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元スレ国王「さあ勇者よ!いざ、旅立t「で、伝令!魔王が攻めてきました!!」
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商人「家族を人質にでも取られたか? だが、この場でその命を落とすことはあるまい?」チャキ…
商人「真実を言え!」
副官「…」
商人(こいつ、眉ひとつ動かさないとは…)
大僧正「………商人殿はなかなかに面白いことをおっしゃる」?
大僧正「しかし、何処にも証拠などありはしない。そうでしょう?」
大僧正「動かぬ生き証人である彼がこのように言っているのです。それを、我々が捻じ曲げて推測することは、簡単なことですよ。違いますか?」
商人「ふん、犯罪者はみなそう言うのだ」
大僧正「人聞きの悪いことをおっしゃらないで頂きたい。相手を貶めることは、お互いの為になりますまい。新たな契約を前にしているのであれば尚のこと」
商人「何だと?」
大僧正「過ぎたことをいつまでも掘り返しているよりは、新たな道を共に歩みましょう、と言っているのです」
大僧正「商売人である貴女を呼んでおいて、なんの商談もなく返すほど、我らも世間知らずではありません」
商人「回りくどい言い方だな。話があるならとっととするがいい」
大僧正「…近々、魔王の配下による襲撃が行われます」
商人「!?」
大僧正「我々はそれに備えたいのです。そして、そのためには大きな武力が必要、という訳です」
商人「要領を得ないな。何故、魔王の動向なんてものが読める」
大僧正「読めるのではありませんよ。そうするようにしむけるのです」
商人「! まさか…」
大僧正「近々、王国建国の儀式が執り行われます。年に一度、栄光ある王国の繁栄を願う大きな祭り」
大僧正「国王陛下は、この儀式でこの地に大いなる安寧を世にもたらそうと意気込んでおられます。なんと、魔王の配下を祭りに招き、魔族との和平を訴えようと言うのです」
大僧正「誠に素晴らしい心意気、実現すればこんなにも素晴らしいことはありませんが…」
商人(………)
大僧正「魔族に恐怖を抱いた一部の兵士が、魔族に攻撃をしかけてしまっても…それもまた、致し方ないことでしょうなぁ」
戦士(な、なんだ…こいつらは、一体何の話をしている?)
女勇者「…ゲスが」
大僧正「魔族は当然応戦するでしょう。しかし人々の目には、“建国の儀式に招かれた魔族が、突如人間に牙を剥いた”…という風に映る」
?
大僧正「客人として招いている以上、敵の攻撃は王国の只中で起こるでしょう。それは、国王陛下の喉元にも届きかねない危険な刃だ。当然、人々の命も危険にさらされる」
商人「…そして、人の世は軍拡の風潮を強める。最早、国王陛下の手には負えぬほど」
大僧正「お察しの通りです。我々は、その風を受けて十字聖騎士団を中心に王国軍の強化に乗り出します」
商人「なるほどな…。それが女神教会の描いた絵というわけか」
大僧正「取引を、受けて頂けますかな?」
商人「断れば、外に控えている聖騎士がなだれ込んで来て、あたしは斬り殺すってわけかい?」
大僧正「…」ニコ…
商人「いつの間に教会ってのは、ここまで血なまぐさい場所になっちまったのかねえ」
商人「…ひとつ、聞かせな。そんなことをしたら魔王軍との戦争をおっ始めるも同じこと」
商人「聞けば、あちらには新たな魔王が誕生したというが、こちらにはまだ神託を受けた新たな勇者が現れていない」
商人「その戦いに勝ちが望めると思うのかい?」
大僧正「おやおや、貴女ともあろう方が勇者の伝説を真に受けていらっしゃるのですか?」
商人「何?」
大僧正「何のために、あの男を使って研究を進めているのです?」
商人「!」
商人(………何故この男が魔導砲のことを知っている)
大僧正「驚くことはありますまい。あの男のもたらす知識は、我らが蓄えている知識に他なりませんから」
商人「き…貴様らは一体………!」
?
女勇者(まさか、教会はあの研究を…)
戦士「女勇者様」
女勇者「ん?」
戦士「お許しください。これ以上は黙って見ていられません」
女勇者「え? あ、おい、ちょっと待て」
戦士「っ」タッ
スターンッ!
商人・大僧正「!」
戦士「そこまでだ!! 王国に巣食う闇め!!」
戦士「これ以上のたくらみごとは私が許さん!! すべてを白日の元にさらすがいい!!」
商人(あれは…あの時の若造か)
大僧正「くせものだ」パチン
バタン! ダダダダダダ…
女勇者(あーあー。やってくれたな戦士よ。…それにしても、出てくる出てくる。こんな数の聖騎士が待機していたとは)
大僧正「誰かと思えば、裏切り者の息子ですか。せっかく永らえた命、大事にしてにしていればいいものを」
戦士「黙れ!! 女神に仕える身でありながら俗世にまみれ、政に関わった挙句、王国を混乱に陥れんとしたその罪、死よりも重いぞ!!」
大僧正「何を言うのやら。王国を混乱せしめたのはお前の父でしょう」
戦士「父上はそんな愚かなことはしないっ!!」
大僧正「…お話になりませんね。もう少し、大人だと思っていたのですが」
戦士「私は戦士だ。剣を授かった時から一人前と認められている。己の命を賭して誠心誠意勝負をすることを魂に刻んでいる」
戦士「陰に潜み、高みから謀をめぐらすだけの腑抜けを、私は王国民としての責務を果たすひとりの成人として認めない!」?
大僧正「…何を」?
商人「はっはっは! 面白い! 大僧正殿、ひきつっているぞ。こういう奴は苦手か」
商人「何も出来ぬ若造だと思っていたけどね。ここまで来るとはやるじゃないか」カチャ…
戦士(! 小銃を…卑怯な)
商人「口だけじゃないって所を、見せてみな」
戦士「望むところ!」ダッ
商人(前に出るか、いい度胸だ!)ズドン!!
戦士の背後の聖騎士「はぐッ」ドシュッ
戦士(! 後ろから斬ろうとしたのか!?)
