私的良スレ書庫
不明な単語は2ch用語を / 要望・削除依頼は掲示板へ。不適切な画像報告もこちらへどうぞ。 / 管理情報はtwitterでログインするとレス評価できます。 登録ユーザには一部の画像が表示されますので、問題のある画像や記述を含むレスに「禁」ボタンを押してください。
元スレ提督「艦娘脅威論?」
SS+ スレッド一覧へ / SS+ とは? / 携帯版 / dat(gz)で取得 / トップメニューみんなの評価 : ○
レスフィルター : (試験中)
c1/7
夏の夕暮れ。
私は桟橋に立っていた。
吹き込む磯の風。揺れるさざなみの音。
オレンジ色の水平線にもう水柱は立たない。遥か遠くから轟いていた爆音も随分前に鳴りを潜めた。
終わったのか……
いや――
低い砲撃音が、鼓膜を震わせた気がした。
あとに残ったのはさざなみの音で……
やがて日が沈み、海が黒く染まった。
私はようやく理解した。これで彼女たちの戦争が終わったのだと。
SSWiki :http://ss.vip2ch.com/jmp/1478343954
夏の夕暮れ。
私は桟橋に立っていた。
吹き込む磯の風。揺れるさざなみの音。
オレンジ色の水平線にもう水柱は立たない。遥か遠くから轟いていた爆音も随分前に鳴りを潜めた。
終わったのか……
いや――
低い砲撃音が、鼓膜を震わせた気がした。
あとに残ったのはさざなみの音で……
やがて日が沈み、海が黒く染まった。
私はようやく理解した。これで彼女たちの戦争が終わったのだと。
SSWiki :http://ss.vip2ch.com/jmp/1478343954
*****
夜。
深夜に近い時間帯。
コンコンと控えめに執務室のドアを叩く音が鳴った。
提督は促した。
提督「入れ」
加賀「失礼します」
提督「加賀か。どうした、こんな時間に?」
加賀「いえ、夜風に当たって涼んでいたら執務室の明かりが見えたので。こんな遅くまで仕事ですか?」
提督「仕事はもう終わったよ。ただ少し、ぼーっとしていた」
加賀「そう」
提督「わざわざ手伝いに来てくれたのか?」
加賀「いいえ。小言の一つでも言ってやろうかと思ってたけど、当てが外れたわ」
提督「うん?」
加賀「今日はもう秘書艦は必要ないなんて言って私を追い出しておきながら、こんな時間まで仕事に追われているようなら、呆れもするでしょう?」
提督「残念だったな。あと30分早く来ていたら、私の尻を叩けたぞ」
加賀「叩くんじゃなくて、蹴っ飛ばしてあげたわ」
提督「おお、怖い怖い」
提督はおどける様に言ったが。
加賀は僅かに不機嫌の色を出しながら、両手を腰に当てて訊いてきた。
加賀「それで、どうするんです?」
提督「どうする、とは?」
加賀「まさか明日も秘書官は必要ないなんて言い張るつもり?」
提督「うーむ、哨戒任務と遠征だけなら私一人でなんとかなると思ったが、想像以上に手間取ったな……」
加賀「当たり前よ。最近は目に見えて出撃頻度が減ってスクランブルも無くなったけれど、だからと言って一人で賄える量じゃないわ」
提督「そうだな。一人でこなせる量になるまでには、もう少し時間が必要だな……」
深海棲艦との戦争もひと段落ついて――
以前に比べ、仕事の量は格段に減った。大本営からの発令される任務は全盛期の4割程度に落ち込み、たまに来る重要な任務と言えば中規模泊地の制圧が精々だ。
普段やることと言えば、もっぱら近海の哨戒か輸送船の護衛、もしくは小規模泊地の制圧ぐらいしかない。
しかし流石にこれを一人で捌くのは無理があったようだ。そのことを認めて言う。
提督「悪いが加賀、明日も秘書官を頼んでいいか?」
加賀「良いも悪いもないわ。それが私の仕事よ。今日だってあなたが余計なことをしなければ、もっと早くに終わったのよ」
提督「それは分かっている。だが一人で捌けるならそれに越したことはないだろう?」
加賀「なら明日は私一人に任せてもらいましょうか。もしかしたら、提督より早く終わるかもしれないわね」
提督「それもありだな。私はそこのソファーで寝転がって、お前の奮闘ぶりをお菓子でも食べながら眺めているとしよう」
加賀「蹴っ飛ばされる覚悟があるならどうぞ」
加賀はいつもの澄ました表情であしらってくるが。
彼女がここに来た理由を知って、提督は礼を言った。
提督「ありがとう。心配して見に来てくれたんだな」
加賀「そういう訳じゃないわ。あなたの仕事の遅れは、シワ寄せとして私たちに回って来るの。早めに対処できるなら、それに越したことは無いだけよ」
もっともな理屈を言ってくる。
しかし、それが彼女の優しさの表れだということは長い付き合いで知っている。
提督(まあそもそも)
と、提督は加賀に視線を向けた。彼女は寝間着姿だった。軍から支給される白く質素なものだ。夜風に当たっていたと言っていたことから、風呂上りなのだろう。しっとりと髪が濡れている。
