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    元スレ和「フランスより」咲「愛をこめて」

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    151 = 1 :

    彼女とシンガポールからのクライアントはこの後会食があるという。

    パリにいる別のグループも交えての商談となるらしく、昨日とは違って咲は参加できない。

    貴子「そういうことで、申し訳ないんだが……」

    「心配しないでください。大分この辺の土地勘も出来てきましたし、もう一人でホテルにだって帰れますよ」

    少しバツの悪そうな貴子に咲は笑ってみせた。

    一体どんなことを和は言ったのやら、彼女はやたらと咲に対して過保護に振舞うことがある。

    もちろん初めて一人で過ごすパリの夜に多少の不安はある。

    しかし、同時に少し楽しみでもあった。

    (レストランでの食事は美味しいけど胃にもたれてきたし…)

    (今夜は和ちゃんに教えてもらったスーパーでデリを買ってみよう)

    そんなことをつらつらと思い描いていたら、貴子が「もしよかったら」と封筒をひとつ差し出してきた。

    「これは……?」

    貴子「昨日、憧から預かってきたんだ。ホームパーティの招待状だ」

    「ほーむぱーてぃ……」

    封筒を開けてみれば、確かにそこには場所と日時が記されていた。

    ドレスコードまで指定してあったが、読めば「普段着で、ドレスは禁止」と冗談めいて書いてあるだけだ。

    貴子「憧がアパルトマンの住人を誘ってやっている極々私的なものだ。予定がないなら、気兼ねせずいってくるといい」

    「え、でも……」

    貴子「和も参加するはずだぞ」

    「はぁ……」

    152 = 1 :

    トドメの一押しみたいに貴子に言われて咲は面食らった。

    和に会えるのは確かに嬉しいが、どうも彼女はそれ以上のものを含んでいる気がする。

    結局、咲を動かしたのは「素敵じゃないか!」というクライアントの言葉だった。

    クライアント「ホームパーティなんて、普通の旅行じゃ招かれるものじゃないよ。知り合いも来るというなら参加してきたら?」

    「でも、他の住民の方のご迷惑にはならないでしょうか」

    クライアント「わざわざ招待状出してくれているんだから、それはないだろう。面白そうじゃないか」

    クライアント「よかったら感想なんかを私にレポートしてくれよ」

    そう快活に言われてしまえば、咲も中々首を横に振れなくなる。

    「……」

    カードに記された場所は、和たちの店からそう遠くない場所にあった。

    ここからはメトロを乗り継いでいかねばならないが、どちらも治安の悪い路線ではない。

    咲だけでも何とか行けそうだった。

    クライアント「日本ではライターだったんだろう?これも、ひとつ取材だと思ったら」

    「……せっかくですし、楽しんできます」

    咲の答えに、貴子もクライアントも満足そうな笑みを浮かべた。

    153 = 1 :

    パーティ会場であるアパルトマンにはすんなりとたどり着くことが出来た。

    もっとも、咲の手柄ではない。

    駅の付近で迷いかけていたところを、店から会場へ向かっていた和が見つけてくれたのだ。

    「鈍くさいにも程があるんじゃないですか?」

    「う、うるさいなあ」

    そんな口げんかをしながらたどり着いたのは、古い石造りの建物だった。

    咲の倍はありそうな大きな木の扉が目の前にそびえたつ。

    その脇には何やらコンソールがついていた。それを和が慣れた手つきで押していく。

    「それじゃあ入ってください、咲さん」

    ギギーッと音を立てて扉がゆっくり開いた。

    和が押し開けてくれている間に、急いで咲は中に入る。

    扉の向こうは薄暗い廊下のようになっていた。

    奥に進むとさらに入り口があり、そこはすでに開放されている。

    そこから賑やかな笑い声が聞こえてきたが、咲は気後れしてしまって先に進むことが出来なかった。

    「どうしたんですか?」

    「いや、勝手に入っていいものかなって……」

    「大丈夫ですよ。今日はこのアパルトマン全体の呑み会ですし」

    「住人の方みんな集まるの?」

    「まあ、強制じゃないですけど。月に何回か憧主催でこういう集まりをするんです」

    154 = 1 :

    「そんなところに、本当に私がお邪魔してもいいのかな」

    「住人っていっても憧や明華さん……咲さんが知っている人たちもいますよ。私もここに住んでいますし」

    なるほど、それでここに入るのに一切の戸惑いがなかったわけだ。

    「だから、さっさと中に入ってください」

    そう背中を押されて、咲は声のするほうへと進んでいく。

    「あ、いらっしゃい宮永さん!」

    談話室らしき部屋から出迎えてくれたのは主催者である憧だった。

    「迷わずに来れた?……って、あぁ。心配は無用だったわね」

    すぐに後ろの和に気づくとニィと口の端をあげた。

    「迷っていたところを、たまたま見つけただけですから」

    「はいはい、『たまたま』ね」

    くすくすと笑いながら、憧は二人を談話室の奥へと誘う。

    広めのリビングくらいのその部屋には、すでに10人近い人々が集まっていた。

    その中には明華の姿もある。

    「さ、皆にもちゃんと紹介しないとね」

    「皆ちゅうもーく!こちらが、あの和がいつも話してた宮永咲さんです!」

    「ど、どうも初めまして。宮永咲です」

    慌ててぺこりと頭を下げる咲へと視線が集まる。

    155 = 1 :

