元スレさやか「全てを守れるほど強くなりたい」
SS+覧 / PC版 /みんなの評価 : ★
601 :
乙
杏子マジで強いな
さやかは果たしてこの状況をどうするのか……
603 :
テックランサーみたいな感じか
604 :
パンプキン・シザーズのあれみたいな?
なんだっけ、メーヴェ?
605 :
さやか「ホント、大当たり」
杏子「!」
相手がこちらへ踏み出したのを見て、背中に手を伸ばす。
マントの裏側に隠したもう一本のサーベルを掴み、二本を合わせて頭上へ掲げる。
杏子(こいつ、最初から――!)
路地裏の行き止まりへ走り出した杏子、その勢いは簡単に止まるものではない。
そりゃあもちろん左右にだったら軌道修正も容易かもしれないけど、その左右が封じられているとなれば、あと退避できるのは真後ろだけ。
でも勢いをつけた前傾姿勢から切り替えるのは至難の業だ。
さやか「“アンデルセン”――」
つまりどういうことかって?
簡単だ。
十分な距離と、左右に逃げない相手がいれば、この技はきっと最強だということなのだ。
それだけだ。
さやか「“フェル・”――」
杏子「“ロッソ・”――」
マミ「そこまで!」
二人の間をリボンの結界が遮った。
606 = 605 :
さやか「……」
私の大剣アンデルセンは、振り下ろす前にその柄を固定され、
杏子「おい離せ!マミ!」
マミ「離さない」
杏子の両剣も、蜘蛛の巣に絡め取られた蛾のように、空中に縛り付けられていた。
マミ「二人とも何をしているのよ……特に佐倉さん、あなたはどうしていつもいつも、そうやって戦おうとするの!」
杏子「はっ、強くなることが私の願いだ、強くなるために戦って何が悪い」
マミ「わ、私たちはもっと手を取り合って、魔女と戦うべきなのよっ」
杏子「魔女なんかお手て繋いでやりあう程のもんでもねーだろうが」
マミ「それは、あなたにとっては――」
まどか「さやかちゃん!」
慣れ親しんだ声が路地の向こうから響いてきた。
さやか「まどか!ってことは、えっと、マミさんと一緒に魔女退治見学を……」
まどか「さやかちゃん、無事!?」
さやか「う、うん、まぁね、なんとか」
本当はフェルマータを叩き込もうとした寸前だったのだけれど、マミさんやまどかから見たら、私が追い詰められているように見えたらしい。
杏子「……チッ、弱いくせに割り込みやがって、つまんねーの」
固く拘束された両剣を引き抜くことはできず、杏子は魔法少女状態を解除し、元のシスターの姿へと戻った。
不機嫌そうな杏子の目つきに戦闘終了を悟った私も変身を解く。
607 :
乙
願いは違うっぽいのにまさかのロッソとな?
ファンタズマなのか別技なのか
608 :
小細工じゃなくて大砲とかそんなんなんじゃね
610 :
この杏子もマミに命名してもらったのか
612 :
杏子「勝負はお預けだ、また今度、邪魔の無い時に仕切り直しだ」
どこからか取り出したスペアのヴェールを頭に被り、その姿に似合わない荒っぽい語気で私に宣言する。
さやか「命と周りが無事で済むなら、やぶさかじゃないんだけどね」
杏子「温室育ちが、試合ごっこでやってるわけじゃねーんだよ、こっちはな」
まどか「だ、だめだよ……」
杏子「ぁあ?」
まどか「ひっ」
シスターにあるまじきドスの聞いた脅し声に、耐性ゼロのまどかは一瞬で小動物のように縮こまった。
完全に怯えきっているぞ、この戦闘狂め。
杏子「……そうだな……アタシも醒めた、また次に会う時に、色々と聞かせてもらうぞ」
さやか「……」
色々と。それは一体、何を聞かれるのか。
