私的良スレ書庫
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元スレ国王「さあ勇者よ!いざ、旅立t「で、伝令!魔王が攻めてきました!!」
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氷姫「…」コォオオオ…
炎獣「究極氷魔法…。結局完成された技は見たことねぇ。どんな魔法なんだ?」
魔王「…冥界の死神を呼ぶの。呼び出された死神達は、術者が意図した範囲の生命を、刈り取り続ける」
魔王「死の行進、と言われる魔法よ」
炎獣「死の、行進…」
魔王(氷姫…)
氷姫(一度、失敗した術式、か)
氷姫(今度失敗したら、本当に、生きてられないかもね)
氷姫(あの時は、冥界に引っ張りこまれかけた)
氷姫(今思い出しても足が震えて…意識が飛びかける)
氷姫(でも)
氷姫(後ろを振り返ってる暇はもう、ない)
氷姫(あたしには力が必要なんだ)
氷姫(もう、仲間が傷つかない力が)
氷姫(だから…冥界の死神よ)
氷姫(力を、貸しなさい!)
氷姫「究極氷魔法!!」
将軍「いいかっ!! 魔王は疲弊し、敵はひと所に固まっている!!」
将軍「数々の犠牲の上に掴んだこの機を逃すな!!」
将軍「後ろを振り替えるな!!」
将軍「ただ我らのきりひらく、人類の未来だけを見よッ!!」
将軍「全軍、前進ッ!!」
ドドドドドドドドドドドドドド!!!
将軍(――止めてみせるぞ、魔王っ!!)
魔法兵「ぜ、前方に強力な魔力を感知っ!」
将軍「なにっ!?」
「おい、見ろ!!」
「なんだ、あれは!?」
将軍「っ!?」
将軍(雲が…暗雲が渦巻いて…世界が暗くなっていく…!)
将軍「敵の魔法か!?」
魔法兵「お、おそらく! しかし、このような魔法は聞いてことがありませんっ!」
ゴオオォォォ…
将軍「くっ、吹雪だと…! 氷の魔術師か!」
将軍「何が起こっている!?」
ドロドロドロドロドロドロ…
将軍(なん、だ!? この地鳴りは!)
「ぜ、前方…敵影多数…!!」
将軍「なんだとっ!?」
「吹雪の中に…きょ、巨大な影が幾つもみえます!」
将軍(どういう事だ…!? 軍勢を呼び寄せたとでも言うのか!?)
将軍(ここまで圧倒的な力を、こうも何度も…!!)
将軍「ちぃ…! だがもはや撃沈する他あるまい!!」
将軍「全軍、抜刀ッ!!」
ジャキィッ!!
キラッ キラキラッ
砲台長「…み、見えた! 抜刀したぞ!!」
砲台長「全砲台、撃ちまくれ!! 敵の結界は消えてるぞォ!!」
ドドーンッ! ズドーンッ!
将軍「よし、援護砲撃が敵に当たっている!!」
将軍「突撃ぃぃいっ!!」
「うおおおおおおおおぉっ!」
死神「…」シャキン…
将軍(巨大な、鎌…っ!?)
死神「…」ブゥン…
ズバァァアッ!!
「ぐわあああぁあっ!!」
「うわあぁあぁあっ!!」
将軍「ばかな…!!」
将軍(砲撃にもビクともしない耐久力に…巨大な鎌による破壊力…。今までの魔王軍との戦いでは一度も姿を現さなかった)
将軍(こんな化け物を…一瞬にして呼び寄せたとでも言うのか!?)
将軍(そんなことがあるわけがないっ!!)
将軍「くそっ、隊列を立て直せッ!!」
騎士「魔導士隊、てぇっ!!」
ズドドドドドドドドォンッ…!
