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    元スレ憧「吹き抜ける風」

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    1 :

    咲-Saki-のIf物。マイナーですが、憧咲で書いていきます。
    ・書き溜めは多少ありますが、進行速度には期待しないで下さい。
    ・速報と麻雀、どちらも素人につき注意。
    ・途中、咲さんが人鬼っぽく見えるシーンがありますが目の錯覚です。


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    2 = 1 :

    過去の記憶は少しずつ磨り減って消えていく。だけど、彼女と出会ったその日の夕日は今でも色褪せない。

    私が4月に阿知賀女子に入学した、教室の窓と廊下を通り抜ける風がまだ冷たいころ。

    「っと……忘れ物忘れ物」テッテッテ

    今日の課題で使う教科書を忘れた私は、一人放課後の教室へ走っていた。

    「鍵は……良かった、まだかかってない」

    教室の扉を開ける。春にしては冷たい風が吹き抜けた。思わず体が少し固まってしまう。

    「うわ……さむっ」

    早く教科書を持って帰ろう。そう思って顔を上げた時だった。

    「あれ……まだ人がいる……」

    窓際の一番後ろの席。そこにちょこんと座る人影があった。

    人影「……」

    (誰だろ?こっちには気付いてないみたいだけど……)

    3 = 1 :

    意味もなく、足音を忍ばせて忍び寄る。雲に隠れていた陽が少しだけ顔を覗かせて、人影照らした。

    「あ……」

    その顔を私は知っていた。

    「……」

    宮永、宮永咲。私と同学年の、少し、いや、とても大人しい子だった。咲は夕日を頼りに、何やら難しげな本を読んでいた。

    咲と話したことはあまりない。なんで話しかけようなんて思ったかなんて覚えてない。

    ただ、無理に理由を挙げるなら、夕日に灼かれた咲の顔がとても綺麗だったからだろう。

    4 = 1 :

    「目、悪くするわよ」

    教室の隅で夕暮れがうずくまっている。私が声をかけて、漸く咲はこちらの存在に気付いた。
    咲は、少しだけ目をしょぼつかせながら笑った。

    「そう、だね……」

    それから咲は、パタンと本を閉じると帰り支度を始めた。

    「いつの間にか暗くなってたよ」

    ゆっくりと、落ち着いた声だった。まるで、大気に溶けて消えてしまいそうな声だった。

    「気をつけたら。咲、眼鏡なんて似合わないから」

    「そうかもね」

    小さな手に鞄が収まった。

    「ねえ、何の本読んでたの?」

    すっと、咲が本の表紙を私に見せた。誰でもって知っている、有名な文学者の名前がかかれてあった。

    「あんまり話した事無かったけど……咲ってそう言う本読むんだ」

    咲は、何も言わなかった。フッ……そんな風に笑った時には、もう教室を出ようとしていた。

    5 = 1 :

    「それじゃあね、新子さん」

    また明日。その言葉を咲の口から終ぞ聞くことは無かった。これが出会い。私と咲が出会った、最初の日だった。

    6 :

    憧も咲も京太郎の彼女じゃん百合豚頭大丈夫?

    7 = 1 :

    その日をきっかけにして、という訳では無いけど、その日から私は咲によく話しかけるようになった。

    初めはおはようとか、ありきたりで短い会話だったけど、次第に会話の時間も長くなっていった。


    クラスメイトその一(以下くのいち)「でさぁ……」haha!


