元スレ和「フランスより」咲「愛をこめて」
SS+覧 / PC版 /みんなの評価 : ★★★
351 :
寝落ちかな
352 :
彼女が自信作として出してきた二品は、それらに比べたら遥かに地味で素朴である。
憧「ねぇ、カレン。参考までに訊いていい?」
それは誰しもが思っていた疑問のようで、代表のように憧が「合格の決め手は?」と問いかけた。
カレン「そうだな……まず、前提として私は各人に別の課題を与えてるんだけど」
憧「うん」
カレン「その答えもまた、当然バラバラなんだ」
オーナーの目がちろりと光った。
カレン「和が今までに作ってきたケーキは、それは素晴らしいものだった。もし他のスタッフが作ったものだったら私はすぐに合格を出していただろう」
咲「えぇっ?」
憧「なんで……?」
あまりに意外な事実に、方々から声が上がった。
それをカレンは一瞥だけで抑える。
カレン「何故なら、和にとっては特別でもなんでもないからだ」
和「……つまり?」
カレン「和は掛け値なしに天才だ。だからこそ凡人が気力を注いでやっと作れるケーキも、お前にかかっては片手間でできてしまう」
カレン「そこに、作り手としての『特別』なんて何もないだろう」
和「………」
353 = 1 :
カレン「お客の味覚って、私らが思っているよりずっと敏感なんだ。おざなりに作っているケーキは、やっぱりそういう味がする」
カレン「だからこそ、特別なケーキは作り手も特別な想いを込めて作らなくてはならない」
咲はもう一度ケーキを見た。
そして、あのなんともいえない素晴らしい味を思い出す。
カレン「だけど、このケーキは違う。和が見つけた、和ならではの『特別』が詰まっている。それこそが、私が求めていた『特別』なんだ」
ここまで言い切ると、カレンは咲を見つめた。
カレン「そして、和はこのお菓子を一人ではなく、咲というパートナーと二人で作り上げた」
咲「そんな、私は何にも……っ」
カレン「和にインスピレーションを与えてくれたんだろう?大した仕事さ」
「いわば、二人の共同作品だな」とカレンは笑った。
憧「あれ?でも、試験は独力じゃないとダメって……」
カレン「まぁ、それも一般的には、だな。製菓は分業が多いから、どうしても自分の得意分野以外は疎かになりがちだ」
カレン「だから、例え将来どういうポジションについても一人前たるもの、最初から最後まで手を抜かず自力で作れって言う意味だったんだが…」
憧「和は違ったってこと?」
カレン「憧もわかるだろう?和は、最初から独りで作ってた。だから、むしろ今回は誰かと共に作ってくれた方が嬉しかったんだ」
いよいよ全てを言い終わると、カレンは「もう一口いいか?」とケーキに手を伸ばした。
カレン「しっかし本当にうまいな。クラシック通り、バターと砂糖と……」
指についた最後のひとかけらを、彼女は真っ赤な舌でぺろりと舐めとった。
カレン「何より、『Amour』がたっぷり詰まっている」
354 = 1 :
■ ■ ■
昼下がりから予定されていた咲の送別会は、一転して和の合格祝いとなった。
ついでに二人が(やっと)本当に恋仲になったこともみんなにバレて、パーティーはますます喧騒を深めていく。
和「……そろそろ時間ですか?」
今、和と咲は夜のシャルル・ド・ゴール空港にいた。
主役二人を何とか会場から抜け出させてくれたのは、パーティーの仕掛け人である憧である。
時刻はもう少しで夜の十時だ。
咲はそろそろ空港のセキュリティゲートを抜けなければならない。
そこから先は、和は着いてくることができない領域だった。
和「荷物はそれだけでいいんですか?忘れ物は?」
咲「大丈夫だよ。元々持ってこなかったし……ほら、あの本はちゃんとここに」
いつか和と歩いていた時に見つけた写真集をボストンバックから覗かせた。
和「本当に、大丈夫でしょうか」
咲「もし忘れ物をしてしまったときは……」
涙が滲みそうになる瞳を上へ向けた。
咲「和ちゃんが、届けに来て」
和「咲さん……」
咲「そうじゃなかったら、メールでもなんでもいいから教えて。私が取りにいくから」
鼻の奥がつんとなって、今それを必死で堪えている咲の顔はひどいものに違いない。
咲「ここに、残るんでしょう?」
和「……はい。一人前になるまで、日本には帰らないと決めましたので」
咲「……うん。それでこそ和ちゃんだね」
無理に笑みを作った咲が呟く。
355 = 1 :
和「――――いつか、きっと。迎えに行きますから」
咲の手をぎゅっと握りしめながら和が囁く。
咲「………うん」
和の手を握り返し、咲は頷く。
