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元スレ晴人「宙に舞う牙」
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放たれた無数の銀の矢はまっすぐガネーシャに向かって飛んでいくとガネーシャの体にいくつも刺さる。
凛子は続けて銃撃しようとしたが、ファンガイアバスターに反応がない。
「弾切れだな。だったら、もう遠慮いらねーな」
体に突き刺さる矢を抜きながらガネーシャが接近する。
マズイと思った凛子はファンガイアバスターに取り付けられているカードリッジを外して、別のカードリッジを装填する。更にそこからトリガ ーを引きながら、ファンガイアバスターを横に凪いだ。
銃口からアンカーのような逆三角形の金属片がついた鎖が飛び出し、ガネーシャを打ち据える。ファンガイアバスターのスレイヤーモードだ。
力強く腕を振り、鎖の鞭打を何度も叩きこむ。だが、ガネーシャは止まらない。
「決定打じゃないんだよ。ちょっと我慢すれば問題ねえ!」
凛子に襲いかかろうとするガネーシャ。すると、一陣の風が吹いた。凛子の横を吹き抜ける涼やかな風に甘い香りがする。花の香りだ。
風に混ざる花びらが舞ってガネーシャの視界を覆う。
「なんだよ、この花びら、うぜーな!」
ガネーシャは羽虫を払うように手を振るが、風と花びらは円を描き、ガネーシャを翻弄する。
「おイタが過ぎるぜ、ファントム」
不意に風が喋った。渦が動き、ガネーシャから少し離れた場所に留まる。
次の瞬間、ブワッと花びらが広がると渦の中心だった場所にハリケーンスタイルのウィザードがポーズを決めて、立っていた。
ひらりはらりと舞い散る花びらが舞台へ上がったウィザードを美しく飾る。赤や桃、白といった色鮮やかな花吹雪の中で漆黒のローブが際立っていた。
「晴人くん!」待っていた、とばかり名前を呼ぶ凛子。
「お待たせ、凛子ちゃん。頑張るのはいいけど無茶はいけないな」
「だったら、もっと早く来てよね」
「戦ってる凛子ちゃんがカッコよくて、ついね。風に乗って高みの見物をしてたんだ」
「バーカ。つまらないわよ」
気取ったセリフは、少し呆れた笑顔と酷評で返された。
「ははは、残念。ていうか、そんな物騒なもの何処から持ってきたの?」
「名護さんが青空の会の伝手で貸してくれたの」
「なるほどね。少し真似してみるか」
ウィザードはソードガンをコネクトのリングで取り出し、ガンモードにするとハンドオーサーを展開させる。
キャモナ・シューティング・シェイクハンズ! キャモナ・シューティング・シェイクハンズ!
そこから右中指にはめた竜と鎖の模様が彫られた指輪をかざす。
バインド! プリーズ!
「そらっ!」
ウィザードがガネーシャに向けて、銃を撃つとマズルから銀色の鎖が飛び出す。
ソーサリウム製の強固な鎖がガネーシャの皮膚を引き裂いた。
「同じもん見せられてもつまんねーよ!」
怒り叫ぶガネーシャは棍棒のような武器でウィザードに殴りかかる。
ウィザードは棍棒の打撃より早く風に乗って空へ飛んだ。
「同じものが嫌なら、こいつはどうだ」
ソードガンをソードモードに切り替えて、指輪を連続で読み込ませる。
スモール! プリーズ!
コピー! プリーズ!
物体を小さくする魔法と増やす魔法。
二つを重ね掛けしたことで、ソードガンはナイフ程度のサイズまで小さくなり、何本にも数を増やした。
ウィザードは両手いっぱいの短剣を投げつける。そこから更に風を制御して、短剣を追い風で加速させる。
勢いを得た刃の雨がガネーシャに容赦なく降り注いだ。
凛子は続けて銃撃しようとしたが、ファンガイアバスターに反応がない。
「弾切れだな。だったら、もう遠慮いらねーな」
体に突き刺さる矢を抜きながらガネーシャが接近する。
マズイと思った凛子はファンガイアバスターに取り付けられているカードリッジを外して、別のカードリッジを装填する。更にそこからトリガ ーを引きながら、ファンガイアバスターを横に凪いだ。
銃口からアンカーのような逆三角形の金属片がついた鎖が飛び出し、ガネーシャを打ち据える。ファンガイアバスターのスレイヤーモードだ。
力強く腕を振り、鎖の鞭打を何度も叩きこむ。だが、ガネーシャは止まらない。
「決定打じゃないんだよ。ちょっと我慢すれば問題ねえ!」
凛子に襲いかかろうとするガネーシャ。すると、一陣の風が吹いた。凛子の横を吹き抜ける涼やかな風に甘い香りがする。花の香りだ。
風に混ざる花びらが舞ってガネーシャの視界を覆う。
「なんだよ、この花びら、うぜーな!」
ガネーシャは羽虫を払うように手を振るが、風と花びらは円を描き、ガネーシャを翻弄する。
「おイタが過ぎるぜ、ファントム」
不意に風が喋った。渦が動き、ガネーシャから少し離れた場所に留まる。
次の瞬間、ブワッと花びらが広がると渦の中心だった場所にハリケーンスタイルのウィザードがポーズを決めて、立っていた。
ひらりはらりと舞い散る花びらが舞台へ上がったウィザードを美しく飾る。赤や桃、白といった色鮮やかな花吹雪の中で漆黒のローブが際立っていた。
「晴人くん!」待っていた、とばかり名前を呼ぶ凛子。
「お待たせ、凛子ちゃん。頑張るのはいいけど無茶はいけないな」
「だったら、もっと早く来てよね」
「戦ってる凛子ちゃんがカッコよくて、ついね。風に乗って高みの見物をしてたんだ」
「バーカ。つまらないわよ」
気取ったセリフは、少し呆れた笑顔と酷評で返された。
「ははは、残念。ていうか、そんな物騒なもの何処から持ってきたの?」
「名護さんが青空の会の伝手で貸してくれたの」
「なるほどね。少し真似してみるか」
ウィザードはソードガンをコネクトのリングで取り出し、ガンモードにするとハンドオーサーを展開させる。
キャモナ・シューティング・シェイクハンズ! キャモナ・シューティング・シェイクハンズ!
