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    元スレさやか「全てを守れるほど強くなりたい」

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    101 :


    授業も終わり、待ちに待った放課後。

    学校の固い椅子は、さやかちゃんのやわらかヒップには合わないのですわ。


    さやか『マミさんの魔女退治見学、いきますか!』

    まどか『うん!』


    よし、と意気込んで、剣道用具を詰め込んだ鞄を肩にかける。


    まどか「……部活?」

    さやか「ううん?」

    まどか「……」


    もってくんだ……と、まどかの顔が優しげに呆れていた。

    本当は顧問に謝ろうと思って持ってきたんだけど、勇気が出ないのでやめておいたのである。


    仁美「あら、さやかさん、部活へ?また明日」


    私の姿を見た仁美は朗らかに手を振って去ってゆく。

    一緒に帰れない言い訳をせずに済んでよかったけど、部活復帰しなくてはならなくなったのではないか、これは。


    さやか「ま、いっか」

    まどか「何が?」

    102 = 101 :


    「暁美さん」

    「今日こそ帰りに喫茶店寄ってこう」


    教室の片隅では、支度を済ませたほむらに再び女子が群がっていた。

    やっぱり可愛い子には、何度かのアプローチをかけるようだ。


    ほむら「今日もちょっと、急ぐ用事があって……ごめんなさい」


    けどもうそろそろ、ほむらを誘うことも諦めそうである。

    本人の意思だしとやかく言うことではないんだけど、このままいくと、彼女は孤立してしまいそうだ。

    自分からそうなろうとしているんだろうけど……。


    さやか(友達想いなんだか、違うんだか)

    まどか「さやかちゃん?」

    さやか「ごめん、行こっか」


    約束の場所は、マミさんと初めて会ったモールのファストフード店だ。

    早めに向かって、わかりやすい席で待っていよう。

    103 = 101 :


    マミ「あら、来たわね、こっちよ」


    ショップに入ると、既にマミさんは座っていました。

    ちょっと早くないですか、マミさん。


    まどか「遅れてごめんなさい」

    マミ「いいわよ、まだ約束の時間でもないしね、私が早く来ただけよ」

    さやか「あはは、次からは30分前に来てテーブルを掃除してます」

    まどか「体育会系とはちょっと違うんじゃないかな、さやかちゃん……」


    小腹満たしに頼まれたバーガーを小突きながら、今日これからの本題へ突入する。


    マミ「さて、それじゃ魔法少女体験コース第一弾、張り切っていってみましょうか、準備は良い?」

    さやか「おう!」

    まどか「は、はいっ」

    マミ「ふふ、良すぎるくらいね」

    104 = 101 :


    さやか「そうだマミさん、ちゃんとこんなのも持ってきたんですよ、ほら」


    鞄からずるりと取り出す、一本の竹刀。


    さやか「聖剣ミキブレード」

    まどか「本当にセット持ってきたんだね……」

    さやか「何も無いよりはマシかなって思って」

    マミ「まあ、そういう覚悟でいてくれるのは助かるわ」


    けど何故に苦笑いなんです?マミさん。


    さやか「まどかもそんなのほほんな顔してるけどー、何か持ってきたの?」

    まどか「え、えっと、私は……」


    躊躇の表情。

    だんまりではなく焦燥。意味はわからないが、何か持ってきたようだ。


    まどか「笑わないでね?」

    さやか「うむうむ」

    マミ「何かしら、ふふ」


    マミさん既に笑ってます。

    106 :

    オツデスヨ

    108 :

    おつ

    109 :

    http://www.youtube.com/watch?v=eSPjPJwF__A

    110 :