杏子「お互い相手をダウンさせる毎に情報がもらえる、ま、質問ごっこの予定があるよっつー話だ」
さやか「質問ごっこ、ね」
洋画じゃないんだから。
杏子「アタシに呼ばれたら予定を空けておけよ、じゃあな」
シスター少女はそのままの格好で手を振り、私達の一団から抜け出していった。
さやか(……佐倉、杏子。私以外で煤子さんを知ってる、唯一の子)
私も杏子も同じ魔法少女だ。それは果たして、偶然なのだろうか。
煤子さんに良く似た暁美ほむらという美少女転校生にしたってそうだ。どうにも最近、煤子さんと魔法少女、この二つがやけに絡み合う。
偶然なのだろうか。私はそうは思えない。
613 = 612 :
まどか「ふわぁーん!」
マミ「怖かったー!」
さやか「ええ!?」
路地裏から杏子が去ってゆくのを見届けると、途端に二人はへたり込んでしまった。
まどかはともかく、普段は気丈に冷静に振舞っているマミさんまで。
まどか「杏子ちゃん怖いよぉ……なんであんなことするのぉ……」
マミ「もう佐倉さんを正面から見るのは嫌……絶対に嫌……うん、絶対にしない……もう二度と……」
さやか「……」
どうやら私への助太刀は、かなり無理を押してのものだったようだ。
あのマミさんですらこの調子だ……。
マミ「うう、ごめんなさいね、美樹さん……私、どうしても佐倉さんだけは苦手なのよ……」
さやか「いやー得意な奴はいませんよ、あれは……普通って人がいても私、そいつの正気を疑いますもん」
マミさんとまどかに手を貸して、二人を起こす。
……ともかく、病院送りにされなくて良かった。今日の戦いを振り返り、深くそう思うのだった。
614 = 612 :
まどか「本当に怪我ない?大丈夫?」
さやか「いや、まぁなんとかね……怪我しそうになったけど」
マミ「次からは絶対に相手にしちゃだめよ、本当に危ないんだから」
時間はすっかり夕時だ。
まどかとマミさんと一緒に並び、帰路を歩いている。
二人は魔女退治に興じていたらしいのだが、途中で使い魔の反応を追っている最中で私を見つけたのだという。
使い魔を追いかけていたら、魔女よりも危険な魔法少女にバッタリ出くわした、というわけだ。
まどか「魔法少女って、大変なんだね……」
マミ「うん、魔法少女同士の付き合っていうのも、すごく大変なの……まぁ、佐倉さんの場合はかなり特殊な気もするんだけどね」
さやか「やっぱり、領地争いとか?」
マミ「ええ、私も何度か経験したことがあるわ……穏便に済ませたいとは思っているんだけどね」
相手がそうしてくれない、か。
まどか「ほむらちゃんが契約するなって言ってくれる理由、ちょっとだけわかった……かも」
さやか「確かに、ね」
もちろんそれもあるだろう。
けどそれ以上に、彼女が魔法少女にさせたくないという言葉に包み隠した部分には、より大きな負の理由が隠されていそうだ。
ほむらの口から早めに聞けると、こっちも情報が多くて助かるんだけど……。
615 :
そういや煤子さんまどかに会ってないんだなと思ったら小説版設定なのか
この杏子はソウルジェムの秘密聞いたら喜びそうな
616 :
技名の由来ってあるの?
アンデルセンとか小さい剣っていうか銃剣を大量に飛ばす技かと思ったwwwwwwwwww
617 :
>>616
ゲームじゃね?
アンデルセンはさやかより、杏子が使いそうなイメージあるよなwwwwww
618 :
杏子が教会のかっこしてアンデルセンか
我らは神の代理人、神罰の地上代行者とか言いかねないな
619 :
アンデルセンって人魚姫つながりか?
