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元スレ晴人「宙に舞う牙」
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昼過ぎの公園。空腹の仁藤は今日の命を繋ごうと公園の敷地内をうろついていた。鬱蒼とした木立の中を獣のように這いながら獲物を探す。獲物を見つけたら注意深く観察して、それを手に掴むとチャック付きのビニール袋の中にしまった。
根城のテントに戻ると男の子たちがいた。
「あっ、仁藤だ」
リーダー格の男の子が仁藤を呼び捨てする。男の子たちは、この公園に来てから知り合った。この公園でよく遊ぶのか、暇そうにしている仁藤を見つけては遊びに付き合わせているのだ。
「なんだよ、お前ら。学校はどうした? 平日なのにサボったのか?」
「今日は創立記念日で休みなんだ」
リーダー格の男の子の隣にいる背の低い男の子が説明してくれた。
「仁藤にいちゃん、それ何?」
野球帽を被った男の子が仁藤の持っているビニール袋の中身を指差して聞いてくる。
「見ればわかるだろ。食いもんだよ」
「いや、草じゃん」
仁藤が宝物のように見せびらかした袋の中身は、少年の言うとおり野草だった。
「仁藤さん、草食動物だったんですか?」
「んなわけあるか」
仁藤はテントからレジャー用の携帯ガスコンロを取り出すと水と塩ひとつまみを入れた鍋をおいて火にかけた。
男の子達が少し興味深そうに見てくる。
野草を湯がいておひたしにしようと思った。本当は天ぷらにして食べたいのだが粉を溶いたり、使った後の油の処理が面倒なのでしなかった。
「なー仁藤、なんか面白い話聞かせてくれよ」
初めは何を作るのか気になっていた男の子たちは鍋を眺めているだけでは直ぐに飽きてきたのか、仁藤に話をせがんできた。
「俺はこれから昼飯なんだよ」
「もう2時だぜ?」
「遅い昼飯なんて俺にはよくあるんだ。ほら、ちょっと遊んでこい。キャッチボールとかサッカーなら後で付き合ってやるから」
「駄菓子屋で買ったおやつ分けてやるからさ」
「あれは俺がインドへ行った時だった」
男の子たちが背負ったナップサックから取り出したおやつ(という名の食料)にあっさり釣られた仁藤は、火を止めると椅子に座って話を始めた。
男の子たちは青い芝生にあぐらをかいて、おやつを食べながらも目と耳だけは仁藤の方にしっかり向けていた。
「牛が神聖? 牛なんて食うか、牛乳出すだけじゃん!」
「インドじゃ牛は神様みたいなもんなんだよ。だから、殺したりしちゃダメなんだぜ」
「へー」
「しかもな、牛が何頭も普通に街をほっつき歩いてんだ」
「マジで!? 邪魔じゃん!」
「野良猫じゃなくて野良牛ってことですか?」
「ああ、だから街中でウ○コをいっぱい撒き散らしたりもしてる」
「くっせー」
野球帽の男の子が想像したのか鼻をつまむのを見て、仁藤たちは大笑いした。
仁藤の語る冒険や遺跡調査の話、海外での経験は仁藤にとって当たり前の知識だったり、触れてきた世界でしかなかった。
だが、それは男の子たちにとっては未知の世界だった。
仁藤の口から出る言葉で、男の子たちは魔法にかかった様に自分たちの知らない世界へ旅立っていた。
男のたちの好奇心いっぱいのキラキラと輝く瞳が仁藤は好きだった。
根城のテントに戻ると男の子たちがいた。
「あっ、仁藤だ」
リーダー格の男の子が仁藤を呼び捨てする。男の子たちは、この公園に来てから知り合った。この公園でよく遊ぶのか、暇そうにしている仁藤を見つけては遊びに付き合わせているのだ。
「なんだよ、お前ら。学校はどうした? 平日なのにサボったのか?」
「今日は創立記念日で休みなんだ」
リーダー格の男の子の隣にいる背の低い男の子が説明してくれた。
「仁藤にいちゃん、それ何?」
野球帽を被った男の子が仁藤の持っているビニール袋の中身を指差して聞いてくる。
「見ればわかるだろ。食いもんだよ」
「いや、草じゃん」
仁藤が宝物のように見せびらかした袋の中身は、少年の言うとおり野草だった。
「仁藤さん、草食動物だったんですか?」
「んなわけあるか」
仁藤はテントからレジャー用の携帯ガスコンロを取り出すと水と塩ひとつまみを入れた鍋をおいて火にかけた。
男の子達が少し興味深そうに見てくる。
野草を湯がいておひたしにしようと思った。本当は天ぷらにして食べたいのだが粉を溶いたり、使った後の油の処理が面倒なのでしなかった。
「なー仁藤、なんか面白い話聞かせてくれよ」
初めは何を作るのか気になっていた男の子たちは鍋を眺めているだけでは直ぐに飽きてきたのか、仁藤に話をせがんできた。
「俺はこれから昼飯なんだよ」
「もう2時だぜ?」
「遅い昼飯なんて俺にはよくあるんだ。ほら、ちょっと遊んでこい。キャッチボールとかサッカーなら後で付き合ってやるから」
「駄菓子屋で買ったおやつ分けてやるからさ」
「あれは俺がインドへ行った時だった」
男の子たちが背負ったナップサックから取り出したおやつ(という名の食料)にあっさり釣られた仁藤は、火を止めると椅子に座って話を始めた。
男の子たちは青い芝生にあぐらをかいて、おやつを食べながらも目と耳だけは仁藤の方にしっかり向けていた。
「牛が神聖? 牛なんて食うか、牛乳出すだけじゃん!」
「インドじゃ牛は神様みたいなもんなんだよ。だから、殺したりしちゃダメなんだぜ」
「へー」
「しかもな、牛が何頭も普通に街をほっつき歩いてんだ」
「マジで!? 邪魔じゃん!」
「野良猫じゃなくて野良牛ってことですか?」
「ああ、だから街中でウ○コをいっぱい撒き散らしたりもしてる」
「くっせー」
野球帽の男の子が想像したのか鼻をつまむのを見て、仁藤たちは大笑いした。
仁藤の語る冒険や遺跡調査の話、海外での経験は仁藤にとって当たり前の知識だったり、触れてきた世界でしかなかった。
だが、それは男の子たちにとっては未知の世界だった。
仁藤の口から出る言葉で、男の子たちは魔法にかかった様に自分たちの知らない世界へ旅立っていた。
男のたちの好奇心いっぱいのキラキラと輝く瞳が仁藤は好きだった。
本編いくよ
前回>>646
前回>>646
「~~♪」
希は鼻歌交じりで夕飯の準備をしながら望の帰りを待っていた。
サンマを切り分けて塩コショウをかけた後に、小麦粉の入ったポリ袋に投入してポリ袋を何度か振る。
そのまま小麦粉がまぶされて白くなったサンマの切り身をフライパンの上で焼いていく。
焦げ目がついたら、刻んだニンニクを放り込み、香り付け。更にネギとしめじも加える。
炒めている間に隣のコンロで火にかけている味噌汁の様子も見た。料理はいつだって同時進行なのである。
フライパンの中身全てによく火が通ると二つの皿に分けて、ポン酢を回しかけた。
主菜の秋刀魚の焼きポン酢漬けが完成する。希は続けて底のやや深い皿に玉子を割り入れて砂糖を加えて溶くと玉子焼きの準備を始めた。
夕飯の時間は大体決まっていて夜7時半――望が大学から帰ってきてから三十分後の時間だ。
希はチラリと時計をみた。時刻は夕飯の二十分前で望はまだ帰ってきていない。
