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元スレ提督「墓場島鎮守府?」
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* 食堂 *
朧「」ボーゼン
提督「へぇ、一応深海棲艦も飯は食ってんのか」モグモグ
ル級「タマニ魚ヲ捕マエテ食ベルクライハシテルケド、温カイゴハンハ食ベテナイワネ」パク
ル級「……ネエ長門、ソレナアニ?」モギュモギュ
長門「ん? 醤油のことか? これはこの野菜にかけるんだ。おひたしに味はついていないからな」
明石「かけすぎないように注意してくださいね」
ル級「……コノクライ?」チョロッ
長門「そうだな」
ル級「……」パク
ル級「! オイシイ!」パァァ
長門「そうか、それは良かった!」パァァ
明石「良かったですねえ!」パァァ
利根「……」
朝潮「利根さん、どうしました?」
利根「……不思議なものじゃの。敵であるはずの存在と、こうも和気藹々としながら朝餉を取ることになるとは」
朝潮「そう、ですね。朝潮も、こんな日が来るとは思いもしませんでした!」
利根「これがこの島の日常なのじゃな……」
提督「馬ぁ鹿、日常であってたまるかよ。あそこの朧を見てみろ、目え見開いて固まってんじゃねえか」
朧「」コウチョク
利根「違うのか?」
提督「お前は来たばかりだから誤解してるだけだ」
ゾロゾロ
吹雪「おはようございまーす!」
敷波「ごっはんーごっはんー」
潮「あれ? 朧ちゃん固まってるけど何が……?」
電「なにかあったのです……?」
吹雪「なにって……?」
敷波「え……?」
ル級「ン?」モグモグ
吹雪敷波潮電「「「「はわわわわ!?」」」」ビックゥ!
電「て、て、敵戦艦なのです!?」ステーン
吹雪「し、ししし司令官離れてください危ないです!!」ガタガタガタ
潮「うーん……」フラッ
敷波「ちょっ、潮気絶してる!? しっかりしろってばー!」ユッサユッサ
提督「ほれ見ろ、普通こうなる」
利根「……むう」
提督「俺ですら、まさか深海の連中と飯を囲むなんて想像だにしてなかったしな」
ル級「私ダッテ朝ゴハンマデ御馳走シテモラエルナンテ、思ッテナカッタワ」
利根「提督よ、おぬしは本当に驚いておるのか? 厨房におった比叡はまったく驚いておらんかったではないか」
*
比叡「え? 深海棲艦? またご冗談を……ひえー、本物ですか!?」
比叡「それでどうして食堂に……一緒に食事を! そうでしたか!」
ル級「……イイノカ?」
比叡「ええ、どうぞどうぞ! お腹がすくのはみんな一緒なんですね!」ニコー
*
提督「あれの肝っ玉は特別製だ。比較対象にはならねえよ」
明石「ちなみに比叡さんの隣にいた暁ちゃんは絶句してました!」
長門「しかし、現実にこうして交友できているからな。問題なのはこれからだぞ、提督」
提督「ん?」
長門「貴様は、これからル級をどうするつもりだ?」
提督「……どうする、ねえ」
長門「普通、人間なら捕虜として扱うことになるんだが……」
明石「この状況では、拿捕というか鹵獲というか、敵戦艦を捕まえたことになりますからねえ」
ル級「……ソウ、ダナ」
提督「俺は別に捕まえる気はねえよ。好きに出入りしな」
ル級「ハ!?」
提督「お前、これ以上俺たちとやり合う気はあるか? 艦娘と戦う気はあるか? ねえならまた遊びに来いって話だ」
ル級「……」ポカーン
長門「提督よ……普通、こんなことを深海棲艦に言う司令官はいないぞ?」
吹雪「そ、そそそそうですよ司令官!!」
敷波「それ本気で言ってる!?」
潮「お、お、落ち着いて! 落ち着いて深呼吸して!!」ヒッヒッフーーー
明石「潮ちゃんそれ違うよ」
提督「落ち着くのはお前らのほうだろ」
電「さ、さすがにびっくりするのです……大丈夫ですか?」
ル級「……私ハ……」
提督「ま、決められないなら少し考えな。お前の都合もあんだろ?」
ル級「……」
朧「……はっ! い、今、敵戦艦がご飯食べてた気がするんだけど!」
電「朧ちゃん、ちゃんと現実に戻ってくるのです」
提督(思いの外、電が冷静なのは、沈んだ敵も救いたいって考えてたからかねえ)
* 少しだけ時をさかのぼり 某鎮守府 *
「潜水艦どもが全員へばったって? MVP取った奴は別だろう?」
