私的良スレ書庫
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元スレにこ「きっと青春が聞こえる」
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凛「じゃあ凛たちライブするの!?」
花陽「うーんと……正確には、『ライブするための準備をする』、って感じかな……」
急に自信なさげになる花陽。
凛「準備?」
花陽「うん。ねえ凛ちゃん、アイドルが実際にライブをするには何が必要だと思う?」
凛「え?」
やっぱり、花陽はしっかり考えてるみたいね。
ちゃんとその問題に気づいてる。
凛「えっと、えっと……衣装、とか?」
花陽「うん、それももちろん必要だね」
ほっこりしながら花陽が言うのは、凛が少しだけ素直な気持ちを覗かせたからだろう。
可愛い衣装。着たいのね、凛。
花陽「だけどそれについてはまだ保留になっちゃうかな」
花陽「突き詰めちゃえば、この制服で踊るのだって立派な『音ノ木坂のスクールアイドル』っていうアピールになるし」
凛「そっか……」
しゅん、と凛が落ち込む。
花陽「も、もちろんいつまでもそういうわけにもいかないよ?」
花陽「やっぱり可愛い衣装を着て踊った方が映えるし、それに……」
凛「それに?」
花陽「私たちも着たいし、ね?」
凛「……えへへー」
凛「それで、他にはなにが必要にゃ?」
花陽「あとは、もちろん場所も必要だよね。この学院は……」
ちら、と飛んできた花陽の視線から、意図を汲み取る。
にこ「ええ、申請が通れば講堂でライブをすることも可能よ」
花陽「っていうことみたい」
凛「講堂って、あのおっきな? あんなに人が集まるのかにゃ……?」
にこ「…………」
それについては心配ご無用。
私たち九人が揃えば、あの講堂がちっぽけに見えるようなステージだって、お客さんで一杯にできるんだから。
花陽「それと、曲や振り付けも必要になるかな。これも他のスクールアイドル……それこそA-RISEのコピーだって大丈夫だけど……」
凛「やるなら自分たちの曲でやりたいねー」
花陽「うん。それに今例に挙げておいてなんだけど、あんまりレベルの高いアイドルをコピーしても難易度が上がっちゃうし」
凛「あ、そうだよね……」
暗い話題ばかりが続き、凛と花陽のテンションがみるみる下がっていく。
うーむ、幸先よくないわね、この子ら……
にこ「あ、そうだ」
すっかり伝え忘れていた、明るいニュース。
にこ「曲については心配ないわ。私のつてで作曲してくれる人が見つかったの」
花陽「え、ほんとですか!?」
凛「だれだれ!?」
にこ「えーと、それはね……」
さて、どう説明したものかしら。
真姫ちゃんには、あの放課後の出来事はもちろん、楽曲を提供してくれるのが真姫ちゃんであることも黙っておいてほしいと言われた。
まあ、それを話したら二人に質問攻めくらうことうけあいだものね。
でもさ。全部嘘つく必要はないわよね?
あんまり適当なこと言うとぼろがでちゃうかもだし。
それに。
真姫「…………」
この話題になった途端、私の視界のすみっこで面白いくらいびくって跳ねた赤毛ちゃんのリアクションも、楽しみたいしね。
にこ「えーっとねぇ、この学院の子なんだけどぉ」
真姫「…………!」
あ、焦ってる焦ってる。
にこ「私より年下でぇ」
真姫「…………」プルプル
おっと、震えだしちゃった。
にこ「ちょーっと素直じゃないんだけど、そこが可愛くてぇ」
真姫「っ、げほっ、げほっ!」
あっはっは、ご飯詰まらせてむせちゃってる。
ま、あんまりからかうのもかわいそうだし、この辺にしときましょうか。
最後に、ひとつだけ加えて。
にこ「私の、大切な人の一人よ」
真姫「――――!」
がたんっ
耐えられなくなったのか、椅子から立ち上がる赤毛ちゃん。
そのままつかつかと教室を出ていく、その横顔は。
――あらら、あれじゃ赤毛ちゃんじゃなくて赤面ちゃんね。
にこ「ま、詳しいことは言えないけど、曲に関しては問題ないわ」
花陽「そう、ですか?」
いまいち納得しきれていない様子。
まあ、今の説明にもなんにもなってないしね。
花陽「じゃあ、他に足りないものは……」
凛「えぇ、まだあるの? 凛、もう覚えきれないにゃー」
花陽「ううん凛ちゃん、これが一番大事なんだよ?」
にこ「?」
他に必要なものなんてあったかしら?
