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元スレ晴人「宙に舞う牙」
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迫る水弾をウィザードは膝をついて、しゃがんで避けると落下中の銃剣をキャッチした。そこから銃剣をすばやく逆手に持ち替えるとその手を押し込むように後ろへと引く。
水の弾ける音と銃剣が刺さる音が重なった。
暗闇の中で苦しそうな呻き声が聞こえてくる。それはウィザードでもキバの声でもない。
ウィザードの背後で襲いかかろうとしたラットファンガイアの声だった。。
水弾と銃剣の刺突を同時に食らったラットファンガイアは砕け散った。
「さっきからバレバレだったぞ」ウィザードは辺りを見回しながら「お前たちもな」と付け加える。
ウィザードとキバの周りに渦巻く敵意が激しくなった。だが敵は闇の中、息を潜めたままで姿は見せない。
ウィザードは銃剣のモードを切り替えて銃にするとハンドオーサーを展開した。
キャモナ・シューティング・シェイクハンズ!
軽快な声に合わせてハンドオーサーに指輪をした手が重ねられる。
ライト・プリーズ!
ウィザードは銃剣を頭上に掲げて魔力の弾丸を放った。空へ放たれた魔弾はある高度まで昇ると激しく光った。魔力を光へ変換し、周囲を照らす魔法によって放たれた弾丸は夜空を照らす新たな星になった。
魔法使いの作り出した星。それは黒ビロードの上に並べられた宝石の中でも一番の輝きを持つ宝石だった。
宝石の白い輝きは闇に隠れていた無数のラットファンガイアの姿を晒した。その数にウィザードはため息混じりで言った。
「よくもまあ、こんなゾロゾロと団体で……笛の魔法使い、少し手伝ってくれないか?」
「……」
「さっきの攻撃、俺じゃなくてファンガイア目掛けてだろ。この数は少し厄介だからさ、頼む」
キバは返事の代わりにラットファンガイアの一体撃ち抜いた。
無言のキバだが、ウィザードはそこに協力の意があることを読み取った。行動や呼吸の調子で意外とわかりやすい。
「キバ、我らの同胞をいくら手にかける気だぁっ!」
仲間をやられ激昂したラットファンガイア達が一斉に襲いかかってきた。
ウィザードとキバは背中を向け合い互いの銃を連射して迎え撃った。
ラットファンガイアの数を減らしながらウィザードはキバにいくつか質問する。
「キバ、それがあんたの名前なのか?」
「…………」
「へえ、そうかい。次、この街には何しに? ファンガイアを倒すためかい?」
「…………」
「オーケー、敵は一緒ってことだな。それじゃあ最後にあんたは何者なんだ?」
「…………」
キバはバッシャーマグナムをキバットに噛みつかせた。
「バッシャーバイト!」
キバットがバッシャーマグナムへ魔皇力を注ぎ込むと赤い霧が現れ、ウィザードの作り出した星を飲み込んだ。
辺りは再び夜の暗闇に戻り、夜空にはウィザードの星ではなく半月が輝いていた。
突然、キバの足元から水が湧き出た。水はたちまち広がり一面を巨大な池に変えていく。
キバはバッシャーの能力で擬似水中空間『アクアフィールド』を生成した。
「ハアアアアアアアッ!」
水面に立つキバはバッシャーマグナムに備えられた三つのヒレを高速回転させて強烈な水の竜巻を起こすと、そこに魔皇力を込めた強烈な一発(もはや弾丸というより砲弾という大きさ)を放った。
高速発射された砲弾はラットファンガイアの一体を木っ端微塵に吹っ飛ばした。
ファンガイアの色鮮やかなガラス片が宙を舞い、半月の光を乱反射する。プリズムのような輝きがファンガイアの最後を彩った。
アクアフィールドの至るところでガラス片がいくつも舞い上がる。
敵に反応して、どこまでも追いかけていく離脱不可能の永久追尾弾『バッシャーアクアトルネード』がラットファンガイアの群れを蹴散らしている証だった。
「ヒィイッ!」
ラットファンガイアの一体が、意思を持ったかのような動きをする砲弾で次々と散っていく仲間を見て、その惨状に恐れ慄いた。
仲間の絶叫とガラスの砕ける音から背を向けて逃げ出した。だが、キバの作り出したアクアフィールドに足を取られてしまい、うまく足が進まない。
バシャバシャと水の跳ねる音が自分を嘲笑っているように聞こえた。
死ぬまいともがき足掻くファンガイアに砲弾が飛来する。
「これ以上、やらせるか!」
すると別のラットファンガイアが逃げる仲間を守るように砲弾の前に出た。
ラットファンガイアは腕を組んで防御の姿勢をとった。少しでも自分が食い止めることで仲間を生きのばそうとした。もっとも間違いなく自分は砲弾の威力に耐え切れず死ぬだろう。
ファンガイアに死は直ぐにやってこなかった。
砲弾が進路を変えてファンガイアを避けたのだ。そして、後ろで逃げるファンガイアを猛スピードで吹っ飛ばした。
そこから砲弾は急速でUターンするとファンガイアに守ろうとした仲間を守れなかった無力感すら与える間もなく突撃した。
砲弾が弾けて、水の跳ねる音が一際大きく響く。
「キバ……一族の裏切り者めぇ」
ラットファンガイアが恨み言と一緒に砕け散る。ラットファンガイアの群れは一体も残らず全滅した。
キバはアクアフィールドを元に戻すと、もう興味がないように踵を返して歩きはじめた。
水の弾ける音と銃剣が刺さる音が重なった。
暗闇の中で苦しそうな呻き声が聞こえてくる。それはウィザードでもキバの声でもない。
ウィザードの背後で襲いかかろうとしたラットファンガイアの声だった。。
水弾と銃剣の刺突を同時に食らったラットファンガイアは砕け散った。
「さっきからバレバレだったぞ」ウィザードは辺りを見回しながら「お前たちもな」と付け加える。
ウィザードとキバの周りに渦巻く敵意が激しくなった。だが敵は闇の中、息を潜めたままで姿は見せない。
ウィザードは銃剣のモードを切り替えて銃にするとハンドオーサーを展開した。
キャモナ・シューティング・シェイクハンズ!
軽快な声に合わせてハンドオーサーに指輪をした手が重ねられる。
ライト・プリーズ!