もし本気で陳情する気ならば、こんな無防備な姿で来ることはあるまい。
提督は嘆息した。
提督「そうか。それは迷惑をかけたな」
加賀「まったくだわ……何を笑ってるの?」
加賀は半眼を向けてきたが、流石に寝間着姿では威圧感も何もない。
なんでもないと、かぶりを振るう。
提督「ともあれ、今日の仕事はもうおしまいだ。また明日からよろしく頼む」
加賀「ええ」
話を切り上げる。
加賀はそのまま退室すると思ったが、そんな素振りも見せず執務室に留まっていた。
提督は首を傾げた。
提督「どうした?」
加賀「あ、いえ。では私はこれで……」
少しだけ歯切れ悪い様子を見せて、ドアノブに手をかける。
その姿を見て、提督は彼女を呼び止めた。
提督「加賀」
加賀「……なにか?」
提督「その……お前が良ければ、少し話をしないか? もし疲れているのなら、断ってくれて全然構わないんだが」
加賀「疲れているのは私じゃなくて、あなたでしょう? でも、そうね……まだ寝るには早い時間だから、少しだけなら話し相手になれます」
提督「よし。なら、ほら。立ってないで座れ。何か飲み物を淹れよう。夜だから確かカフェインの無いものが良いんだったな?」
加賀「ええ。でも私が淹れるので提督は座っていてください」
提督「駄目だ、たまには私にやらせてくれてもいいだろう? いつもはお前たちが勝手に淹れてしまうからな。ほら座った座った」
加賀「……どこに置いてあるか、分かりますか?」
提督「ああ大丈夫だ。任せてくれ」
言って、立ち上がる。
長年居座った執務室だ。流石に何処に何があるのかは分かっている。
提督は目的のものが入った戸棚を開けた。まず初めに紅茶の缶が目に映り――はたと手が止まった。
提督「……」
いつもは艦娘が飲み物を淹れてくれる。だから自分からこの戸棚を空けるのは久しぶりだった。
その紅茶の缶は、提督に強く誇り高い艦娘を思い出させた。彼女はもうここには居ないが、その名残はまだここに残っている。
固まった提督を怪訝に思ったのか、加賀が呼びかけてきた。
加賀「提督……?」
はっとする。
硬直を振り払って、提督は訊ねた。
提督「なんだったか……カモメールだっけ?」
加賀「カモミールです」
提督「そうそうそれだ。それでいいか?」
加賀「はい」
提督はティーカップを加賀に渡して対面へと座った。
彼女はそれを口につけて、味わう様に吐息した。そして、やや間を置いてから切り出してきた。
加賀「レイテ沖の決戦から、もう1年ね」
提督「ああ……長かったか?」
加賀「いえ……過ぎてみれば、あっという間だったわ」
提督「そうだな。私も同じように思っているよ」
加賀はティーカップの中身を見つめながら、遠くを見る眼差しをしている。
恐らくはあの戦いを思い出しているのだろう。
レイテ沖決戦――恐らく後世には歴史の転換点として記録される戦いで、人類と深海棲艦の戦争において最大規模にまで発展した戦い。
多くの艦娘と深海棲艦が海に沈んでいった。それはこの鎮守府も例外ではなく、その戦いで重要な任務を与えられていた提督たちは、鎮守府の過半数以上の艦娘を失う結果になった。
だがその犠牲もあって、人類と深海棲艦の総力戦は人類側の優勢のまま幕を閉じた。それ以降、その力関係は崩れることなく現在まで繋がっている。
加賀が話を続けた。
加賀「最近はどこもかしこも既に戦勝ムードね……」
提督「気が早いというかなんというか。新聞もラジオも、どの情報媒体も人類の快進撃だなんだのと景気のいい言葉ばかりだ」
加賀「まあ……でも実際そうでしょう。深海棲艦はまだ泊地を作るぐらいには勢力を保っているけれど、それも時間の問題よ。ここから形勢をひっくり返す隠し玉があれば話は別だけど、
そんなものがあるとも思えない。私たちはこの戦争に勝つわ」
気負った様子もなく、加賀は事実を口にするようにそう言った。
その様子に、提督は眉を上げた。
提督「珍しいな……慎重なお前が言い切るとは」
加賀「油断してる訳じゃないの。私たちはあの戦いで多大な犠牲を払った。だからこそ決して油断はしないし、勝利を信じてるのよ。暁の水平線の向こうにある、勝利をね」
提督「軍のお偉方も、お前と同じ見通しだよ。彼らの頭の中は既に勝利の向こうにある戦後の事を考えている。この時期に軍縮をはじめるなどと、一体何を考えているのか……」
まだ深海棲艦との戦争も終わっていないというのに、軍上層部は既に軍縮の動きを見せ始めている。
提督の苦言を聞いても、意外なことに加賀はかぶりをふった。
加賀「未来を思い描くのは人類の特権よ。いいことだわ」
提督「私としてはもう少し現状の解決に注力してほしいがね。深海棲艦の脅威は依然としてあるんだ。ここで足元をすくわれては元も子もない」
加賀「私たちが勝つって信じてくれないの?」
提督「信じているさ。ただそれと油断は別物だ」