そこから右中指にはめた竜と鎖の模様が彫られた指輪をかざす。
バインド! プリーズ!
「そらっ!」
ウィザードがガネーシャに向けて、銃を撃つとマズルから銀色の鎖が飛び出す。
ソーサリウム製の強固な鎖がガネーシャの皮膚を引き裂いた。
「同じもん見せられてもつまんねーよ!」
怒り叫ぶガネーシャは棍棒のような武器でウィザードに殴りかかる。
ウィザードは棍棒の打撃より早く風に乗って空へ飛んだ。
「同じものが嫌なら、こいつはどうだ」
ソードガンをソードモードに切り替えて、指輪を連続で読み込ませる。
スモール! プリーズ!
コピー! プリーズ!
物体を小さくする魔法と増やす魔法。
二つを重ね掛けしたことで、ソードガンはナイフ程度のサイズまで小さくなり、何本にも数を増やした。
ウィザードは両手いっぱいの短剣を投げつける。そこから更に風を制御して、短剣を追い風で加速させる。
勢いを得た刃の雨がガネーシャに容赦なく降り注いだ。
>>302
そーだよ
そーだよ
いいねいいね
フラワーリングの気障な使い方がいかにも魔法っぽくて
鎧武のクナイバースト的な攻撃も面白いアイデア
フラワーリングの気障な使い方がいかにも魔法っぽくて
鎧武のクナイバースト的な攻撃も面白いアイデア
「よっと」
華麗に着地を決めるウィザードは再び魔法で短剣をいくつか複製すると宙に放りジャグリングをする。
扱う短剣が常識的に考えてジャグリングするには不可能な量でも、風を自在に操るハリケーンスタイルにかかれば簡単なものだ。
ウィザードは再び短剣を投げる。ガネーシャは棍棒で防御するが、全てを防ぎきれることはなく、短剣のいくつかが追加で刺さる。
「次は何が見たいんだ、ファントム」
「ふざけんな! その宝石顔をブチ砕いて、欠片を売り飛ばしてやるよ!」
「高く売れるかもな」
「ううううおおおおおおおお!」雄叫びを上げて、地面を踏み鳴らしながら突っ込んでくるガネーシャ。
ウィザードは左の指輪を緑から青に変えて、ベルトのハンドオーサーにかざした。
ウォーター! プリーズ!
スイ~スイ~スイ~スイ~~~~!
川の流れのような緩やかなトーンで詠唱が終わると青い魔法陣が水しぶきをあげながらウィザードの顔を雫型の綺麗な青色へと変えた。
絶望を洗い流す清廉なる水の魔法使い。仮面ライダーウィザード・ウォータースタイルだ。
ウィザードは左の指輪をベルトにかざして次の魔法を仕込む。
リキッド! プリーズ!
仕込みが終わると同時にガネーシャの棍棒が襲いかかってきた。狙いはウィザードのマスクだった。
「くたばれええええええええええ!」
「…………」
ガネーシャの気迫に気圧されたのかウィザードは一歩も動かない。
棍棒が振り下ろされるとウィザードの頭が派手に弾け飛ぶ。両手をだらりと垂らして立っている首から上のないウィザード。
そのすぐ後だった。弾け飛んだウィザードのマスクが映像を逆再生するように元に戻った。
「は?」間抜けな声を上げるガネーシャ。
「随分と気合入れて叫んでたけど、俺の顔を砕くんじゃないのか?」マスクの口元に手を当てて笑いを堪えるウィザード。
「うるせー! 今度こそ……」
ウィザードの挑発に乗ったガネーシャは更に攻撃を加えるが結果は同じだった。攻撃を当てた場所が弾け飛んだと思ったら、すぐに元通りになる。
「俺を砕くことは出来ないぜ」
ウィザードは溶けている竜が彫られている指輪を見せて、タネ明かしをする。
自分の体を液状化させることで敵からのあらゆる物理的な攻撃を無効化する魔法だ。
「んなのありかよ」
「魔法使いだからな。何でもありだ」
華麗に着地を決めるウィザードは再び魔法で短剣をいくつか複製すると宙に放りジャグリングをする。
扱う短剣が常識的に考えてジャグリングするには不可能な量でも、風を自在に操るハリケーンスタイルにかかれば簡単なものだ。
ウィザードは再び短剣を投げる。ガネーシャは棍棒で防御するが、全てを防ぎきれることはなく、短剣のいくつかが追加で刺さる。
「次は何が見たいんだ、ファントム」
「ふざけんな! その宝石顔をブチ砕いて、欠片を売り飛ばしてやるよ!」
「高く売れるかもな」
「ううううおおおおおおおお!」雄叫びを上げて、地面を踏み鳴らしながら突っ込んでくるガネーシャ。
ウィザードは左の指輪を緑から青に変えて、ベルトのハンドオーサーにかざした。
ウォーター! プリーズ!
スイ~スイ~スイ~スイ~~~~!
川の流れのような緩やかなトーンで詠唱が終わると青い魔法陣が水しぶきをあげながらウィザードの顔を雫型の綺麗な青色へと変えた。
絶望を洗い流す清廉なる水の魔法使い。仮面ライダーウィザード・ウォータースタイルだ。
ウィザードは左の指輪をベルトにかざして次の魔法を仕込む。
リキッド! プリーズ!
仕込みが終わると同時にガネーシャの棍棒が襲いかかってきた。狙いはウィザードのマスクだった。
「くたばれええええええええええ!」
「…………」
ガネーシャの気迫に気圧されたのかウィザードは一歩も動かない。
棍棒が振り下ろされるとウィザードの頭が派手に弾け飛ぶ。両手をだらりと垂らして立っている首から上のないウィザード。
そのすぐ後だった。弾け飛んだウィザードのマスクが映像を逆再生するように元に戻った。
「は?」間抜けな声を上げるガネーシャ。
「随分と気合入れて叫んでたけど、俺の顔を砕くんじゃないのか?」マスクの口元に手を当てて笑いを堪えるウィザード。
「うるせー! 今度こそ……」
ウィザードの挑発に乗ったガネーシャは更に攻撃を加えるが結果は同じだった。攻撃を当てた場所が弾け飛んだと思ったら、すぐに元通りになる。
「俺を砕くことは出来ないぜ」
ウィザードは溶けている竜が彫られている指輪を見せて、タネ明かしをする。
自分の体を液状化させることで敵からのあらゆる物理的な攻撃を無効化する魔法だ。
「んなのありかよ」
「魔法使いだからな。何でもありだ」
バッシャーで水場作ってウォーター、ドルフィン無双とか面白そう。
バッシャーさんは今回フィーバー出きるのか…?
