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    元スレ苗木「ゲームをしようよ。闇のゲームをね……」

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    401 :

    王様も王国編が終わったあたりから罰ゲームやらなくなったよな
    相棒や城之内君と交流するようになってだんだん丸くなっていった感じ

    402 :

    続きが楽しみ

    403 :


    ―tImE UNKnOwN-


    『ねぇ…』

    『大丈夫? …だいぶ参っているみたいだね』

    「ここは……?」

    『ここは、ジャバウォック島……そして、ボクの"記憶"の中さ』

    「…! そうか、ここが……」

    これまで何の説明もされなかったにも関わらず、苗木誠には、今自分が置かれている状況をすぐに理解できた。
    "扉"をくぐったあの時に、もう一人の自分自身…"狛枝凪斗"という存在についての知識が、まるで奔流のように脳へと流れ込んできたからだ。

    意識がはっきりしていくにつれて、苗木は知識として得た、彼の"全て"を頭で理解していく。
    千年パズルを完成させた瞬間から…今まで現実世界で、彼が見て、聞いて、感じた"全て"を。
    起こるはずだった殺人を未然に阻止したという事実を。
    狂気的なまでの"希望"への渇望を。

    そして、その男は目の前にいる。

    苗木「キミが……狛枝クンか」

    404 = 403 :


    陽炎のようにゆらめく、色を失った髪。

    シ ロ ク ロ
    希望と絶望が入り混じった、グレーの瞳。

    血を連想させる赤の文様が描かれた、白いシャツ。

    その上には、常夏のこの場所にはふさわしくない緑色の上着。

    砂浜で横になっていた苗木の横で、心配そうに彼を見つめる男…それが狛枝凪斗だった。

    「そう、ボクは狛枝凪斗。"超高校級の幸運"さ…改めて、よろしく。"超高校級の希望"、苗木誠クン」

    横たわったままの苗木に、狛枝は右手を差し出す。
    苗木は腕を伸ばし、ぎこちないが握手が交わされる。

    苗木「よろしく……ってボクが"超高校級の希望"?」

    「…そうか、今のキミはまだ……いや、なんでもないよ」

    苗木「?」

    「こっちの話さ。とりあえず、今の状況を説明しようか。二人もお待ちかねのようだし」

    そう言うと狛枝は首を横に向ける。視線の先にいるのは、十神と霧切だ。

    405 = 403 :


    苗木「…十神クン! 霧切さん!」

    十神「全く、こんな所で居眠りとは、お前の無神経さには軽蔑を通り越して感動すら覚えるぞ」

    霧切「そんなこと言って、心配していたのはどこの誰かしら」

    十神「…ッ! 黙れ。べ、別に俺は苗木の心配をしていたわけではない。ただ、いつまでも寝ていられては困る、それだけだ」

    霧切「どうかしらね。随分うろたえてみたいだけれど? "超高校級の御曹司"ともあろうあなたが」

    十神「なんだと! お前こそ……さっきからずっと心配そうに苗木を凝視していたじゃないか!」

    苗木「二人とも……」

    言い争う二人を見て困惑する苗木に対して、狛枝は嬉しそうに笑う。

    「あははっ、二人は仲が良いんだね!」

    「どこがだ!」「どこがよ!」

    ほぼ同時に否定する二人に、思わず苗木も苦笑いを浮かべる。
    バツが悪そうに、十神が話を戻した。

    十神「…そもそも狛枝、お前が俺達をここに呼んだのが事の始まりだろう」

    「…ああ、うん。そうだったね」

    霧切「その様子だと…ようやく見つけたようね。"記憶の部屋"を」

    苗木「えっと……狛枝クンがずっと探していた、彼の記憶、だよね?」

    「…………そうさ。ボクは取り戻したんだ、ボクの存在を、記憶を」

    406 = 403 :


    狛枝は取り戻した記憶について、苗木達に説明していく。
    彼自身について。希望ヶ峰学園について。……そして、人類史上最低最悪の絶望的事件について。


    「自分で自分につけたと思っていた、この名前…"狛枝凪斗"は、実は本当のボクの名前だったんだ」

    霧切「名前を考えた時、無意識のうちに自分の名前を思い出していたのね…」

    「そう、まさに"幸運"だね……」


    「ボクは第77期生の"超高校級の幸運"として、希望ヶ峰学園に選ばれたんだ」

    「最初は恐れ多くてね、辞退しようと思ったんだけど。学園側の人がどうしても、っていうから…」

    苗木「という事は、狛枝クン…いや、狛枝先輩は、ボク達の1コ上って事か」

    「先輩、なんて身体が痒くなるからよしてよ。ボクなんかは呼び捨てか、よくてクン付けでいいよ。あ、なんならゴミとかクズとかでも……」

    苗木「う、うん……」


    「"人類史上最低最悪の絶望的事件"によって……世界のほとんどは滅びた。許せないよね。"絶望"なんかが勝っていいわけがないんだから…」

    霧切「そして、それを引き起こしたのが、"超高校級の絶望"、江ノ島盾子……まさか、彼女が黒幕だったなんてね」

    苗木「そんな……江ノ島さんが……」

    十神「にわかには信じがたい話だが……ここまで非科学的な事が立て続けに起きているんだ。信じない事には、話が先に進まん」

    407 = 403 :


    あらかた話を聞いた所で、十神が疑問を口にする。

    十神「それで……狛枝」

    「何? 十神クン」

    十神「お前は幽霊などではなく、実際に存在する人物…それも俺達の1つ上の先輩である事は解った。だが、"今"のお前は一体どういう存在なんだ?」

    「どういうって……今説明した通りだよ。こういう存在さ」

    霧切「とぼけないで。今の話だけでは、あなたが苗木君の身体を乗っ取って行動していた事に説明がつかないわ」

    苗木「そ、そうだよ。"千年パズル"についても、全く説明がなかったじゃないか」

    「…………」

    十神「お前が実在するなら、"本体"は一体どこにいるんだ? そして、この"部屋"は"何"なんだ?」

    「………………」

    狛枝は、沈黙したままだ。
    困ったような、あるいは悲しんでいるような、そんな表情。
    いつもの朗らかな笑みは消え、どこか影を残している。

    苗木「狛枝クン?」

    408 = 403 :