    開かれるキャンパスノートならぬ、キャンバスノート。

    昨日迷い込んだ魔女の結界とタメを張れるほどファンシーで、パステルな世界が、ここに広がっていた。


    そこには魔法少女姿のマミさん、そして……やたらとキュートでプリティな意匠のまどかがいる。


    マミ「うふふっ」

    さやか「あーっはっはっはっ!」

    まどか「えっ、ええっ!」

    マミ「ご、ごめんなさい、意気込みとしては十分ね」

    まどか「ひ、ひどいですよお」

    さやか「あはは、いやぁー、でも良いんじゃないこれ」

    まどか「本当に思ってる!?さやかちゃん!」


    怒った顔に一切の迫力を感じないところはお父さん譲りなのかもしれない。


    さやか「いやぁ、うん、もちろん思ってるって!」

    まどか「怪しい!」

    さやか「形から入るのは大切だしさ!何だってね!」

    まどか「…ぅう」


    型を覚えずに剣道をやってきて強くなった私の、心からの本音だった。

    形から、っていうのは、意外と大事。

    112 = 109 :

    >>109
    あ、いけねすみませんこれ誤爆です
    ライダースレに貼ろうと思ってたやつです

    113 = 110 :


    学業から非日常への転換。

    休憩と覚悟は終わり、私たちは町へ出た。


    先頭にマミさん、その後ろを私とまどかが着いてゆく。


    マミ「これが昨日の魔女が残していった魔力の痕跡」


    黄色い光を発するマミさんのソウルジェム。

    一定間隔で灯りは幻想的に、ぼんやりと明滅する。



    マミ「基本的に、魔女探しは足頼みよ」

    さやか「……この光が早く点滅すると」

    マミ「そう、魔女が近いってわけ」

    さやか「うひゃー、大変ですねえ」


    ガイガー片手に探しているようなものだ。

    広い見滝原を、こんな途方も無い方法で探すだなんて。


    マミ「こうしてソウルジェムが捉える魔女の気配を辿ってゆくわけ」

    さやか「地味ですね……気が遠くなりそう……」

    マミ「ふふ、そうね……でも近くに魔女がいないっていうのは、とても良いことなのよ」


    それもそっか。

    114 = 110 :


    さやか「光、全然変わらないっすね」

    マミ「取り逃がしてから、一晩経っちゃったからね」


    もう随分と歩いて、空も茜の気配を帯びてきた。


    さやか「まどか、脚大丈夫?」

    まどか「うん」


    やっぱりまどかも疲れているようだ。

    足取りもどこか重く、歩くたびに踵を擦りかけている。


    マミ「魔女の足跡も薄くなってるわ」

    さやか「まだ遠いのかぁ……」

    まどか「あの時、すぐ追いかけていたら…」

    マミ「仕留められたかもしれないけど、あなたたちを放っておいてまで優先することじゃなかったわ」

    まどか「ごめんなさい」

    マミ「いいのよ」


    あの時追いかけていれば。ほむらの事もあるのだろう。

    彼女がいてもいなくても、私たちはお荷物だったというわけだ。

    言い方が悪いか。


    さやか「マミさん、あの時は本当にありがとうございました」

    マミ「ふふ、改まらなくても」

    さやか「いえ、こういう大事なことは、心から感謝したいです」

    マミ「……やだ、ちょっと気恥ずかしいわねっ、ふふ」


    先を歩くマミさんの歩調が、少しだけ速くなった。

    117 :

    さやかちゃん

    118 :


    さやか「マミさん」

    マミ「何かしら」

    さやか「ソウルジェムの灯りだけじゃなくて、他に探す手立てっていうか、目星とか、無いんですか」

    マミ「見当をつける、って意味では、探す場所を最初に絞ることができるわ」


    マミ「住宅地なんかではあまり見ないけど、人が多い繁華街や、逆に人気の無い廃墟では多いかな」

    さやか「繁華街、廃墟……」

    マミ「両方とも人の感情に大きく影響される場所だからね」


    なるほど。なんとなく、フィーリングでわかったので頷いておく。


    マミ「交通事故、傷害事件…人あるところには魔女がいるもの」

    マミ「そこがひとまずは最優先になるけど、いなければ人気のない所を探すわ」

    まどか「はぁー……」


    斜陽が影を伸ばしてゆく。

    119 = 118 :