ウィザードは銃剣を頭上に掲げて魔力の弾丸を放った。空へ放たれた魔弾はある高度まで昇ると激しく光った。魔力を光へ変換し、周囲を照らす魔法によって放たれた弾丸は夜空を照らす新たな星になった。
魔法使いの作り出した星。それは黒ビロードの上に並べられた宝石の中でも一番の輝きを持つ宝石だった。
宝石の白い輝きは闇に隠れていた無数のラットファンガイアの姿を晒した。その数にウィザードはため息混じりで言った。
「よくもまあ、こんなゾロゾロと団体で……笛の魔法使い、少し手伝ってくれないか?」
「……」
「さっきの攻撃、俺じゃなくてファンガイア目掛けてだろ。この数は少し厄介だからさ、頼む」
キバは返事の代わりにラットファンガイアの一体撃ち抜いた。
無言のキバだが、ウィザードはそこに協力の意があることを読み取った。行動や呼吸の調子で意外とわかりやすい。
「キバ、我らの同胞をいくら手にかける気だぁっ!」
仲間をやられ激昂したラットファンガイア達が一斉に襲いかかってきた。
ウィザードとキバは背中を向け合い互いの銃を連射して迎え撃った。
ラットファンガイアの数を減らしながらウィザードはキバにいくつか質問する。
「キバ、それがあんたの名前なのか?」
「…………」
「へえ、そうかい。次、この街には何しに? ファンガイアを倒すためかい?」
「…………」
「オーケー、敵は一緒ってことだな。それじゃあ最後にあんたは何者なんだ?」
「…………」
キバはバッシャーマグナムをキバットに噛みつかせた。
「バッシャーバイト!」
キバットがバッシャーマグナムへ魔皇力を注ぎ込むと赤い霧が現れ、ウィザードの作り出した星を飲み込んだ。
辺りは再び夜の暗闇に戻り、夜空にはウィザードの星ではなく半月が輝いていた。
突然、キバの足元から水が湧き出た。水はたちまち広がり一面を巨大な池に変えていく。
キバはバッシャーの能力で擬似水中空間『アクアフィールド』を生成した。
「ハアアアアアアアッ!」
水面に立つキバはバッシャーマグナムに備えられた三つのヒレを高速回転させて強烈な水の竜巻を起こすと、そこに魔皇力を込めた強烈な一発(もはや弾丸というより砲弾という大きさ)を放った。
高速発射された砲弾はラットファンガイアの一体を木っ端微塵に吹っ飛ばした。
ファンガイアの色鮮やかなガラス片が宙を舞い、半月の光を乱反射する。プリズムのような輝きがファンガイアの最後を彩った。
アクアフィールドの至るところでガラス片がいくつも舞い上がる。
敵に反応して、どこまでも追いかけていく離脱不可能の永久追尾弾『バッシャーアクアトルネード』がラットファンガイアの群れを蹴散らしている証だった。
「ヒィイッ!」
ラットファンガイアの一体が、意思を持ったかのような動きをする砲弾で次々と散っていく仲間を見て、その惨状に恐れ慄いた。
仲間の絶叫とガラスの砕ける音から背を向けて逃げ出した。だが、キバの作り出したアクアフィールドに足を取られてしまい、うまく足が進まない。
バシャバシャと水の跳ねる音が自分を嘲笑っているように聞こえた。
死ぬまいともがき足掻くファンガイアに砲弾が飛来する。
「これ以上、やらせるか!」
すると別のラットファンガイアが逃げる仲間を守るように砲弾の前に出た。
ラットファンガイアは腕を組んで防御の姿勢をとった。少しでも自分が食い止めることで仲間を生きのばそうとした。もっとも間違いなく自分は砲弾の威力に耐え切れず死ぬだろう。
ファンガイアに死は直ぐにやってこなかった。
砲弾が進路を変えてファンガイアを避けたのだ。そして、後ろで逃げるファンガイアを猛スピードで吹っ飛ばした。
そこから砲弾は急速でUターンするとファンガイアに守ろうとした仲間を守れなかった無力感すら与える間もなく突撃した。
砲弾が弾けて、水の跳ねる音が一際大きく響く。
「キバ……一族の裏切り者めぇ」
ラットファンガイアが恨み言と一緒に砕け散る。ラットファンガイアの群れは一体も残らず全滅した。
キバはアクアフィールドを元に戻すと、もう興味がないように踵を返して歩きはじめた。
「裏切り者。あんたにも色々と事情があるんだな」
「…………」
「キバッ!」
ウィザードは去っていくキバを呼び止めた。
最後の質問を答えてもらっていない。
「あんたが何者なのか。俺の味方か敵か、それだけはハッキリしてくれ。分からないっていうのは動きづらいんだ」
ウィザードは銃剣を構えて、キバの背中へ向けた。
「もし、あんたがこの街にきたファンガイアと同じなら、俺はあんたを倒さなくちゃいけない。どういった事情であってもな」
トリガーに指をかけて、いつでも射撃できる態勢にした。
構えながら、ウィザードは直前のキバの攻撃を思い出す。
大量のファンガイアを葬った圧倒的な攻撃。
(あれだけの強さを持つキバを俺は倒せるのか?)
仮面の下に不安を隠しながらウィザードはキバにもう一度聞いた。
「キバ、あんたは何者だ?」
キバは自分の元へやってきた無人のマシンキバーに跨ると
「僕は人間だ」
そう答えて夜の暗闇に消えていった。
「…………」
「キバッ!」
ウィザードは去っていくキバを呼び止めた。
最後の質問を答えてもらっていない。
「あんたが何者なのか。俺の味方か敵か、それだけはハッキリしてくれ。分からないっていうのは動きづらいんだ」
ウィザードは銃剣を構えて、キバの背中へ向けた。
「もし、あんたがこの街にきたファンガイアと同じなら、俺はあんたを倒さなくちゃいけない。どういった事情であってもな」
トリガーに指をかけて、いつでも射撃できる態勢にした。
構えながら、ウィザードは直前のキバの攻撃を思い出す。
大量のファンガイアを葬った圧倒的な攻撃。
(あれだけの強さを持つキバを俺は倒せるのか?)