加賀「けど……どうしても終わりというものはあるでしょう? それを始まりに変えるためには、先の事を考えないとならないわ。だから……」
そこまで口にして、加賀は先の言葉を飲み込んだ。
怪訝に思いつつ、提督は促した。
提督「だから?」
加賀「提督は……どうするつもりですか? 戦後、この戦いが終わった後のことです」
提督「……」
問われて、思う。
つまりは、加賀はこのことを訊きたかったのだろう。
提督とて何も考えていなかった訳ではない。先ほど執務私室でぼーっとしていたのは、そのことに思いを巡らせていたからだ。
だが選択肢はそう多くない。肩をすくめて言う。
提督「軍に残るのが一番安泰だろうな。幸い上からも残留を望まれている」
加賀「……そう」
提督「なんだ、不服そうだな。私が残ると困るのか?」
加賀「そういうわけじゃないけど……提督、貴方には夢は無いの?」
提督「なに?」
加賀「提督の意思で残るのならば、それで良いと思うわ。でも、貴方にもこの戦争のせいで捨てざるを得なかったものがたくさんあるでしょう?」
提督「それは誰にだってあるさ。まさか、この歳でまた夢を追いかけろとでも言うのか?」
加賀「もし取り戻せるものなら、そのことを考慮して欲しいと思ってるんです」
加賀の目が冗談を嫌っているのを察して、提督は目を瞑って少しだけ考えてみた。
沈黙が漂った。気まずくはない。むしろお互い必要以上には口を開かない性質のため、一緒にいる時は静寂のほうが多い。言う。
提督「私が戦災孤児なのは知っているだろう?」
加賀「ええ」
提督「昔から深海棲艦を倒すことだけを夢見てきた。お前たちと同じだ。だから夢と言うのならば、もうすぐ長年の夢が叶うのかもしれないな」
加賀「……」
告げるも、加賀は浮かない表情だ。どうやら望んでいた答えではなかったらしい。
逆に訊ねる。
提督「加賀。そういうお前はどうなんだ?」
加賀「私ですか?」
提督「先日、軍が希望解体者を募集しているという旨を全員に伝えただろう? 廊下の掲示板にも貼り紙を貼ったんだが」
加賀「ええ。見たわ。望めば多額の報奨金と国からの身分・生活保障を受けて退役できるって話ね」
提督「ああ。別に今に今ではなく、終戦宣言の後に解体という話だが……内容は知っての通りだ。少なくとも戦後の生活に不自由はしないだろう」
加賀「大袈裟なぐらい気前の良い待遇に思えたわ。ここまで保障するのかって」
提督「これは内緒だが、正直提督の希望退役より破格に条件が良い。私が艦娘だったなら飛びついたかもしれないな」
加賀「だとしても、あの条件はやり過ぎだと思ったけれど」
提督「まあ、そうだな……これはかなり気の早い話ではあるが、お前たちはこの世界を救った立役者で、世間では英雄扱いだ。軍とてはした金でさよならという訳にはいくまい。望むのなら、正当な報酬として受け取っておけ」
加賀「……」
告げると、加賀は押し黙った。
何かを思うように目を瞑り、切り出してくる。
加賀「提督、そのことなんだけど……」
提督「希望解体の事か?」
加賀「……はい」
うなずくも、加賀は再び言葉を飲み込んだ。
なにやら言いあぐねているようで、なかなか続きを言ってこない。
彼女が悩んでいるのは見て知れた。普段表情を表に出さない分、加賀の表情の変化は意外と分かりやすい。促しておく。
提督「加賀。お前はこの鎮守府の航空戦力の要だ。だから残留しなければならないと思っているのなら、それは無用な心配だからな」
加賀「……そうなの? 普通に考えれば、鎮守府の主力を残すのは当然だと思うのだけれど」
提督「無論、上ではそういった話も上がっている。だが私の裁量に委ねられている部分もある。我々はあの決戦で本当に多くの犠牲を払った。誰がどんな判断をしようと、文句は言わせんさ」
加賀の相棒はもういない。
あの戦いで第一艦隊を率いた赤城は、刺し違える形で敵主力深海棲艦に致命的な一撃を与え、後を加賀達に託した。
第一艦隊は全滅。赤城を守る護衛艦たちもまた、その役割を全うして沈んでいった。長門が率いた第二艦隊も、金剛の率いた第三艦隊も、壊滅と呼んでもいい被害をだした。
結果、人類と深海棲艦の総力戦は人類の勝利に終わった。世界中が歓喜に満ち溢れる中、提督たちは喜びと同じぐらい深い失意に沈むことになった。
ややあって、加賀は諦めたように息をついて訊ねてきた。
加賀「提督はどうしてほしいですか? 特別残留を望む娘がいたりするのですか?」
提督「解体の件に関しては、私は口を挟むつもりはないぞ。お前たち個人の意思で、望むままにすると良い。それを叶えるだけの成果をお前たちは上げているんだ」
加賀「……聞くまでもなく、あなたならそう言うに決まってるわよね」
愚問だったとばかりに、加賀。
提督は眉を上げて言った。
提督「なんだ、私に戦後の事を訊ねておきながら、当の自分は考えていなかったのか?」