たかが十分。気にするような誤差でもないのだが希は少し残念に思った。
普段なら望は帰っていて配膳や食器を用意して手伝ってくれる。
希は、姉弟の二人で何かをするということが好きだった。
幼い頃から体が弱いことで両親や周りに気を遣われて生きてきた希は孤独だった。
男の子も女の子も混ざって一緒に外でドッチボールをして遊んでいたくらい幼い頃の思い出。
一緒に外で遊びたかった。でも誘ってもらえなかった。理由はとても簡単だった。
「だって希、体よえーじゃん? あいつチームに入れたら俺のところ負けちゃうから嫌だよ」
子供らしい純粋で悪意のない、それでも残酷な真実だった。
体が弱いという一本のラインで引かれた境界。あっちとこっち。最初から住む世界が違っていた。
こっちに居てくれる人がいない。希は自分がひとりぼっちな気がした。
しかし望は違った。望はよく自分の側にいてくれた。
「ねえ、望はどうしてお姉ちゃんといっしょにいてくれるの?」
「希おねえちゃんと一緒にいちゃダメなの?」
「ダメってわけじゃないけどつまらなくない? 一緒にかけっことかできないし」
「かけっこできなくても希おねえちゃんは本を読んでくれるよ?」
「あっ、うん。そうだね」
「それに家でもいっしょにゲームしてくれるでしょ。希おねえちゃんが赤で、ぼくが緑。おかげで150匹あつめられたよ。電池が切れた時はぬいぐるみの電池と交換してくれたし」
「望は優しいね……ねえ、望はお姉ちゃんとこれからもずっと一緒にいてくれる?」
「ずっと? それってお母さんとお父さんみたいに?」
「そうだね。私と希が結婚すれば幸せかも。そしたら私が望のお嫁さんになるんだね」
「うん、いーよー! 希おねえちゃんは僕のおよめさん! ずっと一緒だよ」
両親が共働きということもあって、希は望の面倒をよくみていた。今にして思えば、あの頃の望はお姉ちゃん子だったから一緒にいただけなのかもしれない。
希の言っていることも『ずっと一緒』以外はいまいち分かっていなかったと思う。
しかし希にとっては忘れられない大切な思い出だった。
望と一緒にいられる時間は、小学校、中学、高校――そして現在と歳を重ねるにつれて減っていった。反面、望に抱く想いは増していった。
希は自分が望に向けている気持ちがタブーなのは理解していたし、これからも胸にしまっておくつもりでいた。
子供の頃の約束ましてや姉弟での結婚など無知で無邪気だった子供だから許せるのであって、いつまでも真に受けて覚えている自分は異常なのだ。
やがて希は夕飯の準備を全て終わらせた。
秋刀魚の焼きポン酢漬け、卵焼き、豆腐とおくらの味噌汁、ひきわり納豆、きゅうりと白菜の漬物、白米――純和風な献立だ。
「なんだか夫の帰りを待つ妻みたいね……」
望と二人で夕飯の準備をできなかったのは残念だが、これはこれで良いと思えた。
「早く帰ってこないかな」
希は望の帰りを楽しみにしながら待った。
希は鼻歌交じりで夕飯の準備をしながら望の帰りを待っていた。
サンマを切り分けて塩コショウをかけた後に、小麦粉の入ったポリ袋に投入してポリ袋を何度か振る。
そのまま小麦粉がまぶされて白くなったサンマの切り身をフライパンの上で焼いていく。
焦げ目がついたら、刻んだニンニクを放り込み、香り付け。更にネギとしめじも加える。
炒めている間に隣のコンロで火にかけている味噌汁の様子も見た。料理はいつだって同時進行なのである。
フライパンの中身全てによく火が通ると二つの皿に分けて、ポン酢を回しかけた。
主菜の秋刀魚の焼きポン酢漬けが完成する。希は続けて底のやや深い皿に玉子を割り入れて砂糖を加えて溶くと玉子焼きの準備を始めた。
夕飯の時間は大体決まっていて夜7時半――望が大学から帰ってきてから三十分後の時間だ。
希はチラリと時計をみた。時刻は夕飯の二十分前で望はまだ帰ってきていない。
たかが十分。気にするような誤差でもないのだが希は少し残念に思った。
普段なら望は帰っていて配膳や食器を用意して手伝ってくれる。
希は、姉弟の二人で何かをするということが好きだった。
幼い頃から体が弱いことで両親や周りに気を遣われて生きてきた希は孤独だった。
男の子も女の子も混ざって一緒に外でドッチボールをして遊んでいたくらい幼い頃の思い出。
一緒に外で遊びたかった。でも誘ってもらえなかった。理由はとても簡単だった。
「だって希、体よえーじゃん? あいつチームに入れたら俺のところ負けちゃうから嫌だよ」
子供らしい純粋で悪意のない、それでも残酷な真実だった。
体が弱いという一本のラインで引かれた境界。あっちとこっち。最初から住む世界が違っていた。
こっちに居てくれる人がいない。希は自分がひとりぼっちな気がした。
しかし望は違った。望はよく自分の側にいてくれた。
「ねえ、望はどうしてお姉ちゃんといっしょにいてくれるの?」
「希おねえちゃんと一緒にいちゃダメなの?」
「ダメってわけじゃないけどつまらなくない? 一緒にかけっことかできないし」
「かけっこできなくても希おねえちゃんは本を読んでくれるよ?」
「あっ、うん。そうだね」
「それに家でもいっしょにゲームしてくれるでしょ。希おねえちゃんが赤で、ぼくが緑。おかげで150匹あつめられたよ。電池が切れた時はぬいぐるみの電池と交換してくれたし」
「望は優しいね……ねえ、望はお姉ちゃんとこれからもずっと一緒にいてくれる?」
「ずっと? それってお母さんとお父さんみたいに?」
「そうだね。私と希が結婚すれば幸せかも。そしたら私が望のお嫁さんになるんだね」
「うん、いーよー! 希おねえちゃんは僕のおよめさん! ずっと一緒だよ」
両親が共働きということもあって、希は望の面倒をよくみていた。今にして思えば、あの頃の望はお姉ちゃん子だったから一緒にいただけなのかもしれない。
希の言っていることも『ずっと一緒』以外はいまいち分かっていなかったと思う。
しかし希にとっては忘れられない大切な思い出だった。
望と一緒にいられる時間は、小学校、中学、高校――そして現在と歳を重ねるにつれて減っていった。反面、望に抱く想いは増していった。
希は自分が望に向けている気持ちがタブーなのは理解していたし、これからも胸にしまっておくつもりでいた。
子供の頃の約束ましてや姉弟での結婚など無知で無邪気だった子供だから許せるのであって、いつまでも真に受けて覚えている自分は異常なのだ。
やがて希は夕飯の準備を全て終わらせた。
秋刀魚の焼きポン酢漬け、卵焼き、豆腐とおくらの味噌汁、ひきわり納豆、きゅうりと白菜の漬物、白米――純和風な献立だ。
「なんだか夫の帰りを待つ妻みたいね……」
望と二人で夕飯の準備をできなかったのは残念だが、これはこれで良いと思えた。
「早く帰ってこないかな」
希は望の帰りを楽しみにしながら待った。
遅れてすまぬなー、艦これssも書き始めたんだけどそれが思いのほか楽しくてサボってた
仁藤、前回>>655
