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元スレ八幡「そして冬休みになった……」 雪乃「……」
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「では、八幡、うぬに何をわかっていてもらいたかったと心得ている」
「それは、憶測の域を出ないが……」
「それでもだ。八幡、何と心得ている?」
材木座はすっかりいつもの話し方に戻っていたが、静かに問い続けてきた。
「雪ノ下は選挙規約に精通していた。ひょっとしたら会長になってもいい……、いや、なりたいと思っていたかもしれない。
それにこれは俺の思い上がりかもしれないが、俺と由比ヶ浜と一緒に生徒会をやりたかったのかもしれない……」
「うむ。でも、うぬにはそれについては言い分があるのだろう?」
「ああ、雪ノ下はああやって完璧に見えるかもしれないが、文実や体実を一緒にやってみてあいつに危うさを感じた。
ほかの人間が考えているようにそんな器用に人心を掌握してそつなくこなすことができるとは思えない。
このままにしておいたら潰れてしまうのは自明だ。だから、雪ノ下を会長にさせまいと思った。それに、俺はこれまで
のやり方を否定されたから自分を曲げてみた……」
「ふむふむ。それが裏目に出たのでござろう」
材木座は相槌を打ちながら話を整理した。
「ああ、自分のやっていたことに絶対的な自信を持っていた。これで円満に解決だと妄信していた……」
俺は一体何をベラベラと喋っているのだろう。
こんな自分の内面に立ち入ろうとする話は小町にしかしたことがない。
いや、小町にすらそうそうできるものではない。
俺の心のプロテクターが発動し、とうとう口をつぐんでしまった。
「八幡、どうしたのだ?」
材木座が心配するように問いかけてくる。
「いや……、その……」
自分の心の中が何もかも見透かれてしまいそうで、これ以上は何も話したくない。
わざわざ材木座に話を聞いて貰っているのにだ。
「自分の内面をさらけ出すことが嫌なのか?」
「……。ああ……、済まない」
こいつは本当に材木座なんだろうか。
材木座はまっすぐと俺の目を見ると、一つひとつ言葉を選ぶように静かにこう語りかけてきた。
「八幡よ、もう本当は気付いているのではなかろうか?」
「……」
そうだ。
その通りだ。
「自分が何をなさなければならないのかを」
「……。ああ……」
まったくその通りだ。
「我が『拗ねているだけだ』と言ったことも……」
「……いや、それは違う! そんな単純なものではない!」
思わず声を荒げてしまった。
「ふむ。そうではないと。それは、うぬが色眼鏡で見ているから、フィルターで補正しているからであろう──」
何を言う。
俺は自身と向き合っているし、真実と向き合っているはずだ。
「── ならば問おう。うぬは何を一番守りたかったのだ? うぬは──」
>>55修正版
「ふむ。そうではないと。それは、うぬが色眼鏡で見ているから、フィルターで補正しているからであろう──」
何を言う。
俺は自身と向き合っているし、真実と向き合っているはずだ。
「── ならば問おう。うぬは何を一番守りたかったのだ? うぬは── ?」
「ふむ。そうではないと。それは、うぬが色眼鏡で見ているから、フィルターで補正しているからであろう──」
何を言う。
俺は自身と向き合っているし、真実と向き合っているはずだ。
「── ならば問おう。うぬは何を一番守りたかったのだ? うぬは── ?」
× × ×
材木座の最後の言葉が頭の中で繰り返し再生されている。
何度も何度も俺に2つの問いを投げかけてくる。
何を一番守りたかったって?
それはどうしても1つでなければならないのか?
どうしても優先順位をつけなければならないのか?
一度にたくさんのものをまとめて守りたくなることだってあるはずだ。
それともう一つの問いは……。
……さっぱりわからない。
そんなことは今まで考えたことすらない。
それなのになぜか俺の中で全く咀嚼できない。
そして、その問いは心につかえたままになっている。
材木座には別れ際にこうも言われた。
── 折本某との過去のトラウマと決別できたのだから、この問いにの答えにたどり着くことができるはずであろう
俺の中でまだ何かのプロテクターが発動しているようだ。
一体何のトラウマが邪魔しているのか?
それとも、俺は一体何を恐れているのか?