商人「こいつらに騎士道なんてモノはないぞ。次は射殺しにかかってくるかもしれん。気を抜くな」
戦士「…何のつもりだ」
商人「お前にそれを教える義理はない。せいぜい暴れまわるがいい」
大僧正「…商人殿。賢い貴女なら我らを敵に回すことがどういうことか、理解していると思っていたのですが」
商人「その言葉、そのままそちらに返そう!」
商人「我らに見せぬ手の内を持って、我らを意のままに操ろうという傲慢さを、教会が持っていることはよく分かった!」
商人「我々武器紹介は何処にも属さぬ! 我らの道は我らが己で選ぶ!!」
商人「この女神教会に大僧正殿に組する者がどれだけいるのか? 純粋に女神だけを信ずる教徒たちにこの騒動を知られれば、隠蔽するのも一苦労だろうな?」
大僧正「…」
商人「これ以上、騒ぎにされたくなければ貴様らの手の内を我らにさらすのだな!」
戦士「ふざけるな、貴様らの交渉の手助けをするつもりなど毛頭ない!」
商人「まあそういうな。お前にもひとりでこの囲みを突破できる自信はあるまい。力を貸せ…!?」フワ…
商人(この香の匂いはなんだ…!? 女モノだぞ。なぜ冷気にのって…)チラ
女勇者(おっ、気づいたな。我らはあの扉より脱出する、援護せよ)チョイチョイ
商人(………なんだ、あの天窓のところにいる奴は)
――「イヤな臭いがするね。頭の良い女の臭いだ」
商人(そういうことか。この単細胞がひとりでここまでたどり着けるわけがないと思ったが)
女勇者『借りは、返す。合図する。5、4、3…』
商人(念話まで使うのか。何者だ…? チッ、まあいい。恩を売っておいてやる)
商人「女との取り引きは、しないタチなんだがね」
戦士「何?」
女勇者『戦士、前方の扉へ駆け抜けろ! 教会の闇を暴く!』
戦士(! お、女勇者様! よし)
商人「行けえ!!」
パンパンッ!!
扉の前の騎士「うがッ」ドサッ…
女勇者「駆け抜けるぞ、戦士!」
戦士「応!」
大僧正「…あの女、だれかと思えば十五年前の英雄様ですか。引退した化石が、出張ってくるとは」
ワー ワー
強面「このクソ鉄仮面ども! 姐さんをどうする気だぁ!!」
商人「さあて、どうするんだ大僧正殿? ウチの連中は短気でねぇ。ああやって暴れだしちまったら、あたしが号令をかけるか死ぬまで止まらないよ」
大僧正「くっくっく。愚かな。足掻いたところで何も変わりはしないのに」
商人「…何?」
大僧正「いいでしょう、見せて差し上げます。この女神教会の神秘を」
大僧正「人智を超えた、奇跡を。そして痛感するのです」
大僧正「――己が無力を」
戦士「ぜっ!」ブォン
「がはぁ!?」
女勇者「ふっ」ヒュン
「ぐえっ!」
戦士「女勇者様! 何処へ向かうのですか!?」
女勇者「あー、えーっとね、それはホラ、あのー…」
女勇者(しまったなー。この頑固者を動かすためにああ言ったが、ぶっちゃけ特にアテがあるわけじゃなかったりして)
戦士「女勇者様、このままでは!!」
女勇者「あーもうウルサイな! お前もちょっとは考えろっつーの!」
戦士「また考え無しですか!?」
女勇者「じゃかあしいわい! お前に言われたくねーわ!!」
女性「あなたたち…!」ザッ
戦士「!?」
女性「こちらへ! ついてきて!」
女勇者(…なんだ? 見たところ僧侶の出で立ちだが…)
僧侶(女性)「早く、急いで!」
戦士「しかし、そちらは教会の…」
女勇者「イヤ、面白い。ついてってみよう」
戦士「…女勇者様? 何か考えが?」
女勇者「無論、そんなものは無い」
戦士「…」ハァ
戦士「ここは…」
女勇者「十字聖騎士団の、兵舎か?」
僧侶「今は、ここの部屋の方は全員大聖堂の方へ出払ってるわ。この甲冑を身につけて!」
僧侶「聖騎士に紛れれば、姿を眩ませられるわ」
戦士「ちょっと待て。教会の人間であるあなたが、なぜ我々に協力するんだ?」
僧侶「………それは」
女勇者(身なりからして、それなりに地位のある僧侶だな。しかし、見たことの無い聖衣を着ている)
僧侶「…大聖堂でのやりとり、全てではないけど私も聞いていたの」
女勇者「あれをか? どうやって?」
僧侶「そういう力が、私にはあるの。…貴女は、教会の闇を暴く、と言ったわよね」
女勇者(念話を、傍受したのか!? そんな技は聞いたことがないぞ)
僧侶「私は、女神教の純粋な教徒。だけど…近頃、教会上層部があやしい動きを見せているのには気づいていたわ」
僧侶「いえ、本当はずいぶん前から…」
戦士「…」
僧侶「教会が間違いを犯そうとしているのなら、それを防ぎたいの。これ以上指を加えて見ている傍観者ではありたくない」
僧侶「女神教会が、今どんな暗闇を抱えているのか、知りたい。お願いです。力にならせてください」
女勇者(ふむ。さて、どうしたものか)
戦士「…」ガシャ…ガシャン
女勇者「お、おい戦士。もう着込んでいるのか? これが罠ってことも…」
戦士「この女性についていくと行ったのは女勇者様じゃないですか。それに、この短時間にそこまで手の込んだ罠は誰も張らないでしょう」
戦士「俺は、このひとを信じます」ガシャ…
女勇者様「…やれやれ」
女勇者「しょうがないな。ウチのイノシシ男がそう言ってるんでね、あなたの案に乗らせて貰うよ」
僧侶「…!」パア
戦士「誰がイノシシですかっ、誰が!」
女勇者「そういう所は憎らしいほど親父殿にそっくりなんだよ、お前。よく言われるだろう?」
戦士「ま、まあ言われてみれば、そうかな…?」
女勇者「おっ、なんだなんだ? 顔を赤くしちゃってっ! 照れてるのか?」
女勇者「デュフフ、親子モノかあ、妄想が捗るわい」