花陽「アイドルがライブをやるのに必要なもの。それは――」
にこ・凛「それは――?」
――――――――
――――――
――――
――――
――――――
――――――――
花陽「ず、ずばり……はぁ、はぁ……これです!」
にこ・凛「…………」
時は放課後、場所はアキバのゲーセン。
汗だく息切れへろへろな花陽がずびしと指さす先には――GAME OVERの八文字。
某ダンスゲーのリザルト画面である。
花陽「わた、私たちに、足りない、のは……ぜぇ、はぁ……体力と技術、です!」
にこ・凛「あー……」
なんというか、ぐうの音も出ない説得力。
難易度イージーの曲だったのに、ここまでいろんな意味でぼろぼろになれるのは、さすが花陽といったところ。
いや、全然笑い話にもならないんだけど。
花陽「ほん、本番、は、踊るだけじゃ、ありません! これで、歌も、うたいながら……けほっ、けほっ」
にこ「ちょ、大丈夫? ほら自販機で買ったスポドリ」
花陽「あ、ありがとうございます……」
こくん、こくん、と花陽の白い喉が揺れる。
まあ、この子はどう見ても運動してきましたって感じじゃないものね……
花陽「ぷはー」
凛「落ち着いた? かよちん」
花陽「うん……大丈夫だよ、凛ちゃん。にこ先輩もありがとうございました」
にこ「いーえ、どういたしまして」
花陽「では、話を戻しまして……こほん」
花陽「とにかく、私たちには体力も技術もありません。素人ですから」
花陽「激しく動きながら歌もうたいつつ、しかも笑顔も絶やさない……」
花陽「そう! たとえるなら笑顔のまま腕立て伏せをするかのような忍耐力が、私たちには足りないんです!」
にこ「…………」
そのたとえ、必要だった?
花陽「なので私たちは、まずこんなゲーム程度笑顔でクリアできるような体力と技術が……」
凛「――っとぉ、クリアしたにゃー!」
花陽「え?」
熱弁する花陽のその後ろでは。
その親友が無残にもハードモードでパーフェクトを叩きだしているところだった。
花陽「…………」パクパク
ああ、花陽が餌を求める鯉みたいになってる……
凛「結構簡単だね、このゲーム」
花陽「はうぅ!?」
とどめを刺されたのか、花陽が膝から崩れ落ちる。
天然って容赦ないわね……
凛「じゃあ、次はにこ先輩の番にゃ?」
にこ「へ?」
突然回ってきたお鉢に面食らう。
曲をクリアしたためか、筐体は楽曲選択画面に戻っている。
にも関わらず、凛は画面からすっと離れた。
……ふむ。
ここはいっちょ、最高難易度で先輩の威厳を見せてあげますか。
結果を言えば。
凛「おおぉ! にこ先輩ベリーハードでパーフェクトにゃ!」
花陽「……私……アイドル向いてないのかな……」
という感じではある。
だけど。
凛の言葉にどや顔をすることも。
花陽の言葉に慰めをすることも。
にこ「はぁっ、はぁっ、はぁ……」
余裕がなかった。
凛「とはいっても、さすがのにこ先輩も一曲が限界かにゃ?」
花陽「すごいはすごいですけど……でも、アイドルとしては体力不足なのは否めないですね……」
にこ「はぁ、はぁ、はぁ……くっ」
ぎり、と奥歯を噛みしめるのは。
二人の言葉が的外れな指摘だったからではなく。
まさしく的のど真ん中を射抜いていたから。
たしかにここ一か月以上はダンスはおろか基礎トレーニングもほとんど怠っていた。
それにしても、一曲でこのザマ? ありえない。
体力の低下、というよりは……
にこ(これも戻ってる、のね)
当たり前と言えば当たり前。だけど盲点だった。
記憶が受け継がれているのならば、「私自身」が一年前に戻ってきた。
そう、疑ってすらいなかった。
でも、現実は違った。
体力や筋肉、あるいは神経の繋がりというかセンスというか、そういったものは全て一年前のスペックに逆戻り。
今の私は、そう――素人、だ。
にこ「――――よ」
凛・花陽「え?」
にこ「――トレーニングよ!」
花陽「あっ!」
凛「にこ先輩!」
言いながら、二人がついてくるのも確認せず店を飛び出す。
言いようのない不安が、足首をぎゅっとつかんでいるような気がした。
――私は、もっと焦らないといけないのかもしれない。
名前: 白糸台一軍最強【100年分】で三連覇約束亦菫様イエィ
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運営終了は犯罪ナノデスよライダーをユルスナ
京様不在編