    「へぇ……あ、咲だ!ごめん、また後で!」

    くのいち「あ……」シュン

    「咲!今日も遅刻ギリギリじゃない!」

    「……あんまり大声出さないで。朝は低血圧なの」

    怠そうに鞄を片手に入ってきた咲。時計の針は11を指していて、あと5分でホームルームが始まる所だった。

    「間に合えばいいんだよ……」

    辛そうに席に着く咲。私も自分の席、つまり咲の一つ前の席に座る。椅子を回して咲と向かい合う。

    「なに……?」

    「今日、現文の課題あったじゃない?」

    「あったね……」

    「一番最後の問題の答えって3でしょ?」

    「なんでそんなこと……?」

    8 = 1 :

    「だってくのいち(以下、女)宿題忘れてたから答え合わせ出来なかったから」

    「……」ジト…

    「……」ワクワク

    「はぁ……」

    私の顔を見て、咲は何かを諦めたように溜め息を吐いた。

    「あ、今素直に話した方が早く終わりそうだとか思ったでしょ?」

    「……エスパー?」

    「いやそこは否定しなさいよ」

    ペシリと頭を叩く。

    9 = 1 :

    「……4」ボソッ

    「ん?何が?」

    「問題の答え。新子さん、引っかかったね」

    「え!?だって4は……」

    「3も間違ったこと書いてないけど、締めの結論が文章の主旨と逆になる」

    「言うわね……じゃあ、賭けしない?」




    教師「答えは4だ。3を選んだ奴は反省な」




    「どちくしょー!」

    休憩時間、私は自販機に走っていた。

    10 :

    昼休み。普段、私はシズや玄達と部室で食事をするんだけど、その日は

    穏乃「ごめん!現文の先生に呼び出された!」

    「ごめんね。お姉ちゃんが風邪引いちゃったから今日は休むね」

    「ごめん、今清澄に居る」

    という訳で、きょうは咲と昼食を食べている。

    「咲、お昼はパンなんだ?」

    「意外だった?」

    咲が低血圧だっていう話は本当だったみたいで、今は普通に会話してくれている。

    「何て言うか……咲って自分でお弁当作ってくるイメージがあったから」

    「それで合ってるよ。お米切らしちゃったから、今日はコンビニに寄っただけ」

    明日からは普通にお弁当に戻すよと、パサパサの焼きそばが詰まったパンを食べる。考えるより早く、手が動いていた。
    「咲」

    「ん?なに?」

    「えい!」

    咲の口に唐揚げを突っ込んだ。

    「むぐ」

    11 = 1 :

    頬を膨らませながら、必死に唐揚げを飲み込む咲。少しだけ涙目になっていて、不覚にも可愛いと思ってしまった。今度はチョコバナナでやってみよう。

    「唐揚げ美味しかった?」

    「お、美味しかったけど……」

    「パン一つだけなんて体持たないわよ」

    咲が唐揚げを飲み込んだ瞬間を見計らって、今度は苺を口の中に入れた。

    「ん……」

    咲は少しだけ非難がましくこちらを見たけど、文句は言わなかった。
    変わりに焼きそばパンが私の口に突っ込まれたからだ。

    「むぐっ」

    一口かじる。あんまり美味しくなかった。
    端から見たら間抜けな光景だったかもしれない。二人して食べさせ合いっこをしているのだから。

    12 :

    期待するしかない。支援

    13 = 1 :

    ざわざわ「ねえ、あれって間接キスじゃない?」

    ざわざわ「あの二人、もしかして出来てるのかも……」

    「っ……!」ギリッ

    お互いの口に手を伸ばした状態で固まる私と咲。膠着は、咲が観念してイチゴを食べる事で終わった。

    「おいしい……」

    「ぷっ……」

    思わず笑いがこみ上げてきた。つられるように咲の口元も震える。そのときだった。

    「新子さん行儀悪いよ」

    「あ……」

    「……」

    咲が普段の顔に戻ってしまった。

    「宮永さんも。あんまし調子乗んないでよ……」

    「ちょっ……」

    その言い方無いんじゃない!?思わず大声を上げそうになった。でも、その寸前に私の腕を強く握った咲のせいで怒るタイミングを見失ってしまった。

    14 = 1 :

