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元スレにこ「きっと青春が聞こえる」
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にこ「ね、あなたたち。もしよかったら、今から私たちと一緒に――」
練習に参加してみない?
そう、言うつもりだった。
だけどそれが私の口から出るより早く。
ギイイィィィィ……
と、重っ苦しい音が屋上に響いた。
絵里「お邪魔してもいいかしら?」
にこ「! あ、あんた……」
音の原因、開いた扉から顔を出したのは。
まぎれもなく、音ノ木の生徒会長にして。
μ'sの大切なメンバーの一人――絵里、だった。
にこ「絵……生徒会長、なんでこんなところに……」
希「やっほー、元気にやってるかーい?」
にこ「希!」
希「おやにこっち、こんなところで奇遇やね?」
にこ「――――」
あとから軽い調子で続いてきた人物を見て、察する。
その答え合わせは、絵里の口からなされた。
絵里「突然ごめんなさいね。希がどうしても見てもらいたい部活があるからって言うものだから」
にこ「希……」
あんたって子は。
ほんと、いい仕事してくれるじゃない。
絵里「それで? 矢澤さんがいるということは……アイドル研究部ということよね? ここは」
にこ「ええ、そうよ」
絵里「ということは――希が言ってた「私に話がある人」っていうのも、あなたということでいいのかしら?」
にこ「まあ、そういうことになるわね」
絵里「一体なんの用事かしら? 部費を上げてほしいとかそういう話はナシよ、アンフェアだわ」
にこ「そんなつまらない話するつもりないわよ」
絵里「あら、それじゃあ面白い話をしてくれるのかしら?」
にこ「もちろん。さいっこーに愉快な話よ」
絵里「希と並んでるところを「なかよしこよし」だなんて茶化される冗談より愉快であることを祈ってるわ」
にこ「ぐ……」
この子、最初のあの日のこと根に持ってるわね……
にこ「――単刀直入に言う。あなた、この部に入るつもりはない?」
絵里「――――」
しん、と空気が冷える。
絵里は答えない。じっと、私の目を見つめる。
スカイブルーの瞳に映る私は、がっちがちの表情で佇んでいた。
誰を誘った時よりも口の中が乾いているのは、やっぱりこっちの世界での第一印象があったから。
あっさり切り捨てられたら。
ばっさり斬り捨てられたら。
そう考えるだけで、膝が震えるのがわかった。
ごくん。鳴った喉は誰のものだろう。
沈黙に耐えきれず、二の句を接ごうとして、そして――
絵里「――まあ。たしかに、つまらなくはないわね」
その一言で、がくっと力が抜けた。
にこ「興味を持ってくれたようで何よりだわ」
へいちゃらけーな顔でそう言うけど、内心はだいぶほっとしてた。
正直、一番の難関は絵里になると思ってたから。
だから、そのラスボスが好感触を示したのは、このクソゲーの中でも数少ない救いだった。
まあ、赤毛の裏ボスがまだ控えてるんだけどね……
絵里「勘違いはしないで欲しいわ。まだ入ると決めたわけではないの」
にこ「……なに? なんか条件でも出すつもり?」
絵里「――――」
答えることなく、絵里はぐるりと屋上を見渡す。
絵里「そこで座ってるあなたたちは、見学者?」
穂乃果「えっ?」
海未「私たちのこと、ですか? え、ええ、そうですけど……」
絵里「そう……アイドルに興味があるの?」
穂乃果「そうと言えば、そうなのかな……?」
絵里「どういうこと?」
穂乃果「私たち、矢澤先輩に勧誘されて来たんです。だから、最初からアイドルに興味があったっていうわけでは……」
絵里「……他の二人も?」
ことり「あ、私はそもそもアイドルをやるためにきたんじゃなくて……」
海未「私は違います。穂乃果がどうしてもと言うから仕方なく着いてきただけです」
穂乃果「もー、海未ちゃんまだそんなこと言ってるの?」
海未「まだとはなんですか、私は本当に……」
絵里「もう、いいわ」
頭を抱えながら、絵里はそう答えた。
――あんまり、雰囲気よくないかも。
絵里「そこの二人は部員なのよね?」
冷ややかな視線が、今度は凛と花陽を捕らえる。
凛「……そうですけど」
あー……警戒心MAXだ、あの子。
絵里「あなたたちは? 勧誘されて入ったの?」
花陽「あ、わ、私は違います。私はアイドルになりたくって……」
絵里「そ。そっちのあなたは?」
凛「なんで答えなきゃいけないんですか?」
友好心ゼロの返答。
てか、これまずい。私が止めないと――
にこ「ちょっと、二人とも……」
絵里「入部をお願いされてる立場ですもの。部について質問くらいさせてもらって当然でしょう?」
凛「私はお願いしてません」
絵里「あなたが部長以上の権限を持ってのなら今すぐ帰るわ」
凛「――――っ」
ダメだ、私の言葉なんて全然届いてない。
一触即発、今にも取っ組み合いになるんじゃないかってくらいにボルテージがあがって――
希「絵里ち」
熱くなった二人の間に、すっ、と水が差される。
絵里「……ごめんなさい、そんなこと言うためにきたんじゃなかったわ」
絵里「じゃあ聞き方を変えるわ。この中で自分の意志でこの部に入った人は?」
私を含めた皆が皆、目を見合わせて。
おずおずと手を挙げたのは、花陽だけだった。
絵里「…………そう。わかったわ」
落胆の色を隠そうともしない絵里の声。
それに答える子なんて、誰もいなかった。
絵里「矢澤さん」
にこ「……なに?」
絵里「返事。今するわ」
にこ「返事?」
絵里「この部に入れって、あなたが言ったんでしょう?」
にこ「ああ……」
正直、そんなことすっかり頭から吹き飛んでいた。
だって、そうでしょう?
