25 = 1 :
のっしのっし…!
李衣菜「みくちゃんはいちいち気にしすぎだよ!
あんなのせいぜい千円ちょいなんだろうし、私が買えばいいんでしょ!?」
みく「“あんなの”じゃないにゃ! 猫耳はみくの商売道具なの!
人が大切にしてる物に乱暴をした事に、弁償よりもまずは謝るべきでしょ!」
みく「大体李衣菜ちゃんはいつも…!!」ガミガミ…!
李衣菜「そっちこそ…!!」ガヤガヤ…!
かな子「ちょ、ちょっと二人とも、事務所に来るなりケンカはダメだよぉ!」
智絵里「そ、そうだよぅ! 新しいプロデューサーだって来てくれてるんだよ?」
李衣菜「新しい?」
みく「プロデューサー?」クルッ
武内P「初めまして。前川みくさんと、多田李衣菜さんですね?」
李衣菜「えっ?」ドキッ
みく「な、何でみく達の名前を知ってるにゃ!?」
武内P「名簿は、事前に確認しておりましたので……」
26 = 1 :
みりあ「えー、新しいプロデューサーが来たのー?」
杏「その人、川島さん達のプロデューサーだった人?」
莉嘉「うぇっ、杏ちゃん知ってるの?」
杏「前に川島さんと愛梨さんがMCやってる番組に出た時、袖に立ってた」
智絵里「よ、よく覚えてるね杏ちゃん。私なんて、緊張しすぎて余裕が無かったから…」
きらり「にょわーっ、そんなすっごい人達のプロデューサーが来てくれたのー!?」
アーニャ「オー、それはオブナドェジヴァユシィー、とても心強いです」
武内P「いえ、私は…」
李衣菜「だったらさ!」ズイッ
李衣菜「その優秀なプロデューサーさんに、ジャッジしてもらおーじゃん!」ビシッ
みく「上等にゃ!」フンスッ
27 = 1 :
武内P「え?」
みく「李衣菜ちゃんが乱暴にギター置いたせいで、みくの猫耳が壊れちゃったの!
弾けもしないギターを!」
李衣菜「何さその言い方! ギターが勝手に猫耳の方に倒れちゃったんだよ!」
みく「あんな雑な置き方したら倒れるに決まってるにゃ!!」
李衣菜「疲れてたんだから雑になるのはしょうがないでしょ!!
大体、みくちゃんが場所取りすぎて私の荷物置く所無かったじゃん!!」
みく「もーラチが明かないにゃ!!」
李衣菜「こっちの台詞だよっ!!」
みく・李衣菜「で!?」「悪いのはどっち!?」ズイッ
武内P「い、いえ、あの……」オロオロ…
武内P「……ところで、メンバーが全員揃ってはいないようですが」
アーニャ「! ……」
莉嘉「あ、えと……」
28 = 1 :
かな子「え、あの……ら、蘭子ちゃんなら、ボーカルレッスンをしています!」
武内P「様子を見てきます。皆さんは、ひとまず今日は予定された事を…」スッ
みく「ちょっと待つにゃー!! 話が終わってないー!!」ジタバタ
智絵里「み、みくちゃん、落ち着いて~!」
みりあ「何でいつもそんな重いギター持ってるのー?」
李衣菜「己を犠牲にしてでも、譲れないもんがある。それがロックってヤツさ」
杏「弾けないのに持ってても意味ないんじゃない?」ボリボリ
みく「ごもっともにゃ」
李衣菜「何さみんなしてもー!!」
きらり「ケンカはダァメー! きらりんバリヤー☆」メゴォッ!
莉嘉「わ、わぁーい! きらりちゃんすごーい、壁がへっこんだー!」
武内P「…………」ガチャッ
バタン
29 = 1 :
~ボーカルレッスン室~
ジャーン♪
蘭子「アーアーアーアーアー♪」
トレーナー「喉から出さないでお腹からーーはいっ」
ジャーン♪
蘭子「アーアーアーアーアー♪」
ガチャッ
蘭子「?」
トレ「あら?」
30 = 1 :
武内P「失礼致します」バタン
トレ「あぁ、プロデューサーさん。お疲れ様です」
武内P「この度、そちらの神崎蘭子さんが所属するプロジェクトを、担当する事に」
トレ「そうだったんですか。どうぞ、よろしければ見学されていきますか?」
武内P「はい。ご迷惑でなければ」
蘭子「闇に飲まれよ!」バッ!