仁藤は男の子たちに話を聞かせ終わると一緒に遊んだ。男の子たちを遠くまで下がらせて自分の肩の強さを見せつけるようにボールを力いっぱい投げつけたり、サッカーでは3人を相手に必死になってボールを守ったり、年甲斐もなくはしゃいで遊んでいた。
ひとしきり遊ぶと男の子たちが持ってきた駄菓子をおやつの時間にした。
「ほら、仁藤」
「おっし、俺の番か。ど・れ・に・し・よ・う・か・な」
仁藤は男の子が握っている無数の白い紐を指で選んでいく。男の子の握りこぶしの下には紐に繋がっている色鮮やかな大小様々のアメが太陽の光を受けて光っていた。
「お・れ・さ・ま・の・い・う・と・お・り」ひとつひとつ言葉を区切り、紐の束を何周かしながら言葉を終えると指を止める。
「それでいいの?」
「ああ」
仁藤は当然といった様子で返す。こういうのは勢いが大事なのだ。仁藤は迷うことなく指がさしている紐を掴んだ。
「か・み・さ・ま、じゃないんだ?」
「神さまなんかに任せられねえよ、俺の運命はな……こいっ!」
どうせなら、なるべく大きいの――アタリを引きたい。仁藤は念じるように自分の運命を託した紐をグッと引いた。男の子の拳の下でアメが動く。
「よっしゃ!」
おもわず喜びを口にする仁藤。動いたアメは一番大きいアメではなかったが、アタリと言えるには充分だった。
「あー! 仁藤いいなー、それ狙ってたのに……まあ、一番デカいの取られなくてよかったけど」
「こういうの強いんだよ、俺」
仁藤は紐アメを口の中で転がしながら答えた。アメが舌の上で溶けて懐かしい味が広がっていくと子供の頃、無茶なことをやって泣いていた時に祖母からもらったアメを思い出す。
昔は口うるさくて鬱陶しい祖母としか思っていなかった。だが、祖母が東京に来て再開した時に起きた一件で祖母の深い愛情を知った今は違う。
今度、手紙でも書くか。ふと、そんな考えが浮かんだ。
まだ実家に帰ることは出来ないが、それくらいの孝行をしたっていいはずだ。歳が歳だし、冷え性とかで悩んでいるかもしれない。ヨモギを乾燥させて茶葉にして送ってやろう。
おやつの時間を終えた後はまたひたすら遊んだ。気がつくと太陽も傾いて、辺りも薄暗くなってきた。
「じゃーなー、仁藤!」
「おう、車には気をつけろよー!」
元気に手を振りながら帰っていく男の子たちに、仁藤は別れの言葉をかけるとレジャーチェアに腰をかけた。
「まったく元気なガキどもだ」
ふう、とため息をつく仁藤だがその顔は笑っていた。
「子供、好きなんですか?」
「まあな……っと、あんたか。確か、咲坂」
「美由です」
声の方を向くと愛らしい声で自分の名前を告げる少女、美由がいた。
「なんだ、願い事が決まったのか?」
「いえ、それはまだなんですけど……近くを寄ったので仁藤さんがいるのか気になったんです」
「なるほどな」
「本当にいる……というか住んでいるんですね」
美由は仁藤の近くにあるテントを見つめた。テントの周りにバーベキューセットやクーラーボックスが置いてあった。どれも使い古した感じはするものの仁藤にとっては生きていくためには必要な道具なので手入れはしっかりと行き届いて綺麗だった。
「ここの公園が今の俺の縄張りだ。ここは広くて、自然も多い。だから食料もそれなりにある」
「食料ですか? 食べ物なんて見当たりませんけど」
「これだよ、これ!」
仁藤は野草の入ったビニール袋を自慢げに見せてやった。
「草じゃないですか」
「…………」
ひとしきり遊ぶと男の子たちが持ってきた駄菓子をおやつの時間にした。
「ほら、仁藤」
「おっし、俺の番か。ど・れ・に・し・よ・う・か・な」
仁藤は男の子が握っている無数の白い紐を指で選んでいく。男の子の握りこぶしの下には紐に繋がっている色鮮やかな大小様々のアメが太陽の光を受けて光っていた。
「お・れ・さ・ま・の・い・う・と・お・り」ひとつひとつ言葉を区切り、紐の束を何周かしながら言葉を終えると指を止める。
「それでいいの?」
「ああ」
仁藤は当然といった様子で返す。こういうのは勢いが大事なのだ。仁藤は迷うことなく指がさしている紐を掴んだ。
「か・み・さ・ま、じゃないんだ?」
「神さまなんかに任せられねえよ、俺の運命はな……こいっ!」
どうせなら、なるべく大きいの――アタリを引きたい。仁藤は念じるように自分の運命を託した紐をグッと引いた。男の子の拳の下でアメが動く。
「よっしゃ!」
おもわず喜びを口にする仁藤。動いたアメは一番大きいアメではなかったが、アタリと言えるには充分だった。
「あー! 仁藤いいなー、それ狙ってたのに……まあ、一番デカいの取られなくてよかったけど」
「こういうの強いんだよ、俺」
仁藤は紐アメを口の中で転がしながら答えた。アメが舌の上で溶けて懐かしい味が広がっていくと子供の頃、無茶なことをやって泣いていた時に祖母からもらったアメを思い出す。
昔は口うるさくて鬱陶しい祖母としか思っていなかった。だが、祖母が東京に来て再開した時に起きた一件で祖母の深い愛情を知った今は違う。
今度、手紙でも書くか。ふと、そんな考えが浮かんだ。
まだ実家に帰ることは出来ないが、それくらいの孝行をしたっていいはずだ。歳が歳だし、冷え性とかで悩んでいるかもしれない。ヨモギを乾燥させて茶葉にして送ってやろう。
おやつの時間を終えた後はまたひたすら遊んだ。気がつくと太陽も傾いて、辺りも薄暗くなってきた。
「じゃーなー、仁藤!」
「おう、車には気をつけろよー!」
元気に手を振りながら帰っていく男の子たちに、仁藤は別れの言葉をかけるとレジャーチェアに腰をかけた。
「まったく元気なガキどもだ」
ふう、とため息をつく仁藤だがその顔は笑っていた。
「子供、好きなんですか?」
「まあな……っと、あんたか。確か、咲坂」
「美由です」
声の方を向くと愛らしい声で自分の名前を告げる少女、美由がいた。
「なんだ、願い事が決まったのか?」
「いえ、それはまだなんですけど……近くを寄ったので仁藤さんがいるのか気になったんです」
「なるほどな」
「本当にいる……というか住んでいるんですね」
美由は仁藤の近くにあるテントを見つめた。テントの周りにバーベキューセットやクーラーボックスが置いてあった。どれも使い古した感じはするものの仁藤にとっては生きていくためには必要な道具なので手入れはしっかりと行き届いて綺麗だった。
「ここの公園が今の俺の縄張りだ。ここは広くて、自然も多い。だから食料もそれなりにある」
「食料ですか? 食べ物なんて見当たりませんけど」
「これだよ、これ!」
仁藤は野草の入ったビニール袋を自慢げに見せてやった。
「草じゃないですか」
「…………」
男の子たちとそう変わらない興味のなさそうな反応を示す美由に、仁藤は少し心が挫けそうになった。自分と反応のギャップがこうもあると辛い。
仁藤さん、草食動物だったんですか? 男の子に自分が草食動物扱いされたことを思い出す。途端、仁藤は吠えた。
「俺は牛や馬じゃねえからな! 肉も食うからな!」
「な、なんのことですか?」
「つーか、むしろ肉食系だ! ガッツリだ!」
突然、よく分からない主張をする仁藤に美由は困惑の表情を浮かべたが、今の美由が仁藤の気持ちを知る由もない。