なんの前触れもなく、真正面からケンカ売られてるようなもんだもん。
第一、ここまで言われていい返事を期待するほど間抜けじゃないし、私。
絵里「入ってもいいわ」
にこ「…………は?」
今鏡を見たら、さぞかし間抜けな顔した女の子が映るでしょうね。
って、そんな現実逃避してる場合じゃなくて!
にこ「入るの!?」
絵里「だめなの?」
にこ「いや、そんなことは……」
ない、けど。
さんざんひっかきまわして、その答えを誰が予想できるの?
凛「入ってもいいって……上から目線すぎません?」
絵里「頼まれてる立場だって、さっき言ったはずなのだけれど」
凛「だからって!」
花陽「り、凛ちゃん! 落ち着いて!」
凛「でも!」
花陽「うん、わかるよ、気持ち。だから」
きっ、と。
花陽にしては珍しく強い視線で、絵里へ向き直る。
花陽「なんで急にそんな答えになったんですか?
絵里「別に急に決めたつもりはないわ」
花陽「……わけがわかりません。だってさっきまであんなに酷い態度だったのに」
花陽「入るつもりがなかったとしか、思えません」
絵里「――あなたは、わかってるんじゃないの?」
花陽「え?」
絵里「入るつもりがあったから、よ」
花陽「――――」
その沈黙は、なにを意味したのだろう。
なんにせよ、それ以上花陽が答えることはなかった。
絵里「それにね、ただで入るとは言ってないわ」
にこ「は?」
絵里「あなた、スクールアイドルランキングって知ってるかしら?」
にこ「知ってる、けど……」
かつてはその頂点まで上り詰めたグループの一員だもの。
知らないはずがない。
絵里「そのランキングで、あなたたちが100位以内に入ること。それが私が加入する条件」
にこ「…………」
は?
あなたたちって、私たち?
絵里「まあ、今の状況でその条件を満たすのは難しいでしょうね」
絵里「だから、私も協力してあげる。こう見えてもバレエの心得はあるの」
絵里「あなたたちにレッスンをつけることくらいならできるわ」
にこ「――いいかげんに、」
風船のように膨らんでいた悪感情。
それが、限界まで大きくなって――
絵里「するのは、あなたの方なんじゃないの?」
ぷしゅう、と情けない音をたててしぼんだ。
絵里「あなた――なにがしたいの?」
なにがしたいの? って。
それ、私のセリフじゃないの?