将軍「翼の団…!」
騎士「我らを苦しめた天下の王国軍が情けない!! 貴君らはこの程度かっ!?」
将軍「今さら現れて何を言う!! 恐れをなして逃げ出したかと思ったぞ!!」
騎士「我らに恐れなどない!!」
騎士「いつ、なん時も、自由のために剣を取るのは我らだ!!」
騎士「今は人類の自由のためっ!! 今は共に剣を取ろうぞっ!!」
将軍「………人類の自由のために…だと?」
将軍「…くっ、ふふ! 都合のいい連中だ…!」
将軍「良かろう!!」
将軍「我らに遅れを取るなよ!!」
騎士「望むところッ!!」
狩人「…騎士が、翼の団全軍を率いて王国軍と合流したみたい」
剣士「あの鉄クズ、気合い入れすぎて傷口開いてやがるぜェ、絶体」
魔女「さあ、我らも進まねば」
斧使い「…」コク
エルフ「しばらくは、精霊魔法が効くはずだよ。皆の姿は敵に見えない」
剣士「つっても、あの怪物に効果あんのかよ?」
エルフ「分からないけれど…見るからに闇の住人の風体だ。精霊魔法の効き目があると、信じたいよ」
狩人「もし、こっちの動きを気取られたら…」
斧使い「…」
ドドドドドドドドドドドドドドドド…
ワァァァ… ズドーン…
魔女「…色々な戦場を見てきたつもりじゃったが…」
魔女「空を覆う暗雲…絶え間なく吹き付ける豪雪…死の巨人…」
魔女「地獄のような、光景じゃな…」
エルフ「…うん、そうだね」
狩人「騎士…」
剣士「他人の心配してる場合かよ?」
狩人「…っ」
剣士「俺たちゃ、もっと恐ろしい連中と戦いに行くんだぜ…」
剣士「いや、戦いに行くってよりは」
エルフ「剣士」
剣士「…んだよ。そういうこったろうが」
剣士「運が良ければ、一人くらい生き残るかもしれねぇ………そういう戦いだろ、これァ」
剣士「まァ…生き残ることが果たして幸せかってェと…」
剣士「そりゃ、どうだか分からねェけどよ」
エルフ「そうだとしても…価値あることをしに行くんだと」
エルフ「ボクは、そう信じたいよ」
エルフ「君ほど…覚悟が出来てるわけじゃないから」
狩人「…」
斧使い「…」
魔女「後戻りはできぬ」
魔女「この行軍は、最後は魔王のところへ辿り着き」
魔女「あそこで戦う多くの兵士たちを囮に、魔王と戦う」
魔女「そこには四天王がいるかもしれぬ。それでも、刺し違えてでも」
魔女「妾たちはやらねばならん」
魔女「…すまぬな。自分のする事を…確認しておきたかった」
魔女「この歳でも………情けないがな」
狩人「…なんだ」
狩人「皆、迷ってるんだね」
狩人「迷いながら」
狩人「逃げ出したい心を必死に押さえて」
狩人「…歩いてるんだよね」
斧使い「…」
剣士「アンタは、そういうわけでも無さそうだなァ?」
斧使い「…」
剣士「…あのよ」
剣士「確かに俺ァいつだって戦場のド真ん中で、命を死の天秤にかけてきた」
剣士「…とは言えよ。死にたいわけじゃねェよ」
剣士「まだまだ、生きて成り上がってやりたかった」
剣士「もっと金を手に入れて、もっと名声を築いて、もっと女を抱いて…」
剣士「こんな所で死のうモンなら、未練なんざありすぎて化けて出かねねェ」
剣士「それが、こうして平気な顔で講釈垂れてるのにもワケがある」
エルフ「…ワケ?」
剣士「ああ。コツってもんがあるのさ」
剣士「冥土の土産に教えてやるぜ。それはな――」
「鉄砲隊、てぇっ!!」
パパパパパンッ
死神「…」
将軍「クソ…!! まるで効き目がない!」
騎士「引き摺り倒すぞっ!! 傭兵隊っ!!」
「おうらァっ!!」ドシュッ!
騎士「今だ! 騎士団、突撃ィッ!」
「うおおおおっ!!」
死神「…」ブゥン
ドシャアァアッ!
