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元スレ国王「さあ勇者よ!いざ、旅立t「で、伝令!魔王が攻めてきました!!」
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ザザァン…
魔王「…」
雷帝「魔王様…間もなく陸が見えて参ります」
魔王「そう…」
雷帝「海を越えれば、王国領港町。人間の王の座す王城まで、数える砦はひとつのみとなります」
炎獣「砦ったって、大したことないだろっ? 俺たち四天王と、魔王が居ればさぁ!」
雷帝「敵戦力の大部分はすでに壊滅したからな。そこまで心配はいらんと思うが」
氷姫「いよいよ…ってワケね」
炎獣「でも、それはそれで物足りないないよなー…これ以上の敵がいないなんてさ!」
氷姫「馬鹿言わないでよ。王国軍の本体を壊滅できるかどうかは、賭けだったんだから。あんなのはもうゴメンよ」
雷帝「ああ…。だがその甲斐あって、人類撃破の願望は目の前だ」
SSWiki :http://ss.vip2ch.com/jmp/1476520312
炎獣「いよぉしっ! 木竜のジイさん、飛ばしてくれー!」
木竜「やっておるわい。騒がず静かに儂の背中に乗っておれ」
雷帝「翁…長時間の飛行になりますが、お身体は持ちますか」
木竜「ほほっ! これでも現役四天王じゃからのう。伊達に竜族をまとめとるわけではないぞい」
氷姫「無理すんじゃないわよ、じーさん」
木竜「無理もしようと言うものじゃ。儂らの悲願が…」
木竜「目の前に来ておるというのじゃからな」
氷姫「…そうね」
木竜「姫様。少しばかり揺れる旅じゃろうが、もう少し我慢して下され」
魔王「…」
魔王「無理をさせて、ごめんなさい。爺」
木竜「ほほっ。何のこれしき、じゃ」
ビュオオオオオ…
炎獣「おっ!」
炎獣「見えたぞ! 陸だっ!!」
雷帝「…さて、気を引き締めて参りましょう」
氷姫「そうね。人間が、まだどんな手を隠してるか分かったもんじゃないし」
木竜「そろそろ、前線崩壊の一報が人間の王の元へ届いていてもおかしくはないからのう」
炎獣「へへっ。強い奴がいるなら、ドンと来いだぜっ!」
魔王「――みんな」
魔王「ここまで、長い道のりだった」
魔王「けど、とうとう人間をここまで追い詰める事ができた」
魔王「あと少し…あと少しの間だけ」
魔王「私に、力を貸して…!」
王城 謁見の間
国王「なに…!? それは真かっ!?」
勇者「…!」
ザワザワ…
伝令「はっ!!」
「ま、魔王が…?」
「そんな馬鹿な…! 勇者が旅立ってこれからと言う時に!」
「なんということだ…っ」
国王「…状況を詳しく申せ」
伝令「はっ!本日未明、魔王軍との最前線基地へ、新たな敵軍が出現!」
伝令「我が国の軍は、新手の出現からわずか半時で全滅しました…!」
国王「な、なんだと…!?」
伝令「新手はどうやら、魔王と直属の精鋭兵のようです!」
勇者「魔王が、自ら…!」
伝令「魔王の部隊は、その後直近の拠点を蹂躙!南方大陸から海路に出ました!」
伝令「その猛進凄まじく…我が国の港町までおよそ数刻…!!」
国王「なにっ!」ガタッ
勇者「!!」
「う…嘘だ…港町まであと数刻だと」
「港町からは、もうこの王城まで砦ひとつ隔てるのみだぞ!?」
「お、王国軍は!? 王国軍はどうなって…」
「主戦力の半分以上は最前線に送られているはずだ…それが全滅…」
「で、ではもはや港町以降を守れる人類の戦力は…!!」
「そんな…そんな馬鹿な!!」
国王「………」
兵士「し、失礼致します!」
国王「…今度は何だ」
兵士「陛下、こちらの書状を…。港町の長から、火急の報せとのことです!」
国王「港町…長というと、武器商会の長か」
国王「よい。読み上げてみよ」
兵士「はっ」パサッ
港町
「おい、倉庫のモンは全部港へ回せ!」
「へい!」
「おい、こっち人手が足りねぇぞ!」
「てめェらで何とかしやがれ!!」
商人「…」
役員「社長。大方の配置は完了してやす」
商人「ああ、ご苦労」
商人「それでは、役員会議を始める」
商人「魔王はどうやらドラゴンに乗ってこちらまで移動している」