穂乃果「あのー……」
蚊帳の外になっていた穂乃果が、おっかなびっくりで口を挟む。
穂乃果「その「あなたたち」って、ひょっとして私たちも……?」
絵里「入ってるわ」
穂乃果「ええー……」
海未「待ってください! 私たちはまだ入部も決めていません!」
海未「第一ことりに至ってはそもそもアイドル活動をするわけでも――」
絵里「ならこの話はなかったことにしましょうか?」
海未「――――っ」
海未の立場ならそこで構わないと怒鳴りつけてもいい場面だった。
それをすんでのところで踏みとどまってくれたのが私のためだということは、一瞬飛んできた彼女の視線が如実に語っていた。
――そして、彼女の捨て台詞にたどり着く。
絵里「――最後に、もう一度だけ言わせてもらうわ」
絵里「ここにいる六人のグループで、一か月以内にスクールアイドルランキングで100位以内に入る」
絵里「それができなければ――私は、このグループには入りません」
好き放題言い残して、絵里は屋上を後にした。
残されたのは。
にこ「――なんなのよ、これは」
苦い現実を突き付けられた、ちっぽけな女の子。
微妙に>>253と食い違う展開になってしまいました、申し訳ないです
もうちょっとだけ続きます
もうちょっとだけ続きます
【Side:絵里】
希「絵里ち!」
早足で階段を下りる私の背中に、希の声が飛んでくる。
彼女の言いたいことは痛いほどにわかっている。
希「話が違うやん! にこっちの話聞いて、よければ協力してあげるって、そういう話だったでしょ!?」
絵里「……わかってるわ」
わかってる。自分がどれほどみっともないことを喚き散らしたか。
どれほど子供じみた感情を振りかざしたのか。
痛いほど、わかってる。
だけどね、希。
「話が違う」は、こっちのセリフなのよ。
「矢澤にこ」は、私たちの学年では知らない人がいないほどの有名人である。
アイドルを目指し、暴走し、孤独になった変人。
たぶん多くの人の認識はそんなものでしょうね。
だけど、私は――少しだけ、うらやましかった。
恥も外聞もかなぐりすて、自分のやりたいことにひたむきになれる強さ。
方向性はどうであれ、それは誇れるものだと思ったから。
だから彼女が再び部活動を再開し始めたと聞いた時は、内心応援だってしていた。
希から「あの占い」の話を聞いて。
私が彼女に関われると知って。
嬉しく、思ったのよ。
だから。
だからこそ――
絵里「残念、だったのよ」
希「残念?」
絵里「ええ」
希「残念、って……むしろ絵里ち、喜んでたやん? にこっちを近くで見られるって」
絵里「ええ」
希「いや……矛盾してない?」
絵里「してないわ」
だって。
絵里「だって――彼女は私の知ってる「矢澤にこ」じゃなかったから」
今のままの彼女なら――関わることに、意味なんて、きっとない。
希「どういうこと……?」
絵里「さっき。屋上には私たちを含めて8人いたわね?」
希「え? う、うん、そうだったと思うけど……」
絵里「なら……あの8人が、希の占いに出た「やっつの光」、なのよね」
希「……たぶん」
絵里「そう……」
違ってほしかった。
もしそうなら、話は簡単だったから。
だけどどうしても「あの」8人でなければならないというのなら。
絵里「あの部活――潰れるわ」
希「そりゃ、まあ……あれだけぼろくそに言われれば……」
絵里「そうじゃなくって」
それは、まあ、やりすぎた私が悪かったけど。
だけど、あれだって必要な荒療治。
絵里「正直、矢澤さんのやりたいことが見えてこないのよ」
希「にこっちのやりたいことって……アイドルになる、やろ?」
絵里「…………」
アイドルに、なる。
なることだけが目的なら、あのメンバーでもいいのかも知れない。
だけど、それなら彼女は2年前、ひとりぼっちになんてならなかった。
彼女が目指してるのは、そんな低いところではなかったはずだ。
なのに。
今の彼女は――2年前の自分自身を蔑ろにしているようにしか見えないのよ。
ここまで
自分の力不足で違和感のある展開になったかも知れません
うまく脳内で補完してください
続きはまた後日
自分の力不足で違和感のある展開になったかも知れません
うまく脳内で補完してください
続きはまた後日
乙
違和感というか展開が飛躍してると思ったよ
まともに対話すらしてないのにーって感じ
違和感というか展開が飛躍してると思ったよ
まともに対話すらしてないのにーって感じ
凛「凛は絶対反対!」
嵐が過ぎ去った後。
そのままレッスンを続ける雰囲気でもなくなり、私たちは部室へと戻っていた。
にこ「そうなるわよねぇ……」
余りにも一方的な要求。
私たちが一か月以内にランキング100位入り?
まだ登録すらされてない私たちが?
