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元スレ晴人「宙に舞う牙」
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穏やかな昼下がり、骨董店・面影堂で操真晴人はソファーにゆったりと腰をかけて、くつろいでいた。
手には好物のドーナツ、プレーンシュガー。一口かじり、味わうように咀嚼する。
口の中にまぶされた白い粉砂糖の甘みが広がっていく。
また一口かじる。そんなことを繰りかえす。
至福の時間だ。
「平和ですねえ」
向かいのソファーでは晴人の弟子を自称する青年、奈良瞬平もドーナツを食べていた。
派手な色合いの服を着る瞬平は、まるでサーカスの道化師だ。
今、二人が食べているドーナツは瞬平がお土産にと買ってきてくれたものだ。
「おいしい~」
わざとらしいまでに顔をほころばせる瞬平。
瞬平は表現がオーバーだ。喜怒哀楽が激しい。
この幸せそうな顔も道化芝居でもなく瞬平の素なのだ。
面白い奴だよな……晴人は心の中で呟き、かじって小さくなったプレーンシュガーを口に放り込んだ。
瞬平は窓から差し込む陽光を見ながら言う。
「いい天気ですね。外に出るのも悪くないけど、こうしてここでのんびりするのも良いですよねえ」
「ああ、全くだ」
「こういう日は何も起きないといいですよね あっ! でも、そういうこと言った時に限って何か起きちゃうんですよねえ」
「おい、やめろ」
洒落にならない。晴人が言い終える前に、面影堂の扉が慌ただしく開いた。
晴人はガクッと頭を下げる。平穏は一瞬で崩れた。
扉の方へ視線を移すと晴人と瞬平のよく知る女性がいた。
動きやすいように肩口の辺りで切り揃えられた髪、パンツスタイルのスーツ、キリッとした意志の強そうな瞳。
鳥井坂警察署の刑事、大門凛子だ。
「晴人さん、本当に起きちゃいましたね」
「お前のせいだぞ、瞬平」
真顔で驚く瞬平に晴人は恨み言をこぼした。
急いできたのだろうか、凛子は息を切らせながら二人の元へやってくる。
「どうしたんですか、凛子さん? そんな慌てなくても凛子さんの分のドーナッツはちゃんとありますよ」
瞬平は「ど~なつ屋はんぐり~」の袋からドーナッツを1つ、凛子に渡そうとするが
「どいて!」
「うわああああ!」
おもいっきり突き飛ばされてしまった。
その拍子に渡そうとしたドーナツが明後日の方向へと飛んでいく。
「「「あっ……」」」
三人の声が重なる。
スロモーションの映像を見ているかのように、綺麗な放物線を描くドーナツに釘付けになる三人。
その中で晴人はいち早く我に返った。
(間に合え!)
晴人は素早く右中指に指輪をはめてズボンの、ベルトを巻いた時にバックルのある位置に付いている手の形をした装飾『ハンドオーサー』に指輪をかざす。
コネクト! プリーズ!
独特の音声と共に現れた魔法陣に手を入れると少し離れた所に魔法陣がもう1つ現れ、晴人の手が飛び出てくる。
空間と空間をつなぐ魔法の指輪の力だ。
魔法陣から出てきた晴人の手にドーナツがちょうど落ちてくる。
「セ~フ」
晴人は空いた手で野球の審判のように手を横に切った。瞬平と凛子がホッと安堵の息を漏らす声が聞こえた。
晴人は魔法陣に入れた手を引き、戻した手にあるドーナツを凛子に向けて差し出す。
「凛子ちゃん、とりあえずドーナツでも食べて落ち着きなよ」
晴人はいたずらっぽく笑った。
SSWiki :http://ss.vip2ch.com/jmp/1372273772
手には好物のドーナツ、プレーンシュガー。一口かじり、味わうように咀嚼する。
口の中にまぶされた白い粉砂糖の甘みが広がっていく。
また一口かじる。そんなことを繰りかえす。
至福の時間だ。
「平和ですねえ」
向かいのソファーでは晴人の弟子を自称する青年、奈良瞬平もドーナツを食べていた。
派手な色合いの服を着る瞬平は、まるでサーカスの道化師だ。
今、二人が食べているドーナツは瞬平がお土産にと買ってきてくれたものだ。
「おいしい~」
わざとらしいまでに顔をほころばせる瞬平。
瞬平は表現がオーバーだ。喜怒哀楽が激しい。
この幸せそうな顔も道化芝居でもなく瞬平の素なのだ。
面白い奴だよな……晴人は心の中で呟き、かじって小さくなったプレーンシュガーを口に放り込んだ。
瞬平は窓から差し込む陽光を見ながら言う。
「いい天気ですね。外に出るのも悪くないけど、こうしてここでのんびりするのも良いですよねえ」
「ああ、全くだ」
「こういう日は何も起きないといいですよね あっ! でも、そういうこと言った時に限って何か起きちゃうんですよねえ」
「おい、やめろ」
洒落にならない。晴人が言い終える前に、面影堂の扉が慌ただしく開いた。
晴人はガクッと頭を下げる。平穏は一瞬で崩れた。
扉の方へ視線を移すと晴人と瞬平のよく知る女性がいた。
動きやすいように肩口の辺りで切り揃えられた髪、パンツスタイルのスーツ、キリッとした意志の強そうな瞳。
鳥井坂警察署の刑事、大門凛子だ。
「晴人さん、本当に起きちゃいましたね」
「お前のせいだぞ、瞬平」
真顔で驚く瞬平に晴人は恨み言をこぼした。
急いできたのだろうか、凛子は息を切らせながら二人の元へやってくる。
「どうしたんですか、凛子さん? そんな慌てなくても凛子さんの分のドーナッツはちゃんとありますよ」
瞬平は「ど~なつ屋はんぐり~」の袋からドーナッツを1つ、凛子に渡そうとするが
「どいて!」
「うわああああ!」
おもいっきり突き飛ばされてしまった。
その拍子に渡そうとしたドーナツが明後日の方向へと飛んでいく。
「「「あっ……」」」
三人の声が重なる。
スロモーションの映像を見ているかのように、綺麗な放物線を描くドーナツに釘付けになる三人。
その中で晴人はいち早く我に返った。
(間に合え!)
晴人は素早く右中指に指輪をはめてズボンの、ベルトを巻いた時にバックルのある位置に付いている手の形をした装飾『ハンドオーサー』に指輪をかざす。
コネクト! プリーズ!
独特の音声と共に現れた魔法陣に手を入れると少し離れた所に魔法陣がもう1つ現れ、晴人の手が飛び出てくる。
空間と空間をつなぐ魔法の指輪の力だ。
魔法陣から出てきた晴人の手にドーナツがちょうど落ちてくる。
「セ~フ」
晴人は空いた手で野球の審判のように手を横に切った。瞬平と凛子がホッと安堵の息を漏らす声が聞こえた。
晴人は魔法陣に入れた手を引き、戻した手にあるドーナツを凛子に向けて差し出す。
「凛子ちゃん、とりあえずドーナツでも食べて落ち着きなよ」
晴人はいたずらっぽく笑った。
SSWiki :http://ss.vip2ch.com/jmp/1372273772
食べるという工程を踏んだおかげか、凛子は落ち着きを取り戻していた。
だが、その顔はまだ晴れていなかった。
凛子は晴人の元へ来た理由を話しはじめた。
「最近、謎の消失事件が起きているの」
「消失? 失踪とかじゃないんですか?」
晴人の隣で瞬平がいち早く浮かんだ疑問をぶつけた。
晴人も同じだった。
人が行方をくらます失踪事件ならともかく人が消失、消えるなんてことがあるのだろうか?
「そう、消失。突然、人が消えるの」
凛子はカバンからファイルを取り出して、晴人に渡す。
晴人はファイルのページを開く。見開きの形で消えた人のことがまとめられていた。
1ページめくると同じように見開きでまとめらている。まためくる、同じだ。まためくる、同じだ。
ファイルには総勢4名が載っていた。
「もしかして、これ……全部?」
「消えた人よ」
青ざめた顔で聞く瞬平に凛子は沈痛な面持ちで答えた。瞬平は微かに震えた。
今度は晴人がファイルに目を落としたまま凛子に聞く。
「凛子ちゃん、消えた人はどうなったんだい?」
「わからないわ。ただ、宙に舞う牙が出てきて」
「牙?」
その単語に瞬平は上唇をつまみ上げて先の尖った歯、犬歯を覗かせた。
「目撃者の証言よ。何もない空中から突然、牙が出てきて人を襲うの。そして、襲われた人は透明になって消えるの」
「まるで魔法だな」
「ええ、だから晴人くんの力を貸して欲しいの。この件に関しては晴人くんと協力しろ、って木崎さんから」
「目には目を、魔法には魔法を、ってことだ」
いかにも合理的な木崎らしい、と晴人は思った。
「わかった、協力するよ。指輪の魔法使いにお任せあれ」
晴人はおどけるように笑って、右中指にはめている指輪を宙にかざした。
その仕草に凛子と瞬平もつられて笑った。
だが、その顔はまだ晴れていなかった。
凛子は晴人の元へ来た理由を話しはじめた。
「最近、謎の消失事件が起きているの」
「消失? 失踪とかじゃないんですか?」
晴人の隣で瞬平がいち早く浮かんだ疑問をぶつけた。
晴人も同じだった。
人が行方をくらます失踪事件ならともかく人が消失、消えるなんてことがあるのだろうか?