武内P「!?」ビクッ!
31 = 1 :
蘭子「ククク、貴方が私をいざなう新たなる『瞳』の持ち主、という事ね」
蘭子「凍れる時は終わりを告げ、果てしなき天空への階段を照らす暁光が今、
我が心を慰む供物とならん!」
蘭子「血の盟約に従い、共に覇道を歩もうぞ、我が友よ!!」バーン!
武内P「…………」ポカーン
トレ「あ、あはは、あのー蘭子ちゃん? 初対面で、そういうおふざけはちょっと…」
蘭子「えっ!? な、あの、私が戯言を言っていると言うのか!」
トレ「私は、少し分かりますけど、ほら……プロデューサーさん、混乱してますよ?」
32 = 1 :
トレ「前のプロデューサーさんにも、言われてたじゃないですか。
そういう路線はイタイキャラに見えるから、あまり多用すると危ないって…」
蘭子「路線とかじゃないもん!」
蘭子「……ハッ!? こ、コホン!
偽りの仮面を被り、我が身を殺して大勢に取り入ろうなど愚の骨頂よ!」
蘭子「テュポンの暴風が我が翼を切り裂こうとも、
立ち向かう事を諦めては美しき華の開花など夢幻の彼方に消えよう」
蘭子「堕天使の飛翔を導くのは、彼の者の務め、そう……今こそ、創世の時!!」バッ!
武内P「……ちょっと、急用を思い出したので、失礼致します」ササーッ
蘭子「えぇーーっ!?」ガーン!
33 = 1 :
~休憩スペース~
ピッ!
ウィーン ガコンッ コポコポコポ…
武内P「…………」スッ
武内P「……ッ」ズズ…
武内P「………………」ハァー…
ガックリ…
テクテク…
楓「……あっ」
34 = 1 :
武内P「! ……高垣さん、お疲れ様です」
楓「お疲れ様です、プロデューサー」
楓「休憩中ですか?」
武内P「えぇ……はい」
楓「じゃあ、私も。お隣、良いですか?」
武内P「え、えぇ。どうぞ」ギシッ
楓「失礼します」スッ
武内P「……大した引継ぎもできず、後任のプロデューサーもさぞ困っているかと思います」
武内P「ご迷惑をお掛けする事となり、申し訳ございません」ペコリ
35 = 1 :
楓「ふふっ。確かに、後任の方は面食らっていますね」
楓「こんな仕事量を、たった一人でこなしていたのか、って」
武内P「大した事ではありません。
一方で、今のプロジェクトは人数が多い上に、皆さんとても個性的で……」
武内P「私のような人間に、果たして上手く導く事ができるものか……」
楓「慣れますよ」
武内P「えっ?」
楓「それに、プロデューサーなら、あの子達もきっと慕ってくれます」ニコッ
武内P「…………?」
コツ コツ…
後任P「高垣、ここにいたか。そろそろ時間だ」
楓「あ、はい……」
36 = 1 :
楓「じゃあ、私はここで」スッ
武内P「はい。お疲れ様です」
後任P「……」ペコッ
武内P「……」ペコリ
テクテク…
武内P「………………」
ドタドタ…!
李衣菜「あ、いたーっ!! みくちゃんこっち、見つけたよ!」
武内P「!!」ギクッ!
みく「良くやったにゃ、李衣菜ちゃん!」ドタドタ…!