    友人1「よろしく、咲」

    友人2「和から噂は聞いていたわよ」

    友人3「アジア人にしては色が白いよね。…わぁ、お肌スベスベ!」

    友人4「何か特別なお手入れとかしてるの?」

    「え、あの、その……っ」

    気がつけば様々な面々に咲は取り囲まれていた。

    友人5「髪もさらさらね。触ってみてもいいかな?」

    一人が咲の頭に手を伸ばした時、ずいと咲の体が後ろに引っ張られた。

    次いで、背中にぽすんと誰かの体があたる。

    和に抱き込まれていると気づいたのは「いい加減にしてください」という声が聞こえたからだった。

    「咲さんは皆さんのオモチャじゃありません!」

    和の腕がギュッと咲の体を抱きしめる。

    その光景を見やり、周囲はニヤニヤと笑いはじめた。

    中には口笛を吹くものまで現れる。

    友人1「ヤキモチ焼いちゃってるよ、和ったら」

    友人2「そりゃ『咲さん』がチヤホヤされてたら焦るよなぁ」

    「はぁっ?何言ってるんですか!」

    156 = 1 :

    和をからかうためなのか、威嚇されても誰もが咲にちょっかいをかけようとする。

    たくさんの手が自分へ伸びてくると少し怖い。

    腕の中で咲が身をすくめたのがわかったのか、和がさらに咲を強く抱きこんだ。

    「もう、ほんとに何なんですかっ!」

    「まぁ、和も落ち着いて。みんな悪気はないんだから」

    本格的に怒りを露にした和をなだめたのは憧だった。

    「皆嬉しいのよ。ほら、和は今まで誰にも靡かなかったし。そんな和の本命に会うことが出来たんだからさ」

    「本命?」

    憧の言葉に咲は首をかしげた。

    話の文脈がよく理解できなかったからだ。

    どういうことかと和を見ると、和は見間違いようもなく狼狽していた。

    脂汗のようなものまでかいていて、眠たげな目はギリリと釣りあがって憧をねめつけている。

    「ちょっと憧。私と咲さんはそんなんじゃ…」

    「今さら誤魔化さなくてもいいわよ」

    そんな和をものともせず、憧はニヤニヤと笑い出す。

    「何かあればいつも『咲さん』の話ばかりだったじゃない」

    明華「ですよね。咲さんが和の宝物だなんて、みんなわかってますよ」

    「だから……っ!」

    157 = 1 :

    「大体ヤキモチ焼いてみせたのがいい証拠でしょ。今だって、そんな風に抱きしめて」

    そして、憧はしたり顔で「ははぁ」と笑みを深める。

    「あれか、宮永さんをこのアパルトマンに泊めなかったのも、皆を警戒して……か」

    「はぁっ?」

    「バカねぇ和。あんたの本命に手を出すほどみんな野暮じゃないし」

    「大体、独り占めしたいなら自分の部屋に囲い込めばいいだけの話じゃない」

    「憧っ!」

    憤る和に抱きかかえられたまま、咲の脳裏は大混乱に陥っていた。

    憧の話は明らかにおかしい。

    だって、独り占めしたくてヤキモチ焼いただなんて、それはまるで――

    「私が、和ちゃんの恋人みたいじゃない」

    咲にしてみたら冗談のような一言だった。

    あるいは憧の言葉が冗談だと確認するためだった。

    「からかっただけよ」なんて、飄々とした答えを期待して。

    けれど憧は満面の笑みを浮かべながら「だって、そうでしょ」と言ってきた。

    158 = 1 :

    「和から宮永さんの話は何度も聞いてたしね。日本に大切な人を残してきてるって」

    「ちょっと、憧!」

    友人1「和は男にも女にもモテるクセに、全くなびかないのよ」

    友人2「そうそう。一晩だけといってもダメ。日本に恋人がいるからって」

    「え……っ」

    咲は慌てて和の顔を見た。

    和は赤いんだか青いんだか判別つかない、ものすごい形相になっている。

    ただオモチャのようにブンブンと首を横に振り続けているだけだ。

    「あの、私はそんなこと知りませんでしたし……」

    「大体、それだと和ちゃんの恋人が、その……私とは限りませんよね」

    そう切り替えしたものの、憧は相変わらず飄々とした笑みを崩さない。

    「和もこんなだから、はっきりとは言わなかったけどね。和の口から出る日本の思い出といったら殆どが『咲さん』のことばかり」

    明華「ですね。しかも咲さんの事を話すときにはね、こちらが妬けてしまうくらい甘い目をするんですよ」

    「え……」

    159 = 1 :