    「……その答えは…………こノ島にあるよ」

    霧切「島?」

    「…………ゴめン、ボクの口からは……」

    「………………ボク自身も驚いているンだ。……今も」

    十神「どういうことだ…?」

    「…………口で説明スるより、見た方が……きっと早いよ」

    「……ソうだ。これは……ゲームだよ」

    苗木「ゲーム?」

    「ここは……ジャばウォック島。この島のどこかに……全てのしんじつは隠されテいる」

    「キみ達にとって、希望ヶ峰学園でノコロシアイ学園生活が、全テの始まりだったように……」

    「ボク達にとッて、ジャバウォッく島でのコろシアイ修学旅行は、全ての始マり……いヤ、終わりなのかモしれない」

    十神「…何を言っている?」

    「真実は……キミ達自身の手で…………見ツけ出して欲しい。それがボクかラの……挑戦さ」

    「…………ごメン。ボクはもう、行かないと」

    霧切「行く? どこへ?」

    霧切がそう問う前に、彼の姿がすーっと透けて、消えていく。
    驚く苗木達に、狛枝の声だけが語りかける。

    『キミ達が全てを知った時……全ては終わっテいる。いや、ボクが……オワラセル』

    苗木「終わらせる?」

    霧切「どういうことかしら?」

    『言葉の通りダよ。大丈夫、全てうまクいくって。ダってボクは……"超高校級の幸運"なんdからさ』

    『江ノ島盾子は…… "超高校級の絶望"は……』

    409 = 403 :









    『ボクが殺す。必ず』

    『そして……"超高校級の希望"に、ボクはなる』










    強い意志の篭った、殺意に満ちた言葉。
    そして、狛枝の気配は完全に消え去った。
    衝撃と、未だ解決しないままの疑問とを苗木達に残して。

    410 = 403 :


    しばらくして、十神がようやく口を開いた。

    十神「どうやら…俺達は閉じ込められたようだな。アイツの思惑通り」

    苗木「……狛枝クンが……江ノ島さんを……殺す?」

    混乱する苗木。あまりに唐突すぎて、状況が理解できていない。

    十神「アイツは……狛枝は、"希望"を求めていた。どんな絶望にも打ち勝つ、"超高校級の希望"を」

    霧切「"超高校級の絶望"である、江ノ島盾子を殺すことで、彼自身がその"希望"になろうとしているのね」

    苗木「そんな……止めないと!」

    十神「止める? むしろ好都合じゃないか。黒幕が死ねばゲームは終わりだ。俺達は外の世界にようやく出られる」

    霧切「……死と絶望が蔓延する世界に?」

    十神「それでも、学園の中で黒幕の影に怯えながら生きるよりは……遥かにマシなはずだ」

    十神「仮にもし、狛枝のいうように外の世界が滅びていたとしても……」

    十神「また、俺達が世界を"創"っていけばいい。俺がお前たちを導いてやる……十神の名にかけて、な」

    霧切「そうね。けど……」

    十神「けど?」

    霧切「江ノ島さんを……助けないと」

    411 = 403 :


    十神「霧切、お前まで何を言っているんだ?」

    苗木「霧切さんの言う通りだよ。確かに、江ノ島さんは許されない事をしたかもしれない。だけど……」

    苗木「だからって、死んだらそれで許されるわけじゃない。壊した世界や、殺された人たちが元通りになるわけでもない…!」

    苗木「しかるべき場所で、しかるべき裁きを受けるべきなんだ!」

    霧切「ええ。たとえ、司法機関や……国家すら機能していなかったとしても……犯した罪は、償わせる」

    霧切「でもそれは、今ここで殺すことじゃないはずよ。それに……」

    十神「それに?」

    霧切「彼女の死は、再び世界中に"絶望"をバラまくことになるわ」

    霧切「江ノ島盾子が、世界を破滅させてしまうほどの力を持つというのなら……それはもう、崇拝する人間からすれば神といっても過言じゃない」

    十神「その神を殺せば、統率の取れなくなった信者は暴走……後追い自殺や自暴自棄になってさらに状況を悪化させる、か」

    霧切「その通りよ。一番いいのは、彼女を改心させ、"絶望"に支配された人たちの洗脳を解くことだけど……」

    十神「……それは難しいだろうな。だが……江ノ島を殺すだけでは問題は解決しない、か。確かに一理あるな」

    苗木「十神クン…!」

    十神「勘違いするな、愚民が。……俺の預かり知らぬ所で、全てに決着が付くのは気に入らん。それだけだ」

    霧切「フフッ、あなたは変わらないわね」

    十神「当然だ。俺は十神白夜。世界を統べる十神財閥の当主なのだからな」

    十神「よし……ならば手分けして探すぞ。"真実"とやらをな!」

    苗木「うん!」

    霧切「急ぎましょう。時間がないわ」


    三人は三方向へと別れ、ジャバウォック島の調査を開始する。
    未だに燻り続ける、疑問の正体を掴むため。

    そして……狛枝凪斗の凶行を阻止するため。

    "ゲーム"はまだ、始まったばかりだ。



    ・・・とぅビー こンてぃニゅうド

    415 :

    あれ十神君太った?

    416 :


    ―NOON TIME―


    その少女は、混乱していた。
    自分の置かれた状況に。

    桃色のツインテールに、露出の多い服と派手なメイク、いかにもイマドキのギャル、といった風貌の彼女。
    江ノ島盾子はその姿とは裏腹に、おどおどとして落ち着きがない。

    いや、彼女の名前は江ノ島盾子ではない。
    "超高校級の軍人"・戦刃むくろ。
    それが、今江ノ島を演じている彼女の本当の姿だ。

    本物の"超高校級のギャル"・江ノ島盾子とは双子の姉の関係にあたる彼女は妹の計画に協力し、このコロシアイ学園生活を裏から支える、もう一人の"内通者"となるはずだった。
    ……はずだったのだが。

    当初、彼女たちが想定していた事態と、今現実に起こっている事実はまったく異なっていた。

    まず、誰ひとりとしてコロシアイを始めていないのだ。
    妹がモノクマを操り、いくら"動機"を出して揺さぶりをかけようとも、14人の"超高校級の才能"を持った彼らは屈しない。
    それどころか"動機"を出すたびに彼らは、記憶を奪う以前と同じか、あるいはそれ以上の"結束"を見せている。