咲「ねえ、和ちゃん。フランスと日本ってね、今では12時間くらいで行けちゃうんだって」
和「はい」
咲「だから、いつ和ちゃんに逢いたくなっても……ひとっとび、だよ」
現実は、そんなに簡単にいかないことはわかっている。
旅費は掛かるし、時間だって働き始めたら取れるかどうかわからない。
けれども、もう和と咲は最初の時と違うのだ。
お互いにお互いから逃げて、でも完全に切り捨てることは出来なくて――
いつのまにか相手を見失って後悔していた自分たちはもういない。
メールアドレスとスカイプのID、そしてもう疑うことのない愛が、今は二人をしっかりと結び付けている。
咲「元気でね」
和「咲さんも」
和の腕が、その胸に咲を抱きこんだ。
そのせいで咲はうっかり和の服を濡らしてしまう。
咲「……もう行かないと」
和「……はい」
名残惜しい熱と鼓動から我が身を引き剥がし、今度こそ咲は笑って和に手を振った。
咲「また逢おうね。和ちゃん」
356 = 1 :
今回はここまでです。
次で終わります。
357 :
あああ終わって欲しくないけど早く続き見たいジレンマが
すばらな咲和をありがとう
358 :
乙
アコチャーもいい仕事してるな
359 :
おつ
待ってたよ
360 :
待ってた~ありがとうすばらだわー!
咲のどももちろんそうだけど作中のケーキの発想が特にいい!何でもない日を特別に変える何でもないケーキ、王様と妃……いやほんといいと思う
次回で終わるの名残惜しいけどまた待ってます。がんばって!
361 :
乙です
天才肌で他人に興味なかった和が咲に影響受けて完成させたってのが
何と言うか原作っぽい関係の二人でとても良い
362 :
咲-Saki-っていう漫画に出てくるキャラと同じ名前のキャラが多いのはひょっとして>>1も咲-Saki-好きだったり?
363 :
乙
終わってしまうのは寂しいな
ぜひまた良質な咲和書いてほしい
364 :
これって二次創作ってことになるの?
365 :
完結楽しみにしてるよ
366 :
最後か
寂しいが期待
367 :
作品に雰囲気があってもっと読みたくなる
続き待ってますよ
369 :
まだかな
370 :
待ってますよー
371 :
今月中に更新予定です
お待たせしてすみません
372 :
おお、待ってます!
373 :
■ ■ ■
都内某所。主要でもない駅から徒歩20分というやや不便な立地にあるその洋菓子店は、
小さいながらも知る人ぞ知る名店といえた。
店主が手ずから改装したという趣味のいい店内。
カランカランと控えめな鈴の音と共に出迎えてくれるのは、
ウォールナット材の上質なフローリングと厨房から漏れてくる菓子の甘い匂い。
シンプルながらしっかりとしたテーブルと椅子に、
清潔なテーブルクロスの上にはいつも瑞々しい季節の花が飾られている。
冬の終わりに植えてみたローズマリーは悪くない出来だった。
咲は葉の質を確かめながらいくつか籠に取り、
今日テーブルに飾る花をハサ ミで手折ると服に付いた土を払いながら立ち上がった。
ハーブと花を摘んだ籠を持って店の中に入る。
灯りが充分に明るい室内を、咲はこよなく愛している。
和と共に探した理想の家は、南向きに面した大きな窓から直接庭に出ることが出来る。
庭は決して広くは無いがその分管理もしやすく、何よりも天気のいい日の日向の匂いが咲のお気に入りだった。
374 = 1 :
和「咲さん」
店の奥から自分を呼ぶ声がして、咲は小走りに店内に入った。
途中チェストの上の小物に少し埃がかかっているのを見付けて心のメモに書き留めながら厨房へ向かう。
ふんわりと漂ってくる、うきうきするような心躍る甘い匂い。
咲は手に持っていた籠の 中から花だけを寄り分けると、和の手の届く場所に置く。
和「咲さん、悪いですけどソースのほうを見てください。手が離せなくて」
咲「分かったよ」
和「ありがとうございます。ローズマリーはどうでした?」
咲「いい感じだよ。美味しいハーブティーができそう」
和「それはとても楽しみです」
店の開店は10時で、夜の閉店は20時。
和がお菓子作りをしている間に咲が店内を丁寧に掃き清める。
そうして二人で入り口に行き、下げ看板をclosedからopenに変えた。
和「今日もよろしくお願いします、咲さん」
咲「よろしくね、和ちゃん」
375 = 1 :
カランカランカラン……レトロな鐘の音が、この店に客が訪れる合図である。
今日最初の客は女性客二人だった。
咲「いらっしゃいませ。お二人様でよろしいですか?」
「はい。二人です」
咲「お席は好きなところをどうぞ」