頭の中で様々な思考がグルグル渦巻いて気分が悪い。
これって、バッドトリップとかいうやつなんだろうか。
もともと興味がないからいいけど、薬物には絶対に手を出してはならないななんてを思ったりした。
ファン……
警笛を鳴らして東京行の京葉線が入線してきた。
その音でハッと我に返った俺はとめどもない思考を停止することができた。
今日はあまりにもいろいろなことを考えすぎてとてつもない疲労感を感じている。
座席に座れるといいな。
ドアが開くのを待った。
開いたドアから幾人かが続いて降りていく。
乗車待ちの列の先頭でそれが途切れるのを待ちかねていた俺は、素早く空いている席を探した。
3が日の最終日といえども、そこそこ混んでいるようだ。
向かいのドアの左横にあるロングシートに空席を見つけた。
右から数えて2人目の位置だ。
座席を確保しようと足早に向かう。
その時、1人目の席に座っていた人物と不意に目が合ってしまった。
足元に大きなキャリーケースを置いている雪ノ下雪乃だった。
その姿を見て思わず足がすくんでしまう。
「何を突っ立っているのかしら? 座ったら」
目も合わせずに雪ノ下は抑揚のない平坦な口調でこう言った。
「ああ……」
俺はこれ以上、何も話しかけることはできなかった。
それは長い時間のように感じた。
雪ノ下の隣に座ったはいいが、どうも落ち着かない。
さっきから心がざわついている。
それに雪ノ下を目にしてからというもの、材木座からの問いが再び頭の中でリフレインし始めた。
軽く眩暈を覚えてしまいそうな気分だ。
左隣に座っている雪ノ下がスクッと立ち上がった。
すっかり思考の路地裏をさまよっていた俺は下車駅に着いたことにようやく気付いた。
降り遅れまいと雪ノ下の跡をついて行く。
>>62修正版
× × ×
それは長い時間のように感じた。
雪ノ下の隣に座ったはいいが、どうも落ち着かない。
さっきから心がざわついている。
それに雪ノ下を目にしてからというもの、材木座からの問いが再び頭の中でリフレインし始めた。
軽く眩暈を覚えてしまいそうな気分だ。
左隣に座っている雪ノ下がスクッと立ち上がった。
すっかり思考の路地裏をさまよっていた俺は下車駅に着いたことにようやく気付いた。
降り遅れまいと雪ノ下の跡をついて行く。
× × ×
それは長い時間のように感じた。
雪ノ下の隣に座ったはいいが、どうも落ち着かない。
さっきから心がざわついている。
それに雪ノ下を目にしてからというもの、材木座からの問いが再び頭の中でリフレインし始めた。
軽く眩暈を覚えてしまいそうな気分だ。
左隣に座っている雪ノ下がスクッと立ち上がった。
すっかり思考の路地裏をさまよっていた俺は下車駅に着いたことにようやく気付いた。
降り遅れまいと雪ノ下の跡をついて行く。
足早に歩く雪ノ下がドアの前で立ち止まった。
スーツケースを持ち上げるのに手間取っている。
「ほらよ」
手を差し伸べようとする。
「いいわよ……」
言うが早く俺は取っ手を掴むとホームの上に下ろした。
「ありがとう……」
目をそらし、か細い声で礼を言う。
ここ1か月半のことを考えると素直に礼を言いたくないのだろう。
それでも、落とし前だけはきっちりとつけなければならないという理性が邪魔をしたというところか。
思わず苦笑してしまった。
「何かしら?」
きっと鋭い眼光を向けられた。
こんな光景はいつ振りだろうか?
「ほら、行くぞ」
「もう結構よ」
「エスカレーターでそんなもの転がされたらたまらんからな」
雪ノ下の巨大なキャリーケースをひったくるとエスカレーターに乗った。
俺の一段後ろに置くと雪ノ下は慌ててさらにもう一段後ろに続く。
雪ノ下は何事か小言を言うが俺はどこ吹く風でキャリーケースの取っ手を後ろ手で掴んでいた。
エスカレーターの終端のステップのところで再び持ち上げた。
丁字にぶつかる連絡通路の中ほどまで侵入するとそこでキャリーケースを解放してやった。
「ほら、返すぞ」
「そもそもあなたに貸したつもりはないのだけれど」
まあまあ、そんなに尖るなって。
どうせまた、ステップのところでつかえてしまっていただろうに。
ムッとしてひったくるようにキャリーケースを押し始めた雪ノ下について行く。
「あなた、いつから私のストーカーになったの? 警察に通報するわよ」
振り返りもせずに不快感をあらわにした。
そのおぼつかない足取りで大丈夫なもんか。
こっちはこのあと起きるであろうことを予見できている。
それなのに見て見ぬ振りなんかできるわけないだろ。
しばらく無言で跡をつけたのち、再び雪ノ下からひったくると一足先に改札をくぐった。
案の定、キャリーケースは改札を擦れ擦れで通過した。
ほら見たことか。
お前だったら絶対に引っかかっていたぞ。
だいたいなんだよ、その巨大なキャリーケースは。
中に死体でも入っているのか?