    そして、いつもであれば連絡を寄越し、今後のどう行動し、何を話せばいいかを知らせてくれるはずの、妹から連絡がない。
    彼女にとっては、コロシアイが始まらないことなど、二の次三の次だった。
    溺愛する妹からの連絡がない。これほど"絶望"的なことは他にはなかった。

    戦刃「盾子ちゃん……」

    江ノ島のサポートなしでは、いつボロが出るかわかったものではない。
    そう判断した戦刃は、グループを作って5階を捜索するという話を仮病で断り、自室にいた。

    戦刃「私、どうしたらいいの?」

    思わず口から出る、漠然とした疑問。
    けれど答えてくれる者は、誰もいない。
    もし妹がそばにいたなら、「きみはじつにばかだな」とでも罵るだろうか?
    そんなことすら考えながら、戦刃むくろは茫然としていた。

    ……彼女の想い人である、"奴"が現れるまでは。

    417 = 416 :


    「いーけないんだ、いけないんだー。江ノ島さんが仮病を使ってるー!」

    空気の読めない、間の抜けた声。
    けれどそれは、今戦刃が最も求めていた声だった。

    モノクマ「いけませんなぁ……これは"オシオキ"が必要ですかなぁ……うぷぷ」

    戦刃「あ、じゅ……モノクマ!」

    古い蛍光灯を交換したかのように、戦刃の表情にぱあ、と光が宿る。
    ようやく来てくれた、という喜びに
    心踊る彼女だが、ふと我に帰り周囲の気配を警戒した。
    モノクマと親しげに話す姿を、ほかの誰かに目撃されようものなら、怪しまれる程度では済まない。
    近くに誰もいない事を確認し、部屋の鍵を掛けた。
    途端、緊張の糸がほぐれ、戦刃むくろの本心からの言葉が漏れる。

    戦刃「……ふう。盾子ちゃん、どうしたの?」

    モノクマ「どうしたもこうしたもないよ! ……何でコロシアイが始まらないんだよぉ! ボクは飽きて来ちゃったよ!」

    戦刃「ごめんね。私が力不足なばっかりに……」

    モノクマ「全くその通りだよ! 残姉なんかより他のやつを仲間にしとけばよかったよ! ホント、絶望的に使えないッ!」

    戦刃「うう……ごめんなさい」

    謝ることしかできない戦刃。
    これでは、どちらが姉かわかったものではない。
    そんな彼女にモノクマはさらなる追い打ちをかける、と思いきや……

    モノクマ「ま、残姉が残念なのは今に始まったことじゃないし……この際どうでもいいよ」

    モノクマ「でも大丈夫……ボクは天才だからね。いい"アイデア"を思いついたんだ!」

    戦刃「"アイデア"?」

    モノクマ「そうさ、ワックワクドッキドキの"コロシアイ"が起こる、絶望的に素敵なアイデアさ」

    戦刃「私も……協力できる?」

    モノクマ「もちろんさ。だってこの作戦の主役は……キミだもん」

    戦刃「私……?」

    モノクマの、江ノ島盾子の言葉に戦刃の心が沸く。
    妹が……今まで散々自分に罵詈雑言を浴びせてきた彼女が、自分を頼りにしてくれている。
    これほど"希望"が溢れる出来事は、なかなかないことだった。

    戦刃「わかった。盾子ちゃんのためなら……私、【何だってするよ】!」

    418 = 416 :


    嬉しさのあまり、感極まる戦刃。
    しかし、彼女は知らなかった。
    自分が今抱いた"希望"……妹の役に立てるという"希望"は、脆くはかないことを。
    目の前にいる自分の妹が、それをいともたやすく、"絶望的"に撃ち抜くことを。

    モノクマ「その言葉、嬉しいねぇ……ボクはいい姉を持ったよ。誇りに思うよ」

    普段の江ノ島盾子であれば、絶対に吐かないであろう言葉。
    たとえ天地がひっくり返っても、人生を100回やり直しても、決して聞くことはできない言葉。
    それは戦刃にとっては嬉しい賛辞であったはずだが……逆に違和感を覚える。

    戦刃「……盾子ちゃん?」

    自分の姉が……"超高校級の絶望"が……こんな"希望"にあふれた言葉を、言うわけがない。
    長年連れ添ってきたのだから、それくらいの事はわかる。

    そして、違和感は次の瞬間に、確信へと変わる。
    感情のない言葉が、冷たい殺意とともに戦刃むくろに向けられる。










    「悪いんだけどさ……死んでくれない?」










    そして――。

    419 = 416 :


    ―じかん ふめい―


    ジャバウォック諸島は一つの島を中心とし、周囲には橋で繋がった五つの島がある。

    空港やホテル、スーパーマーケットなどがある1つ目の島。
    砂浜が美しく、海辺で遊ぶためのビーチハウスがある2つ目の島。
    病院や映画館、ライブハウス、電気街がある3つ目の島。
    版権ギリギリの遊園地がある4つ目の島。
    軍事施設や何かの工場が点在する5つ目の島。

    そして、悪趣味なモノクマロックの他には公園くらいしかない、中央の島。

    苗木達はその公園に集まっていた。

    十神「どうだ、何か手がかりになりそうなものは見つかったか?」

    苗木「うーん、これって手がかりと言えるのかな……」

    十神「何でもいい。俺達にはどんな些細な情報でも必要だ」

    苗木「わかったよ。あのさ、ボクは1つ目の島を探してみたんだけど……」

    そこまで口にして、苗木の言葉が止まる。十神の方を向き、何か言いたげな顔をしていた。

    十神「どうした? 俺の顔に何か付いているか?」

    苗木「いや、念のためなんだけどさ……十神クンってこの島に来たことがある?」

    十神「愚問だな。俺はこんな島、今日始めて来たぞ。現実世界でも足を運んだことはないな」

    苗木「そうだよね……でもそれだとちょっとおかしな事があるんだ」

    420 = 416 :