伊8(オレンジ疲労)「……」
「なるほど、ハチだけ元気なのか。じゃあお前、単艦で行ってこい」
伊8「……!」
「補給はお前の分だけ出してやる。他の潜水艦連中に補給を受けさせたいなら、とっとと行け」
伊8「……はい」
* そして一方のオリョール *
「ウハwwwル級イネェwww」
「マジデwwwリアルトンズラwww」
「リダ補充ヨロwww」
「軽巡POP」
「エwwwwww」
「誘ッタ」
「ウハwwwオkwww」
「マジデwwwwwwwwwwwwwwwww」
「オイスー^^」
「ポコタンktkrwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「ル級ガ抜ケテ、アイツラノテンション、オカシクナッテル……」
「大丈夫ナノカ」タラリ
* 墓場島鎮守府 執務室 *
神通「そうですか。戦艦と交流を持てたということですね」
長門「そうだ。捕まえることもせず、ル級は海に帰って行ったが……いいのか?」
提督「いいんだよ。俺にはあいつを拘束する気はねえ」
長門「神通、貴様はどう思う?」
神通「私はル級さんとの交流に賛成です」ニコッ
長門「……!!」
提督「なんだその意外そーな顔は」
長門「す、すまん、そんなにあっさりと賛成すると思わなかったんだ」
提督「神通が以前所属してた鎮守府は、深海棲艦と友好を結ぼうとしていたからな」
長門「それでか。あんまり良い笑顔で言うから面食らってしまった」
神通「あの……そうは言いましたが、私も諸手を挙げて賛成というわけではありません」
神通「疑いたくはありませんが、彼女が私たちを騙している可能性もありますし、それに……」
長門「それに?」
提督「俺が狙われる、ってか?」
神通「……」
長門「狙われる? どういうことだ?」
提督「神通の元いた鎮守府の司令官……F提督は、深海棲艦と友好を結ぼうっていう連中で集まってた」
提督「それをうざったく思った別の海軍連中が、F提督たちを謀殺したんだよ。戦争が終わったら困るって理由でな」
長門「!」
提督「その犯人が、少佐じゃねえか、って言われてる」
長門「本当か!?」
提督「言われてる、っつうだけで証拠はねえ。だが、あいつならやりかねねえだろ」
神通「……私は、ル級さんとの交流は賛成です。ですが、それを表沙汰にすることには反対です」
提督「ま、そうならぁな。いいんじゃねえか、それで。上に報告すんのも面倒だし、馬鹿正直に報告しても厄介ごとは増えそうだ」
提督「ル級だって人間全部と仲良くしようって気はねえだろ。俺たちだけの関係ってことにしちまおうぜ」
長門「なるほど……乙女の秘密というやつだな」
神通「……」
提督「……」
長門「な、なんだお前たち、その顔は!?」
* 東部オリョール海 戦闘海域 *
爆雷<ヒュー…ボボーン
伊8(大破)「くぅ……!」
通信『その海域さえ抜けてしまえば、あとは潜水艦に攻撃できる奴はいない』
通信『そのまま進軍しろ』
伊8「……」
通信『そろそろ次の敵艦隊が見えてくるころだな。適当にやり過ごせ』
伊8「……」
コーン
伊8「……ソナー音……!?」
ヘ級「……」ニヤリ
伊8「て、敵艦隊に……軽巡洋艦発見……!!」
通信『ああ? その海域に軽巡がいるわけないだろう!』
伊8「で、でも……!!」
爆雷<ゴポポポ…
伊8「!!」
ボガボガボガーーン
伊8「あ……!!」ゴボッ
通信『なんだ今の爆発音は! ハチ! 応答しろ!』
伊8「……」ゴボゴボゴボ…
通信『応答しろ! おい! ふざけるな! 応答しろっ!!』
祥鳳「……今、先行していったのは潜水艦でしょうか?」
伊勢「みたいだね。単艦で大丈夫なのかな?」
伊19「潜水艦なら、この海域を抜ければ攻撃される心配はないのね!」
熊野「そうなんですの? でも……わたくしの瑞雲から想定外の連絡が来てましてよ?」
球磨「何かあったクマ?」
熊野「……あの船影……間違いありませんわ。あれは軽巡ヘ級ではありませんこと?」
伊58「ええええ!?」
祥鳳「!! 仕方ありません、軽巡洋艦を優先して攻撃します!」
* オリョール近海 *
ル級「……戻ルニシテモ、ドンナ顔ヲシテ戻レバイイノカシラ……ハァ」
ル級「……!」
ル級「……アレハ……」