「あの……草じゃないですけど食べ物でしたらここにありますよ」
美由は鞄から小さな包みを出すと差し出してきた。
「?」
「タマゴサンドです。また作ってくるって言いましたから」
「おおっ! マジかよ、サンキュー!」
最前までの鬱屈した気分は吹っ飛び仁藤は喜んだ。
まさかホントに作ってくるとは――思いがけない贈り物に小躍りしそうになる。
夕飯は野草の天ぷら、分けてもらった駄菓子、マヨネーズで済まそうとしたところに1品加わるのだ。
こんなに嬉しいことはない。しかも、サンドイッチつまりパン――炭水化物だ。腹に溜まる。
どうやら美由のおかげで今日の命は明日へ十分すぎるくらい繋げられそうだ。
仁藤は満面の笑みを浮かべた。そんな仁藤の顔を見上げ、嬉しそうに美由も笑った。
美由の作ったタマゴサンドは世辞抜きで美味かった。
タマゴに和えるマヨネーズの量が多すぎず少なすぎずの適量だった。ゆでタマゴの味を殺さずに、それでいてマヨネーズがきちんと主張している。
(こんな小さいなりなのに、よくまあ美味い料理を作れるもんだ。いい女になるんだろうな)
仁藤は、上機嫌で美由の料理の腕に感心しながらタマゴサンドを堪能していた。半分は今食べて、もう半分は夕飯に食べる予定にしている。
「美味しいですか?」
「おう……って、お前が作ったんだろ」
「自分ではよく分かりません。いつも同じ作り方でやってますから味は同じだと思いますから」
「そりゃ羨ましいぜ。それだけ美味いタマゴサンドを食べ慣れてるってことだ」
「仁藤さんってタマゴサンド好きなんですか?」
「タマゴサンドというよりマヨネーズだな」
「マヨネーズですか。調味料の」
「マヨネーズは世界で一番美味い食物だ。そうだ、お前も食えば分かるぜ!」
「……えっ?」
仁藤さん、草食動物だったんですか? 男の子に自分が草食動物扱いされたことを思い出す。途端、仁藤は吠えた。
「俺は牛や馬じゃねえからな! 肉も食うからな!」
「な、なんのことですか?」
「つーか、むしろ肉食系だ! ガッツリだ!」
突然、よく分からない主張をする仁藤に美由は困惑の表情を浮かべたが、今の美由が仁藤の気持ちを知る由もない。
「あの……草じゃないですけど食べ物でしたらここにありますよ」
美由は鞄から小さな包みを出すと差し出してきた。
「?」
「タマゴサンドです。また作ってくるって言いましたから」
「おおっ! マジかよ、サンキュー!」
最前までの鬱屈した気分は吹っ飛び仁藤は喜んだ。
まさかホントに作ってくるとは――思いがけない贈り物に小躍りしそうになる。
夕飯は野草の天ぷら、分けてもらった駄菓子、マヨネーズで済まそうとしたところに1品加わるのだ。
こんなに嬉しいことはない。しかも、サンドイッチつまりパン――炭水化物だ。腹に溜まる。
どうやら美由のおかげで今日の命は明日へ十分すぎるくらい繋げられそうだ。
仁藤は満面の笑みを浮かべた。そんな仁藤の顔を見上げ、嬉しそうに美由も笑った。
美由の作ったタマゴサンドは世辞抜きで美味かった。
タマゴに和えるマヨネーズの量が多すぎず少なすぎずの適量だった。ゆでタマゴの味を殺さずに、それでいてマヨネーズがきちんと主張している。
(こんな小さいなりなのに、よくまあ美味い料理を作れるもんだ。いい女になるんだろうな)
仁藤は、上機嫌で美由の料理の腕に感心しながらタマゴサンドを堪能していた。半分は今食べて、もう半分は夕飯に食べる予定にしている。
「美味しいですか?」
「おう……って、お前が作ったんだろ」
「自分ではよく分かりません。いつも同じ作り方でやってますから味は同じだと思いますから」
「そりゃ羨ましいぜ。それだけ美味いタマゴサンドを食べ慣れてるってことだ」
「仁藤さんってタマゴサンド好きなんですか?」
「タマゴサンドというよりマヨネーズだな」
「マヨネーズですか。調味料の」
「マヨネーズは世界で一番美味い食物だ。そうだ、お前も食えば分かるぜ!」
「……えっ?」
仁藤いくね前回>>674
唖然とする美由を脇目に仁藤は同好の士を増やすためにマヨネーズを懐から取り出すと早速料理に取り掛かろうとした。
だが、野草のおひたしを作るために鍋を取りに行こうとする所で仁藤は「待てよ……」と思いとどまる。
初めて会った時、美由は完食すればたちまち虫歯になりそうな程に激甘のアンパンを平然と食べていた。
女は甘い物が好きだと聞く。
だったら野草にマヨネーズを掛けた料理を出すより、何か甘い物にマヨネーズを掛けた方が、良い反応が貰えるかもしれない。
どうせ食わせるなら美味いと言わせたいし、それがマヨネーズの美味しさを証明させることに繋がる。
甘い物ということで最初にど~なつ屋のはんぐり~のドーナツが頭に浮かんだが、ライバルである晴人のように袋ごと常備していない。かといって今から買いに行って美由を待たせるわけにはいかない。
そこで仁藤は、男の子たちから貰ったおやつを使おうと考えた。
ガサガサとおやつが詰まったビニール袋から雪のように白くて、ふんわりとした感触が特徴的な洋菓子――マシュマロをいくつか取り出すと串に刺していき団子のようにした。
火のついたコンロの上に金網を敷き、その上にマシュマロを乗せる。少しの間、焼いてすぐさま返すと既にキツネ色の焦げ目がついていた。
やがてマシュマロ串の両面を焼くと紙皿に移して、その上からマヨネーズを掛ける(この時点で容器には、まだ2/3程の残りがあった)
まだ掛ける。(1/3)
もっと掛ける。(ほとんど空になった)
おまけにもう少しだけ掛ける。(容器を畳んで、無理やり絞り出していた)
紙皿には黄色い山が出来ていた。
仁藤がマヨネーズを掛ける……その作業だけで外はカリカリで香ばしく、中はとろけるように甘い絶品の焼きマシュマロはマヨネーズに覆われた何かに変わってしまった。
「ほら、食ってみろ。すげー美味いぜ」(※仁藤の味覚に限りである)
マヨネーズが盛られた皿を受け取った美由は疑うような素振りを一切せずに串を持ち上げた。
黄色い山が割れて、中からマヨネーズ包みの焼きマシュマロが出てくる。マシュマロの側部についているマヨネーズは重力に負けてボトリと音を立てながら皿に落ちた。
美由は串に刺さっているマシュマロの一つを手で取ろうとしたが仁藤に「そうじゃねえ。そのままかぶりつくんだよ」と言われたので、小さな口を大きく開けて焼きマシュマロを食べた。
「美味いだろ?」美由が何度か口の中で咀嚼していると仁藤が聞いてきた。
「よく分かりません。口の中がベタベタします」
「マジかよ。いや、そんな訳がねえ」
至極真っ当な感想を言う美由に納得のいかない様子の仁藤は、美由から串を取るマヨネーズまみれのマシュマロをかぶりついた。
口内を支配する大量のマヨネーズは、マシュマロの甘味を全て塗りつぶしていた。
マシュマロがマシュマロとして主張できるのは食感だけだった。
例えるならマヨネーズ味のマシュマロと言ったところか。商品化された暁にはもれなく黄色くなっていそうだ。
「美味いじゃねえか。この味が分からないなんて素人だな、お前。人生めちゃくちゃ損してるぜ」
仁藤は、それが絶対の真実だと訴えるように串の先を美由に向けた。