加賀「……いえ。そういうわけではないけれど……」
提督「別に詳しく話す必要はない。残留か、否か。それだけでいいんだぞ?」
加賀は眉根を寄せた険しい表情を見せた。
よほど言いにくい事なのだろうか? ともあれ提督は身を乗り出すと、対面に座る彼女にデコピンをした。
加賀は目をぱちくりしたあと、じと目で睨んできた。言ってくる。
加賀「……なにをするの」
提督「まったく、そんな難しい顔をするな。お前がどんな選択をしようと、未来は明るいぞ。退役するのなら、今はどこもかしこも人手不足だ。何にだってなれるし、生活に困ることもない。
軍に残るのならば、今以上の待遇を用意されている」
加賀「……」
提督「気楽に考えれば良い。軍の予測では、終戦宣言が出るまでまだ2年はかかるとのことだ。それまでいろんなものを見て考える余裕がある。決断を急かしたりはしないさ」
加賀は窺う様に訊いてきた。
加賀「提督は……例え私たちがどんな選択をしようとも、それを受け入れてくれますか?」
、
提督「当たり前だ。前線に出て、死と隣り合わせに生きてきたお前たちは、誰よりも幸せになる権利がある。お前たちの意に沿えるよう、私は最善を尽くすつもりだ」
加賀「そう……本当にそうなら、いいのですけど」
加賀は小声でぽつりとそうこぼした。
この言葉の意味を、提督はまだ理解していなかった。
c2/7
しばらくが経ち。
相変わらず深海棲艦との小競り合いは続いているが、世間では大きな変化があった。
復興作業が本格的に行われるようになったのだ。今まで深海棲艦の襲来が多い沿岸地域は簡易的な補修しかされていなかったが、国が制海権を確保したと認定した地域では復興作業の許可がおりた。
提督たちの鎮守府がある街もその地域と見なされ、近々復興作業が始まろうとしている。
そしてそれを祝うために、街では祭りが開催されることになった。元はこの街に根ざしていた祭りで、深海棲艦が現れてからは自粛していたために、実に十数年ぶりの催しになるとのことだった。
長門「着る度に思うんだが、着物と言うものはどうにも動きづらくて敵わんな」
瑞鶴「慣れの問題よ。一度着慣れちゃえば、これほど機能的で動きやすいものはないわ」
長門「かもしれないが、やはり生地が重すぎるのが玉に瑕だな。私はもう少し軽いほうが良い」
瑞鶴「これはお祭用の衣装だからね? まあそうじゃなくても、貴方の普段着に比べれば殆どのものは重くなっちゃうわよ」
長門「ふむ……それもそうか。着慣れたものが一番ということだな」
瑞鶴「今日は戦いに行く訳じゃなくてお祭りに行くんだから、これでいいの」
長門「何を言うか。祭りもまたある種の戦だと聞いた。この長門、何事であれ負けるつもりはないぞ」
瑞鶴「いったい何と戦うのよ……まあ楽しんだもの勝ちってことなら、私だって負けるつもりはないけどねっ!」
浴衣姿の長門と瑞鶴が、浮かれた気分を隠そうともせず談笑している。
そんな様子をじと目で眺めながら、提督は口を開いた。
提督「楽しむのは結構だが……何故執務室に居るんだ。そろそろ出る時間だろう?」
瑞鶴「あら、一人さみしくお留守番の提督さんに、少しでもお祭り気分を味わって欲しいっていう私たちの気持ちが分からない? ほら、どう~? お祭り気分?」
浴衣衣装のまま、瑞鶴はくるりと器用に回って見せた。袖が綺麗に揺れて、遅れてツインテールが靡いた。
からかいに来たのだろう。提督はぐぬぬと唸った。
提督「瑞鶴~……」
瑞鶴「あははっ、ごめん、ごめんってば! 冗談だって」
椅子から腰を上げて詰め寄ろうとすると、瑞鶴は長門の背中に隠れた。
気にした様子もなく、長門が続ける。
長門「提督。私たちだけじゃなくて、皆来るぞ」
提督「何?」
北上「おい~っす」
大井「失礼します」
提督「なんだ、お前たち。まだ行かなくていいのか?」
怪訝に尋ねる。
今日の祭りの主役は、彼女たち艦娘だ。
今回復興作業が行われることになったのは、近海の制海権を確保した彼女たちあってのことなのは言うまでもない。
その感謝と復興を祝う祭りなのだ。前々から主催側とは打ち合わせをしていて、彼女たちは御神輿や軽い演説など、様々な催し物に参加することになっている。
北上は手をひらひらと振って軽い調子で口を開いた。
北上「そんな急かさなくてもまだ時間はあるよ~。大丈夫大丈夫」
提督「そうなのか?」
長門「ああ。時間には十分余裕を持っている。心配ない」
提督「お前がそういうならいいんだが」
提督は鎮守府で待機の為、祭りの段取りや細かな調整は長門に一任してある。
彼女がそう言うのなら間違いないだろう。
北上「それよりどう。これ変じゃない?」
身体を振って浴衣衣装を見せてくる北上。
大井が大袈裟な仕草で頷いた。
大井「ええとっても似合ってますわ北上さん! 花屋に並ぶ花がそこいらの雑草に見えるほど咲き誇ってます! ああ眩しい後光が……」