    「ふんっ」

    何食わぬ顔で逃げていく女。行き場を失った私の怒りは行き場を見失って、咲に向かってしまった。

    「なんで止めたのよ!」

    「……」

    「悔しくないの!?」

    何とか衆目を集めないギリギリの声で咲に噛みつく。咲は、何も言わなかった。ただ息を止めて、私を真っ直ぐ見ていた。ギュッと咲に握られた腕が、痛かった。

    「うっ……」

    ……先に折れたのは私だった。

    「……。ごめん。咲に怒るなんて筋違いだった」

    「……」ホッ

    途端に空気が弛緩する。咲の机には、いつもの静かな空気が戻っていた。

    「お昼、早く食べよ?」

    「そうね……」

    いつの間にか、咲の顔には普段通りの表情が張り付いていた。

    (せっかく咲の笑顔が見れると思ったのに……)

    15 = 1 :

    取り敢えず、今日(昨日?)はここまでです。
    支援して下さった方、ありがとうございます。続きは明日にでもあげます。

    16 :

    おつ

    18 = 12 :

    好きな組み合わせなので嬉しい
    続き楽しみにしてる

    19 :

    あらたその発言が⁇なんだけどどゆこと?

    21 :

    おつおつ

    22 = 1 :

    遅れてすみません。30分から始めます。



    あらたその発言ですが、咲と入れ替わって清澄に入学したという設定です。解りづらい書き方ですいませんでした。

    23 = 1 :

    私が咲と出会ってから一週間が経った頃、時を同じくして私達麻雀部はある一つの危機に瀕していた。

    穏乃「不味いですよ、玄さん……」

    「不味いですね、穏乃さん……」

    「結局一人も集まらなかったわね、部員」

    「折角オリエンテーション頑張ったのにね……」

    穏乃「ぐわー!『新入生150人いるから何とかなる』作戦は失敗したー!」

    という訳である。

    穏乃「よし、作戦プランBに移行しよう!『全校生徒450人いるから多分大丈夫』作戦……」

    「母体数上げればいいってもんじゃないわよ」アキレ

    穏乃「そもそも何で一人も集まらないんだ!料理研は30人近く集まったというのに!」

    24 = 1 :

    「仕方ないわよ。麻雀やる人は基本的に晩成に行っちゃうんだから」

    「うう……解っていたことだけど、いざ現実を突きつけられると……」

    阿知賀に入学した時点で解っていたことだけど、この学校に麻雀やりに来る人なんて殆どいなかった。

    「どうしよう……部活申請期間が終わっちゃうよ……」

    穏乃「確かその期間内に申請しないと、部活としては認めてくれないんでしたっけ?」

    「うん…現段階では愛好会だし」

    「どうする?愛好会が大会の個人戦は出れても団体戦には出られないわよ」

    穏乃「不味い……このままじゃ和と遊べない……」

    申請期間のリミットは既に一週間を切っている。

    これを逃すと、次の申請期間が訪れるまでぼそぼそとやらないといけなくなる。当然、大会には間に合わずアウツッ……!

    25 = 1 :

    穏乃「こうなったら名前だけ貸してもらって……」

    「却下。そんな部員、いない方がマシよ。空気が緩む」

    仮に、そんな方法で五人揃えたとしても、晩成高校は倒せない。シズもそんな事は言われなくても解ってるから、直ぐに「冗談だよ」と言った。

    穏乃「でもさ……本当に早く部員を集めないと……本当の本当に間に合わないだろ?」

    思わず窓の外を見る。溜め息が、4月の深い曇り空に昇っていった。

    穏乃「はぁ……どこかに居ないかな、麻雀の強い女の子」






    居ました。物凄く近くに。具体的に言うと、私の一個後ろの席に。

    26 :

    待ってた

    27 = 1 :

