元スレ苗木「ゲームをしようよ。闇のゲームをね……」
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501 = 475 :
「それじゃ…手筈通りに」
戦刃「わかった。…気をつけて」
「キミこそ……頼んだよ」
二人は、二手に別れて裁判場を進んでいく。
モノクマの軍勢に向かって。
彼らの姿を確認したモノクマは、狛枝に向かって言う。
モノクマ「おやおや、作戦は決まりましたかな?」
「………ああ。"勝負"だよ。江ノ島盾子」
モノクマ「うぷぷぷぷぷ。どんな手を使おうが……ボクに勝てるわけないよ」
嘲笑うモノクマに、狛枝は言う。
「…それはどうかな?」
既に、"作戦"は始まっていた。
502 = 475 :
コロコロコロ……と転がる音。
モノクマ「! …同じ手には……乗らないよ!」
スモークグレネードに備え、煙の中でも周囲が見渡せる暗視スコープにカメラを切り替えるモノクマ。
だが…それこそが狛枝凪斗の狙いだった!
広がるのは、煙ではなく……閃光。
モノクマ「ッ! 眼が、眼がぁ~~!!」
破裂したのは、スモークグレネードではない。
閃光手榴弾……爆発の瞬間、音と光を発する、制圧用の非殺傷グレネードだ。
そして暗視スコープにカメラを切り替えたせいで、モノクマのカメラは想定以上の光を集めてしまった。
一瞬、それこそわずかな一瞬だが……"隙"ができる。
すかさず、狛枝凪斗は次の手を打っていた。
彼は手にしたリボルバーを発砲する。真上の天井目がけて。
耳を覆いたくなるほどの破裂音。
その"音"に釣られて、モノクマ達は一斉に狛枝の方を向く。
ただ、1体だけを除いて。
「なるほど……"そこ"か!」
狛枝凪斗は見逃さない。
反応が遅れたモノクマ、それこそが…江ノ島が自ら操る"本命"のモノクマだ。
「…その"絶望"、撃ち抜く! …なんてね」
503 = 475 :
――――
――――――
――――――――
「そういえばさ、さっきグレネードの話をした時、スモーク"は"もう1個しかない…確かにキミはそう言ったよね?」
戦刃「…うん」
「という事は……もしかして、いや間違いなく、キミは今も持ち歩いているんだろう?」
戦刃「…何のこと?」
「"閃光手榴弾"……いわゆる"スタングレネード"をさ」
驚く戦刃。
戦刃「どうしてわかったの?」
「…エスパー、だからかな」
戦刃「……」
「いや、冗談さ」
「キミならいつでも持ち歩いてる、そんな気がしたんだ。なんとなくね」
戦刃「確かに、持ってるけど……」
実際、戦刃むくろは常に武器を携帯していた。
サバイバルナイフや、殺傷用・非殺傷用両方のグレネード。
小銃こそ妹に止められて仕方なく諦めたものの、"ギャル"である江ノ島盾子に変装している時ですら、武器の携帯を欠かさなかった。
不測の事態に備えるため、いついかなる時でも彼女は常に武器を用意していたのだ。
もし誰かに見られでもしたら、なんてことは考えないのが、彼女の"残念"さゆえである。
「ふふふ、さすがは"超高校級の軍人"だね…! これなら勝てそうだ」
戦刃「勝算があるの?」
「ああ……必勝とまではいかないけど…」
「…キミはモノクマの注目を集めた後、スタングレネードを投げて欲しい」
「その爆発とほぼ同時に、ボクが銃を撃つ……そうすれば、より大きな"音"に反応するモノクマはボクの方を向くはずだ」
戦刃「…そっか、盾子ちゃんが操ってるモノクマだけは、グレネードの光に気を取られて一瞬だけ反応が遅れる……」
狛枝は、その一瞬の隙をついて、"本命"のモノクマを見極め、改めて銃で撃ち抜こうというのだ。
タイミングが少しでもずれれば、江ノ島が操るモノクマをその一瞬で見抜けなければ、作戦は瓦解する。
極めて難易度が高いと言えるが…他にいい方法があるわけでもなかった。
「どうかな……成功率は五分五分くらいの賭けではあるんだけど……」
「やってみる価値は、あると思うんだ」
――――――――
――――――
――――
504 = 475 :
ずどん。
放たれる2発目の弾丸。
それは目にも止まらぬ猛スピードで、一直線にモノクマの額を貫いた。
モノクマ「…………な、なんじゃこりゃあああああああ!!」
爆発。
狛枝の放った弾は、見事に"本命"のモノクマに突き刺さり、"幸運"にも内部の爆弾を誘爆させる。
舞い上がった粉塵が、再び場内を白く染める。
勝利を確信し、狛枝は言い放つ。
「……"ゲーム"はボクの勝ちだ。江ノ島盾子」
ほかのモノクマ達は、突然動くのを止める。
リーダーを失ったからなのか、ただのヌイグルミのように、その場にぺたりと座り込んでいた。
それらに向かって、狛枝は言う。
「さあ、そろそろ出てきてもらおうか? キミの"絶望"も、もう終わりさ…」
けれど、返ってきたのは意外な答えだ。
モノクマ「"終わり"? それは違うよぉ…」
モノクマ「"始まり"さ。"終わりの始まり"のね…!」
505 = 475 :
すると、どうしたことだろう。
"本命"でないはずのモノクマ達の眼に再び光が宿り、立ち上がる。
狛枝凪斗の方に向かって、群がってくる。
軍隊のように、列を成しながら。
「……どういうつもりだい?」
モノクマ「どうもこうもないよ。確かにキミはボクが操作するモノクマを見事撃ち抜いた、そこだけは認めてあげるよ……でもね」
にしし、と邪悪な笑みを浮かべるモノクマ。
モノクマ「ボクは言ったはずだよね? この"ゲーム"は、キミ達か、ボク達のどちらかが"全て"消えるまで続くってさ!」
「……あくまでも"鬼ごっこ"にこだわるつもりかい?」
「それは別に構わないけど、カラクリがバレてる以上、キミに勝ち目はないと思うけど」
「「「「うぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ…」」」」
「「「「「アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!」」」」」
モノクマの軍勢が、爆笑の渦に包まれる。
「…何がおかしいんだい?」
モノクマ「いやぁ…狛枝クン、キミはまさか、このボクが…21世紀のクマ型ロボットが"音"だけを頼りにキミを追いかけてたって、本気で思ってるのかい?」
「……! まさか…」
珍しく青ざめる狛枝。先ほどまでの自信はもう、どこにもない。
モノクマ「そのまさかさ! ぜーんぶボクの演技だったわけ!」
決死の覚悟で掴み取った勝利の糸口、それすらも江ノ島盾子のシナリオの上だったというのだ。
506 = 475 :
モノクマ「賢いキミなら、すぐに気づいてくれると思ってたよ。ボクの用意した、"絶望"的な罠とも知らずにね…」
「ハ、ハッタリだよ。負け惜しみさ」
そうは言うものの、狛枝は内心それがハッタリではないことを知っている。
モノクマ「じゃあ試してみる? 今度は手加減しないよ?」