そう言って、よよよと崩れ落ちるが。
北上は首を傾げた。
北上「どう? 提督」
提督「うむ。変なところは何処にも無い。似合ってるぞ」
北上「そっか。じゃあこれでいいや」
大井「え? ちょっと北上さん? どうして提督に聞くの? 提督より私のほうがよっぽど美的感覚に優れてますよ?」
北上「だって大井っち、私が何着ても大体同じこと言うじゃん」
大井「それは何でも着こなす北上さんがいけないんです! 私はただありのままを答えてるだけです!」
提督「大井も似合っているぞ。髪、後ろに束ねたんだな。いつもと違って新鮮な感じだ」
大井「え? はあ……どうも」
大井はまるで興味が無さそうに目をそむけたが。
北上「提督、分かりにくいだろうけど大井っちのこれ、実は照れてるんだよ。知ってた?」
提督「ああ、お前にそう教えてもらったからな」
北上「よかったね大井っち、褒めてもらって」
大井「北上さんに褒められるのならともかく、提督に言われても私は微塵もうれしくありません!」
北上「またまた~」
大井「なっ!? 本当です!」
大井はきっぱりと言い放ったが、北上はいつもの軽い調子で流すだけだ。
分が悪いと察したのか、大井はあからさまに話を変えてきた。
大井「それよりも……提督は本当にお祭りに来ないんですか?」
提督「ああ。前にも言ったが、これは軍の広報活動の一部でもある。私が出るよりも、お前たちが前に立ったほうが華があるのは言うまでも無いだろう」
彼女達が浴衣姿なのもその為だ。いつもの衣装に艤装をつけた仰々しい装いでは、お祭りに来た民衆を怖がらせてしまう。
それは軍の広報戦略の一環でもあったが、提督も賛成だった。見た目自分たちと変わらない艦娘という存在が、命を張って戦っていることを、より多くの人に知ってもらいたいという気持ちがあった。
瑞鶴が指を顎に当てて考える仕草で言った。
瑞鶴「そうかな? その真っ白い軍服でびしーっと立ってれば問題ないと思うよ?」
長門「うむ。私もそう思うぞ」
提督「そういう問題ではなくてな……。まあ他にも、私はやることが残っているし、そもそも責任者がここを空けるわけにはいかないだろう」
と。
雷「しれいかーん!!」
川内「夜戦だーっ!!」
どっばーんと、執務室の扉が勢いよく開け放たれた。
榛名「ああ駄目ですよ! あんまり急いで走るとまた転んじゃいます!」
加賀「失礼します」
遅れて、榛名と加賀が入って来る。
長門の言う通り、これで全員が執務室に集まったことになる。
雷「じゃーん! どう司令官、この浴衣! 似合う? 似合う?」
唐突に入室してきた雷が、飼い主を見つけた犬みたいな様子で駆け寄って来てその場でくるりと回った。
驚きつつも、口を開く。
提督「あ、ああ。かわいいぞ」
雷「ほんと!? えへへ。私の事、もっともーっと褒めてもいいのよ?」
ふふんと胸を張っている。
そんな雷を両手で押しつぶすようにして、川内が詰め寄ってきた。
川内「そんなことより提督っ! 夜戦! 今日は夜戦だよっ!」
上にのしかかられた雷は重い~!と抗議の声を上げているが。
提督「川内……残念だがまだ午前中だし、今日は夜戦は無い」
川内「あれ~? もしかして知らないの提督? 今日はすっごい大規模な夜戦があるんだよ?」
提督「夜間演習は一週間後だぞ?」
何故か得意げな顔の川内に、事実を突きつける。
川内はかぶりを振って、大袈裟に両手を広げてみせた。
川内「そうじゃなくて夜にでっかい祝砲が上がるんだよ! それも特大の祝砲が何発も! たくさん! これはもう夜戦だよ!!」
提督「……うん?」
加賀「花火の事では……?」
川内「極一部ではそうとも言うね」
そうとしか言わない。
川内の中の夜戦の定義はよく分からなかったが、どうやら花火がものすごく楽しみなのは確かなようだった。
提督は祭りには参加はしないが、主催側と打ち合わせや調整には居合わせていたために、大まかな進行内容は把握している。川内の言う通り、国内でも最大規模の花火を打ち上げるそうで、それが目玉なのだそうだ。
川内から解放された雷が口を開いた。
雷「あーあ、響も来ればよかったのに……」
提督「なんだ、来られないのか?」
雷「うん。哨戒任務があるみたいで、今日は駄目だって」
雷の姉妹艦である響は他の鎮守府にいる。
ここからそう遠く離れた鎮守府ではないために、合同演習の折に何度か顔を合わせたことがある。休日の際は雷は向こうに遊びに行っていたりしているようだ。
提督「なら彼女の分も楽しんで、土産話を聞かせてやると良い」
雷「もちろんそうするわ!」
提督「うむ。いや、というかお前たち、ここへは何しに来たんだ?」
榛名「いえ……提督は今日お祭りに来られないとのことなので、一言言ってから行こうって、みんなで……」
提督「それでわざわざここへ?」
雷「そうよ! 行ってきますの挨拶は大事なんだから!」
