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元スレ国王「さあ勇者よ!いざ、旅立t「で、伝令!魔王が攻めてきました!!」
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忍「十五年前に、何かがあったと言うのか?」
僧侶「これ以上は、私にも分からないわ」
忍「そうか…。ひとまず、かなりの情報は得られた」
僧侶「国王陛下は、この研究をどうなさるかしら」
忍「…神の所業とも言えるような大きな力は、存在自体が人の世を惑わす、と陛下は考えていらっしゃる」
忍「人知れず、封印・破棄されることを望まれるだろう」
僧侶「…そう、ね。それが良いんだわ、きっと」
兄「…」
忍「…如何した?」
兄「いや、何でもない」
兄「それで、ここからどうしますか。我々は、建国の儀式での十字聖騎士団の動きを把握して、それに対する策を練らねば」
忍「はい。まずは地上に戻りましょう」
僧侶「では、こちらから」
兄「宜しくお願いします」
僧侶「…意外だったわ」
兄「え?」
僧侶「あの戦士さんのお兄さんと聞いていたので、私てっきり、もっと猛々しい武人みたいな人かと思って」
兄「あ、あはは。まあ、似てない兄弟かとは思っていますが」
僧侶「こんなに物腰柔らかな人だなんて…」
兄「まあ、あいつがちょっと突っ走り過ぎなんですがね」
僧侶「そうね。こうと決めたら、なんというか、ボロボロになってもその道を突き進むような、そんな人」
兄(…)
僧侶「でも、やっぱり似てるわ。その黒々として、相手を奥深くまで映し出してしまいそうなその瞳」
僧侶「大将軍さんも、そんな目をしていたのかしら…」
兄「私は…」
兄「…私はそんな――」
忍「! 危ない!!」
兄「え?」
ガコッ…ギュルン!!
兄(なんだっ、足場が持ち上がって!)
兄(罠か、これは!?)
ドサッ!
兄「…い、つつ」
兄(何処かに落とされた…という感じだな。どうやら掛かったのは俺ひとりか)
兄(! 人の気配…)
「おやおや、珍客ですか」
魔法使い「僕の研究を盗みにでも来たんですかね。いただけませんね…そういうのは」
兄「なんだ…貴様は!」チャキ
ビュォオ…
戦士(西風が、強いな。そう言うのは不吉の前触れだって言い伝えのある国が何処かに存在するとか)
戦士(そんなことを言っていたのは、兄上だったかな…)
戦士(しかし、だだっ広いな。ここが儀式場…古いコロシアムを使った建物。中央の広場で舞いや剣の模擬試合も行われる)
戦士(多くの民衆が集まる。平民も、貴族も…。警備は厳重だが、教会の人間は十字聖騎士団の受け持ちから、容易に武器を持って入り込むだろう…)
くノ一「戦士殿。下見ですか」
戦士「…くノ一殿」
戦士「ああ。建国の儀式は間もなくだからな」
くノ一「そうですね…」
戦士「陛下は、やはり観覧席を大僧正や大領主たちと同じテーブルを囲う形にするようだ」
戦士「王族連中に顰蹙を買っていたよ。王室の威厳に関わる、とな」
くノ一「そして、戦士殿も陛下の身を案じて苦言を呈したい気持ちを、抑えていらっしゃる、と」
戦士「鋭いな、くノ一殿は」
くノ一「ふふ。私も似たようなものですから」
戦士「お互い気難しい主君に仕えたものだ」
くノ一「そのようですね」
戦士「しかし、その席で女王陛下は教皇を追い詰めるおつもりだ」
くノ一「権力者が一同に介する席ですから、教会の悪行をその場で暴けば、言い逃れは出来ません」
戦士「…幸い、大僧正に教皇と、教会の上層部に加え僧侶殿も列席することになっている。これはチャンスだ」
くノ一「戦士殿は、大役を任されていますから、そちらの重責もおありでしょう」
戦士「魔族の代表と立ち会うことか?」
戦士「まあ、式典の一種の模擬試合であるとは言え、魔族と戦うというのは、な。正直、私は陛下ほど魔族を信頼出来んし…」
戦士「しかし、その瞬間は試合云々より大事なことがあるだろう?」
くノ一「魔族を狙う教会の人間をその場で捕らえて見せること…ですね」
くノ一「そちらは、私たちの方で抜かりなくやります」
戦士「くノ一殿にそう言われると、心強い限りだな。…まあ、私の方も抜かるつもりはない」
戦士「どんな者が出てくるかは知らないが、勝てばそのまま我が一族の汚名を返上出来よう。負けるつもりはない」
戦士「私が相手を負かしてしまわぬ内に、敵を捕らえてくれよ?」
くノ一「承知しました。最大限の速力を以て望みましょう」
戦士「ふふ。…さて、私は部屋に戻っていよう。また全てを終えたら、まみえよう。くノ一殿」
くノ一「はい。ご武運を」
戦士「互いにな」
戦士「ぜっ!」ヒュン
戦士「ふっ!」バッ ギュン
戦士「…ふう」
戦士(身体の調子はいいようだ。しっかり休養が取れたのは有り難かった)
戦士(…きっと上手くいく)
戦士「…」カサッ…
「――これをお前たち兄弟が読んでいるということは、私はもう死んでいるという事かもしれない」
「そうだとしたら、それもまたしょうがないことだな。既に私もそれなりの覚悟はしている」
「戦士の方は、私が死んだことで自分を責めている姿が目に浮かぶ。まったく、分かりやすい奴だ」
「私がお前たちを生かすために命を賭けたのだとしたら、それはお前に"私の分まで務めを果たせ"なんて呪いをかけるために死ぬんじゃないってことを、理解してほしい」
