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元スレ提督「墓場島鎮守府?」
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* 同時刻、鎮守府内の廊下 *
利根改二「今日の演習はえらく早く終わってしまったな。相手も潜水艦単艦でどうするつもりだったんじゃ?」
利根改二「せっかく早く終わったというのに、M提督はどこへ行ったのやら……偵察機を飛ばしても見つからぬというのは異常事態じゃぞ」
利根改二「はっ! もしや吾輩に黙って余所の女と逢引きなんぞ……」
利根改二「……」ポクポクポク チーン
利根改二「ありえんな!」ドヤッ
利根改二「……冗談はさておき、あの男は本当にどこへ行ったんじゃ。演習後じゃというのに歩き回ってへとへとだぞ」
利根改二「最近多いのう。席を外しておったかと思えば、いつの間にやら執務室に戻っておるし……」
利根改二「……ん?」
利根改二「なんじゃこの風は? どこから吹いておる?」
艦娘「利根さーん! 提督、見ませんでした?」
利根改二「! おお、おぬしか。いや、吾輩も探しておるんじゃが……」
艦娘「? どうかしたんですか?」
利根改二「うむ、どうもここの壁に隙間ができておるようでの。少し気になったのじゃ」ゴンゴン
艦娘「あれ……?」
利根改二「うむ……」ガンガン
艦娘「利根さん……!」
利根改二「こっちとそっちで音が違うのう。壁が別物なのか?」ゴンゴン
艦娘「多分ですけど、この壁の向こう側は空洞になってませんか?」
利根改二「否、ここはただの壁のはずじゃぞ。しかし確かにこの音は……」
艦娘「利根さん、音が違うのはここまでみたいです!」ゴンゴン
利根改二「この壁の向こうに何があるというんじゃ……?」
* 地下室 *
(赤々と燃え盛る炉の中に単装砲の砲身が刺さっている)
M准将「……」グイッ
(厚手の皮手袋を付けたM准将が単装砲を炉から引き抜くと)
(真っ赤に熱せられた砲身の先端の周囲が陽炎のように揺らめいている)
M准将「……」
M准将「綺麗なままにしたかったから、こういうことはしたくなかったんだがな」クルッ
M准将「……利根」ニコ
利根「……!」ビクッ
M准将「これはさすがに無視できないよな?」
利根「……」
M准将「ふふ、震えているようだな。そんなに寒いのなら……ほら」
利根「……!」ズザッ
M准将「逃げなくてもいいだろう。君が連れないからこうなったんだ」ズイ
利根「……あ、ああ」ジリ
M准将「ああ、声が聞けた。いいな、その怯えて掠れた声」ニィ
(M准将が壁にあるレバーを引くと、利根を拘束する鎖が巻き取られる)
利根「!」グイッ
M准将「ほら、逃げるんじゃない……こっちへおいで」
利根「……っ! っ!!」ブンブンッ
M准将「首を振っても何にもならないぞ? 往生際が悪い……ふふふ」
利根(……)
利根(もはや、何をしても無駄じゃ……吾輩が足掻けば足掻くほど、この男は悦ぶ……!)
利根(もう、嫌じゃ……やめてくれ……いっそ、一思いに……!)
ジュッ
利根「ぎっ……!!」
M准将「……そうだ。それでいい」
ジュゥウ…
利根「あ、っが……あああ!!」
M准将「いい調子だぞ……そらっ!」グリッ
ジュウウウウ!!
利根「ぎ……!!!」
利根「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!!!」
利根「あ……が……」ガクン ブクブクブク…
M准将「……いい声だ……それに」
M准将「いいにおいだ。どうして今まで気付かなかったんだ……ふふふ」
* 廊下 *
利根改二「ふぅむ……よくわからんな」ゴンゴンゴン
艦娘「この鎮守府の間取りはどうなってるんでしょう?」
利根改二「この城砦をM准将が見つけて海軍で買い取った時に手に入れているはずじゃが……」
艦娘「欠陥工事だったらまずいですね」
利根改二「うむ……!?」ピク
艦娘「? どうしました?」
利根改二「……壁の中から悲鳴が聞こえた」
艦娘「誰かいるんですか!?」
利根改二「わからぬ。じゃが、声はずっと下のほうから響いて聞こえてきたぞ」
艦娘「下!?」
利根改二「……この壁……なにかあるのか!」グッ
利根改二「むんっ……!」グググッ
艦娘「!!」
利根改二「……動いたぞ……やはりなにかある!」グググッ
艦娘「利根さん危ないです!」ガシ
利根改二「むう、壁の向こうは落とし穴か!?」
艦娘「この壁、回転扉みたいですね……」
利根改二「穴も深そうじゃの……たしか、倉庫に縄梯子があったはずじゃな」
艦娘「入るんですか!?」
利根改二「悲鳴が聞こえたからには、放っておくわけにもいかん。梯子と探照灯を準備せよ、急げ!」
* 地下室 *
バケツ< バシャァ!