じりじり、とにじり寄るモノクマ達。
「(そうさ…ただの、ハッタリだ。そうに違いない……"音"を立てなければ……)」
おそるおそる、音を立てないように後ろ歩きで距離を取ろうとする狛枝。
だが、左に逃げても、右に逃げても、モノクマ達は視線を狛枝から外さない。
「……ッ!!」
狛枝は認めざるを得ない。
江ノ島盾子の、"超高校級の絶望"の実力を。
いったいどんな手を使ったのか、モノクマ達はそのどれもがまるで"知能"が搭載されているように動いているのだ。
モノクマ「……冥土の土産に教えておいてあげるよ」
壁際まで追い詰められ、囲まれた狛枝に、モノクマは言う。
モノクマ「ボクらを操作しているのは……江ノ島盾子本人であって、本人でない」
「……まさか、"人工知能"?」
ジャバウォック島で見た、未来機関のレポート。
そこに記載されていた"超高校級のプログラマー"・不二咲千尋のデータを狛枝は瞬時に思い出す。
彼が在学中に作っていたのは、"アルターエゴ"と呼ばれる人工知能だ。
江ノ島盾子はそのアルターエゴを強奪し、自身の分身ともいえる"江ノ島アルターエゴ"を既に完成させていたのだ。
並の人間では、プログラムを解析し、それを自分用に改造するという芸当は不可能だろう。
だが、江ノ島の"超高校級の分析力"は、それを可能にする。
モノクマ「へぇ…やっぱり死ぬ間際になると、頭の回転って早くなるんだね」
ケラケラケラ、とせせり嗤うモノクマ。
507 = 475 :
モノクマ「その通り、ボクらを今動かしているのは"アルターエゴ"さ」
モノクマ「キミが大好きな"超高校級の才能"で作られたものに、これから殺される。ああ、何て"絶望"的な結末なんだろうね…!」
「「「「ぶっひゃっひゃっひゃっひゃっっひゃ!!」」」」
「…………」
黙りこくる狛枝。
手にしたピストルには、まだ3発の弾が残っているが……とてもそれだけでは、この状況を打破できそうにない。
いっそ、江ノ島の手で、"絶望"に殺されるくらいなら、これで自分の頭を……。
そんなことすら考えていた狛枝。
だが彼の前に、人影が現れる。
一瞬の出来事に、狛枝は驚き、声を上げる。
「……キミは……!」
戦刃「…………」
立ちはだかったのは、"超高校級の軍人"・戦刃むくろだった。
信じられないことだが、彼女は並外れた身体能力で一瞬のうちに狛枝の前に駆けつけたのだ。
そして、狛枝を庇うようにモノクマと対峙する。
サバイバルナイフを構えながら。
508 = 475 :
モノクマ「どういうつもり…?」
戦刃「残りのモノクマは…私が片付ける…!」
彼女が戦う理由は、明確だ。
妹を、江ノ島盾子を"絶望"させる。ただそれだけ。
だからこそおとなしく殺されるのではなく、抵抗してみせる。
あわよくば、このモノクマ達を全て倒し……本物の江ノ島盾子を引きずり出す。
そうすれば、自分が……あるいは狛枝凪斗が、彼女を倒し、"絶望"させることができるかもしれない。
けれどモノクマは、戦刃の言葉を一笑に伏す。
モノクマ「できるとでも思ってるの? "超高校級の残念"・残姉ちゃんが?」
「無茶だ……! この数を相手に…!」
狛枝の言う通りだった。
ただでさえ自爆特攻を仕掛けてくるモノクマは厄介だったのに、今度はそれを江ノ島の人工知能が操作しているのだ。
いくら傷一つ負わずに数多の戦場を切り抜けてきた戦刃といえども、丸腰で戦車の大群に突っ込んでいくようなものだった。
けれど、戦刃むくろは止まらない。
戦刃「無茶でもなんでも……構わない」
そう言い残すと、戦刃は駆けていく。
彼女に群がるモノクマ達。
戦刃は、手にしたナイフでモノクマを切りつけ、足で蹴り上げ、肘で打ち、頭突きする。
全身を使い、あらゆる方向から来るモノクマを退ける。
思わず舌を巻くほどの、圧倒的な戦闘能力。
狛枝は、何もできずにその場から動けない。
いや、自分があの中に入ったとしても、彼女の邪魔にしかならないとわかっていた。
だからこそ、彼は見守ることしかできない。
509 = 475 :
モノクマ「へぇ…やるじゃん…残姉のくせに……!」
挑発するモノクマ。
だが戦刃はそれを無視して、攻撃の手を休めない。
倒しても、倒しても、倒しても、モノクマは次から次へと向かってくるのだ。
それらを戦刃は、持ち前の身体能力と、軍隊格闘術でいなしていく。
まさにその強さは、鬼神といっても過言ではない。
単純な戦闘での強さであれば、あの"超高校級の格闘家"・大神さくらと同等と言えるかもしれない。
だが……
モノクマ「飽きた。飽きたよ」
戦刃「…ッ!?」
モノクマは、江ノ島盾子は、未だに本気を出してはいなかったのだ。
モノクマ「もしかしたら、勝てるかも…そんな"希望"を抱いちゃった?」
モノクマ「残念~~! 遊んであげてただけだよ。これだからキミは残念なんだよ…"絶望"的に残念だよ!」
モノクマ「つまんないからさ。…消えてよ」
その言葉を合図にして、モノクマの動きが変わる。
戦刃「ッ!!」
ただ、目の前の敵に向かってくるだけだったモノクマが、今度は"戦術"を手に襲いかかってくる。
モノクマ「喰らえ! ボクの必殺技……"メガンテ"!!」
モノクマの内の1匹が、自爆装置を起動させながら向かってくる。
死なばもろとも、戦刃と心中するつもりだ。
戦刃「……!」
当然それに気付いた戦刃は、モノクマを遠くに蹴り飛ばそうとする、が。
モノクマ「言ったはずだよ。遊びは終わりだって」
一瞬の隙を突いたモノクマが飛びかかり、戦刃の両足に纏わり付く。
戦刃「しまった!」
振りほどこうとするが…間に合わない。
モノクマ「バイバイ、お姉ちゃん」
510 = 475 :
まるでサブリミナルの画像のように…戦刃が今まで見てきた情景が心に浮かんでは、消えていく。
…走馬灯、と呼ばれるものだろう。
『これで、いい』
『これで、私の役目は終わるのだ』
戦刃むくろは、自らの半生を振り返り、心の中でそうつぶやいた。
妹を、江ノ島盾子を"絶望"させる……その為の"踏み台"になれるなら、悔いはない。
もとより彼女には、生に執着などありはしなかった。
"超高校級の軍人"である彼女にとって、命を奪い奪われることは、ごくごく身近なありふれたものだ。
それが、彼女にとっては当然であり、日常だったからだ。
だからこそ、溺愛する妹・江ノ島盾子の計画に加担し、汚れ役を引き受けることに、何の抵抗もなかった。
希望ヶ峰学園の生徒や関係者、時には関係のない一般人まで、躊躇せずに殺すことができた。
それが、江ノ島盾子の"絶望"に必要だから。理由はそれだけで充分だった。
彼女の"刃"となり"盾"となる、それこそが自身の存在意義だったのだ。
そして、最愛の妹から、別れを告げられた今でもそれは変わらない。
今まで彼女が行動してきた理由…妹の"絶望"とは、言い換えれば戦刃自身の"希望"だった。