「素人って……こんなマヨネーズまみれの料理初めて食べたんですから仕方ないじゃないですか。タマゴサンドを作る時だってこんなに使いませんよ」
美由は頬を膨らませながら抗議した。釣り上がった眉とジト目に林檎色に染まった頬。怒っているつもりなのだろうが、対面する仁藤は全く怖くなかった。むしろ美由の低い身長もあって、その子供っぽい怒り方がむしろ可愛らしいとすら思えて小さく笑った。
「あー笑いましたね! 私、怒ってるんですよ!」
「悪いわるい、遂な。おい、マヨネーズついてるぞ」
「えっ、ホントですか?」
「そっちじゃない。逆だ」
仁藤はマヨネーズのついた頬の反対側を撫でる美由に代わってマヨネーズを拭き取るために頬に手を添えた。
「あ……」
美由が反射的に小さく声を漏らすと仁藤の視点はマヨネーズから美由の目に移った。
そこで初めて自分と美由の距離がとても近いことに気づいた。目と目を合わせて、女の頬に手を添える男の姿は端から見ればキスをする直前のようにも見えた。
近くで見る美由の顔は一層に可愛らしさが強調され、シャンプーなのか花のような甘ったるい香りがした。加えて指先で触れている美由の頬は柔らかい感触は仁藤の鼓動を早くするには十分だった。
仁藤は微かに視線を逸らして美由の頬を撫でてマヨネーズを拭き取っていく。
シュッと軽く一撫ですれば終わるものをゆっくりと美由の頬の感触――柔らかい反発を指先で覚えるように撫でる。
時間に換算すれば大した差では無かったが仁藤はできる限りも長い時間、美由の頬に触れていたかった。
「ほら、取れたぞ」
若干の名残惜しさを感じながら仁藤は美由から離れた。指先についたマヨネーズは勿体無いので舐めた。
「……あ、ありがとうございます」
「……別に礼を言われるようなことでもねえよ」
美由が照れた顔で言うものだから仁藤も意識してしまい照れ隠しにぶっきらぼうに返す。
そろそろ帰りますね、と美由は仁藤の元から去ろうとした。
「また近くを寄る時があると思いますから、包みはその時に返してくれればいいですよ」
つまり、仁藤にまた会いに来るという意味だった。
「じゃあ、またタマゴサンド作ってきてくれよ」
「マヨネーズたっぷりで……ですか?」
仁藤の嗜好を理解した美由は笑顔で聞いていた。仁藤はニヤリと不敵に笑う。
「分かるだろ?」
「はい。任せてください」
二人は再会を約束した。
だが、野草のおひたしを作るために鍋を取りに行こうとする所で仁藤は「待てよ……」と思いとどまる。
初めて会った時、美由は完食すればたちまち虫歯になりそうな程に激甘のアンパンを平然と食べていた。
女は甘い物が好きだと聞く。
だったら野草にマヨネーズを掛けた料理を出すより、何か甘い物にマヨネーズを掛けた方が、良い反応が貰えるかもしれない。
どうせ食わせるなら美味いと言わせたいし、それがマヨネーズの美味しさを証明させることに繋がる。
甘い物ということで最初にど~なつ屋のはんぐり~のドーナツが頭に浮かんだが、ライバルである晴人のように袋ごと常備していない。かといって今から買いに行って美由を待たせるわけにはいかない。
そこで仁藤は、男の子たちから貰ったおやつを使おうと考えた。
ガサガサとおやつが詰まったビニール袋から雪のように白くて、ふんわりとした感触が特徴的な洋菓子――マシュマロをいくつか取り出すと串に刺していき団子のようにした。
火のついたコンロの上に金網を敷き、その上にマシュマロを乗せる。少しの間、焼いてすぐさま返すと既にキツネ色の焦げ目がついていた。
やがてマシュマロ串の両面を焼くと紙皿に移して、その上からマヨネーズを掛ける(この時点で容器には、まだ2/3程の残りがあった)
まだ掛ける。(1/3)
もっと掛ける。(ほとんど空になった)
おまけにもう少しだけ掛ける。(容器を畳んで、無理やり絞り出していた)
紙皿には黄色い山が出来ていた。
仁藤がマヨネーズを掛ける……その作業だけで外はカリカリで香ばしく、中はとろけるように甘い絶品の焼きマシュマロはマヨネーズに覆われた何かに変わってしまった。
「ほら、食ってみろ。すげー美味いぜ」(※仁藤の味覚に限りである)
マヨネーズが盛られた皿を受け取った美由は疑うような素振りを一切せずに串を持ち上げた。
黄色い山が割れて、中からマヨネーズ包みの焼きマシュマロが出てくる。マシュマロの側部についているマヨネーズは重力に負けてボトリと音を立てながら皿に落ちた。
美由は串に刺さっているマシュマロの一つを手で取ろうとしたが仁藤に「そうじゃねえ。そのままかぶりつくんだよ」と言われたので、小さな口を大きく開けて焼きマシュマロを食べた。
「美味いだろ?」美由が何度か口の中で咀嚼していると仁藤が聞いてきた。
「よく分かりません。口の中がベタベタします」
「マジかよ。いや、そんな訳がねえ」
至極真っ当な感想を言う美由に納得のいかない様子の仁藤は、美由から串を取るマヨネーズまみれのマシュマロをかぶりついた。
口内を支配する大量のマヨネーズは、マシュマロの甘味を全て塗りつぶしていた。
マシュマロがマシュマロとして主張できるのは食感だけだった。
例えるならマヨネーズ味のマシュマロと言ったところか。商品化された暁にはもれなく黄色くなっていそうだ。
「美味いじゃねえか。この味が分からないなんて素人だな、お前。人生めちゃくちゃ損してるぜ」
仁藤は、それが絶対の真実だと訴えるように串の先を美由に向けた。
「素人って……こんなマヨネーズまみれの料理初めて食べたんですから仕方ないじゃないですか。タマゴサンドを作る時だってこんなに使いませんよ」
美由は頬を膨らませながら抗議した。釣り上がった眉とジト目に林檎色に染まった頬。怒っているつもりなのだろうが、対面する仁藤は全く怖くなかった。むしろ美由の低い身長もあって、その子供っぽい怒り方がむしろ可愛らしいとすら思えて小さく笑った。
「あー笑いましたね! 私、怒ってるんですよ!」
「悪いわるい、遂な。おい、マヨネーズついてるぞ」
「えっ、ホントですか?」
「そっちじゃない。逆だ」
仁藤はマヨネーズのついた頬の反対側を撫でる美由に代わってマヨネーズを拭き取るために頬に手を添えた。
「あ……」
美由が反射的に小さく声を漏らすと仁藤の視点はマヨネーズから美由の目に移った。
そこで初めて自分と美由の距離がとても近いことに気づいた。目と目を合わせて、女の頬に手を添える男の姿は端から見ればキスをする直前のようにも見えた。
近くで見る美由の顔は一層に可愛らしさが強調され、シャンプーなのか花のような甘ったるい香りがした。加えて指先で触れている美由の頬は柔らかい感触は仁藤の鼓動を早くするには十分だった。
仁藤は微かに視線を逸らして美由の頬を撫でてマヨネーズを拭き取っていく。
シュッと軽く一撫ですれば終わるものをゆっくりと美由の頬の感触――柔らかい反発を指先で覚えるように撫でる。
時間に換算すれば大した差では無かったが仁藤はできる限りも長い時間、美由の頬に触れていたかった。
「ほら、取れたぞ」