「ぎゃぁぁああぁッ!!」
騎士「くっ!! 駄目か…!!」
将軍「もう打つ手がないぞ…!」
騎士「ぬぅ…ッ、このままでは!!」
軍師『その魔法は究極氷魔法です』
将軍「!? な、なんだ!?」
騎士「軍師どのの声…!」
軍師『古い文献から見つけ出しました。その巨人を倒すのは不可能です』
軍師『魔法を詠唱をしている本人を倒す他ありません』
将軍「本人だと…一体どこに!?」
軍師『その吹雪きの吹き出し口。それが魔法の発される大元』
軍師『巨人の鎌を掻い潜り、魔法の詠唱者を倒してください』
騎士「…!」
騎士「よし…」
将軍「待て! もう、翼の団にも王国軍にも、残存の兵は残り少ないぞっ!!」
騎士「だから何だというのだ」
騎士「ならばその全軍で突撃するのみ」
将軍「っ!!」
騎士「迷う暇はない。死にたくないのならそこで待っていろ」
将軍「何…」
騎士「皆のものッ!! 聞こえた通りだッ!!」
騎士「人類の明日は吹雪きの吹く方にあるッ!!!」
騎士「逆風を進めッ!!!」
騎士「向かい風の奥の希望へッ!!!」
騎士「 我 に 続 け ぇ ッ!!!」
ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド
軍師『王国兵、翼の団の皆さん』
軍師『辛く、恐ろしい戦いでしょう』
軍師『もう前に進みたくない』
軍師『止めてしまいたい』
軍師『死にたくない』
軍師『いや、いっそのこと殺してほしい』
軍師『――私には、救う事も助ける事も出来ません』
軍師『でも、どうか』
軍師『どうか、人類を救ってください』
軍師『もう、あなたたちにしか、出来ないのです』
軍師『傷つき、絶望と希望の狭間で苦しんだとしても』
軍師『それでもどうか』
軍師『どうか、人類を…』
ハーピィ「…も、もういいの? 軍師さん」
軍師「…、はい」
軍師「もう、私に紡げる言葉などありはしません」
軍師「ありがとうございました、ハーピィ」
ハーピィ「う、ううん。よ、良かった、よ…」
ハーピィ「で、出来る事が、す、少しでも、あって…」
軍師「…ハーピィ?」
ハーピィ「あ、あはは…ちょっと、一人で魔法を使うのは」
ハーピィ「つ、疲れちゃった、みたい…」
ハーピィ「急に、ね、眠気、が…」
軍師「ハーピィ…!」
ハーピィ「…ね、軍師、さん」
ハーピィ「か、仇を…」
ハーピィ「取れる、かな…?」
ハーピィ「きゅ、吸血、鬼、さんの…」
ハーピィ「か、仇…」
軍師「…ハーピィ」
軍師「約束します。必ず」
軍師「必ずや、魔王に一矢報います」
軍師「だから…」
ハーピィ「…」
軍師「…眠りましたか」
軍師(…進もう)
軍師(私に、出来ることを…)
雷帝「――あれが、敵の参謀か」
炎獣「…すげえ」
炎獣「氷姫のやつ…本当に成功させちまいやがった」
炎獣「こんな魔法、見た事ない」
炎獣「すげえな………」
――氷姫「あたしも、自分に、勝ちたいの」
――雷帝「何も言うな」
炎獣「氷姫………雷帝…」
炎獣「…」
炎獣(何だ…? 言葉が、出てこない)
炎獣(″大丈夫か? 無理すんなよ。頑張れよ″)
炎獣(…違う。そんなの、俺の言葉なんかじゃない)
炎獣(上っ面だけの…嘘っぱちだ)
炎獣(………何だよこれ。俺、一体どうしたいんだよ)
炎獣(あんな顔したあいつらに…何を言えってんだよ)
魔王「炎獣」
炎獣「…ん」
魔王「珍しい、ね。そんな顔」
炎獣「…」
魔王「…」
炎獣「なあ、魔王」
炎獣「何だかさ、変な気分なんだ」
炎獣「氷姫や雷帝のこと、応援したいし心配なんだけどさ」
炎獣「どうしたらいいか、分かんないんだよ」
魔王「そっか」
炎獣「変だよな。なんなんだろうな」
炎獣「どうしてこんな胸の内がざわつくんだろうな」
炎獣「何で俺…」
魔王「…」
魔王「″氷姫や雷帝を素直に応援出来ない自分が腹立たしい″」
炎獣「!」
炎獣「………そう、なのか。俺」
魔王「″何だか置いてきぼりにされたようで、寂しい″」
炎獣「………」
魔王「″二人が…、羨ましい″」
炎獣「…っ!」
炎獣(俺…!)