バッシャーさんは今回フィーバー出きるのか…?
ウィザードは液体化するとガネーシャの後ろに回り込んで、腕をとった。
「いてえええええ!」
「体、固いぜ? 俺みたいに柔らかくなきゃ」
「てめーのは魔法のおかげじゃねーか」
ガネーシャは力任せにウィザードを引き離した。
「へっ、体は柔らかくても力は全然だな」
「それなら力比べしてみるかい」
「なに?」
「正直、見栄えが悪いからあんまり使いたくないんだけど」
エキサイト! プリーズ!
右の指輪をかざすとウィザードの体がムクムクと膨張していき倍以上の大きさになった。
筋力を増強し、肉体を強化する魔法だ。
「むん!」
ウィザードはガネーシャに向かって固く組んだ両の拳をハンマーのように力いっぱい振り下ろす。
ガネーシャは正面から受け止めて怪力で踏ん張り、押し返そうとするが出来ない。全身が軋むような痛みが走った。
ウィザードはバックステップで一度離れると腕を大きく振ってラリアットを叩き込む。
筋肉で丸太のように太くなったウィザードの腕がガネーシャを大きく吹っ飛ばした。
「フィナーレだ!」
チョーイイネ! キックストライク! サイコー!
体型を戻したウィザードの足元に青い魔法陣が浮かび右足に魔力が集中する。
ウィザードが側転をしながら跳んだ。
ストライクウィザードを発動させたウィザードは激流となってガネーシャを飲みこんだ。
「いーとこ……無しかよ」
諦めたように呟くガネーシャに魔法陣が浮かび上がる。
キックを受けた箇所から魔力が流れ込み、自分の体を崩壊させていくのを感じとることができた。ふと、ガネーシャは思う。
「つーかさ、俺が死んだら……誰が俺のゲートの」
言葉が終わるよりも先にガネーシャの体が爆ぜた。
爆発と一緒に水しぶきが上がる。水の粒は太陽の光を反射して宝石のように輝くと虹を作った。
「ふぃ……」
変身を解いた晴人はしばらく虹を見つめた。
その顔はどこか憂いを帯びている。水しぶきのせいだろうか、顔が濡れていた。
「晴人くん、泣いているの?」
「まさか。ないない」
晴人は軽く返事すると上着の袖で顔を拭いて笑った。
「ファントムはゲートを絶望させる悪い怪物。倒して喜ぶならともかく悲しむなんてありはしないさ」
「ええ……そうね」凛子はそれ以上なにも聞けなかった。
「いてえええええ!」
「体、固いぜ? 俺みたいに柔らかくなきゃ」
「てめーのは魔法のおかげじゃねーか」
ガネーシャは力任せにウィザードを引き離した。
「へっ、体は柔らかくても力は全然だな」
「それなら力比べしてみるかい」
「なに?」
「正直、見栄えが悪いからあんまり使いたくないんだけど」
エキサイト! プリーズ!
右の指輪をかざすとウィザードの体がムクムクと膨張していき倍以上の大きさになった。
筋力を増強し、肉体を強化する魔法だ。
「むん!」
ウィザードはガネーシャに向かって固く組んだ両の拳をハンマーのように力いっぱい振り下ろす。
ガネーシャは正面から受け止めて怪力で踏ん張り、押し返そうとするが出来ない。全身が軋むような痛みが走った。
ウィザードはバックステップで一度離れると腕を大きく振ってラリアットを叩き込む。
筋肉で丸太のように太くなったウィザードの腕がガネーシャを大きく吹っ飛ばした。
「フィナーレだ!」
チョーイイネ! キックストライク! サイコー!
体型を戻したウィザードの足元に青い魔法陣が浮かび右足に魔力が集中する。
ウィザードが側転をしながら跳んだ。
ストライクウィザードを発動させたウィザードは激流となってガネーシャを飲みこんだ。
「いーとこ……無しかよ」
諦めたように呟くガネーシャに魔法陣が浮かび上がる。
キックを受けた箇所から魔力が流れ込み、自分の体を崩壊させていくのを感じとることができた。ふと、ガネーシャは思う。
「つーかさ、俺が死んだら……誰が俺のゲートの」
言葉が終わるよりも先にガネーシャの体が爆ぜた。
爆発と一緒に水しぶきが上がる。水の粒は太陽の光を反射して宝石のように輝くと虹を作った。
「ふぃ……」
変身を解いた晴人はしばらく虹を見つめた。
その顔はどこか憂いを帯びている。水しぶきのせいだろうか、顔が濡れていた。
「晴人くん、泣いているの?」
「まさか。ないない」
晴人は軽く返事すると上着の袖で顔を拭いて笑った。
「ファントムはゲートを絶望させる悪い怪物。倒して喜ぶならともかく悲しむなんてありはしないさ」
「ええ……そうね」凛子はそれ以上なにも聞けなかった。
>>314
それは確かに気になる
それは確かに気になる
誰が俺のゲートの葬式あげるんだ、とか?