仮面の下に不安を隠しながらウィザードはキバにもう一度聞いた。
「キバ、あんたは何者だ?」
キバは自分の元へやってきた無人のマシンキバーに跨ると
「僕は人間だ」
そう答えて夜の暗闇に消えていった。
おつー
ライダー大戦の晴人良かったな
一応、先輩ライダーなのに諭す側が似合うライダーってのも珍しい
ライダー大戦の晴人良かったな
一応、先輩ライダーなのに諭す側が似合うライダーってのも珍しい
晴人さん、神のように降臨したかと思ったらたっくんに熱い告白だもんなぁ
通常運転ですありがとうござ(ry
通常運転ですありがとうござ(ry
水に縁のあるライダーってどうにも不遇だよなぁ(主にスーツ的な意味か?)
水落ちの多かったギルスはスーツが傷んでディケイドまでもたなかったし、
マスクドフォームがヤゴであるドレイクは(役者の都合?で)出番が少なめ、
バッシャーさんはエンペラーの強化フィニッシュで作中一種だけフィーバー未登場、
シャウタはせっかく各コンボにあるテーマソングが他のと違って劇場版でしか流れない、
アクア&ポセイドンはたぶん劇場版ライダーの中でも特に印象薄いっぽいから
もしディエンドのケータッチ(&アタックライド劇場版)更新があったとしてもワンチャンあるかどうか…
……こう考えるとこのジンクスから逃れられてるのはバイオライダーかウィザードウオーターくらいか?
水落ちの多かったギルスはスーツが傷んでディケイドまでもたなかったし、
マスクドフォームがヤゴであるドレイクは(役者の都合?で)出番が少なめ、
バッシャーさんはエンペラーの強化フィニッシュで作中一種だけフィーバー未登場、
シャウタはせっかく各コンボにあるテーマソングが他のと違って劇場版でしか流れない、
アクア&ポセイドンはたぶん劇場版ライダーの中でも特に印象薄いっぽいから
もしディエンドのケータッチ(&アタックライド劇場版)更新があったとしてもワンチャンあるかどうか…
……こう考えるとこのジンクスから逃れられてるのはバイオライダーかウィザードウオーターくらいか?
ギルスは水落じゃなくて生物っぽさを出すために使った塗料が原因。木野さんも同じ理由でスーツがない
ギルスは水落じゃなくて生物っぽさを出すために使った塗料が原因。木野さんも同じ理由でスーツがない
ギルスは水落じゃなくて生物っぽさを出すために使った塗料が原因。木野さんも同じ理由でスーツがない
ウィザードにおいてはランドが不遇だったからなww
毎回「ディフェンドして突破されるだけの簡単な仕事です」状態だったし
毎回「ディフェンドして突破されるだけの簡単な仕事です」状態だったし
そういえば不遇だの出番がないだの未来から来たポセイドンやアクアだのでふと思ったけど、
渡の息子である正夫が着ることになる、『キバットⅣ世が管理するキバの鎧』って、渡のキバの鎧からどのくらい仕様変更されてるんだろうか?
キバットⅡ世の闇のキバの鎧が性能ヤバ過ぎってことで、キバットⅢ世のは性能おとなしめにされてたけど…。
あと、このSSの世界にキバットの妹・キバーラはいるのか否か。
渡の息子である正夫が着ることになる、『キバットⅣ世が管理するキバの鎧』って、渡のキバの鎧からどのくらい仕様変更されてるんだろうか?
キバットⅡ世の闇のキバの鎧が性能ヤバ過ぎってことで、キバットⅢ世のは性能おとなしめにされてたけど…。
あと、このSSの世界にキバットの妹・キバーラはいるのか否か。
>>420
設定の破壊者が出てくるなら居るだろうな
設定の破壊者が出てくるなら居るだろうな
キバーラって、ディケイドが絡んでない「キバ」単一の世界でも一応いる世界はあるんだよな・・・
「キバーラ」というキャラの初出はディケイドだけど。
ホビージャパンのSICのストーリーのキバ編に出てたはずだし。
「キバーラ」というキャラの初出はディケイドだけど。
ホビージャパンのSICのストーリーのキバ編に出てたはずだし。
>>423
キバーラってクイーン専用だろ?
キバーラってクイーン専用だろ?
どんな人にも生活習慣というものがある。
朝起きてすることや毎日の日課など自分を型にはめることで人は安定した生活を送っていく。
それは一見、型破りに見える仁藤にも言える話だった。
朝、仁藤は体を起こすとテントの脇にあるクーラーボックスからペットボトルを取り出して、昨日の内に汲んだ公園の水を一気に飲み干す。
そこでキッチリと目が覚ました後ひたすら街を歩いて獲物のファントムを探す。
ファントムを探す途中で公園のゴミ箱に捨てられたりする雑誌を読んだり、コンビニに立ち寄って朝食を買ったりする。ちなみに買うのは大抵食パン。安い上に腹持ちもそこそこいい。自前のマヨネーズをかけて食べるのが主流である。
ファントムを見つけたらビーストに変身して狩りを行うが、見つからない時は適当なところで見切りをつけて昼食のバーベキュー用に肉と野菜を買いにスーパーへ足を運ぶ。
食材を買う時はあくまでその日に食べる分だけにしていた。冷蔵庫も冷凍庫も持たないため保存がほとんど効かない仁藤にとって買い込んで腐らせるのは余りにもバカバカしい。
昼、テントに戻り昼食を終えて一旦眠って英気を養ったら、ビーストドライバーのスケッチと合わせて仁藤の考察がびっしりと書かれているノートと論文や文献の検索に使うためのスマホを相棒にドライバーの研究を始める。
この時間は仁藤にとって発掘の時間だった。
ドライバーの発祥はどこで、いつなのか? 誰が作ったのか? 作られた意図は? なぜキマイラが封印されていたのか? ファントムであるキマイラがゲートだった頃の人物像はどういったものなのか? ゲートは何に絶望してキマイラを産みだしたのか?