狛枝凪斗にそう指摘されたからこそ、今こうして、決断することができたのだ。
自らの命を、江ノ島盾子の"絶望"の為に捧げるという決断を。
決して報われることのない、献身的なまでの、一方的な愛。…まさしくそれは"絶望"的な"希望"といえるだろう。
『ああ、私は死ぬんだ…これから。今すぐ』
『悪くない人生だった…のかな?』
彼女がしてきた行いは、客観的に見れば決して評価されることではないだろう。
だが、赤の他人の評価など、死にゆくものにとっては無用の長物だ。
戦刃にとっては、最期の瞬間までに、自分がどれだけ妹の"絶望"に貢献できたか…それこそが最も重要なことだった。
だからこそ、彼女は今、死を恐れてはいない。
多くの命を殺してきたが、後悔はない。
ただ、一つだけ心残りがあるとすれば……それは、あの子の、実の妹・江ノ島盾子の"絶望"する姿を、最期まで見届けられないことくらいだろうか。
そんな事を考えながら…もう一度だけ、彼女は自分の周囲を見る。
511 = 475 :
モノクマの眼が…傷のような左眼が、紅く紅く点滅している。
スローモーションのように、ゆっくりと、だが確実に。
もうあと数刻もしないうちに……全ては終わるだろう。
戦刃を囲むモノクマ達は、爆散し、周囲を跡形もなく消し去るだろう。
ひょっとしたら、グロテスクで、どこか美しい朱のアートを残すかもしれない。
だがそれも、無意味だ。それこそ"絶望"的に。
すべてを諦めたように、実際すべてを諦めた戦刃むくろは、眼を閉じる。
永遠の眠りにつく準備をするために。
恐れはもう、なかった。
「さよなら……盾子ちゃん」
きっと、最愛の妹どころか、自分の耳にすら届かない、小さな小さな声で、彼女は別れを告げる。
そして――。
爆音。
爆音。爆音。
512 = 475 :
だが、おそるおそる眼を開けた戦刃は……驚愕の光景を目にする。
なんと、狛枝凪斗が、咄嗟に戦刃を庇い、横に跳んだのだ。
先ほど戦刃が、狛枝を助けたのと、同じように。
そのまま二人は爆風に吹き飛ばされ、もつれるように床に倒れこむ。
それどころか、狛枝は受身すら取れず、地面に叩きつけられる。
"幸運"にも爆発の直撃は回避した。だが……強い衝撃が襲いかかり、二人の全身に痛みが走る。
肋の何本かは折れているだろう。
戦刃「…………どうして?」
思わず疑問の言葉が漏れるほど、戦刃むくろは驚いていた。
「なんで……だろうね…?」
横になったままの狛枝も、疑問を口にする。
なぜそうしたのか、狛枝自身が理解に苦しんでいた。
「どうして………」
「ボクが……キミなんかを……」
けれど、いくら言葉にしてみたところで、その疑問に答えが出ることはない。
狛枝凪斗が戦刃むくろを庇った。
決して揺るがない事実は、これだけだ。
狛枝は、天を仰ぎ見るように、大の字になって横たわる。
「…………っ痛……」
頭を強く打ったのか、ぼやけていく意識。
まだ、負けるわけにはいかない。
まだ、ゲームは終わっていない。
そう強く意思を持とうとするが……身体は言うことを聞かない。
「まだ…だ…まだだ……よ……」
絞り出すように、声を出すが…限界だった。
「"希望"が………負け…る……わけ……な………い」
体中が悲鳴を上げ……狛枝の意識は遠のいていく。
「……こん…な………と…ころで…………」
奇しくもその体勢は……かつて狛枝凪斗が自らを死に至らしめた時と同じ体勢だった。
「あ…と………少し……な…のに………ッ!!」
消えゆく視界の中で……最後に彼が見た光景…それは、彼が一番見たくない"絶望"。
「……江…ノ島……盾……子ッ!!」
目の前に立ち、自分を見下し、嘲笑う……宿敵の姿。
『うぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ』
勝利を確信した彼女は……自らの手で引導を渡しに来たのだ。
手を伸ばせば…この引き金を引きさえすれば……今すぐにでも殺せそうな距離に…彼女はいる。
だが……狛枝は…………狛枝の意識は……
…無慈悲にも、霧となって散る。
513 = 475 :
「ほらね……キミなんかがボクに勝てるわけないじゃん!」
「うぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ」
「アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!」
514 = 475 :
狛枝「ボクは……死んだのかな?」
気を失ったはずの狛枝は……白い世界にいた。
周囲に何もない、無だけが続く、真っ白なキャンバスのような世界に。
狛枝「いや……ここは…ボクの心の中、かな?」
問いかける狛枝。
けれど、その問いにはもう意味がない。答えるものもいない。
狛枝「ま、もうでもいいか……」
すべてを諦めたような落ち込みようで、ぶつぶつと彼は言う。
狛枝「……ボクは…………やっぱりボクなんかじゃ……なれなかったね……"超高校級の希望"には」
狛枝「あんなにカッコつけといて……みんなに合わせる顔がないや」
落ち込み、塞ぎ込む狛枝の心が、黒い感情で満たされていく。
ずっと抱いてきた劣等感。才能あるものへの、潜在的な嫉妬心。
その正体は…狛枝自身が誰よりも知っていた。
狛枝「…………これが、"絶望"……なのかな」
狛枝「そっか……ボクなんかには…………こっちの方がお似合いなんだね」
再び、狛枝凪斗は堕ちそうになる。
彼が最も忌み嫌うもの……"超高校級の絶望"に。
だが、あの時とは違う。
彼を止める者が、彼を救う者がそこにはいた。
515 = 475 :
「……違う」
狛枝「…………誰?」
「それは……違う…」
狛枝「……日向クン?」
「それは違うよ!」
狛枝凪斗の前に、現れたのは……
狛枝「苗木クン……」
"超高校級の幸運"・苗木誠だ。
苗木「諦めちゃだめだよ! 狛枝クン!」
狛枝を励まそうとする苗木。
だが、狛枝は全てを諦めたような、冷ややかな態度でそれを突き放す。
狛枝「もう、無理だよ。ボクなんかじゃ……」
狛枝「……ボクはキミとは違う。ボクはキミにはなれない。キミのような……"超高校級の希望"には、なれないんだ」
苗木「それは違うよ!」
狛枝「違わなくないよ! ……キミは、キミにはわからないんだ! ボクがどれほど"希望"を愛しているか……ボクがどれだけ"希望"を求めているか……!」
狛枝「それなのに……どうして? ……どうしてキミにはなれて……ボクはなれない!?」
狛枝「それがキミの"才能"だから? キミの方が"幸運"だから? ……教えてよ! どうしてさ……!?」
今にも苗木に噛み付きそうな、狛枝の激情に満ちた問いかけ。
それは…嫉妬とも言える心の闇そのものだった。
けれど、苗木誠は狛枝の言葉を甘んじて受け、そして、真っ向から"反論"する!