「そう、消失。突然、人が消えるの」
凛子はカバンからファイルを取り出して、晴人に渡す。
晴人はファイルのページを開く。見開きの形で消えた人のことがまとめられていた。
1ページめくると同じように見開きでまとめらている。まためくる、同じだ。まためくる、同じだ。
ファイルには総勢4名が載っていた。
「もしかして、これ……全部?」
「消えた人よ」
青ざめた顔で聞く瞬平に凛子は沈痛な面持ちで答えた。瞬平は微かに震えた。
今度は晴人がファイルに目を落としたまま凛子に聞く。
「凛子ちゃん、消えた人はどうなったんだい?」
「わからないわ。ただ、宙に舞う牙が出てきて」
「牙?」
その単語に瞬平は上唇をつまみ上げて先の尖った歯、犬歯を覗かせた。
「目撃者の証言よ。何もない空中から突然、牙が出てきて人を襲うの。そして、襲われた人は透明になって消えるの」
「まるで魔法だな」
「ええ、だから晴人くんの力を貸して欲しいの。この件に関しては晴人くんと協力しろ、って木崎さんから」
「目には目を、魔法には魔法を、ってことだ」
いかにも合理的な木崎らしい、と晴人は思った。
「わかった、協力するよ。指輪の魔法使いにお任せあれ」
晴人はおどけるように笑って、右中指にはめている指輪を宙にかざした。
その仕草に凛子と瞬平もつられて笑った。
「晴人、大丈夫なの?」
面影堂のレジカウンターの方から、小さいけどよく通る声が聞こえてきた。
レジカウンターから顔を覗かせる少女、コヨミは長い艶やかな黒髪と何処か人形のような無表情さが特徴的だった。
どうやら晴人がこの事件に関わることを不安に感じているようだ。
「安心しろ。コヨミ」
晴人はソファーから立ち上がるとコヨミの元まで行き、コヨミの不安を消すように頭を撫でる。
ほんの少しコヨミの表情が和らいだように見えた。
「人が突然消える。そんなことを出来るのは間違いなくファントムだ。なら、俺のやることは決まっているだろ?」
子供に言い聞かせるように優しい声で晴人は言った。
コヨミは無言で頷く。了承してくれたようだ。
それを合図に瞬平が「よーしっ!」と気合を入れて、ソファーからガバッと立ちがる。
「絶対に消失事件の犯人を見つけ出しますよ! 僕、仁藤さんにも知らせてきます!」
言うが早いが瞬平は駆け出す。
思い立ったら、すぐ行動。瞬平のいい所だ。
「ちょっと瞬平くん! 見つけるって、どうやって探すつもり? こら、待ちなさい!」
走って面影堂を出て行く瞬平を、凛子がファイルをしまい追いかけていく。
扉の向こうからはギャイギャイと声が聞こえてくる。
面影堂には嵐が過ぎさったような静けさが残った。
「騒がしい……」
「そういうのにも馴れただろ? それじゃあ行ってくる」
呆れるように呟くコヨミの頭に、晴人はポンと手を置くと歩き出した。
・
・
・
面影堂を出た晴人は今回の消失事件について考える。
ファイルを見る限りでは既に4人は犠牲者が出ていた。
それは現在わかっている数でしかなく、実際はもっと犠牲者がいるとも考えられる。
それこそ瞬平の言っていたように失踪という形で。
ファントムは何をする気なのか?
犠牲者がゲートだとしたら、ファントム達が何か大きなことをやろうとしているのかもしれない。例えばサバトのような。
それとも単純にファントムが一般人を襲っているのかもしれない。
頭の中にかつての強敵が浮かび上がる。
とにかく、これ以上の被害を食い止めるために急いだ方が良さそうだ。
「宙に舞う牙……か」
面影堂のレジカウンターの方から、小さいけどよく通る声が聞こえてきた。
レジカウンターから顔を覗かせる少女、コヨミは長い艶やかな黒髪と何処か人形のような無表情さが特徴的だった。
どうやら晴人がこの事件に関わることを不安に感じているようだ。
「安心しろ。コヨミ」
晴人はソファーから立ち上がるとコヨミの元まで行き、コヨミの不安を消すように頭を撫でる。
ほんの少しコヨミの表情が和らいだように見えた。
「人が突然消える。そんなことを出来るのは間違いなくファントムだ。なら、俺のやることは決まっているだろ?」
子供に言い聞かせるように優しい声で晴人は言った。
コヨミは無言で頷く。了承してくれたようだ。
それを合図に瞬平が「よーしっ!」と気合を入れて、ソファーからガバッと立ちがる。
「絶対に消失事件の犯人を見つけ出しますよ! 僕、仁藤さんにも知らせてきます!」
言うが早いが瞬平は駆け出す。
思い立ったら、すぐ行動。瞬平のいい所だ。
「ちょっと瞬平くん! 見つけるって、どうやって探すつもり? こら、待ちなさい!」
走って面影堂を出て行く瞬平を、凛子がファイルをしまい追いかけていく。
扉の向こうからはギャイギャイと声が聞こえてくる。
面影堂には嵐が過ぎさったような静けさが残った。
「騒がしい……」
「そういうのにも馴れただろ? それじゃあ行ってくる」
呆れるように呟くコヨミの頭に、晴人はポンと手を置くと歩き出した。
・
・
・
面影堂を出た晴人は今回の消失事件について考える。
ファイルを見る限りでは既に4人は犠牲者が出ていた。
それは現在わかっている数でしかなく、実際はもっと犠牲者がいるとも考えられる。
それこそ瞬平の言っていたように失踪という形で。
ファントムは何をする気なのか?