利根「……げほっ……えほ……」
M准将「起きたかな?」
利根「……」ビクッ
M准将「……さ、続きだ」ニタッ
利根「……も……」
利根「もう、嫌じゃ……!!」ポロッ
利根「吾輩は……もう……いい……!!」ポロポロポロ
利根「もう、殺せ! 殺すのじゃ!!」グワッ
利根「これ以上、甚振られるのは……もう……」
M准将「……わかった。そうしよう」
M准将「俺も、お前がどんな味がするのか、気になったんだ」
利根「」ビク
M准将「……お前の肉の焦げるにおいが、俺の理性を奪ったんだ」
M准将「心を失ったふりをし続けたお前が招いた結果だ」
M准将「心配しなくていい。綺麗に食べてやるからな……!」
利根「あ……」
利根「ああああ……!」
利根「嫌じゃ……嫌じゃああ……来るな、来るなあああああ!!」
M准将「……」ズイ
ジュゥ…
利根「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
ドゴォォン!!
M准将「!?」
パラパラパラ…
利根改二「けほっ……なんじゃこの部屋は……」
M准将「利……根……?」
利根改二「……M准将!? おぬし、ここでいったい何をして……お……」
M准将「……」
利根改二「……る……」
M准将「……」ウツムキ
利根改二「……」パクパク
利根改二「……な……」
利根改二「……なんじゃ、ここは……」ワナワナ
利根改二「これは……なんなのじゃ」
利根改二「……」
M准将「……」
利根改二「……おぬしは……」
利根改二「……おぬしは、誰なのじゃ?」
M准将「……!」
利根改二「答えよ! おぬしは誰じゃ!!」ジャキッ
M准将「……」
利根改二「答えろ!!」ワナワナワナ
M准将「……執務室で、全部話そう」スッ
利根改二「逃げるか! 待て!!」
利根「……あ……」ピクピク
利根改二「!! お、おぬしはまだ生きておるのか!? なんと酷い……」
利根改二「何故じゃ……何故吾輩と同じ艦娘に、こんなことを……!!」
利根改二「何故じゃあ……!!」
* それからしばらくして 執務室前廊下 *
艦娘「利根さん、地下室にいた利根さんは修理ドックに入居させました」
利根改二「うむ。どんな様子であった?」
艦娘「ずっと気を失ったままです……」
利根改二「……そうか」
艦娘「あの、利根さん……あんな酷い火傷、准将がつけたなんて信じられません」グスッ
利根改二「……吾輩もだ。提督は、いつの間にか別人にすり替わっていたのかもしれん」
利根改二「おぬしはここに控えておれ。何かあれば即刻この場から逃げて皆に知らせよ」
艦娘「……はい!」
利根改二「さて……」
トントントン
M准将「入ってくれ」
利根改二「……」ギィ… バタム
艦娘「利根さん……」
* 執務室 *
利根改二「……M提督よ」
M准将「来たか」ニコ
利根改二「今のおぬしはジキルか? それともハイドか?」
M准将「……なるほど、俺を多重人格と疑ってるわけか」
利根改二「……」
M准将「まずはこれを見てくれ。よっ……と」ガチャ
利根改二「本棚の裏に隠し階段じゃと……!」
M准将「さっきの地下室につながっている」
利根改二「……」
M准将「利根。お前は信じたくないだろうが、これから俺はお前に全部話そう」
* *
利根改二「全部おぬしがやったと認めるのか」
M准将「認める」
利根改二「……」
M准将「……」
利根改二「……吾輩はおぬしを信頼しておったのだぞ」
M准将「……」
利根改二「何故、こんなことをした」
利根改二「何故……吾輩を裏切った!」
M准将「それは違う。俺はお前を裏切ったつもりはない」
利根改二「どの口が言うか!」
M准将「俺は『お前』を裏切ってはいない。俺は最初からこうだった」
利根改二「……」
M准将「俺は、徹頭徹尾、お前が好きだということは変わっていないし、お前を大事にしたいという気持ちは変わっていない」
利根改二「……」
M准将「俺にとってあの部屋は、ベッドの下に隠したエロ本みたいなもんだ」