516 = 475 :
苗木「……ボクはさ、別に自分が特別だなんて、思った事はないよ」
苗木「スタンドが出せるわけでもなければ、ミュータントでもない。好きなものは大抵がランキング一位のものだし、個性なんてあったものじゃない。……他人に誇れる、みんなのような"超高校級の才能"も、ない」
苗木「キミがいた"未来"では、"超高校級の希望"なんて呼ばれてるそうだけど……ボクが"コロシアイ学園生活"で、そこまで変わったとは思えない」
苗木「だって自分のことだからさ……自分が一番よくわかってるつもりさ。…ボクの取り柄は、人より少しだけ前向きなこと…ただそれだけさ」
狛枝「だったら…何が違うのさ? キミとボクで…何が?」
苗木「違わないよ。一緒さ。ボクも、キミも、同じ"超高校級の幸運"じゃないか」
苗木「だから、キミにだってなれるよ。"超高校級の希望"に……! だって、未来のボクがなれたんだもの」
狛枝「無理だよ……ボクなんかじゃ……ボクは……【"希望"なんかじゃない】……」
苗木「【それは違うよ!】」
B R E A K !!
苗木「狛枝クン、思い出して! キミにも、キミの中にも…"希望"はあったはずだ!」
狛枝「…ボクの、中に?」
苗木「キミだけじゃない…"希望"は、前に進もうとしている、すべての人の中にあるんだ!!」
狛枝「前に…進む………!?」
苗木「そうさ、【希望】は…前に進むんだッ!!」
コトダマ
撃ち込まれる"希望"。
それは狛枝の胸を貫き……失われた"記憶"を呼び覚ます。
狛枝が失っていた……最後の記憶を。
新世界プログラムの中での、思い出の1ページを。
517 = 475 :
『でも、今は…違う。この島でキミと過ごした日々が教えてくれた。希望は始めから…このボクの中にもあったんだ』
『それでもボクは知ってしまったんだ。いつでもこの胸に希望があるって』
『けど、お前の中に希望があるなら、それを消すのは不本意だろう?』
『…ほんと、まったくひどい不運だよ!』
『だからそろそろ、少しくらい幸運に恵まれてもいいんじゃないかなと思うんだ』
『だから…今なら言えるかな、って』
『言えるって…何をだ?』
『………………日向クン…ボクと、友達になってくれるかい?』
『え………? ああ…なんだ。…そんなことで、よかったのか…もちろん…お安い御用だ』
ヒナタ ハジメ
あの日……"友"と交わした握手を。
この手に確かに感じた、"友情"を。
狛枝「……そっか……そうだったんだ」
狛枝は、胸に手を当てる。
そこには、暖かいものが……"見えるけど、見えないもの"が確かにあった。
"友情"という名の……"希望"が……!
狛枝「……"希望"は…………あったんだ……最初から……"ここ"に……!」
『 同 意 』
B R E A K !!
518 = 475 :
意識のない狛枝を、足蹴にしながら江ノ島は嗤う。
江ノ島「うぷぷぷぷぷぷ……どうやら、もう動けないみたいだね。あーあ、対した事ないなぁ、あんなにカッコつけちゃって、その最期がこのザマなんて……まさに"絶望"的だね」
江ノ島「"絶望"が"希望"の踏み台になるだって? ホンッット、笑わせる。逆だよ、逆。"希望"なんて"絶望"をより大きくするための餌なんだよォ!」
すぐ傍にいた戦刃は…意識こそ失ってはいないが、立ち上がる体力はもう残されていない。
戦刃「盾子……ちゃん……」
江ノ島「あっ、残姉いたんだ。起きなくていいよ。この忌々しい"希望"バカを始末したら、次はお姉ちゃんを"おしおき"してあげるから」
彼女は、本気だ。その事は姉である戦刃が一番よく解っている。
そんな妹に、戦刃はかける言葉を持たない。
江ノ島盾子が殺すといえば、殺すのだ。さらなる"絶望"の為に。
江ノ島「それじゃあ、時間も押してるところだし……そろそろいっちゃいますか?」
江ノ島「お待ちかねの……投票タイムって奴をよォ!!」
江ノ島「うぷぷぷ、それじゃ皆さんはぁ…☆ お手元のボタンで投票して下さいっ! この世界に必要なのは……"希望"か、それとも"絶望"か?☆ミ」
江ノ島「そこで寝ている狛枝クンは、棄権でいいよね? それじゃ、モノクマの皆さん、投票しちゃいましょー!」
「うぷぷぷぷぷぷ」
「「うぷぷぷぷぷぷ」」
「「「うぷぷぷぷぷぷ」」」
「「「「うぷぷぷぷぷぷ」」」」
519 = 475 :
「ふふふ……」
「あははははははははははははははははははははははははははははははははっ!!」
モノクマの嗤い声が響き渡る裁判場で、一つだけ違う笑い声が上がった。
その声の主は、もちろん……狛枝凪斗だ。
江ノ島「あ……まだ……生きてたんですね……。絶望的に……しぶといです…………」
江ノ島「けど、"ゲーム"はもう終わりだぜぇ…? 後はお待ちかねの……"おしおき"タイムだけさッ!!」
ポーズを決める江ノ島に、立ち上がりながら狛枝は言う。
「それは違うよ…」
江ノ島「何が……違うんだよ? オマエにあるのは、"絶望"だけじゃん!」
「いいや、ボクは手にしたんだ……"希望"をね」
江ノ島「はあ? "希望"? そんなのどこにもないじゃん。バッカじゃないの?」
嘲る江ノ島を無視して、狛枝は語り続ける。
「そして……それは、ボクだけじゃない」
狛枝の視線の先にあるのは裁判場の入口……そして、扉が開かれる。
「そうだよね? ……みんな!」
……そこにいたのは、"仲間"達…希望ヶ峰学園第78期生の姿だ。
520 = 475 :
十神「全く……愚民の分際でこの俺に心配をかけるとは、偉くなったものだな。狛枝よ?」
霧切「ええ。……狛枝君のくせに生意気よ」
舞園「まあまあ二人とも、あまりイジメてあげたら可哀想ですよ。間に合ってよかったじゃないですか……!」
桑田「舞園ちゃんの言うとおりッス! 狛枝さんが無事で良かったッス!」
大和田「ったく、"漢"の勝負に水を差すのは不本意だがよ……オメーに救われた命だ。借りは返させろよな!」
石丸「ウム。借りたものはキチンと返す、いい心がけだ! それに、江ノ島君は女子だ。この場合"漢"の勝負とは言えない……僕はそう思うぞ!」
腐川「べ、別に私はあんたの事なんか……これっぽっちも心配してないわよ。けど、白夜様が……へっくし」