    寂れたビル街には通行人もいない。

    工場と小さな廃屋が並ぶ、ちょっと気味の悪い所だ。

    見滝原に住んでいても、なかなかこんな場所にまで来ることは無い。


    まどか「ここに魔女、いるのかな……」

    マミ「反応は強くなってるわ」

    まどか「本当だ」

    さやか「!」


    手の上のソウルジェムを見る。

    点滅の強さは劇的な変化だったが、嫌な予感に上を向く。

    120 = 118 :


    それは髪と裾を風に揺らす影だった。

    人。

    屋上に見えた全体像に、見下ろしているわけではないということはすぐにわかった。


    さやか「マミさん、上に人が!」

    マミ「!」



    指で示した先には、若いOLが足元をふらつかせている。

    あんな高い場所にいるというのに、目は地平線だけをぼんやり眺めている。

    正気の沙汰とは思えない。



    まどか「あ、危ない……!」


    周りを見る。

    コンクリートの地面。オフィスビルは高い。落ちれば即死だ。

    持ち物は竹刀、剣道セット、制服、携帯……何も使えない。




    さやか「マミさん!」

    マミ「任せて」


    黄金の光がマミさんを包み、輝き収まる前に、魔法の帯はビルへと伸びた。

    121 = 118 :


    柔らかなリボンはOLさんの落下を受け止め、緩やかな動きで地上へ降ろした。


    まどか「マミさん……」

    マミ「大丈夫、気を失っているだけよ」

    さやか「……よかったぁ」


    眠るような表情。落ちる最中で気絶してしまったんだろう。


    さやか「可愛そうに」


    髪を撫で、整える。血色の悪い人ではなかった。


    さやか「……ん、マミさん、首もとになにか」

    マミ「魔女の口付けね、やっぱり」

    さやか「魔女の口付け?」

    マミ「魔女が人につける、……標的の印、みたいなものよ」

    さやか「……」


    口付けをさする。


    マミ「この人は気を失っているだけ、大丈夫、行きましょう」

    さやか「……はい」


    この人は、今まさに死にかけた。

    私はそのことを噛み締め、廃屋に歩を進めるマミさんの後を追った。

    122 = 118 :



    マミ「準備は良い?」

    まどか「は、はい」


    さやか「……」

    まどか「……さやかちゃん?」

    マミ「美樹さん、どうかした?」

    さやか「あ、いえ、なんでもないっす」


    竹刀を握る手に力が入りすぎていた。

    いけないいけない、こんな精神じゃ。


    常に平静な心を保つんだ。取り乱さず、悲観せず、後悔しない。

    そのためによく考え、よく見極め、自己を貫く。


    私は大事なことを教わったじゃないか……。


    ばちん、と両掌で頬を叩き潰す。


    マミ「あう、美樹、さん?」

    さやか「さっきのがちょっとショックでした、もう大丈夫……行きましょう」

    マミ「……ええ、そうね、早く片付けてしまいましょう」


    私はマミさんの後に続き、奇妙な鏡のような空間の裂け目に踏み込んでいった。



    まどか(…さやかちゃんはいつも自分に正直で、自分のことをよくわかってる)

    まどか(マミさんには、きっとさやかちゃん、不安定なように見えたのかもしれないけど……)

    まどか(……きっと、自分に漠然と、鈍感なだけで……私のほうがもっと、不安なんだ)

    123 = 118 :