利根改二「なにを……詭弁じゃ、そんなものと同列に……!」
M准将「その本の中身が、他人が耐えられる内容かどうか。その程度の違いだよ」
M准将「俺は俺が狂っていることを理解している。だから、大がかりな仕掛けを作って、見つからないようにしていた」
M准将「俺はお前のすべてを知りたかった。お前を見たくてあの部屋を作った。お前の代わりだけを飾るようにした」
M准将「だからお前をあそこに飾るつもりはなかったし、この秘密はお前にだけは知られたくなかった」
M准将「知られればどうなるか理解っていた。絶対に許されるはずがないからな」ウツムキ
利根改二「……何故吾輩は、飾られなかったのじゃ」
M准将「お前は俺の最初の利根だからだ。一目惚れだったからな」
M准将「それが、二人も三人も現れても見ろ。俺じゃなければ、ハーレムを作るやつだって出てくるはずだ」
利根改二「ならばもし、吾輩が二人目だったとしたら、吾輩もあの部屋に飾られていたのか」
M准将「三人目くらいまでは、余所の鎮守府に送っていたよ。それ以降だったら有り得たかもしれないな」
利根改二「ならば、もし……」
利根改二「もし、利根が吾輩以外にいなければ、吾輩を……切り刻んでいたと思うか?」
M准将「いや。それはしなかっただろう」
M准将「お前は俺が愛情を注ぐべき相手だ。歪んだ欲望をぶちまける相手じゃない」
M准将「お前の、代わりが存在した。それが、俺が一線を越えた理由……なんだろうな」
利根改二「……」
M准将「……利根。すまなかった」
M准将「お前を好いた男が、こんな男で……」
利根改二「……」
M准将「特警を呼んでくれ。始末をつけよう」
* * *
* *
*
* 現在 墓場島鎮守府 執務室 *
提督「……」
利根改二「……その後M准将は、地下室の彼女たちを供養するために、特警同伴で溶鉱炉へ彼女たちを運び込んで……」
利根改二「一人投げ込んでは手を合わせるのを繰り返し……最後に自らも溶鉱炉へ飛び込んで命を絶った」
利根改二「今の俺は利根の前に存在して良い人間じゃない、と言い残してな」
提督「……」
利根改二「……それが、吾輩の鎮守府で起こったことの顛末じゃ」
提督「……いろいろ理解できねえよ。自分が殺した相手と心中したってことじゃねえか」
提督「もしかしてあれか? 好きな相手にちょっかい出すタイプの悪質なやつか?」
利根改二「かもしれぬな。吾輩は嫌がらせらしい嫌がらせは一度も受けておらんが……」
提督「とにかくだ。あの利根は、M准将から拷問じみた仕打ちを受けたのはわかった」
提督「お前はあいつにどうなって欲しいんだ」
利根改二「……できれば、立ち直ってもらいたい。でなくば、せめて穏やかな余生を過ごして欲しい」
提督「……」
利根改二「吾輩がやれと言うかもしれぬが、吾輩はあの利根に姿を見せないほうが良いと思っておる」
利根改二「同じ利根とはいえ、司令官の寵愛を一身に受けた身じゃ。彼女にとってはトラウマ以外の何物でもなかろう」
利根改二「吾輩には、彼女をどうこうする資格はない。吾輩がこれ以上彼女の未来に口をはさむこと自体許されまい」
提督「……かもな」
利根改二「彼女の引き取り先を方々に求めたが、練度も上がっておらぬ彼女を引き取ってもらえる鎮守府はここしかなかった」
利根改二「重ね重ね、どうか彼女をよろしくお願いしたい」ペコリ
提督「……まあ、本人次第だがな」
提督「で、お前はどうすんだ」
利根改二「……まだ、決めておらぬ」
提督「そうか。ま、好きにしな。俺もお前の行先をどうこう言える身分じゃあねえ」
利根改二「……吾輩も、あの男と同じ所へ行くべきなのかのう」
提督「ちっ……だったら好きにしろよ。俺は死にたい奴の面倒は見ねえぞ」ガタッ
利根改二「! どこへ行くんじゃ」
提督「向こうの利根の顔を見に行く」
トントントン
朝潮「失礼致します! 利根さんをお部屋に案内しました!」ガチャ
提督「おう、ご苦労さん。朝潮、客人の帰りの案内も頼むぜ」