    確かに咲と和はとても仲がよかった。

    一緒のクラスには一度もなれなかったが、同じ麻雀部部のレギュラーだった。

    しかし、それは「友達」というべきだろう。

    確かにただのチームメイトよりは濃い付き合いをしてきたけれども――

    「和ちゃん……?」

    咲は、思わず問い詰めるような声をあげた。

    いったい彼女は皆に何を話していたのだろう。

    和と袂を分かってからもう六年近くたつ。

    自分と同じように、高校での思い出を大切にしていてくれたことは嬉しかった。

    けれども、それだけではすまされない何かがあるような気がした。

    「和はね、本当に宮永さんのことを大事にしてる」

    明華「まあそんな風に咲さんを情熱的に抱きしめているだけで証拠は十分だと思いますよ?」

    憧と明華の言葉に、周囲から何故か賛同の声が沸きあがった。

    中には「いい加減、腹くくれ!」なんて野次もある。

    友人1「日本ではまだまだ同性愛者の立場は厳しいって知ってる。でもここは自由と恋の街だ。素直になっていいんだよ」

    友人2「そうそう。和に会いに、単身乗り込んできたくらいじゃないか」

    「えぇっ」

    160 = 1 :

    自分と和以外の誰もがとんでもないことを勘違いしている。

    和のいう恋人が咲で、さらには咲が和に会いにやってきたのだと。

    「ご、誤解ですっ!」

    慌てて否定しても、憧たちはニヤニヤと笑っているだけだ。

    確かに和との再会は自分でも出来すぎだと思う。

    咲が和を訪ねに来たとした方がよほど自然だ。

    しかし、それがどうして恋人を追いかけたという話にまで飛んでしまうのか。

    「和ちゃんっ!」

    咲はもう一度和の名を叫んだ。

    周囲は勘違いのラブロマンスに浮かれきっていて、誰も咲の話をまともに取り合ってくれそうにない。

    けれども和も否定してくれたのなら事態を収拾できる気がした。

    「咲さん……」

    振り向いて見た和の顔は、心なしか真っ白に見えた。

    友人3「別に隠す必要はないだろ」

    友人4「それともアレか、和。お前、まさか片思いじゃないだろうな」

    「う、うるさいです!」

    友人4「なんだ図星か」

    友人の指摘に、和の顔は一気に真っ赤になった。

    周囲の喧騒も一際大きくなる。

    161 = 1 :

    友人1「あの和が片思いだって?」

    友人2「意外と奥手だったのね。かっわいい~」

    友人3「もうバレてるんだしビシッと告っちゃえよ」

    友人4「『咲さん』だって、満更じゃないって」

    意図的か知らない英語の野次に、咲も己の頬が熱くなるのがわかった。

    (な、何なのこのノリはっ……)

    友人1「惚れた相手がこんな所にまで来てくれたのに、キスの一つも出来ねぇのかよ。このヘタレ!」

    そう言ったのは誰の声だったか。

    「……ヘタレって誰のことですか」

    次に咲の耳を打ったのは、恐ろしく低い和の呟きだった。

    その掌がむんずと無遠慮に咲の顔を掴んだ。

    「え、和……ちゃん?」

    「私、ヘタレじゃありませんから」

    もう一度そう言うと、あろうことか和は咲の唇に喰らいついてきた。

    「ん、んーっ!?」

    息なんて出来るはずもなかった。

    抵抗する間もなく舌が入り込んできて、咥内をこれでもかと嘗めつくされる。

    後頭部は和の掌で固定されて身動きすらとれない。

    「ん、ふ……っあ」

    酸欠でどんどん意識が霞んでいく。

    162 = 1 :

    誰かが何かを叫んで囃したて、ピュウと口笛の音まで聞こえてきた。

    けれどもそれに応える理性など、もう咲には残っていない。

    「ふぁ……」

    かくりと突然力が抜けた。

    倒れこもうとする身体を支えたのは和の腕だった。

    ぼんやりとした頭の中で「やりすぎでしょ!」と顔を真っ赤にした憧が見えた気がした。

    「さっきまでヘタレだったクセに……極端すぎっ」

    「だからヘタレじゃありませんって!だいたい憧には言われたくありません!」

    「それ、どういう意味よ!」

    「そのまんまの意味です!」

    騒がしい軽口の応酬はやみそうにもないが咲はどうすることもできなかった。

    くたりとした身体を動かすことも出来ず、全て和のなすがままだ。

    「それじゃあ、咲さんもこんな感じですし私たちは先にひっこんでますね」

    明華「和」

    「別に変なことはしませんよ……あ、でも野暮な邪魔はやめて下さいね。特に憧」

    「するかっ!」

    「ごちそうさま」だなんて、誰かの野次がまた聞こえる。

    「とりあえず、私の部屋に行きましょうか」

    咲はふわふわとした意識のまま、和に手を引かれて部屋を出ていった。


    ■  ■  ■

    163 = 1 :