    まどか「ふわぁー……」


    赤と黒のマーブル模様が空を流れる。

    他にもこの空間を言い表す言葉はいくらでもあるんだけど、中止すればするほど眼がチカチカする……。


    さやか「あ」


    風景の中に、ひときわ動きの強いものを見つけた。

    それは真っ白な体、立派な黒いお髭の……。


    さやか「まどか、下がって!」

    まどか「えっ!?」


    左手でまどかを押しやり、前に出る。

    ぐちゃぐちゃの茨の壁の上から、蝶の翅の使い魔が飛んできたのだ。


    右手に握った竹刀の先を使い魔の額のやや上に合わせる。

    左手を沿え、小指から順に握る。


    私の精神はそこで落ち着いた。飛んでくる未確認生物が、ただのボールのようにも思えた。

    正面から飛んでくるボールは速球かもしれないし、変化球かもしれない。そのどちらでも構わない覚悟はできた。


    精神的には相手をギリギリまでひきつける。反面、体はすり足で前に出た。

    相手がいつ軌道を変えるかわからない、ならば早く前へ。

    そして叩くならば、より強く。


    相手側の五十の速さだけで叩くよりも、こちらが近づく五十の速さを合わせ、百で叩くんだ。


    さやか「……!」


    私は前へ踏み込んだ。声は出さない。

    この激しさはまだ、剣だけに込められる。


    踏み込みと同時に竹刀が上へ上がる。

    切っ先が、時計回りに正面から来たる相手を避ける。


    崩れた右の下段が形作られた時には、髭のボールはカーブ気味に軌道を逸らし、私の左肩を狙っているらしかった。


    そこは既に、私の切っ先が届く範囲。


    さやか「ハァッ!」


    斜め下からの型破りな袈裟斬りが炸裂した。

    124 = 118 :


    さやか「……」


    手ごたえだけでも、空を斬ったことはわかった。


    マミ「無茶をしては駄目よ?」

    さやか「あー……」


    振り向けば、ジェームズ・ボンドのように自然体でマスケット銃を構えるマミさんが。


    さやか「ごめんなさい」

    マミ「けど、私が気付いていなかったら……そう考えると、良かったわ、美樹さん」

    さやか「……へへ」


    竹刀を下ろす。

    剣を振って怒られることはいくらでもあったけど、ほめられたのは久しぶりだ。


    マミ「けれど、普通の竹刀では2体目で折れても不思議ではないわ……魔女と戦うには、魔法少女の力がないとね」


    の黄色いリボンが竹刀をしゅるりと包み込み、輝く。


    マミ「気休めにはなるけれど、私のそばを離れないでね?」

    さやか「おおっ」

    まどか「わぁ」


    リボンがほどけた後の私の竹刀は、綺麗な白磁の模造刀へと進化を遂げていた。


    さやか「す、すごいすごい!ミキブレードが真の姿にっ!」


    金の装飾もゴージャスで綺麗。西洋の偉い騎士が持っている剣よりも、よっぽど強そうに思えた。


    マミ「どんどん先へ進むわよ」

    さやか「はい!」

    まどか「は、はいっ」

    125 = 118 :


    強くなった竹刀を意気揚々と強く握り締め、マミさんのあとをついてゆく。


    戦うマミさんの姿は、美麗。その一言に尽きた。

    長いマスケット銃を取り回し、引き金を引けば、必ず一匹の使い魔を打ち抜いた。

    近づきすぎた(それでも3mは外の)敵は、マミさんから伸びるリボンによって切り裂かれる。


    昔やったゲームの、ラスボスを倒したときに使えるようになるキャラクターを思い出した。

    使えば無敵。そんな光景だった。


    マミさんが一体の敵を打ち抜くごとに、私の剣を握る手はどんどん弛緩する。

    それは美しい戦いに見惚れているところもあるかもしれない。


    けどもう一方で、あまりにも無力すぎる自分に脱力していたのかも、しれなかった。


    さやか(……って、バカだよね)


    剣を習ってから、この道では一端なりの自信があった。

    物理的な強さをある程度舐めたつもりでいたのだ。

    事実、いざとなれば、襲い来る悪漢から誰かを守れるくらいにはなっていたのに。


    魔法少女、そして魔女。この二つが関わっただけで、私の剣術なんて、とんでもなく無力な存在だった。


    どこかで役に立てると、心の片隅で思っていた自分がバカらしくなる。


    まどか「さやかちゃん……?」

    さやか「ん?どした?」

    まどか「ん……なんでもない」

    マミ「そろそろ最深部よ、しっかりね」

    126 = 118 :