海中に沈んでいく伊8「」ゴボゴボゴボッ
ル級「……」
ル級「……」
ル級「……」
ザプン
* 数日後 X提督鎮守府 *
X提督「報告は聞いたよ。オリョールに有り得ないはずの編成の艦隊がいたらしいね?」
通信(W提督)『ああ。伊勢も球磨も目視で確認してる。熊野が瑞雲で映像記録も残してる』
通信『本営に確認したら俺たち以外にもそういう連中と遭遇したって連絡があった。あいつら、気分転換でもしたのか?』
X提督「うちのイクとゴーヤも肝を冷やしたって言っていたよ。祥鳳も真っ先に狙って撃破したって言うし」
通信『……なら、そこで潜水艦娘の船影を確認したこともきいているな?』
通信『熊野が壊れた通信機を見つけてな。調べてみたら、ある鎮守府の潜水艦の持ち物だってことがわかった』
通信『単艦で大破させた艦娘を、進軍させたことは重大な軍規違反だ。二度と艦隊の指揮を執ることはできないだろう』
X提督「その潜水艦娘は……」
通信『残念だが、轟沈したらしい』
X提督「……まだ、艦娘をそんな風に扱うやつらがいるのか……」
通信『戦争だからな。犠牲が出るのは仕方ない』
通信『が、自分の部下を無駄死にさせる無能にだけはなりたくないな』
X提督「……」
* ほぼ同時刻 墓場島 北東の砂浜 *
(伊8が波打ち際で気を失って横たわっている)
如月「この子は潜水艦ね。伊号潜水艦の8さんよ」
ル級「潜水艦!?」
電「わざわざオリョールから、伊8さんを引っ張ってきたのですか?」
ル級「一応、ネ。ココノ鎮守府ノ艦娘ダッタラ、ト思ッタンダケド……」
提督「そうだったか、気を遣わせて悪いな。うちに潜水艦娘はいねえんだ」
提督「つうか、俺も潜水艦娘を見るのは初めてなんだが……」チラ
ル級「?」
電「どうかしたのですか?」
提督「こいつが着てるの、小学校とかで着るような水着だよな……?」
如月「ええ、俗にいうスクール水着よ」
提督「……」
如月「どうしたの司令官?」
提督「えーとなあ……お前らがセーラー服着てるのって、もともとそれが水兵の制服だから、だよな?」
提督「そこまではいいんだが、その延長で潜水艦は学生用の水着がコスチュームってのはどうなんだ?」
如月「え、ええと……」
電「そう言われても……」
提督「ま、確かにお前らに言っても仕方ねえな。悪かった、聞かなかったことにしといてくれ」
ル級「トリアエズ、コノ艦娘ハ、アナタタチトハ無関係ッテコトネ?」
提督「ああ、そうだ」
ル級「ナラ、撃ッテモ構ワナイワネ?」ジャキ
如月「ええっ!?」
電「ま、待ってほしいのです!」
ル級「ナゼ待タナイトイケナイ?」
電「そ、それは……!」
提督「そりゃ寝覚めが悪いからだろ。仮にも自分と同じ艦娘が、お前に撃たれるのを見て平然としていられるほど、こいつらも図太くねえ」
電「し、司令官さんはどうなんです!?」
提督「さあて、俺は判断つかねえな。こいつが延々ル級を苦しめていたっていうのなら、ル級の気持ちが優先されてもいいんじゃねえの」
ル級「ソレナラ、遠慮ハイラナイワネ?」
提督「まあな。ただなあ……」
ル級「?」
提督「こいつ、やけに細くねえか? 目の下にくまもできてる。そんな奴がお前を何度も相手するのかね?」
如月「私も体の細さは気になってたわ。明らかにやつれてる感じだもの」
電「そもそも、オリョールで潜水艦が沈む話は聞いたことがないのです。こんなになること自体、ありえないのです!」
ル級「沈メテアゲレバ、イイノヨ。ソイツハ、生キルコトヲ苦シガッテルンダカラ」
如月「え……?」
提督「……その根拠は」
ル級「ワカルノヨ。ワタシタチニハ」
提督「へえ……こいつの口から訊いてみたいもんだな、その理由」
提督「ル級、しばらくこいつの身を預かる。また明日ここに来てくれるか」
ル級「……」
提督「心配すんな。逃がしたりしねえよ、約束する」
ル級「……ワカッタ。ダガ、約束ヲ違エルヨウナラ、ワカッテイルナ?」
提督「ああ、好きにしな」
如月「……」
電「如月ちゃん、どうしたのです?」
如月「私、そういえば司令官と約束したことなかったわ……羨ましい」ハイライトオフ
電「!?」ゾクッ
ル級(ナ、ナンダコノ悪寒ハ!?)ゾクゾクゾクッ
* 2日後 墓場島鎮守府 入渠ドック *
明石「簡単に言うと、過労ですね」