    「んぁ……っ」

    どさり、という音と共に、咲の意識が浮上する。

    背中に固いスプリングの感触があって、ベッドの上に投げ出されたのを知った。

    「ようやく我に返ったようですね」

    そう笑った和が咲の額にかかった髪を梳いていく。

    「隙だらけで揉みくちゃにされて。最後には私にあんなことまでされて…」

    声は陽気そうだったけれども和の眉間には皺が寄っていた。

    「言っておきますけど、私は謝りませんから」

    吐き出された言葉とは裏腹に、和の顔がくしゃりと歪む。

    何かを堪えるように唇を噛み締めていたかと思うと、おもむろにその場を立ち去ろうとする。

    寸でのところで、咲はその裾を掴むことができた。

    「謝らなくていいから、教えてほしいな」

    「……何をですか」

    「どうして私にキスしたの?」

    そう言った瞬間、和の瞳がぐらりと大きく揺れた。

    「……ただ悪ノリしただけです」

    「そういう答えに逃げないで」

    言われた言葉に、和がひくりと喉を動かした。

    「普通……友達同士なら舌をつっこむキスなんてしないよね」

    「……」

    「ねぇ、和ちゃん……」

    咲はじっと和を見つめた。

    色んな熱にあてられた今は、情けないことに思うように体を動かせない。

    ベッドに転がされたまま視線で和を引き止めることしかできなかった。

    「和ちゃんにとって、私はどういう存在なの?」

    口にした途端、咲の中でモヤモヤとしていたものがはっきりとした形となっていく。

    そうだ、ずっと気になっていた。

    再会は偶然だとしても、それ以降の二人をどうやって説明すればいいのだろう。

    164 = 1 :

    「昔仲の良かった友達」で片付けるには、自分たちの距離は随分と中途半端な気がしていた。

    あと数歩で別の何かに変わってしまうような、そういう位置で一生懸命踏みとどまっている。

    「それを知って、どうするって言うんですか」

    ギシリとベッドが軋む音が鳴り視界が暗くなった。

    横たわる咲の上に和が覆いかぶさっている。

    筆舌しがたい苦い光が、その目には宿っていた。

    「どうするって……」

    「そういうことをハッキリさせないから、隙だらけだっていうんですよ」

    和との距離がぐっと縮んだ。

    剣呑な目が間近にあって、少し荒い吐息が唇を掠めていく。

    「大体、私の答えなんてわかっているくせに……」

    ぼそっと囁いた和の指が、ぐっと力を込めて咲の手首を捉える。

    今度は咲が唇を噛み締める番だった。

    「どうしますか?今ならさっきの質問をなかったことにできますよ」

    「咲さんが気に入るような答えにしてあげてもいいです」

    「じゃあ私が『友達でいて』って言ったら……和ちゃんはそうするって言うの?」

    「はい」

    165 = 1 :

    返事は明快だった――ならば和は絶対にそうするだろう。

    咲が掴めそうで掴めない本心を、隠したままで。

    「……れは、いや」

    「咲さん?」

    「それは絶対にイヤ」

    偶然の再会で、消えかけていた火がまた燃え上がっただけなのかもしれない。

    だって、六年だ。

    そんなにも長い間二人は疎遠になっていて、思い出すことも時折で――けれどずっと燻っていた。

    相手が大事だったことだけは確かだったから、曖昧に全てを終わらすことなんて許せなかった。

    「私が知りたいのは和ちゃんの答えなの。例え、それがどんなものだって……」

    「……分かりました」

    またギシリとベッドが鳴いた。

    距離があまりに近くなって、もう咲は和の瞳しか見えなくなる。

    「そういうことなら、教えてあげます。今度はもっと深く刻み込んであげますから」

    そうして和はまた咲の唇に噛み付いた。

    唇を塞いだまま性急に咲の肌を探りはじめる。

    その感触にふるりと震えながら、咲はぎゅっと目を閉じた。


    ■  ■  ■

    166 = 1 :

    今回はここまでです。
    次はまた1ヶ月ほど開きます。

    167 :

    くそぅ、良いところで…

    169 :

    おつおつ

    174 :

    忙しいのかな
    楽しみに待ってる

    175 :

    「そろそろ起きてください、咲さん」

    「……う……ん」

    頭上で聞こえる和の声に、咲はうっすらと意識を取り戻した。

    寝ぼけ眼をあちこちに彷徨わせていると、すました顔の和に行きあたる。

    「あ……」

    「早く支度してくださいね。私、もうすぐ出なきゃなりませんから」

    「う、うんっ」

    和に急かされて、咲は慌ててベッドから起き上がる。

    …そうしようとした途端、腰に鈍痛が走った。

    (え、なに、どうして……?)