朝潮「は、はい! 承知しまし……ええ!? どうして利根さんがここに!?」ギョッ
利根改二「……」
* 利根の部屋 *
車椅子から立ち上がって窓の外を見ている利根「……」
コンコン
提督「入るぞ」ガチャ
朝潮「ま、まだ返事がありませんよ!?」
提督「んなもん待ってられっか。ん、立って歩けるのか?」
利根「……」
提督「まあいい。俺はこの鎮守府の提督准尉だ」
朝潮「駆逐艦、朝潮です!」ビシッ
利根「……」
朝潮(……なんといいますか……)
朝潮(ここまで生気のない瞳をした人は、見たことがありません……)ゾク
提督「重巡洋艦、利根だな?」
利根「……吾輩に何の用じゃ」ジッ
提督「本日付でお前はこの鎮守府の配属となった」
利根「……」
提督「今後はこの鎮守府のルールに従って生活してもらう。ま、基本、この鎮守府のほかの艦娘の迷惑にならなきゃ、何をしてもいい」
利根「……」
朝潮「あ、あの、司令官……」
提督「ん?」
朝潮「利根さんは、ちゃんと聞いてくださってるんでしょうか……」
提督「多分な。聞いてねえならもう一回言って聞かせりゃあいい」
利根「……提督よ」
提督「ん? なんだ」
利根「あの利根は……あの秘書艦は、何故吾輩を避けておる」
利根「彼女は吾輩の命の恩人……なのに、何故じゃ?」
提督「……さあな。多分、お前に後ろめたいんだろ」
利根「後ろめたい……?」
提督「お前を酷い目に遭わせた男が好いた相手だ。お前とは話しづらいんだろうよ」
利根「……だが、奴は吾輩のことを好きだと言っておったぞ」
提督「……」
利根「あの利根は、違うのか……?」
提督「……俺に訊くなよ。人の好いた惚れたは俺の知ったこっちゃねえ」
利根「……そうか。おそらく、違うのだろうな」シュル
利根「でなくば……」パサ
朝潮「と、利根さん!? どうして服を脱……!」
利根「このような傷を付けられたのも吾輩だけなのだろうな」クルッ
朝潮「……っっ!!!」
提督「……!」
朝潮「と、と……利根さん……っ!! そのお怪我は……火傷の傷痕は!」
利根「……あの男に付けられたのじゃ」
朝潮「そんな……そんなっ!!」ワナワナ
利根「……提督よ。なんじゃその顔は。まるで鬼神か夜叉のようだぞ?」
提督「ああ? そんなことができる屑が存在していたと思うと、さっきから怒りしか沸いてこねえんだよ、くそが!」
利根「吾輩を解体せんのか?」
提督「なんでそんなことをしなくちゃいけねえんだ」
利根「……好きにしろと言うのであろう。ならば、吾輩を解体すれば良い」
提督「それなら一つ言い忘れていた。俺は自殺の手伝いはしねえ。死にたきゃ勝手にその辺で自沈しろ」
朝潮「し、司令官!?」
利根「……なんじゃ、吾輩もあの者たちと一緒に行けるかと思っておったのにな……」ウツムキ
朝潮「と、利根さんまで!?」
提督「なら、これ以上話すことはねえな。あとは勝手にしろ」クルッ スタスタ
朝潮「司令官! 司令官っ!!」オロオロ
利根「……」
朝潮「あ、あの、利根さん! 朝潮は、自沈してはいけないと思います!」
利根「……何故じゃ?」
朝潮「う、うまく言えませんが、今まで不幸せだったとしたら、これから幸せになるかもしれません!」
利根「……」
朝潮「あの、朝潮も、轟沈してこの島に流れ着いてきました!」
朝潮「ここの司令官……提督准尉は、物言いこそ霞と同じくらいきついですが、思いやりのある方です!」
朝潮「少しの間でも良いので、どうか思い留まっていただけないでしょうか……!」
利根「……」
朝潮「お願い致します!」ペコッ
利根「……うむ……」
朝潮「ほ、本当ですか! ありがとうございます!」
朝潮「で、では朝潮は執務に戻ります! 失礼致します!」ビシッ
朝潮「司令官! お待たせ致しました! しれいかーん!」タタタタッ
利根「……そういう意味での返事ではないんだが」
利根「……」
* 夜明け前 鎮守府埠頭 *
ザザーン
利根「……海、か……」フラフラ
(鎮守府埠頭を見渡せる高台で双眼鏡を構える提督と長門)
長門「大丈夫なのか。一人で海に出して」