戦士「…な、何の話です?」
僧侶「! 二人とも、あれを見て!」
戦士「ん…?」
副官「…」フラ…
戦士「あの男…!」
僧侶「最近よく、ここで姿を見かけるの。でも、様子がおかしくて…気になっていた」
僧侶「心が閉じている。いえ…何かに、心を支配されているみたい」
女勇者「ふむ。副官が今回の件の鍵を握っているのは間違いなさそうだ。商人も言っていたが、彼が語ったことが真実とは考えにくい…」
戦士「では、そのように言わされていた?」
僧侶「…彼の後をつけましょう。あなたたち二人を巡回の供に連れているという事にして、動くわ」
戦士「分かった」
女勇者「うー、汗臭い甲冑だな」
僧侶「行くわよ」
副官「…」フラ…
女勇者(どんどん人気の無い所に行くな…)
僧侶(こっちは…では、やはり)
バタバタバタ…
十字聖騎士Ⅲ「僧侶様! こんな所にいらしたのですか!」
僧侶「あ、はい。ご苦労様です。何やら、事件があったようですね」
十字聖騎士Ⅲ「どうやら、賊が侵入したようなのです。僧侶様の身に何かあっては一大事だ、お部屋にお戻りになって下さい」
女勇者(僧侶様…か)
僧侶「そうですね。ですが、こちらの方々が護衛を引き受けて下さったので、大丈夫です」
十字聖騎士Ⅲ「はあ…しかし、この先には″虚無の塔″しかありませんが」
僧侶「…このような時にこそ、あそこで祈りを捧げたいのです」
十字聖騎士Ⅲ「そう、ですか。いや、差し出がましいことを言ってすみませんでした。道中、お気をつけて!」
僧侶「ありがとうございます」
女勇者「なあ、あなたは何者なんだ」
女勇者「こうなった以上は一蓮托生の身だ。身分くらいは明かしてくれても良いと思うのだが」
僧侶「…貴女は、十五年前に魔王を倒した女勇者さんね。そして、貴方は先日反逆者として処刑された大将軍の末の息子さん」
戦士「っ! 知っていたのか」
僧侶「知っていた、というよりは分かったのよ。貴方たちの目を見ているうちに、その生きてきた道が、透けて見える」
僧侶「子供の頃からそう言うことがよくあったの。女神様に与えられた特殊な力だと気づくには、少し時間がかかったけれど」
女勇者(神通力、か…。教会には超常の力をもった人間がいると聞いていたが、本当に…)
僧侶「女神教会は、この力を持った私を特別な待遇で迎えてくれたわ。それ以来、私は教会のために尽力してきた。けど…」
僧侶「女神教会には、いつもモヤがかかっているようだった。教徒としての使命を果たすこととは別の、何かの目的を持っているかのように感じられたわ」
戦士「何かの目的?」
僧侶「ええ。それはいつも巧妙にカモフラージュされていて、私の力を以てしても垣間見ることは叶わなかった」
僧侶「私はいつも………待って、着くわ」
虚無の塔
副官「…」フラ…
僧侶「やはり、入っていくわね」
女勇者「やはり? ある程度目星はついていたということか?」
僧侶「ええ。ちょっと待って」カランカラン…
戦士「なんだ? その鐘の音は」
聖騎士?「へいへい、お呼びですかお姫様、っと」
戦士(! コイツ、いま何処から現れた…!? 気配が感じ取れなかったぞ)
僧侶「私は、お姫様なんかじゃないのだけど」
聖騎士?「や、呼び方は個人的な気分の問題だ。気にしないでくれよ。…お? 高貴な女性の香りが致しますな」
女勇者(高貴な女性?)ピクッ
僧侶「よく鼻が効くわね…」ハァ
女勇者「僧侶殿、この御仁は?」
僧侶「ああ、そうね。彼も仲間よ」
聖騎士?「えっ、俺って僧侶ちゃんの仲間だったの? 言っとくけどなあ、俺はただ…」
僧侶「″教会のお宝をかっさらいに来ただけ″、でしょ?」
僧侶「――盗賊さん」
盗賊(聖騎士?)「そうそう…ってバラしちゃうのかよ!?」
戦士「盗賊…だと!?」
戦士「貴様! 辺境を通る王国の荷を狙って荒らし回ってる盗賊団の首領か!?」
盗賊「うぉっ!? お、おいおい軍人さんか!? ちょっと僧侶ちゃんヤバいってコレ!」
戦士「こんな所まで紛れ込むとは、肝だけは据わっているようだな…!」スラ…
女勇者「よせ、イノシシ男」
戦士「しかし、女勇者様! この男は重罪人の!!」
女勇者「重罪人と言うのであれば、もはや私もそうだぞ。クーデターの重要参考人の誘拐、教皇領大聖堂への不法侵入、鎧の窃盗…」
女勇者「ちなみにうち幾つかはお前も当てはまっている」
戦士「ぐむっ…。しかし、この者は王国の重要な荷を積んだ隊商ばかり狙う極悪人です! そのためにどれだけの被害が出ているか…!」
盗賊「…参ったねえ、こりゃ。俺も有名になったもんだわ」
戦士「何を暢気な!」
僧侶「止めませんか、仲間割れは」
戦士「仲間!? こんな男と誰が…」
女勇者「いい加減にしろ!」
女勇者「私たちの目的を忘れたのか? お前は何のためにここにいる? コソドロを捕まえるためか? 違うだろう!」
戦士「…!」
盗賊「こ、コソドロ…」
女勇者「お前に兄のような駆け引き上手になれとは言わない。だが、己が一番に何を成すべきか…それは忘れるな」
戦士「………っ。はい」チャキ…
盗賊(ひえ~、おっかねえ連中だな)
僧侶「それじゃあ、改めて。こちらは盗賊さん。ここ教皇領に忍び込んでいた所を私が見つけたんだけど、ある取り引きをして色々と協力をして貰ってるの」
盗賊「条件は忘れてないだろーな、僧侶ちゃん?」
僧侶「勿論。こちらは、女勇者さんと戦士さん」
女勇者「宜しく頼む」
戦士「…」
盗賊「そうですかぁ、こちらの美人なお姉さんは女勇者さんって言うんでs…」
盗賊「って、ぇえ!? 女勇者ぁ!? って、あの伝説の!?」