    霧切「おかしな事?」

    十神「……言ってみろ」

    苗木「うん。実は1つ目の島には、寝泊りするためのホテルやコテージが用意されていたんだ」

    苗木「そのコテージにはネームプレートがかかっていて……全部で16人分なんだけど……」

    苗木「一応手がかりになるかな、と思って名前をメモしたんだ。その中にさ……」

    苗木「十神クンの名前があったんだ。狛枝クンの名前も」

    十神「なん……だと?」

    十神「待て……俺はこんな場所、覚えがないぞ。どういうことだ?」

    霧切「その答えなら……この中にあるわ」

    そう言うと霧切は、懐から小さなPDAのような物を取り出した。

    苗木「これは……?」

    霧切「3つ目の島で見つかったの。どうやらネットには繋がっていないけれど……」

    説明しつつ、端末を操作する霧切。
    しばらくすると、そこには驚くべきことが記されていた。

    霧切「このファイルに書かれているのは、"コロシアイ修学旅行"の被害者よ」

    苗木「"コロシアイ修学旅行"?」

    十神「さっき狛枝が言っていた、意味不明な言葉か。妄言かと思っていたが……そうか」

    十神「島中に設置された監視カメラとモニター……このファイル。そして狛枝の言葉」

    十神「俺達の他にも、ここを舞台にコロシアイを強要された連中がいた、そう考えれば色々と辻褄があう」

    苗木「なるほど……けど、それとボクが見た十神クンの名前に何が関係あるのさ?」

    霧切「それは……見ればわかるわ」

    そしてそこに記された名前と写真に、十神と苗木は驚愕する。

    421 = 416 :


    十神「……おい、どういうことだ。これは……」

    苗木「被害者……"超高校級の御曹司"・十神白夜?」

    確かにそう記載されていたのだ。
    ただ、ファイルの十神白夜は、本物に比べ随分と太っているようだった。
    少し顔の特徴が似ているかもしれないが、差は歴然だ。

    十神「…………これが……俺?」

    一瞬、変わり果てた自分の姿に混乱する十神だったが……メガネをクイッとかけなおし、すぐさま落ち着きを取り戻してみせる。

    十神「いや、違うな。間違っているぞ。こいつは偽物だ」

    苗木「だ、だよね……」

    霧切「十神君がそういうなら、そうなんでしょうね」

    十神「……とにかく、これで一つ疑問が解けたな。苗木がコテージで見た俺の名前はこいつのものだったわけだ」

    十神「どこの誰かは知らんが、この俺を騙るなど命知らずな奴だ……」

    十神「まあいい。ところで霧切、お前はこのファイル、全て目を通したのか?」

    霧切「……一応ね。被害者はまだあと5人いるわ」

    苗木「5人も!?」

    十神「チッ……。苗木、俺達も見るぞ」

    苗木「う、うん……」

    そうして、端末を手に取り、順番に被害者を見ていく苗木達。
    名前と写真を確認し、次へ次へとファイルを送っていく。

    422 = 416 :


    "超高校級の写真家"・小泉真昼。

    十神「……あまり見ていて気分のいい物じゃないな。だが、見ないわけにもいくまい」

    苗木「うん……仕方ないよね。"真実"を探すためには、前に進まないと」

    "超高校級の軽音部"・澪田唯吹。
    "超高校級の日本舞踊家"・西園寺日寄子。

    苗木「こんな、小さい子まで……」

    十神「同時に二人か……ところで苗木、こいつらの名前とコテージの名前は一致するのか?」

    苗木「あっ……うん。今の所、全員コテージに名前があったよ」

    "超高校級のマネージャー"・弐大猫丸。

    十神「何だこれは……ロボット?」

    人間離れした被害者の姿に、首を傾げる二人だが……さらなる衝撃が二人を待ち受けていた。

    "超高校級の幸運"・狛枝凪斗。

    十神「……は?」

    苗木「……え?」

    ほぼ同時に、気の抜けた声が二人から漏れる。

    何度見返してみても、そこにはあの男の名と姿が記されていた。
    おそらくはファイルに記されている中で、最も残酷な方法で殺害されたであろう人物。
    先程三人の前に姿を現した、白髪で長身の男がそこには記されていた。

    苗木「そんな……狛枝クンが……」

    十神「どういうことだ……霧切」

    霧切「……私も、わからない」

    霧切「可能性は色々あるけれど、どれも憶測の域を出ない。手がかりがまだ足りないのよ」

    423 = 416 :


    霧切「だから、彼が一体何者なのかは今は置いておいて、まだ調べていない場所を調べてみましょう」

    苗木「そうだね。まだ4つ目と5つ目の島が残っているし……」

    十神「そういうことなら、俺も手がかりを見つけたぞ」

    そう言うと、今度は十神が観光案内の本を取り出した。

    十神「ジャバウォック島……聞き覚えのある名前だと思って、2つ目の島の図書館を調べてみた」

    十神「すると、こんなものが出てきた」

    開かれたページに記されていたのは、ジャバウォック島について書かれている記事だった。

    『ジャバウォック島は中央の小さな島と、それを取り囲む5つの島から構成。
     周辺の5つの島はリゾート地、中央の島には行政機関が集まる立派な建物があり、
     その建物のロビーには島を象徴する銅像が置いてある。
     また、5つの島を行き来する方法は定期船のみ』

    苗木「定期船のみ?」

    霧切「妙ね……この島は確かにこの本に書かれている島とほとんど同じようだけれど……」

    十神「お前も気付いたか。どうやら、この本と今俺達がいるここでは、ところどころ違う箇所があるようだ」

    十神「無論、ここが狛枝の記憶の世界だからだ、と言ってしまえばそれだけで説明はつく」

    十神「だが、俺が2つ目の島で見つけたのはそれだけじゃない」

    苗木「他にも?」

    十神「苗木、お前は希望ヶ峰学園に来た時の事を覚えているか?」

    苗木「えっ、あ、うん。なんだかすごく大きな校舎で、こんなところにボクが入学していいのかなって思っちゃったよ」

    十神「その校舎……それにそっくりな建物を俺は見た」

    霧切「希望ヶ峰学園を?」

    苗木「そんな……ますます意味がわからないよ。ジャバウォック島に希望ヶ峰学園が?」

    十神「だが実際に俺はこの眼で見たんだ。そして、校舎の入口には"扉"があった。……俺達が閉じ込められている、現実の希望ヶ峰学園のエントランスにある"扉"と同じものがな」