「手に入れた生は、思うさま生きろ。お前たち兄弟が自ら選んだことならば、例え私が生きていても、恐らく口は挟まないだろう」
「それから…兄だからって弟に遠慮ばかりするなよ。その優しさは尊いが、少し危うい」
「お前は力がないんじゃない、必要ないんだ。弟にお前のような計算が出来ないように」
「だから、胸を張れ。お前たち兄弟は、どちらもが、王国には必要な存在さ」
「いつまでも二人協力して、時には取っ組みあいなどしつつ、私を楽しませてくれ」
「追伸」
「結局、私も大将軍の奴も、あいつの目を覚ますことは出来なかった」
「お前たちなら、或いはあいつを正気に戻せるかもしれない。だから」
「賢者にあったら、宜しく伝えてくれ」
「――女勇者」
戦士「…女勇者様」
戦士「分からないですよ」
戦士「思うまま生きるなんて…どうしたらいいか」
戦士「僅かに見える光を、ただ追いかけることしか…そんな道を選ぶことしか出来ないですよ」
戦士「兄上が、俺に遠慮してるとか…」
戦士「賢者様が、どうしたとか…」
戦士「…俺、分からないですよ…頭、悪いから…」
戦士(………兄上)
戦士(頼むから…無事でいてくれ…)
くノ一「…」
ワァアア…
国王「おー、盛り上がってるな。余もちょっと祭りに混じって踊ってくっかなー」
女王「およしなさい」
国王「大領主や教皇たちももう席についてるのか。あの円卓、ちゃぶ台のごとくひっくり返したらウケるかな? ひと笑い取れるかな?」
女王「およしなさい」
国王「イチかバチか裸で出ていくってのはどうだ? これは馬鹿には見えぬ服であるっ! とか言ったら先制パンチになるんではないか?」
女王「およしなさい」ゴゴゴゴ
国王「じょ、冗談だっつーの」
女王「陛下。私の気を粉らわせようとして下さっているようですが、むしろ気が散ります」
国王「あ、スイマセン」
女王「…ですが、お気持ちは有り難く思います。ありがとうございます」
国王「…」
国王「お前には、世話ばかりかけるな」
女王「およしなさい、そんな顔」
女王「らしくありませんよ」
国王「…そうか」
国王「では、ま」
国王「行ってくっとすっか」
女王「仰せのままに」
「国王陛下の、御成ー!!」
パンパァン…!
忍「花火が上がった。どうやら式典は始まったようですな」
兄「…ええ」
兄「ここまでは、教会側も我々も予定通り、と言ったところでしょうか」
兄(十字聖騎士団は、魔族に攻撃をしかけるために密かに軍をコロシアム付近まで動かしている)
兄( 教会の威光を示す手品に使うために、ずいぶんと大所帯になっているみたいだ。例の魔導士たちや、"女神の像"なるもの…だが)
兄(今や聖騎士の一員として紛れこんでいる我らには、その位置も把握出来ている)
忍「うむ。しかし、一時はどうなる事かと、肝を冷やしました」
兄「ご心配をおかけして、申し訳ない」
忍「ご無事で何よりだ。しかし、件の魔族らしき男が、あの地下に居たとなると…教会の闇は思っているより深いかもしれぬ」
兄「かも、しれませんね。一目散に逃げ出さなければ、私はここに居なかったかもしれません。武人としては、恥ずべきことかもしれませんが」
忍「戦士殿なら剣を抜かれたかもしれませぬが。今は、生きて務めを果す事こそが肝要。正しい判断をなされました」
兄「…そうであるとよいのですが。…さて」
兄「このまま行軍が進んでしまうと、コロシアムの外で出番を待つ来賓の魔族の所へ、辿り着いてしまう」
忍「僧侶殿の話では…そろそろあの者たちが行動を起こすはずですが。本当に協力するのかどうか」
兄「…」
――僧侶「あのひとは、きっと来るわ。私と約束したもの」
兄「…"約束"、か」
忍(…)
ズズー…ン
「な、なんだ!?」
「爆発音が…! あれは、女神像を乗せた荷馬車の方向だぞ!」
「何者かの攻撃か!?」
十字聖騎士団長「くっ、何者だ? 二番隊、三番隊! 中央の援護へ急行! 荷の無事を確認せよ!!」
「はっ!」
忍「…始まったか」
兄「では、我々も今のうちに動きましょう」
盗賊「さーて、お仕事お仕事!」
盗賊「目標は女神像だ! 他には脇目も振るな!」
「おう!!」
盗賊「…へへ。約束通り、お宝頂いてくぜ、僧侶ちゃん!!」
コロシアム
主賓の円卓
「ほう、見事な舞だ。まさに建国の式典を彩るに相応しいですな」
「しかし…このように、陛下と卓を同じくして眺められるとは思わなんだ」
「ははは。正に。我が一族、末代までの語り草になりましょう」
国王「皆に喜んでもらえて、嬉しい限りだ」
国王「さらには教皇猊下にも、このような趣向にお付き合い頂いたこと、感謝申し上げます」
教皇「…最早、席の高さで権威を語る時代ではない…」
教皇「国王陛下のご意向は世のあり方を先んじておられる。我ら女神教会も、いつも新しい思いで教典と向き合わねばなりませぬ」
国王(相変わらず、余を立てる素振りに余念がないな。それも今日まで、という腹づもりか)
「ほう、古きを大事にする女神教会におかれても、新しい思いを持つ、とおっしゃられますか…」
大僧正「新しい解釈が、また女神様への理解を深めるのです。そうでなければ取り残されるというのも、世の常。諸侯の皆々様と、何も違いはありませぬ」
国王(まあ、地下の研究は未知への探究そのものなわけだが。もう隠すつもりもない、と牽制しているのか?)