炎獣(俺は…、応援なんてハナっならしちゃいないんだ)
炎獣(あの時の二人の表情が頭から離れなくて…かける言葉も見つからなかった自分が、ひどくちっぽけに思えて)
炎獣(俺が戦う理由と、あいつらが戦う理由に、大きく差をつけられたような気分で)
炎獣(何か…なんだか………)
炎獣「…」
魔王「炎獣?」
炎獣「…おあーーーっ!!」
魔王「きゃ!?」
木竜「ぬお!!」ビクッ
炎獣「…はあ、はあ…」
木竜「な、なんじゃいきなり! 急に大声を出すな!」
魔王「…炎、獣?」ポカーン
炎獣「何でもねえ!」
木竜「何でもないなら静かにしとれ!」バシッ
炎獣「あだっ!」
木竜「姫様の治癒に集中しとるんじゃ、儂は!」
炎獣「ご、ごめん」
魔王「…大丈夫?」
炎獣「………なあ、魔王」
魔王「何?」
炎獣「俺は、どうしたらいいと思う?」
魔王「うーん…」
魔王「それは、多分ね。私が言うことじゃないんじゃないかな」
炎獣「でも、魔王は俺の気持ち分かるんだろ? 今言い当てたみたいに」
魔王「…全部分かるわけじゃないよ。私が言ったことが炎獣の全てだとも、私は思ってない」
魔王「炎獣自身がどうするかは、自分で探さなきゃ」
炎獣「ちぇっ…」
魔王「ふふ。…きっと氷姫も雷帝も、たくさん悩んだんじゃないかな?」
炎獣「俺、悩むの苦手だ」
魔王「そうだったね。じゃあ身体動かしてみる、とか?」
炎獣「お! それいいかもな!」
魔王「あ、でも。あまり遠くにいかないでね?」
魔王「雷帝にお願いされたでしょ?」
炎獣「…ああ、うん」
――雷帝「お前が守ってくれれば、安心だ」
――木竜「炎獣。おぬしは、おぬしの戦いをせい」
炎獣「…俺の戦いを…」
炎獣「しなくちゃ、だもんな」
炎獣「…」
魔王(炎獣…。この戦いで、初めての事が沢山あったんだ)
魔王(知らない気持ち、知らない思い。上手く消化する暇もなく、戦いは続く)
魔王(一番経験の浅い炎獣にとって、そういう不安定な中戦っていかなきゃいけない)
魔王(それはきっと、計り知れない不安だろう。…私が)
魔王(私が上手くフォローをしてあげないと)
炎獣「魔王もさ」
魔王「うん?」
炎獣「不安だよな、魔王も」
魔王「えっ?」
炎獣「先代様が死んで…即位した時、まだ魔王は小さかった」
炎獣「それでもそのまま俺たちの先頭に立って、ここまで引っ張ってくれたけどさ」
炎獣「もう少しで人間に勝てるってトコまでようやく来たけど…」
炎獣「人間の反抗は、生易しくなんかない」
魔王「…」
炎獣「魔王も不安なのにさ。俺たちを勇気づけてくれて」
炎獣「ありがとな」
魔王「っ…」
炎獣「あ、あはは、なんか照れんなぁ!」
炎獣「色々考えてたらさ、なんか言いたくなってさ!」
炎獣「俺は、魔王を支える、魔王の四天王だ!」
炎獣「必ず勝とうな!」ニッ
魔王「………うん」
魔王「そうだね。一緒に、勝とう!」
炎獣「ああ!」
木竜「…」
木竜(………そうじゃ、炎獣。そのお前の、真っ直ぐさが)
木竜(魔王様を…お前自身を、救うんじゃ)
魔王「!」ピクッ
炎獣「…魔王」
魔王「ええ。これは…」
炎獣「敵か。いつの間に、こんな近くまで…」
魔王(これも敵の能力?)
「よォ」
剣士「また会ったなァ? 化け物!!」
炎獣「魔王、下がってろ」
魔王「…うん。気をつけて」
炎獣「ああ」
炎獣「こんな所までのこのこ現れるなんてな! 倒されなきゃ気がすまないみたいだな!?」
剣士「かっかっかっ!」
剣士「どうやらそうらしいぜェ、俺って男はよォ!!」
剣士「………きっちり、倒してくれや!!」ザッ
砦内部
軍師「…」カツカツカツ…
守備兵「おい、貴様。何処へ行く」
軍師「…軍義の間へ。通して頂けますか?」
守備兵「軍義の間はこの砦の一番最奥にある部屋だ。まさか、あのような演説をしてみせておいて、一人のうのうと安全な場所に逃げ隠れようというのか?」
軍師「…まだ、信用して貰えませんか」
守備兵「貴様ら賊の一団を、我々が完全に信用したとでも思っているのか」
軍師「…」
軍師(この窮地にあっても、我々辺境連合軍と王国軍はこの有り様)
軍師「…人類が、敗北するわけですね」
守備兵「何? …貴様今なんと言った?」
軍師「魔王の圧倒的な戦力を前に、人間の希望は今消え失せようとしています」
軍師「その時ですら、国や、立場、我欲に縛られて…人間とはかくも見苦しいものだったのだな、と思ったのですよ」
守備兵「何だと!? 貴様…!」
ザクッ
守備兵「…!?」
軍師「だから、私の行いも許して下さい」
守備兵「貴…様…ッ! 一体………何
…を………」ズルズル…
軍師「こう見えて、汚い手段には慣れっこなんですよ。知ってましたか?」
守備兵「」ドサッ…
軍師「…遅いか、早いかの違いでしかありませんが、どうか安らかに」