提督「……艦娘ってのは、そこまで働かせなきゃなんねえもんなのか?」
明石「残念ながら、潜水艦娘の扱いとしてはさほど珍しくないほうですよ。消費資材が少なく、入渠時間も短いからこその運用方法です」
明石「それに、東部オリョール海は資源の宝庫です。資源調達作業ですから、数をこなしてなんぼなんです」
提督「バケツリレーみたいだな」
明石「そんな感じですね。そしてその備蓄は、本営からある一定期間ごとに発令される大規模作戦のために行われることがほとんどです」
明石「そのために、普段から少しでも多くの資源を確保し、大規模作戦の成功のために各鎮守府が躍起になるんですよ」
提督「それを、日頃の深海勢力の討伐もやりながら、か」チラッ
ル級「……」
眠り続ける伊8「」
提督「話は分かった。が、こいつが2日も目を覚まさないのは普通じゃないよな?」
明石「まあ……普通じゃありませんね。体は治りましたけど、それで目を覚ます気配がありませんから、余程のことがあったんだと思います」
提督「……おい、ル級」
ル級「ナニ?」
提督「こいつは生きるのが苦しいとか言ってたな?」
ル級「エエ、ソウヨ。今モ目ヲ覚マシタクナイミタイ」
提督「明石、こいつの体のほうはもう大丈夫なんだな?」
明石「は、はい、衰弱はしていますが、治療及び損傷の修理は終わってます」
提督「そうか。じゃあ明石、こいつ借りてくぞ」ヒョイ
明石「え!? ど、どこに連れていくんですか!?」
提督「砂浜だ。行くぞル級、ついてこい」
明石「提督!? 待ってください!!」
ル級「?」
* 北東の砂浜 *
提督「この辺でいいか」
明石「いったい何をしようと言うんですか! 提督!!」
ル級「人ガ集マッテキタワネ」
ゾロゾロ
古鷹「ほ、本当に敵戦艦と一緒にいるんですね……」
朝雲「明石さん、騒いでるけどなにかあったの?」
由良「あの子、もしかして深海棲艦が連れてきたっていう潜水艦の子?」
利根「……そのようじゃの」
提督「さて、伊8っつったな」
伊8「……」
提督「おい、起きろ」
伊8「……」
提督「起きろよ」ペチペチ
明石「て、提督! 傷病人ですよ!?」
提督「いくらなんでも、ここまで起きねえのはおかしいだろ。ほれ、起きろ!」
伊8「……」ユサユサ
提督「……」
伊8「……」
提督「とっとと起きろやおるああああ!」アイアンクロー
伊8「っぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」メギメギメギメギ
明石「提督なにやってんですかああ!?」ガビーン
古鷹「提督やめてあげてー!?」ガビーン
由良「酷い起こし方しないで!」ガビーン
朝雲「……あれがこの鎮守府の普通じゃないからね?」
利根「う、うむ……」
ル級(本当カシラ……)
伊8「う、ううう、ここは……」
提督「××国××島鎮守府。墓場島鎮守府、と言ったほうが通じるらしいがな」
伊8「……××国……そんなところまで、流されてきたの……?」ボンヤリ
提督「で、随分寝起きが悪かったようだが、お前はこれからどうするんだ」
伊8「……はっちゃん、怪我してたのに……手当、してくれたの?」
明石「はい! ひどい怪我でしたよ?」
伊8「そう……ありがとう。でも、すぐに行かないと……」
提督「どこへ行く」
伊8「オリョールへ……資材を、集めに……」
提督「……お前、本気で言ってるか?」
伊8「……?」フリムキ
提督「お前、本当に元の鎮守府に戻りたいのか?」
伊8「……」
提督「お前の意思で、鎮守府に戻ると、言うんだな?」
伊8「……」コクン
提督「だったらどうして、お前はそんなに怯えてやがる」
伊8「え……?」
提督「気付いてないのか? 足が震えてるぞ」
伊8「……!」カタカタ
提督「どうしてそこまで戻りたがる? そんなにお前の司令官が恋しいのか?」
伊8「……や、やめて……!」ビクビクッ
提督「お前を2日も眠り続けるほどこき使う、お前の司令官はそんなに立派なのか」
伊8「やめて……はっちゃんの提督を、悪く言わないで……!」
提督「……」
伊8「怒られる、から、やめてぇ……」カタカタカタ
提督「……!」
伊8「2日も、休んで……連絡もしないで……」プルプルプル
伊8「……あ、つ、通信機も……ない……ない!」ゴソゴソ