女王「…」
「ほう、素晴らしい。寧ろ我らの方が見習わなければなりませんな!」
僧侶「…」
大僧正「新しい、と言えば…」
大僧正「やはり、国王陛下の改革の右に出るものはありますまい。しきたりに捕らわれず大胆な王道を貫く様は、亡き王兄陛下にも勝りし手腕!」
大僧正「…特に、この建国の儀式に魔族を招き、平和を実現せんとするなど…過去のどの賢王も思い至らなかったことでありましょう」
「…うむ、確かにな」
「それは、そうだな…」
国王(けっ、嫌みかよ)
女王「…」ギュウ
国王(あいてて! ツネるなよ、顔には出してないだろう)
国王「…魔王と勇者を中心に据えた、人と魔族の戦いは…遥か昔から行われてきた」
国王「魔族は邪なる者。そう我々人間は幼少の頃から聞かされてきており、それを説いた父や祖父も、また同じように聞かされてきたはずだ」
国王「しかし、何がいさかいの最初であったのかを記憶している者は、既にこの世に存在しない」
大僧正「…」ピク
大僧正(まさか、女神教の教典を否定するつもりか?)
国王「戦う理由は何であったか? それはもしかすると、人間が隣人と争う理由の方がはっきりしているやもしれん」
国王「魔族が、魔族であるから戦う。本当にその必要があるのか?」
シーン…
僧侶(…静かな口ぶりから、強い統制力を感じる)
僧侶(教典を毎朝読み上げてきた私すら、その問いに簡単に答えることを憚りたくなるほどの、重い力が)
国王「魔族も、ひとつの生命には違いはない。生命はみな尊いものと知っているのに、なぜ魔族ならば奪って良しとする?」
国王「魔族が人の命を脅かすから? それは人と人でも同じことだ。ならば、理解をすることもまた、同じくすることが出来よう」
国王「…それを、この場で民に示すことが、余の願いである」
教皇「陛下のお言葉は――」
教皇「女神の存在に疑問を呈することと同義であることは、理解しておられるか」
教皇「建国の式典で、諸侯を前にして発言なさるにしては、些か危うさが過ぎるのではないか?」
国王「…女神は我らをあまねく照らす存在にして、我らの母。私も数多い息子の一人に過ぎないと心得ておりますが」
国王「今の言葉が女神の存在を否定するものであらば、まるで女神は魔族とは相対しておらねばならぬ…と言っているようですな」
国王「慈愛こそを真理とする女神が、なぜ争うことを宿命付けるのか。猊下、愚かな私にお教え下さりませぬか」
教皇「答えは私が説くまでもないこと。魔族の性こそが"邪"である」
教皇「闇から生まれ出る存在である彼らは、聖より生まれ出る我ら人とは、生命の源が違う」
教皇「或いは、今日の祭典ではそれが顕著に現れる結末となるやもしれぬが…我ら女神教会は敢えて、見守りましょう」
教皇「全ての人の子らは迷い、進むものであるから…」
国王(…あくまで傍観者として参加し、魔族に暴れさせさえすれば"それ見たことか"と躍り出てくるつもりか)
国王(しかし、そうは問屋がおろさぬよ)
「――御一同」
女王「闇より生まれし者と向かい合うその前に、我らは人の闇と向き合う必要があります」
女王「それは、この王国に渦巻いたある策謀についてです」
大僧正「――!」
女王「先日謀反を企て処刑された大将軍のことは周知のことかとぞんじます。しかし、事実はそれだけではなかった」
女王「事の顛末を説明するためには、一人の兵士を皆様に紹介せねばなりません」
スタスタ
副官「お初にお目にかかります。大将軍様の副官を勤めていた者です」
大僧正(くっ…! まさか、この場で全てを明るみにするつもりか…!?)
女王「…この者の語る現実を、どうか皆々様」
女王「その胸に焼き付けて頂きたく、ぞんじます」
コロシアム近郊
森の中
盗賊「…はあ、はあ…!」
「お頭!?」
「お頭、大丈夫ですか!」
盗賊(何だったんだ…いまのは。女神像に近づいたら、急に像が光だして)
盗賊(俺の、身体に………吸い込まれていきやがった!)
『さあ…その身に宿りし力を、信じるのです』
盗賊「…っ! その声は…!?」
盗賊(あの地下の、怪しい女神か!)
『あなたはもう、飛べるのですから…』
盗賊「俺が、飛べる…!?」
『イメージするのです。大きな翼を』
『自由に羽ばたく、奇跡の翼を』
バサァ…
十字聖騎士団長「な、に!? 盗賊団が、消え失せただと!!」
「は、はい! 突然、純白の翼のようなものが現れて…! 何かの魔法かもしれません!!」
十字聖騎士団長「…そんな、馬鹿な!!」
十字聖騎士団長「草の根分けてでも探し出せっ!! あれはかような者に奪われて良いものではないっ!!」
十字聖騎士団長「二、三番隊は引き続き盗賊団の拿捕に専念しろっ!! 四番隊は中継地点で待機、一騎、増援を呼びに走れっ!!」
十字聖騎士団長「残りの者は全て、コロシアムへ向かう!! 急げっ!!」
「はっ!!」
十字聖騎士団長「…」スタスタ
十字聖騎士団長(まずい。まずいまずいまずい!!)
十字聖騎士団長(あの力が奪われるなど、そんな事が本当にあってなるものか…!)