商人「あちらの攻撃手段がどういったものか、詳しいことは何も分かっていない。…王国軍の騎士連中はその解析を待たずして全滅してくれたからな」
商人「それだけの速攻と破壊力があるのは間違いない。奴らが港に近づく前に撃ち落とす」
「「「へい!!」」」
商人「大砲の配置はどうなっている?」
役員「倉庫のありったけを、沿岸に並べてありやす。砲弾の扱える連中は全員そこにつぎ込んで、魔王が来た瞬間に砲弾の雨を降らせられますぜ」
商人「上等だ。鉄砲も行き渡っているな?」
役員「へい。王国軍にも卸してない東方の特製品でさぁ。あれだけ数が揃えばちょ? っとしたハリケーンが起きまさぁ」
商人「よし。…魔導砲は?」
役員?「準備出来てやす」
商人「そうか」
商人「魔王のドラゴンの姿が確認出来しだい、大砲の波状攻撃を開始する。砲弾は出し惜しみするな」
商人「鉄砲の射程に浸入されたら、こっちは一斉射撃だ。魔導砲の攻撃範囲へ敵を誘導する」
商人「エリアに誘い込んだら…これを魔導砲で撃ち落とす」
商人「敵は確かに未知数の恐ろしい力を持っているが、幸い海の上、一匹のドラゴンの所へ集まっている」
役員「俺らにとっちゃ、格好の的ってわけですね?」
商人「そういうことさ。魔導砲の威力で、まとめて消し飛ばす」
商人「奴らに見せてやるのさ。人間様の、技術の結晶ってヤツをね」
商人「町の連中の様子はどうだ?」
役員「港町の男の大多数は、作戦に賛同して、士気も高いですぜ」
商人「…くく。元々が海の男や、職人業の連中さ。荒っぽいのは嫌いじゃあないんだろう」
役員「それも、姐さんの号令あればこそです」
商人「あたしにそこまでの人徳なんざありゃしないさ。汚い商売で散々人を利用してきたんだからね」
商人「あたしゃちょいと…お祭り騒ぎのための神輿を作っただけさ」
商人「″打倒魔王″という名の、分かりやすい神輿を、ね」
役員「…他の連中がどうだろうと、あっしらは社長…姐さんについて行きますよ」
商人「ったく…もの好きな奴らだ」
役員「姐さんほどじゃありやせん」
商人「そろそろ、魔王が現れる頃かもしれん。皆、配置に着いて各々指揮をとってくれ」
「「「へい」」」
商人「………アンタたち」
役員「へい、何でしょう」
商人「…」
商人「付き合わせて、すまないな」
役員「…とんでもございやせん」
役員「あっしらが、自分で選んだ事です」
商人「…ふっ。そうかい」
バタン…
役員「…」スゥッ
役員「てめぇら!! よく聞きやがれ!!」
役員「これァこの武器商会の意地をかけた大博打だっ!!」
役員「魔王のクソッタレが、王国軍どもを蹴散らしてこっちに来やがる!!」
役員「何てこたァねぇ、これはいつも通りにてめぇらの身をてめぇらで守るための戦争だ!!」
役員「俺たち武器商会の恐ろしさを、尾っぽの先まで魔族共に思い知らせてやれぇッ!!」
ウオオオオオオオオオオオッ
「親愛なる国王陛下」
「我々、武器商会が陛下にこうして書状をしたためるのは久しぶりだ」
「戦争と侵略を良しとする前王とは持ちつ持たれつの良好な関係を築けたが」
「戦争を嫌い平和を愛する陛下とは、どうやら反りが合わなかったようである」
「しかし漫然とした平和を享受し、牙を研ぐことを怠っていたのツケは今まさに人類を滅ぼさんとしている」
「我々、武器商会は立ち上がる。人の手にて魔王を迎え撃つ」
「港町は王国の騎士殿の力を借りずして、人類の意地を見せつけるだろう」
「陛下や教会のお伽噺がもし現実となり、女神の神託を受けた勇者とやらがそこにいるのならば」
「せいぜい、この間に魔王を打ち破る策を打ち出してみせよ」
「陛下は我々を、悪の分子として排除しようとされたが、我々は人の心の闇に巣食ってしぶとく生き延び続けた」
「あのイタチごっこは不毛なものであったようだ。現に我々は、我々の望むように生きて、望むように死んでいく」
「勝ち逃げを許されよ」
国王「…」
国王「…武器商会は」
国王「捨て身で魔王を止める気か」
港町 居住区
遊び人「…」コソッ
「こっちは準備終わったぞォっ!」
「こっちもだ!」
「魔王のクソヤローが、来るなら来てみろってんだ!」
「返り討ちだぜ!!」
ワァァアア!!