提督「そ、そうか……それはなんというか、律儀だな。だが私の事は気にせずともよい。私は私で静かな鎮守府を満喫するつもりだ」
告げて、提督は帽子を目深にかぶりなおした。
その仕草を見て、北上が言った。
北上「大井っち。提督のこれ、実は顔を見られたくないときにするものなんだよ。知ってた?」
大井「ええ北上さん、それはこの鎮守府の艦娘なら誰でも知ってます。よかったですね提督、皆に気にかけてもらって?」
先ほどのお返しとばかりに、にっこりと大井。
瑞鶴「あはは、提督さん照れてる照れてる」
提督「こら、からかうんじゃない」
軽く嘆息してから、提督は言葉を続けた。
提督「ともあれ、流石にこの執務室に全員は窮屈だから、もう行ってこい。
それと……この祭りも広報活動の一部とは言ったが、そんなことは二の字で良い。日々戦っているお前たちの楽しんでいる姿がきっと、民衆にとってなによりの励みになるはずだ。……長門」
長門「ああ分かっている。こちらの事はこの長門が責任をもって行おう。提督は何も心配しなくていい」
榛名「提督、お土産にりんご飴買ってきますね」
川内「じゃあ行ってくるね~!」
それぞれ挨拶を告げて、艦娘たちは執務室を去っていった。
彼女たちの浮かれた様子を見て羽目を外し過ぎないか心配になったが、長門がいるのなら問題ないだろう。
静かになった鎮守府で、提督は一息ついた。
提督「もうこれで私がやる事はないな……後は次代を担う若いもの達が私達軍人が暗くした世の中を明るく未来を夢見れる世界にしてるれるだろう……」
提督「天皇陛下ばんざーーい!」パーン
提督「天皇陛下ばんざーーい!」パーン
*****
夕方になり、仕事が一区切りした。
早めに終わったのは、今日の日の為に調整をしていたためだ。急な案件もない為、取り立てて急ぐようなことも無い。
暇になったため、提督は鎮守府を歩き回ることにした。
提督「当たり前だが……がらんどうだな」
ぐるりと鎮守府を巡って、そう評する。
当たり前といえば当たり前だ。現在この鎮守府はすべての艦娘が出払っているのだから。
制海権は確保しているため、深海棲艦が現れる心配はない。スクランブルがあっても、連絡は別の鎮守府に行くようになっている。鎮守府としての機能を果たしていないが、それでも問題は無いのだ。
最後に工廠に向かう。
かつては活気に溢れていた工廠は、今では耳鳴りがするほどしんと静まり返っていた。
艦娘の希望解体を募ってからしばらくして、大本営は新たな艦娘の建造を禁止した。さらには遠征による資源の採取も原則禁止とした。
戦力が足りない場合や資源が必要な時は、近隣の鎮守府から接収することになっている。これには各方面から苦情が出ているようだが、現状はこの体制でなんとか回っている。そして近々、新たな装備の開発も禁止するとのことだ。
本格的な軍備縮小が、既に始まっているのだ。
提督「早急過ぎるとは思うが……まあ喜ばねばな」
それが散っていた者たちの望みなのだから。
提督はそう自分に言い聞かせ、工廠をあとにした。
門衛「何をしているんです?」
提督「いや、何も」
門衛「はあ……」
しばらくして、正門前にはうろうろと徘徊する提督の姿があった。
見かねた門衛が話しかけてきたが、適当に言う。ちなみに門衛が話しかけてきたのは、これで3回目だ。
提督「今日は祭りだそうだな」
門衛「ええ。近くやってるのでここまで活気が伝わってきますよ。すごい賑わいですね」
提督「人が多いと、何かと物騒なこともある。不審人物は居なかったか?」
門衛「今のところ貴方が一番の不審人物ですが……」
提督「そうか……鎮守府の代表が不審者とは、困ったな」
門衛「はい」
言われても、提督は徘徊を続けた。
門衛が再び遠慮がちに聞いてくる。
門衛「その……暇なんですか?」
提督「良く分かったな……実を言うと時間を持て余している。……遊ぶか?」
門衛「いえ、遊びませんよ……自分は仕事が残ってるので。……ちなみに、遊ぶとしたら何をするんです?」
提督はしばし考えてから言った。
提督「……けんけんぱ?」
門衛「絶対にやりません」
提督「意外に面白かったりするかもしれんぞ」
門衛「大の大人が二人でけんけんぱって、どんな光景ですか。職質必至ですよ。自分だったら間違いなく連行します」
提督「そうか……」
門衛は断固拒否の姿勢を見せた。
提督も冗談で言ったので別に残念ではなかったが。
門衛「もしかして、艦娘の心配をしてるんですか?」
提督「うん? ……いや。あいつらのことだ、心配はしていない。だがこうも時間があると、気にはなる」
素直に認めて言う。
門衛はそうですか……と頷いたが、ややあって含みを持たせた口調で告げてきた。
門衛「自分はこれから休憩に入るので、その間誰が通ろうとも分かりません」
門衛の言わんとすることを察して、提督は言った。
提督「私はそういうつもりでは……」