提督「さあてな。鎮守府に向かって砲撃するような真似さえしなけりゃ、あとは野となれ山となれだ」
長門「貴様はどこまで人任せなんだ……」
提督「医者も言うだろ。本人が病気を治す気がないなら治るものも治らねえって」
長門「まったく、ああ言えばこう言う……」
提督「見ろ……利根が海に出るぞ」
長門「!」
利根「……」チャプ
利根「……」ザァァ…
利根「これが海か……」
利根「波は穏やか、風もない」
利根「空には満月……か。これなら偵察機も飛ばせそうじゃな」
ガシャッ
ブィー…ン
利根「……」
利根「……」
利根「……」ポロポロッ
利根「吾輩は……」
利根「吾輩は幸せ者じゃの……」
利根「あやつらも、海に出たかっただろうに……」
利根「本当に、たまたまなのじゃな」
利根「たまたま、あの利根が選ばれて……たまたま、そのあとに吾輩たちが着任した」
利根「ははは……なんということじゃ」
利根「さっきまで、あれほど死にたがっていたのに……」
利根「吾輩は、喜んでおる……海に出られることに、幸せを感じておる」
利根「吾輩は、やはり艦娘なのじゃな……」
利根「ああ……吾輩は、どうしたらよいのじゃ……」
利根「……」
利根「……?」
提督「月夜とはいえ、夜中に艦載機飛ばしてんのか」
長門「おい、利根が何かを見つけたようだぞ」
提督「むこうは……砂浜か。俺たちも行ってみるか」
タタタッ
朝潮「司令官!」
提督「朝潮? どうしたこんな時間に」
朝潮「砂浜から深海棲艦の微弱な反応がありましたので、ご報告に参りました!」
長門「なに!?」
提督「ったく、次から次と……面倒なことになりそうだ」
* 北東の砂浜 *
利根「……なんと……」
(砂浜に数人の艦娘の遺体が流れ着いている)
利根「……この島も地獄であったというのか……」
提督「よう。幻滅したか?」
利根「! 提督か」
提督「この島にはな、こうやって轟沈した艦娘がよく流れ着いてくるんだよ」
利根「……よくあることなのか?」
提督「まあ、少なくはねえな」
利根「……こやつも、その犠牲者なのだな?」
提督「ああ……ん? なんだこいつ? 見たことねえタイプだな?」
長門「! ば、馬鹿! 近づくな!!」グイッ
提督「うお!? な、何しやがる!」
朝潮「司令官、早く避難しましょう! 利根さんも!」
提督「あ? 何言ってんだお前ら……」
長門「近づくなと言っているだろう! こいつは……」
??「……」
長門「こいつは深海棲艦!」
??「……!」パチリ
長門「戦艦ル級だ!!」
ル級「……」ムクリ
ル級「……」スクッ
長門「提督、朝潮と利根を連れて早く逃げろ! 重巡以上の艦娘を集めてくるんだ!」
朝潮「いけません! 朝潮、この場は長門さんに助太刀します! 利根さんは提督とともに避難を!」
ル級「……」ジッ
利根「……?」
ル級「……」ジッ
長門「む……!」
ル級「……」ジッ
朝潮「……!」
ル級「……」ジッ
提督「……なんだ? 俺たちの顔を見てやがんのか?」
ル級「……(無言で長門を指さし)」スッ
長門「!」
ル級「……(次に海を指さし)」スッ
朝潮「こ、これは……」
長門「私を御指名ということか……面白い」
ル級「……」クルッ
ザァァァ…
朝潮「……深海棲艦が、私たちに背を向けて海へ……!?」
長門「あのル級が何を企んでいるのかはわからんが……この長門との殴り合いを望むと言うのなら、受けて立とう!」ザァッ
朝潮「あ、長門さん!!」
提督「……とりあえず、俺たちはどうすりゃいいんだ?」
利根「……」
朝潮「え、ええと……」
* 沖合 *
ル級「……」ガシャン
長門「……」ガシャッ
朝潮「長門さんもル級も、艤装を展開して睨み合ったまま動きませんね……」
提督「マジで決闘かよ……おい、朝潮」
朝潮「はい!」
提督「あの2隻の間に一発撃って水柱たててやれ」
朝潮「は、はい!? わ、わかりました!」ジャキッ
ドーン
ヒューーー
ル級「……」
長門「……」
ボチャーン
ル級「!」キッ!