    衝撃のあまり、言葉を失う二人。

    霧切「いったい……誰が……なんのために……?」

    十神「わからん。だが俺にはそこが、何か特別な場所のように思えて仕方がない。扉はパスワードで鍵がかかっていて中には入れなかったが……」

    苗木「パスワード……」

    霧切「探さないといけないものが増えたようね」

    十神「ああ。次は4つ目の島へ急ぐぞ」

    424 = 416 :


    ―NOON TIME―


    「おや……取り込み中だったかな?」

    モノクマを操る江ノ島盾子が、実の姉である戦刃むくろを殺害しようとした、まさにその瞬間。
    あと1秒でも遅ければ、"グングニルの槍"が彼女を貫いていたであろう、まさにその刹那。

    「悪いね……邪魔させてもらうよ」

    狛枝凪斗は部屋にずかずかと入ってきた。
    ノックや、インターホンもなく、鍵がかかった部屋だろうがお構いなく。

    戦刃「苗木……くん?」

    一瞬、何が起こったのか理解できない絶望姉妹。

    だが、戦場で培った野生の勘がこのままここにいては危険だ、と告げる。
    次の瞬間には、戦刃むくろは弾丸のように部屋を脱しようとしていた。

    実の妹から向けられた、明確な殺意。
    その真意を戦刃はすぐに理解した。
    江ノ島盾子が考えた、"アイデア"とは、姉である自分を殺害し、学級裁判を開くこと。
    自分の死体で事件をでっち上げ、邪魔な苗木や十神をクロに仕立て上げる。
    そうすることで、コロシアイの連鎖を誘発しようという魂胆だ。

    ……つまり、江ノ島盾子は自分を慕う姉ですら、"絶望"の為の生け贄にしようというのだ。

    だがそこまで考えて……戦刃むくろの思考は止まる。
    それが江ノ島盾子の意思ならば……彼女の"絶望"のためならば、自分は死ぬべきではないのか、と。
    同時に、足も止まる。あと数歩の所で、部屋の出口、という所で。
    奇しくもそれは、部屋に侵入してきた、狛枝凪斗の目の前だった。

    425 = 416 :


    モノクマ「邪魔しないでよ、苗木クン」

    戦刃の背後から、モノクマが近付いてくる。
    トテトテと、マヌケな死神の足音を立てながら。
    獲物を追う狩人を追う猛獣のような、鋭い目を光らせながら。

    モノクマ「江ノ島さんは……校則違反したんだ。だから、グレートな体罰を与えないとさ」

    モノクマ「邪魔するなら、キミも殺っちゃうよ?」

    「へぇ……どんな校則違反なんだい?」

    わざとらしく首をかしげながら、狛枝は問う。
    それを眼にした戦刃はおぞましいほどの寒気を感じていた。
    明らかに眼前のこの男は……彼女の知る苗木誠とは気配が異なったからだ。

    モノクマ「……何だっていいじゃん。ぼ、ボクに暴力を振ったんだよ!」

    「そうなんだ。それじゃ、パパっとやっちゃいなよ。ボクは止めないからさ」

    狛枝はそう吐き捨てると、もう興味を失った、と言わんばかりに振り返り、部屋を後にしようとする。

    戦刃「……ッ!? ちょっと待ってよ、苗木……止めたりしないわけ?」

    戦刃とモノクマに背を向けたまま、狛枝凪斗はつまらなさそうに言った。

    「だって邪魔したらボクまで殺すって言うしね……巻き添えはごめんだよ」

    そしてくるっ、と首だけを部屋の中に向け、言い放つ。

    「特に……"超高校級の絶望"同士の、仲間割れの巻き添えなんてね……」


    「……ッ!」「…………」


    言葉を失う戦刃。
    だが、無言は肯定を意味すると思い、とっさに反論の声を荒げる。

    戦刃「は? 何それ? "超高校級の絶望"?」

    426 = 416 :


    その抵抗も虚しく、狛枝は改めて戦刃とモノクマの方を向くと、トドメと言わんばかりにコトダマを放つ。

    「あぁ、もう演技なんてしなくていいよ。……全部わかってるから」

    「【キミは江ノ島盾子なんかじゃない】……"超高校級の軍人"・戦刃むくろ。それがキミの正体だろう?」

    戦刃「な……き、聞いたことねーよそんな名前!」

    残念な姉の精一杯の反論に、妹も援護射撃を入れる。

    モノクマ「そうだよ……何言ってんのさ、苗木クン。そもそも戦刃むくろって誰さ?」

    モノクマ「彼女はどこからどう見たって、【正真正銘江ノ島盾子本人だよー】!」

    呆れてため息をつく狛枝凪斗。

    「はぁ……その程度の反論しかできないのかい。正直、拍子抜けだよ」

    「【それは違うよ】…」

    B R E A K !!

    「だったら、"江ノ島"さん。ボクに右手を見せてもらえないかな?」

    戦刃「!?」

    「"超高校級の軍人"である戦刃むくろは、傭兵部隊フェンリルに所属していた」

    「そして、フェンリルの一員であれば、身体のどこかにそれを示すタトゥーが刻まれている」

    「ボクの記憶が正しければ……戦刃むくろには、右手の甲にその刻印があったはず……」

    戦刃「…ッ!」

    何故その事を苗木は知っているのか。戦刃に考えられる可能性は一つしかなかった。
    江ノ島の手によって奪われた二年間の記憶、それが戻っているのだ、と。

    427 = 416 :


    「さあ、右手を出してもらえるかな? もしキミが、本物の江ノ島盾子であるなら、そこにはタトゥーなんてないはずだからさ…」

    戦刃「……ッ!!」

    「もちろん、ファンデーションで隠したって無駄さ。ボクの眼は誤魔化せないよ?」

    モノクマ「…………」

    「さあ!」

    迫る狛枝。戦刃も、モノクマも、彼の放った弾丸のような論破に、気圧されていた。

    「さあ!さあ!」

    戦刃「…………」

    戦刃むくろは動けない。じっとその場で、静止するだけだった。
    どうしていいのか判らないのだ。
    今ここで、目の前の男を黙らせ、口を封じるのが得策なのか、それともさらなる妹の"絶望"のため、諦めて全てを認めるべきなのか。
    何が正解で何が間違いなのか……江ノ島盾子の言うままに動いてきた彼女には、とっさにそれが判断できない。