正直……非現実的すぎる。
凛「あんなに勝手な人の話聞く必要ないにゃ! ね? かよちん」
まあ、凛が反対する理由はもっと別なところにあるんだけど。
花陽「…………」
凛「かよちん?」
花陽「――あ、ごめん凛ちゃん。なぁに?」
絵里とのやり取りから向こう、花陽の様子はずっとおかしかった。
ぼーっとなにかを考えるような。
というか、思い詰めてるような。
絵里『入るつもりがあったから、よ』
絵里のあの言葉の意味は、私にはよくわからない。
入るつもりのある人間が、あそこまでディスる必要ある? って話。
だけど花陽にとって、あの言葉は。
花陽「…………」
凛「ねーかよちーん、聞いてるにゃー?」
大きな意味を持ってるみたいね。
そして懸念事項はもうひとつ。
海未「あの……」
にこ「あー、うん。あなたの言いたいことはすごくよくわかる」
海未「ならば話は早いのですが……」
にこ「ちょ、ちょっと待って!」
慌てて話を遮る。絵里への反感が最高潮になってる今、この子たちにまで離れられたら、本格的にμ'sの結成は怪しくなってしまう。
にこ「そっちの二人は!?」
さっきまで好印象だった穂乃果なら、話を良い方向に持っていってくれるかもしれない。そう考えての振りだったんだけど。
穂乃果「私は……やっぱり遠慮しようかなー、なんて」
にこ「なっ……」
穂乃果「だってだって、そのスクールなんちゃらランキングっていうのがどんなものかよくわからないけど……」
穂乃果「でも、私たちがそれにランクインするって言われても、現実味がないというか……」
穂乃果「ぶっちゃけ、練習とかきつくなっちゃう? って考えると……ねえ?」
にこ「…………」
返す言葉は、私の頭のどこをひっくり返しても、出てこなかった。
海未「――もう、いいでしょうか?」
言いながら、返事を待つことなく、海未が席を立つ。
気まずそうな顔をしながら、続く穂乃果。
良くなんかない。行ってほしくない。
願いばかりがあふれ出て、だけど、それを彼女らの心に届く言葉に変換する力が、なくて。
だから。
ことり「私は――やっても、いいです」
海未「なっ!?」
穂乃果「ことりちゃん!?」
その足を引き留めたのは、その心に届く言葉の持ち主だった。
海未「ことり、あなたは優しすぎます!」
返す海未の言葉には、隠すつもりもない怒気が満ちていた。
海未「大方今までの流れから、自分が協力しなければ矢澤先輩たちが困ると判断したのでしょう」
海未「ですが! それは私たちには関係のない話です!」
海未「衣装づくりの話だって、私は賛成しかねるものでした!」
海未「ことり、自分を犠牲にする必要なんてないのです。残された時間、もっと自分のやりたいことを――」
焦りと怒りをまくしたてる海未に対し。
ことり「海未ちゃん」
ことりの言葉は、あまりにも静かだった。
ことり「その言葉は――誰のため、なの?」
海未「え――」
ことり「矢澤先輩。私たち、入部します。穂乃果ちゃんもいいかな?」
穂乃果「うぇ? あ、えーっと、いいような、悪いような……」
ことり「やっぱり……だめ?」
穂乃果「ううん、だめじゃないよ!」
ことり「ありがとう。ごめんね、わがまま言って」
穂乃果「そんなこと……」
ことり「海未ちゃん」
海未「…………」
先ほどの、ことりの一言から。
海未は、ずっとうつむいたまま唇をかみしめていた。
ことり「気持ちはね、すっごく嬉しいんだぁ。私のこと思ってくれてるって、わかるから」
ことり「でもね。きっとそれだけじゃ、ないよね」
ことり「海未ちゃんがどんな気持ちでも、構わない」
ことり「だけど――それを私のせいにするのは、違うと思うの」
海未「――そんな、つもりは」
ことり「ない?」
海未「…………」
海未はそれ以上、何かを答えることはなかった。
ことり「矢澤先輩。いいですか?」
にこ「――え、あ、っと……」
花陽と絵里のやりとりの再現のようだった。
私の知らないところで、だけど、私に致命的に関わる何かが進んでいるような、もどかしさ。
話の筋の端っこも掴めていない私は、果たして今、この物語の中心にいるのだろうか?