    マミ「見て、あれが魔女よ」


    廊下の先には、広い空間が広がっていた。

    ここまでの道のりも随分荒れ放題ではあったけど、さすがにここから飛び降りることはできないだろう。



    「うじゅじゅじゅ……」

    さやか「げっ……」


    空間の中央で鎮座していたそいつは、使い魔とは比べようもない巨躯の、どろどろした頭の“何か”だった。

    おそよ一言、二言では説明のしようがない、混沌たる姿。



    さやか「グロ……」


    そんな表現で落ち着いた。


    まどか「あんなのと戦うんですか……?」

    マミ「大丈夫」


    けれど、マミさんの表情は今までとなんら変わらず、何より一層の自信が浮かんでいるように見えた。


    マミ「負けるもんですか」



    単身、マミさんは空間へと降り立った。

    127 = 118 :



    前へ前へ、魔女に近づいていく。マミが歩み寄るにつれ、魔女の体躯の大きさがはっきり見えてきた。

    あれは……相当デカい。

    私が握る剣でどうにかできるレベルの相手でないことは、本能的にわかる。


    まどか「マミさん……」


    まどかが私の服を掴む気持ちも良くわかった。




    マミ「さあ、始めましょうか?」


    靴が小さな使い魔を踏み潰したそれが、戦いの始まりだった。


    「うじゅじゅじゅ!」


    相手からしてみたら、ちゃぶ台をひっくり返すくらいの労力なのかもしれない。

    けど人にとってその“椅子の放り投げ”は、金属コンテナの投擲並みのダイナミックさと、死の気配を感じさせた。


    マミ「甘いわね」


    私たちの方が心臓を鷲掴みにされた気分だったが、マミさんはこの空間で一番穏やかな心の持ち主だった。

    人には不可能な高さで跳び、すばやくリボンを展開してマスケット銃を取り出す。


    数は4挺、うちの二本を掴み、手を伸ばすと同時に撃ち放つ。


    光弾は緑色のゲル状の頭にクリーンヒットし、その様は高速道路トラックが大きな水溜りを踏みつける場面を想像させた。



    さやか(……けど)

    マミ「効かないか」


    魔女の頭部が再生していく。

    ゲル状の頭は、裂傷も刺傷も関係なく修復するだろう


    一発目のマスケットを棄てて、二発目を握ったマミさんは、その狙いを近づく使い魔たちに変更。


    空中で冷静に狙いを定め、着地と共にすばやく場を変える。

    128 = 118 :


    マミ(頭が駄目なら胴体だけど?)


    円形の戦場を駆け、魔女からの茨攻撃を避けるマミさん。

    その間にも彼女のリボンは、場に張り巡らされていた。


    蜘蛛の巣。そう見えた。


    マミ「そろそろ私に手番を下さる?」


    走るマミさんが、張られたリボンの一端を掴み、引っ張った。


    するとどうなっていたのか、連動するようにして空間の天井が崩れ、その真下の魔女へコンクリート片を落下させる。

    人間なら即死だったかもしれない落石。けれど魔女はまだ生きている。


    さやか(あ、そうか)


    違う、それだけじゃない。

    マミさんは引き抜いたリボンを、次々にマスケット銃へ変えてゆく。


    その数6挺。


    マミ「行くわよ」


    リボンが4挺のマスケットを真上に跳ね上げる。

    銃に気を取られた魔女が、頭を上へ持ち上げる。


    全ては計算済みだ。


    マミ「そこ」


    ドウン、ドウン。

    二発は容赦なく、魔女の胴体に叩き込まれた。

    頭部とは違い、真っ白な衣のような胴体には、固形の弾痕が刻まれた。



    「ビギィイイイイ!」


    さやか「効いてる!」

    まどか「マミさんがんばって!」

    129 = 118 :