    咲が麻雀を出来ると知ったのは、翌日の事だった。

    「え!?咲麻雀出来るの!?」

    食事中の教室に私の声が響いた。一瞬だけ教室中の視線を集めたけど、またあの二人かとすぐに散った。

    「ひゃっ……」

    「あ、ごめん」

    唾が飛んでしまった。咲の頬を拭いながら、私は咲の綺麗な目を見つめた。

    「お願い、私を助けると思って!」

    「出来るだけだよ……」

    「いやいや!ルールも知らない初心者よりはマシだから!」

    お願い麻雀部に入ってと咲を見る。返事は……ノーだった。
    「な、どうして……」

    「……」

    「……見せたくないの」ポツリ

    「へ?今なんて……」

    「私の麻雀は……見てて気持ちの良いものじゃないから」

    「それってどういう……」

    「私の麻雀はもう汚れてる。だから、新子さんや他の部員さんには見せたくないの」

    28 = 1 :

    話は終わりだと言わんばかりに席を立つ咲。咲の弁当箱はいつの間にか空になっていた。

    「あ……待っ」

    「そんなやる気のない人の勧誘なんて止めたら」

    いつの間にか後ろをとられていた。アナザーなら死んでた。

    「やる気が無いって……」

    「見せたくないって、つまりそう言うことでしょ。汚れてるとか何かそれっぽいこと言って逃げてるだけに決まってるし」

    その言葉に、私は何か言おうとして、

    「……」

    何も言うことが出来なかった。その言葉を否定出来るほど、私は咲を知らなかった。
    それに、出来ることなら女の言うとおり、やる気が無いだけであって欲しかった。

    (咲の麻雀が汚れているなんて……絶対に考えたくない)

    29 = 1 :

    でも、咲は嘘なんかついてなかった。
    私が咲と出会ったとき、咲の世界はもう蝕まれていて、取り返しがつかないほどに穴だらけになっていた。
    私が咲の麻雀を見たのも、咲の言葉の意味を知ったのも、その日のことだった。

    30 = 1 :

    放課後。その日も部活は無く、私は家でゴロゴロしていた。お姉ちゃんから電話がかかってきたのは、帰りの遅い親に代わって夕食を用意している最中のことだった。

    「もしもし、お姉ちゃん?」

    「あ、憧。悪いんだけど、今日バイトが長引きそうなのよ」

    「バイトって雀荘の?」

    「そうそう。今日は外で食べてくるから」

    「大丈夫なの?お姉ちゃん、浮いた話どころか財布にも春が訪れた事無いのに」

    「やかましい」

    「何だったら、おにぎり作って持って行ってあげようか?」

    「あんまり憧をここに来させたくないんだけど……仕方ないか?雀荘はどこか解る?」

    「知ってる知ってる。近くにパチンコ屋がある……」

    そこで電話は切れた。

    31 = 1 :

    味噌汁の火を止めて、いそいそと熱いお米を握る。具は……鮭、梅干し、キャベツの芯でいいや。
    お漬け物と一緒にタッパに入れると、私は家を出て夜道を自転車で走った。

    「バイトか……」
    お姉ちゃんには欲しい物があるらしい。だからバイトをしている。一度「彼女?」と聞いたら筋肉バスターの実験台にされた。「だからずっと冬眠中なのよ」と言ったら、なんかスタンドっぽい物が出てきた。

    32 = 1 :

    「欲しい物……」
    暫く考えたけど、特には思いつかなかった。
    欲しい物なんて無い。強いてあげるなら部員だけど、それは何だか違う気がする。そんな取り止めのない事を考えている間に、自転車は雀荘の前に着いていた。
    「相変わらずね……」

    この雀荘は何回か来たことがある。お姉ちゃんが働くこの雀荘は、はっきり言ってガラは良くなかった。時給はいいからお姉ちゃんはココでバイトしているけど、私には極力近寄らせないようにしていた。

    中に入る。店内は、相変わらず耳が痛くなる程の音で溢れかえっていた。
    けど、

    「そんな……話が違います!」

    その日の喧騒は、何かが違った。

    「あれ……お姉ちゃん?」

    33 = 1 :