    そして、そんな彼女の代わりに言葉を発するのは、やはりモノクマだ。

    モノクマ「……苗木クン、もしかして、記憶が戻っちゃった?」

    「どうだろうね……もしそうなら、キミはどうする? またボクらの記憶を奪うかい?」

    その言葉に、戦刃は確信する。
    この男は……苗木誠の姿をした彼は……全てを知っている、と。
    コロシアイ学園生活の首謀者や、苗木達の身に何が起きたのかを。

    428 = 416 :


    モノクマ「……そうだね、もう一度キミ達の記憶を消して、また最初からコロシアイ学園生活をやってもらう。それもアリかもしれないけど……」

    モノクマ「その前に……キミ達には消えてもらうことにするよ」

    戦刃「ッ…!」

    モノクマ「また"幸運"が起こるとも分からないしね。危険な芽は、根っこから引きちぎらせてもらうよ……うぷぷ」

    「ふふっ、やはりそう来るか」

    自らを標的にされてもなお、狛枝は余裕の表情だ。この状況を楽しんでいる様子すら感じさせる。
    戦刃はといえば、自身の危機よりも傍にいるこの男に関心を奪われていた。
    それ程に狛枝凪斗の存在は、ひときわ異彩を放っていた。

    モノクマ「ボクは慈悲深いからね……死に方くらいは選ばせてあげるよ。串刺しがいい? それともバターにでもなる? いやいや、今なら苦しまないで死ねる薬品でも用意してあげるよ?」

    「…………しようよ」

    微かな声で、狛枝は何かをつぶやく。

    モノクマ「んん? なんだい? もしかしていざ死ぬとなると、怖くなってきた? 命乞いするなら今のうちだよ……もっとも、ボクに命乞いなんか通用しないけどね。だってクマだもん。容赦のないクマだもん」

    「ゲームを……しようよ」

    次は、監視カメラを通しても聞き取れる声だった。

    モノクマ「はぁ? ゲームだって? 苗木クン、恐怖でとうとう頭がおかしくなっちゃった?」

    「それは違うよ……」

    ねっとりと絡みつくような、いやらしい否定の言葉。

    「ボクと……ゲームをしようよ。"闇のゲーム"をね」

    ぞくり、と空気が急激に冷めていく。

    「もしもキミが……キミの"絶望"が、ボクの"希望"を打ち砕いたなら、好きにするといい。串刺しでもバターでも、丸焼きでも揚げ物でもなんでもね……」

    「けれどボクが勝ったら…………」

    氷のような、冷え切った感情。
    突き刺すような、憎悪の篭った殺意。

    「キミはボクが殺す。この手で。必ず」

    狛枝凪斗は、不倶戴天の敵に、宣戦布告を突きつける。

    429 = 416 :


    対するモノクマはといえば、狛枝に引く事なく、いつものひょうひょうとした物言いでそれを受け流す。

    モノクマ「……思わずブルっちまうほどの悪のオーラ。正直、今のはなかなかビビったよ……けどね」

    モノクマ「悪・即・断こそモノクマ流よ! ゲーム? ボクがそんなものに乗る理由はないね! 今ここでコロシちゃえば、関係ないもん!」

    モノクマ「気が変わったよ、苗木クン。今ここで、キミはゲームオーバーさ!」

    それは、紛れもない死の宣告。
    今にも彼の足元に"グングニルの槍"が現れるか、と思われた――が、

    「ふーん、そっか。逃げるんだ?……"超高校級の絶望"ともあろう、キミが」

    狛枝は目の色一つ変えず、モノクマを煽ってみせる。
    まるで、身に迫る危険など取るに足らないと言わんばかりに、いつものペースを乱さない。
    驚くべきは、口元が綻び、笑みを浮かべている事だ。

    モノクマ「逃げる? このボクが?」

    「そうさ……まさかゲームもせずにボクを[ピーーー]だなんてね……」

    「まぁ、別のボクは構わないよ。ただ、これを見ている"みんな"はどう思うだろうねぇ……」

    モノクマ「……みんな?」

    「またまたとぼけちゃって。監視カメラの映像を、電波ジャックして世界中にリアルタイム配信していること位、とっくに知ってるよ」

    モノクマ「…………」

    「世界中に残る絶望に屈していない人々…いわば"希望の残党"にトドメを刺す、あるいはボクらを餌にして、彼らをおびき寄せる、目的はそんなところでしょ?」

    「これを見ている人たちは、きっとこう思うだろうねぇ…『"絶望"では"希望"は倒せなかった。だから黒幕はルールを無視して強行策に出た』ってね」

    モノクマ「……」

    「それでもいいなら、"江ノ島"さんも、ボクも殺しなよ」

    「けど本当にそれでいいのかなぁ……あーあ、なんだかガッカリだなぁ……」

    「所詮"超高校級の絶望"って言っても、大した事ないんだね。"希望"のための踏み台にすらなれやしない」

    「ま、当然といえば当然か。"希望"は"絶望"なんかには負けないんだからさ!」

    モノクマ「うむむむむむむむむむむ……」

    430 = 416 :


    「さあ、どうする? 江ノ島盾子」

    「キミは、キミの"絶望"は、ボクなんかの挑戦ですら逃げ出すのかな?」

    「それとも……さあ、答えてよ」

    「さあ……さあ、さあ、さあ、さあ、さあさあさあさあさあさあさあさあ――」

    モノクマ「うるさーい!!!!」

    「怒らないでよ。ほら、怒ってるなら深呼吸、深呼吸」

    柔和な笑顔が、逆にモノクマの怒りを煽る。

    モノクマ「だまらっしゃい!! …わかったよ。そこまで言うなら……ボクが相手になってやろうじゃん!」

    「そうこなくちゃ! それでこそ"希望"の引き立て役にふさわしいよ」

    モノクマ「その減らず口がいつまでもつかな? ボクを怒らせた事を後悔させてやるよ…とびっきりの"おしおき"でね!」

    「ふふふ…それは楽しみだよ。けどキミも覚悟しておいたほうがいいよ? もし負けたら……"罰ゲーム"を受けてもらうからね」

    モノクマ「上等じゃん! それじゃボクから"ゲーム"を用意させてもらうよ」

    モノクマ「準備が出来次第、校内放送で呼び出すから、部屋でガタガタ震えながら、首を洗って待ってな……うぷぷぷぷぷぷ」

    モノクマ「アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!」

    そう言うと、トテトテとモノクマは消えていく。

    431 = 416 :