遊び人「…」
「もしかしたら…これが最後かもしれねぇ。だがそれも悪くねぇ!」
「どうせウチに籠ってたって、ダメな時はダメだしな!」
「へっ! 死ぬにしても、華々しく死んでやるぜ! ドラゴンのどてっ腹に風穴空けてから逝ったらぁ!」
「天国の父ちゃん…見ててくれよ!」
遊び人「…」
遊び人「ったくよぉ、冗談じゃねぇぜ」
遊び人「オレはこの港町で、余生を楽しく過ごそうって思ってたのによぉ…」
遊び人「魔王が攻めてくるだぁ? はあ、ツキがねぇぜ…」
遊び人「馬鹿どものお祭り騒ぎに付き合うこたぁねえ。さっさとこんな所ずらかってやらぁ…」
遊び人「死んだら元も子もねぇんだ…!」ダッ
「もし、そこの方…」
遊び人「!?」
遊び人「な、なんだ…てめぇ」
男「魔王が攻めてくると聞いたのですが、本当でしょうか…」
遊び人「あ…?」
遊び人「けっ、知らねぇや。そうなんじゃねぇの。どいつもこいつもそれで決死の顔をしてやがるぜ」
遊び人「まぁオレには関係のないことだがな!」
男「…なるほど」
男「実は、魔王の撃退のための武器が配られていると耳にしたのですが、そこに行かれたりはしませんか?」
遊び人「はぁ?」
遊び人「…てめえ、なんだ? まさか武器商会の連中じゃあるめぇな?」
遊び人「ふざけんじゃねーぜ。テメェらの勝手な自爆に人様を巻き込むんじゃねぇや! 人手を探してるってんなら他を当たんな!! 」
男「…」ス…
遊び人「!? な、なんだ、やろうってのか…っ!」
男「この目を見てください」
遊び人「っ!? …テメェ」
男「――そう。私は盲ろう者なのです」
遊び人「…」
遊び人(帽子を目深に被ってやがったんで見えなかったが…目の回りにひでぇ跡がある)
遊び人(焼けただれたような、おぞましい傷痕)
男「これは、魔族に受けた傷です」
男「私の妹は…行商の道中魔族に襲われ、死にました。何とか生き延びた私もご覧の有り様」
遊び人「…」
男「もう私の目は欠片も光を映すことはありません。ですが、この瞼には、あの時最後に見た光景が焼き付いて離れません」
男「何度も何度も、あの日の事を反芻しながら今日まで生きてきました」
男「妹が…目の前で喰われてゆく所を…」
男「これは、チャンスなのです。私が、復讐を遂げることができる…恐らく、最後の」
遊び人「………」
男「私も、この戦いに参加させて欲しいのです。だから、お願いです。どうか」
男「どうか…私をその場まで導いて頂けないでしょうか」
――――――
――――
――
遊び人(…オレは何やってんだ?)
遊び人(馬鹿らしい。今時、こんな連中は世の中ゴマンといる)
遊び人(同情でもしたってのか。このオレが?)