    普段は直ぐに来てくれる筈の姉の姿が今日は無くて、
    変わりに中央の卓を囲むように人垣が出来ていた。

    「何か有ったのかな?」

    何とか人垣の中の声を聞こうと耳を澄ませる。

    「始める前に確認した筈です!千点五円って……」

    柄の悪い(以下、悪男)「ああ、確かに点五には違いないさ。ただ、ビンタを忘れんなっつってんだよ」

    どうやらレートについてのトラブルがあったみたいだった。
    (ビンタ麻雀って……今時そんなの誰もやらないわよ)

    尚も悪男のダミ声が聞こえる。

    「ビンタは10万、あんたは五回連続ラスだから250万……端数はまけてやってんだから感謝して欲しいくらいだ」

    34 :

    アナザーなら死んでたww

    35 = 1 :

    「ビンタなんて聞いて……」

    「俺達はそのつもりで打ってたんだぜ。なあ?」

    手下A「ああ」

    手下B「右に同じく」
    「……」

    これが、私の知らない誰かが巻き込まれていたなら、私は大人しく回れ右をして家に帰ったかもしれない。でも、出来なかった。

    乱暴な声が聞こえた瞬間、私はその場に立っていられなくて

    「お姉ちゃん!」

    後先考えず、人垣を分け入っていた。姉はいた。人垣の中央に、男達に囲まれていた。私を見た瞬間、お姉ちゃんの目の色が驚きと悟りと絶望で染まった。

    「憧!?来ちゃダメ!」

    「ん、なんだこのガキ?コイツの妹か……ちょうどいいか」ガシッ

    「はっ、離してよ!」

    「誰が離すかよ。お前の姉は250万の負債を作ったんだ、二人併せてしっかり楽しませて貰わねえと元が取れねえんだよ!」バン!

    「ひっ……!?」

    逃げ出したかった。でも、後ろから腕を掴まれて動くこともままなかった。

    「嵌められた……」

    悔しげな姉の声が聞こえた。何だか全てがスローに見えた。悪男がニヤニヤしながら胸元に手を伸ばしてくる。

    36 :

    周りからはやし立てるような声が聞こえてくる。
    視界が、闇に覆われた。

    「お姉ちゃん……」

    目を閉じてしまった。これから起こる事が、走馬灯のように駆け巡った。

    (や、だ……)

    でも、いつまで経っても男の手が私に触ることは無かった。代わりに聞こえてきたのは、

    「……あ?何だお前?」

    忌々しげな悪男の声だった。

    「……?」

    恐る恐る目を開けた。そこにいたのは、悪男の前に立ちふさがる小さな背中だった。その背中には、見覚えがあった。

    「さ、き……?」

    37 = 1 :

    咲……宮永咲。
    間違い無い。間違える訳がない。阿知賀の制服は着ていなかったけど、角のように尖った髪を見間違える訳がなかった。

    「なんでここに……」

    咲は、私に振り返る事は無かった。

    「邪魔だ、すっこんでろ」

    「……」

    「何ジロジロ人の顔見てんだ?」

    無言で、何かを探るように悪男の顔を見続ける咲。ややあって、

    「悪男さん……今から私と勝負しませんか?」

    38 = 1 :

    咲のその言葉に、周囲がどよめいた。

    「あ?勝負だ?」

    「ええ、東風戦五回、30万ビンタをサシで」

    「無茶だ!止めなさい!」

    手下γ「てめえは黙ってろ!」

    「つっ……!」

    場がヒートアップして、悪男の「ふざけんな!」という怒声で急激に冷えた。

    「なんでお前と勝負する必要がある?」

    厳つい顔を鋭くして凄む悪男。しかし咲は何でも無いかのように、嘲るように笑って見せた。

    「別に受けたくないなら構いませんが」

    「その場合は女子高生に勝負をふっかけられて逃げた臆病者として名前が知れ渡るだけですよ?」

    「っ……!このガキがぁ!」

    39 = 1 :