――なんて。考えても意味のないことくらい、わかってる。
だって。
にこ「もちろん――いいわよ」
そう答える以外に、私には選択肢なんて、ないのだから。
ここまで
前回やらかしたのでしばらく書き溜め方式で行こうと思います
次はまた近いうちに
前回やらかしたのでしばらく書き溜め方式で行こうと思います
次はまた近いうちに
【Side:真姫】
気づいたことがある。
にこ「まったく、まいっちゃうわよ……いきなり現れてスクールアイドルランキングの100位以内に入りなさい、だなんて」
真姫「だけどそれ、にこちゃんが入部しろって言ったからなんでしょ? 割と自業自得だと思うんだけど」
にこ「そ、それは、たしかにそうだけど……」
この、自称未来人の先輩と話をするのは、意外と楽しくて。
にこ「だけどあのごーまんな態度ったらないわよ! 昔を思い出すわ!」
真姫「あっちの世界でもそんな性格だったの? 生徒会長は」
にこ「最初はね。アイドルやりたいくせに肩肘張ってザ・生徒会長! みたいな態度とって。あほらしいったらありゃしないわ」
真姫「ふぅん?」
にこ「……なによ?」
真姫「え? なにが?」
にこ「にやにやしちゃって、なにがおかしいの?」
真姫「……笑ってたの? 私が?」
にこ「やらしーい顔でね」
真姫「…………」
なんだか、意地張ってる自分がばからしくなってくる。
友達は作らない。
自分を守るための、精一杯の強がりだった。
にこ「というわけで、ついに真姫ちゃんの出番到来よ」
真姫「え?」
にこ「え? じゃないわよ! 私たちに楽曲提供してくれるって約束でしょ!」
真姫「……そういえばあったわね、そんな話」
にこ「忘れてんじゃないわよ!」
真姫「忘れるくらい長い間アイドル活動のあの字も見せなかったのは誰よ?」
にこ「ぐぬぬ……」
にこちゃんは友達じゃないから、セーフ?
真姫「……ほんと、ばかみたい」
にこ「なんですってー!」
真姫「ただのひとりごとよ」
わかってる。
こんな素敵な関係――もう、手放せない。
にこ「とにかく! 私たちのアイドル活動が満を持して始動するってわけよ!」
私たち、か。
その言葉に――私は、含まれてるのかしら。
真姫「それで? 私はどの曲の音源を用意すればいいわけ?」
にこ「もちろん、μ'sの最初の曲はこれしかない」
にこ「――『START:DASH!!』よ」
『START:DASH!!』、ね。
私とにこちゃんの、この奇妙な関係が始まった日に作られた、まさにスタートダッシュの曲。
だけど。
始まりがあるってことは――いつかかならず、終わりがあるってこと。
自称未来人の、この先輩は。
にこ「あによ? 私の顔になんかついてる?」
真姫「――なんでもないわ」
いつまで、私のそばにいてくれるのだろう。
* * * * *
絵里のレッスンは、善は急げと言わんばかりに翌日から始まった。
その結果は――正確には、結果を出すための過程のはずだけど――悲惨の一言。
絵里「星空さん、走りすぎ! もっとちゃんとリズムを聴いて合わせて!」
凛「わかって、ます!」
絵里「小泉さんは逆! 遅れてるのは体力不足の証よ!」
花陽「は……はい!」
絵里「園田さんは動きが硬いわ! 余計な力を抜いて!」
海未「そんなこと、言われ、ましても……!」
絵里「南さんは動きが小さいわ! 細々してるとなにをしてるのかわからないわよ!」
ことり「はい……!」
絵里「高坂さんは――」
穂乃果「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ……」
絵里「――いったん休憩にしましょうか」
絵里「…………」
各々が休憩をとる中、絵里はひとり難しい顔で腕を組んでいる。
にこ「……どう? 正直な話」
絵里「……思ったより悪くない人が半分」
にこ「へえ?」
練習中に飛んでいた言葉を思い返せば、それは意外な感想だった。
絵里「あなたもそのうちの一人よ?」
にこ「あら、それはどーも」
ま、一年前のスペックに戻ったとはいえ、一度はラブライブ優勝してる身ですから。
絵里「それに星空さん、南さんは悪くない」
絵里「星空さんはまだ自分のリズムで先走る癖があるみたいだけど、もともと体を動かすのは得意そうね」
絵里「リズム感をもっと養えば問題ないわ」
絵里「南さんはまだ慣れない動きに戸惑ってる節はあるけど、それさえクリアすれば結構動けるんじゃないかしら」
にこ「……ちなみに、残り半分は?」
絵里の表情が、再び曇る。
絵里「……思ったより悪いわ」
絵里「まず小泉さん。彼女は決定的に体力不足」
にこ「あー……」
思い出すのは、いつぞやのゲーセン。
あれからトレーニングは欠かさず取り組んできたものの……さすがに付け焼刃にしかなってないみたいね。
絵里「それから園田さんは……彼女の場合、メンタルの問題かしらね」
絵里「動きがガチガチ。そのわりについてこれてはいるのだから、物理的に体が動かないというわけでもない」
絵里「まだアイドル活動をすることに抵抗感があるんじゃないかしら」
にこ「それよねぇ……」
ことりとのこと、どうなってるのか私にはさっぱりだけど。
彼女らのやり取りを見るに、どうもスムーズに話が進んでいるようではない。
絵里「それと、高坂さんは……」
にこ「…………」
絵里と一緒に、視線を移す。
穂乃果「ぷはー! アクエリアスおいしーい!」
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