音楽用語かと思ってた
620 :
† 8月12日
煤子「……」
宛ても無く歩いていた最中、目に留まったものは教会だった。
大きな、しかし寂れた教会。
人の姿はなく、建物の前に車らしきものもない。
煤子「……」
彼女は歩みを曲げて、教会の扉を開いた。
聖堂の造りは立派。高い位置のステンドグラスから零れてくる宵の月明かりが幻想的だ。
しかし、その空間に配置されている像や、象徴などは、既知のそれらとは違うように見えた。
十字架でもない、棗でもない。
見知らぬ聖者に見知らぬ聖母。
少しでも聞きかじった程度の予備知識があれば、この施設が新興宗教のものであるとわかるだろう。
煤子「……」
彼女は聖堂の中央に跪き、かつて見た儚き聖女のように手を結び、祈った。
煤子「……」
何に祈るのか。
いいや、祈りではない。
それはとても言葉にできない懺悔だった。
621 :
木のきしむ音がして、脇の扉から小さな少女が入ってくる。
「誰……?」
煤子「……」
幼いながらも、目元にははっきりとした面影を見ることが出来る少女。
それは教会の娘、佐倉杏子だった。
小学校の高学年であるはずなのに、背は低い。
日ごろの栄養不足のせいだろう。
顔色も良くは見えない。
まともな食事にありつけていないのだ。
杏子「……どうか、なされたんですか?」
煤子「……こうして、いたくて」
結んだ手は解かず、じゅうたんの上でそのまま拝み続ける。
杏子「! あ、あの、告白ですか?」
煤子「告白……」
杏子「は、はい、悩み事があれば何でも!」
爛々とした目でこちらに迫る杏子に、煤子は貧しい教会の事情を思い浮かべ、複雑な気持ちになった。
そしてもう一つ思うことは、彼女に深く関わるべきか、否か。
杏子「お力に、なりますよ!」
煤子「……」
意は決した。
622 = 621 :
狭い小部屋の中で、黒いヴェールを隔てて二人が座る。
煤子の面持ちは変わらず、杏子の方は緊張で強張っている。
一見どちらの告解か解り難いが、ここでは煤子の告白が行われる。
杏子「さあ、どうぞ、あなたの罪の告白を……」
煤子「……罪」
杏子「はい、あなたが心の靄を払うことを望むなら、あなた自身が自覚する靄を告白しなければならないのです」
煤子「……」
靄。それを負い目と解釈した彼女は俯き、考える。
そして答えは出た。
杏子「神はあなたが自覚し、告白した罪の全てを赦すでしょう……」
煤子「……ごめんなさい、私、告白することができないわ」
杏子「えっ……」
懺悔室の分厚い扉を開け、外に出る。
するとほぼ同時に、向こう側の扉から杏子も出てきた。
杏子「あ、あの、思いつめているなら、ぜひ……」
煤子「……私は罪を自覚し続け、それを上塗りすることで余生を生きると決めたの……そんな私を、何者も私を赦せないわ」
杏子「……そんな」
今にも泣き出しそうな杏子の頬を撫ぜる。
煤子「……ごめんなさい、でも、そんな私を赦せるとしたら……神ではなく」
杏子「……?」
煤子「貴女という、一人の人間なのかも、しれないわ……」
† それは8月12日の出来事だった
623 :
ついに杏子の過去編が始まったか
祈りの内容はおそらくさやかと近いとは思うんだが具体的には分からないし、どうしてあんな性格になったのかも気になるところ
期待して楽しみにしてます
624 :
杏子きた、ちっちゃい杏子きた、ひねくれてない杏子きた
625 :
この子が何故ああなった……
627 = 626 :
ゲームセンターの中を一周している間に絡んできた男達を適当にあしらい、クレーンのコーナーへ戻ってきた。
汚い店内の空気から逃れるように自動ドアを素早く潜り、自販機の前でため息をついた。
ほむら(……いない)
ほむら(わかっていた、彼女の性格も、行動も全て違っていたから……性格だけでも違えば、行動が変化し些細な未来でも変わってしまう)
自販機の明かりを使ってプルトップを開ける。
仄かな香りを一呼吸分だけ味わって、すぐに口を付ける。
ほむら(けど、今の彼女なら、きっと乗ってくれるはず……)
休日前の夜。帰路を歩く人々の疲れきった顔を注視しながら、ほむらは魔女の気配を探っていた。