考えを掘り進めるば掘り進めるほど新たな謎が出土した。
仁藤は掘り起こされた土まみれの謎を知識というブラシで何日もかけて丁寧に暴いていく。キマイラに助言をもらうことはあるが答えを聞くことだけは絶対にしない。
分からないから教えてくれ、ではつまらない。
単に答えが欲しいわけじゃない。自分の力で謎を暴くことに意味があったし、そこにしか興味が向かなかった。
それは学術的な権威や地位には微塵も興味を示さないということであり、考古学界を揺るがすような記述が書かれたノートを発表する気はないと同じだった。
夜になると仁藤は日雇いの土方バイトに出かける。
野宿をしているため家賃や水道代、ガス代、光熱費といった生活コストは掛からないとはいえ、生きている以上食費はもちろん、スマホを使っているため当然ケータイ代(充電の問題に関しては面影堂やファーストフードでのコンセントを使うので問題ない)もかかる。体を清潔に保つために銭湯を利用することだってある。そういった出費のためにも金は必要だ。
通帳には実家からそれなりの贅沢が出来る位には仕送りが振り込まれているが元々家を飛び出すような形で上京してきた仁藤にとって実家の力を借りるのは自分の中で負けたような気がするので一切手をつけていない。
ツナギとヘルメットを持って、仁藤は工事現場まで行き、親方に一言挨拶して仕事に入ると土と汗にまみれながら仕事を夜中まで続ける。日当を貰ったあとはテントに戻り、濡れタオルで体を拭いて寝袋で熟睡する。
朝はファントム探し、昼はドライバーの研究、夜はアルバイト。これが仁藤の一日の流れになっていた。
今日一日もまたこの流れになる……はずだった。名護の特訓が始まるまでは。
朝起きてすることや毎日の日課など自分を型にはめることで人は安定した生活を送っていく。
それは一見、型破りに見える仁藤にも言える話だった。
朝、仁藤は体を起こすとテントの脇にあるクーラーボックスからペットボトルを取り出して、昨日の内に汲んだ公園の水を一気に飲み干す。
そこでキッチリと目が覚ました後ひたすら街を歩いて獲物のファントムを探す。
ファントムを探す途中で公園のゴミ箱に捨てられたりする雑誌を読んだり、コンビニに立ち寄って朝食を買ったりする。ちなみに買うのは大抵食パン。安い上に腹持ちもそこそこいい。自前のマヨネーズをかけて食べるのが主流である。
ファントムを見つけたらビーストに変身して狩りを行うが、見つからない時は適当なところで見切りをつけて昼食のバーベキュー用に肉と野菜を買いにスーパーへ足を運ぶ。
食材を買う時はあくまでその日に食べる分だけにしていた。冷蔵庫も冷凍庫も持たないため保存がほとんど効かない仁藤にとって買い込んで腐らせるのは余りにもバカバカしい。
昼、テントに戻り昼食を終えて一旦眠って英気を養ったら、ビーストドライバーのスケッチと合わせて仁藤の考察がびっしりと書かれているノートと論文や文献の検索に使うためのスマホを相棒にドライバーの研究を始める。
この時間は仁藤にとって発掘の時間だった。
ドライバーの発祥はどこで、いつなのか? 誰が作ったのか? 作られた意図は? なぜキマイラが封印されていたのか? ファントムであるキマイラがゲートだった頃の人物像はどういったものなのか? ゲートは何に絶望してキマイラを産みだしたのか?
考えを掘り進めるば掘り進めるほど新たな謎が出土した。
仁藤は掘り起こされた土まみれの謎を知識というブラシで何日もかけて丁寧に暴いていく。キマイラに助言をもらうことはあるが答えを聞くことだけは絶対にしない。
分からないから教えてくれ、ではつまらない。
単に答えが欲しいわけじゃない。自分の力で謎を暴くことに意味があったし、そこにしか興味が向かなかった。
それは学術的な権威や地位には微塵も興味を示さないということであり、考古学界を揺るがすような記述が書かれたノートを発表する気はないと同じだった。
夜になると仁藤は日雇いの土方バイトに出かける。
野宿をしているため家賃や水道代、ガス代、光熱費といった生活コストは掛からないとはいえ、生きている以上食費はもちろん、スマホを使っているため当然ケータイ代(充電の問題に関しては面影堂やファーストフードでのコンセントを使うので問題ない)もかかる。体を清潔に保つために銭湯を利用することだってある。そういった出費のためにも金は必要だ。
通帳には実家からそれなりの贅沢が出来る位には仕送りが振り込まれているが元々家を飛び出すような形で上京してきた仁藤にとって実家の力を借りるのは自分の中で負けたような気がするので一切手をつけていない。
ツナギとヘルメットを持って、仁藤は工事現場まで行き、親方に一言挨拶して仕事に入ると土と汗にまみれながら仕事を夜中まで続ける。日当を貰ったあとはテントに戻り、濡れタオルで体を拭いて寝袋で熟睡する。
朝はファントム探し、昼はドライバーの研究、夜はアルバイト。これが仁藤の一日の流れになっていた。
今日一日もまたこの流れになる……はずだった。名護の特訓が始まるまでは。
ウィザードは日常パートもうちょいみたかったな
ゆっくりまつさ
ゆっくりまつさ
バトライドウォー2のプロモーションビデオにバッシャーフィーバーが出てたよ
朝の6時。名護に敗北した次の日から約束通り特訓を受けることになった仁藤は、いつもならまだ眠っているような時間に愛用の寝袋から引きずり出された。