若干の名残惜しさを感じながら仁藤は美由から離れた。指先についたマヨネーズは勿体無いので舐めた。
「……あ、ありがとうございます」
「……別に礼を言われるようなことでもねえよ」
美由が照れた顔で言うものだから仁藤も意識してしまい照れ隠しにぶっきらぼうに返す。
そろそろ帰りますね、と美由は仁藤の元から去ろうとした。
「また近くを寄る時があると思いますから、包みはその時に返してくれればいいですよ」
つまり、仁藤にまた会いに来るという意味だった。
「じゃあ、またタマゴサンド作ってきてくれよ」
「マヨネーズたっぷりで……ですか?」
仁藤の嗜好を理解した美由は笑顔で聞いていた。仁藤はニヤリと不敵に笑う。
「分かるだろ?」
「はい。任せてください」
二人は再会を約束した。
たまにageてくれる人がいるけどありがとね
ケツを叩かれてるみたいで早く投下しねーとなって気分になって、少しやる気出るんだわ
ケツを叩かれてるみたいで早く投下しねーとなって気分になって、少しやる気出るんだわ
前回>>665
最初の十分はワクワクして待っていたが二十分を過ぎる辺りから遅いな、と思い始め、三十分過ぎた頃に電話とメールを一度ずつしたが望は電話にも出なかったし、返事も来なかった。
何かあったのか、と不安になる。頭の中に描かれる負のイメージ。いや望に限ってそんなことはない。すぐさま頭を振ってかき消した。それでも望がこの場にいないという明確な事実が希をまた不安にさせた。
望、遅いな。早く帰ってきてよ。それで色々な話を聞かせて。他愛ないことでもいいの。望のことは何でも知りたいの。
愚痴だっていいよ。私にどこまで出来るか分からないけど頑張って慰めてあげる。
一緒に話をして、それで笑い合ったり、時には真面目なこと言ってみたり、そうやって望の日常を共有していきたいの。
やがて希の用意した暖かい夕飯もすっかり冷めてしまい望が帰ってきてから一緒に食べようと皿にラップを掛けようとした時に扉が開く音がした。
望!
希は急いでリビングを出て玄関に走ると待ち望んだ最愛の弟がいた。さっきまでの不安が煙のように消えていく。
姉は優しい声で「おかえり」と言う。弟も同じように優しい声で「ただいま」と返した。
それが弟ではなく、弟の外見と記憶を持つ極めて弟に近い異形だということを姉は気づかない。
「遅くなってごめんね、姉さん」
弟、ではなく弟の姿をしているパズズは希になるべく心配をかけないように自分のゲートたる望の記憶を参考にして努めていつもの望を装って謝罪すると嘘まみれな弁明をし始めた。
「帰る途中で気持ち悪くなったんだ。満員電車でさ、目の前に太ったおっさん。なんで太ってる奴って息が臭いんだろ。おまけにそいつニキビ面で、それが近いもんだからすごい不快だった。臭いとキモイ。ホントに死ぬかと思ったよ」
「そ、それは災難だったね」
額に嫌な汗を浮かばせて苛立たしげに吐き捨てる望の態度――これも勿論嘘の態度、演技である――を見て、本当に嫌な目に会ったのだと感じた希は不憫そうに頷くしかなかった。
嘘ばかりのパズズだが死ぬかと思った、という言葉だけは本当だった。
イクサとの戦闘で腹部に突き刺さったイクサカリバーのダメージは相当な深手となっていた。バッタの群れを吐きかけひるませた所で離脱した後、人 目のつかない路地裏で限界がきて一度意識を失った。
起きた時はもう夜になっていて希が夕飯を作って待っていることに気づき、痛みに耐えながら重たい体をなんとか起こして家に帰ろうとした。
内側から焼き焦がされた傷は断続的に痛みを与える。痛みを抑えようと服の上から傷口に手をやっても、傷口の上で起きる下着の僅かな衣擦れでさえ耐え難い激痛に変わった。
いっそ、傷がある部分を丸ごと抉りとってしまった方がまだマシな痛みになるように思えた。
パズズは途中何度も意識を失いそうになりながら重たい体を引きずり、普通なら十分かそこらでかかる距離を一時間近くもかけて帰ってきた。
「夕御飯食べれそう?」
「食べるよ。お腹は減ってるからね。荷物、部屋に置いてくるよ」
パズズは調子の悪そうに見える――実際は激痛に耐える瀕死の自分を気遣う希の脇を抜けると手すりに掴まりながら階段を上り、望の部屋を目指した。階段をひとつひとつ上る時の動作と音ですら傷に響く。
食事なんか取れる状態でもないし、取ったところで味も分からないパズズには無意味だが「いらない」と言う選択肢はなかった。
自分のために夕飯を用意してくれた姉を悲しませたくない。
階段を上り終わり二階の廊下に差し掛かった所でまた限界が来た。
パズズは頭から突っ込む形で床に倒れ込んだ。
その音を聞いた希は二階に上り、熱にうなされるように荒い息をする望を見つけると自分の部屋の隣にある望の部屋へ運ぼうとした。
女性で加えて体の弱い希が自分より大きい体を持つ望を運ぶのは大変な作業だった。体に力の入らない望は60キロ弱の重り。非力な希には肩を貸しながら望を持ち上げて立たせたりすることは叶わなかった。
クソッタレのもやし女!
希は自分を口汚く罵りながら、これまでの人生で一番自分の体を恨んだ。最愛の弟が苦しんでいるのに弟を支えることも出来ない。そのどうしようもない役立たずな自分の無力さから来る苛立ちを自分にぶつけた。
結局、望を引きずる――というより床の上を滑らせるようにして部屋へ運び、ベッドに無理やり乗せた。
布団を上から掛けてやり、しばらく望の経過を見守った。
望は苦しそうにしていた。放っておいたらこのまま死んでしまいそうな位に。
希は望の手を取って、自分の小さな手を重ねた。ほんの少し力を込めて握ってみる。望は握り返してこなかった。
両手を使って望の手を包むように強く握る。指先が真っ赤になった。
言葉はない。ただ――ただ静かに愛する人のことを想い、祈り続ける。
「姉さん……」
その言葉と一緒に両手に僅かな抵抗を感じた。望は希の手を握り返して、うわ言のよう希のことを呼んでいた。
何かを伝えようと口が動いていた。希は望の言葉を待った。
「守るから……姉さんは俺が守るから……」
「うん、うん……」
仕切りに返事をすると次第に望の呼吸は落ち着いてきた。
こんな時にまで……
自分を守ると言ってくれた望がとても愛おしかった。
望の頬に手を添える。これからしようとすることにスリルを覚え、一瞬止まったが止まるつもりはなかった。
希は望の唇に自分の唇を重ねた。
何かあったのか、と不安になる。頭の中に描かれる負のイメージ。いや望に限ってそんなことはない。すぐさま頭を振ってかき消した。それでも望がこの場にいないという明確な事実が希をまた不安にさせた。
望、遅いな。早く帰ってきてよ。それで色々な話を聞かせて。他愛ないことでもいいの。望のことは何でも知りたいの。
愚痴だっていいよ。私にどこまで出来るか分からないけど頑張って慰めてあげる。
一緒に話をして、それで笑い合ったり、時には真面目なこと言ってみたり、そうやって望の日常を共有していきたいの。
やがて希の用意した暖かい夕飯もすっかり冷めてしまい望が帰ってきてから一緒に食べようと皿にラップを掛けようとした時に扉が開く音がした。
望!