ジェノ「ん、ここどこ? ま、いっか。まーくんが負けるとかありえないんすけどぉ!ゲラゲラゲラゲラゲラ!!」
セレス「そうですわ。苗木君……いえ、狛枝君でしたか……言ったはずですわよ、わたくしと再び戦うまで、負ける事は許しません、と」
山田「そうですぞ!セレス殿との約束を破るなど……万死に値する行為……想像しただけでも恐ろしい!」
朝日奈「狛枝はさ、無茶苦茶な奴だけど……でも私は感謝してるんだよ? さくらちゃんのこと、助けてくれたし!」
大神「我も……お主から大切な事を教わった。恩人には礼を尽くす、それが我の筋の通し方だ」
葉隠「リアルな話…占いの結果はちゃんと確認しないと…俺も一応プロだべ。……あ、もし狛枝っちが勝ったら、俺の口座に代金9万9千円をお願いするべ!」
不二咲「えーっと……お、押し売りはダメだと思うよぉ。けどぉ、狛枝君が無事で……本当によかったぁ」
「みんな……!」
521 = 475 :
驚愕に見開かれる江ノ島盾子の瞳。
江ノ島「お、オマエラ……どうやってここに!?」
霧切「不二咲君が一晩で……いえ、一時間弱でやってくれたわ。さすがは"超高校級のプログラマー"ね」
不二咲「えへへ…でも狛枝君が、黒幕の注意を引いてくれていたおかげだよぉ…」
十神「"江ノ島アルターエゴ"も、破壊させてもらった。ここのシステムはほぼ掌握済みだ。諦めろ……江ノ島盾子。お前の負けだ」
江ノ島「負け……? アタシが……?」
霧切「それとも、"投票"でもする? ……モノクマは、もう動かないみたいだけど」
いつの間にか、江ノ島の周囲を取り囲んでいたモノクマ達は……ただのぬいぐるみのように停止していた。
それが"超高校級のプログラマー"・不二咲千尋の仕業であることは、明確だった。
「そういうわけさ。これで、形勢逆転だ、江ノ島盾子!」
江ノ島「………………まだだ! まだ終わってないぞニンゲン風情が!」
そう言うと江ノ島は、モノクマが座っていた玉座の前まで歩いていき、そこで"絶望"を煽る。
522 = 475 :
江ノ島「苗木君が説明したかもしれませんが……外の世界は……死と絶望に溢れています…………ここから出て行くなど、自殺行為に等しいのです」
江ノ島「生き残る為にはぁ、ここで"絶望"に投票するしかないっていうかぁ……てへへ☆」
江ノ島「俺が死んだ瞬間……ここの空気を綺麗にしていた物理室の清浄機も…ストップしちまうのさ…」
江ノ島「ギャハハハハハ!! いくらそこの不二咲がハッキングしようが、それだけは止められねえようにできてるんだよォ! オマエラも道連れってヤツだなァ!!」
江ノ島「……それが嫌なら……"絶望"に投票するしか……ないですよね……まさに"絶望的"です……」
江ノ島「オマエラ、ここで"絶望"に投票してくれた人は……命だけはボクが保証するよ?」
自らの命を盾にとり、"超高校級"の高校生達にゆさぶりをかける江ノ島。
だが……それは"絶望的"に無意味な行為だった。
「悪いんだけどさ…江ノ島盾子、キミはもう詰んでるよ」
江ノ島「詰んでる…?」
「ボクらの中には……もう誰も"絶望"なんて持ってないんだよ」
江ノ島「……は?」
523 = 475 :
「確かに、ボクの持つ"希望"だけでは…到底キミや…世界中を覆う"絶望"には及ばないかもしれない」
「けれど…"希望"は…ボクらの中に、みんなの中にある!」
「一つ一つの"希望"はたとえどんなに小さくても…それらが"結束"して、力を合わせれば…」
「どんな"絶望"にも負けやしない、"希望"になるんだ……ッ!」
ドンッ☆
霧切「狛枝君の言う通りよ。……江ノ島盾子、貴女ひとりの力が…"絶望"がどれほど強大でも、私達は……力を合わせてそれを乗り越えていくわ!」
霧切の言葉に、他の生徒たちも口々に同意する。
「うん!」「うむ!」「おう!」「ですな!」「んだべ!」「その通りだ!」
「ですわ!」「ええ!」「だねっ!」「フン……」「……そ、そうよ!」「そうだぜ!」
霧切「それに、狛枝君も、苗木君も…"超高校級の幸運"として、この学校に来たわけじゃないと、私は思うわ」
霧切「"超高校級の絶望"を打ち破るのが、"超高校級の希望"だというのなら……ここにいる私達全員が、"超高校級の希望"…そう呼べるんじゃないかしら?」
「ッ!……ボクが……"超高校級の希望"!」
ずっと憧れていた存在に…"超高校級の希望"に…ようやくなれた。
その事実が……狛枝の眼を輝かせる。
喜び、嬉しさ、達成感…さまざまな感情が……"希望"が溢れ出す。
「どうだい、江ノ島盾子。これが……"希望"の力さ…!」
見せつけるように、自らと仲間達の"希望"を突きつける狛枝。
524 = 475 :
だが、江ノ島盾子は……終始無言のままだ。
そして、吐き捨てるように言う。
江ノ島「……寒い」
江ノ島「寒いよ。絶望的に寒い」
江ノ島「口を開けば希望、希望、希望、希望と……吐き気がする。絶望的に」
江ノ島「なんで……なんであんた達は、"絶望"しないのさ? 世界は滅茶苦茶になってて、家族だって、友達だって、みんなみんなみーんな死んでるかもしれないのにさッ……つか、実際死んでるし」
江ノ島「ここにいれば、生き延びられんのに、なんで出て行こうとするのさ? 死にたいの? そんなに死にたいなら黙って私様に……"絶望"に殺されろよ!!」
「それは…違うよ」
「ボク達は、生きている。そして、生きているから…"希望"があるから、前に進むんだ…!」
江ノ島「ウザイ、ウザイ、ウザイ、ウザイ、ウザイウザイウザイッ!!」
「ここで一生を過ごすなんて…"絶望"に屈して生きていくなんて…そんなのは、生きているとは言えないよ!」
江ノ島「キモイキモイキモイキモイキモイキモイ……ッ!!」
「だからこそ…ボク達はここから出ていく。たとえ世界が滅びていても、"未来"は……ボク達が"創"り直せばいい!!」
江ノ島「【世界に絶望しろ! 過去に絶望しろ! 未来に絶望しろ!】」
「「【希望】は……前に進むんだッ!!」」
最後のコトダマが、放たれる。
二人の"超高校級の幸運"の手から。
――江ノ島盾子にトドメを刺すために。
B R E A K !!