門衛「……行かないんですか?」
提督は少しだけ考えたが、答えはすぐにでた。
提督「すまない……ありがとう」
門衛「いいんですよ。この街の復興を祝う祭りだっていうなら、本来なら貴方だって参加するべきなんです」
提督「すぐに戻る」
門衛「司令官!」
提督「なんだ?」
呼び止められて、振り返る。
門衛は指をさして
門衛「もしかして、その軍服のまま行くつもりですか?」
そう指摘した。
鎮守府から祭りの場所までは、そう遠くない。
車で行けばすぐだが、停める場所はまず無いだろう。かといって徒歩で行くには少し時間がかかる。だから自転車に乗るのは久しぶりだった。
街中を走りながら、腕時計を見る。
提督「たしかこの時間は、艦娘の演説だったな。もうそろそろ終わりそうだが……せめてそれだけでも聞ければ」
近くの駐輪場に自転車を停める。
演説と言ってもそこまで大仰なものではなく、たしか広場で行われるはずだったのを覚えている。
大通りには屋台が軒を連ねていて、人混みと食べ物の匂いに溢れていた。だが、思っていた以上に人の数が少ない。
その理由はすぐに知れた。向かった広場には檀上が設置されていて、そこでは艦娘が話をしているようだった。まわりは艦娘の話を聞こうとする人でごった返している。
百や二百ではきかない数の聴衆が溢れていて、とてもではないが壇上へは近づけそうもない。
司会「以上、榛名さんからでした。素敵なお言葉をありがとうございました!」
榛名「はい。ありがとうございました」
ぺこりとお辞儀をする榛名の姿が遠目に見えて、一際大きな歓声と拍手が鳴り響いた。
辺りからは様々な声が聞こえた。
「すっごい美人ね~……」
「美しい……ハッとするほど綺麗な人って、本当にいるんだな……なあ今からでも遅くない。俺も艦娘になれないかな?」
「いや無理だろ……何で艦娘なんだよ」
「じゃあ司令官で我慢するからさ……」
「諦めろって」
「お姉さんが亡くなったんだってな。だというのに気丈だ」
「ねえねえ、わたし将来かんむすになりたい! 大砲つけてばーんって敵をやっつけたい!」
「艦娘になるのは、ちょっとムリね。でも彼女たちのように立派な人になることはできるから、がんばろうね」
「うん!」
声を掻き分けて、提督は隙間を見つけては前に進んだ。
しかしすぐに人垣に阻まれて進めなくなる。辛うじて艦娘の顔は見えるからまあいいだろうと、そこで話を聞くことにした。
司会「最後は雷さんです。一言、会場の皆さんにお願いします!」
雷「暁型3番艦、駆逐艦、雷よ! よろしく頼むわねっ!」
「見て見て! あの娘すっごいかわいい! めちゃくちゃちっちゃいわ! きゃ~こっち見て~!」
「あんな小さい子供も、おっかない深海棲艦と戦うのねぇ……」
どうやら雷が締めのようだった。他の艦娘は既に終わってしまったらしい。
最後はてっきり長門が話すのかと思っていたが、違うようだ。
雷「私は、今日このお祭りに参加できたことを誇りに思うわ! そしてみんなにも、同じように誇りに思って欲しいの」
一拍の間を置いて、雷は言った。
雷「みんなも知ってると思うけど……私たちはこの戦争でたくさんの仲間を失ったわ。その中には、私の姉の暁と妹の電もいる」
続く言葉で、色めきだっていた会場はすぐに静まり返った。
構わずに、彼女は口を開いた。
雷「姉の暁は、私を守りながら沈んでいったわ。いつもは頼りないのに、お姉ちゃんだからって、強がって。姉に守られながら、私は敵を討ちとった。
妹の電もそう。一航戦の護衛艦として仲間を守り抜いて、その役割を全うして沈んでいったわ」
雷が言うのは、レイテ沖決戦でのことだ。
あの戦いで、電は身を挺して赤城を守り抜いた。その赤城は敵に致命的な一撃を与え、加賀へと役割を託し沈んでいった。
多くの犠牲のもとに勝利は得られた。だがそれは、生涯離れないであろう痛みを伴うものだった。
雷「ここにいる人もきっと、深海棲艦との戦いでたくさんの大切な人を失ったと思う。私たちの司令官も、戦争で両親を失ってる。
みんなは今日は私たち艦娘が主役だって……それでこの壇上に立ってると思ってるかもしれないけど、それは違うわ。
今、私がここに居るのは、みんなの支えがあったから。たくさんの仲間の犠牲と、あなた達の支援があったから。この復興は、みんなで勝ち取ったものなの」
海軍だけで、鎮守府と艦娘だけで戦争をしているわけではない。
軍を動かすには当然莫大な資本が必要で、それは国民全員が負担しているのは言うまでもない。そして艦娘たちが戦う後方では様々な民間の支援があり、今なおこの戦いを支えている。
この戦争に無関係な人などいないと、雷はそう言いたいのだろう。
彼女は声を上げて締めくくった。
雷「だから、主役は艦娘じゃなくて、私たちみんなだってことを忘れないで! 亡くなった人たちの思いを繋いで、今日ここにいることを誇りに思って!