「ほらよ。あとは自分でそれ押して帰れるだろ」
俺はそう言ってキャリーケースから手を離す。
まぁ、こっからは体力の無い雪ノ下でも自力で何とか帰れるだろう。
それに、ここから右側の北口へ行けば俺の家、左側の南口に行けば雪ノ下の住む高層マンション。
どっちみち、ここでさよならだ。
「私は頼んでいないのだから、礼は言わないわ」
雪ノ下は俺を睨みつけながらキッパリと言い放った。
「別に礼なんていらねーよ。俺が好きでやったことだ」
フーッ…… と一つ雪ノ下はため息をついた。
「またその答え……。あなたってやっぱり何も変わっていないのね」
失望の念を視線とともに送ってきた。
「素直に礼を言われりゃ俺の答えも違ってくるんだけどな……」
なぜだかわからないが照れくさく感じててしまった。
思わず頭に手が行ってしまい、ボリボリとしてしまう。
「あら意外な答えね。まさかあなたの口からそんな言葉が……。いいえ、言い直すわ──」
雪ノ下は呆れた表情から急にハッとしたかと思うと今度は凛とした表情で言い直す。
「今まで気付かなかったけれど、あなたも少しは変わってきたのね」
「ああ、さすがに俺も小さなところから変える必要があったからな」
自嘲気味にこう答える。
選挙の時、俺はこれまでのやり方をこいつに否定された。
だから、自分を曲げてやり方を変えてみた。
それでもダメだったけどな……。
ふと、その時の嫌な記憶が鮮やかに蘇ってくる。
あまりにも強烈なその記憶に息が詰まりそうになった。
しかし、意外なことに雪ノ下雪乃も自嘲気味にこう言った。
「ええ、そうね。変わらなければならないわね。あなたも……私も」
こんなに会話が続いたのは本当にいつ以来だろう。
不意に遠く離れた故郷に戻ってきたかのような懐かしさを感じる。
それはとても心地よい感覚だ。
── 俺は雪ノ下雪乃と話がしたい。
今なら自分と素直に向き合って雪ノ下と話すことができる。
「お前明日ヒマだろ。明日の朝9時にあそこの喫茶店で待ってるから来てくれないか」
「勝手に私の予定を改ざんしないでもらえるかしら」
プイとしながら返してくる。
そりゃだって、今からその巨大な荷物を持って家に帰るんだろ。
海外旅行に行ってたのかどうかは知らんが、まだ実家で過ごすのならこんな時間にこんな所に居たりは
しないはずだ。
それにお前の所には運転手がいる。
車にも乗らずに電車に乗っているところを見りゃ、実家で何かあって飛び出してきたんだろう。
どうせお前の事だ。
休み中に誰かと会うとは思えないし、一日中家にいるんだろ。
「ゆ、雪ノ下!」
一体どうしたことだろうか?
自分でもよくわからない。
なんで俺は呼び止めてしまったのだろう?