いやさすがに違うよな…
いやさすがに違うよな…
ガネーシャを倒した晴人は渡と一緒に奏美の泊まっているホテルの部屋にいた。
窓から射し込んだ夕焼けが部屋を橙色に染めている。奏美は無言で自分のバイオリンケースを撫でていた。
「渡さん、言ったわよね。自分の音楽を奏でるのが怖いのかって」
「はい」
「あなたが言ったこと当たっているわ」
「どうしてだい?」
晴人は聞いてみた。街の音楽を楽しそうに語った奏美はとても自信に溢れているように見えた。それなら、どうして自分の音楽を奏でることは恐れているのだろうか。
すると奏美はしばらく沈黙した後、自分の過去を打ち明けた。
小さな頃は本当に自分の感じるままに演奏するのが好きだったこと。自分の音楽の才能を妬む人たちに心を真っ黒に塗りつぶされたこと。そこから自分が自分の音楽に鍵をかけたこと。暗い視線と声の恐怖。それが今でも自分のなかでへばりついていること。
今の自分を構成するおおよそ全てを語った。
「あの時から私は自分の音楽を閉じ込めているの」
「街の音楽はその時からですか?」
「周りの奏でる音楽を聞いて、ひたすら合わせるっていう意味ではね」
「子供の頃からずっとなんて年季が入っているんだな」
「十年以上やってるから、すっかり板についちゃった」
晴人の軽口に奏美は自嘲気味に笑う。
「私、傷つくことが怖いのよ。その癖、自分の音楽を奏でたいって心の底では望んでいる」
人によっては「甘ったれるな」と一蹴されそうな言葉だったが、それは奏美の中にある様々な感情が混ぜ合わせられた悲痛な訴えだった。
「奏美さん、確かに傷つくのは怖いことかもしれません。でもダメなんです。傷つくことを恐れて、自分を閉ざしてしまったら……」
「俺も渡と同じ意見だ」
「頭では分かっているわ。でも、怖いものは怖いのよ」
「希望は絶望に勝る」
「えっ?」
晴人の言葉に奏美は顔をあげた。晴人は続ける。
「人はどれだけ大きな絶望を味わっても、希望があれば必ず絶望を乗り越えられる」
それは晴人自身が体験したことから来る言葉だった。
幼い頃に両親と死別して、ひとりぼっちになった時、消えてしまいたいと思った。
それでも今日まで生きてこられたのは両親が託した一言が晴人の希望となっているからだ。
「奏美さんの中には自分の音楽を奏でたいっていう希望がある。それを信じれば、絶望なんて屁でもないさ」
言葉なくバイオリンケースを見つめる奏美。迷っているようだった。
晴人はチラリと渡を見た後、奏美の背中を押すように優しく言った。
「心の声に耳を傾けてくれ。奏美さんの本当にやりたいことを、希望を叶えるんだ」
晴人はバイオリンケースを開けて、バイオリンを取り出すと奏美に差し出した。
「さあ、ショータイムだ」
「………………」
奏美はバイオリンを受け取り、構えた。
窓から射し込んだ夕焼けが部屋を橙色に染めている。奏美は無言で自分のバイオリンケースを撫でていた。
「渡さん、言ったわよね。自分の音楽を奏でるのが怖いのかって」
「はい」
「あなたが言ったこと当たっているわ」
「どうしてだい?」
晴人は聞いてみた。街の音楽を楽しそうに語った奏美はとても自信に溢れているように見えた。それなら、どうして自分の音楽を奏でることは恐れているのだろうか。
すると奏美はしばらく沈黙した後、自分の過去を打ち明けた。
小さな頃は本当に自分の感じるままに演奏するのが好きだったこと。自分の音楽の才能を妬む人たちに心を真っ黒に塗りつぶされたこと。そこから自分が自分の音楽に鍵をかけたこと。暗い視線と声の恐怖。それが今でも自分のなかでへばりついていること。
今の自分を構成するおおよそ全てを語った。
「あの時から私は自分の音楽を閉じ込めているの」
「街の音楽はその時からですか?」
「周りの奏でる音楽を聞いて、ひたすら合わせるっていう意味ではね」
「子供の頃からずっとなんて年季が入っているんだな」
「十年以上やってるから、すっかり板についちゃった」
晴人の軽口に奏美は自嘲気味に笑う。
「私、傷つくことが怖いのよ。その癖、自分の音楽を奏でたいって心の底では望んでいる」
人によっては「甘ったれるな」と一蹴されそうな言葉だったが、それは奏美の中にある様々な感情が混ぜ合わせられた悲痛な訴えだった。
「奏美さん、確かに傷つくのは怖いことかもしれません。でもダメなんです。傷つくことを恐れて、自分を閉ざしてしまったら……」
「俺も渡と同じ意見だ」
「頭では分かっているわ。でも、怖いものは怖いのよ」
「希望は絶望に勝る」
「えっ?」
晴人の言葉に奏美は顔をあげた。晴人は続ける。
「人はどれだけ大きな絶望を味わっても、希望があれば必ず絶望を乗り越えられる」
それは晴人自身が体験したことから来る言葉だった。
幼い頃に両親と死別して、ひとりぼっちになった時、消えてしまいたいと思った。
それでも今日まで生きてこられたのは両親が託した一言が晴人の希望となっているからだ。
「奏美さんの中には自分の音楽を奏でたいっていう希望がある。それを信じれば、絶望なんて屁でもないさ」
言葉なくバイオリンケースを見つめる奏美。迷っているようだった。
晴人はチラリと渡を見た後、奏美の背中を押すように優しく言った。
「心の声に耳を傾けてくれ。奏美さんの本当にやりたいことを、希望を叶えるんだ」
晴人はバイオリンケースを開けて、バイオリンを取り出すと奏美に差し出した。
「さあ、ショータイムだ」
「………………」
奏美はバイオリンを受け取り、構えた。
住宅街を歩く若者は不意に聞こえてきた音楽に立ち止まった。
とても優しく暖かい音色。昼間のような明るい光に包まれているようだ。
心地いい。
だが、その音楽を聞いていた若者は忌々しげに呟いた。
「そうじゃないでしょう」
細い指を鳴らす。
自分が聞きたいのは、この音楽ではない。音楽が完全に変わってしまっている。
誰かが余計なことをしたのだろう。それを考えるとイラつきが増す。
若者は激しく指をならした。
「イラついた時は何か食べて気を紛らわせましょう」
気分を切り替えて、歩き出す。途中、女性とすれ違う。
若者は来た道を引き返して、女性の背中をゆっくりと追った。
「そんな気にしなくてもいいのに。まあ、心配して早く返ってきてくれるのは嬉しいけどね」
女性はケータイを耳に当てて、電話中だった。
「実感? う~ん、まだそんなに。それより今週の土曜日、健診に付き添ってよね」
電話の相手と喋る女性の顔は笑っている。
「じゃあ、もうすぐ着くから切るね。あっ、ご飯のスイッチ入れといて」
それが女性の最後の言葉になった。
電話を切って、ケータイをしまうおうとする彼女の体が一瞬で透明になると着ていた服だけが小さく音を立てて落ちた。
服から少し離れた所に若者が宙に舞う牙を出して、立っていた。
「中々の味でしたね。でも、若干味が薄かったような……ん?」
感じた違和感に若者が眉をひそめた。
女性のいた場所に、まだ僅かにライフエナジーの残りを感じる。
有り得ない話だ。代わりはいくらでもいる人間に気を使って、ライフエナジーを残すようなことをする必要がない。
ライフエナジーは間違いなく吸い尽くした。
では、どうして?