    マミ「いけるわね」


    激昂する魔女の攻撃の手は強まる。

    四方から迫る茨を避け、マミさんは攻撃の隙を伺っているようだ。


    だが魔女も魔女。隙を見せなかった。

    ゲル状の頭部をマミさんの方向から離さないのだ。


    頭を盾に、体を守っている。

    最初は露骨な動き隠すために自然体でいた魔女だけど、ついに本性を現したのだ。


    「ギィイイイイイッ!」



    茨の攻撃は休むことを知らない。

    鞭のようにしなり、マミさんのいた空間を強く叩き、床を砕く。

    防戦一方のようにも思えた。



    さやか(……けど)

    マミ「忘れたのかしら、まだ四つも撃ってない」



    逃げ回るだけのように見えたマミさんが、不意にリボンを伸ばした。


    リボンは魔女の茨を一本を断ち切り、かつ、まだ伸びる。



    そうして地のスレスレ、床に落ちかけたマスケット銃4つをキャッチする。

    リボンは器用に絡まり、銃を固定し、引き金すらも締め付ける。



    「……!」


    魔女が顔を動かす前に、光弾はマミさんとは全くの別方向から放たれた。

    130 = 118 :


    魔女の体がびくりと跳ねた。

    4発全てが胴体に命中。その衝撃によるものだった。



    マミ「やったか」

    さやか「あ、それだめ……」


    一瞬は沈黙した魔女が飛び起きる。


    マミ「きゃっ」


    それだけで、辺りに飛び交っていた“無力”だと思われていた使い魔たちが群れになり、列を成し、それが黒く細い茨となってマミさんの足元を掬い取った。

    宙吊り。そんな、絶望的な体勢。



    まどか「マミさーん!」

    マミ「なーんてね」


    円形の戦場に張り巡らせたリボンが、意思を持ったように動き始めた。

    互いに空中で蛇行し、亀甲縛りを形成しながら魔女のほうへ狭めていく。


    マミ「未来の後輩に、あんまり格好悪いところ見せられないもの」

    「ギッ……!」

    さやか「すごい……!」


    黄色いリボンのフェンスはあっという間に、容易く魔女を床に拘束してみせた。


    マミ「惜しかったわね」


    いつの間にか足に絡まる茨を切り離したマミさんが宙で返る。

    そしてリボンを手にし、本日最大の大技を展開して見せた。

    131 = 118 :


    螺旋を、筒を描くリボン。

    光り、形を成す。


    それはまさに大砲。

    そんなものを空中で、どうやって撃つつもりなの?



    マミ「ティロ……」


    抱えてる……。


    マミ「フィナーレッ!!」



    言葉と共に勢い良く落ちたハンマーが魔法の火花を散らし、筒は光線を吐き出した。

    光の砲弾はまっすぐ魔女の背中か腹部かを貫き、一瞬それが膨らんだかと思いきや、爆発した。


    デフォルメされたバラの花びらが空間を舞う。

    砕けた茨が散る。


    ティーカップとコースターが落ちた、そこには――


    マミ「ふう」


    余裕の、一息。


    マミ「……ふふ」

    さやか「!」


    そして、どこまでも優美な笑顔だった。

    134 :

    マミさんすごい!

    135 :


    まどか「すごい…」

    さやか「……」


    異空間は掠れて揺らぎ、もとの寂れたオフィスへと変わる。

    と共に、宙から小さな石が降りてきた。


    まどか「これは……」

    マミ「これがグリーフシード、魔女の卵よ」

    さやか「卵……」


    つまりは魔女の大元だ。


    マミ「運が良ければ、時々魔女が持ち歩いてることがあるの」

    さやか「運が良ければって……」

    QB「大丈夫、その状態では安全だよ。むしろ役に立つ貴重なものだ」

    まどか「そうなの?」

    マミ「ええ、何に役立つかっていうと……」


    マミさんが自分のソウルジェムを小さく掲げて見せた。


    マミ「私のソウルジェム、夕べよりちょっと色が濁ってるでしょう?」

    さやか「そうですね」


    どこか黒い色が混ざっているようにも見える。

    光の象徴のように輝く黄色の中に沈む黒は、どこか妖しく、不吉だ。


    マミ「でも、グリーフシードを使えば、ほら」

    さやか「あ、キレイになった」

    マミ「ね?これで消耗した私の魔力も元通り、前に話した魔女退治の見返りっていうのが、これ」


    ソウルジェムをグリーフシードで浄化、魔力を回復させる。

    魔力が無くなったらどうなるんだろう。魔法が使えない?