無駄に記憶力が良かったためにどうでもいいことを思い出してしまった。
無駄に脳みそのしわにしっかりと刻み込まれてしまったどうでもいい情報を。
ただ、それだけのことだ。
でも、思わず雪ノ下を呼び止めてしまった。
「何?」
怪訝そうに雪ノ下が振り返ってこちらを見る。
「あ、あの……」
呼び止めたはいいが、どうも口が回らない。
伝えるのは造作もないはずのことなのに緊張してうまく言葉が繋げられない。
雪ノ下は俺の気配で察したのだろうか。
フーッ…… と一つついたが、急かすことなく俺の言葉の続きを待っていた。
「ゆ、雪ノ下……、誕生日お、おめでとう」
たったこの一言を告げるのに俺の心臓はどうしたものかバクバクいっている。
「比企谷くん……。ありがとう」
これまたどうしたものか。
しばらくの間、俺に仏頂面を見せ続けていた反動だったのだろうか。
今まで見たこともないくらい満面の笑みを浮かべてこう言った。
それは、冬の寒さをものともせず悠然と美しく咲き誇る寒椿のようだった。
そういえば、こいつからこうして名前で呼ばれるのも久しぶりだったな。
きょとんとした俺を置き去りにして、雪ノ下は次第に遠ざかって行った。
>>71の次
「朝早く悪いがとにかく来てくれ。ちゃんと話しておきたいことがある」
「別に早くはないわ。冬休みだからといって朝から怠惰な生活を送っているあなたとは一緒にしないで貰えるかしら」
いつしか雪ノ下にはひさかたぶりの笑顔が戻っていた。
そう、見る者誰もが苛まてしまいそうな不自然な笑顔ではなく、男なら誰もが魅入ってしまいそうな素敵な笑顔だった。
そんな笑顔を見せられたら勘違いしてしまうじゃないか。
熱を帯びた頬を見られないように顔を背けながらこう言った。
「とにかく待っているからな」
「ええ、わかったわ」
「じゃあな」
「ええ、また明日」
雪ノ下は身を翻すとキャリーケースを押し始めた。
「朝早く悪いがとにかく来てくれ。ちゃんと話しておきたいことがある」
「別に早くはないわ。冬休みだからといって朝から怠惰な生活を送っているあなたとは一緒にしないで貰えるかしら」
いつしか雪ノ下にはひさかたぶりの笑顔が戻っていた。
そう、見る者誰もが苛まてしまいそうな不自然な笑顔ではなく、男なら誰もが魅入ってしまいそうな素敵な笑顔だった。
そんな笑顔を見せられたら勘違いしてしまうじゃないか。
熱を帯びた頬を見られないように顔を背けながらこう言った。
「とにかく待っているからな」
「ええ、わかったわ」
「じゃあな」
「ええ、また明日」
雪ノ下は身を翻すとキャリーケースを押し始めた。
その次
「ゆ、雪ノ下!」
一体どうしたことだろうか?
自分でもよくわからない。
なんで俺は呼び止めてしまったのだろう?
無駄に記憶力が良かったためにどうでもいいことを思い出してしまった。
無駄に脳みそのしわにしっかりと刻み込まれてしまったどうでもいい情報を。
ただ、それだけのことだ。
でも、思わず雪ノ下を呼び止めてしまった。
「何?」
怪訝そうに雪ノ下が振り返ってこちらを見る。
「あ、あの……」
呼び止めたはいいが、どうも口が回らない。
伝えるのは造作もないはずのことなのに緊張してうまく言葉が繋げられない。
雪ノ下は俺の気配で察したのだろうか。
フーッ…… と一つついたが、急かすことなく俺の言葉の続きを待っていた。
「ゆ、雪ノ下!」
一体どうしたことだろうか?
自分でもよくわからない。
なんで俺は呼び止めてしまったのだろう?