「戦士は規則正しい生活を送らなければならない」という名護の言葉から始まったラジオ体操を第一から第二までしっかりやった後に基礎体力作りとしてランニングをさせられる。
まず、このランニングがしんどかった。ランニングの基本はゆっくり長く走ることだが名護のペースが恐ろしく速い。名護にとってはゆっくりなペースのつもりでも戦士として日々鍛錬で鍛えぬいた名護と発掘作業や土方バイトで体を動かしているとはいえ特に鍛えていない仁藤ではペースの感覚が全然違う。
結果的に仁藤は横っ腹を痛めながら名護の背中を追うハメになった。
おまけに名護は仁藤のペースが落ちてくると
「しっかりしなさい、仁藤くん」
激を飛ばしながら仁藤の後ろに周り、背中を押してくるのだ。無理やりペースを上げられて腹の痛さは余計に増した。
ハイペースなランニングを1時間半もぶっ続けでやらされた後はようやく朝食だ。
「仁藤くん、これを食べなさい」
ヘトヘトになって地面に座りこむ仁藤に名護は白い布で包まれた物を手渡した。
中身を開くとプラスチックの弁当箱が出てきた。名護の作ってきた朝食だった。
「あんた、料理出来たのか」
「今は男も厨房に立つ時代。料理の一つや二つ、出来て当然だ。さあ、食べなさい。栄養のバランスをしっかり考えた戦士の朝食だ」
「そんなのはどうでもいいけど遠慮なく食わせてもらうぜ。誰かさんのせいで腹が減ってしょうがねえ」
仁藤は忙しく弁当箱の蓋を開けるとガツガツ中身を胃袋にかき込んでいく。
「美味いんだけどよお……味薄くね?」
「必要以上に調味料を使ってしまうと素材の味を殺してしまう。何より体に良くない。これくらいの方がちょうどいい」
「ほうか。でも、やっぱり俺向きの味じゃねえな」
野宿をする仁藤にとって食事は数少ない娯楽のようなものだった。せめて美味しく食べたい。
仁藤はテントから自分のマヨネーズを取り出して、おかずの焼き鮭にかけようとした。
「止めなさい!」
名護は血相を変えて仁藤の手からマヨネーズを目にも止まらぬ速さでひったくった。
「おい、何すんだよ!」
「何をするんだ……だと?」
名護は怒りに震えながらマヨネーズのチューブを握りしめた。握力で中身が弾け飛びそうになるくらいチューブはパンパンに膨らんでいる。名護は怒気を孕んだまま続ける。
「君は私の話を聞いていなかったのか? 調味料の使いすぎは体に良くないとたった今言ったばかりだろう。と・く・に! 卵を原料とするマヨネーズはコレステロールが含まれていて過剰な摂取により肥満は勿論、脂質異常症となりそこから動脈硬化、心筋梗塞や脳梗塞と連鎖し最悪の場合、死ぬこともありえるんだ」
矢継ぎ早に説明する名護に仁藤は圧倒されて「そ、そうかよ」としか言えなかった。
「戦士は己の体のためにバランスのとれた食事を取らなければならない。今日から君はしばらくマヨネーズ禁止だ」
「ふざけんな! なんでそこまで好き放題にされなきゃなんねえんだ!」
仁藤の抗議を名護は憤怒の表情で返した。
「いや、なんでもねえ」
逆らってはいけないと野生の本能で理解する仁藤。それでも大好物であるマヨネーズを使えないのは嫌だった。何とかして名護に妥協してもらおうと仁藤は別のマヨネーズを取り出した。
仁藤は名護をなるべく刺激しないように素敵な笑顔と穏やかな声で交渉を持ちかける。
「なあ……こっちのカロリーハーフの方なら良いか?」
途端、名護の手に握られたマヨネーズが限界以上に握り締められた。圧迫された空気に押されて赤いキャップがポンッとコルクを抜いたような音を立てて飛ぶ。続けて空気が漏れだす下品な音と一緒に大量のマヨネーズが噴火した。
「…………」
名護は無言のまま綺麗な方の手を上着の内側に入れると、そこから取り出したものをマヨネーズまみれの手に押し付けた。
レ・デ・ィ……
「ちょっと待て、分かった! 皆まで言うな! もうマヨネーズは無しだ! だから、そんなマジに……」
フィ・ス・ト・オ・ン……
「う……うう……うぁああぁああああああっ!!」
迫り来る白い鎧に仁藤は恐怖の叫びを上げた。
「戦士は規則正しい生活を送らなければならない」という名護の言葉から始まったラジオ体操を第一から第二までしっかりやった後に基礎体力作りとしてランニングをさせられる。
まず、このランニングがしんどかった。ランニングの基本はゆっくり長く走ることだが名護のペースが恐ろしく速い。名護にとってはゆっくりなペースのつもりでも戦士として日々鍛錬で鍛えぬいた名護と発掘作業や土方バイトで体を動かしているとはいえ特に鍛えていない仁藤ではペースの感覚が全然違う。
結果的に仁藤は横っ腹を痛めながら名護の背中を追うハメになった。
おまけに名護は仁藤のペースが落ちてくると
「しっかりしなさい、仁藤くん」
激を飛ばしながら仁藤の後ろに周り、背中を押してくるのだ。無理やりペースを上げられて腹の痛さは余計に増した。
ハイペースなランニングを1時間半もぶっ続けでやらされた後はようやく朝食だ。
「仁藤くん、これを食べなさい」
ヘトヘトになって地面に座りこむ仁藤に名護は白い布で包まれた物を手渡した。
中身を開くとプラスチックの弁当箱が出てきた。名護の作ってきた朝食だった。
「あんた、料理出来たのか」
「今は男も厨房に立つ時代。料理の一つや二つ、出来て当然だ。さあ、食べなさい。栄養のバランスをしっかり考えた戦士の朝食だ」
「そんなのはどうでもいいけど遠慮なく食わせてもらうぜ。誰かさんのせいで腹が減ってしょうがねえ」