僧侶「そうよ」
盗賊(どうりで並の迫力じゃねーと思ったぜ。しかも戦士って言えば、王国軍の鬼って言われてる武人じゃねえかよ)
盗賊「ずいぶんと有名人が集まったもんだねぇ、こりゃ。アンタらみたいのが、こんな所に何の用だい?」
女勇者「話すと長いんだ、勘弁してくれ。それとも、そちらも僧侶殿との条件とやらをここで話す気があるのか?」
戦士「…」ギロ
盗賊「い、いやァまあ行きずりの関係だし、お互い深入りはしないでおこう」
女勇者「それが懸命かもな」
僧侶「行きずりの関係だなんて、そんな。仲間よ?」
盗賊「あのなあ、僧侶ちゃん…」
僧侶「私、憧れてたの。歴史に出てくる、勇者一行ってものに!」
僧侶「確か、あった筈だわ。歴代の魔王を倒した勇者一行に、女勇者・戦士・僧侶・盗賊のパーティが!」
盗賊「勇者一行…つっても、俺らが向かう先は魔王城じゃなくて、女神様の総本山の懐だぜ」
戦士(…そもそも、″仲間″というにはあまりにお互いの目的が違いすぎる)
女勇者「そう、だな。それに、あなたには分かってるんじゃないのか?」
女勇者「私はとっくに、女神の加護を失っている」
僧侶「…そう、か。そうよね。ごめんなさい、無神経だった」
女勇者「いや、気にしていないさ。それより、いつまでもこんな所で話し込んでるわけにもいくまい?」
戦士「そうだ。副官はこの塔の中に消えた。後を追うんだろう?」
僧侶「ええ、そうね。中に入りましょう」
虚無の塔 内部
シーン…
戦士(なんだ? いやに静かだ。礼拝堂のような造りになっているが…)
女勇者「ずいぶん、がらんとしているな。人の気配がない。副官は何処に消えた?」
僧侶「ここは、魔神の力が封じられし場所として普段は立ち入りが禁じられているわ。特別、災厄の前触れが訪れた時にだけ、それを沈めるための儀式を執り行うところ」
僧侶「けれど、ここに人が近づけないことに別の理由があるのではないかと、調べてもらっていたの。…盗賊さん」
盗賊「はいよ。どうやら日に数人の教徒が出入りしてるぜ。しかも真夜中にコソコソと隠れるようにな。そんでもって、この秘密の通路から…」ガコッ
ズズズ… ドスン
盗賊「地下へと消えていくってワケよ」
戦士「!」
女勇者「…」
僧侶「地下には、入ったの?」
盗賊「ああ、中は特別見張りがいるわけじゃないぜ。ただ、下はそれなりに広くって、研究室みたいな所には人もいる」
戦士「研究…?」
僧侶「他に何か見たかしら?」
盗賊「………ああ。でも、アレは…」
盗賊「口で説明するより、見た方がはえーよ、多分な」
僧侶「…分かったわ。では、行きましょうか。盗賊さん、先導をお願いできる?」
盗賊「いいぜ。ああ、それと…」
盗賊「あんたらが来る前、エラソーな格好の坊さんと、殺気ムンムンの女が入ってった。ありゃ、武器商会の人間だな」
戦士「! 大僧正と、商人か…!」
女勇者「…いよいよ核心っていう所まで来たみたいだな。この先、想像を絶するような現実が待っているかもしれないぞ、戦士」
戦士「…」
女勇者「覚悟を決めておけ」
戦士「はい」
盗賊「こっちだ」
女勇者「通路は狭いが、かなり歩くな。確かにずいぶん広いみたいだが」
戦士「貴様、何処へ向かっている? 副官の…あの男の行く先が分かっているのか?」
盗賊「確実に分かるってワケじゃあないが、向かう場所がそう多くないって事くらいは、突き止めてるぜ」
盗賊「さて、と…」
僧侶「! 扉…。何か光が漏れてるわね」
盗賊「少々ショッキングな光景がこの先広がっているが…大声なんか上げないでくれよ。とくに僧侶ちゃん」
僧侶「わ、分かってるわよっ」
盗賊「そんじゃあ、入るぜ」
女勇者「ああ」
ギィ………
戦士「!!」
僧侶「うっ…!?」
女勇者「こ、これは…」
ゴポ… ゴポ…
盗賊「………人間、らしいな」
戦士「ど、どういうことだ…。…人間が…生えてきてる…?」
女勇者(………水槽に液体が貯められ…そこで人間のような生物が、まるで植物のように地面から生えている…!)
僧侶「っ…!!」
盗賊「皮膚が出来あがらない内から、内臓が出来上がっちまってる。まるで見た目は獣に食い破られたみてえだが」
盗賊「その逆だ。コイツらは、ゆっくりと成長して自分を形造ってる最中さ」
僧侶「ど…どういうこと…!?」
盗賊「どうやら、人間を人の手で生み出してるみたいだな。ここはその実験場ってところか」
女勇者(こんな技を…何のために…)
戦士「そんなことが、可能なのか!?」
盗賊「現実、目の前で行われている。こっちを見てみな。恐らく成功例だろう。だいぶ人間らしい形になっている」
女勇者「…既に、完成した人間がいるのか?」
盗賊「さあ、そこまでは知らねーよ。盗み聞いた会話で分かったのは、奴ら曰く″実験は順調″ってことくらいだ」
僧侶「馬鹿な…っ! こんな事は生命への冒涜よ!! 侵してはならない禁忌に他ならない!!」
盗賊「おい、だから言ったろ、興奮すんなって。…気持ちは、分かるけどよ」
僧侶「…こんなに…こんなに深い闇を抱えていたなんて。大僧正様は…教皇様は、いったい何のおつもりで…!」
戦士「…ここに文字が書かれてる。番号0七四号。魔力値推定Aマイナス。合格基準クリア」
戦士「魔力の高い人間を産み出そうとしているのか?」
女勇者「かもしれないな。魔力は人間の場合、平均的に女の方が高い事が多い。見たところ、造られているものの性別はすべて女だ」
僧侶「――それが命を弄っていい理由にはならない」
僧侶「止めさせなければ。こんな事は」
戦士(魔力の高い人間を生み出す…それにどんな意味がある?)