    いったい自分の身体に何が起こったのか。

    記憶を辿っていくうちに咲はみるみる真っ赤になる。

    (そうだ、昨日は……!)

    和と、いたしてしまった。

    身体の隅々まで暴かれて、指で貫かれて。

    そうしてとうとう処女を散らしてしまった。

    176 = 1 :

    (私……和ちゃんと何てことしちゃったんだろ……)

    羞恥が過ぎて頭を抱えだした咲に、和の固い声が降りそそぐ。

    「私、謝りませんから」

    昨日のコトを言っているのはあまりにも明白だ。

    和に組み敷かれて、ろくに抵抗も出来ずに抱かれてしまった。

    (でも……そう仕向けたのは、私だよね)

    きっかけを作ったのは間違いなく咲だ。

    自分の言動が、和を煽ってその箍をはずしてしまった。

    「……」

    「咲さん」

    グルグルと回る思考は、和の声で再び現実に戻される。

    「ボーっとしてないで早く着替えてください」

    「あ、ご、ごめん……っ」

    咲は考えることをやめて、急いで傍にあった自分の服を掴んだ。


    ■  ■  ■

    177 = 1 :

    「これからどうしよう……?」

    和のアパルトマンを出たあと、咲は通りで途方に暮れていた。

    昨夜アレだけ咲に無体を働いておいて、翌朝は非情にも咲を追い出した和を恨む気にはなれない。

    どうも朝の勤務が入っていたらしく、急いでいたのは良くわかったからだ。

    遅刻しそうな状態にも関わらず簡単な朝ごはんなどの世話を焼いてくれたのだから、むしろ感謝すべきである。

    腰の痛みはまだあるものの、それ以外の不調はなかった。

    体だってすっきりとしている。

    どうやら和が拭いてくれていたらしい。

    服は汚される前に脱がされていたので、今の咲のいでたちは全く普通に見えるはずだ。

    「お休みなのが仇になっちゃったな」

    貴子との仕事は一日休みとなっていた。

    元々予定されていたのか、昨夜のパーティーに気を使ってくれてのことかはわからない。

    (どうせなら、仕事で頭を空っぽにしたかったのに……)

    こうして独りでいると、どうしても前夜の記憶が蘇る。

    冷静に振り返るのならまだしものこと、あの悦楽まで思い出しそうで辛抱ならなかった。

    「大人しくホテルに戻ろうかな」

    こんな状態では観光する気にもなれない。

    それなら、いっそあの居心地のいい部屋に一日くらい引きこもるのもありだと思った。

    178 = 1 :

    (教えてもらったスーパーでデリや飲み物を買って…この間の写真集でも眺めよう。うん、それがいい)

    そうして気分が落ち着いたら、もう一度考えればいい。

    昨日、いや六年前からの自分と和の関係を。

    「……よしっ」

    そうと決めて、咲は歩き出す。


    パリの空は快晴だった。気温もいつもより暖かい。

    咲はメトロではなく歩いてホテルまで戻ることにした。

    腰痛は消えていないが我慢できないほどではないし、

    少しでもパリの街を歩いてみたいと思ったのだ。

    ――プッ、プ!

    少し間抜けなクラクションの音に呼び止められたのは、路地の角を曲がったところだった。

    続いて「宮永さん!」と自分を呼ぶ声が聞こえる。

    振り向けば、あの小さな車から憧が顔を出していた。

    「一人でどうしたの? 和は……あぁ、今日は出勤日だったか」

    「え、うん」

    「貴子さんのところは、今日はお休みだよね。これから予定はあるの?」

    憧の問いに、咲はホテルに戻るところだと簡潔に答える。

    「まだまだ日にちはあるし、一日ホテルでゆっくり休もうかなって」

    「なるほどね……」

    179 = 1 :

    憧は少し何かを考えているようだった。

    しばらくして、「宮永さんさえ良かったら」と切り出してくる。

    「私も今日は夜まで予定がないの。よかったらランチに付き合ってくれない?」

    「うん、喜んで」

    咲としても誰かと時間を過ごせるのは歓迎だ。

    憧は話し上手だし、いい意味で頭を空っぽに出来そうである。

    ただ、如何せん彼女はあの夜に居合わせた人物だ。

    強いて言うなら、その点で少し躊躇してしまう。

    そんな咲の心境を知ってか知らずか憧はゆっくりと目を細めた。

    「誰かと約束しているとか、そういうことでなければぜひ。案内したい場所もあるの」

    助手席を勧められて、咲はおずおずと乗り込む。

    ドアを閉じてシートベルトを閉めたところで、憧が「それに」と言い出した。

    「色々と訊きたいことがあるしね……宮永さんと和のこと」

    「えっ」

    思わずぎくりとする咲をよそに、車がエンジン音とともに動き出す。

    「明華の店には行ったんだよね?」

    「うん。和ちゃんが連れて行ってくれて……」

    「わかった。じゃあ、全然違う雰囲気の方がいいわね」

    そう言って憧がハンドルを切った。

    二人が乗った車はセーヌ川を越えてどんどん大通りを進んでいく。

    咲が滞在しているホテルもすぐに通り過ぎてしまった。

    180 :