若者の姿をしたファンガイアは近くによって女性の着ていた服をどかしてみた。
すると、女性の服からポロリと転がって出てくるものがあった。
「ああ……なるほど。ライフエナジーが、こっちに流れてたんですね」ファンガイアは納得した。
大きさは5センチ程度。半透明で丸くなっている芋虫のようなものが、そこにあった。
ファンガイアは手にとって観察してみる。
「三ヶ月くらいですかね。なんとまあグロテスクな。でも、こういうのが意外に珍味だったりするんですよね」
牙を突き立ててライフエナジーを吸うのも面倒なので、芋虫を口の中に放り込んだ。
口の中で遊ぶとブヨブヨとした柔らかな感触を舌で感じた。
噛み締めると芋虫は弾けて口の中を液体で満たした。
酸っぱい。
「あまり美味しくないですね。マズイ」
ファンガイアは何度か咀嚼した後、口の中のものをペッと粗末に吐き捨てた。グチャグチャになって原型を留めてない芋虫が女性の服に張り付いた。
「口直しでも探しましょう」
口元を拭うとファンガイアは新たな獲物を探し求めて歩き出した。
とても優しく暖かい音色。昼間のような明るい光に包まれているようだ。
心地いい。
だが、その音楽を聞いていた若者は忌々しげに呟いた。
「そうじゃないでしょう」
細い指を鳴らす。
自分が聞きたいのは、この音楽ではない。音楽が完全に変わってしまっている。
誰かが余計なことをしたのだろう。それを考えるとイラつきが増す。
若者は激しく指をならした。
「イラついた時は何か食べて気を紛らわせましょう」
気分を切り替えて、歩き出す。途中、女性とすれ違う。
若者は来た道を引き返して、女性の背中をゆっくりと追った。
「そんな気にしなくてもいいのに。まあ、心配して早く返ってきてくれるのは嬉しいけどね」
女性はケータイを耳に当てて、電話中だった。
「実感? う~ん、まだそんなに。それより今週の土曜日、健診に付き添ってよね」
電話の相手と喋る女性の顔は笑っている。
「じゃあ、もうすぐ着くから切るね。あっ、ご飯のスイッチ入れといて」
それが女性の最後の言葉になった。
電話を切って、ケータイをしまうおうとする彼女の体が一瞬で透明になると着ていた服だけが小さく音を立てて落ちた。
服から少し離れた所に若者が宙に舞う牙を出して、立っていた。
「中々の味でしたね。でも、若干味が薄かったような……ん?」
感じた違和感に若者が眉をひそめた。
女性のいた場所に、まだ僅かにライフエナジーの残りを感じる。
有り得ない話だ。代わりはいくらでもいる人間に気を使って、ライフエナジーを残すようなことをする必要がない。
ライフエナジーは間違いなく吸い尽くした。
では、どうして?
若者の姿をしたファンガイアは近くによって女性の着ていた服をどかしてみた。
すると、女性の服からポロリと転がって出てくるものがあった。
「ああ……なるほど。ライフエナジーが、こっちに流れてたんですね」ファンガイアは納得した。
大きさは5センチ程度。半透明で丸くなっている芋虫のようなものが、そこにあった。
ファンガイアは手にとって観察してみる。
「三ヶ月くらいですかね。なんとまあグロテスクな。でも、こういうのが意外に珍味だったりするんですよね」
牙を突き立ててライフエナジーを吸うのも面倒なので、芋虫を口の中に放り込んだ。
口の中で遊ぶとブヨブヨとした柔らかな感触を舌で感じた。
噛み締めると芋虫は弾けて口の中を液体で満たした。
酸っぱい。
「あまり美味しくないですね。マズイ」
ファンガイアは何度か咀嚼した後、口の中のものをペッと粗末に吐き捨てた。グチャグチャになって原型を留めてない芋虫が女性の服に張り付いた。
「口直しでも探しましょう」
口元を拭うとファンガイアは新たな獲物を探し求めて歩き出した。
参考までに聞いとくけど、やってほしい妄想の他ライダーネタある?
芋虫って何かと思ったら赤ちゃんか……
オーズの錬金術師関連で何かやってほしいな
オーズの錬金術師関連で何かやってほしいな
五代さん、剣崎、映司の旅仲間交流とか
言いがかりつけられて事件に巻き込まれたたっくんをダブルの二人が解決して救うとか…どうよ
言いがかりつけられて事件に巻き込まれたたっくんをダブルの二人が解決して救うとか…どうよ
どういうことか分かんなかったが、
これ三か月の赤ちゃんが腹にいた妊婦を食ったってことか?
これ三か月の赤ちゃんが腹にいた妊婦を食ったってことか?