仁藤は忙しく弁当箱の蓋を開けるとガツガツ中身を胃袋にかき込んでいく。
「美味いんだけどよお……味薄くね?」
「必要以上に調味料を使ってしまうと素材の味を殺してしまう。何より体に良くない。これくらいの方がちょうどいい」
「ほうか。でも、やっぱり俺向きの味じゃねえな」
野宿をする仁藤にとって食事は数少ない娯楽のようなものだった。せめて美味しく食べたい。
仁藤はテントから自分のマヨネーズを取り出して、おかずの焼き鮭にかけようとした。
「止めなさい!」
名護は血相を変えて仁藤の手からマヨネーズを目にも止まらぬ速さでひったくった。
「おい、何すんだよ!」
「何をするんだ……だと?」
名護は怒りに震えながらマヨネーズのチューブを握りしめた。握力で中身が弾け飛びそうになるくらいチューブはパンパンに膨らんでいる。名護は怒気を孕んだまま続ける。
「君は私の話を聞いていなかったのか? 調味料の使いすぎは体に良くないとたった今言ったばかりだろう。と・く・に! 卵を原料とするマヨネーズはコレステロールが含まれていて過剰な摂取により肥満は勿論、脂質異常症となりそこから動脈硬化、心筋梗塞や脳梗塞と連鎖し最悪の場合、死ぬこともありえるんだ」
矢継ぎ早に説明する名護に仁藤は圧倒されて「そ、そうかよ」としか言えなかった。
「戦士は己の体のためにバランスのとれた食事を取らなければならない。今日から君はしばらくマヨネーズ禁止だ」
「ふざけんな! なんでそこまで好き放題にされなきゃなんねえんだ!」
仁藤の抗議を名護は憤怒の表情で返した。
「いや、なんでもねえ」
逆らってはいけないと野生の本能で理解する仁藤。それでも大好物であるマヨネーズを使えないのは嫌だった。何とかして名護に妥協してもらおうと仁藤は別のマヨネーズを取り出した。
仁藤は名護をなるべく刺激しないように素敵な笑顔と穏やかな声で交渉を持ちかける。
「なあ……こっちのカロリーハーフの方なら良いか?」
途端、名護の手に握られたマヨネーズが限界以上に握り締められた。圧迫された空気に押されて赤いキャップがポンッとコルクを抜いたような音を立てて飛ぶ。続けて空気が漏れだす下品な音と一緒に大量のマヨネーズが噴火した。
「…………」
名護は無言のまま綺麗な方の手を上着の内側に入れると、そこから取り出したものをマヨネーズまみれの手に押し付けた。
レ・デ・ィ……
「ちょっと待て、分かった! 皆まで言うな! もうマヨネーズは無しだ! だから、そんなマジに……」
フィ・ス・ト・オ・ン……
「う……うう……うぁああぁああああああっ!!」
迫り来る白い鎧に仁藤は恐怖の叫びを上げた。
本編で使われてた俺専用は結局マジでマヨネーズだったのかカスタードクリームだったのか、どっちなんだろう
乙
とりあえず、ここは自分にとってマヨネーズがどんなに大切なものかを力説したら、
万が一くらいには次からの弁当がマヨネーズ前提のものになったりしたんじゃないかなww
とりあえず、ここは自分にとってマヨネーズがどんなに大切なものかを力説したら、
万が一くらいには次からの弁当がマヨネーズ前提のものになったりしたんじゃないかなww
朝食と名護からの折檻を終えた仁藤は街外れの更地に来ていた。
名護曰く、特訓をするにあたって周囲に人がいない方が都合のいいとのことだ。
「さて、これから特訓を本格的に初めよう。だが、その前に準備運動をしっかりしなければならない。そこで……これだ」
名護は地面に置かれたCDラジカセの再生ボタンを押すとスピーカーから躍動感のある音楽がながれ出した。
「仁藤くん、俺の動いた通りに動きなさい」
名護は後ろにいる仁藤へ返事を促すと仁藤は無言で手を上げて応える。自分で約束したこととはいえ、さっさと終わらして帰りたかった。
音楽の前奏が終わるのに合わせて名護が叫ぶ。
「イクサ・サ――――――――――――――――――イズ!」
気合の入った声と一緒に名護は左の掌に右拳を押し付けてイクサの変身ポーズの動きを再現する。テンポのいいキレのある動きだ。
仁藤は見てはいけないものを見てしまったかのように絶句した。
「どうした仁藤くん、俺の動きに続きなさい」
「いや、だってよ……イクササイズって」
「これは俺が考案した戦士の戦士による戦士のための運動だ。君も戦士である以上、毎日必ずイクササイズをやりなさい。戦士に最適な体を作れるぞ」
「俺は戦士じゃなくて……もういい。つーか大体なんだよ、この格好」
仁藤はあからさまに面倒くさそうな顔をしながら自分の着ている服を見た。
白地のTシャツで胸に青い文字で753とプリントされている。ちなみに腹の部分にはイクサベルトが、背中にはバーストモードのイクサの顔がプリントされていた。
名護は仁藤のと逆の青地に白の文字のTシャツに加えて、これまた753とプリントされたブルーの帽子という出で立ちだ。
「753……どういう意味だよ」
「決まっているだろ? 753(名護さん)だ」
「自分の名前とか自画自賛じゃねえか」
鼻で笑う仁藤だったが当の名護は大真面目に返した。
「当然だ。俺は自分が優秀な人間だと理解している。存在そのものが誇りだ。そんな俺を俺自身が褒めないでどうする? 俺に失礼だ。君もそのTシャツを着て、常日頃から俺の名を胸に刻みなさい」
「……ありがたく着させていただきます」
「いい心がけだ。普段の粗暴な態度も少しは良くなったな」
(一々うるせーよ!)