希は急いでリビングを出て玄関に走ると待ち望んだ最愛の弟がいた。さっきまでの不安が煙のように消えていく。
姉は優しい声で「おかえり」と言う。弟も同じように優しい声で「ただいま」と返した。
それが弟ではなく、弟の外見と記憶を持つ極めて弟に近い異形だということを姉は気づかない。
「遅くなってごめんね、姉さん」
弟、ではなく弟の姿をしているパズズは希になるべく心配をかけないように自分のゲートたる望の記憶を参考にして努めていつもの望を装って謝罪すると嘘まみれな弁明をし始めた。
「帰る途中で気持ち悪くなったんだ。満員電車でさ、目の前に太ったおっさん。なんで太ってる奴って息が臭いんだろ。おまけにそいつニキビ面で、それが近いもんだからすごい不快だった。臭いとキモイ。ホントに死ぬかと思ったよ」
「そ、それは災難だったね」
額に嫌な汗を浮かばせて苛立たしげに吐き捨てる望の態度――これも勿論嘘の態度、演技である――を見て、本当に嫌な目に会ったのだと感じた希は不憫そうに頷くしかなかった。
嘘ばかりのパズズだが死ぬかと思った、という言葉だけは本当だった。
イクサとの戦闘で腹部に突き刺さったイクサカリバーのダメージは相当な深手となっていた。バッタの群れを吐きかけひるませた所で離脱した後、人 目のつかない路地裏で限界がきて一度意識を失った。
起きた時はもう夜になっていて希が夕飯を作って待っていることに気づき、痛みに耐えながら重たい体をなんとか起こして家に帰ろうとした。
内側から焼き焦がされた傷は断続的に痛みを与える。痛みを抑えようと服の上から傷口に手をやっても、傷口の上で起きる下着の僅かな衣擦れでさえ耐え難い激痛に変わった。
いっそ、傷がある部分を丸ごと抉りとってしまった方がまだマシな痛みになるように思えた。
パズズは途中何度も意識を失いそうになりながら重たい体を引きずり、普通なら十分かそこらでかかる距離を一時間近くもかけて帰ってきた。
「夕御飯食べれそう?」
「食べるよ。お腹は減ってるからね。荷物、部屋に置いてくるよ」
パズズは調子の悪そうに見える――実際は激痛に耐える瀕死の自分を気遣う希の脇を抜けると手すりに掴まりながら階段を上り、望の部屋を目指した。階段をひとつひとつ上る時の動作と音ですら傷に響く。
食事なんか取れる状態でもないし、取ったところで味も分からないパズズには無意味だが「いらない」と言う選択肢はなかった。
自分のために夕飯を用意してくれた姉を悲しませたくない。
階段を上り終わり二階の廊下に差し掛かった所でまた限界が来た。
パズズは頭から突っ込む形で床に倒れ込んだ。
その音を聞いた希は二階に上り、熱にうなされるように荒い息をする望を見つけると自分の部屋の隣にある望の部屋へ運ぼうとした。
女性で加えて体の弱い希が自分より大きい体を持つ望を運ぶのは大変な作業だった。体に力の入らない望は60キロ弱の重り。非力な希には肩を貸しながら望を持ち上げて立たせたりすることは叶わなかった。
クソッタレのもやし女!
希は自分を口汚く罵りながら、これまでの人生で一番自分の体を恨んだ。最愛の弟が苦しんでいるのに弟を支えることも出来ない。そのどうしようもない役立たずな自分の無力さから来る苛立ちを自分にぶつけた。
結局、望を引きずる――というより床の上を滑らせるようにして部屋へ運び、ベッドに無理やり乗せた。
布団を上から掛けてやり、しばらく望の経過を見守った。
望は苦しそうにしていた。放っておいたらこのまま死んでしまいそうな位に。
希は望の手を取って、自分の小さな手を重ねた。ほんの少し力を込めて握ってみる。望は握り返してこなかった。
両手を使って望の手を包むように強く握る。指先が真っ赤になった。
言葉はない。ただ――ただ静かに愛する人のことを想い、祈り続ける。
「姉さん……」
その言葉と一緒に両手に僅かな抵抗を感じた。望は希の手を握り返して、うわ言のよう希のことを呼んでいた。
何かを伝えようと口が動いていた。希は望の言葉を待った。
「守るから……姉さんは俺が守るから……」
「うん、うん……」
仕切りに返事をすると次第に望の呼吸は落ち着いてきた。
こんな時にまで……
自分を守ると言ってくれた望がとても愛おしかった。
望の頬に手を添える。これからしようとすることにスリルを覚え、一瞬止まったが止まるつもりはなかった。
希は望の唇に自分の唇を重ねた。
小説ウィザード読んだけど本編でインフィニティ出し惜しみする理由が何となく分かったよ
乙
インフィニティーが想像以上にとんでもない化物だったね
そりゃ本編であれだけ無双するわ
俺がファントムなら泣いて謝って土下座するレベル
インフィニティーが想像以上にとんでもない化物だったね
そりゃ本編であれだけ無双するわ
俺がファントムなら泣いて謝って土下座するレベル
乙
小説Wのエクストリームも凄かったがインフィニティも凄かったのか…
小説Wのエクストリームも凄かったがインフィニティも凄かったのか…
前回>>688
たくさんの人の喋る声、靴がアスファルトを叩く音、誰かのケータイの着信音、車道を走る車の音、風の音。
髪の長い女は無数の音が混ざり合う騒々しい夜の街中を歩きながら、今日の夕飯について考えていた。
歩道の側端には様々な店が建ち並び、その中には当然飲食店もあった。魅力的なメニューが写真やサンプルの蝋細工として表に出ているが、どれも女の心には響かなかった。
どうしようかしら……
立ち止まり、髪をいじりながら悩んでいると音が一つ女に向かって飛んできた。
「ねえねえ、お姉さん。仕事あがり?」
「もしお暇だったらボクらと飲みにでも行きません?」
軽そうな男が二人、軟派をしてきた。女は妖しく微笑む。
「いいわよ」
「じゃあ、どこの店行きます?」
「バー、居酒屋、クラブ……この辺の店は大体行ってるよ」
「くすっ……」女は小さく笑った。
最初から体目的なのに回りくどいわね
「あそこにしましょう」
女は細く長い白い指で1軒のホテルを差した。それは普通のホテルではなく、男との女の交わりを目的にしたホテルだった。
二人の男は顔を見合わせたが直ぐに意図を理解して下品な笑みを浮かべた。
「お姉さん、エッチですね」
「んふっ、満足させてくれる?」
「ええ、そりゃあもう」
「いい部屋にしてね。音が漏れないやつ」
女は口元で人差し指を立てて「シーッ」というジェスチャーをしながら自身の美貌をほんのり紅潮させて色っぽくウインクした。
意外に明るい室内は一見して淫靡な雰囲気とは程遠く、それなのに妙な圧迫感と期待感を沸かせるものがあった。
部屋に入ると早速、男たちが女の体に群がった。