遊び人(はっ。遊び人が情に流されてちゃオシマイだぜ)
遊び人「…こっちだ。モタモタすんな、しっかり着いてきやがれ」スタスタ
男「ありがとう、ございます」ヨタヨタ…
遊び人(目の見えないヤツが戦場に出て何をしようってんだ?)
遊び人(わざわざ死にに行くようなもんだ)
遊び人(…そもそもこんな人間に武器商会が獲物を持たせるかあやしい話だがな)
遊び人(奴らほとんどヤクザ紛いの組織だぜ。今回は随分派手に振る舞ってやがるが、元は債権回収のために切った張ったをするような連中なんだ)
遊び人(下手すりゃ味方を撃ちかねないようなコイツに、何かさせるとも思えねえ)
遊び人(…無駄だ。こんな事は、全て無駄。何の意味もない)
男「…はあ…はあ」ヨタヨタ…
遊び人(…)
遊び人(ちょっと移動しただけで息が上がってやがる。無様だぜ)
遊び人(………)
遊び人「…着いたぞ」
男「ほ、本当ですか!」ゼェハァ
三下「おう? なんだテメェらは。こんなトコで何してやがる?」
遊び人(うげっ。巻き添えはごめんだ)
遊び人「あァ、イヤね、旦那。今しがたこの野郎が戦列に加わりてぇってんで、仕方なくあっしが持ち場を離れて連れてきた次第でしてね」
三下「あぁん? なんだ、今さらか?」
遊び人「ええ。全くトロい野郎で――」
男「お願いします!!」バッ
遊び人「うおっ」
男「私も、どうか戦いに加えて下さい!!」
三下「てめぇ、その目は…!?」
男「はい…私の目は既に潰れて何も見えていないのです」
三下「なんだって?」
男「それでも、戦いに参加したいのですっ! どんな雑用でも構いません!!」
男「魔王に…復讐したいのです!!」
遊び人「…」
三下「駄目だ駄目だ!」
三下「目が見えん奴に何が出来るってんだ! 邪魔になるだけだ!」
男「そんな…! お願いです! どんな事でもしますから!」
三下「何を言ってやがる! おめぇみたいな奴に出来る事なんかねぇ!!」
遊び人(あーあ。やっぱりこうなったか)
商人「何の騒ぎだ」ザッ
三下「しゃ、社長っ!」
遊び人「!?」
遊び人(げぇっ! この女、あの悪名高き武器商会の女社長か!? とんでもねぇのと出くわしちまったっ!)
三下「お、御疲れ様です! この男が、手伝いをさせろと行ってきたんですが…」
商人「ん? お前…」グイッ
男「っ」
商人「盲人か」
男「…はい」
商人「………」
遊び人(い、今のうちに逃げるべし)ソローリ
商人「…お前、戦いに加わって何をするつもりだ?」
男「わ…分かりません。何が出来るのか」
男「で、でも、どんなことだってやります」
商人「どんなことでも、か?」
男「はい」
商人「――例え、その結果命を落とすことになっても?」
男「はい…!」
商人「ふむ」
遊び人(ひぇえ…! あの馬鹿、誰に啖呵切ってるか分かってんのか!? 本当に殺されちまうぞっ!)
商人「おい」
三下「へ、へい!」
商人「こいつに短剣を一本やれ」
三下「え…!?」
商人「急げ」
三下「へいっ…!」タッタッタッ
商人「そこのお前」
遊び人(ん…? 誰の事を言って…)
商人「お前だ。コソコソ隠れてるんじゃないよ」
遊び人「っ!?」
遊び人「あ、あっしですかい?」
商人「お前、うちのカジノに入り浸っていた遊び人だな?」
遊び人「うへっ!?」
遊び人(こ、この女、何でそんな事知ってっ!?)