軍師「急がなくては」カツカツ…
軍義の間
軍師「ここが、王国軍最後の関門。不落の城と言われた砦の最深部ですか」
軍師「ここにたどり着く時はもっと別の形なのだと…ずっと思っていたはず、なのですけれど」
軍師「…」
軍師「感傷に浸る時間もないようですね。もうそこに居るのでしょうか?」
軍師「雷帝さん」
雷帝「…」ス…
軍師「なるほど、それが魔界に伝わり伝説の魔剣の力」
軍師「雷光のごとき速さでの移動をも可能にする、というわけですね。こちらの奥の手と同等の力をそう容易く使われたとあっては、翼の団も形無しというものです」
軍師「砦には対魔族の結界がいくつか張られていたと思いますが、それも効果無しですか。いやはや、感服です」
軍師「初めから、こちらの用意した策などものともしないような能力を自負していらしてたんですか?」
軍師「それとも、少しくらいは貴方たちを追い詰めることが出来たんですかね?」
軍師「伺ってみたいものですよ。魔王四天王の一人、雷帝さん」
雷帝「………」
雷帝「勿体ぶるな。私が今、貴様の首を落としてしまわない理由はひとつだけだ」
雷帝「何が狙いだ?」
軍師「狙い、ですか。大方察しはついているかと思いますが」
軍師「私は単なる囮なんですよ。貴方なら、まず私を消そうとすると思いましてね」
軍師「ガラにもなく、目立つことをしてまでこうしてついてきてもらった次第です」
雷帝「…軍師が、自らを囮になるなど、下策中の下策だ」
軍師「返す言葉もありません。私はもう、策士などではありません」
軍師「ただ、復讐にかられた一人の醜い女です」
雷帝「…下らん」グッ
軍師「おっと、それで引き裂いておしまい、というのは少し味気ないでしょう」
雷帝「…」
軍師「ね? 貴方もそう思っているから、この刃を下ろさないのではないですか?」
雷帝(…なんだ? この女のこの雰囲気は。ハッタリにしては随分と…)
軍師「人間と魔族の双方の頭脳がこうして相対したのです。少しばかり問答をしてみるのも面白いとは思いませんか?」
雷帝「…」
雷帝「人間の頭脳? 貴様が?」
雷帝「笑わせるな。貴様が囮を演じていたとして、真打ちは誰が担っているというのだ?」
雷帝「外で、氷姫の究極氷魔法とやりあっている軍勢が、あの魔法を突破できるとでも言いたいのか」
軍師「彼らの突撃は、言わば人類の最後の突撃です。後のない者の死に際のひと噛みって、怖いものだと思いませんか?」
雷帝「馬鹿には出来ないだろうな。しかし残念だが、そんなものであの魔法を打ち倒せるほど現実は甘くない」
軍師「でしょうね」
雷帝「何?」
軍師「奇跡でも起これば…私もその可能性は棄てていないんですよ。そこに嘘はありません」
軍師「ですが、それに全てを懸ける気にもなれないのも、実際のところです」
雷帝「奴らも囮か?」
軍師「まあ、そういうことですね」
雷帝「下らんな。貴様の顔を見ていると虫酸が走る」
雷帝「大方、もうひとつの別動隊で奇襲をかける策でも打ったのだろう。エルフやハーピィの奇術があれば、或いは魔王様の元へ別動隊を送ることも可能になるかもしれん」
雷帝「それが何だと言うのだ? こちらの戦力をそこに割かないとでも思ったのか?」
雷帝「その別動隊とやらが、魔王様を撃破できると、本気で思っているのか?」
軍師「…」
軍師「私はね…好きなんですよ、彼らが」
軍師「そのわりには、これまで何度も彼らを危険な目に会わせて来たのですけどね。頭ばかり回るだけで、どうやら私という人間は大切なものが抜け落ちているみたいなんです」
軍師「そういう事はね、これまでにも何度かあって…ここに来る前は、″血の通わない女″とか、″魔族の生まれ変わり″とか色々言われてました」
軍師「それをあの人が…この場所に引っ張ってきて…この翼の団がかけがえのない場所になった」
雷帝「…なんの話だ」
軍師「ふふ。でも人は簡単には変わらないもので、今度は私、翼の団を守るために非情な手を幾つも打ち出しました」
軍師「命の危機に瀕しながら…それでも、彼らはそれを笑い飛ばしてみせたんです」
軍師「″全くいつもいつも殺す気か″って、平気な顔で、戻ってきたんです」
軍師「あの人が、居てくれたから、でしょうかね。全ては」
軍師「最後の最後まであの人に頼って、私は彼らを騙くらかして、死地に送りました」
雷帝「それで? 今度もそうして生きて帰って来るとでも言いたいのか?」
軍師「いえ」
軍師「彼らは死ぬでしょう」
雷帝(…こいつ)
軍師「…あの人は、もういないのですから。奇跡は、起こりません」
軍師「彼らですら、囮なのですよ」
軍師「雷帝さん」
剣士「おゥらッ!!」ビュッ
炎獣「!」
剣士「でりゃりゃりゃりゃァッ」ヒュバババ!