心の中で悪態をつきながら仁藤は名護に続いてイクササイズを続けた。
「避けなさい! 避けなさい! 敵の攻撃避けなさい!」
歌いながら上体を大きく逸らす名護の動きを仁藤も真似する。
名護の命令口調の歌はともかく適度に体を動かすイクササイズは準備運動にはぴったりで全ての動作が終わる頃には仁藤の体はすっかり温まっていた。
「なあ、おっさん。特訓って何をするんだ? 技術的なものでも教えてくれんのか」
「技術とは基礎の上でしか成立しない。故にあくまで基礎だ」
「ってことは、また朝みたいに走り込むのかよ。言ってることは分かるけどよぉ……地味じゃねえか」
特訓というから如何にもなハードワークを想像していたが今朝のように走らされるだけなら正直期待外れだ。
「地味かどうかは実際に特訓を受けてみてから判断すればいい……そろそろだ」
名護が腕時計で時間を確認するとほぼ同時に更地に1台のトレーラーがやって来た。
トレーラーは名護の近くでゆっくりと止まると荷台が開き、そこから1台のバイク(イクサの顔を模したフロント部分が特徴的)が運ばれた。
「うおーー! かっけえーー! このバイク、おっさんのか!?」
「これはイクサリオン。青空の会が造り出したイクサ専用のマシンだ。それとおっさんは止めなさい」
「イクサリオン……戦獅子……ライオン。俺にピッタリじゃねえか」
仁藤は新しい玩具をもらった子供のようにはしゃぎながらバイクのグリップをおもいっきり動かしてエンジンをふかす。最大出力650馬力を誇る驚異のエンジンが生み出す爆音は近くで聞くと正に獅子の雄叫びだ。圧倒的なパワーに全身が震える。
「おっさん、こいつくれよ」
「ダメに決まっているだろ。あと、おっさんは止めなさい」
「じゃあじゃあ、せめて乗せてくれよ。実は俺、少し憧れてたんだよ」
「俺のように鍛えられた戦士ならともかく君にこいつを扱うのは無理だ。大体、君は免許を持っているのか?」
「うぐっ……それは」
「呆れたな。無免許運転など言語道断だ」
にべもなく返しながらイクサリオンに跨る名護。仁藤はその様子を少し羨ましそうに眺めた。
名護曰く、特訓をするにあたって周囲に人がいない方が都合のいいとのことだ。
「さて、これから特訓を本格的に初めよう。だが、その前に準備運動をしっかりしなければならない。そこで……これだ」
名護は地面に置かれたCDラジカセの再生ボタンを押すとスピーカーから躍動感のある音楽がながれ出した。
「仁藤くん、俺の動いた通りに動きなさい」
名護は後ろにいる仁藤へ返事を促すと仁藤は無言で手を上げて応える。自分で約束したこととはいえ、さっさと終わらして帰りたかった。
音楽の前奏が終わるのに合わせて名護が叫ぶ。
「イクサ・サ――――――――――――――――――イズ!」
気合の入った声と一緒に名護は左の掌に右拳を押し付けてイクサの変身ポーズの動きを再現する。テンポのいいキレのある動きだ。
仁藤は見てはいけないものを見てしまったかのように絶句した。
「どうした仁藤くん、俺の動きに続きなさい」
「いや、だってよ……イクササイズって」
「これは俺が考案した戦士の戦士による戦士のための運動だ。君も戦士である以上、毎日必ずイクササイズをやりなさい。戦士に最適な体を作れるぞ」
「俺は戦士じゃなくて……もういい。つーか大体なんだよ、この格好」
仁藤はあからさまに面倒くさそうな顔をしながら自分の着ている服を見た。
白地のTシャツで胸に青い文字で753とプリントされている。ちなみに腹の部分にはイクサベルトが、背中にはバーストモードのイクサの顔がプリントされていた。
名護は仁藤のと逆の青地に白の文字のTシャツに加えて、これまた753とプリントされたブルーの帽子という出で立ちだ。
「753……どういう意味だよ」
「決まっているだろ? 753(名護さん)だ」
「自分の名前とか自画自賛じゃねえか」
鼻で笑う仁藤だったが当の名護は大真面目に返した。
「当然だ。俺は自分が優秀な人間だと理解している。存在そのものが誇りだ。そんな俺を俺自身が褒めないでどうする? 俺に失礼だ。君もそのTシャツを着て、常日頃から俺の名を胸に刻みなさい」
「……ありがたく着させていただきます」
「いい心がけだ。普段の粗暴な態度も少しは良くなったな」
(一々うるせーよ!)
心の中で悪態をつきながら仁藤は名護に続いてイクササイズを続けた。
「避けなさい! 避けなさい! 敵の攻撃避けなさい!」
歌いながら上体を大きく逸らす名護の動きを仁藤も真似する。
名護の命令口調の歌はともかく適度に体を動かすイクササイズは準備運動にはぴったりで全ての動作が終わる頃には仁藤の体はすっかり温まっていた。
「なあ、おっさん。特訓って何をするんだ? 技術的なものでも教えてくれんのか」
「技術とは基礎の上でしか成立しない。故にあくまで基礎だ」
「ってことは、また朝みたいに走り込むのかよ。言ってることは分かるけどよぉ……地味じゃねえか」
特訓というから如何にもなハードワークを想像していたが今朝のように走らされるだけなら正直期待外れだ。
「地味かどうかは実際に特訓を受けてみてから判断すればいい……そろそろだ」
名護が腕時計で時間を確認するとほぼ同時に更地に1台のトレーラーがやって来た。
トレーラーは名護の近くでゆっくりと止まると荷台が開き、そこから1台のバイク(イクサの顔を模したフロント部分が特徴的)が運ばれた。
「うおーー! かっけえーー! このバイク、おっさんのか!?」
「これはイクサリオン。青空の会が造り出したイクサ専用のマシンだ。それとおっさんは止めなさい」
「イクサリオン……戦獅子……ライオン。俺にピッタリじゃねえか」
仁藤は新しい玩具をもらった子供のようにはしゃぎながらバイクのグリップをおもいっきり動かしてエンジンをふかす。最大出力650馬力を誇る驚異のエンジンが生み出す爆音は近くで聞くと正に獅子の雄叫びだ。圧倒的なパワーに全身が震える。
「おっさん、こいつくれよ」
「ダメに決まっているだろ。あと、おっさんは止めなさい」
「じゃあじゃあ、せめて乗せてくれよ。実は俺、少し憧れてたんだよ」
「俺のように鍛えられた戦士ならともかく君にこいつを扱うのは無理だ。大体、君は免許を持っているのか?」
「うぐっ……それは」
「呆れたな。無免許運転など言語道断だ」
にべもなく返しながらイクサリオンに跨る名護。仁藤はその様子を少し羨ましそうに眺めた。
「仁藤くん、離れなさい」
バイクに乗ったということは運転するのだろう。仁藤は名護に言われた通り、邪魔にならないよう一歩下がった。しかし、名護はイクサリオンを発進させなかった。
「まだ足りないな。もっと下がりなさい」
「ああ、分かった。この位か?」更に数歩下がる仁藤。
「もっとだ」名護の返答は変わらない。
「十分だろ?」