    手下A「不味いですよ、手上げたら!本当に噂が広がっちまいます!」

    「ぐっ……!」

    (確かに……ここは衆目が集まる。女の退路を切るために騒ぎをデカくしたのが裏目に出たか……)
    (この勝負受けない訳にはいかない……でないと駄目木組の名に泥を塗ることに……)

    「……いいだろう。受けてやる。ただし、卓に座る人間はこっちが決める」

    「いいですよ」

    「金は有るんだろうな……?」

    真っ白な紙袋が無造作に置いた。中から福沢諭吉の束が覗いた。

    40 = 1 :

    卓が開けられた。男と、その手下が座る。一つだけ空いた咲の座る席が、まるで処刑台のようだった。

    「……!」ゾッ

    「止めて!咲は関係無いんだから……」

    夢中で叫んでいた。咲の白い肌を汚い手が這う、想像するだけで吐き気がした。

    「大丈夫だよ、私は」

    でも、咲はいつもの笑いを浮かべるだけだった。

    「大丈夫じゃない!相手は3人よ、勝てる訳ない!」

    「勝てる」

    「!?」

    「……そう言えば、私の麻雀が汚れてるって話したとき、不思議そうな顔してたね」

    咲は私の声に答えず、こちらも見ずに、独り言を呟くように笑った。

    「出来れば、見せたくはなかったな……」

    そして、咲は椅子に座った。その夜、私は初めて咲の麻雀を見た。

    41 = 1 :

    一旦中断します。再開は30分後に。

    43 = 1 :

    再開します

    44 = 1 :

    東1 親・咲

    咲 配牌

    1237899m133s南北北中

    「……」

    咲はまずセオリー通り南を打った。特に変わったことはしていない。こっそりお姉ちゃんに近づく。

    「お姉ちゃん……」

    「ごめん……憧まで巻き込んでしまった……」ガックリ

    こうなったらもう、咲の麻雀を後ろで見るしかなかった。



    12357899m133p北北

    「……咲、勝てるよね?」

    「厳しい……いや、無理だね。見て」

    「ツモ!300・500」

    悪男

    24678m88p 3m
    チー567s
    チー234m

    「あんなカンチャンだらけの手を無理やり鳴いて……」

    解っていたことだけど、卓は3対1の様相を呈していた。

    「ツモ、2000・4000!」

    22233p88s
    チー345m
    ポン555s

    「あの手……門前でも行けた筈なのに……」

    「……」

    黙って点棒を渡す咲。

    45 = 1 :

    (へっ……大口叩いた割にヘボ麻雀じゃねえか)

    (お願い、咲!鳴いてでもいいから何とか上がって!)

    「鳴いたら駄目だ……アイツ等が待っているのは、こちらが鳴いて手を短くする瞬間……」

    「手が短くなったところにリーチ……私はそれにやられた」

    「じゃあ……」

    「ああ、あの子みたいに門前で行くしかない……」

    (だが、それでいい……そっちが門前で頑張っているうちに、俺は鳴いて早和了をする……)

    手下A(中、来ました)
    (よし、切れ)

    「ホラヨ」

    「ポン!」

    (役は確保……後は……)

    悪男 手牌

    2255m899p789s
    ポン中中中

    (残った形も悪くない、7ピンを鳴いて聴牌……問題無--)

    「リーチ」

    その時、咲が動いた。

    (リーチだとっ……!)

    「……」

    手牌

    34m11122p345s白白白

    46 = 1 :

    (やった!役白のみだけど初めて追いついた!)

    (くそっ……8ピンは現物だが9ピンは無筋、チー聴はしたくない)

    しかし、直後悪男は三枚目の9ピンを引いた。

    (よし、現物切って聴牌!)