剣士「どうしたどうした、化け物よォ!! 俺様の神速の剣の前にゃぐぅの音も出ねェかァ!?」
炎獣(こいつの剣筋…どうも気になる。打ち返そうと思えばそれも出きる…けど)
炎獣(なんだ、嫌な気配がする)
剣士「ったくよォ…手抜きで相手されるたァなァ…」
剣士「傷つくだろォが!!」ゴッ
炎獣「…くっ!」
炎獣(コイツも並の戦士じゃあない。いなし続けるのも限度がある! …でも)
炎獣(守るんだ。俺は)
炎獣(まだ、堪えろ…!)
剣士(ちッ…誘いに乗ってこねェ!)
狩人「剣士…!」
狩人(あの四天王が剣士を狙って挙動を起こした瞬間、魔王を僕が狙撃する…!)
狩人(でも、それじゃあ剣士が…!!)
――「コツってもんがあるのさ」
狩人(…! そうだ)
狩人(僕は僕の仕事をしなくちゃ)
剣士「ちぇえありゃあぁあッ!!」ギュンッ!
炎獣(くっ、かわしきれない! 打ち返すしかない!)
炎獣「ふっ!!」ドシッ
剣士「かフッ…!?」
剣士(なんてェ破壊力だよ。ジャブで死ねるぜ、こりゃ)
剣士(…だが、掛かったな!)
狩人(今!)
――ズドンッ!
炎獣「!」
炎獣「――ッ」ヒュッ
炎獣「…危なかった」ポロ…
狩人(なっ!? あの体勢から反応をして…弾丸を掴んだっていうのか!?)
炎獣「見つけたぞ」ギロ
狩人(まずい…ッ!)
剣士「うらぁあぁッ!!」ドシッ!
炎獣(! 当て身!)
剣士「今しかねェッ! やれェ!!」
斧使い「っ!」バッ
エルフ「くっ!」バッ
炎獣「ち、あそこにもいたか!!」
斧使い「おおおおおおッ!」
エルフ「魔王ぉおっ!」
ダッダッダッダッ!
魔王「…来たわね」
木竜「姫様! いま力を使われてはまた…!」
炎獣「どけ」バキッ
剣士「うがッ!!」
狩人「っ! 剣士ぃ!!」
炎獣「…させるかよ」ドッ
狩人(な、なんて跳躍だ! 一瞬でエルフ達との距離を詰めて――)
魔女「狩人」
魔女「おぬしは魔王から照準を外すな」
狩人「!」
魔女「妾たちがもう一度チャンスを作る。だから」
魔女「誰が死んでも、決して視線をそらしてはならん」
狩人「…っ!!」
炎獣「魔王に、触らせるか!」
エルフ(ーっ! 追い付かれるっ!)
斧使い「先に行け」
エルフ「!? 斧使い――!」
斧使い「…」コク
エルフ「…くっ!」
エルフ「おおおおおおおおおおっ!!」
《…教えてよ。死ぬかもしれない戦いで、少しでも勇気を出す方法》
《あァ。それァな…》
《戦友を信じること、だ…》
斧使い「…」ザ…
炎獣「邪魔するなら遠慮しねえぜ」
炎獣「炎ぉ」
炎獣「パンチッ!」
ゴッ
《拍子抜けしたか? …でもなこれが案外、バカに出来ねェのよ》
《戦友ってのは、普通の縁とはちょっと違う、奇妙なモンで》
《食うメシも、眺める星も、死ぬ所だって共にするかもしれねェっていう、妙な共同体意識みてェなもんが芽生える》
《目にする最期の景色すら、隣のコイツと一緒なのかもしれねェ…って思うと》
《ああ、もし糞ったれた最期の瞬間を今日のこの日に迎えたとしても》
《俺はひとりじゃないんだって》
《それが例え見知らぬ誰かだったとしても。一緒に逝く奴がいるんだって…そう思える》
斧使い「」ボロッ…
剣士「…斧…使い…!」
狩人「…う」
狩人「うわああああああああああああああああああああああああっ!!」
炎獣「! 死んでも倒れねぇとか、お前ほんとに人間かよ」
斧使い「」
炎獣「邪魔だ」グシャ
《死ぬ瞬間がひとりじゃなくて良いってェだけの事が》
《案外、救いになるもんなんだぜ》
エルフ「食らえ…!」
魔王「!」ザ…
エルフ「大妖精の矢!!」
エルフ(あれっ…!? 景色が回って)
炎獣「捕まえた」
ボキボキボキッ!