戦士(人間兵器にするつもりか。それとも別の何かの…。おぞましい。果たして、こうして生まれた者が人間と言えるのか)
盗賊「望んでいようが、そうでなかろうが、コイツらはこうして此処に生命を受ける」ボソ
戦士「!」
盗賊「どんな人生が待ち受けていようと、それを必死に生きようとするだろう。あんたたち王国の人間は、コイツらをひとりの国民として迎え入れてやれるか?」
戦士(ひとりの、王国民として…この者たちを?)
盗賊「俺には、悪いけど期待できねーよ。使うだけ使って、用が済んだらポイ、だろう? 辺境の植民地にそうしたように」
戦士「なんだと?」
盗賊「武力で王国を栄えさせた前国王は、そりゃああんたらにとっちゃ良い王様だったんだろうさ。けどな、俺たち辺境の諸部族にとっちゃ…悪魔そのものだった」
盗賊「魔王も国王も、対して代わりはしない。理由もなく侵略し、俺たちから全てを奪い去っていった」
戦士「それは…人類の力をひとつにまとめて魔族に対抗するためで!」
盗賊「まとめる? 笑わせんじゃねーよ」
盗賊「あんたらは、只、押さえつけただけだろーが。土地も人も奪って、宗教すら自由を禁じた」
戦士「………」
盗賊「俺は、コイツらを救ってみせるぜ。自由な人生を歩ませてみせる。こんな所で、奴隷みたいに人生を終わらせるなんて事を…させてたまるかよ」
戦士「………」
女勇者(ふむ…。戦士にとっては、良い出会いかも知れないな)
女勇者(で、出来ればもうちょっと取っ組み合ったりして、組んず解れつ…デュフフ)
僧侶「…進みましょう」
女勇者「え、あ、ウン。そうね」
僧侶「これが教会の抱えた秘密の全てであるようには思えません。真実を、手にしなければ」
盗賊「あのボンヤリ野郎は、この先の研究室にいると思うぜ。教会の連中も多少なりとも居るハズだ。バレずにコッソリ、とは行かなくなるかもしれねーな」
戦士「声を上げる暇もなく倒せば良いだけのことだろう」チャキ…
盗賊「あらそ。じゃ、この先は武闘派にお任せってことで」
女勇者「そちらも相手に気づかれずここまで調べあげたんだ、それなりに使うんじゃないのか?」
盗賊「おっ、俺ってば強キャラ臭漂ってる? 嬉しいねえ!」
盗賊「でもま、適材適所ってもんがある。俺よりデキる連中の土俵には、出張らないさ」
戦士「せいぜい俺の刃圏に入らないように身を縮めていろ」
盗賊「へいへーい」
女勇者「では、行くぞ」
僧侶「…ええ」
副官「…」ボー
僧正「ふう。なんとか無事に済んだわい」
聖騎士「魂移し…でしたか。なんとも恐ろしい技ですな。何でも、心を支配し自在に操れるとか」
僧正「別人の身体に乗り移るというのも、気持ちのいいもんじゃないぞ」
聖騎士「私はいち騎士ですから、そのような技を操るお気持ちは分かりかねますが」
僧正「なに、研究が大成すれば、魔法に心得のない者でも扱えるようになるであろう。…今回この男を使った術式については概ね成功したのだからな」
僧正「それよりも、早く始末してしまえ」
聖騎士「もう、宜しいのですね」
僧正「万が一にもこの男が外部の人間の手に渡っては面倒だ。一応、証拠としての役割は果たしたのだしな」
僧正「用済みだよ。大僧正様の許可も得ている」
聖騎士「では…」チャキ
副官「………」ボー
ガタ…
僧正「ん? 何の音だ――」
戦士「」ビュンッ
聖騎士「なっ!? 貴様は!!」
戦士「南無三!!」ズドッ
聖騎士「う、ゲッ…」
ドサッ…
僧正「ちぃ、つけられていたか!?」
僧正「ぬぅ…」グォォオン…
戦士(! 妖術を使うつもりか)
僧侶「させないわ!」ォオ…!
僧正『き、貴様! 何故ここに!?』
僧侶『僧正様、あなたの操る術ではわたしは取り込めない!』
僧正『おのれ、教会の聖女たる者が教会を裏切るか!!』
僧侶『裏切りは、どちらだ!』
僧侶「今のうちに!」
戦士「ふッ!」ビュッ!
ズバンッ
僧正「ぐあッ…」ドタッ
女勇者「…何とか、間に合ったようだな」
盗賊「お、おい、殺しちまったのか?」
戦士「妖しい術を使う以上、生きていればどのような害を及ぼして来るか見当もつかない」
女勇者「確かにな。それに、今こいつらの話していたことが本当なら…」
僧侶「…″心を支配し、操る術″を使っていた」
僧侶「そのような技が、実在するなんて…彼らの研究は一体、何を得るためのものなのか」
副官「………う、うぅ……」
僧侶「! だ、大丈夫ですか」
副官「…あ…ああ」
副官「私の、手…私の身体」
副官「声も………、そうか、戻ったのか…」
盗賊「…今度は本物、ってか?」
女勇者(だが、それを確かめる術はない…)
戦士「…副官殿、なのか」
副官「!! あ、ああ…!」
副官「戦士殿…っ! 私は、何と言うことをしてしまったのか…!!」
副官「許して、くれ…! 許してくれぇ…!!」
戦士「…!」
僧侶「落ち着いて…。身体に触るわ。魂が身体から追い出されていたのならば、戻った直後は危険な状態よ」
僧侶「ゆっくり呼吸をするの…。大きく吸って、吐いて………。落ち着いたら、少しずつ、あったことを話して」
副官「………」
副官「…大将軍様は、王国を守ろうとしていらしたのだ…」
副官「…教会の十字聖騎士団が、近々反乱を企てるかもしれないと…話を聞いた大将軍様は、反乱を抑えうるだけの軍備を、整えようとなさって…」
女勇者「………っ」
副官「それを、私が…私の身体が! 勝手にクーデターを行う取引に利用して…!!」
副官「…あの日、暴走する私が率いる兵を、抑えようと駆けつけた大将軍様を…」
副官「教会は、反逆に仕立てあげた…っ!! 」
副官「………許してくれっ…!!」
戦士「………………」
コンコン…
兄「お入りください」
女王「うむ」スタスタ
兄「丁度、茶を入れたところです。どうぞ」コト
女王「頂こう…」
兄「………」
兄「女王陛下、その、大丈夫なのですか。国王陛下の妃である貴女様が、私の部屋などに何度も…」