商人「大事な顧客の顔は覚えるさ。これでも商人の端くれだからねぇ」
遊び人「こ、こりゃあ光栄な事で…」
商人「しかし、お前は客というだけでは留まらなかった人物でもある」
遊び人「!?」
商人「ウチで扱ってる″粉物″。ウチの若い衆から随分安く仕入れて横流ししていたみたいだな…?」
遊び人「ヒェッ…」
●
商人「おい」
三下「へ、へい!」
商人「こいつに短剣を一本やれ」
三下「え…!?」
商人「急げ」
三下「へいっ…!」タッタッタッ
商人「そこのお前」
遊び人(ん…? 誰の事を言って…)
商人「お前だ。コソコソ隠れてるんじゃないよ」
遊び人「っ!?」
遊び人「あ、あっしですかい?」
商人「お前、うちのカジノに入り浸っていた遊び人だな?」
遊び人「うへっ!?」
遊び人(こ、この女、何でそんな事知ってっ!?)
商人「大事な顧客の顔は覚えるさ。これでも商人の端くれだからねぇ」
遊び人「こ、こりゃあ光栄な事で…」
商人「しかし、お前は客というだけでは留まらなかった人物でもある」
遊び人「!?」
商人「ウチで扱ってる″粉物″。ウチの若い衆から随分安く仕入れて横流ししていたみたいだな…?」
遊び人「ヒェッ…」
遊び人(な…なななな何で、あのことが、バレて)
商人「知らないとでも思ったのかい? まあ、その小さな脳ミソじゃそこまで考えも回らんだろうなぁ」
商人「あたしも暇じゃなくってね。あんたみたいな小物は今まで見逃してやってたんだが、こうしてバッタリ会っちまったらしょうがないねぇ」
商人「貴様には″貸し″がある。本当なら、ここで指の一本でも貰って返して貰うところだが」
遊び人「ひ、ひぃいいっ!」
商人「こんな日には、そんな余興じゃシラケるだけだ。貴様には他の事で働いて貰おうか」
商人「この男を、ある場所の警備につける」ポン
男「…?」
商人「貴様はそこまでこの男を連れていけ」
遊び人「は、は、はいッ! 喜んでッ!!」
商人「場所は、商館街の高台にある円形の建物だ。この紙をそこにいる者に見せれば、話は通るだろう。私のサインがしてある」
遊び人「…!」
遊び人(し、しめた! この場から離れられればこっちのもんだぜっ! どうにかトンズラして…)
商人「逃げようなんて考えるんじゃないよ。うちの商会の連中は貴様の顔を覚えている」
遊び人「」
商人「貴様は今まで、我々の監視下で生かされていたに過ぎないのだ。そして、今日この日でさえそれは変わらない」
商人「その事を、よく肝に命じておけ」
遊び人「」
商人「…ふぅ」
商人「…」スタスタ
役員「ね、姐さん! こんな所においでだったんですかい! ここは危険ですぜ」
商人「構わんさ。必要な指示は全て与えた。私がどこに居ようと、戦争は始まる」
役員「そりゃ、そうですが。それでもいけやせんや」
商人「何?」
役員「姐さんには、魔王を倒した後のこの港町を、また切り盛りしていって貰わねぇといけやせんから。身体は大事になさって頂かねぇと」
商人「…ふっ」
商人「そうだな。少し、堤防の辺りを見たら、あたしは本社の…魔導砲の所へ戻っていよう」
役員「そうして下せえ。それじゃ、あっしはこれで!」
タッタッタッ
商人「…」
商人「…」スタスタ
商人「…」ピタッ
商人「何か用か? さっきからつけ回して」
商人「なあ、魔法使い」
魔法使い「あれ、バレていましたか」
商人「姿を見えなくする魔法か? それは」
商人「相変わらず悪趣味だな」
魔法使い「ひどいなぁ。僕は僕なりに気を使ったんですよ」
商人「何?」
魔法使い「黄昏の港町を眺めて歩いて、感傷に浸っている商人さんの邪魔にならないように…てね」
商人「ふん、何を寝ぼけてるんだい。まだ昼も回ってないだろう」
魔法使い「いえ、そういう意味ではなく。見納めじゃないですか。これが」
魔法使い「活気溢れる、港町の」
商人「…」
魔法使い「分かっているんでしょう。きっと、魔王は倒せないと」