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にこ「――――」
思い出すたびに、胃がよじれるような錯覚を引き起こす。
一際強い痛みを噛みしめながら、私は生徒会室の前に立っていた。
目的はただひとつ。絵里と希の勧誘。
あのゲームセンターの屈辱以降、私たち三人は基礎トレーニングから始めることにした。
筋力や体力、リズムやステップ。
三日ほど続けて分かったのは――圧倒的な力不足だった。
息はすぐ切れるし、足はもつれるし。こんなのでなんでスクールアイドルの頂点に立てたの? って感じ。
いや、なんでなんてわかってる。
絵里の指導があったからだ。
にこ(絵里の加入は一刻を争うわ……)
μ'sを集めるという意味ではもちろん。
「ラブライブ優勝グループμ's」に戻るためにも、絵里の力は必須だった。
だけど。
にこ(どう考えても、素直に入ってはくれないわよねぇ……)
なにせあっちの世界では最後まで渋った彼女である。
こっちの世界でだってきっと――
にこ(……いや)
違う、のかな。
そもそもあっちの世界で絵里が頑なだったのは、『音ノ木坂を廃校から救うため生徒会として動かなければならなかったから』だ。
だったら、廃校の話がないこっちの世界でなら、絵里はもっと素直にアイドルをやりたいって言えるんじゃ――
ガチャ
希「おっとぉ?」
にこ「っとぉ!」
希「誰かと思ったらにこっちやん? 生徒会に何か用?」
にこ「の、希? え、いや、生徒会っていうか……」
希「ん?」
にこ「あんたと……生徒会長に用事がある、っていうか……」
希「うちと絵里ちに?」
にこ「う、うん……」
希相手なのに、言葉が上ずる。
というより、希相手だから、か。
この子だけは、他の子と違ってこっちの世界でも全然知らない赤の他人、ってわけじゃない。
だから話しやすいだろうって? とんでもない。
だからこそ、距離感が取りづらいのだ。
どんなに親し気に話しても、この希は、心に孤独を抱えたままの希なのだから。
そして今の私は、『あの曲』ができるまで希がそういう子だって、知っちゃってるから。
だから――この子の言葉のなにもかもが、張りぼてのように聞こえてならなかった。
希「うちは別に構わないけど、絵里ちはもうここにはおらんよ?」
にこ「え、そうなの?」
しまった、来るのが遅すぎたか。
トレーニングは欠かさず、と思い、部活後に後回ししたのがいけなかったらしい。
にこ「そっか、参ったわね……」
希「……にこっちさ」
にこ「ん、なに?」
希「最近なんかあったん?」
にこ「は? な、なによ藪から棒に」
希「うちの耳にだって届いてるんだからね? にこっちの部活がまた活動し始めたってこと」
にこ「あー……」
ま、そりゃそうか。
うちの学年じゃ有名人だもんねぇ、私。
もちろん、悪い意味で。
希「まあこんなところで立ち話もなんやし」
ぱちん、と手を鳴らし。
希「うちにも用事、あるんやろ? そしたら、どこかでゆっくり腰を落ち着けない?」
にこ「ん、……そうね」
そう提案した希に、反対する理由はなかった。
そんなこんなで、マクドナルド。
希「それで? にこっちは一体全体どんな悪だくみをしてるん?」
にこ「わ、悪だくみって、あんたね……至極まっとうなアイドル活動よ」
希「神田明神の階段を、ぜーぜーはーはー言いながら上り下りするのが?」
希「うちはてっきりアイドル研究部からダイエット研究部に転向したのかと思ったんやけど」
にこ「な、なんであんたがそんなこと……! って、そっか……」
そういえばこの子、あそこでバイトしてるんだった。
その割にちっとも顔合わせないもんだからすっかり忘れてたわ。
にこ「ダイエット研究部って、そんなわけないでしょ。このにこにーのないすばでーがどうしてダイエットする必要があるのよ」
希「ふーん……」チラ
にこ「今すぐその自分の胸と私の胸を見比べるのをやめなさい」
希「……ないすばでー」フフッ
にこ「あぁん!?」
希「冗談冗談。それで? なんで今さらアイドルを?」
にこ「今さら、って……私は別にアイドルを諦めたつもりは、」
希「ないって、言えるん?」
にこ「…………」
沈黙は、何よりも雄弁な、肯定。
希「うちが今さらと思うのって、不思議じゃないと思うんやけど」
にこ「……そうね」
希「――あの日から、やったんかな。にこっちが変わったのって」