犠牲者がゲートだとしたら、ファントム達が何か大きなことをやろうとしているのかもしれない。例えばサバトのような。
それとも単純にファントムが一般人を襲っているのかもしれない。
頭の中にかつての強敵が浮かび上がる。
とにかく、これ以上の被害を食い止めるために急いだ方が良さそうだ。
「宙に舞う牙……か」
キバとウィザードってファンタジーな要素多くて親和性高そうだなと思ってたんだよ
期待
期待
芝生で遊ぶ子供やジョギングをする男性、犬の散歩をする女性、ベンチに座る老夫婦、鳥井坂公園のいつもの風景だ。
瞬平を見失った凛子と晴人は最近起きた奇妙なことや消失者について聞きこみをしながらファントムの手がかりを探していた。
「ここもダメか。人がたくさんいるから、何かいい情報が手に入ると思ったんだけど」
「仕方ないよ、凛子ちゃん」
人に化けて日常に溶け込んでいるファントムを見つけ出すのは至難の業だ。
わかっていることと言えば、宙に舞う牙という奇妙な手口を使うことだけ。
情報が少ない以上、とにかく自分の足を使って探すしかなかった。
しかし、成果は芳しくなかった。
「手詰まりか。こんな時にコヨミちゃんがいれば」
そこまで言った凛子はハッとなって口を閉じた。
「ごめんなさい。軽率だった」
「気にしなくていいよ。言いたいことはわかるし」
晴人は凛子の言わんとしたことを理解していた。
確かにコヨミがいれば人間とファントムを見分けられる力で、この状況を打開できるかもしれない。
それこそ、こちらから見つけて一方的に狩ることが出来る。
だが、いざファントムとの戦いになった時にコヨミを守りながら戦うとなると苦戦は必至だ。
ミイラ取りがミイラになるわけにはいかないし、何よりコヨミを戦いには巻き込みたくはなかった。
(くそ……)
晴人はポーカーフェイスのまま心の中で自分を叱責した。
コヨミの安全を考えた時、外に出さず面影堂に閉じ込めてしまうことが一番確かだという事実。それが晴人を苛立たせた。
「……?」
突然、何処かから美しい音色が聞こえてきた。
晴人は凛子の方を見ると凛子も不思議そうな顔をしている。どうやら凛子も同じように聞こえているようだ。
二人は音色に導かれるように歩いていくと公園の中心である噴水までたどり着いた。
噴水の前では若い女性がバイオリンを弾いていた。
右手に持つ弓で張られた弦を擦り、音を創りだす。
それは魔法のようだった。
「きれい……」
バイオリンの奏でる音色に凛子は思わずうっとりする。
晴人もまた女性の演奏に魅入られていた。
全てを包み込む優しい音色に先程まであった苛立ちはすっかり消えていた。
公園にいる誰もが女性の音の魔法に足を止める。
やがて女性の周りに人だかりが出来た。
女性は周囲の視線を気にすることなく演奏を続ける。
すると、奇妙なことが起こった。
女性の後ろの噴水で、丸みを帯びた逆三角形のようなものが浮かび上がった。
瞬平を見失った凛子と晴人は最近起きた奇妙なことや消失者について聞きこみをしながらファントムの手がかりを探していた。
「ここもダメか。人がたくさんいるから、何かいい情報が手に入ると思ったんだけど」
「仕方ないよ、凛子ちゃん」
人に化けて日常に溶け込んでいるファントムを見つけ出すのは至難の業だ。
わかっていることと言えば、宙に舞う牙という奇妙な手口を使うことだけ。
情報が少ない以上、とにかく自分の足を使って探すしかなかった。
しかし、成果は芳しくなかった。
「手詰まりか。こんな時にコヨミちゃんがいれば」
そこまで言った凛子はハッとなって口を閉じた。
「ごめんなさい。軽率だった」
「気にしなくていいよ。言いたいことはわかるし」
晴人は凛子の言わんとしたことを理解していた。
確かにコヨミがいれば人間とファントムを見分けられる力で、この状況を打開できるかもしれない。
それこそ、こちらから見つけて一方的に狩ることが出来る。
だが、いざファントムとの戦いになった時にコヨミを守りながら戦うとなると苦戦は必至だ。
ミイラ取りがミイラになるわけにはいかないし、何よりコヨミを戦いには巻き込みたくはなかった。
(くそ……)
晴人はポーカーフェイスのまま心の中で自分を叱責した。
コヨミの安全を考えた時、外に出さず面影堂に閉じ込めてしまうことが一番確かだという事実。それが晴人を苛立たせた。
「……?」
突然、何処かから美しい音色が聞こえてきた。
晴人は凛子の方を見ると凛子も不思議そうな顔をしている。どうやら凛子も同じように聞こえているようだ。
二人は音色に導かれるように歩いていくと公園の中心である噴水までたどり着いた。
噴水の前では若い女性がバイオリンを弾いていた。
右手に持つ弓で張られた弦を擦り、音を創りだす。
それは魔法のようだった。
「きれい……」
バイオリンの奏でる音色に凛子は思わずうっとりする。
晴人もまた女性の演奏に魅入られていた。
全てを包み込む優しい音色に先程まであった苛立ちはすっかり消えていた。
公園にいる誰もが女性の音の魔法に足を止める。
やがて女性の周りに人だかりが出来た。
女性は周囲の視線を気にすることなく演奏を続ける。
すると、奇妙なことが起こった。
女性の後ろの噴水で、丸みを帯びた逆三角形のようなものが浮かび上がった。
「何だ、あれ?」
晴人は見間違いかと思って、目をこすりもう一度逆三角形の物体を見た。
それはガラス細工のように透明だったが、確かにあった。
瞬間、晴人は直感した。
(宙に舞う牙!)
コネクト! プリーズ!
晴人は魔法陣から銀色の魔法銃剣『ウィザーソードガン』を取り出し、引き金をひいた。
銃口から放たれた弾丸は、それ自体が意思を持っているかのように人だかりの合間を縫うように動き、牙だけを正確に貫き砕いた。
ガラスが砕けたような音に女性は振り向いて噴水を見る。
すると、噴水から怪物が飛び出してきた。
怪物は黒い体に色鮮やかなガラス片であるステンドグラスを散りばめた姿をしている。
怪物の姿に人々が恐れおののき、叫びを上げて散っていく。
平穏な公園は既にステンドグラスの怪物による恐怖の舞台へと変わっていた。
晴人は女性を再び襲おうとする怪物に向かって銃弾を叩き込んだ。
「凛子ちゃん、ゲートは頼んだ!」
「ええ、任せて!」
晴人の叫びに凛子は応えると女性に駆け寄り、その場から女性を連れて離れた。
ステンドグラスの怪物は追おうとするが、
「おっと、そうはいかないな」
その前にウィザーソードガンを構えた晴人が立ちふさがる。
怪物は獲物を取り逃がした怒りを晴人へと向ける。
「下等な人間が随分なことをしてくれたな」
「ファントムの邪魔をするのが魔法使いの仕事でね」
「魔法使い……お前は何者だ?」
「ファントムの癖に俺を知らないのか? なら、教えてやるよ」
晴人は不敵に笑うと、右中指にはめた指輪をハンドオーサーにかざす。
ドライバーオン!
ハンドオーサーから特殊銀合金ソーサリウムが展開されると、晴人の腰に巻き付くベルト『ウィザードライバー』が姿を現した。
晴人は続けざまにウィザードライバーのシフトレバーを下ろす。ハンドオーサーが右向きから左向きへと反転する。
シャバドゥビタッチ・ヘンシーン! シャバドゥビタッチ・ヘンシーン!
軽快な声が呪文のように繰り返され、晴人を舞台にあげるコールとなって響く。
「変身!」
晴人は力強くつぶやくと、左中指にはめた赤い魔法石のついた指輪をハンドオーサーにかざす。
魔法石がハンドオーサーから放射される固有の振動によって、活性化し内に秘められた魔力を開放されていく。
フレイム! プリーズ! ヒーヒー! ヒーヒーヒー!
晴人の魔力が解放された指輪の魔力と同調・増幅し、赤い魔法陣となり晴人の全身を火の衣装で飾っていく。
左中指の指輪と同じ輝く赤い顔に漆黒のローブ。
火の力を司る指輪の魔法使いの登場だ。
仮面ライダーウィザード・フレイムスタイル。
それが舞台に上がった晴人の役だ。
ウィザードはお決まりのセリフを放つ。
「さあ……ショータイムだ!」
晴人は見間違いかと思って、目をこすりもう一度逆三角形の物体を見た。
それはガラス細工のように透明だったが、確かにあった。
瞬間、晴人は直感した。
(宙に舞う牙!)
コネクト! プリーズ!
晴人は魔法陣から銀色の魔法銃剣『ウィザーソードガン』を取り出し、引き金をひいた。
銃口から放たれた弾丸は、それ自体が意思を持っているかのように人だかりの合間を縫うように動き、牙だけを正確に貫き砕いた。
ガラスが砕けたような音に女性は振り向いて噴水を見る。
すると、噴水から怪物が飛び出してきた。
怪物は黒い体に色鮮やかなガラス片であるステンドグラスを散りばめた姿をしている。
怪物の姿に人々が恐れおののき、叫びを上げて散っていく。
平穏な公園は既にステンドグラスの怪物による恐怖の舞台へと変わっていた。
晴人は女性を再び襲おうとする怪物に向かって銃弾を叩き込んだ。
「凛子ちゃん、ゲートは頼んだ!」
「ええ、任せて!」
晴人の叫びに凛子は応えると女性に駆け寄り、その場から女性を連れて離れた。
ステンドグラスの怪物は追おうとするが、
「おっと、そうはいかないな」
その前にウィザーソードガンを構えた晴人が立ちふさがる。
怪物は獲物を取り逃がした怒りを晴人へと向ける。
「下等な人間が随分なことをしてくれたな」
「ファントムの邪魔をするのが魔法使いの仕事でね」
「魔法使い……お前は何者だ?」
「ファントムの癖に俺を知らないのか? なら、教えてやるよ」
晴人は不敵に笑うと、右中指にはめた指輪をハンドオーサーにかざす。
ドライバーオン!
ハンドオーサーから特殊銀合金ソーサリウムが展開されると、晴人の腰に巻き付くベルト『ウィザードライバー』が姿を現した。
晴人は続けざまにウィザードライバーのシフトレバーを下ろす。ハンドオーサーが右向きから左向きへと反転する。
シャバドゥビタッチ・ヘンシーン! シャバドゥビタッチ・ヘンシーン!
軽快な声が呪文のように繰り返され、晴人を舞台にあげるコールとなって響く。
「変身!」
晴人は力強くつぶやくと、左中指にはめた赤い魔法石のついた指輪をハンドオーサーにかざす。
魔法石がハンドオーサーから放射される固有の振動によって、活性化し内に秘められた魔力を開放されていく。
フレイム! プリーズ! ヒーヒー! ヒーヒーヒー!