みりあ「かくれんぼ、もう終わったのー?」トテトテ…
きらり「事務所、すーっごく広いけどぉ、みーんなで探せば楽チンだにぃ♪」ドタドタ…
杏「杏まで引っ張り出すのやめてくんないかなぁ」
37 = 1 :
みく「さぁ、いい加減にお縄につくにゃ!」
李衣菜「私とみくちゃん、どっちが悪いのか、決めてくださいよ!」
武内P「…………あの、お言葉ですが……」ポリポリ…
武内P「どちらが、どう悪いとは、私には判断しかねます」
みく・李衣菜「えっ?」
武内P「前川さんの猫耳も、多田さんのギターも、等しく譲れないものであるなら……」
武内P「きっと遅かれ早かれ、いつかは起きてしまう事だったのではないかと思います」
武内P「仮に、私が今、前川さんの猫耳を壊したギターを取り上げたとしても、
多田さんは納得されないでしょうし、その逆も同様でしょう」
武内P「大事なのは、どちらが悪かったのかではなく、譲れない事項を鑑みた上で、
これからどう回避すべきかだと考えます」
李衣菜「……意外、ですね。私が怒られるのかな、って思ってたけど…」
みく「えっ、そうなの?」
李衣菜「前のプロデューサーなら、たぶんそうだったと思わない?
ロック、ロックって、視野を狭めると可能性を潰すぞーってよく言われてたし」
みく「うーん……猫耳に固執するなーって、みくも言われてたしにゃあ。
元はと言えば、大事にするはずの猫耳を床にポイッてしてたのもみくだし……」
38 = 1 :
杏「後ろめたかったんなら最初から二人とも謝れば良かったじゃん」
みく・李衣菜「ぬぁっ!?」
かな子「ぜぇー、はぁー……ケンカは、良くないよぉ」
アーニャ「お互いにイズヴィニーチェ、ごめんなさいを言って仲直り、ですね?」ニコッ
李衣菜「……ごめん」ポリポリ…
みく「ふぇっ!?」ドキッ
李衣菜「私、弁償するから……次から、気をつけるね」
みく「ちょ、きゅ、急に謝らないでよ! みくのせいでもあったんだし、その……」
みく「みくも李衣菜ちゃんの荷物置くスペース、全然考えてなくて、ごめんなさい」ペコッ
莉嘉「あれれー、何だか新しい展開ー?」
智絵里「そういえば、二人がまともに謝ってるの、見た事ないかも」
きらり「二人とも、ちゃぁんと素直な気持ちになれてハピハピ気持ちいぃ☆」
李衣菜「き、気持ち良くはないけどさ……!」
ザッ!
ベテラントレーナー「こらぁーっ!! 前川ぁ、多田ぁっ!!」
みく・李衣菜「うひゃあっ!?」「げっ!」
39 = 1 :
ベテトレ「いつまで経っても来ないと思ったら、こんな所で油を売って……!」
ベテトレ「ダンスレッスンの時間は過ぎてるぞ! さっさと着替えて来い!!」
みく・李衣菜「すみませぇーん!!」ペコーッ!
スタスタ…
武内P「……猫耳は、経費で落としますので、ご安心を」
李衣菜「あ、はい……じゃあ、行こっか」
みく「うん」
テクテク…
みりあ「私達、何をすればいいのー?」
きらり「お部屋のお掃除してぇ、レッスン終わった皆のドリンク作ってぇ、
やれる事はいーっぱいあるにぃ☆」
アーニャ「ダー。ランコも、ミクも、リイナも、疲れが取れるようなお部屋にしたいです」
かな子「皆が帰って来た時用のお菓子も必要だよねっ」ズイッ
智絵里「そ、そうだねー」
武内P「そういえば……本田未央さんら、ニュージェネレーションズの皆さんは?」
40 = 1 :
一同「……!」ピクッ
武内P「そして、確か、新田美波さんも、このプロジェクトのメンバーだったのでは……」
武内P「その4名の姿が見えないのですが、本日はどちらにいらっしゃるのでしょうか」
武内P「本来であれば、私が把握しておくべき事なのですが……