伊8「う、ううう……たくさん、怒られる……!!」ガタガタガタ
伊8「はやく……はやく、もどらないと……ちんじゅふに、もどらないと……っ!!」フラフラ
古鷹「……っ」
朝雲「ね、ねえ、ちょっと、異常じゃない……!?」
明石「行かせちゃ駄目です! 提督、彼女を止めてください!」
提督「……」
伊8「もどらないと……おこられる……!!」
提督「……安心しろ。戻る必要はねえ」ガシッ
伊8「!?」エリクビツカマレ
提督「お前は一度、沈んだんだよ。オリョールでな」
伊8「!? うそ……うそっ!」
提督「轟沈したお前の体の傷は、そこにいる明石が直したんだ」
伊8「はなして……はなしてえ……はっちゃんは、ちんじゅふに、もどるの……!!」バタバタ
提督「……」ハァ
グイッ
伊8「きゃっ!?」ドテッ
提督「おい、ル級」
ル級「ナァニ?」
提督「こいつ撃っていいぞ。好きにしろ」
伊8「!?」
ル級「!」
明石「な、何を言ってるんですか!? 提督!!」
提督「人の話を聞かねえ死にたがりに、手を貸す気はねえ」
提督「こいつは一度沈んでる。戻ったところで解体が関の山だ」
提督「死んだも同然の潜水艦なら、潜水艦に恨みを持ってるル級に撃たせてやったほうがいいじゃねえか」
明石「な……正気ですか!!」
古鷹「」
朝雲(古鷹さんが言葉を失ってる……)
由良「せっかく助かったのに、どうしてそんなことを!」
提督「助かるかもしれない道を自分で潰してるんだぞ。なんで手を差し出す必要がある」
伊8「え? え……!?」
明石「だからと言って、曲がりなりにも一鎮守府を預かる司令官が、そんな判断をしますか!?」
提督「俺は自分の意思があるやつを優先する」
ル級「……」
朝雲「ね、ねえ、利根さん!? 利根さんからも何か言ってよ!」
利根「……」
ル級「……提督」
明石「!」ハッ
ル級「本当ニ、イイノネ?」スッ
提督「ああ」
明石「提督!!」
朝雲「駄目よ!!」
由良「やめてえええ!」
ル級「サヨナラ」ジャキッ
伊8「……ひ……!?」
ドドドドドォン
伊8「あ……!」
ドガドガドガドガァァァン
明石「!! てい……とく……っ!!」ギリッ
古鷹「」
朝雲「ほ、本当に撃たせるなんて……!!」
由良「そんな……」ヘタッ
利根「……」
ル級「……フゥ」
提督「……」
明石「提督!! あなたって人は……!!」
利根「待て」グッ
明石「何をするんですか!!」
利根「提督に食って掛かるより、伊8のもとへ行くべきじゃぞ。まだ間に合うやもしれん」
明石「……っ!」ダッ
由良「と、利根さんは、提督に何も感じないんですか!!」
利根「あの伊8は、元いた鎮守府に戻って、またオリョールを巡るだけの存在に戻ろうとしておる。それは伊8にとっての幸せであろうか」
利根「提督のやり方が良いとは思わぬが、伊8のこれからを考えれば、強引ではあるがこの手段もありかもしれぬと吾輩は思ったのじゃ」
朝雲「い、いや、普通ないでしょ!?」
利根「ならば聞くが、普通とはどういったものを言うのだ?」
朝雲「え? え、ええっと……」
利根「吾輩は、前の鎮守府で『もう殺して欲しい』とまで思ったことがある。それこそおぬしの言う『普通』とはかけ離れておろうが……」
利根「ならば、伊8を取り巻く環境が普通であったかどうか? 何を以てそれを確信できようか……!」
由良「利根さん……」
利根「あの伊8は、今の自分が正しいのかを考える力すら奪われている……吾輩にはそんな風にも見える」
利根「生きていれば、幸せを感じる可能性はある。その通りじゃ……吾輩は、今まさにそれを実感している」
利根「ゆえに、吾輩たちがしなければならないのは、伊8の間違った自己犠牲の精神を正してやることではないのかな?」
朝雲「……」
明石「伊8さん! しっかりしてください……あれ?」
伊8「げほ、げほっ、砂が口に……」
利根「む?」
朝雲「ど、どうしたの?」
明石「い、いえ、その、全然命中してないといいますか……」
由良「ど、どういうこと?」
利根「ル級、おぬし……」
ル級「借リハ返シタワヨ」ウインクー
明石「!!」
提督「なんだと? ……お前はそれでいいのか?」
ル級「ダッテ私、戦艦ダモノ。潜水艦ヘノ攻撃ハデキナイワ」
提督「本当かよ」
明石「……提督」スッ
提督「ん?」
バヂン!