    136 = 135 :


    ひゅ、と、マミさんの投げたグリーフシードが空を切った。

    もしやそれも魔法少女に必要な儀式か何かだろうか?とそちらへ顔を向けて、理解する。


    ほむら「……」


    グリーフシードを受け取ったほむらが、建物の影から姿を出す。

    魔法少女の姿は少なからず、私たちに緊張を与えた。


    マミ「あと一度くらいは使えるはずよ、あなたにあげるわ、暁美ほむらさん?」

    ほむら「……」

    マミ「それとも、人と分け合うのは不服かしら」



    ほむらは不機嫌そうに眉を吊り、まどかは私の腕にすがった。

    マミさんは明らかにほむらを敵視している。


    私はほむらの心境を想った。

    少しだけ、切なくなった。

    138 :

    今日は終わりか?

    140 :

    素直なさやかちゃん可愛い

    141 :


    さやか「ちょっと待ってください」


    考えるよりも先に体が動いてしまった。

    やってしまった、と思った。


    マミ「どうしたの?危ないわよ、美樹さん」


    ほむらとマミさんの間に割って入った私への、真剣な注意だった。

    その本気が冷たく、私は嫌だった。

    だって二人の間にいることがいけないということは、危ない何かが行われる……かもしれないから。


    わかってる。だからこそ嫌だった。


    さやか「だって、そんなのおかしいですよ、確かにほむらはマミさんの友達のその、キュゥべえを虐めたかもしれないけど」

    QB「事実だよ」

    さやか「だけどそれは私達の身の安全を考えてたからこそなんじゃ、ないですか」

    ほむら「……」

    マミ「楽観しすぎよ……もしそうなら、魔女が現れる前にキュゥべえを攻撃なんてしないもの」


    そもそもこの子を傷つけるなんてやりすぎだけどね、と付け加えた。

    鋭い目のマミさんは怖かった。その魔法少女の姿も威圧感があった。けれど、私は引き下がるわけにはいかない。


    さやか「攻撃しなきゃいけない理由があったんでしょ?ほむら、」

    ほむら「……」

    さやか「うん……そうだよ、だって私達を魔法少女にしたくないなら、わざわざキュゥべえでなくても、私達自身をどうにかすれば良いんだもん、でしょ?」

    ほむら「!」


    ほむらのまぶたがわずかに動いた。

    反応があるということは!


    さやか「ねえほむら、」

    ほむら「話すことは何も無いわ」


    カチッ


    さやか「え!?」

    マミ「!」

    まどか「あ、あれ?」



    忽然と、ほむらの姿は消えてしまっていた。

    まるで、そこにいたのが嘘であったかのように。

    142 = 141 :


    「……あれ、私は……?」


    目を覚ましたOLさんが額に手を当て、熱を探る。


    「や、やだ、私、なんで、そんな、どうして、あんなこと……!?」

    マミ「大丈夫、もう大丈夫です」


    こうして、今日の魔女退治見学は、ハッピーエンドで落ち着いたのであった。

    誰も傷つかなくて、本当に良かった。


    さやか(けど……)


    心残りはある。

    孤立したほむらだ。

    部外者の私がこんなことをいうものではないけど、それでもどこか切なくなる。


    どうしてだろう。


    マミ「ちょっと、悪い夢を見てただけですよ……」

    OL「ぅぁあっ……私っ……!」


    まどか「……ふふっ、さやかちゃん、帰ろっか」

    さやか「そう、だね」


    一件落着、なんだろうか。

    私の胸の奥につかえた違和感は、結局最後まで取れる事はなかった。


    ……あ。

    竹刀、消えちゃったよ……。

    部活、もうだめだなぁ……いや、最初からあんまり乗り気じゃなかったけどさ……。

    144 :