微笑みながら言うと、女性たちはテラスにほど近い位置に腰掛けた。
咲は厨房へ行き、グラスと水の入ったピッチャーを運ぶ。
咲「ご注文はのちほど伺ったほうが?」
「いえ、いま。ケーキセット2つでミルクレープといちごのタルトを。飲み物はどちらもアイスティーで」
咲「かしこまりました。少々お待ち下さいませ」
咲は礼をして静かに立ち去る。
咲「和ちゃん。ミルクレープといちごのタルトお願いね」
和「了解しました」
咲が告げると 、和は手早くケーキを作る準備に取り掛かりはじめた。
その隣で咲は二人分のアイスティーの用意をする。
咲が飲み物を運んで行くと、女性たちは雑誌を開いたままなにやら話し込んでいた。
咲「こちら、アイスティーで…」
「あの、もしかして宮永プロの妹さんですか?」
急に話しかけられ、咲はきょとんと目を輝かせたのち軽く頷いた。
376 = 1 :
姉の照は麻雀のプロとして活躍している。
甘いものに目がない彼女は頻繁にこの店にやってきては菓子に舌鼓をうっていた。
咲(そういえばお姉ちゃん、この間雑誌の取材でこの店のことを話したって言ってたっけ)
女性たちが見ていた雑誌はもしや姉関連のものかと、咲は納得する。
咲「はい。宮永照の妹で咲といいます」
「やっぱり!すっごく似てるなって二人で話してたんです」
はしゃぐ女性たちに、咲も淡い微笑みを浮かべながら会釈する。
咲「ありがとうございます。それではごゆっくりどうぞ」
その日の、午後7時過ぎのことだ。
ラストオーダーも間近、平日ということもあり自分たち以外には客もおらず、
そろそろ閉店準備をしてもいいかと和と話していた頃だった。
穏乃「こんばんは~」
憧「久しぶりね。咲に和」
カランカランカラン……と聞きなれた鈴の音と共に現れた女性二人に咲は頬を綻ばせた。
377 = 1 :
咲「いらっしゃい、憧ちゃんに穏乃ちゃん。今日はお店の方 は?」
穏乃「うちの和菓子屋なら憧のお姉さんに任せてきちゃった」
和「いいんですか?店主が二人ともお店を放って東京までやって来て」
厨房から出てきた和があきれ顔で問いかける。
憧「いいのいいの。お姉ちゃん、専業主婦で暇を持て余してるんだから」
穏乃「それに久々に二人に会いたかったしな」
咲「ふふ。それは光栄だね」
咲は二人からスプリングコートを受け取ってハンガーに掛け、二人を店で一番いい席に案内する。
その席からは昼でも夜でも関係なく庭が良く見える特等席だった。
特に今の時間帯は夜仕様にライトアップされている。
ホームセンターで買ってきたものを二人で設置しただけの簡単なものではあるも のの、手を掛けた分思い入れが強い。
咲は二人にグラスと水が入ったピッチャーとメニューを渡す。
378 = 1 :
穏乃「何を頼もうかなあ」
憧「和の作ったお菓子はどれも絶品だから迷うわね」
穏乃「そういう憧だってお菓子作りうまいじゃないか」
憧「……私は結局パティシエにはなれなかったからね」
ぽつりと呟かれたその言葉に、穏乃は気遣わしげに憧を見やる。
穏乃「憧……」
憧「ま、でもいいんだ。一番なりたかったものになれたんだし」
穏乃「なりたかったものって?」
憧「決まってるでしょ。しずのお嫁さん!」
穏乃「……バカ」
憧の答えに、穏乃は頬を赤く染めながら呟く。
和「すみません、いちゃついてないでさっさとオーダーしてくれませんか」
甘い雰囲気をぶち壊すかのように和の声がかかる。
穏乃「わわっ、ごめん和!」
憧「和ってば相変わらず堅物ねえ。咲も苦労してるんじゃない?」
和「そんなことはありません!」
むっとして言い返す和にくすりと笑みながら、咲が言葉を返す。
咲「そこが和ちゃんの良いところだよ」
和「咲さん……」
和が先程の穏乃よろしく頬を赤くして咲に寄り添う。
憧「あんた達だっていちゃついてるじゃん……」
しっかりと手を繋ぎ合う咲と和に、憧はそっとため息を吐いた。
379 = 1 :
あの日のことを、咲は昨日のことのように思い出せる。
和とフランスで別れてから2年後。
貴子に紹介されたエージェントのアシスタントとして働いていたある日のことだった。
咲の携帯に、和からの着信があった。
咲 「…もしもし?」
和『お久しぶりです、咲さん』
咲「どうしたの?こんな時間にスカイプでもなく電話で。パリはいま深夜じゃ」
和『咲さん。聞いてください』
咲「…和ちゃん?」
いつになく真剣な声の和に咲は押し黙る。
そのとき来客を告げるチャイムの音が鳴った。
こんなタイミングになんだと、最初は無視をしようとしたが。
音を鳴らしている主は全く構うことなくチャイムを鳴らし続けている。
宅配便だろうか?