提督「!」ヨロッ
明石「ル級さんですらこうなのに……少しは、人の痛みを思い知ってください!」
由良「良い音」ジトメ
朝雲「そりゃ、ビンタされても仕方ないわよ」ハァ
古鷹「……はっ!? って、提督!? は、鼻血が出てます!!」
提督「つ……気にすんな。歯は折れてねえから安心しろ」ポタポタ
古鷹「顔の左半分が真っ青ですよ!?」
ザッザッ
不知火「司令、こちらにいらっしゃいま……どうしたんですかそのお顔は」ヒキッ
提督「いいから気にすんな」
不知火「そうは仰いますが……砲撃音も聞こえました。いったい何があったん……」ピタ
不知火「……」パチクリ
ル級「?」クビカシゲ
不知火「……」メヲコスリコスリ
不知火「……」
不知火「……司令? 視界に深海棲艦の存在を確認できますが?」クビカシゲ
提督「その話はあとだ。それより、先月の轟沈艦リスト、もらってきてるな?」
不知火「……はい。それとその件で個別にご報告があります」
提督「なんだ?」
不知火「先日、東オリョール海域の敵艦隊の編成に変化がありました」
不知火「平時は編成に戦艦ル級がいる艦隊が、先日に限り軽巡ヘ級へと変わっていたそうです」
明石「!」
由良「ねえ、それってまさか」チラッ
ル級「……私?」
不知火「……」
提督「不知火、続きを頼む」
不知火「は、はい。その結果、大破した状態で進軍を指示された、某鎮守府の潜水艦娘、伊8が轟沈」
不知火「その艦隊を指揮していた鎮守府の司令官は解任となりました」
朝雲「それ、もしかしなくても、だよね」チラッ
古鷹「そういうことでしたか……」
伊8「?」キョトン
提督「やれやれ……」
不知火「あの、凡その見当は付きますが、不知火にもご説明いただけないでしょうか……」
* 医務室 *
明石「伊8さん、落ち着きました?」
伊8「……はい」
古鷹「提督も動かないでくださいね」クスリヌリヌリ
提督「ん」
利根「薬を塗って終わりですむのか、その怪我は」
古鷹「なにもしないよりは良いと思います!」
由良「まあ、専門医もいないし……やむを得ないわよね。ね?」
朝雲「半分は提督の自業自得なところもあるしね」
不知火「それで、申し上げにくいのですが……伊8さんが沈んだ遠因に、ル級さんの出撃ボイコットがあったということですね?」
明石「間違いないでしょうね。ル級さんがこっちに滞在していた時期にも合致するし」
由良「ル級さんが抜けた代わりに軽巡が入ったから、潜水艦が無傷で突破できる海域じゃなくなった……ってことね」
朝雲「結果的に、意図せずして意趣返しに成功しちゃった感じ?」
ル級「ナンカ、釈然トシナイワ……」ムスー
利根「ふむ……それもあるが、伊8に大破進軍を命じた司令官も問題じゃろう。そもそも伊8の轟沈はそれで免れたはずじゃ」
古鷹「ですが、その人は解任されましたし、同じような目に遭う艦娘はいなくなりますよね!」ガーゼペタペタ
提督「そうなるといいがな」
古鷹「あっ、提督動かないでください!」ホータイマキマキ
提督「ん……」
不知火「とりあえず、伊8さんの司令官の解任は決定事項です。新しい司令官が着任予定になっています」
不知火「ただ、その方が前任者同様に潜水艦娘をオリョールへ繰り出すかどうかはわかりません」
古鷹「そうですか……そうでないことを祈るばかりですね」ホータイマキマキ
不知火「あとは、伊8さんの処遇についてですが」
伊8「!」
朝雲「ねえ不知火、さっきの資料見せてもらってもいい?」
不知火「ええ、どうぞ」スッ
朝雲「……由良さんと明石さんは一度轟沈してるんでしたっけ?」
由良「うん」
朝雲「それで鎮守府に引き続き着任できているのは、この島の鎮守府の特例、と」
古鷹「提督はすごい権限をお持ちなんですね!」ホータイマキマキ
提督「ん」
朝雲「じゃあ、もう伊8さんの取るべき針路はもう決まってるじゃない」
由良「そうね、結局そこに行きつくわよね」
明石「そういうわけで、伊8さん」
伊8「……」ビク
明石「あなたの鎮守府にいた司令官は馘になりました。彼はもう二度と艦隊の指揮を執ることはありません」
伊8「……! ほん、とう……?」
明石「はい! あなたの鎮守府の潜水艦娘の処遇も変わると思います! 多分!」