    もう割れてr…げふんげふん

    145 :

    肉饅頭のようなAA……
    一体誰なんだ(迫真)

    147 :


    このさやかちゃんはうざくないからよい!他の自己中過ぎるよ・・・・

    148 :


    † 8月7日


    煤子「はい」

    さやか「ありがとうございます!」


    煤子さんの待つベンチを訪れる度に、近くの自販機で買ったらしい冷たいジュースをくれた。

    夏の灼けた道を歩いてきた私にとっては、今や安っぽいスポーツドリンクも、それまで流した汗を全て補ってくれる命の水だった。


    邪推をしてみれば、それは煤子さんが私を呼ぶための理由のひとつだったのかもしれない。

    けれどあの時の私は、今の私もそうだけど、決してジュースのためだけに、毎日あそこへ通っていたわけじゃないんだ。


    煤子「今日も暑いわね」

    さやか「そーですね……」


    ぱたぱたとシャツで仰ぐ煤子さんの姿が、何故かとても大人っぽく見えた。

    いつか絶対に真似しよう。真似できるようなかっこいい女の子になろうと思った。

    149 = 148 :


    さやか「てやっ」

    煤子「ふふ、甘いわよ」


    ちゃんばらごっこ。

    当時は男の子に混じってよくやっていた遊びではあったけれど、煤子さんと出会うことで、それは遥かに高い段階へと昇華した。


    煤子さんが用意してくれた軽くて柔らかめの素材でできた木刀を振るい、打ち込む。


    煤子「ほら、足がもたついてる、1・1・2よ、さやか」

    さやか「うーあー!脚の動かし方よくわかんないよー」


    ばっばっと激しく動いてズバッと決めるのが強いの思っていた私の苦悩だった。

    当時は小学生だし、それも仕方ない。


    煤子「じゃあさやか、次はさやかが私の打ち込みを受けてみなさい」

    さやか「?」

    煤子「私は1・1・2の動きで攻めていくわ」

    さやか「へへん、煤子さんの教えてくれた動きなんて怖くないよーだ!」

    煤子「あら、そうかしら?じゃあ今から打つわよ?」

    さやか「いつでも来いだ!」

    煤子「良いでしょう」


    タイルを強く擦る音が聞こえ、私は身構える。


    煤子「やッ!」


    私は身構えていたというのに、剣も正面に構えていたのに。

    煤子さんのその動きは、目で追いきれるものではなかった。


    さやか「痛あっ!?」


    今日習ったばかりの動きをお手本通りに取り入れた攻撃は、私の脳天へ綺麗に決まったのだった。

    150 = 148 :


    安いカップアイスを食べながら、木陰のベンチで一息。

    煤子さんの隣は落ち着く。


    煤子「習ったことや経験したことは、よく実践しないとダメよ」

    さやか「ふわぁい」

    煤子「上辺だけで理解してはいけない、無知は罪、共感できないものでも、よく考えないと、自分のためにならないの」


    こうしてほぼ毎日、煤子さんは私に対して言葉を贈ってくれる。

    半分わかっていなくてもそれを聞くのが、私の日課だった。


    ちゃんばらごっこをして、走って、勉強して、お話して。

    当時はそれら全てが私を大きく育ててくれるだなんて思っていなかった。


    ただただ、お母さんのように優しく、お父さんのように厳しく、真剣に私と向き合ってくれている煤子さんと一緒にいるのが楽しかったんだ。


    自転車を押して、煤子さんの背中で束ねた長い黒髪の揺れを見るのが。

    時々俯く煤子さんの麦藁帽の中を覗き見るのが。


    その年の、ううん、人生の、私の最高の思い出だったんだ。



    † それは8月7日の出来事だった。


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