兄「随分な慌てようだな、団長殿?」
十字聖騎士団長「!?」バッ
兄「そんなに大事なものなのかい?」
十字聖騎士団長「なんだ、貴様――」
忍「ぬん」ドッ
十字聖騎士団長「か、は…」
ドサ…
兄「悪いね。甲冑を借りるぞ」
忍「急いで下され。時間がかかると他の聖騎士に勘ぐられます」
兄「こんな所か。ずいぶん重いな」ガシャ…
忍「では、予定通り。十字聖騎士団長に成り代わり、軍団を率いて…」
兄「はい。タイミングを見計らって、コロシアムから見下ろせる丘の上に軍を展開、でしたね」
忍「コロシアムの円卓では、教会を追い詰められているはず。十字聖騎士団長の展開がそれに拍車をかけます」
兄「…あちらも、そろそろ佳境かな」
コロシアム
主賓の円卓
副官「………」
「…そ、そんな」
「では、大将軍は、無実…」
「教会が…? どういうことだ?」
「説明を、していただけますかな?」
僧侶「…」
僧侶(…これは、教会が追うべき業。与えられし、試練…)
大僧正「…女王陛下。何のためにこのような劇を催されたのですか」
大僧正「これでは、教会と王家の亀裂を生むだけですぞ」
女王「劇などではありません。全てはただの現実」
大僧正「その現実として語るのが、"心を操る技"とおっしゃるか? あまりにも陳腐ですな」
大僧正「このように現実味のない話。子供の描いた空想と言っても過言ではありませんぞ!」
僧侶「――空想などではありません」
教皇「!」
大僧正「…聖女、殿?」
僧侶「その力は実在します。教会には、封じられし忌むべき技があるです」
大僧正「何を、言っているのです…」
大僧正(まさか…一連の事件は、この女の裏切りか!?)
大僧正(消えた副官、殺された僧正…まさか虫も殺せぬようなこの小娘が、手を回していたとは…!!)
大僧正(まずい!! 他にも計画を狂わす手引きをしているかもしれん!!)
大僧正(何とか、外の者たちに伝えねば…)
僧侶「お見せしましょう。その奇跡の、一端を」ォオ…
大僧正「な、何を…よせ!!」
僧侶『天を、仰げ…』
フッ…
国王「…む?」
国王(な、なんだ? 今、声が響いたと思った…刹那、意識が飛んで…)
国王(空を、眺めていたのか?)
「…う?」
「うむ? 私は、いま…」
女王「…これが、技の力」
女王(間違いない。今この僧侶は、この円卓の権力者たちを一瞬とは言え…)
女王(意のままに、操ってみせた)
国王(…実際に受けてみると身の毛もよだつな。本当に、無意識にそれを行っていたのだ、余は)
僧侶「お分かり頂けましたか?」
大僧正「…な」
大僧正「なんという愚かなことを!! あなたはいま、王国の中枢を担う方々全てを、危険に晒したのですよ!!」
僧侶「罰は甘んじて受けます。しかし、心を操る技が空想でないことの、何よりの証明になったはずです」
「た…確かに」
「なんと、恐ろしい…」
「信じられぬが…現に我らは今…」
大僧正(くっ!! この小娘が!!)
大僧正「恥を知れ!! お前の技は女神様より授かりし、大いなる加護によるものだろう!!」
大僧正「それをこのような…」
僧侶「私の術から造り出したものこそが、此度の悲劇の元凶なのです」
僧侶「良かれと研究に提供した私の加護が…まさかこんな形で利用されることになろうとは」
大僧正(なんだそれは!? 事実無根のデタラメだぞ!!)
女王「…問題は」
女王「その策謀が、今なお終わりを迎えていないことです」
女王「教会は、敢えて魔族を刺激し、戦乱を巻き起こそうとしています。そうして、十字聖騎士団を中心とした、教会主導の軍隊を手に入れんとしているのです」
大僧正「嘘だ!! そんな証明はどこにもないっ!!」
フワ…
大僧正「な、なんだ…!?」
僧侶(光り輝く石が…宙を舞って私の周りに集まってきた…。これは、魔法石?)
「むっ!? なんだこれは…?」
女王「この光る石は、波動感知。王立魔術学院の総力を結集し、つい先日完成したものです」
女王「今のような、魔法とは異なる波動が発せられると、そちらに魔法石が吸い寄せられるようになっています」
「な、なんと…。ものすごい技術だ」
女王「教会内部の研究に腐心するあまり、魔法学会の研究にはご興味ありませんでしたか? 大僧正殿」
大僧正(…っ!)ドクンッ…
女王「では…。この石のことを覚えた上で…次の催しをご覧下さい」
ボワァン…
大僧正「! この、銅鑼の音…」
国王「…」スクッ
国王「みなの者!!」
国王「建国を祝うこのめでたき日に、遠路より遥々祝いの使いが駆けつけてくれた!!」
国王「彼は我が客人であり、未来の友である!!」
国王「まずはまなこを見開き、そして知れ!!」
国王「彼らも同じ血の巡る生命であることを!!」
国王「恐れではなく、理解を!! 憎しみではなく、友愛を!!」
??(まったく、仰々しい物言いだ…が、まあ民衆を煽動するにはそうでなくてはならんのは、人も魔族も変わらんか)
??(魔王様も、いずれそうして魔族を引っ張っていかれるのだ)
??(…まあいい。今日は人間どもをじっくりと値踏みしてくれよう。それが、魔王様に託された務めでもある)
??(品の無い視線だ、ヘドが出る。だがまあ、つきあってやろうではないか)
??(魔王四天王の、この雷帝がな)
雷帝「電龍。おまえはここに座していろ」
電龍「うーっス」
雷帝「………」スタスタスタ
「お、おい。あれが魔族の使い」
「ひ、ひえ…」
「だが、確かに戦う気はなさそうだぞ」
ドヨドヨ…
国王(…そうだ)
国王(その違和感を、胸に刻んでくれ)
国王(戦いの場ではない空間を、我々人間と魔族は、共有出きるのだ)
国王(今日、この瞬間が歴史を変える――)
雷帝「我は、魔王四天王が一人、雷帝なり」
雷帝「此度は仇敵である人の地に、あえて剣を持たずして参った」
雷帝「人間の作法に我らは疎い。だが、この場に仇敵を招き入れたその勇気を、称賛しよう」
雷帝「同時に、この文化を築いた偉大なる国への、建国祝いの言葉とさせていただく」
シーン…
国王「よくぞ参った。雷帝殿」
国王「お互いを仇敵と呼び合わずに済む日が来ることを、待ち遠しく思う」
雷帝(ふっ。果たして本心かな。まあどちらでも良い)
国王「僅かながらではあるが、式典に参加して頂ければうれしい」
国王「ついては、"命を奪い合わない剣"にて、華を添えて頂きたい」
雷帝「承知した。荒々しい催しは、我ら魔族の常でもある」
雷帝「我に刃なき剣を向ける者よ。名乗りをあげよ!!」
戦士「…」ザ…
戦士「我は東方一の剣豪にして、王国大将軍たる父の子!!」
戦士「魔王四天王の名に挑戦させていただく!!」
ザワッ…
「あれは…謀反人の息子か!?」
「"王国軍の鬼"じゃないか! 失踪したって聞いてたけど、生きてたのか!?」
「戦士殿だ…! 戦士殿が生きていた!!」
雷帝(…ふむ。それなりに使う者を用意してきたか。そうでなくてはな)
雷帝「勇気ある者は魔族にも称えられる。勝負を受けよう」
――ワァァアア…!!