女王「心配せずとも、我が夫はこれしきの事で妬いたりはせぬよ」
兄「い、いえ。そういう意味ではなく」
女王「ほっほ。冗談じゃ。………女神教会に目をつけられるのではないか、ということじゃな」
兄「…はい」
女王「嘆かわしい事じゃ。彼奴らは、女神様に祈る時間を惜しんで政に精を出しておる」
兄(…)
女王「そなたは、どう思っておるのじゃ?」
兄「…どう、とは?」
女王「陛下の考えを、そなたには話して聞かせてきた。その上でどう思うのか、正直なところを聞いてみたくての」
女王「或いは教会が取って代わってみせた方が、この王国を良き方向へ導く…と考えたりはせぬか」
女王「遠慮はいらぬ。申してみよ」
兄「………私は」
兄「国王陛下が進める改革は、確かに素晴らしいものだと思います。ですが…それだけではこの国を守れると思えません。しかし、教会にもまた、義がありません」
兄「力は必要です。力を持った上で、それを御した時にこそ、平和が保てると思っております」
女王「…陛下では力に乏しい。が、教会が力を握ってもそれを御するだけだの能力がない」
女王「そういう事か」
兄「はい…」
女王「…もしかすれば今まではそなたの父が、王国の圧倒的な力そのものとして、自らを押さえつけていたのかもしれぬな」
兄「…女王陛下は、本当に父上を逆賊とは思っていらっしゃらないのですね」
女王「思っておらぬよ。あやつは忠実な家臣であった。それ故に、陛下に勇み進言することもままあったが」
兄「ではやはり、あの日のことは…」
女王「確かなことは分かっておらぬ。鍵を握っている人物が行方を眩ませておってな。だが、そなたも読んでいた通り、恐らく女神教会が絡んでいるのだろう」
兄(女神教会の策略…。権威だけでは飽きたらず、権力までも握ろうと言うのか)
女王「分かっていながら、状況を覆すことが出来なかった。許せとは言わぬ」
兄「…そのような言葉を、女王陛下自らかけてくださることが…」
兄「慰みに、なっております」
兄(しかし、教会の目的が果たされたとき、王国は…)
兄「…この国は、どうなってしまうのでしょうか」
女王「大将軍が力の番人として腰を据えていたからこそ、暴走することはなかった。その楔を失った今…王国はその力を持て余しておる」
女王「力に、引き摺られておるのじゃ」
女王「教会は…力に取り憑かれておる。人間には不相応なほど強大な力に」
兄「人間には不相応な力…? それは、王国の実権とはまた違うものなのですか?」
女王「うむ。もっと強大で、恐ろしいものよ」
兄「………それは、何ですか?」
女王「――例えばそれは、勇者であり、稀に姿を見せる聖女であったりする」
女王「女神様のご加護じゃよ。神秘の力そのものを意のままにしようとしておる」
兄「女神教会は、女神様の力そのものを手にしようとしているのですか!?」
女王「それを可能にすれば、魔族に怯えて生きる必要がなくなる。天の気まぐれで現れる勇者を待つ必要がない」
兄「…にわかには、信じられません。そんなことが、本当に出来るのでしょうか」
女王「兄陛下の治世から、もう長い間その研究は秘密裏に行われてきた。…教会の頂点、教皇猊下の指導の元にな」
女王「″神秘の力を人の物とする″。それを現実にするために、兄陛下は協力を惜しまなかった。国の財産は湯水のごとく使われた」
兄「し、しかし当時はまだ魔王軍との戦も激しく行われていたはず。どこから資金源を得ていたというのです?」
女王「その為の、辺境諸国への進出よ。財政は地方から吸い上げておった」
女王「それに魔王軍との戦いでは、世に知られているほど王国軍は武勇を上げておらぬ。全ては、女勇者の…彼女の大いなる力により持っていたに過ぎぬ」
兄(そうか…それで今になって辺境の反発が噴出してきたわけだ。しかし…)
兄「本当に、その力を手にいれることが出来れば…。魔王軍との長い長い戦いの歴史に終止符を打つことが出来るかもしれない」
女王「………」
女王「陛下は、よくおっしゃっていた。人は、神にはなれぬ。大きすぎる力は人の世を乱す…と」
兄「!」
女王「…神の力を手に入れようなどと、人には無謀なことではないか?」
女王「だからこそ、″魔王を倒す″という目的のためにのみその力が天より与えられてきたのではないか?」
女王「女神教会が研究の末に手にしている力は、歪められた神秘じゃ。勇者が手にするそれと、性質から異なる」
兄(歪められた、神秘…)
女王「その意見の対立が最初であったかのう。かつて王族では珍しく仲の良い兄弟であった二人は…相容れぬ存在となっていってしまった…」
兄「女神の力を手にし、大いなる力で支配力を不動のものとしようとなさった王兄様…」
兄「そして、神秘の禁忌を犯すのではなく、生きている者同士で手を取り合うことで平和を手に入れようとする、王弟様」
女王「うむ。しかし陛下の訴える弁は、一見すると女神教の教義のようにも聞こえる。それを盾に、兄陛下亡きあとの教会は陛下の支持者という立場を取ってきたが」
女王「初めから水面下で教皇と陛下は対立しておった。教皇にとっては、陛下よりも兄陛下の子息の方が操り易い存在であったのだ」
兄(そうして張り巡らされた罠の中、あの日を迎えた…というわけか)
兄(…なあ、戦士よ)
兄(お前の言うことは、正しかったのかもしれんよ…)
兄「………どうにかして、真実を伝えなくては」
女王「そなたの、弟にか」
兄「…はい。あいつも真実を探して、動いているのです」
女王「そなたの弟は、武器商会の荷に潜り込み、教皇領へ向かった」
兄「! な、何故そんなことを!?」
女王「ふふ。我ら王族とて、黙って教会のさせるがままにしておくつもりもないからのう」
女王「色々と手は打ってあるのじゃ。何、そなたの弟にはあの女勇者がついておる。上手くすれば、教会の闇を暴いておる頃やもしれぬ」
兄「…!」
女王「のう。そなた、弟を信じられるか」
兄「…もちろんです。たったひとりの…肉親ですから」