魔法使い「港町は今日で滅びると」
商人「…」
魔法使い「貴女は、この町を事実上支配していましたから、愛着も沸くんでしょうねえ」
商人「ククク。そんなに上等な物じゃないさね」
商人「あたしのこれは、独占欲だ」
魔法使い「独占欲?」
商人「ああ。あたしは思うまま生きてきた。おかげで敵は多かったが、その全てをねじ伏せ、出し抜き…そうして欲しいものを手に入れてきた」
商人「結果、あたしの我が儘にこれだけの人間を利用してみせている。その満足感に浸っているんだよ」
魔法使い「貴女の我が儘…ですか」
商人「ああ」
商人「…あたしはね、我慢ならないのさ。知らない余所者が簡単にあたしの縄張りを土足で蹂み荒らしてみせるなんてことは」
商人「それが、魔王だろうと誰だろうと、ね」
商人「だから、喧嘩を売った相手がどれだけ恐ろしい者なのかっていうのを、分からせてやらなきゃならない」
商人「この港町の人間を全て巻き添えにしてでもね」
魔法使い「…せめて、一矢報いよう、と?」
商人「あのヘタレ国王には、もう期待しちゃいないのさ。勇者なんて、胡散臭いシロモノにも」
商人「あたしは、あたしのやりたいようにやるんだよ。最後の時まで 」
魔法使い「…ふふふ」
魔法使い「実に貴女らしいですね。面白い」
商人「地獄に落ちるならそれでもいいさ。女神なんてモノがこの世にいるんだとしたら、好きにするといい」
魔法使い「そうは言いますが、さっきは随分と優しかったじゃないですか?」
魔法使い「あの盲目の男…連れていったのは魔導砲のコアの警備でしょう」
商人「…」
魔法使い「あんな人間に短剣ひとつ持たせて、あそこへ警備につかせるなんて…あれは貴女なりの救済ではないんですか?」
魔法使い「魔導砲…この港町の切り札。もし、あれのコアまで攻め込まれるなんて事が起これば」
魔法使い「それ即ち、その時がこの町の滅びる時、ですからね。言うなれば、港町の一番最後の場所でしょう」
魔法使い「随分と豪華な特等席じゃありませんか」
商人「ちっ、あんたは本当に鬱陶しい男だね」
商人「そんな事ばかり言うためにわざわざ顔を出したのかい」
魔法使い「ふふ。いえ、何せ僕にとってもあの魔導砲は所縁の深い場所ですからね」
魔法使い「あの傑作は、僕と貴女の合作じゃありませんか。アレの晴れの舞台を、見ない手はないと思いまして」
商人「確かに、アレはあんたの魔法の知識が無ければ完成しなかった」
商人「よくよく首を突っ込んだもんだよ、あんたも。あんな危険な物を作るのに手を貸した日には、王国を丸ごと敵に回すようなものなのに」
魔法使い「ふふふ。貴女からの提案が、とても魅力的だったもので」
魔法使い「それに、面白そうな事には関わらなければ気が済まない性格なのですよ」
商人「…呆れた男だ」
魔法使い「まあ、そう言わないで下さい。それで、どうなんです?」
魔法使い「あれは、貴女の″優しさ″だったんですか?」
商人「…」
商人「ふん」
商人「只の、気まぐれだよ」
ザザァ…
炎獣「港町が見えてきたぜー!」
魔王「あれが、港町…」
氷姫「随分デカいわね」
雷帝「今まで通ってきた町々もかなりの文明を感じていましたが…ここまでとは」
魔王「ええ」
魔王(…)
炎獣「…何か、考え事か? 魔王」
魔王「うん、少し」
炎獣「聞かせてくれよ」
魔王「…」
魔王「私たちはここまで、人類を倒すために必死にやってきた」
魔王「この作戦は、能力の特に高い私たち精鋭部隊による一点突破が肝なの」
氷姫「分かってるわよ。あたしたちで、勇者を倒す」
炎獣「勇者を倒しさえすれば、人間側に魔王を倒す手立てが消えて、降伏せざるを得ないってわけだよな!」
雷帝「勇者はまだ神託を得て間もない…。″勇者一行″という組織の結成や強化の前に此方から攻勢に出る、ということですよね」
魔王「そう。皆の言う通り。つまり、魔族軍の戦い方は、今、すべて私たちに委ねられてる」