晴人の魔力が解放された指輪の魔力と同調・増幅し、赤い魔法陣となり晴人の全身を火の衣装で飾っていく。
左中指の指輪と同じ輝く赤い顔に漆黒のローブ。
火の力を司る指輪の魔法使いの登場だ。
仮面ライダーウィザード・フレイムスタイル。
それが舞台に上がった晴人の役だ。
ウィザードはお決まりのセリフを放つ。
「さあ……ショータイムだ!」
ショータイムだ、って最初は視聴者に向けて言っているのかと思ってました
http://www.youtube.com/watch?v=JQ3XI_uZwgQ
ウィザードはソードガンを剣に変形させて、怪物へ立ち向かう。
軽快な剣さばきで怪物の体を切り裂いていく。
ジャグリングのように持ち手を右から左へと変えての一太刀。
怪物は拳を振り抜き反撃する。
普通の人間が喰らえば致命傷となる一撃だが、ウィザードには当たらない。
ウィザードはローブをはためかせながら踊るように舞い、華麗にかわした。
そして、怪物の攻撃の隙にもう一太刀を浴びせる。
堪らず怪物はウィザードと距離をとった。
ウィザードは剣を手元で回し、怪物に差し向けて言う。
「Shall we dance?」
ウィザードの気障な誘いに怪物は自分の腕の一部を砕くことで応えた。
ステンドグラスの様な怪物の一部が、手元で集合してひと振りの剣を形成する。
ウィザードと怪物は、互いの剣を何度も打ち合わせる。
やがて、鍔迫り合う型となり怪物は力任せにウィザードの剣を弾き飛ばした。
宙高くに舞う剣を見て、怪物は勝ち誇った様な声を出す。
「ダンスは御終いだな」
「そうでもないさ」
迫り来る怪物の剣を後ろに飛んでかわすウィザードは、余裕と言った声でシフトレバーを上げる。ハンドオーサーが左から右に反転させ、
ルパッチ・マジック・タッチ・ゴー! ルパッチ・マジック・タッチ・ゴー!
指輪の魔力を解放する呪文と共に右の指輪をかざす。
エクステンド! プリーズ!
瞬間、落ちてくる剣に向かって突き出すウィザードの腕がありえない程に伸びていく。
物質の柔らかさを変化させ伸び縮みさせる指輪の力だ。
空中で剣をキャッチした腕を元の長さまで縮ませる。
そのままウィザードは明らかに怪物に当たらない距離にも関わらず剣を振る。
剣は怪物の皮膚を切り裂いた。剣を持つウィザードの腕が伸びたのだ。
ウィザードは自分の腕を鞭に見立てて、怪物の体を打ち据える。
剣の鞭を右往左往でかわす怪物の姿は踊っているように見えた。
「付き合っていられるか」
怪物はそう捨て台詞を吐くと背を向けて逃げ出そうとする。
「ショーの途中で退席とは無粋だな」
「後はこいつらが付き合ってくれる」
追いかけようとするウィザードに、怪物とはまた別のステンドグラスの怪物が複数立ちふさがる。
逃げた怪物の気配は消えた。ならば、さっさとこの舞台の幕を降ろそう。
「フィナーレだ!」
ウィザードはウィザーソードガンのハンドオーサーを展開させる。
キャモナ・スラッシュ・シェイクハンズ! キャモナ・スラッシュ・シェイクハンズ!
ハンドオーサーに左手の赤い指輪をかざす。
フレイム! スラッシュストライク! ヒッヒッヒッ!
刀身に膨大な炎が纏う。
剣を振る瞬間、ウィザードは右の指輪をかざす。
ビッグ! プリーズ!
浮かび上がる魔法陣に剣を入れると、剣は何十倍もの大きさに変わった。
「はあっ!」
気合とともにウィザードは長大な火の塊を横に薙ぎ、怪物を群れごと焼き払う。
絶命の雄叫びをあげると同時に、怪物たちの全身は色とりどりのガラス片となって砕け散った。
「ふぃ……」
舞台を終えたウィザードは小さく息を吐いた。
ウィザードはソードガンを剣に変形させて、怪物へ立ち向かう。
軽快な剣さばきで怪物の体を切り裂いていく。
ジャグリングのように持ち手を右から左へと変えての一太刀。
怪物は拳を振り抜き反撃する。
普通の人間が喰らえば致命傷となる一撃だが、ウィザードには当たらない。
ウィザードはローブをはためかせながら踊るように舞い、華麗にかわした。
そして、怪物の攻撃の隙にもう一太刀を浴びせる。
堪らず怪物はウィザードと距離をとった。
ウィザードは剣を手元で回し、怪物に差し向けて言う。
「Shall we dance?」
ウィザードの気障な誘いに怪物は自分の腕の一部を砕くことで応えた。
ステンドグラスの様な怪物の一部が、手元で集合してひと振りの剣を形成する。
ウィザードと怪物は、互いの剣を何度も打ち合わせる。
やがて、鍔迫り合う型となり怪物は力任せにウィザードの剣を弾き飛ばした。
宙高くに舞う剣を見て、怪物は勝ち誇った様な声を出す。
「ダンスは御終いだな」
「そうでもないさ」
迫り来る怪物の剣を後ろに飛んでかわすウィザードは、余裕と言った声でシフトレバーを上げる。ハンドオーサーが左から右に反転させ、
ルパッチ・マジック・タッチ・ゴー! ルパッチ・マジック・タッチ・ゴー!
指輪の魔力を解放する呪文と共に右の指輪をかざす。
エクステンド! プリーズ!
瞬間、落ちてくる剣に向かって突き出すウィザードの腕がありえない程に伸びていく。
物質の柔らかさを変化させ伸び縮みさせる指輪の力だ。
空中で剣をキャッチした腕を元の長さまで縮ませる。
そのままウィザードは明らかに怪物に当たらない距離にも関わらず剣を振る。
剣は怪物の皮膚を切り裂いた。剣を持つウィザードの腕が伸びたのだ。
ウィザードは自分の腕を鞭に見立てて、怪物の体を打ち据える。
剣の鞭を右往左往でかわす怪物の姿は踊っているように見えた。
「付き合っていられるか」
怪物はそう捨て台詞を吐くと背を向けて逃げ出そうとする。
「ショーの途中で退席とは無粋だな」
「後はこいつらが付き合ってくれる」
追いかけようとするウィザードに、怪物とはまた別のステンドグラスの怪物が複数立ちふさがる。
逃げた怪物の気配は消えた。ならば、さっさとこの舞台の幕を降ろそう。
「フィナーレだ!」
ウィザードはウィザーソードガンのハンドオーサーを展開させる。
キャモナ・スラッシュ・シェイクハンズ! キャモナ・スラッシュ・シェイクハンズ!
ハンドオーサーに左手の赤い指輪をかざす。
フレイム! スラッシュストライク! ヒッヒッヒッ!
刀身に膨大な炎が纏う。
剣を振る瞬間、ウィザードは右の指輪をかざす。
ビッグ! プリーズ!