にこ「あの日?」
希「そ、あの日。朝急に肩を叩いてきたかと思ったら、うちと絵里ちに妙なこと言ってきた、あの日」
にこ「――――」
希「当たりみたい?」
まったくもう。
この子はなんだってこういう時ばっかり鋭いのよ。
にこ「……たしかにあんたの言う通り。私、アイドルになること、諦めてた」
にこ「だけどね、見ちゃったのよ」
希「見たって、何を?」
にこ「自分を。自分たちを」
にこ「ステキな衣装を着て」
にこ「さいっこうの曲を歌って」
にこ「きらっきらなステージで踊って」
にこ「頂点に立つ自分たちを、見ちゃったの」
にこ「何言ってんの? って思われるかもしれないけどさ」
にこ「そんなの見ちゃったら、もうそれを諦めるなんてできなかった」
にこ「だから――もう一度、立ち上がった」
希「――――」
希は、何も返さない。ただ窓の外を、じっと眺めている。
手のひらに包んだドリンクの紙コップが、じんわりと汗をかいていった。
希「――それで。立ち上がったのが、あの日ってことなん?」
ようやく開かれたその口からは、ある意味的を射た言葉が放たれる。
にこ「まあ、そんな感じよ」
希「で、その『自分たち』の中に、うちと絵里ちも入ってる、と」
にこ「……ほんと今日のあんた鋭いわね」
希「カードがうちに教えてくれるからね」
にこ「万能過ぎない? あんたのカード」
希「最近な、うちと絵里ちの未来を占うと、いつも同じ結果になるんよ」
希「ばらばらに光ってた小さな八つの光が、次第に集まり一つの大きな光になる」
希「そんな、占いが」
にこ「――ん?」
ほんと未来予知なんじゃないかってくらいの精度の、希の占い。
そこに紛れる、大きな大きなひっかかり。
希「ん、どしたん?」
にこ「八つ? いま八つって言った?」
希「え? 言ったけど……」
にこ「九つの間違いじゃなくて? それとも自分を抜いて八つってこと?」
希「ちょっとちょっとにこっち、どうしたん?」
焦りを抑えきれず、自分でもわかるくらいの早口になる。
希「自分も含めて、全部で八つってことだよ?」
にこ「――――」
ぎゅっと噛みしめた唇。
そこから走る鋭い痛みは、錆臭い現実を口内に広げる。
頭の中では、人との関わりを頑なに拒む赤毛の少女が悲しげな顔をしていた。
希「――その八つの光が、にこっちの話につながるんだって思ったんやけど……違うみたい?」
にこ「いや……」
残念ながら、希の出した占いの結果がμ'sを――いや、μ'sになるはずだったものを指しているのは間違いないだろう。
だけど、それを信じてしまうなら。
私たち九人は――もう、揃うことができないの?
希「あんな、にこっち」
にこ「え?」
俯けていた顔を正面へ向けると。
とても優しい顔をしたかつての親友が、私を見つめていた。
希「自分で言うのもなんやけど、うちの占いが万能ってわけでもないし」
希「無理に信じてへこむ必要、ないんよ?」
にこ「――――ん、」
私なんかよりも本当の意味でひとりぼっちの彼女が、何を思いながら私と話しているのかはわからないけど。
にこ「――うん。ありがと」
その言葉は、素直に出てきてくれた。
【Side:希】
二階席の窓から、小さくなるにこっちの背中を見送る。
私にお礼を述べたにこっちは、時計を確認すると慌てて荷物をまとめ始めた。
にこ『今日は早く帰んなきゃいけないんだった!』
理由までは聞かなかった。余計に時間を使わせちゃいそうだったし。
きっと家族の都合とか、そんなところだろう。
希「――――」
見えなくなったピンク色のカーディガンに思いをはせる。
にこっちは、アイドルを再び目指し始めた。
二年前、あんなにつらい思いをしたというのに。
強い。
本人はきっと否定するだろうけど、彼女はとても強い。
だからこそ――危ういのだけど。
希「うちも見習いたいもんやね」
ぽつりとこぼれたひとりごとは、ざわめきに飲まれて、消えた。
それにしても。
希(さっきのにこっち――普通じゃなかった)
慌てた口調に真っ青な顔色。
私の占いに現れた「八人」というワードが、妙にひっかかっていたようだった。
希「――――」
自分の中で、不安の色が濃くなるのを感じる。
ひょっとして、ひょっとすると。
彼女にとって、どこかで「見た」自分たちというのは、九人だったのではないだろうか。
それは、彼女の言葉の端からうかがい知ることができた。
ならば。
足りないのは――誰?