僧侶「戦士さん…!」
女王(魔族が無事に現れた…という事は、忍たちは上手くやったようじゃな)
女王(そして、この戦いの最中…魔族へと攻撃を企てる教会の手の者を…)
くノ一「――その場で押さえつける…!」
くノ一「何処だ…何処にいる…」
ワァァア…
「はじめっ!」
ボワァン…!
雷帝(剣豪…あの時の勇者一行のひとりの、息子か)
雷帝「………」
ピシィ…
戦士(…ものすごいプレッシャーだ)
戦士(だらりと構えているが、下手に踏み込めば一瞬で負ける)
戦士(これが四天王…。だが…父上は、この者すら突発して魔王の元へ辿り着いたはず)
戦士(俺に勝てぬ道理はない)
雷帝「………」
電龍「うっひー…部長マジじゃねーっスか。まあ、木刀で闘り合うんだし、魔力は使う気ねーんだろーけど」
電龍「にしてもあの人間、よく立ってられんなぁ」
僧侶「…戦士さん」
国王(大したものだ。よくぞあそこまで、練り上げた)
国王(父を越える日は、近いか)
戦士「か!!」ドッ
雷帝「…」ドンッ
ズザァ…!!
戦士(…手応えなし、か)
雷帝「…」
「な、なんだい今のは?」
「分からん、二人が剣を降り下ろしざますれ違ったようにしか見えなんだ」
「こ…こっちにまで剣圧を感じたぞ、今」
電龍「へーえ。後の先を狙った部長の太刀が、届かねー速さとはねぇ」
戦士「…」
――大将軍「てめぇの伝えたいことを…忘れんな。もののふだったら、その剣に誓ったことを忘れるな」
戦士(俺は………)
戦士(もう、うんざりだ)
戦士(何も知らずに運命に振り回されるのも)
戦士(わけも分からないことを、怒りに変えて喚くのも)
戦士(正しいと思うことを、自分の手で)
戦士(守りたいのだ!)
戦士「ぁあッ!!」ギュンッ
雷帝「!」
ズバンッ ダッ ビュバッ!!
「おお、激しく斬り結びはじめたぞ!」
「す、すげえやこりゃ!」
「いけーっ、負けんなぁ!」
ワァァアア!!
くノ一「………」
くノ一(研ぎ澄ませろ…)
くノ一(色の違う者がいるはずだ)
「うおお、頑張れ戦士!」
「人間の意地、見せたれー!!」
「…」カチャ
くノ一(! なんだ、今の違和感)
くノ一「………あいつだ」
チリッ…
電龍「!」
電龍「なんか…嫌な感じだな」
電龍(…オイオイ。誰かこっちを狙ってやがんのか。まさか人間のヤツら…これ罠ってか!?)
電龍「ちぃ、だから信用ならねーって言ったんだよなぁ! とんだ貧乏クジだ!」
電龍「まじぃな、部長はアイツ相手じゃ余裕ねーんじゃねーか!? …今狙撃されたら!」
狙撃手「………」ピタ…
くノ一(あの魔族の従者、気づいている!)
くノ一(まずい! 魔族に先に行動を起こされては、教会の思惑通りになってしまうっ!!)
くノ一「うおおおおおぉっ!」
見物人1「…」フラ…
見物人2「…」フラフラ…
くノ一「!」
くノ一(なぜ立ちはだかる!? まさか、操って盾にしたのか!? …卑劣な!!)
くノ一「やむを得ない!」
女の子「…」フラ…
くノ一「っ!!」ピタッ
くノ一「…くそぉ!」パンッ
女の子「きゃあ…っ!」
雷帝「…」ヒュババッ!
戦士「ぜぇッ!」ドヒュッ!
――大将軍「そいつでお前が正しいと思う道を示せ」
戦士(俺が、正しいと思うのは…!)
――大将軍「人を切り伏せる時こそ…自分を伝えろ」
戦士(俺は!!)
くノ一「はァっ!」ドガッ バキッ
見物人1「うっ!」
見物人2「ぁぐっ!」
狙撃手「…」カチャリ…
電龍「冗談じゃねーぜ、人間!! 付き合ってられっか!!」グワッ
くノ一(まずい――間に合わない)
戦士「 が あ あ あ あ !!!!」
狙撃手「!!」
電龍「!」
くノ一「っ」
僧侶(――その一瞬…コロシアムにいた全ての人々が、戦士さんの発した咆哮に、圧倒された)
女王(それは円卓にいた我々も、魔族の従者も、狙撃手も、恐らくはくノ一ですら)
国王(ただ一人動じなかったのは…その戦士の一番近くにいた――)
雷帝「…」ヒュ
ズバァンッ…!!