力が及ばず、申し訳ございません」ペコリ
智絵里「そ、それはしょうがないですよ! 今日来たばかりなんですし…」アタフタ…
武内P「いえ……」
一同「………………」
杏「……プロデューサー、知らないんだね」
武内P「?」
アーニャ「ンー、ミナミ達は……ちょっと、お出かけしています」
武内P「……どちらに?」
41 = 1 :
~常務の部屋~
今西部長「就任早々、大した働きぶりだねぇ」
美城「……皮肉で仰っているのでしょうか」
今西「そんなつもりは無い、が……些か性急、とも思うかな」
美城「“今”ばかり注視しては状況に囚われ、判断を執るべき機会を逸します」
美城「経営者の仕事は“先”を見据え、然るべき舵を取る事。
今など、せいぜい現場の人間が大事にすれば良い」
美城「逆に言えば、今を任せられないようなスタッフなど、組織に必要ありません」
今西「……フーム、という事は…」
今西「彼の事を切らなかったのは、それなりに彼を買っているから、という事かい?」
42 = 1 :
美城「曲がりなりにも、我が社のトップアイドルを三名世話していた人物です」
美城「それに、元々解体するつもりだったプロジェクト……
数ある砦のたかが一つ、たとえ陥落しようと主郭に何ら支障はありません」
美城「自由にやらせ、その力量を試すには、渡りに船だったという事です」
今西「当て馬に利用してリスクヘッジか、やれやれ……君は抜け目が無いね」
今西「となると……彼女の事は、どう考えているのかね?」
美城「活動が無いまま、例のプロジェクトに登録されているというアイドルですか」
今西「もう半年以上にもなる」
美城「言うまでも無く、アイドル事業は慈善行為ではありません。
それはファンのみならず、アイドル自身にとっても」
美城「これまでは過保護にアイドル達の面倒を見てきたようですが、
それに掛かるランニングコストは到底無視できるものでは無い」
クルッ
美城「たとえ彼女の保護者から頼まれたとしても、復帰が見込めなければ、
一アイドルのために346プロがこれ以上の扶助を行う理由など、ありません」
今西「……君なら、そう言うだろうね」
43 = 1 :
~美城グループ附属総合病院~
コツ コツ…
医師「当院の病床数は692床」
医師「そのうちICU、すなわち重篤な患者の集中治療に供する病床は18床あります」
武内P「……その患者は、いつからこちらに?」
医師「およそ半年以上前でしょうか。
あるフェスで、本番直前に意識を失い、こちらに搬送されたのです」
武内P「その後の治療は?」
医師「医者として恥ずべき事ですが……ここは、もはや庭です」
医師「定期的に水と栄養を与え、身辺の世話をするだけ」
医師「文字通り植物人間と化した彼女に対し、治療と呼べる治療など、
ほとんどロクに進んでいないのが現状です……」
武内P「…………」
ウィーン…
医師「こちらが、集中治療の病棟となります」
医師「彼女の病室はこの少し手前、HCU……準集中治療室という部屋です」
44 = 1 :
武内P「? ……“準”とは。集中治療室ではなく、ですか?」
医師「申し上げた通り、ICUに居させても手の施しようが無いのです。
しかし、一般病棟に移しては、他の患者を刺激する事にもなります」
医師「個室を宛がい、かつ経過を観察するのに最も好都合なのが、HCUという訳です」
武内P「……隔離病床である、と」
医師「…………」
タッタッタッタッ…!
ドンッ!
武内P「ッ!」
卯月「……ッ」タタタ…!
未央「ま、待ってしまむー!!」タタタ…!
武内P「…………」
45 = 1 :
タタタ…!