バイクと仁藤の間隔は既に3メートル近く空いている。それでも名護は首を横に振った。
「俺が手を挙げるまで下がり続けなさい」
「……」
仁藤は不思議そうに首を捻りながら名護の指示に従い下がり続ける。やがて小さく見える名護が手を挙げた。ざっと見積もっても数十メートルの距離はある。
「仁藤くん、これより特訓を始める! 変身!」
名護は懐からイクサナックルを取り出してイクサへ変身した。
イクサはイクサリオンを仁藤の方へ向ける。エンジンをふかし、いつでも発進できる状態にしていく。
離れすぎな位に空けられた距離。向けられたバイク。そして特訓。
仁藤の頭に嫌なイメージを浮かんだ。
「まさか……」
獣の唸り声のように響くアイドリング状態のエンジン音が不安を煽った。
「特訓って……」
直後、一際大きな爆音がするとイクサリオンは仁藤へ向かって急発進した。
「嘘だろぉ!」
嘘ではない。目の前で起きていることである。
仁藤は全速力で走った……というより逃げた。しかし所詮は人間の走るスピード。青空の会が誇るモンスターマシンから逃げられるはずもなかった。
イクサリオンに轢かれそうになる瞬間、仁藤は横へ転がった。するとイクサはターンして再び仁藤を追ってくる。
(ほれ、仁藤もっと早く逃げろ)頭の中でキマイラが面白がって茶々を入れてきた。
喉はひりつき、Tシャツは汗で貼りつき、心臓は既に爆発寸前だった。それでも仁藤は走り続けた。
「仁藤くん、逃げるんじゃない! 向かって来るんだ! 戦士に後退はない!」
「趣旨が変わってんじゃねーか!! 変身!」
仁藤は金色の魔法陣に包まれてビーストに変身した。
「変身したか。ならば特訓2だ!」
イクサはバイクを停止させるとベルトのスロットからフエッスルを取り出して読み込ませた。
パ・ワ・ア・ド・イ・ク・サ……
フエッスルのコードが読み上げられると地面を揺らしながらイクサのもう一つの専用マシンである恐竜のような姿をした重機『パワードイクサー』がやってきた。
全高7.5メートルの鋼鉄の竜のスケールにビーストは圧倒される。
「おいおいおいおい! こんなのまであんのかよ反則だろ! なんでもありなのは魔法使いの特権だっつーの!」
(人間の科学力とは恐ろしいものだな。最早、魔法と区別がつかぬわ)
「関心してる場合じゃねえ!」
ビーストはバイクから重機に乗り移ったイクサに吠える。
「おっさん、俺を鍛えたいのか殺したいのか、どっちだ!」
「もちろん君を鍛えるのが俺の使命だ。そして、私はおっさんではない」
イクサはパワードイクサーの恐竜の頭部のようなアームを巧みに操作して、後方に備え付けられた攻撃用の爆雷ポッドを投擲した。
地面に着弾したポッドが赤い火柱をあげて爆発する。
「うぉおおおおおっ!」
爆風でビーストが吹っ飛び、地面に叩きつけられた。その間にもパワードイクサーは次の投擲の準備に入る。
「安心しなさい。今日の特訓のために爆薬の量はきちんと減らしておいてある」
「そういう問題じゃ……ねえ……」
その後、特訓の時間が終わるまで仁藤は生きた心地が全くしなかった。
仁藤は思った。
生きているって本当に素晴らしい。
バイクに乗ったということは運転するのだろう。仁藤は名護に言われた通り、邪魔にならないよう一歩下がった。しかし、名護はイクサリオンを発進させなかった。
「まだ足りないな。もっと下がりなさい」
「ああ、分かった。この位か?」更に数歩下がる仁藤。
「もっとだ」名護の返答は変わらない。
「十分だろ?」
バイクと仁藤の間隔は既に3メートル近く空いている。それでも名護は首を横に振った。
「俺が手を挙げるまで下がり続けなさい」
「……」
仁藤は不思議そうに首を捻りながら名護の指示に従い下がり続ける。やがて小さく見える名護が手を挙げた。ざっと見積もっても数十メートルの距離はある。
「仁藤くん、これより特訓を始める! 変身!」
名護は懐からイクサナックルを取り出してイクサへ変身した。
イクサはイクサリオンを仁藤の方へ向ける。エンジンをふかし、いつでも発進できる状態にしていく。
離れすぎな位に空けられた距離。向けられたバイク。そして特訓。
仁藤の頭に嫌なイメージを浮かんだ。
「まさか……」
獣の唸り声のように響くアイドリング状態のエンジン音が不安を煽った。
「特訓って……」
直後、一際大きな爆音がするとイクサリオンは仁藤へ向かって急発進した。
「嘘だろぉ!」
嘘ではない。目の前で起きていることである。
仁藤は全速力で走った……というより逃げた。しかし所詮は人間の走るスピード。青空の会が誇るモンスターマシンから逃げられるはずもなかった。
イクサリオンに轢かれそうになる瞬間、仁藤は横へ転がった。するとイクサはターンして再び仁藤を追ってくる。
(ほれ、仁藤もっと早く逃げろ)頭の中でキマイラが面白がって茶々を入れてきた。
喉はひりつき、Tシャツは汗で貼りつき、心臓は既に爆発寸前だった。それでも仁藤は走り続けた。
「仁藤くん、逃げるんじゃない! 向かって来るんだ! 戦士に後退はない!」
「趣旨が変わってんじゃねーか!! 変身!」
仁藤は金色の魔法陣に包まれてビーストに変身した。
「変身したか。ならば特訓2だ!」
イクサはバイクを停止させるとベルトのスロットからフエッスルを取り出して読み込ませた。
パ・ワ・ア・ド・イ・ク・サ……
フエッスルのコードが読み上げられると地面を揺らしながらイクサのもう一つの専用マシンである恐竜のような姿をした重機『パワードイクサー』がやってきた。
全高7.5メートルの鋼鉄の竜のスケールにビーストは圧倒される。
「おいおいおいおい! こんなのまであんのかよ反則だろ! なんでもありなのは魔法使いの特権だっつーの!」
(人間の科学力とは恐ろしいものだな。最早、魔法と区別がつかぬわ)
「関心してる場合じゃねえ!」
ビーストはバイクから重機に乗り移ったイクサに吠える。
「おっさん、俺を鍛えたいのか殺したいのか、どっちだ!」
「もちろん君を鍛えるのが俺の使命だ。そして、私はおっさんではない」
イクサはパワードイクサーの恐竜の頭部のようなアームを巧みに操作して、後方に備え付けられた攻撃用の爆雷ポッドを投擲した。
地面に着弾したポッドが赤い火柱をあげて爆発する。
「うぉおおおおおっ!」
爆風でビーストが吹っ飛び、地面に叩きつけられた。その間にもパワードイクサーは次の投擲の準備に入る。
「安心しなさい。今日の特訓のために爆薬の量はきちんと減らしておいてある」
「そういう問題じゃ……ねえ……」
その後、特訓の時間が終わるまで仁藤は生きた心地が全くしなかった。
仁藤は思った。
生きているって本当に素晴らしい。
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