浮かび上がる魔法陣に剣を入れると、剣は何十倍もの大きさに変わった。
「はあっ!」
気合とともにウィザードは長大な火の塊を横に薙ぎ、怪物を群れごと焼き払う。
絶命の雄叫びをあげると同時に、怪物たちの全身は色とりどりのガラス片となって砕け散った。
「ふぃ……」
舞台を終えたウィザードは小さく息を吐いた。
「じゃあ、私はそのファントムという怪物に?」
「そうだ。奏美さん、奴らの標的にされた」
「はあ……」
凛子が保護した女性、時田奏美はため息をついた。
「この街でコンサートをするために来たけれど、まさかこんなことになるなんて」
いきなり怪物に襲われて、見知らぬ女性(しかも刑事)から保護を受けて、古びた骨董品店に連れて行かれて、今度は自分が怪物に狙われているという話を聞かされる。
急展開過ぎて頭がどうにかなりそうだった。
これが夢か幻とも思いたかったが、現実だ。どうやら『事実は小説よりも奇なり』という言葉は本当らしい。
奏美のまだ夢から覚めていないようなぼんやりとした顔とは違い、晴人と凛子の表情は真剣そのものだった。
「奏美さん、コンサートは中止にした方がいいです。あなたはファントムに狙われています」
「それはダメ。私の演奏を楽しみにしている人がいるの。私の事情なんて関係ないわ」
「奏美さん」
凛子の申し出を奏美はきっぱりと断る。バイオリンケースを見る奏美の目には強い意志が込められていた。
「なら、せめてコンサート当日までは鳥井坂から」
「それもダメ。私はこの街の音楽と一つになるの」
「街の音楽?」
「街はね……風の音、ざわつく木、行き交う車や電車、そしてそこに住む人の声。溢れんばかりの無数の音が混じり合って、一つの音楽を奏でているの。街の音楽と一つになって、聴衆の心に残る演奏を届ける。それが私の音楽」
自身の音楽観を語る奏美は楽しそうだった。
「だから、わざわざ外で練習をしていたのか。街の音楽になるために」
「ええ」
奏美はバイオリンケースからバイオリンを取り出し、弦を弓で引く。
バイオリンから奏美という名前の通り、美しい音色が奏でられる。
奏美の演奏はスッと心に入っていく不思議なものだった。まるで聞きなれた曲の様な自然さが宿っている。
晴人は全身で奏美の音楽を聴いていた。聞こえてくる音が溶けて、体の中へとゆっくりと染み込んでいく。
(街の音楽……か)
その意味を晴人はおぼろげながら理解した。
やがて、演奏が終わると晴人と凛子は無意識の内に手を叩いていた。
レジカウンターの方からも控えめながらも同じ音が聞こえてくる。コヨミの拍手だ。
しかし、拍手を浴びる奏美の顔色は優れなかった。
「このバイオリンでは……ダメね」
「どうしてですか。とても素敵な演奏でしたよ?」
「世の中にはバイオリンはたくさんあるけど、私の音楽を表現してくれるバイオリンはたった一つしかないわ」
「じゃあ、そのバイオリンはどうしたんだ?」
晴人の当然な疑問に奏美はバツが悪そうな顔をした。
「恥ずかしい話なんだけど私の不注意で傷をつけちゃってね。今は隠れたるバイオリン修復の名人に任せてあるの。今日あたりに私の泊まっているホテルに来るはずなんだけど……」
「隠れたる」
「バイオリン修復の名人?」
そのいかにも胡散臭そうな単語に晴人と凛子は顔を見合わせた。
「そうだ。奏美さん、奴らの標的にされた」
「はあ……」
凛子が保護した女性、時田奏美はため息をついた。
「この街でコンサートをするために来たけれど、まさかこんなことになるなんて」
いきなり怪物に襲われて、見知らぬ女性(しかも刑事)から保護を受けて、古びた骨董品店に連れて行かれて、今度は自分が怪物に狙われているという話を聞かされる。
急展開過ぎて頭がどうにかなりそうだった。
これが夢か幻とも思いたかったが、現実だ。どうやら『事実は小説よりも奇なり』という言葉は本当らしい。
奏美のまだ夢から覚めていないようなぼんやりとした顔とは違い、晴人と凛子の表情は真剣そのものだった。
「奏美さん、コンサートは中止にした方がいいです。あなたはファントムに狙われています」
「それはダメ。私の演奏を楽しみにしている人がいるの。私の事情なんて関係ないわ」
「奏美さん」
凛子の申し出を奏美はきっぱりと断る。バイオリンケースを見る奏美の目には強い意志が込められていた。
「なら、せめてコンサート当日までは鳥井坂から」
「それもダメ。私はこの街の音楽と一つになるの」
「街の音楽?」
「街はね……風の音、ざわつく木、行き交う車や電車、そしてそこに住む人の声。溢れんばかりの無数の音が混じり合って、一つの音楽を奏でているの。街の音楽と一つになって、聴衆の心に残る演奏を届ける。それが私の音楽」
自身の音楽観を語る奏美は楽しそうだった。
「だから、わざわざ外で練習をしていたのか。街の音楽になるために」
「ええ」
奏美はバイオリンケースからバイオリンを取り出し、弦を弓で引く。
バイオリンから奏美という名前の通り、美しい音色が奏でられる。
奏美の演奏はスッと心に入っていく不思議なものだった。まるで聞きなれた曲の様な自然さが宿っている。
晴人は全身で奏美の音楽を聴いていた。聞こえてくる音が溶けて、体の中へとゆっくりと染み込んでいく。
(街の音楽……か)
その意味を晴人はおぼろげながら理解した。
やがて、演奏が終わると晴人と凛子は無意識の内に手を叩いていた。
レジカウンターの方からも控えめながらも同じ音が聞こえてくる。コヨミの拍手だ。
しかし、拍手を浴びる奏美の顔色は優れなかった。
「このバイオリンでは……ダメね」
「どうしてですか。とても素敵な演奏でしたよ?」
「世の中にはバイオリンはたくさんあるけど、私の音楽を表現してくれるバイオリンはたった一つしかないわ」
「じゃあ、そのバイオリンはどうしたんだ?」
晴人の当然な疑問に奏美はバツが悪そうな顔をした。
「恥ずかしい話なんだけど私の不注意で傷をつけちゃってね。今は隠れたるバイオリン修復の名人に任せてあるの。今日あたりに私の泊まっているホテルに来るはずなんだけど……」
「隠れたる」
「バイオリン修復の名人?」
そのいかにも胡散臭そうな単語に晴人と凛子は顔を見合わせた。
キバの流用、特に下半身は多かったよね。動いていると案外気づかないもんだけどさ
「……ここ何処?」
細身の青年は手元の地図を見て、そう呟いた。
周囲を見渡してみるが何もわからない。地図を見直しても同じだった。
「早くこれを届けなくちゃいけないのに」
青年は栗色の癖毛をいじりながら、足元にある長方形の箱に視線を移す。青年が仕事として頼まれ、クライアントから預かった物だった。
今日には届けてくれと言われた物だったので、こうして来たのだが見事に迷ってしまった。
「だから、静香と一緒にいけば良かったんだよ」
突然、何もない所から青年を嗜める声が聞こえてきた。
普通の人なら驚いて辺りを見回すような現象だったが、青年は特に動じることもなく声に向かって返す。
「だって、静香ちゃんは最近忙しいし」
「宅配とかだってあるだろ」
「そういうの良くわからないから。期日に届かないかもしれないでしょ? それにちゃんと自分の手で渡すまでが大事だと思うし」
「おおっ! 何か職人っぽいぜ、今のセリフ!」
「茶化さないでよ。もう……」
青年は口を尖らせながら、改めて地図を見る。
地図には目的地の周辺について詳しく描かれていた。
しかし、今日初めて鳥居坂にきた青年からしてみれば、地図は編み目模様の絵か複雑すぎる迷路にしか見えなかった。
「ああ~ダメだ。やっぱりわからない」
「おい、諦めるのが早いぞ。キバっていけ!」
声が発破をかけるが、青年は悩ましい顔のままだ。
すると、
「どうしたんですか?」
青年に声をかけてくる男性がいた。瞬平だ。
青年の渋い顔を見て、思わず声をかけたのだ。
困っている人を放っておけない瞬平らしい。
「何か困っているみたいですけど」
「実は道に迷っちゃって。ここ、わかりますか?」
「ちょっと待ってください。……鳥居坂ホテル、ここなら知ってますよ」
「本当ですか? あの、迷惑を承知で頼みたいんですけど案内してくれませんか?」
「いいですよ。僕、奈良瞬平って言います。えっと」
「渡。紅……渡です」
細身の青年は手元の地図を見て、そう呟いた。
周囲を見渡してみるが何もわからない。地図を見直しても同じだった。
「早くこれを届けなくちゃいけないのに」
青年は栗色の癖毛をいじりながら、足元にある長方形の箱に視線を移す。青年が仕事として頼まれ、クライアントから預かった物だった。
今日には届けてくれと言われた物だったので、こうして来たのだが見事に迷ってしまった。
「だから、静香と一緒にいけば良かったんだよ」
突然、何もない所から青年を嗜める声が聞こえてきた。
普通の人なら驚いて辺りを見回すような現象だったが、青年は特に動じることもなく声に向かって返す。
「だって、静香ちゃんは最近忙しいし」
「宅配とかだってあるだろ」
「そういうの良くわからないから。期日に届かないかもしれないでしょ? それにちゃんと自分の手で渡すまでが大事だと思うし」
「おおっ! 何か職人っぽいぜ、今のセリフ!」
「茶化さないでよ。もう……」
青年は口を尖らせながら、改めて地図を見る。
地図には目的地の周辺について詳しく描かれていた。