希「――――」
にこっちが様子が変わり始めた、あの日。
うちと絵里ちの未来が「八つの光」になったのもその日からだったのだけれど。
実はちょっと心配になって、にこっちの未来も占ってみた。
結果は、どれほど繰り返しても変わらなかった。
希(――白紙)
何度占ってみても。
にこっちの未来は、見えなかった。
希(にこっち……)
不安の色は、ついに私の心を塗りつぶす。
いるべきはずの九人。
占いの結果は八人。
足りないのは――
真姫「あの」
にこ「…………」
真姫「ねえ」
にこ「…………」
真姫「ちょっと」
にこ「…………」
真姫「……あぁもう! いいかげんにしなさいよ!」
真姫「ふらっと現れたかと思ったらなんにも言わないで座り込んで」
真姫「私が演奏してるのじーーーーーーーっと見てるだけって、それ一体なんの嫌がらせなわけ!?」
真姫「気になってちっとも集中できないんですけど!」
にこ「んー……お気になさらず」
真姫「だからそれが無理だっていってるんでしょうが!」
ぷりぷりと怒りながらも出て行けと言わないのは、まあさすが真姫ちゃんというかなんというか。
いや、私だってちょっとくらいこれ迷惑になってるかな? とか思わないでもない。
けれど、私の頭の中は今希との会話をリピートすることで大忙しなのだ。
希『ばらばらに光ってた小さな八つの光が、次第に集まり一つの大きな光になる』
8人。
希の占いは、非常にも私の知る未来を真っ向から否定してきた。
もしそれが事実になるのであれば。
私の苦労は―― 一体なにになるというの?
にこ(――そもそも、なのよね)
希に現実を叩きつけられて、目を背けていたものが頭の中をちらつくようになってきた。
そもそも、ここはなんなのだろう?
私は3月のあの日から、どうなってしまったのだろう。
本当に過去の世界にタイムスリップした?
だとしたら、元の時代には戻れるの?
9人集めることに、μ'sを集めることに。
意味は――あるの?
にこ(ダメ……)
それだけは、きっと考えちゃダメ。
そこに疑問を持ったら。
きっと私は、もう――耐えられない。
真姫「つまんなそうな顔してるわねぇ」
にこ「……あによ。文句ある?」
真姫「あるに決まってるじゃない。自分の演奏をそんな表情で聞き流されてるんだから」
にこ「……それもそうね」
真姫「……ひょっとして、あなた私を馬鹿にするためにわざわざ来たわけ?」
にこ「…………」
なんのため、というのなら。
心配になったから、と答えるのが正しいのだろう。
まあ恥ずかしいから死んでも言わないけど。
私たちが8人しか揃わないと知って最初に浮かんだのは、このひとりぼっちを望む女の子だった。
この子は――真姫ちゃんは、結局μ'sには入ってくれないのだろうか。
彼女の言葉を思い返せば、じゅうぶんにあり得る話ではある。
そう考え始めたら、そう、無性にこの子の顔を見たくなってしまった。
今日の練習をさぼってまで音楽室に顔を出したのは、そのせい。
そう――心配になったの。
真姫「――変な人」
ぷい、と顔をそらすと、真姫ちゃんは再び鍵盤へ向かう。
真姫「新曲、できたの――聞いて」
返事も待たず、すう、と真姫ちゃんは息を吸い。
指先が、白と黒の上を踊る。
にこ「――――」
例によって例のごとく、聞き覚えのあるメロディ。
ピアノ用にアレンジしてあるものの、この曲であることに間違いはないだろう。
イントロが終わりに近づき、私も大きく息を吸う。
これから紡ぐ歌詞を思い浮かべて、そして。
にこ(この子――私の心の中、読んでるんじゃないの?)
なんて、思ったりしたのだった。
Someday いつの日か叶うよ願いが
Someday いつの日か届くと信じよう
そう泣いてなんかいられないよ だってさ
楽しみはまだまだ まだまだこれから!
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