525 = 475 :
スロットマシンを模した、投票装置のリールが回る。
くるくるくるくるくると、"希望"と"絶望"が入れ替わり、回り続ける。
世界に必要なのは……"希望"か、"絶望"か、最初で最後の投票。
やがて、リールの回転は速度を落としていき…………止まった。
"HOPE" "HOPE" "HOPE"
もちろん、"希望"を示して。
江ノ島「え…? 何これ…?」
到底受け入れがたい現実を前に、江ノ島は混乱する。
江ノ島「負け……?」
絞り出されるような、疑問の言葉。
それに答えるのは、引導を渡したのは…ほかならぬ、姉の戦刃むくろだった。
戦刃「……うん。盾子ちゃんの……負けだよ」
江ノ島「負けた…? アタシが…? そ、そんな……」
江ノ島「そんなのってぇぇええッ!!」
葉隠「み、認めねーつもりか…?」
十神「さすがの"超高校級の絶望"も、自分を襲う絶望には弱いか…」
江ノ島「そんなのってぇぇぇぇええええッ!!」
裁判場中に響き渡る、絶叫。
江ノ島「…最高じゃない!!」
526 = 475 :
恍惚とした表情を浮かべる江ノ島盾子。
自分の絶望ですら、彼女にとっては喜びでしかないのだ。
狛枝と戦刃は、それをよく知っているからこそ、何の疑問も抱かず彼女を眺めている。
江ノ島「2年も前から…この学園に乗り込んで…綿密な計画を練り上げて…」
江ノ島「そして、計画の為に、実の姉まで殺そうとしたって言うのに…」
江ノ島「それなのに、最後の最後で失敗するなんてッ!」
江ノ島「これ以上ないほどの超絶望だわッ!!」
狂気じみた彼女の独白に、仲間達は驚きを隠せない。
大和田「な、何を…言ってんだよ…コイツは…?」
江ノ島「アタシは、絶望的に絶望的だったの! 生まれた瞬間にすべてに飽きてたの!」
江ノ島「だから、ずっと楽しみにしてたのよ…人生で1度きりの…このイベント…」
江ノ島「最初で最後の最大の絶望! 死の瞬間!!」
江ノ島「それを、"計画の失敗"という、最高級の絶望の中で味わえるなんて…あぁ! 絶望的に幸せだわ!!」
桑田「なんか…喜んでね…?」
異常なまでの"絶望"への執着。
誰もが嫌悪とも驚嘆ともつかぬ感情を抱く。
そして、何人かは、江ノ島盾子が"絶望"に抱く感情が……狛枝凪斗が"希望"に抱くそれに、どこか似ているとも思った。
けれど、誰もそれを口にしはしない。
527 = 475 :
霧切「とにかく…負けを認めるって事でいいのね?」
江ノ島「アハ…アハハハハッ!!」
石丸「何がおかしいのだ!?」
江ノ島「だって、アタシが勝とうが負けようが、外も絶望、中も絶望! あんたらには絶望しかないんだから!」
「……それは違うよ」
江ノ島「え…?」
「ボク達は……もう誰ひとりとして、外の世界に"絶望"なんかしちゃいないんだ」
「江ノ島盾子、キミが世界中に"絶望"をバラ撒いたように…今度は、ボクらが"希望"を世界中に広める」
「……"超高校級の希望"としてね」
江ノ島「…………」
「それにね……不本意だけど、その"ボクら"には…どうやらキミも入ってるらしいんだ」
江ノ島「……は?」
「ま、仕方ないよね。それが苗木クンの"願い"でもあるんだから……」
江ノ島「何……言ってんの……? アタシが…"希望"になんか、なるわけないじゃん!」
江ノ島「おええ……考えただけでも吐き気がする! 寒気がする! "希望"になるくらいなら、死んだほうがマシよッ!」
江ノ島「つーか、さっきから言ってるじゃない! アタシは、生きる事に"希望"なんて持ってないの!」
江ノ島「むしろ…人生で1度しか味わえない"絶望"を、これから楽しもうとしているんだから…」
江ノ島「ジャマしないでよぉぉぉぉッ!!」
そう言うと、江ノ島は手にしたスイッチを押そうとする。
自らに、死の"絶望"を…"おしおき"を与える、スイッチを。
だが、それを止めたのは……やはり狛枝凪斗だ。
528 = 475 :
「それは違うよ…」
「江ノ島さん、ボクは言ったよね? キミが負けたら…"罰ゲーム"を受けてもらうって…」
江ノ島「罰…ゲーム…?」
「勝者は……敗者の最も大切な物を奪う。それが"罰ゲーム"さ」
ぞくり。
江ノ島盾子は生まれて始めて、"絶望"以外の感情を……"恐怖"を感じていた。
"死"は…彼女にとって恐怖ではない。
むしろ"死"がもたらす"絶望"こそが、彼女を満たす唯一の存在といえるかもしれない。
だが…狛枝は、その"死"すらも奪い取るつもりだ。
"絶望"こそが全てである江ノ島から…"絶望"を奪うつもりなのだ。
直感的に狛枝の意図を感じ取ったからこそ、江ノ島は"恐怖"したのだ。
"絶望"を奪われるという、"恐怖"を。
江ノ島「あんた……まさか…ッ!?」
「ふふふ…その"まさか"さ」
意地悪な笑みを浮かべる狛枝。
その悪辣な笑顔は、まるで首を刈るのを楽しむ、処刑人のようだった。
この世のものとは思えない、恐ろしいほどの笑顔。
その場にいる誰もが本能的に感じた恐怖が、狛枝を止めたほうが良いのでは、と疑問を投げかける。
529 = 475 :
戦刃「狛枝君……?」
「戦刃さん…大丈夫さ。キミの"希望"を…蔑ろにしたりしないよ。…けど、江ノ島さんの"絶望"を奪う…それは、死よりもはるかに"絶望"的な罰だとは、思わないかい?」
戦刃「死、よりも…………?」
戦刃は、黙る。それは肯定を意味していた。
もし、"死"よりも"絶望"的な罰があるのだとしたら……それこそが妹の、江ノ島盾子の望む"絶望"なのだから。
対する江ノ島は、これまで誰にも見せたことがないほどの醜態を晒していた。
江ノ島「嫌……やめろ……やめて……ッ!」
これまでの堂々たる態度が嘘のように、彼女は怯えきっている。
だが、"闇のゲーム"の番人は…決して"罰ゲーム"の執行を止めはしない。
「覚悟はいいかい? 江ノ島盾子! 償いの時だ……」
「"罰ゲーム"!」