無駄に記憶力が良かったためにどうでもいいことを思い出してしまった。
無駄に脳みそのしわにしっかりと刻み込まれてしまったどうでもいい情報を。
ただ、それだけのことだ。
でも、思わず雪ノ下を呼び止めてしまった。
「何?」
怪訝そうに雪ノ下が振り返ってこちらを見る。
「あ、あの……」
呼び止めたはいいが、どうも口が回らない。
伝えるのは造作もないはずのことなのに緊張してうまく言葉が繋げられない。
雪ノ下は俺の気配で察したのだろうか。
フーッ…… と一つついたが、急かすことなく俺の言葉の続きを待っていた。
さらにその次
「ゆ、雪ノ下……、誕生日お、おめでとう」
たったこの一言を告げるのに俺の心臓はどうしたものかバクバクいっている。
「比企谷くん……。ありがとう」
これまたどうしたものか。
しばらくの間、俺に仏頂面を見せ続けていた反動だったのだろうか。
今まで見たこともないくらい満面の笑みを浮かべてこう言った。
それは、冬の寒さをものともせず悠然と美しく咲き誇る寒椿のようだった。
そういえば、こいつからこうして名前で呼ばれるのも久しぶりだったな。
きょとんとした俺を置き去りにして、雪ノ下は次第に遠ざかって行った。
「ゆ、雪ノ下……、誕生日お、おめでとう」
たったこの一言を告げるのに俺の心臓はどうしたものかバクバクいっている。
「比企谷くん……。ありがとう」
これまたどうしたものか。
しばらくの間、俺に仏頂面を見せ続けていた反動だったのだろうか。
今まで見たこともないくらい満面の笑みを浮かべてこう言った。
それは、冬の寒さをものともせず悠然と美しく咲き誇る寒椿のようだった。
そういえば、こいつからこうして名前で呼ばれるのも久しぶりだったな。
きょとんとした俺を置き去りにして、雪ノ下は次第に遠ざかって行った。
八巻出るまで心の中でウザイモクザってあだ名で呼んでてごめんなさい…
今は俺の中では、八幡と戸塚といろはすちゃんの四天王だww
今は俺の中では、八幡と戸塚といろはすちゃんの四天王だww
>>83
ウザイモクザで合ってるからいいよ
ウザイモクザで合ってるからいいよ
× × ×
約束の時刻になった。
雪ノ下は時間ぴったり現れた。
「よう」
「おはよう、比企谷くん。どうやら待たせてしまったようね」
雪ノ下は確認するように8分目まで飲んだコーヒーカップを目をやる。
「気にするな。俺が呼びつけたわけだし、頭の中を整理するにはちょうどいい時間だった」
「そう」
雪ノ下は向かいのシートに腰掛けるとメニュー表を手に取った。
そして、しばし眺めると俺に手渡してきた。
「比企谷くん、あなたはおかわりはいいの?」
「雪ノ下は紅茶を頼むのか?」
「ええ」
「じゃあ、同じの頼むわ。さすがにブラックばかり飲んでいたら胃にもたれる」
「甘い物好きなあなたがブラックとはね……。それは臥薪嘗胆とでも言いたいのかしら」
ちょっときつ目の視線を送ってくる。
「違う。お前に対してじゃない。自分自身への戒めだ」
何だ、その、いきなりの修羅場か。
焦った俺は必死に否定する。
「そう。ならばおかわりもブラックになさい」
途端に厳しい表情になった雪ノ下は強い口調で答える。
「……」
雪ノ下の気迫に押されて黙り込んでしまった。
「……今のは冗談よ。── ハーブティーを2つください」
雪ノ下はちょうど近づいてきた店員に注文するといたずらっぽくくすっと微笑みながら俺に向き直った。
「じょ、冗談って……。お前、い、今でそんなこと言わなかっただろう」
百面相のごとくコロコロ変わる雪ノ下の表情と態度にすっかり混乱してしまった。
「そうね。さすがに私も小さなところから変える必要があったものだから」
誰かさんのセリフを真似るとくすぐったくなるような笑みを浮かべる。
序盤から俺は雪ノ下に押されてもうタジタジだった。
しかし、出だしとしては決して悪くはないはずだ。
× × ×
しばしの間ハーブティーを味と香りを楽しむ。
こうして紅茶を味わうのはいつ振りだろうか。
紅茶の香りがしなくなった部室で過ごしていた日々が改めて異常なものに感じた。
そろそろ、話に入ろう。
静かにソーサーにカップを置くと口を開いた。
「ちょっと話が長くなるがいいか?」
「ええ。そのつもりで来たわ」
理解が早くてありがたい。
しかし、俺は雪ノ下の冴えわたる頭とその理解力に頼り切ってしまって選挙の件では失敗した。
ここは手間暇かけて一つひとつ丁寧に説明していくことが必要だ。
同じ過ちを繰り返してはならない。
「まずは、話をややこしくしているイレギュラー因子についてから話す」
「ええ」
「終業式の日に鉢合わせした奴がいただろ……」
「ええ。ショートボブにパーマを当てた子ね。姉さんから比企谷くんの彼女と聞いているわ」
ムスッとした表情を見せながら返してきた。
「ちょっ……、待て、待て。そんなわけねーだろ」
「あら違うの?」
訝しげな表情を向けると冷え切った口調で続けた。
早速、雪ノ下陽乃にしてやられたようだ。
っていうか、それを信じてしまう雪ノ下もどうかしている。
やっぱり、こいつなら理解してくれるだろうという思い込みを排して慎重に話さなければ。
「あいつはな、折本かおりっていってな中学の時に告白してフラれた相手だ。2人きりの時に
告白したはずなのに、なぜか次の日クラス全員に知れ渡っていた。それが原因でトラウマの一
つになっていた」
正確にいうとこの出来事自体がトラウマではない。
あんな仕打ちをした彼女に失望した自分に嫌気がさしてトラウマになったのだ。
「比企谷くんがフラれるのは当たり前のこととして、それは聞き捨てならないことね。あと『なって
いた』という過去形で話しているのも気になるのだけれど」
おいおい、当たり前って何なの?