もう午前中で疲れちゃった人もいるかもしれないけど、まだまだお祭りは続くから、いっぱい楽しまなきゃ駄目よっ!」
しんと静寂の帳が下りて……
遅れて、割れんばかりの歓声が会場を包んだ。
「ちっこいお嬢ちゃん! よう言ったー!」
「騒げ騒げー! 今日はめでたい日だ! 騒ぎまくって深海棲艦の野郎を追い出せー!」
「雷ちゃーん! 結婚してくれー!」
「酒だー! 酒! 酒! 祝杯を持って来ーい! 今日からの復興に乾杯するぞー!」
「胴上げだー!」
「ワッショイ! ワッショイ!」
何故か関係のない人が、胴上げされたりもしていたが。
声援を何処か遠くに聞きながら、提督はここに来られたことを感謝していた。あの門衛には、もう一度礼を言わなければならないだろう。
雷は周りの反応に驚きつつも、恥ずかし気に手を振って応じていたが。
雷「あれ、司令官……?」
ふと、そんなことを口にした。
北上「ん? どこどこ?」
雷のマイクが、近寄ってきた北上の言葉を拾う。
雷はこちらを指さしてきた。
雷「ほら、あそこ」
北上「んー……? あーほんとだ。提督いるじゃん。お~い提督~」
川内「えー、どれどれ? あほんとだ、提督だ。ははあ、さては抜け出してきたなー?」
川内も寄ってきてそう言う。
そのやり取りを司会が目聡く見つけた。
司会「ん? おっと……どうやら彼女たちの司令官さんがお越しくださっていたようですね。せっかくですので、前に出て来て貰いましょうか?」
雷「しれいかーん! ほらこっちよー! おいで~!」
両手をぶんぶんと振りながら、雷。
提督の顔は青ざめた。
壇上からはかなり距離が離れていて、かつ私服だったのに自分を見つけられたことは脅威だったが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
本来自分は鎮守府にいなければならず、ここへはお忍びで来たのだ。だからこそ軍服を脱いで、わざわざ私服に変えた。公に姿を現してはいけないのだ。
「あの娘、なんかここらへん指さしてない?」
「あたし、あの司令官前に見たことあるよ。真っ白いからすぐに分かるよ。ほんと白いからマジで」
「それ軍服でしょ?」
聴衆がざわつくが、壇上からは距離が離れているため、特定は出来ていないようだった。
隙を見て、提督は壇上にいる艦娘に合図を送った。誰かあいつらを止めろと。即興のものだったが、長年共に戦火を潜り抜けてきた仲だ。伝わるはずだ。
が。
長門は神妙にうむと頷くだけで、加賀はふいと顔をそむけた。榛名はにっこり笑って小さく手を振り、大井に至っては、口元を袖で隠してにやにやと笑っている。
間違いなく意味は伝わっているはずだが、どの艦娘も素知らぬ振りをしている。
やばい。提督は逃げることにした。
雷「あ、司令官何処行くのっ!? ちょっとそこの人達、うちの司令官掴まえてっ!!」
「え、どこどこ?」
「ここらへんだって」
「白い人探して白い人」
「俺が……俺が司令官だ!」
「おーい、この人だって! ちょっと道開けてくれ~!」
「はいはい通して通してー! 司令官さんを壇上に通してー!」
「ちょ、通れないって! 無理無理!」
「痛い痛い、押すのやめて! 無理だって!」
「胴上げだ……」
「……え?」
「胴上げだー!」
「ワッショイ! ワッショイ!」
「うわあああ! 艦娘にはなれなかったけど、司令官にはなれたぞー!」
「ほらほら前に送れー!」
「ワッショイ! ワッショイ!」
北上「お~ニセ提督が空を飛んでる」
瑞鶴「ぷっ、うくくく。あははははっ! な、なにあれ!? 加賀さん、あれ見てあれっ! こっちに来るよっ!」
加賀「どうやら新しい提督が着任するようね」
雷「ちがーう! その人は司令官じゃないわ!」
その隙に提督は人混みを抜けて会場をあとにした。
後ろでは、楽しそうな喧噪がいつまでも続いていた。
類似してるかもしれないスレッド
- 提督「……転校?」 (516) - [54%] - 2014/2/16 12:30 ☆
- 提督「艦娘を盗撮する」 (471) - [52%] - 2015/2/4 1:45 ☆
- 提督「艦娘に殺されたい」 (907) - [51%] - 2018/6/10 22:00 ★★★
- 提督「艦娘を幸せにしたい」 (152) - [50%] - 2018/4/17 7:30 ○
- 提督「墓場島鎮守府?」 (985) - [49%] - 2018/6/23 22:15 ★
- 提督「艦娘とスイーツと」 (827) - [48%] - 2015/3/2 16:00 ☆
- 提督「え、鬼ごっこ?」 (185) - [46%] - 2015/5/25 16:30 ☆
トップメニューへ / →のくす牧場書庫について