    くせえぞ百合豚
    誰かファブリーズ撒いとけ

    181 = 1 :

    窓の外を眺めていると、どんどん景色が変わっていくのがわかる。

    古い石造りの建物が徐々に近代的なコンクリートものに変わっていくのだ。

    「うわぁ……」

    やがて咲の目の前には巨大なモダンビルディングが三棟現れた。

    その一つは、パリでは滅多に見ないほど高い――パリのシンボルマークの一つ、モンパルナス・タワーだ。

    「ここからは少し歩くよ」

    巨大ビルの二つ目、モンパルナス駅近くの駐車場に車を停めると、

    憧は咲をある通りへと連れて行った。

    彼女らのアパルトマンがある路地と同じくらいの大きさの道には、ずらりと似たような雰囲気のお店が並ぶ。

    どの店にも鮮やかな色の日除けがかかっていて、「Creperie」と印字されていた。

    「ここにしようか」

    そのうちの一軒に憧がふらりと入った。

    慣れた様子で店員に何事かを告げると、テラスではなく奥の席に座る。

    小さな木のテーブルには荒っぽい彫刻が施されていて、確かに明華のレストランとは違う趣だ。

    「多分まだガレットは食べたことがないと思って」

    憧が勧めてくれたのは、そば粉を薄く焼いたブルターニュ地方の郷土料理だった。

    日本では一括して「クレープ」と呼ばれているが、正確には塩味のものはそば粉の「ガレット」

    甘いものが小麦粉で作った「クレープ」になるらしい。

    咲は憧と同じハムとチーズのガレットを頼んだ。

    焼き上がりには少し時間がかかるらしく、

    「その間に」と陶器のポットに入った何かが運ばれてくる。

    182 = 1 :

    「これは……」

    「シードルだよ。リンゴから作った発泡酒で、ガレットには欠かせないのよ」

    にっこり笑いながら、憧はお茶碗のような器に蜂蜜色の液体を注いだ。

    シュワシュワと細かい泡が浮かんでは消えていく。

    「また、昼間なのにお酒……」

    「日本では習慣がないからね。でも適度なアルコールは胃を緩めてくれるよ……人の心もね」

    その言葉に咲ははっと顔を上げた。

    そうだ、憧は咲に聞き出そうとしているのだ――和と咲の過去を。

    緊張が伝わったのだろうか、憧が「別に詰問はしないわよ」と笑みを深めた。

    「宮永さんは和からどこまで話を聞いてる?パリに来た理由とか」

    「ううん、何も……」

    「そっか……それは和から直接聞いた方がいいかもね。じゃあ宮永さんにはパリでの和のことを話そうかな」

    憧が何かを話しかけようとした時、陽気なウェイターの声がした。

    どうやらガレットが焼きあがったようだ。

    「いいタイミングだね。短い話じゃないし、食べながら聞いてちょうだい」

    そうして、憧はゆっくりと昔のことを語り始めた。

    「私ね、高校を卒業する前に東京に旅行に行ったんだ」

    「旅行?一人で?」

    183 = 1 :

    「ん。その頃ちょっと忘れたいことがあったからね……」

    「え……?」

    「まぁ、それはいいとして。その時たまたまカレンが来日しててね。都内の百貨店でお菓子作りの実演をしてたのよ」

    「実演?」

    「うん。カレンの手でどんどん完成されていくキラキラしたお菓子の数々を、瞳を輝かせてひたすら見つめてたわ」

    「で、その後お菓子作りに見事に嵌った私は専門学校に通った後、カレンに弟子入りするためこのパリまでやってきたってわけ」

    「そ、それは……随分と思い切ったね……」

    「今思うと凄い行動力よね」

    くすりと笑みながら、憧が話を続ける。

    「で、単身パリに渡ってカレンの元に押しかけたらね……いるじゃないの、和が」

    「えっ!?和ちゃん、その頃からすでに……?」

    「そう。もうビックリしたわよ、高校を卒業してからほとんど連絡もとってなかった知り合いが目の前にいるんだから」

    「だよね……。私もパリで和ちゃんと再会した時はまさかと思ったよ」

    「宮永さん、和と再会するのは久々なんだよね」

    「うん……」

    どこか寂しげに頷いた咲を見て、憧はまた話を元に戻す。

    「でね、和は期待の新人って呼ばれてて。その頃にはすでにフィリングを任されてたくらいだったの」

    「これってかなりすごいことなのよ。何せ味の決め手に携わってるからね」

    「へえ……、和ちゃんってそんなにすごいんだ」

    184 = 1 :