いや、合ってるんだけど。
それと、まだ話し始めたばかりなのに食いつき過ぎでないかい。
「まずは、そいつともう一人のことから話す。時間をちょっと戻すが、めぐり先輩と一色から依頼を受けた日に俺は
ふてくされて早々に帰っただろ……」
「そう。ふてくされていたことは認めるのね」
雪ノ下はさっきまでの表情とは打って変わって微笑みながら合いの手を入れてくる。
そこには全く嫌味が感じられない。
「ああ、そうしないと話が先に進まないからな」
「ええ。続けて── 」
「実はあの日、虫の居所が悪かったのと時間を持て余したのとで映画を見ることにしたんだ。
そしたら、映画までの時間つぶしに入ったドーナツ屋でお前の姉ちゃんに絡まれたんだ。
そこにタイミング悪く、折本とあいつの友達がやって来て声をかけられた。あいつらは俺が総
武高の生徒だと知るや葉山を紹介しろだとか言い出し始めたんだ…… 」
話しているうちにだんだん気分が悪くなってきた。
なんで俺がこんな目に遭わなければならなかったんだと。
しかし、雪ノ下と和解するには避けては通れない話題だ。
「葉山なんかに関わりたくなかったのに、お前の姉ちゃんが悪乗りして葉山をその場に呼び出したわけだ」
はぁー…… とため息を一つついた雪ノ下は、額に手をやる。
「葉山が来たら来たらで、お前の姉ちゃんがさらに喰いついてきてたんだ。そんで、俺抜きに強引に後日
改めて会うことに決められてしまったんだ……」
雪ノ下は額から手を外すことなく再びため息をついた。
「どうせ俺は葉山をおびき寄せるための餌だ。そこでもう用済みだ。だから、俺は頑なに抵抗したが葉山
の野郎、お前の姉ちゃんを使って俺をむりやりあの場に引きずり出しだんだ……」
「それは本当のことかしら?」
胡乱な眼差しで雪ノ下は睨んでくる。
言っておくけど、俺だって立派な被害者だからな。
「ああ、嘘ついても仕方ねーだろ。だいたい俺が好き好んで葉山と行動を共にしたいと思うか?
それに、お前の姉ちゃんは事もあろうか小町にまで電話をかけてきて半ば脅しのようなことをし
てきた……」
「えっ……。小町さんにまで……」
雪ノ下は絶句したのち、申し訳なさそうな表情をした。
何も雪ノ下が引け目を感じることではない。
無視するように話を続けた。
「それで、仕方なく葉山と一緒にあいつらに会うことになったんだ。それからは、雪ノ下もご存知の
通りだ。そして、その時あいつとのトラウマも昇華した」
「わ、わかったわ。あなたも姉さんのせいでとんでもない目に遭ったのね。それに、あなたのこと
疑ってしまって……、そ、その、ごめんなさい」
へっ?
疑うって何?
何そんなに焦ってんの。
「で、終業式の日にまた会っただろ?」
「姉さんと折も……、元同級生の何とかさんね」
今、折本のことわざわざ言い直したけど、何かあるの?
「俺は別に気にしてもいなかったが、お前と由比ヶ浜と鉢合わせする直前にちょっとした
ことがあったんだ。あいつら2人、俺のことを小馬鹿にしてたんだが、どういうわけか葉山
がそれにキレてしまった。」
「なんとなく、雰囲気でそれは察したわ」
雪ノ下の目は怒りに満ち溢れたものになっていた。
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