>>327
んで、胎児はライフエナジーを吸ったんじゃなくて物理的に咀嚼した
んで、胎児はライフエナジーを吸ったんじゃなくて物理的に咀嚼した
母親が体内の赤ん坊に栄養を送るようにライフエナジーも分け与えていたんだろうな
晴人が魔法使いになりたての頃の話なんてどうよ
最初からあんなスタイリッシュに戦ってた訳じゃないだろうし
最初からあんなスタイリッシュに戦ってた訳じゃないだろうし
最近のモンスタークレーマーの動きを見るに、クウガも今は放送出来ないんじゃないかな
速攻でBPOにクレーム入れられそうだわ
速攻でBPOにクレーム入れられそうだわ
>>333
クウガは当時からクレーム入ってたらしい
クウガは当時からクレーム入ってたらしい
殺し方が怖すぎてクレーム多数だったからアギトでは不可能犯罪に変わったんだよな
灰にする殺し方も「振り向くな!」ほどじゃないけど相当だよねえ。特に殺す寸前に心臓が燃えるシーンは絵面的にかなりショッキングだし
一番気に入っている殺し方はG4での肺から全部酸素抜けて溺死っぽくなるやつ。美しい
一番気に入っている殺し方はG4での肺から全部酸素抜けて溺死っぽくなるやつ。美しい
>>320
ミラーモンスター一同「食い物を粗末にするんじゃねえ![ピーーー]ぞ…!?」
ミラーモンスター一同「食い物を粗末にするんじゃねえ![ピーーー]ぞ…!?」
クウガは「バックします」が一番トラウマだわ…
一番日常で接することが多いだけに、地味にやばかった
一番日常で接することが多いだけに、地味にやばかった
ジャラジさんとベミウさん
特にベミウさんは一条さんの後ろで母親が子どもの名前を叫び、すがりながら救急車に乗り込むシーンがくるものがあった。
特にベミウさんは一条さんの後ろで母親が子どもの名前を叫び、すがりながら救急車に乗り込むシーンがくるものがあった。
俺はジャラジさんとベミウさん
特にベミウさんは一条さんの後ろで母親が子どもの名前を叫び、すがりながら救急車に乗り込むシーンがくるものがあった。
特にベミウさんは一条さんの後ろで母親が子どもの名前を叫び、すがりながら救急車に乗り込むシーンがくるものがあった。
食うだけ食っておいてマズイから吐き捨てるとかマジで人間を餌としか見てないんだな
原案>>322
雲ひとつない真昼の空には太陽がギラギラと輝いていた。
上からくる日光の熱と黒いアスファルトの反射熱。上下両方から全身を熱せられる。
暑い。とにかく暑い。
汗をかいた背中だけが冷たかったが、それはそれで下着が肌に張りついて不快だった。
むわっとした暑い空気にアスファルトの匂いが混ざっている様な気がして知らぬ間に吐き気が催してくる。
炎天下の元を歩く青年は少し先を見た。トンネルが見える。
良かった。これでしばらく太陽から逃げられる。
そう思うと暑さで重くなっていた足取りが僅かに軽くなった。早足でトンネルに入る。
トンネルの中は壁に白い灯りが等間隔で並んでいるだけで、思いのほか暗かった。
300メートル程の道は太陽の光から隔離されて、アスファルトから来る熱気も感じられない。
中を進むと風が吹いた。
トンネルに入る前のサウナみたいな環境でなら心地いいと感じられた風は、汗をかいた背中を冷やして青年に寒気を覚えさせた。
「ん?」
不意に青年は瞼に冷たさを感じて、反射的に上を向く。
何もないコンクリートの天井から雪が降っていた。
視界を覆いつくす白く冷たい粉。その美しさに青年は明らかな異常事態にも関わらず、しばらく放心した。
顔に落ちた雪が体温で溶けて肌を濡らす。顔を拭こうした。しかし、手は動かなかった。
異変に気づき慌てて見ようとしたら顔も動かない。その場を動こうとしても体は全く言うことを聞かない。
青年の全身は凍っていた。
唯一動かせるのは眼球だけだった。青年は目だけを使い必死に状況を把握しようとする。
すると正面の方から黒い人影が近づいてくるのが見えた。
いつの間にか降り積もった雪を踏みならしながら、それはやってくる。
灯に照らされた人影の顔は白熊のような顔をしていた。
白熊の怪物――ポーラーベアロードは右手の甲に左手で不思議なサインを切った。
ポーラーベアロードが低く唸ると青年へ襲いかかった。
白い怪物の拳が届く寸前、
死んでたまるか!
青年の想いに呼応するかのように青年の顔に黒い筋が模様になって浮かんだ。
青年は自分の姿を、自分の持っているもう一つの姿――ワスプオルフェノクへ変えた。
凍っていた体が動く。青年はポーラーベアロードを殴りとばした。
人と白熊を掛け合わせた生物的な怪物と無機質な彫刻のような外見をした灰色の蜂の怪物が対峙する。
ワスプオルフェノクは蜂の腹部を連想させるような槍を構えて猛然と突っ込んでいった。
ポーラーベアロードは横に転がり槍をかわした。
槍の先端が壁に突き刺さると煙を上げて溶けていく。
ワスプオルフェノクは毒の仕込まれた槍を機関銃のように素早く突く。
ポーラーベアロードは体をひねり、転がり、跳び、攻撃をかいくぐる。
一瞬の隙をついてワスプオルフェノクの懐に潜り込むと腰に備えていた斧で一閃した。
ワスプオルフェノクの変身が解けて、青年の姿に戻る。腹が真一文字に切り裂かれ血が流れていた。
青年は体を引きずるようにトンネルの出口を目指した。
これは悪い夢だ。だって、そうだろう? トンネルに入った途端にこんなことが起きたんだ。
だから、きっとトンネルを出ればこの悪夢は終わる。終わるに決まってる。
出口が、眩しい太陽の光が見えてくる。
ポーラーベアロードが咆哮した。大きく裂けた口から圧倒的な冷気が吐き出されブリザードとなって青年を凍りつかせた。
動かなくなった青年に近づいたポーラーベアロードは斧を勢いよく振った。
ガラスが砕け散るような派手な音がトンネルに響きわたる。
青年の全身がバラバラに砕けて飛んだ。
自らの使命を終えたポーラーベアロードは勝利の雄叫びを上げた。
雲ひとつない真昼の空には太陽がギラギラと輝いていた。
上からくる日光の熱と黒いアスファルトの反射熱。上下両方から全身を熱せられる。
暑い。とにかく暑い。
汗をかいた背中だけが冷たかったが、それはそれで下着が肌に張りついて不快だった。
むわっとした暑い空気にアスファルトの匂いが混ざっている様な気がして知らぬ間に吐き気が催してくる。
炎天下の元を歩く青年は少し先を見た。トンネルが見える。
良かった。これでしばらく太陽から逃げられる。
そう思うと暑さで重くなっていた足取りが僅かに軽くなった。早足でトンネルに入る。
トンネルの中は壁に白い灯りが等間隔で並んでいるだけで、思いのほか暗かった。
300メートル程の道は太陽の光から隔離されて、アスファルトから来る熱気も感じられない。
中を進むと風が吹いた。
トンネルに入る前のサウナみたいな環境でなら心地いいと感じられた風は、汗をかいた背中を冷やして青年に寒気を覚えさせた。
「ん?」
不意に青年は瞼に冷たさを感じて、反射的に上を向く。
何もないコンクリートの天井から雪が降っていた。
視界を覆いつくす白く冷たい粉。その美しさに青年は明らかな異常事態にも関わらず、しばらく放心した。
顔に落ちた雪が体温で溶けて肌を濡らす。顔を拭こうした。しかし、手は動かなかった。
異変に気づき慌てて見ようとしたら顔も動かない。その場を動こうとしても体は全く言うことを聞かない。
青年の全身は凍っていた。
唯一動かせるのは眼球だけだった。青年は目だけを使い必死に状況を把握しようとする。
すると正面の方から黒い人影が近づいてくるのが見えた。
いつの間にか降り積もった雪を踏みならしながら、それはやってくる。
灯に照らされた人影の顔は白熊のような顔をしていた。
白熊の怪物――ポーラーベアロードは右手の甲に左手で不思議なサインを切った。
ポーラーベアロードが低く唸ると青年へ襲いかかった。
白い怪物の拳が届く寸前、
死んでたまるか!