エルフ「ヒュッ…」
剣士「エ…ルフっ!」
狩人(…見ちゃ、ダメだ)
狩人(見ちゃダメなんだ。照準をずらすな)
狩人(照準をずらすな照準をずらすな照準をずらすな照準をずらすな照準をずらすな照準をずらすな)
《…キミがそんな事を思ってたなんて、少し意外だったなあ》
《そうじゃな》
《っるせェ! だから、今まで誰にも教えずにいたんだろォが》
《でもよ。最後の最後くらい…》
《ひとりじゃねェんだって、この感覚を………伝えてみたくなったんだよ》
魔王「炎獣…!」
炎獣「悪い、魔王。ちょっとヒヤッとさせたか?」
炎獣「でも、気ぃ抜くなよ。まだ終わってねぇ」
魔女「その通りじゃな」
炎獣「!」
魔女「超強化雷魔法」
バリバリバリ…!
炎獣「っ…でけぇ雷でも落とすってか?」
魔女「ああ。妾を殺したところで、もう詠唱は止まらぬぞ」
炎獣「…てめぇも死ぬだろ」
魔女「承知の上じゃ」
炎獣「ちっ!!」
炎獣「爺さん! 全力で離れるぞ!! 魔王、捕まれ!!」バッ
魔女「せいぜい足掻け…」
剣士「…かふっ」
魔女「………すまぬな、剣士。巻き込む」
剣士「…あー、あ」
剣士「…せっかく、なら、絶世の、美女と、心中した、かった、ぜ…」
魔女「それなら、申し分なかろう」
剣士「…ババア、は、ごめん、だ」
魔女「まったく。最後まで口の減らぬ奴よ」
魔女「…だが」
斧使い「」
エルフ「」
魔女「お前の言った通り…」
剣士「………あァ」
《最期の瞬間に、きっと俺らは…》
《ひとりじゃ、ない》
カッ
ズゥン……
炎獣「はあっ、はあっ…」
炎獣「ギリッギリ、だったぜ」
魔王「炎獣、その腕…!!」
炎獣「あ、ああ。片腕雷に持ってかれちまった」
魔女「爺。私の治療はもう平気だから、炎獣を…!」
木竜「承知ですじゃ」
炎獣「待ってくれ。まだ、終わってねえ」
炎獣「もう一人いる。今の落雷で位置が掴めなくなった」
炎獣「魔王を狙ってる」
木竜「…どうやら気配の消し方が相当上手い奴のようじゃのう」
炎獣「ああ」
炎獣(何処だ。何処から狙ってくる…)
狩人「………皆の、仇」
狩人(食らえ!!)
パァンッ!
炎獣「!」ドシュッ
魔王「炎獣!」
炎獣「うぎッ…!」
炎獣(俺を狙ってきやがった!? くそ、只の弾丸じゃねぇな、こりゃ…肉体に食い込んでやがる)
炎獣(裏をかかれた、当たり所が良くねえ。…でも)
炎獣(俺の勝ちだ。守りきったぜ)
炎獣「返すぜ、この弾」ズボ…
炎獣「おらッ!」ボッ
ドスッ
狩人「あッ…」
狩人「」ドサ…
《…分かる気がする。魔女のばっちゃんが、言ってくれたよね》
《″一緒なら大丈夫″なんだって…》
《…そうじゃったな》
《俺たち翼の団は、ずっと一緒に死線を越えてきた》
《ああ、こりゃァ死ぬかもしれねェなって時、そういう奴らと肩を並べられてるってのは》
《俺に言わせりゃ、幸せな最期だぜ》
《だから、願わくば………》
ズゥ…ン!!
「ぐわァアアァッ!」
騎士「くっ…!!」
騎士(最早、この突撃についてきているのはたった…)
騎士(たったの十騎)
騎士「栄華を極めし王国の正規軍も…」
騎士「共に戦い続けた翼の団も………」
騎士(………もう、その影は見えない)
騎士「…っ」ギュウ
騎士「この戦いに、仮に勝てたとして、それの後人類は…」
死神「…」ブゥン
ドシャアッ!!
「ぎゃあぁああッ!」
「ぬぁあぁあっ!?」
騎士「…!!」
騎士(さらに半分、やられた…!)