和の話に集中したいが、このままでは意識が散漫してしまう。
380 = 1 :
咲「ごめんね和ちゃん。来客みたいなので一旦切るね――」
咲は携帯に耳を近付けたままドアを開ける。
すると、目の前に広がったのは――――
和「咲さん!」
深紅の薔薇の花束とその香り。
そして大好きで大切な人の、眩しい笑顔。
和「私と、ずっと一緒にいてください」
ぽかん、と咲は人生で最高だと断言できる瞬間に間抜け面になった。
和は一段と大人っぽくなっていたが、あの頃と変わらぬ少女のような顔をして嬉しそうに笑っている。
咲の頭に一気に血が上っていった。
あまりの事態に混乱が勝り、和の差し出した花束を無意識に受け取ってしまう。
381 = 1 :
咲「…………和ちゃん、仕事は」
和「辞めてきました」
咲「え……」
和「カレンにも、もう私に教えることは何もないってお墨付きをいただきましたし」
咲「………」
和「明華さんに聞いたら『プロポーズには薔薇の花束』っていうことですので」
咲「プロポーズ……」
和「プロポーズです。ちゃんと指輪もあります」
和は何でもない様にポケットを探り、ぱかりとジュエリーケースを開いて見せる。
咲は花束に顔をうずめた。
目の前が真っ赤だった。
ふわりと、和が咲の頭を優しく撫でた。
和「咲さん」
咲「…………」
和「咲さん」
咲「…………」
和「咲さん。泣いてないで、返事を聞かせてください」
咲「…………遅いよ。バカ」
和「ふふ。素直じゃありませんね」
Je t'aimeと和が美しい発音で囁いたが、咲には「私もすき」と
絞り出すように言うだけで精いっぱいだった。
382 = 1 :
それから和はパリから帰国し、
二人で新しい住処を探して店を構え、今に至る。
憧「ねえ。この後久々に皆で麻雀しない?」
和「いいですね」
穏乃「さんせーい!」
咲「それは楽しみだね」
憧「じゃあ早く食べてしまわないと」
穏乃「そんな急かすなよ憧~」
和「そうです。ちゃんと味わって食べてください」
咲「だね。和ちゃん自慢のお菓子なんだから」
その洋菓子店の名前は「BONNE FORTUNE」
店で出されるお菓子がどこか優しく、どこか暖かい味がするのは
「食べて、幸せになってほしいひとがいるから」という話である。
カン!
383 = 1 :
以上で完結です。
読んでくださった方、レス下さった方ありがとうございました。
和咲尊い!
384 :
乙です
とてもいい話だった
385 :
乙
和も憧も好きな人と幸せになれて良かった!
長期連載お疲れ様でした
386 :
乙
俺もこのお店行きたい
387 :
すばらな咲和でした
しず憧も結ばれたようで何よりです
388 :
終わってしまったか・・・乙
外国が舞台ってのが新鮮でとても面白かった
またこういう和咲書いてほしいな
389 :
乙でした
咲和尊い
390 :
ああ~!尊い~!尊いしか出てこないー!
お疲れさまでした、ありがとう!ありがとう!
前に完結したら印刷して枕に敷いて寝たいって言ったの覚えてますか?近々実行させてもらいますんでよろしくお願いします
本当によかった!咲のど、のど咲最高!!!
391 :
咲和のssで和がサイコレズじゃなくて、綺麗な
純愛で咲と結ばれるのが素晴らしかったです。
みんなの評価 : ★★★
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