女王「ふふ」
女王「その言葉、陛下が聞いたら…さぞ羨ましがるだろうな」
兄「え…?」
女王「こちらの話じゃ。…よいか、心して聞け」
女王「お前には話そう。女神教会の思惑を打破する策を」
女勇者(………教会は、副官を操り、大将軍を反逆者に仕立てあげた)
女勇者(軍部の頂点に立ち、目を光らせていた大将軍が邪魔だった…というわけだ)
女勇者(そして、国王陛下も同時に暗殺する筈が…それにしくじった。決定的な権力を手に入れたい教会は次の手を打つつもりでいる)
女勇者(それが、建国の儀式の策略)
女勇者(これを機に王国軍までも手中に収め、実権を握るつもりでいる)
女勇者(魔王軍との戦争が起こったとしても…この研究の成果を以てすれば勝利できると確信をしているのだ)
僧侶「…こんなのは間違いよ。全て、間違い」
僧侶「教皇様を、止めなくては」
盗賊「僧侶ちゃんの説得で…この真っ黒教会のボスが今さら止まるってか?」
僧侶「…っ」
盗賊「聞いた限りじゃ、天下の全てをまるでただの駒みたいにしか思ってねーぜ」
盗賊「王国の、お偉いさんですら、よ」
戦士「………」
女勇者「…戦士」
女勇者「どうやら、探し求めた真実は手に入った。…お前はどうするんだ?」
戦士(…俺は)
女勇者「なんなら、怒りに任せて教皇殺しでもしてみるか?」
戦士「!」
僧侶「なっ…」
女勇者「付き合ってやってもいいぞ。私も竹馬の友を殺されているのだ。こう見えて腸が煮えくり返っているんだよ」
僧侶「な、何を言っているの!? それでは憎しみが憎しみを生むだけよっ!」
戦士「………」
女勇者「どうだ?」
戦士「…」
戦士「ふ…。またそうやって、俺を試そうと言うのですね」
戦士「全く、人が悪い」
女勇者(…ふふ)
女勇者「言っただろう? 勇者もただの人間だ」
戦士「そう、ですね…。俺たちはただの人間でしかない。人間は人間らしい生きる道のりを探さなければならない」
盗賊「…」
戦士「今王国を守るために、何をしなければならないのか。それを探します」
戦士「復讐は………暫く、置いておきます」
僧侶「戦士さん…」
戦士「知ったからこそ、出来ることがあるはずなのです。今は、それに全力を尽くします」
女勇者「…イノシシ男が、能ある鷹になったかな?」
戦士「…色々なことがひとつに繋がって、今は不思議と楽な気分ですよ」
戦士「信じていたものが、正しかったのだから」
女勇者「…そうか」
盗賊「それじゃ、どうすんだい? 教会サマの研究は、その全貌が明らかになったワケじゃない。もう少し、進んでみるかね?」
僧侶「…私は、そのつもりよ」
女勇者「ま、その辺の目的は探っておきたいな。が、しかしこの先もこうすんなり行くか…」
戦士「敵が剣を用いて来るならば、遅れを取るつもりは少しもありませんよ」
盗賊「頼もしいこって。この先は俺も未知数だかんな。何が起こるか分からねーぜ」
女勇者「警戒だけは、怠らぬようにしよう」
「その必要は、ありません」
大僧正「この先は、私がご案内しましょう」
戦士「!」
女勇者「貴様…!」
僧侶「…大僧正、様!」
盗賊「げえ!? い、いつの間に!」
大僧正「構える必要はありません」
大僧正「最初から、私は貴方たちを招くつもりでいたのですから」
戦士「何を言っている…!」
女勇者「待て。この感じ…」
僧侶「え、ええ! 間違いないわ!」
僧侶「…副官さんと同じ術にかけられてる!」
盗賊「う、ウソだろオイ! こいつ、教会の黒幕側の奴じゃねーのかよ!?」
大僧正「あれは、私から生まれし奇跡の一部。しかし、偽りの業でもあります」
大僧正「私はこの世界に実体を伴えない身。それゆえ、この者の身を借りているのです」
戦士「実体を、伴えない…!? なんだ、それは…では貴様はなんだと言うのだ!?」
僧侶「そんなもの…この人の世には存在しないわ。そんなものが存在するならば、霊界や天界の…」
僧侶「!」
女勇者(まさか)
大僧侶「そう………私は、女神と人に呼ばれる存在」
盗賊「じょ、冗談だろぉ…! 本物の女神が降臨なさったってかぁ…!?」
戦士(これも教会の…)
大僧正「これも教会の妖しい術のひとつだろう」
戦士「!?」
僧侶(そんな…心を)
大僧正「心を読むなんてことが出来るはずがない」
僧侶「!」
盗賊「…っ」
大僧正「逃げ出すとするならば、この四人が全員生存できるだろうか?」
盗賊(お、お見通しってか)
女勇者「心を乱すな! つけいられるぞ! こいつは――」
大僧正「こいつは女神のふりをした化け物だ…」
大僧正「そうして″女神″否定するのは、貴女がその役割を果たさなかったからですか?」
大僧正「女勇者」
女勇者「――!!」
戦士(!? なんのことだ…)
大僧正「ついてきてください」フワ…
盗賊「…お、オイオイ宙に浮いちゃったぜ、あのオッサン」
戦士「…罠であったとしても、先へ進むしかないようだ」
僧侶「!? 通ってきた扉が、壁になってる」
盗賊「マジかよ…。ここまで来てゲームオーバーは、あんまりだぜ…」
戦士「そうとも限らんさ…。誰かが女神を語っているんだとすれば、何の目的でそれをする?」
戦士「教会のほの暗い部分を指揮している大僧正を、妖術で操る立場の者がいるとするならば、それは…」
盗賊「敵の敵は、味方ってか?」
僧侶「…心を読み取る、という技を仕掛けてきた時点で、相手はこちらの心を支配できるほどの影響力を持っているはずです」
僧侶「でも、そうしなかった…」
盗賊「もう操られてるのかもしれねーぜ。あんたらも…もしかしたら、俺もな」
僧侶「…」
戦士「どちらにせよ、進むしかないだろう」
僧侶「そう、ですね」
盗賊「あーあー…とんでもねーことになっちまったなぁ」
戦士「行きましょう、女勇者様」
女勇者「…」
戦士「女勇者様?」
女勇者「あ、ああ。そうだな」
大僧正「この扉の奥へ…」
戦士「…」スタスタ
僧侶(ここが…この地下施設の最深部?)