    悪男

    2255m999p789s
    ポン中中中

    (お前ら2・5ワン持ってるか)ミミカキカキ

    手下A(こっちにはありません)ヒヒーン

    手下B(今引きました!切ります!)キエェェェ!

    2ワン「こんにちは」

    「そいつだぁ!ロン、中のみ!」

    (大丈夫、頭跳ね出来る……!)

    「……」パタン

    しかし咲は何も言わず、手を伏せてしまった。

    (ば、馬鹿な!一発白ドラ1の満貫を……)

    (何やってるのよ咲ぃ……!)

    47 = 1 :

    私達の焦燥をよそに、咲は一向に動こうとしなかった。オーラス、咲は抵抗らしい抵抗もせずに終わる。咲は3着で悪男はトップ。

    「けっ……大口叩いた割に大した事無いぜ」

    (なんで……なんでよ!)

    紙袋の厚みが半分は減った。後一回、原点割れを起こしたら後が無い。

    「このままじゃ……」

    不安のただ中、二回戦も咲は動かなかった。ただ黙って牌を切っていく。今度も一回も上がらずの3位だった。

    (なんだ、コイツ……本当にただの雑魚じゃねえか)マテヨ?

    (紙袋の金は大分減っているが、ひょっとするとまだ持っているかもしれない……)

    手下A・B((ヘボなガキ相手なら俺達も……))

    悪男・A・B(もっと毟れるかもしれない……!)

    48 = 1 :

    「大口叩いた割に負けがこんでないかァ?」

    「……」

    「何だったらビンタを上げてやっていいんだぜ……倍の60ビンに」




    「……」ゴッ




    ・望「!?」ビクッ

    A・B「アニキ、俺達も参加して良いですか?」

    「ああ、30で参加しろよ。ちょっとした稼ぎだ」

    「てめえがふっかけた勝負だ、当然受けるよな?」

    ニヤニヤしながらビンタアップを要求する悪男。しかし、私はそれどころではなかった。

    (こいつら……ビンタアップに夢中で気付いてないの!?)

    (なんだ……レートアップの話が飛び出した途端、この子の雰囲気が一変した……!)

    今までの静けさがそよ風だとしたら、今の静寂は嵐の前の静けさに他ならなかった。

    「……」ニヤリ

    「では、レートを改めての3回戦です」

    49 = 1 :

    東1 親・咲



    12689m334p13s北北中発

    (最悪……レートが上がった直後なのにこんなゴミ配牌じゃ……)


    「……」ギラッ

    打 6ワン。

    (何やってるのよ!そんな手牌じゃ先ずは字牌やペンチャンの処理が先でしょ!)

    二巡後

    B(北か……自風だがこの手ならタンピンだな)ポイ

    「北・ポン」打8ワン

    「なっ!?」

    (馬鹿な……なんでその手で北ポンなんだ!)

    「オワタ……」

    が、真相は少し違った。

    (オタ風をポンだと……なら6ワンの早切りからしてピンズかソウズの染め手だな)

    (お前はマンズを切って合わせろ)

    B(了解……良形の配牌だったが仕方ない……)

    「……」

    しかしその後、男達に思わぬ事態が発生した。それはまず、咲の下家のAに起こった。

    A(なんてこった……)

    A

    789m23789p789s中中中

    50 = 1 :

    A(このガキが鳴いてから無駄ヅモ無しで聴牌しちまった……中チャンタ三色)ゴクリ

    A(30ビン……今はガキが親だからリーチしてツモっても問題あるまい!)

    A「リーチ!」

    これがまず、間違いの元だった。同順、

    (Aの奴、張りやがったな……しかし、俺からは当たるまい。なら全ツッパだ)打4ピン

    A(ぐっ……一発で)

    (もうちょっとだ……バカなガキのポンで美味しい所が入ってきたぜ……!)



    444777m5556p東東発


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