長門「!」クワッ!
ル級「……ッ!」ドガガガガン!
長門「てぇぇ!」ズドドドドン!
ドドドドーン!!
提督「……派手だな」
朝潮「な、なんで二人とも、原速のまま回避しないんですか!?」
提督「……まあ、見ていようぜ」
ル級(中破)「……ッ!」ガンガンガン!
長門(中破)「ハァァ!」ドンドンドン!
ドカーンボカーン
朝潮「……」アゼン
提督「なかなか壮絶だな」
利根「……」
提督「どうした利根。怖いのか」
利根「……否」
提督「なら、お前も戦いたいのか」
利根「……わからぬ」
シーン
朝潮「砲撃が……やみましたね……」
提督「……」
長門(中破)「……く……」ボロッ
ル級(大破)「……ハァ、ハァ……」ボロッ
提督「こりゃあ、長門の勝ちか?」
朝潮「……はい。おそらくは……」
ル級「……ハ、ハ……フフフ、フハハハハ」
長門「!?」
ル級「……ハハハハ、アハハハハハハ!!」
ル級「アッハハハハハ!!」ゲラゲラ
提督「おい朝潮、あの深海棲艦、何で笑ってやがるんだ?」
朝潮「わ、わかりません……!」
長門「……貴様……」
ル級「ハハハハ……ハハ……ッ、ア、アアア……」
ル級「アアア……ウァァ……グスッ、ウウウウ……!!」
長門「!?」
ル級「ウワァァアアアアン!!」ポロポロポロ
長門「……」アッケ
提督「おい朝潮……あの深海棲艦、泣き叫んでねえか?」
朝潮「そ、そうですね……」
提督「なんでだ?」
朝潮「わ、わかりません!」
利根「……なにがあったんじゃ」
ル級「ウワァァァン! グス、ビエエエエエエン!」ナミダジョバーーー
長門「お、おい、貴様!? なんだ! なにがあった!? そ、そんなに痛かったのか!?」オロオロ
提督「わけわかんねえ……朝潮、明石呼んでこい。あとバケツふたつな」
朝潮「は、はい! わかりま……ふたつですか!?」
提督「まあ、敵に塩を送るのも悪くねえだろ」
利根「……やはり吾輩は夢でも見ているのかのう……」
提督「現実逃避すんな」デコピン
利根「あだッ!?」ベシッ
提督「おし、夢じゃねえな。長門、そのル級連れて戻ってこい」
利根「……吾輩で夢かどうかを確かめた……じゃと!?」シロメ
* 利根が鎮守府にやってくる少し前 *
* 某鎮守府 *
「オリョクルはもういやでち!」
「とっとと行って来い」
「オリョクルはもういやでち!!」
「いいから行け」
「オリョクルはもういやでち!!!」
「出撃」ポチッ
「あああああああああああああああああああ!!」
* 本営 *
「ってことが今朝あってなあ」
「ああ、うちもだ。いい加減聞き飽きたな」
「あいつらは黙ってオリョール回してりゃあいいんだよ。疲れたとか言ってんじゃねえっつうの」
「! お、おい」
「あん?」
伊58(スカート・革靴装備)「……」ジロリ
伊19(制服・スカート・革靴装備)「……」ギロリ
「ちっ、どこの鎮守府の潜水艦だよ、紛らわしい恰好しやがって」
「見世物じゃねーぞ。散った散った!」シッシッ
W提督「僕の部下がどうかしましたか?」
「げっ! W提督!? い、いえ、なんでもありません!」
「おい、なんでこんなガキにぺこぺこしてんだよ」
「馬鹿! 大将の甥御さんだ!」
「はぁ!?」
「し、失礼いたしました! ほら、行くぞ!」
「……ちっ」
W提督「……やれやれ」ハァ
伊58「ゴーヤたちをこき使ってるから出撃できてるのに!」
伊19「まったく失礼しちゃうの!」
X提督「ほらほら、二人とも怒らないで。あんまり僕から離れちゃだめだよ?」
伊58&19「「はーい!」なの!」
伊58「でもでも提督? ああいう人たちが艦娘を無下に扱う典型的な例だと思わない?」
X提督「今日の議題の話かい?」
伊19「気に入った艦娘を殺して飾る……まるでセイキマツホラー! 蝋人形の館なのね! 怖いのね!!」
X提督「そうだね……悲しい事件だ。まあ、そんなことがあったからこそ、今日呼ばれて啓蒙活動するって話だからね」
W提督「……よう」