しかし、今日初めて鳥居坂にきた青年からしてみれば、地図は編み目模様の絵か複雑すぎる迷路にしか見えなかった。
「ああ~ダメだ。やっぱりわからない」
「おい、諦めるのが早いぞ。キバっていけ!」
声が発破をかけるが、青年は悩ましい顔のままだ。
すると、
「どうしたんですか?」
青年に声をかけてくる男性がいた。瞬平だ。
青年の渋い顔を見て、思わず声をかけたのだ。
困っている人を放っておけない瞬平らしい。
「何か困っているみたいですけど」
「実は道に迷っちゃって。ここ、わかりますか?」
「ちょっと待ってください。……鳥居坂ホテル、ここなら知ってますよ」
「本当ですか? あの、迷惑を承知で頼みたいんですけど案内してくれませんか?」
「いいですよ。僕、奈良瞬平って言います。えっと」
「渡。紅……渡です」
鳥居坂ホテルへと向かう渡と瞬平は並んで歩いていた。
「へえ。渡さんって普段はバイオリンを作ってるんですか?」
「はい。家で静かに」
「じゃあ、もしかしてその箱の中身もバイオリンですか?」
「これは修理を頼まれたもので僕のじゃないんです」
「修理!? 作るだけじゃなくて、修理もやっているんですか! すっごいですね!」
「いや、知り合いが勝手に引き受けちゃうだけで」
文句を言う渡だったが、言葉とは裏腹に顔は笑っていて、照れくさそうに頭をかいた。
(良かった。いい人で)
人と関わることが苦手な渡はどうしても自分からだと上手く話すことが出来なかった。会話も続かないことも多い。
だから、瞬平のように積極的に話かけてくれる相手は非常に助かった。
「瞬平さんは普段何をしているんですか?」
「そうですね。僕の恩人のお手伝いをしているんです」
「恩人ですか?」
「はい! 僕を絶望から救ってくれた、希望をくれた凄い人なんです!」
「そ、そうですか」
そう熱く語る瞬平を見て、渡は若干引きながら考える。
自分にとって恩人と言える人はたくさんいる。みんな、自分にはもったいない位にいい人ばかりだ。
きっと瞬平の恩人も素晴らしい人だと想像に難くはなかった。
(どんな音楽を奏でるんだろう。会ってみたいな)
瞬平の恩人を頭で描きながら歩いていると突然、渡の頭に1つの音が走った。
それは渡にしか聞こえない不思議な音色だった。
音は渡の頭で何度も繰り返され「戦え」と告げる。
「渡さん?」
不意に足を止めた渡に瞬平がどうかしたのかと聞いてくる。
「えっと、すみません。ここまで来れば大丈夫です。ありがとうございました」
渡はペコリと頭を下げると、その場から駆け出す。
渡が走っていく方向は鳥居坂ホテルと全く関係のない方向だった。
「へえ。渡さんって普段はバイオリンを作ってるんですか?」
「はい。家で静かに」
「じゃあ、もしかしてその箱の中身もバイオリンですか?」
「これは修理を頼まれたもので僕のじゃないんです」
「修理!? 作るだけじゃなくて、修理もやっているんですか! すっごいですね!」
「いや、知り合いが勝手に引き受けちゃうだけで」
文句を言う渡だったが、言葉とは裏腹に顔は笑っていて、照れくさそうに頭をかいた。
(良かった。いい人で)
人と関わることが苦手な渡はどうしても自分からだと上手く話すことが出来なかった。会話も続かないことも多い。
だから、瞬平のように積極的に話かけてくれる相手は非常に助かった。
「瞬平さんは普段何をしているんですか?」
「そうですね。僕の恩人のお手伝いをしているんです」
「恩人ですか?」
「はい! 僕を絶望から救ってくれた、希望をくれた凄い人なんです!」
「そ、そうですか」
そう熱く語る瞬平を見て、渡は若干引きながら考える。
自分にとって恩人と言える人はたくさんいる。みんな、自分にはもったいない位にいい人ばかりだ。
きっと瞬平の恩人も素晴らしい人だと想像に難くはなかった。
(どんな音楽を奏でるんだろう。会ってみたいな)
瞬平の恩人を頭で描きながら歩いていると突然、渡の頭に1つの音が走った。
それは渡にしか聞こえない不思議な音色だった。
音は渡の頭で何度も繰り返され「戦え」と告げる。
「渡さん?」
不意に足を止めた渡に瞬平がどうかしたのかと聞いてくる。
「えっと、すみません。ここまで来れば大丈夫です。ありがとうございました」
渡はペコリと頭を下げると、その場から駆け出す。
渡が走っていく方向は鳥居坂ホテルと全く関係のない方向だった。
乙
キバの鎧をファントムに見間違えたりするかな…?
ウィザードはファンガイアには見えないけど
キバの鎧をファントムに見間違えたりするかな…?
ウィザードはファンガイアには見えないけど
渡は頭に響く音の導きのままに走り続ける。自分がどこへ向かっているのか皆目見当もつかない。
それでも自分が明確な目的地へと足を回しているのは理解できた。そこで自分がやるべきことも。
そして、渡は若い女性を追い詰めるステンドグラスの怪物を発見した。
怪物は宙に舞う牙を出現させる。
その様子をみた渡は上着の内ポケットに手を滑り込ませて、何かを取り出そうとした。
「やめろ―――!」
渡の後ろから追いかけて来た瞬平が怪物に吠えた。
しかし、怪物は瞬平の叫びなど聞こえてないかのように牙を女性に向かって放つ。牙に刺された女性がガラスの様にどんどん透明になっていく。
「大丈夫ですか!?」
瞬平が女性にかけより言葉をかける。返事はない。体を揺すってみる。冷たかった。
女性は糸が切れた人形の様に頭から倒れこむ。
パリンッ!
ガラスが砕け散ったような音がすると、女性は服だけ残して消えた。
女性は死んだ。瞬平はそれを本能で理解した。
「ファントムゥゥゥ!!」
普段の瞬平からは想像出来ない程の荒げた声で、わきあがる激情のまま怪物に掴みかかる。
「またそれか。誇り高き『ファンガイア』を亡霊呼ばわりとはふざけた話だ」
「ファンガイア?」
「そうだ。貴様ら人間よりも上の高貴なる存在だ。俺の真名は……下等な人間に教える必要はないな」
ファンガイアと名乗る怪物は腕を払って、瞬平を引き剥がした。
常人を遥かに超える力で振り払われた瞬平の意識はあっという間にフェードアウトしていく。
「ちょうどいい。ついでに貴様の『ライフエナジー』を吸うとするか。ファンガイアに歯向かった罪は命で償え」
ファンガイアは獲物を喰らおうとゆっくりと近づいてくる。
渡は倒れる瞬平を庇うようにファンガイアの前に立った。
「渡さん……逃げて、ください」
その言葉を最後に瞬平の意識は暗闇に落ちた。
(ありがとう、瞬平さん)
薄れゆく意識の中でも自分の身を案じてくれた瞬平に渡は心の中で礼を言う。
渡は逃げなかった。
「なんだ、貴様も俺に命を捧げるか? とても光栄なことだぞ」
ファンガイアは宙に舞う牙を出現させて、命を吸おうとする。
「もう……あれから5年も経ってるのに」
「なに?」
「中学生だった静香ちゃんが大学に通っている。それだけ時間が経ったのに……まだ人を襲うファンガイアがいるなんて」
「貴様……何者だ?」
渡はファンガイアの問いに答えない。代わりにポケットに忍ばせていた物を投げた。
渡が放り投げた物体は金色の輝きを放っていた。縦横無尽に宙を駆け巡り、牙を切り裂く。
「ふぅ、暑かった。俺さまの美しい体が蒸れちまう所だったぜ」
「ごめん、キバット。後で体、洗ってあげるから」
渡は自分の投げた金色の物体、蝙蝠のような姿をした『キバットバットⅢ世』に謝った。
いくら翼を畳めば小さく収まるとは言え、窮屈な思いをさせてしまったことには違いない。
「にしても、こんな所にもいるんだな。強硬派の連中は」
「うん。後で嶋さんや兄さんにも連絡をとった方がいいかもしれない」
「それじゃあ、まずは目の前のことから片付けるか」
「いくよ、キバット!」
「おっしゃ! キバっていくぜ! ……ガブ!」
キバットが渡の手に噛みつき、渡の全身へアクティブフォースを注入する。
それは渡をキバットの持つ王の鎧を纏わせるための儀式だった。
アクティブフォースによって渡の中にある眠れる力が解放されてゆく。渡の顔に色鮮やかな模様が浮かび上がる。
次いで、渡の腰にいくつもの鎖が巻き付きついていき、一本の紅いベルトになった。
渡はキバットを掲げ、解き放たれていく本能のままにつぶやいた。
「……変身」
キバットをバックル部分の止まり木『パワールスト』にぶら下げると、渡の全身が鎧で包み込まれていく。
血のように紅い胴体。黒い四肢。右足と両肩には鎖。そして、蝙蝠を型どったような顔。
それは鎧を纏った高貴な騎士にも見えたし、異形の姿をした深紅の魔人にも見えた。
渡は仮面ライダーキバ・キバフォームへと姿を変えた。
それでも自分が明確な目的地へと足を回しているのは理解できた。そこで自分がやるべきことも。
そして、渡は若い女性を追い詰めるステンドグラスの怪物を発見した。
怪物は宙に舞う牙を出現させる。
その様子をみた渡は上着の内ポケットに手を滑り込ませて、何かを取り出そうとした。
「やめろ―――!」
渡の後ろから追いかけて来た瞬平が怪物に吠えた。
しかし、怪物は瞬平の叫びなど聞こえてないかのように牙を女性に向かって放つ。牙に刺された女性がガラスの様にどんどん透明になっていく。
「大丈夫ですか!?」
瞬平が女性にかけより言葉をかける。返事はない。体を揺すってみる。冷たかった。
女性は糸が切れた人形の様に頭から倒れこむ。
パリンッ!