    「ところで、宮永さんはお菓子を作ったことがある?」

    「え、うん。たまに作るくらいだけど」

    「そう。製菓で何が一番大変だと思う?」

    「うーん、やっぱり味付けかなぁ」

    「たいていの人はそう思うのよ。でも実は違うの」

    「違う?」

    「ん。泡立てや混ぜる作業なの。意外でしょ?」

    「へぇ……」

    「味覚っていうのは案外意識して鍛えられるものなの。流行の味は、時代や地域によって随分変わるしね」

    「でも「混ぜる」となると勝手が違う。単純だからこそとても難しい」

    「作る菓子の種類、材料、その日の気温――そういった要因にあわせて、混ぜ具合を変えていかなくてはいけないの」

    「どれぐらい混ぜるのか、最初と最後の力の入れ具合も考慮しなくちゃいけない」

    「そういった絶妙な力の配分というのは、どうしても才能によるところが大きいのよ」

    「へぇ…お菓子作りにも色々とあるんだね」

    「そう、案外奥が深いのよ。でね、和はこれが天才的にうまかったの」

    「和ちゃんが?」

    「ん。そういう才能はパティシエにとっても大きなメリットなのよ」

    「で、周りの人間は小手先の技術でそれを補おうと必死でね。でも和にはそれが分からない」

    「分からないから――サボっているようにも見えたんでしょうね」

    「えっ……」

    185 = 1 :

    『どうしてこれ位のことが出来ないんですか?』

    『結果も出せないくせに、私に指図しないでください』


    「ただでさえ力の差を見せつけられて呆然としてる所に、こういった言葉が投げつけられる。たまったものじゃないわ」

    「和は四六時中こういう態度で、そりゃもう職場はトラブル続きでね」

    「みんなね、思い知らされるの。和の言葉と和の手が作り出す全てに――誰に才能があって、いかに自分が無能かを」

    「そして私もそんな一人だった」

    「……」

    「単身パリに乗り込んだくらいだし、これでも腕に自信はあったのよ」

    「でも、和を見て愕然とした。どうしても敵わない才能ってものがあるんだって」

    「それでもね、私も二年は足掻いていたわ。意地になってたの。努力が才能に負けるはずないって」

    「やたらと和に張り合ってたこともあったし」

    「和ちゃんと?」

    「ん。私も和も気が強いからね。で、和に「もうやめたらどうですか」なんて言われたりもしたわ」

    「でも不思議なことに、カレンはそんな和を一向に諌めなかったの」

    「和に負かされて悩むスタッフの相談には応じていたみたいだけどね。そんなカレンに逆恨みをするヤツラもいた」

    「おいしいお菓子を作るのに必要なのは、砂糖と小麦粉だけじゃない」

    「才能だって努力だって等しく大切だし……何より、一人じゃ作れない」

    「だけど、和はそうじゃないんだよね。そこそこおいしいものなら一人で作れちゃうのよ……」

    「……」

    186 = 1 :

    「まあ、そんな和もまだ卒業試験に合格してないんだけどね」

    「試験……?」

    「そう。カレンの目の前でガトーを作るっていうもので、和に示されたテーマは『特別』だったわ」

    「これ自体は、それこそ別に変わったものでもなんでもない。お菓子は特にお祝い事に良く使われるから」

    「スペシャリテのオーダーなんて頻繁に入るし。和も最初は何にも戸惑ってないようだったし」

    「いつものように苦労ひとつもなく幾つかガトーを焼き上げて、それをカレンに持っていったらしいわ」

    「私も見せてもらったけど、見た目も味も申し分のないものだった。でも……」

    「どれ一つとしてカレンから合格を貰えなかった」

    「……」

    「……今も何度も挑戦しているみたいだけど、全く駄目みたいね」

    憧の目元に、少しだけ皺が寄る。

    「和は何だかんだで皆の希望の星だし、なんとか合格させてやりたくてね……」

    「で、宮永さんが来たと知った時にね、皆これで『イケる』って思ったの」

    「え……?」

    唐突に出た自分の名に咲ははっと顔を上げた。

    「和から宮永さんの話はたくさん聞いてたからね。和が宮永さんとの想い出を大切にしていたのはわかってたから……」

    「そんな和の特別が傍にいてくれたら、和もなにか掴めるんじゃないかと思って」

    なるほど、憧を含め色んな人の妙な歓待ぶりはここに原因があったのか。

    187 = 1 :