戦士「――がっ…」
グラ…
…ドタ………
戦士「………く、はは」
戦士「俺の、負けだ 」
………ドサッ………
狙撃手「…」ハッ
狙撃手(今のうちに――)
くノ一「せりゃぁあっ!!」
バキッ!!
狙撃手「っ!?」
ドサッ
電龍「!」
「お!? なんだなんだ!?」
「勝負がついたと思ったら…人が転がり出てきたぞ!?」
狙撃手「」ゴロゴロ…グタ
くノ一「…」スゥ
くノ一「その者、我らが王国の客人に武器を向けし者!!」
くノ一「神聖な式典を汚さんとする策略は、我らが王国は断じて許さん!!」
くノ一「幾つ策略を巡らせても、我らは何度でもそれを防ぎ、友との絆を守るだろう!!」
雷帝「…!」
戦士(くノ一殿…良かった、これで…)
「え、衛兵、出会え! そ、その者を捕らえよ!」
バタバタバタ…!!
「おい、何がどうなってるんだ?」
「いや、俺にはさっぱり…」
主賓の円卓
女王「…大僧正殿」
女王「どうやら、はっきりしたようですね」
大僧正(………)ドクッ…ドクッ…
大僧正「な…何を言うか。あの者は教会とは何の関わりも…」
女王「そうでしょうか。あの狙撃手を守るためか、どうやら例の奇術が使われたようです」
女王「波動感知をご覧下さい」
フヨフヨ…
「光る石が…ひと所に集まっているぞ!」
「あ、あそこに居るのは…教会の司祭ではないか…!?」
大僧正「で…デタラメだ。策略だ」
大僧正「教会の本意ではない…!! 一部の教徒が暴走して、あのような!!」
女王「そうですか。それではあくまでこの式典を静観するつもりであったと」
女王「女神教会が、手を加えるつもりは欠片も無かったと、言うのですね」
大僧正「………っ」ドクッ…ドクッ…
ボワァン…!
兄「…三つ目の銅鑼。頃合いか」
兄「全軍、丘上に展開!! 魔物の襲撃に備えよ!!」
ザッ…
女王「………では、あの丘の上に展開する十字聖騎士団は、どう説明なさるおつもりですか」
大僧正「!!」
大僧正(馬鹿な…合図があるまで姿を見せぬ手筈がっ…!!)
女王「…」
大僧正(この女…謀ったな…っ!!)
「な、なんだ。何故あのような大軍勢が、あんな所に」
「どういうことだ…これは本当に…」
女王「…ご説明願えますか」
女王「出来ることなら、教皇猊下ご自身の口から」
教皇「………」
ワァアァア…
雷帝「おい」
戦士「…!」
雷帝「人間もまた…一枚岩ではないと、そういうことか」
戦士「…恥ずかしながら」
雷帝「ふん…。何処も変わらん、というわけだ」
戦士「このような、非礼…なにとぞお許し下さいますよう」
雷帝「確かに、命を狙われたことは事実だし、どうやらそれを利用したフシも感じ取れる」
戦士「………」
雷帝「だが」
雷帝「お前が発したあの気合いは…この結果を得るための、渾身の気だった」
雷帝「木剣とは言え、私の本気の一太刀を正面から受けるのを覚悟した上での、な」
雷帝「それは、並大抵の精神力では出来んことだ」
雷帝「…よく、意識を保てたな」
戦士「今にも、飛びそう、だ。骨が、何本か、イカれてしまってる」
雷帝「それはそうだろう。肩を貸してやる」
戦士「…!」
雷帝「言っただろう? 勇気のある者は、魔族からも称賛される」
雷帝「意識のあるうちにこの歓声に答えておくがいい」
ウォオオオォオ…!
「なんか、よくわからないけど、とにかく凄かったぞ!」
「ほぼ互角だったじゃねえか! 魔族相手によく頑張った!」
電龍「………」
電龍「…ちぇー。部長、なんだかんだ人が良いかんなぁ」
戦士(………)
戦士「…かたじけない」
ワァァアアァア…
国王(もしかすれば、あの二人が人と魔の架け橋になるかもしれん、な)
国王(………さて)
教皇「………」
教皇「………なんということか」
教皇「………これは…由々しき事態と言わざるを得ぬ」
女王「………」
教皇「…認めよう。我ら女神教会の腐敗を」
大僧正「きょ、教皇様!!」
教皇「――大僧正」
大僧正「は、はひっ…」
教皇「破門を、命ずる」
大僧正「…っ!!」
ザワッ…
僧侶「教皇様…。恐れながら、大僧正殿ひとりを罰して終わる事では…」
教皇「そなたの言う通りだ。聖女よ」
教皇「よく、女神教会の毒を示してくれた。感謝申し上げる」ス…
僧侶「…!」
国王(………待て)
国王(何かがおかしい)
教皇「最早この席を共にしておる権利すら、私には無いようだ」
教皇「今、この時を持って」
教皇「私は教皇の座から…――」
バリバリバリッ!!
「うわぁ!?」
「な、なんだ!! この光は!!」
国王「…電撃!?」
女王(…なぜ! 一体誰が!!)
雷帝「…っ! どうした、しっかりしろ!!」
雷帝「電龍!!」
電龍「う、ギ、がっ、ァアァアッ!!」
電龍「たす、助け…グォオオォオ!!」
戦士(なんだ!? 突然魔族の従者が暴走し始めた…!!)
バリバリバリバリバリィ!!