    去り際に、"絶望"を戦刃むくろに与えてながら。

    モノクマ「……あ、そこの"江ノ島"さん。今までご苦労さまでした。……もうどこにでも消えてくれていいよ。飽きたし」

    戦刃「えっ……そんな、ちょっと……」

    モノクマ「それともボクに殺されたかったのかな? だったら苗木クンのせいだね。せいぜい彼を恨んで、殺して、そのまま一緒に死んじゃってくれてもいいよ」

    戦刃「待って……待って盾子ちゃん!」

    モノクマ「じゃあね…………お姉ちゃん」

    戦刃「ッ…!」

    短すぎる別れの言葉。ただそれだけで、戦刃を"絶望"させるには充分すぎた。
    モノクマはもう、どこにもいなくなっていた。

    戦刃「そんな……」

    立ち尽くす"超高校級の軍人"。
    そこにはもういつもの彼女らしさはどこにもなく、戦場で傷一つ負わなかったはずの彼女が、隙だらけだ。

    口からこぼれ落ちるのは、疑問とも後悔ともつかぬ言葉ばかり。

    戦刃「どうして……」

    たとえ自分を殺そうとしていたとしても、戦刃むくろにとっては、妹が……江ノ島盾子が全てだった。
    ことあるごとに自分を残念呼ばわりし、悪態をつかれても、その気持ちが揺らぐことはなかった。

    妹を"絶望"させるためならばと、世界を敵に回し、数え切れないほど死体の山を築いてきた。
    2年間ともに過ごし、友情が芽生えたかもしれない仲間の記憶を奪い、殺し合わせる事すら躊躇はなかった。

    世界中を"絶望"に叩き込むという江ノ島盾子の計画に、一番協力してきたのは、間違いなく彼女であった。

    432 = 416 :


    にもかかわらず、この仕打ちである。
    あまりにも酷。あまりにも絶望的。
    だがそれが、"超高校級の絶望"・江ノ島盾子という存在だった。
    たとえ双子の姉であろうと、自分が絶望するためならば、容赦なく殺す。躊躇なく切り捨てる。
    それも、頭では理解しているつもりだった。

    だが、妹が彼女に抱いた感情は……絶望でなければ、希望でもない。失望だった。
    戦刃むくろは、溺愛する妹から見捨てられたのだ。江ノ島が絶望するための踏み台にすらなれなかったのだ。

    その事実だけが、彼女にとっては全てで、それゆえに彼女にはもう何も残ってはいなかった。
    これから何のために生きてゆけばいいのか、何のために死ねばいいのか、もう何もわからない。
    まるで海図をなくした帆船のごとく、迷いという暗黒の海に放り出されていた。

    もはや、彼女に立ち上がる気力は残されていない。
    今の彼女を表す言葉があるとすれば、生ける屍……呼吸こそしてはいるが、生きているとはいえない。

    そんな彼女に、言葉が投げかけられる。他でもない狛枝凪斗から。

    「戦刃さん……キミは、"どっち"だい?」

    戦刃「……どっち?」

    「もちろん、"希望"か"絶望"か、という意味だよ。今キミが感じているのは……どっちだい?」

    433 = 416 :


    戦刃「そんなの……」

    決まっている。
    この胸を刺すような喪失感の正体、それは……

    戦刃「"絶望"に決まってるよ」

    「だろうね。けどさ、戦刃さん。もしキミが"絶望"を感じているなら……どうしてそんなに悲しそうなの?」

    戦刃むくろは、答えない。答えられなかった。

    「ボクは……他の"超高校級の絶望"を見たことがある。けれど、その誰もが……"絶望"を心の底から"望"んでいた」

    「"絶望"のためなら、自分や家族、友人を平気で手にかける……そしてその"絶望"に生きる意味を見出す、それが彼らだ」

    「けれどキミは……そうは見えないな」

    戦刃「…………」

    「キミはさ、江ノ島盾子とは違う。本質が"絶望"である彼女とは、それこそ本質的に」

    「戦刃さん、キミが求めているもの、それは……"希望"なんじゃないかな?」

    戦刃「"希望"……? 違う、そんなんじゃ……そんなんじゃない……!」

    戦刃「私はッ……ただ……盾子ちゃんに……盾子ちゃんを"絶望"させてあげる……それだけが、私の望み」

    「どこが違うのかな……妹を"絶望"させ、喜ばせたい。それって立派な"希望"だとボクは思うんだけど……」

    戦刃「それは違う! とにかく違うの……私は……私は……」

    感情的に否定しつつも、戦刃は……狛枝の指摘が正しい事を知っていた。
    自分の中にある妹への感情、それは"希望"にほかならない事を。
    けれどそれは……妹が、江ノ島盾子が最も忌み嫌うもの。
    だからこそ、戦刃は認めるわけにはいかない。いや、認めたくはなかった。

    自分が……溺愛する妹とは、本質的には異なるという事を。

    434 = 416 :


    戦刃「私……は……」

    妹のようには、"超高校級の絶望"には、なれない事を。

    戦刃「うう…………」

    心折られ、膝をつく戦刃。
    顔は床を向き、狛枝からは表情が読み取れない。
    けれど……彼女が泣いているという事は、見るまでもなく明らかだった。

    狛枝凪斗は、それを励ますでもなく、冷たく突き放すでもなく、ただ、じっと眺めていた。
    やがて、何かを決心したように声をかける。

    「あのさ……うまくは言えないんだけど」

    「戦刃さん。キミが"絶望"なら、ボクはキミを殺す」

    「けど、キミの江ノ島盾子に対する感情が、"希望"なんだとしたら……ボクにはキミを殺せない」

    戦刃「…………」

    そして、かすかな声で、ひとりごとのように狛枝は言う。

    「元"絶望"の"希望"なんて、本当は憎たらしくてたまらないけど……」

    「……ボクもそうだからね」

    それだけ言うと、狛枝も口を閉ざした。
    彼が肉体を借りた、苗木誠の瞳が……どこか寂しげなのは、気のせいだろうか。

    人生すら投げ出して、"希望"の為の踏み台になろうとした狛枝凪斗だからこそ、
    "絶望"に身を堕としてでも、"希望"を輝かそうとした彼だからこそ、
    同じくその身すら捨てて、妹の"絶望"に殉じようとした戦刃に思うところがあったのかもしれない。