伊8「……そう……そう、なんだ……!」
伊8「もう、あのひとに、怯えなくて……いいんだ……!」ポロポロポロ
明石「ただ、あなたは轟沈したことになりました。元の鎮守府には戻れません」
伊8「! じゃ、じゃあ、はっちゃんは……」
由良「大丈夫、この鎮守府には轟沈した艦娘が着任できる特例があるから!」
明石「そういうわけですから提督!」クルッ
提督「……」ホータイグルグルマキー
伊8由良明石「「「!?」」」
明石「……なにやってんですか提督」
由良「……ミイラ男ごっこ?」
利根「さっきから眺めておったが、古鷹が包帯を巻きすぎただけじゃぞ」
提督「ん」
明石「と、とりあえず、伊8さんの着任は認めてくださいますよね?」
提督「ん……」
由良「あの、ん、じゃわからないんですけど」
提督「んぐぐ」ミブリテブリー
朝雲「……もしかして」ガシッ
朝雲「古鷹さん! こんなに包帯巻いたら提督の顎が動かないでしょ!?」
古鷹「え? 苦しくない程度に固定したんだけど……」
朝雲「固定してどうするの!? これじゃご飯も食べられないじゃない!」ホータイホドキホドキ
古鷹「……はっ!? そういえば!!」
明石「古鷹さんってこんなに抜けてましたっけ?」
由良「ときどきだけど、とぼけてはいるわよね、ね」
利根「朝雲は苦労性なんじゃな……」
伊8「……」
ル級「……」
不知火「……あなたは、これからどうするおつもりですか」
ル級「……サテ、ネ」
不知火「……」
* 夜 提督の私室 *
如月「はい、これで大丈夫ですよ」
提督「悪いな。自分の顔の包帯がこんなに巻きづらいとは思わなかった」
如月「うふふ、悪いだなんて……司令官のお世話でしたら、この如月、いつなんどきでも喜んで承ります」
如月「せっかくですからこのまま朝まで……うふふふふー」ニジリヨリ
提督「お前な……」ハァ
扉<コンコン
利根「利根である。提督よ、夜分にすまないが、いいだろうか」
如月「……いいところだったのに」プクー
提督「いいところじゃねえよ……入っていいぞ」
利根「うむ、失礼する……む? 取り込み中であったか?」
提督「包帯を巻きなおしてもらったとこだ。どうかしたのか」
利根「うむ。ひとつ、確かめておきたいことがあっての……」
如月(利根さん、提督の前まで近づいて行って、何をする気かしら)
利根「……」
提督「?」
利根「せいっ!」ミギストレート
提督「危ねっ!?」バッ
如月「!?」
利根「む……何故避ける?」クビカシゲ
提督「避けるわ馬鹿たれ! なんでお前に殴られなきゃなんねえんだ!」
如月「と、利根さん!? どうして司令官に殴り掛かるの!?」
利根「……おぬしは、明石にビンタされたときには笑っておったではないか」
如月「」シロメ
提督「よく見てやがったな……それはそういう意味じゃねえよ。あん時は殴られても仕方ねえな、って自嘲してただけだ」
利根「そうなのか?」
提督「俺は殴られて喜ぶ趣味はねえぞ。如月もショック受けてんじゃねえか、ほれ戻ってこい」デコツン
如月「はっ!? し、司令官!? 司令官がドMなんて嘘ですよね!?」
提督「知るか、興味ねえから安心しろ」ハァ
利根「……そうであったか。すまないことをした」ペコリ
如月「もう、利根さんったら駄目ですよ? 司令官が大怪我しても、治療できる人がいないんですから」
利根「うむ……重ね重ね申し訳ない」
提督「それよりもだ、なんで俺を殴ろうとした?」
利根「……吾輩は、愛情というものがなんなのか、わからんのじゃ」
如月「??」
利根「前にいた鎮守府のM准将は、吾輩が好きだと言っておった。その反面、吾輩を痛めつけることを喜びとしておった」
利根「吾輩にはどうしても理解できなかった。気に入った相手に苦痛を与える理由も、意味も……」
利根「昼間、おぬしは明石に叩かれて笑っておった。叩いて喜ぶ相手なら、叩く側の気持ちもわかるのだろうか、と……」
提督「……叩く側の気持ちを確かめたかった、ってか」
利根「うむ。しかし、吾輩が提督を殴っていたとしたら、吾輩は途方もない後悔に苛まされておったであろうな」
如月「ね、ねえ司令官? 私たち、まだ利根さんのことはあまり詳しく聞いてないんだけど……」