盗賊(こんなに深く潜っちまったら、簡単にゃ脱出できねーや)
女勇者「…」
ピシッ
女勇者(!? な、なんだ…身体が、動かない…!)
バタン…!
女勇者(扉が閉まった!)
「おぬしは通ってはならん」
魔女「おぬしは旧き勇者。新しい者共の輪へは入ることはまかりならん」
女勇者「…言ってくれるな。私はまだアラサーだぞ。まだまだ現役だ」
魔女「口ではそう言っても、心が怯えきっているの。妾には分かるぞ」
女勇者「お前、さっきの水槽の人間のひとりだろう。見た目に反してずいぶん長く生きているな」
女勇者「いつ、造られた?」
魔女「さあ。地下では時の流れは曖昧じゃ。高い魔力を生まれ持つことに初めて成功した、番号〇一七号。…分かるのはそれだけじゃよ」
女勇者「…それがどうして、教会ではなくあの女神もどきに使われている?」
魔女「使われているのではない。ただ為したのじゃ。そうすれば、妾たちをここから救い出す大きな風が吹く、と」
魔女「自由を愛する風が吹くと、そう定められているのじゃよ」
女勇者「…」
魔女「妾はそれを、ほんの少し、垣間見たに過ぎぬ」
バタン…!
戦士(扉が、ひとりでに…)
戦士「! 女勇者様は!?」
盗賊「あ、あら? 俺の後ろを歩いてたと思ったんだけどなぁ」
僧侶「待って。この部屋…人がいるわ。二人…いえ、三人!」
商人「なんだい、若造。生きてたか」
戦士「お、お前は!」
盗賊(武器商会の女社長か…!)
戦士「何故、貴様がここに!」
商人「知るかい、こっちが聞きたいね。途中から大僧正のジジイがうわ言をしゃべりだしと思ったら」
商人「…女神を名乗りだして、気づいたらここに居たんだ」
戦士「…っ。ここは、なんなんだ」
商人「はっ。分かったらこのあたしが大人しくしてる訳がないだろう」
商人「それとも…そこの隅にむっつり座ってる男どもに聞いてみたらどうだい?」
???「グガー…スピー…」
????「ようやく全員揃った、というわけですか。全く、回りくどいマネをするものですね」
盗賊(なんだ、あの二人…ただ者じゃねーぜ。片方は寝てんのか、あれ。この状況で?)
商人「いい加減口を割ったらどうなんだ? あたしが隠し事が嫌いだってのはよーく知ってるだろう?」
商人「なあ、魔法使い」
魔法使い「そうですねぇ、貴女の怒りは買いたくないものですよ」
魔法使い「さっきも言いましたが、僕は何も知りませんよ」
商人「…ほう。このあたしに嘘をつこうってかい?」
魔法使い「あはは。参りましたね。どうして怖い人達って、人の嘘を見抜くのが上手いんですかねぇ?」
商人「話す気は無いと言うことだな」
魔法使い「許してくださいよ。そのうちこの状況は説明されると思いますよ」
魔法使い「それに、事情を聞いても貴女の取る道は変わらないと思いますし、ね」
戦士(何者なんだ、こいつは…)
魔法使い「まあ、それはこの場に居合わせた誰しもがそうかもしれませんが…」
盗賊(イミフ…)
僧侶「あなた…人間じゃ、ないわね」
商人「!?」
戦士「なっ…! それじゃあ、魔族か!?」
魔法使い「おや…鋭い人がいましたか。これは困りましたねぇ」
戦士(くっ、何がどうなっている!?)チャキ…
魔法使い「そんな物騒なものは仕舞って下さいよ。僕が魔族だったら何だって言うんです?」
魔法使い「何の因果か、運命の糸に手繰り寄せられてこうして出会った者同士、魔族だからって差別することはないと思いませんか?」
魔法使い「貴方はどう思います?」
盗賊「お、俺ぇ!?」
盗賊(なんで俺に振るんだよ…!)
盗賊「ん、んーまあ、確かに魔族だからって差別は良くねーかなあ? 魔族にも良い奴は居たしな…ハーピィとか」
魔法使い「ほら、この方もこう言ってる事ですし」
商人「…」ギロ
盗賊(だからなんで俺が睨まれる!?)
戦士「…」
戦士(女神の名を語る何者かに導かれてここには六人の男女が揃えられた)
戦士(武器商会の女社長、盗賊団の首領、教会の僧侶、魔族、大将軍の息子…そしてあと一人は)
???「…ゴー…クカー…」
戦士(!! あ、あの男…)
戦士(知ってる…知ってるぞ! 見間違うはずもない!!)
戦士(父上が…生涯一度だけ敗北を喫した男!
!)
戦士(…世界最強の男にして…生ける伝説…!!)
戦士「――武闘家…っ!!」
武闘家「…グオー…ゴガー…」
『よく、集まってくれました』
盗賊「…うわっ…なんだ!?」
僧侶「…念話、にしては強烈なテレパシーだわ…」
商人「…女神とやら。対等に話す気があるのなら姿を表すがいい!!」
『それは叶わぬこと。この場には選ばれし者のみしか入れぬ結界を張っているゆえ…肉体のないまま語ることを許して下さい』
盗賊(胡散臭ぇーなー)
僧侶「確かに、聖なる波動を感じるわ…。でも、本当に貴女が女神なの?」
『証明をすることは難しいことです』
『私の持つ奇跡の加護は、今、女神教会によって模倣され偽りの術として蔓延り始めています』
魔法使い「…」
武闘家「…グー…スピー…」
『ただ証明となりしはひとつだけ。私はここにあなたたちを揃えた、ということ』
『魔王を討ち破る六人の英雄を』
『新たなる、勇者一行を!』
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