    435 = 416 :


    部屋には、二人きりの沈黙が続く。
    そして……終わりの始まりを告げる声が、聞こえてきた。


    『ぴんぽんぱんぽーん』

    『えー、校内放送、校内放送』

    『苗木誠クン、苗木誠クン、直ちに校舎1階奥の赤い扉の前までお越し下さい。至急、至急~!』

    『とっておきの"ゲーム"がキミを待っているよ……うぷぷぷぷぷぷぷ』


    「さて、それじゃボクはこれで。彼女を……江ノ島盾子を殺さなきゃいけないからね」

    戦刃「……待って」

    「……止めたって無駄さ。もし邪魔をするなら、容赦はしないよ?」

    戦刃「ううん。私も連れて行ってほしい。……最期まで見届けたいの。盾子ちゃんを」

    「…………勝手にしなよ」

    そう突き放すと、狛枝は部屋を後にする。
    恐れることなく、迷うことなく、廊下を一歩一歩進んでいく。

    それを、同じく決意に満ちた瞳で追う戦刃。
    二人が向かう先は……戦場だ。


    いよいよ、最後の"ゲーム"が始まろうとしていた。
    "希望"と"絶望"がぶつかりあう……"闇のゲーム"が。

    436 = 416 :


    ―時間不明―


    4つ目の島は……島全体がテーマパークのようになっている。
    ジェットコースターやネズミの城、モノミの家などがある。
    モノミって誰だろう、と苗木は密かに思ったが、恐らくはこの遊園地のマスコット的なアレだと解釈した。

    そして……彼らが求めていた手がかりが、ジェットコースターの席に置かれていた。

    苗木「……未来機関?」

    霧切「どうやら、何かのファイルのようだけど……」

    十神「おい、早く中を見てみろ……なんだと!?」

    驚くのも、無理はない。
    今まで得た手がかりのどれよりも、衝撃的な内容がそこには書かれていた。


    『”コロシアイ学園生活”の舞台となったのは、皮肉にも希望ヶ峰学園だった。
    その計画の首謀者は…そこに学園の生徒達を閉じ込め、殺し合いを強要したのだ。
    極限状態に追い込まれた生徒達は、やがて互いに疑心暗鬼を繰り返すようになり…そして…殺し合いが始まった。
    その生徒達による殺し合いは、数日間にも及んだが…ある時、唐突にその幕を下ろす事となる。
    団結した生徒達の反撃によって敗れた首謀者は、そこで自らの命を絶ったのだ。

    こうして生き残った"6名の生徒達"は、学園からの脱出に成功したのだが…』


    未来機関と呼ばれる組織が作成したそのファイルは……平たく言えば「コロシアイ学園生活」のレポートだった。
    だが、内容は悲惨を極めるものだった。

    苗木「そんな……舞園さんを……桑田クンが殺した?」

    霧切「不二咲さんが……男?」

    十神「セレスが山田と石丸を?」

    生き残ったのは、ここにいる3人と、葉隠・朝日奈・腐川のわずか6人。
    そうレポートには書かれているのだ。

    苗木「な……なんだよこれ……」

    ファイルを持つ手が、震える苗木。

    十神「デタラメだ。こんなものは……そうに決まっている」

    到底信じられる内容ではなかった。
    今現実にいる彼らは、誰一人として死んではいない。
    きっと、これは何かの間違いだ。手の込んだイタズラだと苗木は思う。

    437 = 416 :


    霧切「…………本当にそうかしら?」

    けれど、霧切響子だけは、冷静にそのファイルを見つめていた。

    十神「デタラメじゃなかったら、何だというんだ、これは!」

    霧切「……"超高校級の希望"。このファイルには、苗木君の事をそう記してあるわ」

    苗木「"超高校級の希望"? それって……」

    霧切「そう。さっき狛枝君が、苗木君を呼んだ時にそう呼んでいた……」

    霧切「そして、『キミは、"まだ"……』という言葉」


    ―閃きアナグラム―


      み ら い


     ―COMPLETE!!―


    霧切「これは、私の仮説……いえ、想像や妄想の類に近いのだけれど」

    霧切「……ここは、未来の世界なんじゃないかしら」

    苗木「未来?」

    霧切「本当に馬鹿馬鹿しくて、突拍子もない発想なのはわかってるわ」

    霧切「けれど、そう考えれば一応筋は通るのよ」

    狛枝凪斗が、未来から来た人間だったとしたら。
    未然に殺人を防いだ事も、
    このレポートが記憶の世界に残されている事も、
    苗木を"超高校級の希望"と呼んだ事も、
    全てに辻褄があう。

    十神「……100歩譲って、もしそれが真実だとしよう。だとしたら、なぜ狛枝は死んだ?」

    十神「そして、死んだ狛枝がどうやって過去の世界である、俺達の"現在"に来たというんだ?」

    霧切「それは……」

    言葉に詰まる霧切。
    だが、彼女の代わりに十神の疑問に答える者がいた。


    『彼の記憶や意識だけを、データ化して過去に送った……と思うよ?』


    ふわふわと浮くような、女の声だった。



    、、、ツヅク。

    438 :

    今日はここまで

    440 :

    ほう、いいじゃないか

    443 :

    何そのタイムリープマシン乙

    444 :

    おつおつ

    445 :

    クオリティたけえwwwwwwww
    2メンバーもでるのか?乙

    446 :

    口調でなんとなく誰だか分かるなww

    447 :


    謎の女の声…一体何者なんだ

    448 = 440 :

    やっぱり謎の女というと、エスパーとかじゃないでしょうか?

    449 :

    俺新約っぽくていいな

    450 :

    このスレが楽しみすぎてつらい


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