「きゃっ、そんなに慌てなくても平気よ、んぅっ、逃げたりしないから、あ、あっ……」
服を脱がされて下着だけになり、胸や太ももに這う男の手に小さく息を漏らす。
「お姉さんの体、エロ過ぎ」
「食べちゃいたいよ」
「ふふっ、私もよ。ねえ……ありのままの私を見たい?」
「うん、見たいみたい!」
「そう……じゃあ」
女は男たちから離れると自分の裸身を晒した。興奮で少し汗ばんだ美しい肢体に男たちは魅了された。
直後、女の美しい顔に鮮やかなステンドグラスの模様を浮かぶと女はファンガイアになった。
女の本性を見た男たちは一瞬、何が起こったのか分からず固まっていた。
やがて恐怖という認識が思考に追いつき悲鳴をあげたが外に漏れることはなかった。
ファンガイアは活きのいい男二人を食った。
食事を終えて、ホテルから出た女は自宅へ帰ろうとした。
男ってバカよね。まあ、私としてはあの手の輩の方がライフエナジーに満ちているから食べ甲斐があるんだけど。
この容姿には感謝しなくちゃいけないわね。餌の方から寄ってくるんだから。
「お姉さん、いい髪をしてますね」
上機嫌に歩いていると女の元にまた男が寄ってきた。男は帽子を被っていた。
「あら、そう。嬉しいこと言ってくれるじゃない」
「良かったら僕に手入れさせてくれませんか? 僕、スタイリストなんですよ」
「スタイリスト……プロなのね」
女はスタイリストという単語に反応した。芸術に重きを置くファンガイアにとってスタイリストの存在は非常に興味深かった。
非力な二本の手と僅かな道具で何万本とある人間の髪の毛を、その人間に合った美しいヘアスタイルに整える。一種の芸術とも言えた。
自分が高貴な存在だと信じて疑わない女は、過度な装飾品ではなく自分の持つ人間の姿としての容姿でより美しさが欲しいと思った。
「それなら是非お願いしていいかしら?」
「ええ、勿論。こちらこそよろしくお願いします。じゃあ、僕のヘアサロンに行きましょう」
男は人なっつこい笑顔をすると女を導くように先を歩いた。
やっぱり男ってバカね。自分が死ぬことも知らないで。でも、私に食われるなら光栄なことね。
女は男の後ろで獲物を狙うような鋭い目をしながら冷たく笑った。
「クフフ……」不意に男が背を向けたまま笑った。
「あら、どうしたの?」
「いえ、これからのことを考えると楽しくてしょうがないんです」
男――ソラは狂気の孕んだ笑みをしていた。
髪の長い女は無数の音が混ざり合う騒々しい夜の街中を歩きながら、今日の夕飯について考えていた。
歩道の側端には様々な店が建ち並び、その中には当然飲食店もあった。魅力的なメニューが写真やサンプルの蝋細工として表に出ているが、どれも女の心には響かなかった。
どうしようかしら……
立ち止まり、髪をいじりながら悩んでいると音が一つ女に向かって飛んできた。
「ねえねえ、お姉さん。仕事あがり?」
「もしお暇だったらボクらと飲みにでも行きません?」
軽そうな男が二人、軟派をしてきた。女は妖しく微笑む。
「いいわよ」
「じゃあ、どこの店行きます?」
「バー、居酒屋、クラブ……この辺の店は大体行ってるよ」
「くすっ……」女は小さく笑った。
最初から体目的なのに回りくどいわね
「あそこにしましょう」
女は細く長い白い指で1軒のホテルを差した。それは普通のホテルではなく、男との女の交わりを目的にしたホテルだった。
二人の男は顔を見合わせたが直ぐに意図を理解して下品な笑みを浮かべた。
「お姉さん、エッチですね」
「んふっ、満足させてくれる?」
「ええ、そりゃあもう」
「いい部屋にしてね。音が漏れないやつ」
女は口元で人差し指を立てて「シーッ」というジェスチャーをしながら自身の美貌をほんのり紅潮させて色っぽくウインクした。
意外に明るい室内は一見して淫靡な雰囲気とは程遠く、それなのに妙な圧迫感と期待感を沸かせるものがあった。
部屋に入ると早速、男たちが女の体に群がった。
「きゃっ、そんなに慌てなくても平気よ、んぅっ、逃げたりしないから、あ、あっ……」
服を脱がされて下着だけになり、胸や太ももに這う男の手に小さく息を漏らす。
「お姉さんの体、エロ過ぎ」
「食べちゃいたいよ」
「ふふっ、私もよ。ねえ……ありのままの私を見たい?」
「うん、見たいみたい!」
「そう……じゃあ」
女は男たちから離れると自分の裸身を晒した。興奮で少し汗ばんだ美しい肢体に男たちは魅了された。
直後、女の美しい顔に鮮やかなステンドグラスの模様を浮かぶと女はファンガイアになった。
女の本性を見た男たちは一瞬、何が起こったのか分からず固まっていた。
やがて恐怖という認識が思考に追いつき悲鳴をあげたが外に漏れることはなかった。
ファンガイアは活きのいい男二人を食った。
食事を終えて、ホテルから出た女は自宅へ帰ろうとした。
男ってバカよね。まあ、私としてはあの手の輩の方がライフエナジーに満ちているから食べ甲斐があるんだけど。
この容姿には感謝しなくちゃいけないわね。餌の方から寄ってくるんだから。
「お姉さん、いい髪をしてますね」
上機嫌に歩いていると女の元にまた男が寄ってきた。男は帽子を被っていた。
「あら、そう。嬉しいこと言ってくれるじゃない」
「良かったら僕に手入れさせてくれませんか? 僕、スタイリストなんですよ」
「スタイリスト……プロなのね」
女はスタイリストという単語に反応した。芸術に重きを置くファンガイアにとってスタイリストの存在は非常に興味深かった。
非力な二本の手と僅かな道具で何万本とある人間の髪の毛を、その人間に合った美しいヘアスタイルに整える。一種の芸術とも言えた。
自分が高貴な存在だと信じて疑わない女は、過度な装飾品ではなく自分の持つ人間の姿としての容姿でより美しさが欲しいと思った。
「それなら是非お願いしていいかしら?」
「ええ、勿論。こちらこそよろしくお願いします。じゃあ、僕のヘアサロンに行きましょう」
男は人なっつこい笑顔をすると女を導くように先を歩いた。
やっぱり男ってバカね。自分が死ぬことも知らないで。でも、私に食われるなら光栄なことね。
女は男の後ろで獲物を狙うような鋭い目をしながら冷たく笑った。
「クフフ……」不意に男が背を向けたまま笑った。
「あら、どうしたの?」
「いえ、これからのことを考えると楽しくてしょうがないんです」
男――ソラは狂気の孕んだ笑みをしていた。
女は魔物だよ、いやホントに
そういや外国のどっかの動物園には「世界で一番危ない動物」って書いてあって檻の中に鏡が置いてあるとか
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