魔王「今までの人間達の町々を見て、その文化水準の高さには驚かされ続けた…魔界は、まだまだ魔王城周辺ですらここまでの生活を実現出来ていない」
魔王「魔族は、人間の文化を吸収する必要があるわ」
炎獣「…??」
雷帝「そうですね、確かに。戦争に勝利した後、人間文化に根付く技術の数々を魔族の職人層が手に入れられれば…」
氷姫「魔界はますます繁栄するってわけ?」
魔王「うん。だから、皆にもそのつもりでいてほしいの」
炎獣「つまり…どういう事だってばよ?」
氷姫「アンタねぇ…」
炎獣「い、いや、俺も聞いてたけどよー! もうちょい俺にも分かるように説明してくれよ!」
雷帝「つまり…敵地だからと言って何でもかんでも火の海にするなと言うことだ」
炎獣「? なんで? 人間の陣地なんだろ?」
氷姫「ハア…いいからアンタは魔王の言う通りにしてなさい」
炎獣「? 分かったー!」
魔王「くす…」
炎獣「俺には難しい事は分からねーけどさ、でも、魔王!」
魔王「? なあに?」
炎獣「俺、きっとお前の理想の世界を実現してみせるからな!」
炎獣「その為に、一番に突っ込んで行くのは俺だっ! 絶対!」
炎獣「約束する!」
魔王「…ふふっ。ありがとう、炎獣」
雷帝「…」
氷姫「…」
木竜「ほっほっほっ。若いもんはええのう」
氷姫「…ふん、爺さんは暢気でいいわよね」
木竜「何を言うか。ワシャこれでも昔はモテモテでブイブイ言わせとったんじゃがのう」
氷姫「昔話は別の時にしてくんないかしら」
木竜「なーんじゃツレないのう…」
木竜「しかしな、氷姫。人生の先輩として一言言わせてもらうと」
木竜「ヤキモチを妬いておるよりは、とっとと素直になった方が楽じゃぞい」
氷姫「…」ピクッ
木竜「ほーっほっほっ!」
雷帝「全く、貴方たちは…少し緊張感が足りないのでは?」
木竜「おや? 素直になれないのがもう一人」
雷帝「なっ、何を!」
氷姫「ま、コイツの場合は分かりやすすぎるけどね」
雷帝「ななな、何の話をしているんだお前はっ!」
木竜「ほっほっほっ! 固いのう、雷帝」
炎獣「お前らなんの話してんの?」
氷姫「アンタには関係ないわよ、バーカ。チビ。脳筋」
炎獣「ええっ!? ひどくね!?」
魔王「…ん」
魔王「みんな!」
雷帝「むっ」
氷姫「あれは、船?」
炎獣「へへ、おいでなすったか」
雷帝「翁、準備は宜しいですか?」
木竜「無論じゃ。みな、少しばかり揺れるからのぉ」
木竜「振り落とされるでないぞい!」
ビュオオッ!
炎獣「ひゅうっ! 速いぜ速いぜー!」
氷姫「騒ぐんじゃないわよ、馬鹿。チビ。オタンコナス」
炎獣「ぇえっ!?」
魔王「雷帝、どう読む?」
雷帝「…はい。人間の船団は大砲を積んでいることが多く、その射程はもう間もなく…」
雷帝「港町を守るための先鋒として送り込まれた王国軍でしょうが、翁の飛行速度であれば、あれしきの船団の砲撃であれば優にかわしきれます」
魔王「うん、そうだね。私もそう思う」
雷帝「…」
氷姫「おい。顔が緩んでるわよ」
雷帝「なっ、なにを!?」
普通に面白い気体
炎獣→サラマンダー
氷姫→シヴァ
雷帝→イシュテルテ
木竜→まんま巨大な樹の竜
なイメージだが魔王だけイメージができぬ
炎獣→サラマンダー
氷姫→シヴァ
雷帝→イシュテルテ
木竜→まんま巨大な樹の竜
なイメージだが魔王だけイメージができぬ
>>42
お前のそんなレスが一番どーでもいいから大人しくromれ
お前のそんなレスが一番どーでもいいから大人しくromれ
シーン…
木竜「なんじゃ、撃って来んぞ」
炎獣「えーっ? なんだよ、つまんねぇ」
木竜「ボサボサしてると、抜き去ってあっという間に港じゃぞ、人間!」
木竜「儂の翼を甘く見ぬことじゃ!」
氷姫「…どうなってんのよ」ジト
雷帝「お、おかしいな。それではこの船団は何のために」
魔王「…」
魔王(静かすぎる)
木竜「堤防が近づくぞ…!」
ビュオーンッ
商人「――てぇっ!!」
ズドドドドドォンッ!!