ガラスが砕け散ったような音がすると、女性は服だけ残して消えた。
女性は死んだ。瞬平はそれを本能で理解した。
「ファントムゥゥゥ!!」
普段の瞬平からは想像出来ない程の荒げた声で、わきあがる激情のまま怪物に掴みかかる。
「またそれか。誇り高き『ファンガイア』を亡霊呼ばわりとはふざけた話だ」
「ファンガイア?」
「そうだ。貴様ら人間よりも上の高貴なる存在だ。俺の真名は……下等な人間に教える必要はないな」
ファンガイアと名乗る怪物は腕を払って、瞬平を引き剥がした。
常人を遥かに超える力で振り払われた瞬平の意識はあっという間にフェードアウトしていく。
「ちょうどいい。ついでに貴様の『ライフエナジー』を吸うとするか。ファンガイアに歯向かった罪は命で償え」
ファンガイアは獲物を喰らおうとゆっくりと近づいてくる。
渡は倒れる瞬平を庇うようにファンガイアの前に立った。
「渡さん……逃げて、ください」
その言葉を最後に瞬平の意識は暗闇に落ちた。
(ありがとう、瞬平さん)
薄れゆく意識の中でも自分の身を案じてくれた瞬平に渡は心の中で礼を言う。
渡は逃げなかった。
「なんだ、貴様も俺に命を捧げるか? とても光栄なことだぞ」
ファンガイアは宙に舞う牙を出現させて、命を吸おうとする。
「もう……あれから5年も経ってるのに」
「なに?」
「中学生だった静香ちゃんが大学に通っている。それだけ時間が経ったのに……まだ人を襲うファンガイアがいるなんて」
「貴様……何者だ?」
渡はファンガイアの問いに答えない。代わりにポケットに忍ばせていた物を投げた。
渡が放り投げた物体は金色の輝きを放っていた。縦横無尽に宙を駆け巡り、牙を切り裂く。
「ふぅ、暑かった。俺さまの美しい体が蒸れちまう所だったぜ」
「ごめん、キバット。後で体、洗ってあげるから」
渡は自分の投げた金色の物体、蝙蝠のような姿をした『キバットバットⅢ世』に謝った。
いくら翼を畳めば小さく収まるとは言え、窮屈な思いをさせてしまったことには違いない。
「にしても、こんな所にもいるんだな。強硬派の連中は」
「うん。後で嶋さんや兄さんにも連絡をとった方がいいかもしれない」
「それじゃあ、まずは目の前のことから片付けるか」
「いくよ、キバット!」
「おっしゃ! キバっていくぜ! ……ガブ!」
キバットが渡の手に噛みつき、渡の全身へアクティブフォースを注入する。
それは渡をキバットの持つ王の鎧を纏わせるための儀式だった。
アクティブフォースによって渡の中にある眠れる力が解放されてゆく。渡の顔に色鮮やかな模様が浮かび上がる。
次いで、渡の腰にいくつもの鎖が巻き付きついていき、一本の紅いベルトになった。
渡はキバットを掲げ、解き放たれていく本能のままにつぶやいた。
「……変身」
キバットをバックル部分の止まり木『パワールスト』にぶら下げると、渡の全身が鎧で包み込まれていく。
血のように紅い胴体。黒い四肢。右足と両肩には鎖。そして、蝙蝠を型どったような顔。
それは鎧を纏った高貴な騎士にも見えたし、異形の姿をした深紅の魔人にも見えた。
渡は仮面ライダーキバ・キバフォームへと姿を変えた。
今、キバをやったらフエッスルは絶対コレクターアイテムになるんだろうなあ
ファンガイアも絶望してファントムを生み出したりするのだろうか…
http://www.youtube.com/watch?v=oRPNv6BRz08
「キバ!」
ファンガイアは驚きを隠せなかった。
キバとは本来、自分たちファンガイアを統べる王が纏う鎧だ。
それなのにどうして同族の自分に戦いを挑むのか不思議だった。
ふと、ファンガイアの頭にある噂がよぎる。
キバの鎧を持ちながら同胞達を狩る男の噂を。
「貴様……王殺しの男と背徳の女王の!」
ファンガイアがキバに殴りかかる。
キバは黙々とその攻撃をさばいていく。
今度はキバがファンガイアに殴る。風のように速い攻撃だ。
喧嘩も格闘技の経験もない渡だが、戦い方は知っていた。
キバとしての本能が渡の体を突き動かしているのだ。
「舐めるな!」
ファンガイアは剣を出現させてキバへと斬りかかる。
いくらキバの鎧と言えど、まともに喰らえばかなりのダメージを受けてしまう。
キバは素早く身を動かし、斬撃を避け続ける。
防戦一方、このままでは拉致が開かない状況だ。
剣が振り下ろされて迫り来る。
ガキィイイン!
キバは鎧に纏われた腕で剣を真正面から受け止めた。
がら空きになったファンガイアの腹に拳を叩き込む。
衝撃でよろよろと後ろへ下がるファンガイア。
キバはその隙を逃さなかった。
一気に懐へ飛び込み、猛然と拳のラッシュを仕掛けて殴り飛ばす。
「渡、一気に決めようぜ!」
「……」
キバはベルトの右側のフエッスロットから『ウェイクアップフエッスル』を取り出すと、紅い笛をキバットの口に添えた。
「キバ!」
ファンガイアは驚きを隠せなかった。
キバとは本来、自分たちファンガイアを統べる王が纏う鎧だ。
それなのにどうして同族の自分に戦いを挑むのか不思議だった。
ふと、ファンガイアの頭にある噂がよぎる。
キバの鎧を持ちながら同胞達を狩る男の噂を。
「貴様……王殺しの男と背徳の女王の!」
ファンガイアがキバに殴りかかる。
キバは黙々とその攻撃をさばいていく。
今度はキバがファンガイアに殴る。風のように速い攻撃だ。
喧嘩も格闘技の経験もない渡だが、戦い方は知っていた。
キバとしての本能が渡の体を突き動かしているのだ。
「舐めるな!」
ファンガイアは剣を出現させてキバへと斬りかかる。
いくらキバの鎧と言えど、まともに喰らえばかなりのダメージを受けてしまう。
キバは素早く身を動かし、斬撃を避け続ける。
防戦一方、このままでは拉致が開かない状況だ。
剣が振り下ろされて迫り来る。
ガキィイイン!
キバは鎧に纏われた腕で剣を真正面から受け止めた。
がら空きになったファンガイアの腹に拳を叩き込む。
衝撃でよろよろと後ろへ下がるファンガイア。
キバはその隙を逃さなかった。
一気に懐へ飛び込み、猛然と拳のラッシュを仕掛けて殴り飛ばす。
「渡、一気に決めようぜ!」
「……」
キバはベルトの右側のフエッスロットから『ウェイクアップフエッスル』を取り出すと、紅い笛をキバットの口に添えた。
http://www.youtube.com/watch?v=tXp99-A4atQ
「覚醒―ウェイクアップ―!」
キバットが笛を吹くと同時にキバは全身に力を込めるようにかがみ込む。
すると不思議なことが起きた。
笛の音色と共に、周囲が紅い霧に包まれ、空が闇で覆われていく。
キバが大きく右足をあげると、キバットがその足に巻き付いた鎖『カテナ』を解放させる。
戒めを解かれた右足から紅い蝙蝠の翼が姿をあらわす。
キバは片足で地面を蹴り、遥か空の向こうへと舞い上がる。
そのまま仰け反るように一回転すると、
「はあああああああっ!」
闇に輝く三日月からあらゆる物質を無に還す必殺のキック『ダークネスムーンブレイク』を放ち、ファンガイアを地面に叩きつける。
地面に蝙蝠のような紋章が浮かび上がると、ファンガイアは色鮮やかなガラス片となって砕け散った。
ファンガイアの絶命と共に闇が晴れていった。
・
・
・
「何者なの、あいつ?」
ファンガイアを倒し、その場から去ってゆくキバを険しい目で見つめる少女がいた。
ファントム、メデューサだ。
妙な力を感じ取り、現場へと足を運んでみたら自分の知らないファントムが戦っていた。
いや、それはファントムではなかった。
何故ならその2体の怪物は魔力とは全く違う力を宿していたからだ。例えるなら命の力と言うべきだろうか。
正体を確かめるためにメデューサはキバに向かって、攻撃をしかけようとする。
「はい。ストーップ! よくわかっていない相手に手を出すのは危ないよ、ミサちゃん」
「グレムリン……」
「だからさあ、僕の名前はソラだって。いい加減、覚えてよ」
馴れ馴れしく声をかけてくる帽子の青年、ファントムのグレムリンだ。
事を中断させられたメデューサは苛立たしげにソラの顔をみる。
「どうして止めるの? あれは危険な存在かもしれないわ」
「そうだね。強い力を感じるよね」
「だったら!」
「でもさあ、あれだけじゃないみたいなんだよね……外からのお客様は。団体さんで来てるみたい。僕も何人か見つけたよ」
「一体、何が起きてるっていうの……」
「そんなのわからないよ。でも、面白いよね」
「面白い?」