「う、うわぁあぁあ!!」
「ま、魔族が暴れだしたぞ!!」
「に、逃げろぉ!!」
「きゃあぁあああぁあっ!!」
ズズーン! ドカァン!!
国王「ば、馬鹿な…」
国王(まさか…魔族すら操る能力を…!?)
国王「波動感知は…!? 一体誰がここまでの干渉をしている!?」
女王「は…反応していません…!」
国王「何だと…!!」
女王(まさか…何故!?)
国王「………これではまるで」
教皇「………」
教皇「…」ニィ…
「陛下、危険です! 待避を!!」
国王「………」
国王(おのれ………)
教皇「………待機しておる十字聖騎士団に指示を出せ」
「はっ」
教皇「やはり、魔族は魔族…分かり合えぬようです、陛下」
国王「…」ギリッ…!
教皇「一度は、間違いを犯した者により地に落ちた女神教会ですが…」
教皇「緊急事態ゆえ、臨時に軍の指揮を取らせていただく」
国王「………くっ!」
女王「陛下…今は引きましょう! 危険過ぎます!」
女王「それに、十字聖騎士団には今彼らが………信じましょう!」
国王「………」
僧侶「教皇様…!!」ザッ…
僧侶「これ以上罪を重ねるのは、お止めください!!」
教皇「…聖女」
教皇「…小娘が。誰の許可を得て、私に口を利いているのだ…」オォオォオ…
丘の上
ズゥン…ドォ…ン
忍(魔族が…攻撃している!?)
忍(作戦は失敗したと言うのか!!)
「お、おい見ろ! 魔族が暴れている!」
「やはり裏切ったか!!」
「団長、指示を!!」
兄「…っ」
忍(教会が手を出してしまったか、魔族が本当に裏切ったか…それ以外か)
兄(いずれにせよ、こうなれば少しでも状況を好転させるために動くしかない)
忍(行きましょう)チラ
兄「…ああ」
兄「一番隊のみ私に続け!! 他の者はその場で待機!!」
「い、一番隊だけ…?」
「魔導士隊に攻撃させないのか!?」
兄「我に続け!!」ダッ
忍(…やむを得ん。今はこうするしか…!)
忍(間に合え…!!)
ドスッ
忍「う…?」
忍「な…」
忍「…ぜ…」
ドサッ……
兄「………すまんな、忍殿」
「だ、団長、殿?」
兄「ヤメだ、ヤメ」
兄「騎兵が突撃などしてもあれではどうにもならん」
兄「魔導士部隊、魔方陣をしけ」
兄「…四天王もろとも、魔族をぶち抜け」
キャアァア… ワァアア…
ビリビリビリ!!
電龍「うッ、ばッ、がぁッ!!」
雷帝「…電龍!!」
雷帝(力が制御できなくなっているのか! しかし一体どうやってそんな真似を…!)
戦士「まさか、操られて、いるのか!? 何処かに術士が…」
くノ一「どうやらその様です」ギロ…
戦士(くノ一殿…! …あれは!)
教皇「…」ォオォオ…
戦士「………教皇自らが…操っているというのかっ!」
教皇「魔族よ!! 我ら人間の信頼を裏切ったその罪、何よりも重いぞ!!」
雷帝「………」
戦士「どの口がッ…!!」
教皇「貴様らは女神の名の元に、裁かれよう!!」
教皇「巫女たちよ、その怒りの炎を此処に送れ!!」
ギュォオオォオッ…!
戦士(巨大な火の玉が作り上げられていく…あれをここに落とすつもりか!!)
くノ一「!? 丘上の魔導士部隊が機能している!? あちらには忍たちが策を講じてるはずなのに…!」
戦士(そうだ…! 兄上達が妨害工作をしかけていたはずが!)
戦士「どうなって、いるんだ…!?」
戦士(! あれは…)
戦士(誰だ…? 魔導士隊の前に立って指揮をしている、あの人影…)
戦士(………まさか)
戦士「嘘だ」
戦士「嘘だろ? 」
戦士「なんで」
戦士「――なんで…」
兄「許せよ、戦士」
兄「――やれ」
くノ一「…っ!」
戦士「ちょっと待て…!」
戦士「待ってくれッ…」
戦士「何をしているんだよ!!」
戦士「操られているのか!! なあ、そうなんだろう!!」
戦士「兄上ぇッ!! 」
くノ一「戦士殿っ! 離脱しましょう! 巻き込まれます!」グイッ…
戦士(何故…どうして…!!)
雷帝「…」
戦士「…っ」
雷帝「お前の兄? あれがか」
雷帝「なるほど。よく、分かった」
雷帝「――人間は、信用するに値しないという、現実が」
戦士(違うんだ…)
戦士(待ってくれ…)
戦士(ああ、くそ、駄目だ…)
戦士(意識が………遠退く…)
電龍「ぶ、ちょー…!」
雷帝「電龍、気を取り戻したか! 逃げるぞ!」
電龍「へっ…へへ…」
電龍「俺は、無理っス、わ。部長…」
雷帝「馬鹿を言うな。泣き言は聞かん。跳べ!」
電龍「ひ、ひえ…。相変わ、らず、鬼だなァ」
電龍「お、れ、もう動け、ないっス。置いてってください、よ」
電龍「あんなの、落ちてきたら、流石の部長も、やばい、しょ」
雷帝「もう喋るな」
電龍「…うらァ!!」バチィッ!
雷帝「っ…!?」ビュオッ
電龍(おー、ぶっ飛ばせたぶっ飛ばせた。四天王の部長相手にも、俺けっこうやれるもんだなァ)
電龍(ま、不意打ちだけどな。日頃の怨みってことでね、勘弁してくださいよ。いっぺんやってみたかったんだよなー、上司ぶっ飛ばすのとか)
電龍(怒られるかもしんないけど…。けどね、あんたみたいな良い上司、部下としちゃ死なすわけにはいかねーんすよ)
電龍(我ながらカッコつけたなーとも思うけどさ)
電龍(ったく。貧乏クジ、引いたわ。マジで)
ゴォオオオオォオォオッ…!!