利根「……話していなかったのか?」
提督「ああ、朝潮にも箝口令を敷いてる。お前がここに馴染む気があるかどうかわからなかったからな」
提督「だがまあ、ありもしねえ噂が立つよりかは、事情を話したほうが良さそうだな」
* *
提督「つうわけで、利根がここに来た理由は以上だ」
利根「……」ウツムキ
如月「……なんてひどい……」グスッ
提督「事情が事情だからな。俺は正直、利根の過去についてはまだ伏せておきたいと思ってる」
提督「見た感じ、利根もここへ来たときよりはましな顔を見せるようになった。少しは立ち直ったと俺は勝手に思ってるんだが、どうだ?」
利根「……そう、じゃな。地下牢にいたころとは雲泥の差だ」
提督「だが、その頃の話を明け透けに話せるほど、利根の気持ちの整理もできちゃあいないと俺は踏んでる」
利根「うむ……」
提督「この鎮守府の連中は、ほぼ全員腹に一物抱えた奴ばかりだ。不可侵条約的な意味で、暗黙の了解を敷いてるところもあるんだが……」
提督「利根の体の傷だけは隠しようがねえ。利根自身が、その傷を見られても大丈夫なのかどうか……」
提督「そして、その傷を見た連中が変な噂を立てたりしないか。そのふたつが心配で、まだ誰にも話をしてねえんだ」
如月「……確かに、事情を知らなければ勘繰ってしまうかもしれないわね」
提督「出撃すれば絶対に中破しないなんてのも無理だろ。入渠ドックならまだしも、風呂は共同で仕切りもないし」
提督「俺の部屋のシャワーを使わせるような特別扱いをすれば違う意味で怪しいとも思うよな?」
如月「それはそうね」
提督「利根自身が、自分のトラウマに向き合う覚悟もしてないうちに俺が背中を押すわけにはいかねえからな。慎重にもなるさ」
利根「……何故じゃ」
提督「ん?」
利根「何故、提督は吾輩にそこまでする?」
提督「……まあ、一応はこの鎮守府の責任者だからな。俺もお前らも、楽に過ごせる環境を作りたいだけさ」
利根「……おぬしは、やさしいんじゃな」
提督「さあて、そりゃどうだかね」プイ
如月「素直じゃないんだから」
提督「俺が伊8にやった仕打ちを考えても、そんなこと言えんのか?」
如月「その伊8さんにも、助けてって言われたら助けてあげるんでしょ?」
提督「……そりゃあな」アタマガリガリ
如月「ほんと、素直じゃないんだから。ふふふっ」
利根「……如月は、提督を信頼しておるんじゃな」
如月「ええ、提督の秘書艦ですもの♪」
利根「……おぬしになら、聞いても良いかもしれん」
如月「?」
利根「おぬしの考える、愛情とは、どういうものなのじゃ?」
如月「! そ、そうね……」カァァ
利根「? 恥ずかしくなるようなものなのか?」
提督「俺はよく知らん」
如月「恥ずかしいっていうか、どきどきはするわね……なんていうか、その人のことを考えると、嬉しくなる、っていうか……」モジモジ
利根「ほう……」
如月「あとは、その人のために何かしてあげたいって思ったり、もっと私を見てもらいたい、って思うようになるわね」キャー
利根「ふぅむ……」
提督「……その話は別に俺の部屋でやらなくてもいいんじゃねえのか」
如月「もう、司令官はここまで言わせておいて白を切るの?」ズイッ
利根「む?」
如月「司令官は、自分のことを過小評価しすぎてるんです」トン
提督「お、おい?」オシタオサレ
如月「そのお顔。本当なら司令官も明石さんもお説教したいところなんですよ? 良い機会ですから言わせていただきますけど」ノシカカリ
如月「司令官? 自分が正しいと思ったことを貫こうとして、危ないとわかりきってる橋を渡るのはやめていただけません?」オオイカブサリ
如月「この際ですから、私が司令官をどのくらい慕っているか、わかってもらわないといけませんね……!」カオチカヅケ
利根「……な、なんじゃ!? 如月、おぬし何をする気じゃ!」ドキドキ
如月「何って……ふふふふっ」
提督「おいきさら……」
如月「司令官は、少し静かにしててくださいね……!」ガシッ
提督「!」
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