木竜「!?」
氷姫「港の方から、砲撃っ!?」
木竜「ちっ、猪口才な!」
ギュゥウンッ
炎獣「どわーっ!」
魔王「船は囮だったの!?」
雷帝(いや、しかしこの距離では船に砲弾が当たって…)
雷帝(――待てよ。まさか)
雷帝「いけません、翁っ!高度を上げて下さい!!」
木竜「なに…?!」
雷帝「急いでッ!」
木竜「く…!」ギュンッ
――ドガァァアアンッ!
魔王「!? 真下で、爆発!?」
氷姫「船団が、爆発してるんだわ!」
雷帝「最初から、これが狙いだったのです…! あの船団は無人で、火薬を積んでいたのです!」
ズドドドォッ
木竜「ちっ、物凄い数の砲撃じゃ!」ギュンッ
雷帝「我々の飛行経路を絞るための船団でしたか!」
氷姫「人間も随分大それた手に出たもんね!」
魔王「…それだけ、彼らには後がないということよ…!」
炎獣「うおおおっ!? あっちこっちで爆発してやがるぅ!」
木竜「しかし、これしきでやれる儂ではないぞ!」バサッ!
ギュウウウゥンッ
魔王「爺…!」
氷姫「やるじゃない、ジーさん!」
雷帝(…しかし何か引っかかる。この砲撃の仕方)
ズドドォ…
木竜「もう少しで堤防じゃ!」
炎獣「いけいけー!」
雷帝「…氷姫」
氷姫「なによ?」
雷帝「この距離なら、お前はテレポートで翁より先に堤防まで飛べるか」
氷姫「…イケるわよ、ここまで近づけばね。ジーさんは砲撃掻い潜りながらだし」
雷帝「では先に飛んでくれ。恐らく、あちらにまだ何か準備があるように感じる。それを、潰して欲しい」
氷姫「アンタ、それ本当でしょうね」
雷帝「ああ」
氷姫「…」
魔王「氷姫」
魔王「お願い。雷帝の読みを信じましょう。それに、氷姫の奇襲は人間にとっても頭にないはずよ」
氷姫「…ふう」
氷姫「ま、アンタに言われちゃしょうがないわね、魔王」
氷姫「――この氷の女王にお任せあれ!」
ビュッ
堤防
「ちぃ、ちっともドラゴンの奴に当たらねぇぞ!」
「それでも真っ直ぐこっちにゃ飛んでこれねぇみてぇだ!」
「近づいてくりゃ鉄砲で蜂の巣だぜっ!」
役員「しゃあ! 次だぁ!」
役員「鉄砲隊、用意っ!」
「「「おう!!」」」
役員「狙いをつけろ!! いいか、ドラゴンを港の西側に飛ばせれば、作戦は成功だ!!」
役員「よく引き付けろよ――…ん?」
フワッ
役員「なんだ、雪?」
「お、おお、俺、武者奮いがとまんねえぜ」
「お、俺もだ…」
「い…いやちょっと待て。こりゃ武者奮いっつーか…極端に冷え込んできたんじゃねぇか?」
「まさか…でも、なんだこりゃ。震えが止まらねぇぞ…」
役員「ど、どうしたってんだ、こりゃ」
役員「俺まで、震えてきやがった…」
役員「…………ん? ありゃ、誰だ?」
役員「あんなトコに女が立って――」
パキィンッ!
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