    「でも、私は……」

    「宮永さんたちは、どうしたってただの友達じゃないでしょう?」

    その問いに、咲は答えられない。

    けれども憧はその沈黙を肯定と取ったらしい。

    「人の感情だからね。明確な線引きができるわけもないし」

    「和と宮永さんが随分疎遠だったって言うことも、和から聞いてるわ」

    テーブルの上に乗せていた咲の手を、憧がそっと握ってきた。

    優しい仕草だけれども咲には心臓を掴まれた様なものだった。

    「だからこそ、こうやって傍にいる今は和から逃げないでやってほしいの」

    憧の声に、熱いものが滲んでいく。

    「宮永さんといる時の和の表情はすごく生きてた。流石に失敗の連続で、最近は濁った目ばかりしてたから……」

    「ただ傍にいてあげるだけでもいいの。宮永さんといるだけで、多分和には何か掴めるものががあると思うから」

    「……買い被りだよ」

    自分でもびっくりするぐらい、かすれた声しかでなかった。

    「和ちゃんは私にとって大切な友人だよ。でも私は和ちゃんにとってそんな大層な存在じゃない……なりようが、ないの」

    「宮永さん……?」

    「私は……、和ちゃんを傷つけるようなことをしたから……」

    188 = 1 :


    ■  ■  ■


    咲が話を終えた時、すでに日は傾き始めていた。

    ガレットはとっくに食べきって、デザートに頼んだクレープが半分皿の上で冷えてしまっている。

    飲み物はシードルからカフェオレに変わっていた。

    「なるほどね。そんな事があったんだ……」

    ぽつりとこぼれた憧の言葉に、咲は無言で頷く。

    六年間の疎遠は、よくある自然の成り行きではなかった――咲が招いたことである。

    「仲のいいチームメイト」のはずだった和との関係を咲が断ち切ったのは、高校一年生の夏。

    インターハイ真っ盛りの頃だった。

    団体戦で優勝を決めた清澄高校だったが、和の父はそれで満足はしなかった。

    個人戦で、和一人の力で頂点を掴まないと東京の学校へ転校させると言ってきた。

    もう後がない和は個人戦で優勝することを誓い、

    咲や皆と離れたくない一心で個人戦準決勝の舞台まで上りつめた。

    そこで和はともに勝ち進んできた咲と対戦することになる。

    咲は、和が負けると転校させられる話を偶然知ってしまい、和と全力で勝負することに躊躇する。

    思い悩んだ咲が出した結論は――――和への援護。

    和に勝ちを譲り、自らは敗退するというものだった。

    その後決勝戦が終了し、和は個人戦で2位という成績をおさめた。

    優勝はできなかったものの、全国2位という好成績に和の父も漸く満足したのか、

    結局和の転校の話は無くなった。

    だが喜ぶべき和の心は酷く荒んでいた。

    どんな理由であれ、咲に手を抜かれたという事実が心に突き刺さっていたのだ。

    189 = 1 :

    そんな和の心情を悟り、思いつめた咲はやがて麻雀部を退部した。

    その後和との仲も疎遠になっていき、やがて高校を卒業する頃には

    麻雀部での思い出も風化していった。


    和のことを忘れたことはないが、頻繁に思い出すこともなかった。

    それなのに、再会した途端に彼女のことが胸を占めるのはどういうことなのだろう。

    憧は何も言わなかった。黙って何かを考えているようである。

    それなら、と口を開いた時には、結構な時間がたっていた。

    「宮永さんにとって、和って何?」

    「……」

    「和のこと、今はどう思ってる?」

    「……わからない」

    どうにかして搾り出した声は、情けなく震えていた。

    「今でも和ちゃんのことは、大事な友達だと思ってる」

    「でも、それ以上のことは……ちっともわからないの……」

    憧が言いたいことは、何となくわかる。

    早くこの感情に名前をつけてしまえというのだろう。

    けれどもそれが咲には出来なかった。

    如何せん、和への罪悪感が強すぎる。

    「ごめんなさい……」

    様々な思いを込めて頭をさげれば、滑らかな掌が咲の髪を撫でた。

    「ううん。こっちこそごめんね。色々と訊きすぎたわ……話してくれて、本当にありがとう」

    190 = 1 :

    店を出て、駐車場に置いていた憧の車に乗り込む。

    今日はこのままホテルに送ってもらうことにしていた。

    「あの、ご馳走様でした」

    助手席に乗り込んだところで、咲は憧に礼を述べる。

    「とっても美味しかったよ」

    「それはよかったわ」

    咲の言葉に、憧がニッと目を笑みの形に細める。

    「また時間が合えば連れてってあげる」

    「ありがとう。楽しみにしてるね」

    エンジン音とともに車が動き出す。

    憧の車が見えなくなるまで手を振り、やがて手を下ろした。

    「特別、か……」

    先ほど言われた言葉をそっと呟いてみる。

    「こんな私は……やっぱり和ちゃんの『特別』になんてなれないよ」

    吐き出した言葉を聞く者は誰もいなかった。


    ■  ■  ■

    191 = 1 :

    今回はここまでです。
    随分と時間が開いてしまってすみませんでした。

    192 :

    乙 待ってた

    193 :

    やっぱり公式カプは良いね

    196 :

    乙です。
    待ってます。

    197 :

    そろそろ続きが読みたいな

    198 :

    応援してる いつまでも待ってる

    199 :

    今月の更新は無理そうです、すみません・・・

    200 :

    のんびり待ってるで


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