騎士(――…意味など、ないのか)
騎士(受け入れてしまおうか)
騎士(敗北を。…絶望を)
騎士(もう………止めて、しまおうか)
――「だらしねェな! 鉄人形!」
騎士(!)
――「あれほど死に急いでおったお前が、音を上げるのかの?」
――「だから僕はアテにならないって言ったんだよねー、騎士道精神なんてさ」
騎士(何を…)
――「その鉄の着ぐるみは何の為に着けてんだ、あァ?」
――「もう、止めてあげなよ! 誰でも弱音を吐きたい時はあるでしょ?」
騎士(…)
死神「…」ブゥン
騎士「ッ!」
――ズバァアッ!
騎士「…はあ、はあ」
騎士「あ、危なかった…。しかし…」
騎士(しかし、まだ、生きている)
騎士(生きていて、良かった)
騎士(良かったと、まだ思える)
騎士「………さっきのは幻聴か」
騎士「…ふっ。だが」
騎士「思い出したぞ。我輩が誰なのかを」
騎士「――我輩は翼の団、死をも恐れぬ騎士団の長!!」
騎士「この前進は」
騎士「ただ自由を得るために!!!」
《願わくば、一人で立ち向かうアイツらも》
《隣で戦う俺たちを》
《感じてくれりゃ、いいな》
騎士「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
死神「…」
ブゥン…
軍師「…」
雷帝「………何を言っている、貴様は」
雷帝「では、貴様の指示にしたがった人間はみな」
雷帝「犬死にだと、言いたいのか」
軍師「…」
軍師「あの人はね…もう居ないんです」
軍師「私は、″翼の団を勝利に導く常勝の軍師″から」
軍師「″魔族の生まれ変わりのような血の通わない女″に、逆戻りしてしまったんです」
軍師「だから、彼らをこうして殺して、平気でいるんですよ」
雷帝「………何だと」
軍師「でもね。ただ死んでいったんじゃ、それって復讐にならないでしょう?」
雷帝「これだけの囮を使った本命が、いるとでも言いたいのか」
軍師「さあ、誰だと思います?」
雷帝「………」
雷帝(騙されるな。圧倒されるな。全てはこの人間の妄言に過ぎない筈だ)
雷帝(単なる時間稼ぎ…だとして、時を得て利があるものなどこいつにはひとつもない)
雷帝(こいつは、もう、狂っているのだ)
軍師「あはははは。こうして、四天王を手玉に取っているのって、悪い気はしないですね」
雷帝「…」ス…
軍師「………さて、そろそろ貴方も痺れを切らして、私を殺してしまうかもしれません」
軍師「だからひとつだけ、種明かしをしましょうか。これを見て下さい」
ジャラ…
雷帝(…ネックレス? 何だ、この宝珠。この、波動は…)
雷帝「…ッ! 貴、様…!?」
軍師「凄いでしょう? 港町の武器商会っていう外道の集まりがあってですね、そこに流れていたものなんですけど」
軍師「こんな事もあろうかと、手に入れておいたんですよ」
雷帝「なぜ、そんな事が…ッ!!」
軍師「ね? 私も分かりません。でも、この世も末ってことですよ。汚らわしい私にはよく似合うでしょう?」
軍師「これ、一度首から下げたら、私が死ぬまで取れないんですよ。ちょっと不便なんですけど、それも今日までの我慢ですから」
軍師「それはそうと、貴方の魔剣を使った代償って、呪いの炎に焼かれるんでしたっけ?」
雷帝「!」
軍師「敵がいなくなると、その副作用も発動するんですよねぇ? その呪いと、コレの破壊力、同時に受けて――果たして無事でいられますかね?」
雷帝「くッ――」
軍師「そうそう、コレの起爆のスイッチは、私の″死″です」
雷帝「!」ピタッ
軍師「あはは、迂闊に殺せないですよね、これだと。そうだと思って…」
雷帝(こいつ、舌を――まずい、電撃で気絶させ――)
軍師「」ガリッ
雷帝「!!」
軍師(ねえ)
軍師(私も、貴方達と一緒の場所へ行けますか)
軍師(これだけの事をしておいて)
軍師(許されますか)
軍師(………盗賊………)
盗賊(もし出来るなら、貴方の元へ………)
ズ ッ
炎獣「!!」
木竜「な、なんじゃあ!?」
魔王「――この光」
魔王(何故、敵の砦から、この光が!!)
魔王(…待って)
魔王(あそこには、まだ雷帝が…っ!!)
魔王「雷帝っ!!」
今日はここまでです
盗賊編は終わり、次から新章です
もしかしたら再来週になるかもしれません
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