「魔法使いと僕らファントムの戦いの舞台に、全く別の舞台の役者が紛れ込む。どうなっちゃうんだろうね~」
そう言うとソラは「くふふふ」という気色の悪い笑みを漏らした。
「覚醒―ウェイクアップ―!」
キバットが笛を吹くと同時にキバは全身に力を込めるようにかがみ込む。
すると不思議なことが起きた。
笛の音色と共に、周囲が紅い霧に包まれ、空が闇で覆われていく。
キバが大きく右足をあげると、キバットがその足に巻き付いた鎖『カテナ』を解放させる。
戒めを解かれた右足から紅い蝙蝠の翼が姿をあらわす。
キバは片足で地面を蹴り、遥か空の向こうへと舞い上がる。
そのまま仰け反るように一回転すると、
「はあああああああっ!」
闇に輝く三日月からあらゆる物質を無に還す必殺のキック『ダークネスムーンブレイク』を放ち、ファンガイアを地面に叩きつける。
地面に蝙蝠のような紋章が浮かび上がると、ファンガイアは色鮮やかなガラス片となって砕け散った。
ファンガイアの絶命と共に闇が晴れていった。
・
・
・
「何者なの、あいつ?」
ファンガイアを倒し、その場から去ってゆくキバを険しい目で見つめる少女がいた。
ファントム、メデューサだ。
妙な力を感じ取り、現場へと足を運んでみたら自分の知らないファントムが戦っていた。
いや、それはファントムではなかった。
何故ならその2体の怪物は魔力とは全く違う力を宿していたからだ。例えるなら命の力と言うべきだろうか。
正体を確かめるためにメデューサはキバに向かって、攻撃をしかけようとする。
「はい。ストーップ! よくわかっていない相手に手を出すのは危ないよ、ミサちゃん」
「グレムリン……」
「だからさあ、僕の名前はソラだって。いい加減、覚えてよ」
馴れ馴れしく声をかけてくる帽子の青年、ファントムのグレムリンだ。
事を中断させられたメデューサは苛立たしげにソラの顔をみる。
「どうして止めるの? あれは危険な存在かもしれないわ」
「そうだね。強い力を感じるよね」
「だったら!」
「でもさあ、あれだけじゃないみたいなんだよね……外からのお客様は。団体さんで来てるみたい。僕も何人か見つけたよ」
「一体、何が起きてるっていうの……」
「そんなのわからないよ。でも、面白いよね」
「面白い?」
「魔法使いと僕らファントムの戦いの舞台に、全く別の舞台の役者が紛れ込む。どうなっちゃうんだろうね~」
そう言うとソラは「くふふふ」という気色の悪い笑みを漏らした。
瞬平が意識を取り戻した時、そこは病院のベットだった。
看護師に話を聞いたところ自分が倒れているという連絡があり、それで運び込まれたそうだ。
誰が連絡をしてくれたのか? 渡の安否は?
そもそも襲われそうになった自分がどうして無事なのか?
疑問はいくつも残るが、瞬平はひとまず晴人に連絡し、事の顛末を話した。
「ファンガイア……ファントムはそう名乗ったんだな?」
「はい。なんだか凄い上から目線で嫌な感じでした。そいつが宙に舞う牙を出して、人を襲っていました」
「そのファンガイアとか言うのが消失事件の犯人ってことか」
晴人はケータイを耳に押し当てたまま、奏美の方へと視線を移す。
「すごい! 動いてる!」
奏美は自分の使い魔プラモンスターの1体である『レッドガルーダ』を興味深そうに見ている。
ゲートを絶望させ、新たなファントムを産みだすことがファントムの目的だ。
そのためファントムは狙ったゲートを執拗に追い回していくことが多い。
当然、奏美をホテルへと連れて行く途中にステンドグラスのファントムの襲撃があると警戒していた。
だが、起きなかった。それどころか別の人が襲われた。
今まで倒してきたファントムの手口とは明らかに違う。
「一体、何者なんでしょうね。ファンガイアって?」
「ファンガイアっていう名前のファントムなのか。それともファントムとは全く違う何かかもしれない。まあ、とにかく瞬平が無事でよかった」
「……」
瞬平の無事を気遣う晴人の言葉に瞬平は押し黙った。
脳裏に浮かぶのはファンガイアに襲われた女性だった。
「瞬平?」
ケータイからは瞬平の嗚咽混じりの声が聞こえてきた。
「僕、何も出来ませんでした。目の前で人が襲われていたのに助けられませんでした。人が死ぬのをただ見ているだけでした」
晴人の中で瞬平の言う「死」というキーワードが引っかかった。
「死ぬ? どういうことだ、瞬平?」
「ファンガイアに、宙に舞う牙に襲われた人は透明になって死んだです」
晴人は自然とケータイを強く握った。
消失事件、消えて失くなる。言葉の通りだ。
「僕は晴人さんの弟子なのに誰かの希望になることが出来ませんでした。僕に力があれば……魔法が使えたら」
願わずにはいられなかった。
だが、それは叶わない。瞬平自身もわかっている。余計に無力感がつのった。
晴人はしばらく黙っていたが、やがて瞬平に語りかけた。
「瞬平はよくやってくれてるよ」
「晴人さん」
「瞬平のおかげで俺は今こうしてファンガイアのことを知れたんだ。魔法なんか使えなくたって、瞬平は間違いなく消失事件解決の力になったんだ」
「本当ですか?」
「ああ、本当だ」
晴人は力強く言った。
人々に希望を与える魔法使いとしての真摯な言葉だった。
そして、その言葉は確かに瞬平の心に届いた。
「やっぱり晴人さんはスゴイですね」
「師匠として弟子の面倒はみなくちゃいけないからな」
ケータイからは瞬平の小さく笑う声が聞こえた。
安心した晴人は同時に頭で別のことを考えていた。
(ファンガイア……木崎なら何か知ってるかもな)
看護師に話を聞いたところ自分が倒れているという連絡があり、それで運び込まれたそうだ。
誰が連絡をしてくれたのか? 渡の安否は?
そもそも襲われそうになった自分がどうして無事なのか?
疑問はいくつも残るが、瞬平はひとまず晴人に連絡し、事の顛末を話した。
「ファンガイア……ファントムはそう名乗ったんだな?」
「はい。なんだか凄い上から目線で嫌な感じでした。そいつが宙に舞う牙を出して、人を襲っていました」
「そのファンガイアとか言うのが消失事件の犯人ってことか」
晴人はケータイを耳に押し当てたまま、奏美の方へと視線を移す。
「すごい! 動いてる!」
奏美は自分の使い魔プラモンスターの1体である『レッドガルーダ』を興味深そうに見ている。
ゲートを絶望させ、新たなファントムを産みだすことがファントムの目的だ。
そのためファントムは狙ったゲートを執拗に追い回していくことが多い。
当然、奏美をホテルへと連れて行く途中にステンドグラスのファントムの襲撃があると警戒していた。
だが、起きなかった。それどころか別の人が襲われた。
今まで倒してきたファントムの手口とは明らかに違う。
「一体、何者なんでしょうね。ファンガイアって?」
「ファンガイアっていう名前のファントムなのか。それともファントムとは全く違う何かかもしれない。まあ、とにかく瞬平が無事でよかった」
「……」
瞬平の無事を気遣う晴人の言葉に瞬平は押し黙った。
脳裏に浮かぶのはファンガイアに襲われた女性だった。
「瞬平?」
ケータイからは瞬平の嗚咽混じりの声が聞こえてきた。
「僕、何も出来ませんでした。目の前で人が襲われていたのに助けられませんでした。人が死ぬのをただ見ているだけでした」
晴人の中で瞬平の言う「死」というキーワードが引っかかった。
「死ぬ? どういうことだ、瞬平?」
「ファンガイアに、宙に舞う牙に襲われた人は透明になって死んだです」
晴人は自然とケータイを強く握った。
消失事件、消えて失くなる。言葉の通りだ。
「僕は晴人さんの弟子なのに誰かの希望になることが出来ませんでした。僕に力があれば……魔法が使えたら」
願わずにはいられなかった。
だが、それは叶わない。瞬平自身もわかっている。余計に無力感がつのった。
晴人はしばらく黙っていたが、やがて瞬平に語りかけた。
「瞬平はよくやってくれてるよ」
「晴人さん」
「瞬平のおかげで俺は今こうしてファンガイアのことを知れたんだ。魔法なんか使えなくたって、瞬平は間違いなく消失事件解決の力になったんだ」
「本当ですか?」
「ああ、本当だ」
晴人は力強く言った。
人々に希望を与える魔法使いとしての真摯な言葉だった。
そして、その言葉は確かに瞬平の心に届いた。
「やっぱり晴人さんはスゴイですね」
「師匠として弟子の面倒はみなくちゃいけないからな」
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