X提督「あ、W! 久しぶりだね」
W提督「ああ、飲み会やらなくなって以来だな。Xも元気そうでなによりだ」
球磨「W提督、こっちの子は誰だクマ?」
W提督「ん、俺の同期のW提督だ」
熊野「あら、随分可愛らしい方でいらっしゃいますわね?」
W提督「言ってやるな、こいつ自分の見た目を気にしてんだから。紹介する、俺の部下の軽巡球磨と航巡熊野だ」
球磨「よろしくだクマー」
熊野「ごきげんよう、熊野ですわ」
X提督「うん、よろしく。この二人は僕の部下、伊号潜水艦のゴーヤとイクだよ」
伊58「ゴーヤだよ!」
伊19「イクなのね!」
W提督「おう、よろしくな」
球磨「球磨の知ってる潜水艦と服が違うクマ。駆逐艦みたいな恰好してるクマ-?」
熊野「あの、失礼ですけれど、潜水艦のお二人はそんなお洋服持ってましたかしら?」
伊58「あ、この制服のこと? これは提督が準備してくれたの!」
W提督「仮にも本営の集会だからね。靴も履かず水着姿でついてきてもらうのはどうかと思って用意したんだ」
熊野「まあ! X提督は艦娘のことを良くお考えですわ!」
伊19「そうなのね。イクに服を着せるなんて、提督はとんだ変態さんなの」
球磨「いや、その理屈はおかしいクマ」
伊19「いやいや、こんなに表向き紳士な提督は、絶対裏ではとんでもない変態さんなのね……!」ハァハァ
球磨「こじらせすぎクマ! どうしてこんなになるまで放っておいたんだクマ!」
伊19「いひひひ、こんなに破廉恥な格好させられちゃったら、もう提督にはイクのセキニンとってもらうしかないのねぇぇ!」ムッハー
球磨「うるせぇ、爆雷ぶつけんぞクマァ!」
X提督「あはは、もうすっかり打ち解けてるね」
球磨「どうやったらそう見えるクマ!?」
W提督「まあ、そうなるな」
球磨「うちの提督もボケ役クマ!?」
熊野「まあ!? わたくしのどこがトボケてると仰るんですの!?」
球磨「今日のお前が言うな会場はここですかクマァ!!」
伊58「イクもあんまりふざけちゃ駄目よ。そもそも提督には剣崎の責任を取ってもらうのが先でち」
伊19「ごめんなのねー」テヘペロー
球磨「……意外なところから助け舟が出たクマ」
伊58「意外でちか!?」ガビーン
W提督「剣崎? ああ、祥鳳のことか。今日は留守番か?」
X提督「うん、今日一日は提督代理さ。Wのところもかい?」
W提督「ああ、伊勢に丸投げだ。まったく、古今東西の提督を集めて会議したところで、時間を浪費するだけだろうに」
X提督「仕方ないよ、テレビ会議だと不在の提督も多いし。たまにみんなの顔が見られると思えば、僕はそこまで悪いとは思わないけどね」
W提督「……遠地勤務のお前はそうかもしれないな」
伊58「提督! そろそろ会議が始まるよ!?」
伊19「荷物持ってあげるから手をつなぐのねー!」ガッシ
伊58「あっ、ずるい! ゴーヤとも手をつなぐでち!」ガッシ
W提督「球磨、熊野、俺たちも行くぞ」
熊野「ああ、お待ちになって! ちゃんとエスコートしてくださいませんこと!?」ギュッ
球磨「なんで腕に抱き着いてるクマ。しかも自分から腕をつかみに行って真っ赤になってるクマ」
W提督「……まあ、熊野は目を離すとすぐ迷子になるしな。仕方ない」
熊野「ひ、ひどいですわ!?」
*
女性提督「ちょっと、見てよあの男の子! すっごい可愛いんだけど!」
千歳「あの方は大将殿の甥っ子さんですね」
女性提督「なにそれ玉の輿!?」ジュルリ
足柄「ちょっと、もう結婚する気でいるの!? っていうか涎拭きなさいよ涎!」
女性提督「隣の男性も結構いい感じだし! 声かけておかないと!」ギラッ
足柄「やめといたほうがいいと思うわよ? あの子、潜水艦の子と手を恋人つなぎしてるし」
千歳「下手に絡んでは、向こうの艦娘に悪印象を与えかねませんよ?」
女性提督「なによぅ! こんなチャンス、滅多にないんだから! すいませ~~ん!!」ダッ
足柄「あっ」
千歳「ちょ」
ガオーーーー
キャーーー
クマァァァァ!!