狛枝の額に、眼(ウジャト)の文様が浮かぶ。
そして、開いた右手を江ノ島の方に向け……高らかに宣言する。
「"マインド・クラッシュ"!!」
江ノ島「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
絶叫が…断末魔が、裁判場にこだまする。
同時に、何かが砕ける音がした。
今、江ノ島盾子の"絶望"に支配された心は……砕かれた。
530 = 475 :
戦刃「盾子ちゃん!?」
戦刃むくろが、崩れ落ちる妹に駆け寄る。
倒れかけた身体を、支える。
「…大丈夫、死んじゃいないさ。江ノ島さんの…"絶望"に満ちた心は、砕けちった」
戦刃「"絶望"が……砕けた……?」
「…今、江ノ島さんは…闇の中で、自分の"希望のカケラ"を拾い集めている。…バラバラになった"心"のパズルをもう一度作り直しているんだ」
「今度は間違わないように…ひとつひとつを自分の力でね…」
戦刃「……じゃあ、パズルが……完成したら……」
「うん。いつか……パズルを解き明かした時に、彼女は戻って来るよ。"希望"に溢れた姿でね」
それを聞き、安心する戦刃。そして、決意を言葉にする。
戦刃「私……待ってる。盾子ちゃんが、戻ってくるのを……いつまでも」
戦刃「いつまでも……」
何よりも、"絶望"を愛し、自らも"絶望"を望んでいた江ノ島盾子。
その彼女が"希望"を抱く……それは、確かにどんな罰よりも酷な、"絶望"的な"おしおき"に違いない。
そして…妹に"希望"を与え続けること、それが、戦刃むくろにとっての"希望"になったのだ。
GAME CLEAR !!
531 = 475 :
二人の男が立っていた。
狛枝凪斗の心の中――何もない、真っ白な空間で。
苗木誠は、狛枝凪斗に感謝と労いの言葉を送る。
苗木「狛枝クン……ありがとう。それから、お疲れさま」
対する狛枝は、謙遜しているのか、苗木を立てる。
狛枝「よしてよ……あの時、キミが…苗木クンが助けてくれてなかったら、ボクは"絶望"に負けていた」
狛枝「やっぱり、元祖"超高校級の希望"は素晴らしいよ!」
苗木「あはは…でも、霧切さんも言ってたじゃないか。ボクらは、みんなが"超高校級の希望"なんだ、って」
狛枝「うーん、それなんだけどさ……みんなは別としても、やっぱりボクなんかが"超高校級の希望"を名乗るのは、おこがましいよ」
苗木「それは違うよ! だって狛枝クンも、ボクと同じ、希望ヶ峰学園に選ばれた"仲間"じゃないか」
狛枝「同じ、か……」
"同じ"という言葉に、思うところがあるのか、考え込む狛枝。
苗木「…どうかしたの?」
問いかける苗木に、狛枝はおそるおそる思いの丈を述べる。
言っていいのか、言うまいか、迷っているようでもあった。
狛枝「……こんなことを言っていいのか、わからないんだけどさ…」
狛枝「…キミは、苗木クンは…他人のようには思えないよ。一歩間違えればボクはキミになってたのかも。その逆も然り、だけどね」
苗木「…………」
532 = 475 :
黙り込む苗木。何か彼にも思うところがあるようだった。
けれどそれをマイナスの感情だと捉えた狛枝は、すぐさま謝罪する。
狛枝「ご、ゴメン。迷惑だよね、ボクなんかと一緒にされちゃ……」
苗木「それは違うよ」
苗木「あの時……江ノ島さんとの最後の戦いで、ボクは言った」
苗木「キミも、ボクも……変わらない。同じ"超高校級の幸運"なんだ、って」
苗木「だから、一歩道を違えば…ボクもキミのようになっていたんだと思う」
苗木「こうして、過去に来たキミが…カタチは違えど"超高校級の希望"になれたように……それこそ"未来"はいくらでも変わっていく」
苗木「ううん、変えていけるんだ! ……他ならぬボク達自身の手で!」
苗木「その事を教えてくれたのは……キミだよ。狛枝クン」
狛枝「ボクが……?」
苗木「だから、あらためてお礼を言うよ。……ありがとう、狛枝クン」
狛枝「…………ボクは……ボクの"希望"を、果たしただけだよ。感謝される為にやったんじゃない。……けど……どういたしまして」
狛枝は、笑ってみせる。
それは、愛想笑いでもなければ、作り笑いでもない、心の底からの無邪気な笑顔。
釣られて、苗木も笑みを浮かべようとする。
……だが、その瞬間は突然やってくる。
533 = 475 :
苗木「狛枝クン!?」
狛枝の身体が……まるで透明人間のようにうっすらと透けていく。
驚きを隠せない苗木に対して、狛枝はいたって落ち着いている。
まるで、こうなることを知っていたかのように。
狛枝「どうやら、そろそろお別れの時間のようだね。…江ノ島盾子を倒した今、もうボクには、この世界に留まる理由もなければ、方法もない」
狛枝「未来が書き換わる事で、ボクの存在は"なかった"事になる……じきにキミ達の記憶からも、消えてなくなる」
苗木「そんな……!」
狛枝「いいんだよ、これで。ボクは本来、世界にとって招かれざる客……これからの"未来"には、必要ない」
淡々と、狛枝は述べていく。
これから自分が消えるとわかっていながら、恐怖を感じていない……それどころか、ようやく休める、といった安堵すら感じているようだった。
苗木「そんな……そんなことって……」
やりきれない気持ちに、俯き、落ち込む苗木。
狛枝「ボクなんかのために、悲しんでくれるのかい?……でも、大丈夫、その悲しみも……すぐ忘れるよ」
苗木「嫌だよ……! 忘れたくなんかない!」
苗木「キミは……狛枝クンは……"仲間"じゃないか」
狛枝「"仲間"、か…………」
苗木の言葉に、少しだけ狛枝は頷き、何か考えごとをしているような素振りをみせる。
それは、自分を"仲間"と呼んでくれたことを喜んでいるようでもあった。
534 = 475 :
狛枝「だったらさ、一つだけ…"仲間"として、お願いしていいかい? …きっと、忘れてしまうだろうけれど、もしかしたら、覚えていられるかもしれない」