美波「……あっ、す、すみません!」ペコッ
武内P「いえ……」
美波「……!」ペコッ
タタタ…
医師「……患者と親交のあったアイドル達です。面会に来ていたのでしょう」
武内P「存じております」
医師「えっ?」
武内P「彼女達の、プロデューサーですので」
医師「……そうでしたな」
コツ…
医師「ここが、彼女の病室です」
ガララ…
46 = 1 :
ピッ… ピッ… ピッ…
武内P「………………」
武内P「…………目と、口が開いていますが、意識は……?」
医師「……」フルフル
医師「抗NMDA受容体抗体脳炎……我々による、一応の診断結果です」
医師「症例は少ないのですが、若年女性に好発する急性型の脳炎であり、
主に卵巣に奇形の腫瘍を併発している例が多いという特徴があります」
医師「その卵巣奇形腫に脳組織が含まれた場合、これに対する抗体が生じ、
それらが中枢神経系を攻撃してしまう事で発症する、というのが主な症例です」
武内P「……不勉強で恐縮ですが、脳組織が腫瘍に含まれる、とは一体…」
医師「腫瘍中に脳組織が生成される、と言えば分かりやすいでしょうか」
47 = 1 :
医師「卵子や精子という細胞は、人体を構成する全ての細胞の大元であり、
これら胚細胞の、さらに元となる細胞が暴走して腫瘍化したものが奇形腫です」
医師「生殖細胞の暴走により奇形腫にて生成されるのは、ほとんどが皮膚や髪、骨ですが、
稀に一部が神経管を形成し、脳や脊髄等の元となる組織が生成されるのです」
医師「この脳組織に対し発生した抗体が悪さをする……自己免疫疾患というヤツですな」
医師「つまり、その抗体の供給源である奇形種が大きな原因の一つであるという事です。
事実、診断の結果、彼女の卵巣にも奇形種が認められておりました」
医師「これについては、外科手術により既に切除済みです。
以後は、薬物治療により快方に向かうだろうと目されていたのですが……」
武内P「……半年以上経った今でも意識が戻らない、と?」
医師「はい……」
医師「食事も満足に行えないほど意識レベルが低いため、
ご覧の通り、鼻からの経管栄養により延命処置をしている状態ですが……」
医師「ステロイドや免疫グロブリンを投与しても、血漿交換を行っても、
類似の症例で有効とされた抗がん剤さえ、いずれも効果は見られません」
医師「考え得る手を尽くしても、原因の特定すらできない……八方塞がりなのです」
武内P「………………」
ピッ… ピッ… ピッ…
48 = 1 :
~病院の中庭~
美波「気分は落ち着いた?」
卯月「はい……すいません、取り乱しちゃって」
美波「ううん、いいの。凛ちゃんの事だもの、慌てちゃうのも無理はないわ」
卯月「…………」
未央「大丈夫大丈夫! しぶりんいつか絶対治るって!!」
卯月「未央ちゃん……」
未央「私達にはよく分かんないけど、フツーに考えておかしいじゃん。
何にも悪い事してないしぶりんが、急にあんな事になるなんてさ」
49 = 1 :
未央「別に神様がなんとかーってな話、するワケじゃないけどさ。
私達にできるのは、しぶりんが復帰した時に、いかに盛大に迎えてあげられるか!」
ピョンッ! スタッ
未央「いよっと!
それを考えといてあげるのが、親友の務めであろーと思うのであります!」
卯月「でも、もしこのまま凛ちゃんが…」
未央「だーもうその話はヤメヤメ!! 何でそういう話ばっかりするかなー!」
ギュッ!
卯月「うぇっ!?」
未央「減らず口を言うしまむーのお口なんてこうだ! えい、えいっ!!」ギュギューッ!
卯月「い、いひゃひゃひゃっ!! いひゃいいひゃいっ!!」ジタバタ!
美波「ちょ、ちょっと二人とも、病院の中で騒いじゃダメでしょう!」オロオロ…
50 = 1 :
卯月「それじゃあ、私と未央ちゃんはレッスンあるので、ここで……
美波さん、すみません。後はよろしくお願いします」ペコリ
美波「えぇ。もう少し、凛ちゃんの様子を見ていくわね」
未央「頼んだぜーみなみん! じゃあまたねー!」フリフリ
テクテク…
美波「……ふぅ、さてと」
ザッ…
美波「……?」クルッ
武内P「新田美波さん、ですね?」ヌッ
美波「う、うわっ!?」ビクッ
武内P「新しく、シンデレラプロジェクトのプロデューサーを務める者です」スッ
美波「え? ……あ、あら、そうだったんですか。す、すみません……」
武内P「渋谷凛さんの事で、少しお話をお聞きしたいのですが、よろしいでしょうか?」
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