青年の想いに呼応するかのように青年の顔に黒い筋が模様になって浮かんだ。
青年は自分の姿を、自分の持っているもう一つの姿――ワスプオルフェノクへ変えた。
凍っていた体が動く。青年はポーラーベアロードを殴りとばした。
人と白熊を掛け合わせた生物的な怪物と無機質な彫刻のような外見をした灰色の蜂の怪物が対峙する。
ワスプオルフェノクは蜂の腹部を連想させるような槍を構えて猛然と突っ込んでいった。
ポーラーベアロードは横に転がり槍をかわした。
槍の先端が壁に突き刺さると煙を上げて溶けていく。
ワスプオルフェノクは毒の仕込まれた槍を機関銃のように素早く突く。
ポーラーベアロードは体をひねり、転がり、跳び、攻撃をかいくぐる。
一瞬の隙をついてワスプオルフェノクの懐に潜り込むと腰に備えていた斧で一閃した。
ワスプオルフェノクの変身が解けて、青年の姿に戻る。腹が真一文字に切り裂かれ血が流れていた。
青年は体を引きずるようにトンネルの出口を目指した。
これは悪い夢だ。だって、そうだろう? トンネルに入った途端にこんなことが起きたんだ。
だから、きっとトンネルを出ればこの悪夢は終わる。終わるに決まってる。
出口が、眩しい太陽の光が見えてくる。
ポーラーベアロードが咆哮した。大きく裂けた口から圧倒的な冷気が吐き出されブリザードとなって青年を凍りつかせた。
動かなくなった青年に近づいたポーラーベアロードは斧を勢いよく振った。
ガラスが砕け散るような派手な音がトンネルに響きわたる。
青年の全身がバラバラに砕けて飛んだ。
自らの使命を終えたポーラーベアロードは勝利の雄叫びを上げた。
「面白いね」
するとトンネルの出口から別の人物がやってきた。
その人物はパーマをかけた髪と着崩れたシャツにズボンだけというラフな出で立ちの少年だった。
「何か面白いことを探してたんだけど、ちょうど良かった」
まだ幼さが残る顔つきの少年が無邪気に笑った。
ポーラーベアロードは少年から先ほど殺したワスプオルフェノクと同様の力を感じた。
人でありながら人ならざる力。あってはいけない力。自分の主が望まれない力。
つまり抹殺の対象者。
ポーラーベアロードは再びサインを切ると一瞬で少年に近づき、斧を振り下ろした。
少年は斧を片手で掴んで受け止めて、そのままポーラーベアロードを斧ごと投げ飛ばした。
歩道と車道を隔てる鉄柵にポーラーベアロードの体が叩きつけられる。激突の衝撃で鉄柵はグニャリと歪んだ。
少年の力は明らかにワスプオルフェノクの力を凌駕したものだった。
それも圧倒的に。
ポーラーベアロードはヨロヨロと体勢を立て直して斧を構えた。
瞬間、斧が灰になって崩れ落ちた。
ポーラーベアロードは何が起きたのか理解できないのか自分の手元を見つめた。
「ねえ、君は何なの? 僕、知りたいなあ」
少年の体が青白く光り、ドラゴンオルフェノクへと姿を変えた。
その禍々しい姿が醸し出す圧倒的な恐怖にポーラーベアロードは戦慄した。
無我夢中で必殺のブリザードを吐く。
凄まじい威力を秘めた白い暴風が吹き荒れて、トンネルの中を凍らしていく。
「きれい……」
だが、ドラゴンオルフェノクはブリザードの中で起きる雪の軌跡を見送りながら悠然と歩いてくる。
ポーラーベアロードの攻撃が一切効いていないのだ。
龍の頭のような形をしたドラゴンオルフェノクの腕が獲物に食らいつくようにポーラーベアロードの首を掴みあげた。
片手で獲物を持ち上げて、ドラゴンオルフェノクは空いた手で獲物にパンチを叩き込む。
突き立てられた龍の牙が皮膚も肉も骨も容赦なく貫き、獲物の腹部に次々と大きな風穴を開けていく。
やがて、獲物の下半身がボトリと落ちた。その下半身も斧と同じように灰になって道路に撒き散った。
「ねえ、教えてよ。君は何なの?」
少年の姿にもどったドラゴンオルフェノクはポーラーベアロードの顔に両手を添えて観察するように言った。
手が触れた所から灰が落ちてき、ポーラーベアロードの白い顔面を灰色に汚していく。
声にならないうめき声をあげるポーラーベアロードの頭上に光のリングが現れた。
そしてポーラーベアロードの全てが灰になって崩れ落ちた。
その最後を見て、少年はポーラーベアロードの正体が分かったような気がした。
・
・
・
地下にあるバー『クローバー』に備えられたカウンター席に少年は腰を下ろしていた。
酒を飲める年齢ではないが、少年はバーの落ち着いた雰囲気を楽しんでいる。
「ご機嫌ね、北崎くん」
カウンターの向かいで立っている色白の、切れ長な目をもつ女が艶然とした笑みを浮かべて聞いてきた。
クローバーのオーナー兼バーテンダーである影山冴子だ。
「今日はいいことがあって、天使に会えたんです」
「天使?」
「ええ。頭に光の輪があって綺麗でした。やっつけたけど」
その言葉を聞いて冴子は苦笑した。
「神の御使いである天使も北崎くんの前では形無しということね」
「僕は世界で一番強いから」
なんの疑いもなく北崎は言い切る。
「そうだ、冴子さん。天使の名前がついたカクテルないですか? あったら、今日はそれを奢ります」