「す、すごい魔法だ!」
「これなら魔族もひとたまりもないぞ!!」
教皇「………ふん、四天王を始末しそこねたな」
教皇(だが、四天王ですら逃げ惑う他ない程の破壊力。これは大きな成果だ)
教皇「おい、そこの」
「はっ」
教皇「聖女は魔族の邪気に当てられて気を失っておる」
僧侶「」グタ…
教皇「丁重に教皇領へ連れ帰り、自室で落ち着いて頂け。暫くは心が乱れ、暴れるやもしれぬ。部屋から出すな 」
「はっ!」
雷帝「――人間よ」
教皇「………」
「うわ!? どこから声が聞こえてくるんだ!?」
「い、いやあ! 魔族の声だわ!」
雷帝「我々を陥れたその罪。必ずその身をもって償わせてくれよう」
雷帝「戦場で、汝らの死神として姿を現すその日までに、覚悟を決めておくがいい」
教皇「我ら女神の子らは、魔族には屈さぬ!!」
教皇「聖なる力の導きのもと、魔王を討つであろう!!」
雷帝「クックック…聖なる力、か」
雷帝「女神もとことん、墜ちたものだな…」
サァアァア…
教皇「去ったか」
教皇「聞け!! 女神の子らよ!!」
教皇「魔族の卑劣な裏切りにより、最早魔王軍との戦いは避けられぬところまできた!!」
教皇「だが恐れるな!! 我らには大いなる力がついている!!」
教皇「今こそ武器をとれ!!」
教皇「女神の名の元、立ち上がるのだ!!」
国王(くっ…)
国王(糞ったれ!!)
十字聖騎士「動かれませぬよう、お願いいたします」グイ
女王「王族へのこのような狼藉、許されると思っておるのか!!」
十字聖騎士「緊急事態ゆえ…御二人にもしものことがないようにお守りするよう、教皇様より仰せつかっています」
女王「これは、拘束というのじゃ!!」
「へ、陛下っ…!」
「糞、何故体が、動かん!?」
女王(近衛隊…! 術に嵌められているのか!?)
女王(それなのに何故、波動感知が作動しないのじゃ!)
教皇「女王陛下…そのように昂られてはお身体に触りますぞ」
女王「教皇…貴様!!」
教皇「王立魔術学院の総力を上げて…ということでありましたが」
教皇「それが反応していない、ということは…これは紛れもない、魔族の裏切り」
教皇「…まあ、魔法の原理から導いた感知能力では、魔法を遥かに越える密度の波動は…或いは感知出来なかったのやも、しれせぬな」
教皇「しかし、結果は結果」
女王「………」ギリ…!
教皇「国王陛下…」
教皇「幻の和平を唱え、魔族を招き入れ、王国を危険に晒したこと…城の自室で悔いて頂こう」
国王「………人間は、滅びるぞ」
教皇「まだおっしゃるか。陛下も目にしたはずだが。あの強大な力を」
教皇「それに…我々を人間の闇と蔑んだ王家の皆様も、随分と策謀を巡らせたものだ」
教皇「女神を信ずる、若く賢い勇士が現れたことが…我らにとっても、救いであった」
女王「………洗脳にかけたのか…!?」
教皇「…さて」
教皇「それはどうでしょうな」
兄「………」
兄「…十字聖騎士団! 民の救助に向かえ!!」
「はっ!」
兄「急げ!」
兄「………」
兄「これで」
兄「…これでいい」
――ダンッ!!
兄「!」バッ
忍「ぬぉおおっ!」ジャキィ!
スパッ
兄「くっ…!」ツー
忍(外した…!?)
兄「ちっ、簡単には倒れんか!」
兄「やむを得ん…」オォオ…
忍「………!!」
忍「この技は…まさか!!」
兄「………」
忍「き…」
忍「貴様ァアァアッ!!」
兄「おさらば」ブン
ザクッ…
「だ、団長! 平気ですか!」
兄「…ああ」
兄「私は平気だ。それより住民の避難を最優先」
兄「やる事は山のようにあるぞ。急げよ」
「はっ!」
兄(そう)
兄(もう引き返せはしないのだ)
兄(…父上)
兄(父上がしなかったやり方で、俺は王国を守ってみせます)
盗賊「………」
盗賊「あの馬鹿…。しくじりやがった」
??「どうするのかしら? あなたはまだ、迷っているみたいだけれど」
盗賊「――…もう」
盗賊「あの王国には、賭けられるものは残っちゃいねぇ」
盗賊「全部、かっさらう」
盗賊「力を貸せ。今日からお前は…」
盗賊「俺の軍師だ」
軍師「…ふふ」
軍師「そう来ると思って、既に手は打ってますよ、盟主様」
港町 商館
商人「………」
役員「社長…。あの女からの使いが来てやす」
商人「…ちっ」
商人「女は嫌いなんだよ、あたしゃ」
役員「追い返しますか」
商人「辺境連合軍か…まあ、実現するなら、良い金ヅルになりそうじゃないか」
商人「乗ってやるよ」
役員「…しかし、今回の教会との取引で、既にノルマは達成してます。少々、危険過ぎやしませんか」
商人「危険? はっ、この商売がヤバくなかった時なんてあるかい」
商人「………金はあればあるほどいい」
商人「我々武器商会は誰にも属さず、誰にも寄りかからず」
商人「自分達の身は、自分達で守るんだよ」
役員「へい」
――
――――
――――――
ここまでにしておこうと思います
来週の投下で、新章に入るところまで行けると思います
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