足柄「あーあ……」
*
女性提督「ぐす、ぐすっ」
足柄「あんな絡み方したら逃げられるに決まってるわよ!」
千歳「にこやかに挨拶するだけで良かったんですよ」
足柄「だいたいがっつきすぎよ! 狼じゃないんだから!」
千歳「酔っ払いよりひどい絡み方してましたよ?」
女性提督「うるさい、うるさーーい!」ウワーン
女性提督「もう頭きた! 帰ったら大型建造しまくってやるんだからー!」
足柄&千歳((完全に八つ当たりだわ))ハァァ
* 一方その頃 東部オリョール海某所 *
「モウイヤダ!」
「モウ潜水艦ハイヤダ!」
「モウ潜水艦ノ的ニナルノハイヤダ!!」
「マタ、ル級ガ駄々ヲコネテルノカ」
「仕方ナイ。アノ、ル級ガ出撃スルト、相手ハ必ズ潜水艦ダケダカラナ」
「ツイテナイナ」
「付キ合ワサレル連中モ、ソウダナ」
「一緒ジャナクテ良カッタ……」
「モウイヤダァァァァ!!!」
「ア、オイ!? ドコヘ行ク!」
* * *
* *
*
* 現在 夜明け 北東の砂浜 *
ル級「私ハ、来ル日モ来ル日モ潜水艦カラ、チマチマト小サナダメージ受ケ続ケ……」
ル級「ソレガ耐エラレナクナッテ、オリョールカラ出テキタノヨ」メソメソ
長門「なんということだ……」ホロリ
ル級「私ハ、タダノ一度モ反撃スルコトモ、大破スルコトモ、ナカッタ」
ル級「ダカラ、コウヤッテ撃チアエタコトガ、トテモ嬉シカッタンダ……」サメザメ
朝潮「そうだったんですか……!」グスッ
明石「苦労なさったんですねえ……!」エグエグ
提督「お前ら泣きすぎだ」
利根「……そう言うな提督よ。吾輩にもル級の心境は少し理解できるぞ」
利根「吾輩も、ついぞさっき海に出て、わかったことがある。吾輩たちは軍艦なのだ。我らが積んだ艤装も砲もお飾りではない」
利根「海に出て、敵艦隊を見つけ、砲雷撃戦にて邀撃する……軍艦として生まれた我らにとっては、それこそが存在理由そのものなのじゃ」
利根「戦艦でありながら一発も砲を撃ったことがないとなれば、このル級の懊悩も推して知るべきというものだぞ」
ル級「フフ……シカモ、ソノ初戦ノ相手ガ、カノビッグセブン、戦艦長門ダッタトイウノナラ誇ラシクモナル……!」
長門「……ま、まあな」テレテレ
ル級「最後ノ最後ニ艦娘ニ出会イ、憧レノ砲撃戦ガデキタ……私ハ満足ダ」
提督「ん? ……なあ、もしかしてお前、艦娘を見たことないのか?」
ル級「ソウダ。私ハ潜水艦娘ノ船影シカ見タコトガナイ」
提督「船影かよ。んじゃ見てねえのと同義だな。お前、こいつら知ってるか?」
ル級「……オ前ハ駆逐艦ダナ?」
朝潮「はい! 朝潮型駆逐艦一番艦、朝潮です!」
ル級「オ前ハ……巡洋艦カ?」
利根「……吾輩は重巡、利根である」
ル級「オ前ハ?」
明石「工作艦、明石です!」
ル級「ソシテオ前ハ……人間カ」
提督「提督だ」
朝潮「提督准尉は、この島にある鎮守府の司令官であらせられます!」
ル級「ココガ、鎮守府……ソウカ。私ハ敵ノ本拠地ニ流サレテキタノカ」
ル級「私モ年貢ノ納メ時、カ……フフ……」
長門「ル級……貴様……」
ググゥ
ル級「……///」
全員「……」
提督「……朝飯、食いに行くか」
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