苗木「……お願い?」
狛枝「この世界にいる、この時代のボク……今は"絶望"に堕ちてしまっている狛枝凪斗の……"仲間"に、"友達"になってやってほしいんだ」
苗木「……お安い……御用さ。……約束、するよ……!」
力強い承諾。
けれど苗木の心は震え、眼は充血して赤い。
気を抜いたら、感情の雫が流れ出してしまいそうだった。
狛枝「頼もしいね。……ありがとう。それじゃ……最後にもう一つだけ……」
掠れるような狛枝の声。
もうあとわずかしか時間は残されていない。
狛枝「ボクと……握手してほしいんだ」
苗木の前に出される、狛枝の右手。
苗木「……もちろん!」
同じく右手で、苗木は狛枝の手を握る。
痛いほど強く、けれど、いたわるような優しさで。
苗木の瞳からは大粒の涙が、とめどなく溢れていた。
狛枝の表情は……最後まで穏やかだった。
535 = 475 :
狛枝「ありがとう……苗木クン…………ボクは……」
そこまで口にして……
苗木「狛枝クンッ……!」
狛枝凪斗の体はすうっ、と消えていく。
まるで、成仏した霊が天へと登るように。
苗木の意識はそこで途切れる。
けれど、彼は確かに聞いた。
薄れゆく意識の中で、遠くに狛枝凪斗の声が響くのを。
優しげな声で、最後の言葉を紡ぐのを。
『ボクは……キミに会えてよかった……』
『"未来"を、頼んだよ…………』
『大丈夫、キミ達ならうまくやれる。素晴らしい世界を、"創"っていけるさ!』
『だってキミ達は……"超高校級の希望"なんだからさ――!』
536 = 475 :
外の世界に出る前に、支度をしておこうという話になった。
苗木達は一旦それぞれの部屋へと戻り、各々の荷物をまとめている。
そこで、霧切響子が苗木の部屋を訪ねてくる。
霧切「ねぇ、苗木君」
苗木「なんだい? 霧切さん」
霧切「……私、何か大切なことを忘れている気がするの」
苗木「…大切なこと?」
霧切「ええ。…どうしようもなくネガティブだけど、どこか憎めない…そんな人が、傍にいた気がするのよ」
霧切「変な話よね…そんな人、【どこにもいない】のに」
【…それは、違うよ】
霧切「…? 苗木君、心当たりがあるのかしら?」
苗木「えっ……ボク、今何か言った?」
霧切「…………空耳、かしら」
苗木「あ、でもさ……その"違和感"、ボクもなんだ。ボク達、希望ヶ峰学園の第78期生って江ノ島さん達を含めても16人しかいないはずなのに…」
苗木「もう一人……17人目の"仲間"がいた、そんな気がするんだよ」
霧切「そう…。そうよね。…苗木君がそう言うなら……きっと…」
苗木「きっと…?」
霧切「……何でもないわ」
苗木「えっ」
霧切「なん・でも・ない」
霧切「けれど、もしそんな人がいたんだとしたら……ひとつだけ、言いたいことがあるわ」
苗木「言いたいこと?」
霧切「『ありがとう』…って」
【…どういたしまして】
霧切「…? 苗木君、何か言った?」
苗木の部屋の机の上……かつて"千年パズル"が置かれていたその場所には……今はもう何もない。
537 = 475 :
十神「苗木か…」
苗木「あ、十神クン!」
十神「……お前は外の世界で出たら、どうするつもりだ?」
苗木「うーん……正直、外がどうなってるのか、見当もつかないからさ……外に出てから考えようかな、って」
十神「相変わらず能天気だな…お前は」
苗木「あはは…十神クンは、アテがあるの?」
十神「まずは十神財閥の生き残りを探す事にするが……あまり期待はできないだろうな」
十神「だが、たとえそうだったとしても、俺が必ず十神家を再興させる。それが俺の…今の使命だ」
苗木「…さすがは十神クンだね。ボクなんかとは大違いだ」
十神「何を言っているんだ? お前も当然俺と来てもらうぞ。…まだ"決着"がついていないからな」
苗木「"決着"?」
十神「そう、俺とお前で……"決着"をつけなければならない。……ん?」
十神「…………何のことだ? "決着"?」
苗木「えっと……ボクって、十神クンと何か"勝負"してたっけ?」
十神「……そんな気がするんだが。…まぁいい、とにかく。お前は庶民の中でもまだ使えるヤツだと俺は思っている」
十神「復興した世界を支配する側になりたければ、俺についてくることだな」
十神「そうすれば、俺が導いてやる。…十神の名にかけて、な」
苗木「あはは…考えておくよ」
十神「俺は本気だぞ……フン、まあいい。そろそろ行くとするか」
苗木「うん!」
538 = 475 :
エントランスの扉の前に、16人の高校生が立っていた。
いや、正確には15人が自分の足で立ち、1人だけ……江ノ島盾子だけは、姉の戦刃むくろにおぶさる形で身を預けていた。
まだ、意識は回復しない。
彼らは思い思いの言葉を口にする。
外の世界に"希望"を持つものもいれば、希望ヶ峰学園との別れを、少しだけ惜しむものもいた。
けれど、彼らは決意する。……希望ヶ峰学園を"卒業"し、外の世界へと出ていくことを。
たとえ、世界が"絶望"に満ちていたとしても……彼らは、"希望"を決して失いはしない、誰もがそう思いながら。
苗木誠が、"脱出スイッチ"を押す。……すると、けたたましい警告音とともに、重厚な扉は開かれる。
入り込んでくるのは、眩しいほどの光だ。
そして、光の中へと、彼らは進んで行く。
一歩一歩を確かめるように、扉の先にある、"未来"という光の中へ。
まだ見ぬ"未来"に、光輝く"未来"に、"希望"を抱きながら――。
これは特別な"希望"の物語ではない。
……誰にでも物語はあり、それは光の中へ完結する物語だ。
そして、苗木達の物語は……始まったばかりだ――。
苗木「ゲームをしようよ。闇のゲームをね……」 完
547 :
君こそ超高校級の希望だよ!乙!
549 :
乙でした
これは名作ですわ
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