「勿論あるわよ。いつもありがとう」
注文を承った冴子はカクテルを作り始める。シェーカーを振る冴子の姿を見ながら北崎は呟いた。
「また会えるかなあ……」
するとトンネルの出口から別の人物がやってきた。
その人物はパーマをかけた髪と着崩れたシャツにズボンだけというラフな出で立ちの少年だった。
「何か面白いことを探してたんだけど、ちょうど良かった」
まだ幼さが残る顔つきの少年が無邪気に笑った。
ポーラーベアロードは少年から先ほど殺したワスプオルフェノクと同様の力を感じた。
人でありながら人ならざる力。あってはいけない力。自分の主が望まれない力。
つまり抹殺の対象者。
ポーラーベアロードは再びサインを切ると一瞬で少年に近づき、斧を振り下ろした。
少年は斧を片手で掴んで受け止めて、そのままポーラーベアロードを斧ごと投げ飛ばした。
歩道と車道を隔てる鉄柵にポーラーベアロードの体が叩きつけられる。激突の衝撃で鉄柵はグニャリと歪んだ。
少年の力は明らかにワスプオルフェノクの力を凌駕したものだった。
それも圧倒的に。
ポーラーベアロードはヨロヨロと体勢を立て直して斧を構えた。
瞬間、斧が灰になって崩れ落ちた。
ポーラーベアロードは何が起きたのか理解できないのか自分の手元を見つめた。
「ねえ、君は何なの? 僕、知りたいなあ」
少年の体が青白く光り、ドラゴンオルフェノクへと姿を変えた。
その禍々しい姿が醸し出す圧倒的な恐怖にポーラーベアロードは戦慄した。
無我夢中で必殺のブリザードを吐く。
凄まじい威力を秘めた白い暴風が吹き荒れて、トンネルの中を凍らしていく。
「きれい……」
だが、ドラゴンオルフェノクはブリザードの中で起きる雪の軌跡を見送りながら悠然と歩いてくる。
ポーラーベアロードの攻撃が一切効いていないのだ。
龍の頭のような形をしたドラゴンオルフェノクの腕が獲物に食らいつくようにポーラーベアロードの首を掴みあげた。
片手で獲物を持ち上げて、ドラゴンオルフェノクは空いた手で獲物にパンチを叩き込む。
突き立てられた龍の牙が皮膚も肉も骨も容赦なく貫き、獲物の腹部に次々と大きな風穴を開けていく。
やがて、獲物の下半身がボトリと落ちた。その下半身も斧と同じように灰になって道路に撒き散った。
「ねえ、教えてよ。君は何なの?」
少年の姿にもどったドラゴンオルフェノクはポーラーベアロードの顔に両手を添えて観察するように言った。
手が触れた所から灰が落ちてき、ポーラーベアロードの白い顔面を灰色に汚していく。
声にならないうめき声をあげるポーラーベアロードの頭上に光のリングが現れた。
そしてポーラーベアロードの全てが灰になって崩れ落ちた。
その最後を見て、少年はポーラーベアロードの正体が分かったような気がした。
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地下にあるバー『クローバー』に備えられたカウンター席に少年は腰を下ろしていた。
酒を飲める年齢ではないが、少年はバーの落ち着いた雰囲気を楽しんでいる。
「ご機嫌ね、北崎くん」
カウンターの向かいで立っている色白の、切れ長な目をもつ女が艶然とした笑みを浮かべて聞いてきた。
クローバーのオーナー兼バーテンダーである影山冴子だ。
「今日はいいことがあって、天使に会えたんです」
「天使?」
「ええ。頭に光の輪があって綺麗でした。やっつけたけど」
その言葉を聞いて冴子は苦笑した。
「神の御使いである天使も北崎くんの前では形無しということね」
「僕は世界で一番強いから」
なんの疑いもなく北崎は言い切る。
「そうだ、冴子さん。天使の名前がついたカクテルないですか? あったら、今日はそれを奢ります」
「勿論あるわよ。いつもありがとう」
注文を承った冴子はカクテルを作り始める。シェーカーを振る冴子の姿を見ながら北崎は呟いた。
「また会えるかなあ……」
没ネタに養護施設にいる子供のオルフェノクがポーラーベアロードに狙われるけど、それを施設の職員である三原がデルタに変身して、
かつて居場所がなかった三原が、誰かの居場所を守るために戦うというのがあったけど長くなるから変えた
かつて居場所がなかった三原が、誰かの居場所を守るために戦うというのがあったけど長くなるから変えた
>>348
なにそれ気になる
なにそれ気になる
>>349
今回の投下だとラキクロ存命だから作中の時間軸っぽくしてあるけど没ネタでいくと10年後の現代設定にしてあった
戦闘中に三原のオルフェノクの記号の影響でデルタの変身が解除されて、ピンチ!
その時に海堂(巧ではない)がやってきて海堂デルタとかやる予定もあった
今回の投下だとラキクロ存命だから作中の時間軸っぽくしてあるけど没ネタでいくと10年後の現代設定にしてあった
戦闘中に三原のオルフェノクの記号の影響でデルタの変身が解除されて、ピンチ!
その時に海堂(巧ではない)がやってきて海堂デルタとかやる予定もあった
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