628 = 626 :
ほむら「!」
肌を舐める強い魔力の波動に目線をずらす。
そこには一人のシスターが立っていた。
ほむら(……変わらないこともあるのね、何故かしら)
にやけそうな口元に缶を押し付け、ほむらは足を止めたシスターに向かい合う。
杏子「甘い飲み物は好きか?」
ほむら「ええ」
杏子「そうか」
シスターがブーツの底を鳴らしながら、ほむらに歩み寄ってくる。
杏子「私はそれなりだな」
ほむらの目の前までやってくると、ポケットの中の小銭を自販機に突っ込んだ。
ボタンを強めに叩き、落ちてきたペットボトルを掲げて見せる。
スポーツドリンクだった。
杏子「甘いもん食うなら、こんくらいの甘さが丁度良いんだ」
ほむら「……ふふ、そう」
629 = 626 :
杏子「食うかい」
ほむら「ありがとう、いただくわ」
プレッツェルを一本齧り、ココアを飲む。
ほむら(……襲い掛かってくるものと思っていたけれど、随分と友好的ね)
ほむら(好都合だわ)
ほむら「ねえ、杏子」
杏子「ほむらって言ったな」
ほむら「……ええ」
杏子「煤子さんって知ってるか」
ほむら「……」
ココアの缶を持つ手に力が篭ったが、スチール缶がへこむ前に頭は醒めた。
ほむら「さやかからも同じ事を聞かれたわ、知っているか、って」
杏子「……じゃあ」
ほむら「姉がいるか、と聞かれもしたわね」
杏子「……いねーのか」
さやかといい杏子といい、柄ではないはずなのに。
同じ“いない”、“知らない”と返せば、落胆の表情を隠そうともしない。
杏子「まぁいいや、気にするな」
ほむら「……そうするわ」
630 :
杏子「で、こんな時間に一人でゲーセン入って、何してたのさ?」
ほむら「……」
はぐらかそうとすれば、追い詰められるに違いない。
さやかの妙な勘の鋭さもある。彼女に対しても嘘はつけないだろう。
ほむら「貴女を探していたの」
杏子「ほー、アタシをねえ……行きつけを知ってる事については聞かないでおくけど、何の用だ」
ほむら「……」
ほむら「二週間後に、ワルプルギスの夜がやってくる」
杏子「知ってる」
ほむら「……」
杏子「……」
ほむら「……そう」
杏子「あの白いアホ面から聞いてるんでな」
ほむら「そうだったの」
とりあえずココアを飲み干して仕切り直しだ。
631 :
このあんこちゃんバトルジャンキーだから頼まなくても戦ってくれそうだな
連携とってくれそうにはないが
632 = 630 :
ほむら「知っているなら、話は早いわ」
杏子「ほー」
ほむら「ワルプルギス討伐のために、私と協力して欲しい」
杏子「逆だろ?」
ほむら「え?」
口の中のプレッツェルをドリンクで流し込み、ヴェールの裾を払ってほむらを睨む。
杏子「共闘したいなら、アンタが私に頼むのが筋ってもんだろう?」
ほむら「……」
いつにも増して傲慢さが増している気がしないでもないが、発言の意図の一つは理解できた。
杏子自身が自分の意志で戦おうとしているという事だ。
ほむら「杏子は、ワルプルギスの夜と戦うつもりなのね」
杏子「当然!最強の魔女なんだろ?戦わないでどうすんのさ」
袋に残ったプレッツェルの破片を口の中に流し込み、音を立てて咀嚼する。
ちらりと見える八重歯がいつにも増して恐ろしい。
633 = 630 :
ほむら「……協力――」
杏子「やだね」
わざわざ遠回しにされた上に即答の拒否。
これには可能な限りの譲歩を見せようと考えていたほむらも、眉間に皺を寄せた。
杏子「何故かって?邪魔だからさ。せっかく最強の魔女と戦おうってのに、雑魚にウロチョロされちゃあ興が削がれるだろ?」
ほむら「……」
手の中のスチール缶が「ぺこ」と音を立てた。
杏子「巴マミも、ちったぁ腕は立つようだが、さやかも同じさ……せっかくの晴れ舞台なんだ、下手な黒子は他所に引っ込んでいてほしいってこと」
ほむら「……あなたは、何故」
杏子「?」
ほむら「そんなに、強い相手を求めるの?」
いくつもの時間を遡り、いくつもの彼女に出会ったほむらの大きな疑問だった。
ただ、この杏子は口元をゆがませて、それが当然であるかのように答える。
杏子「私は、何にも負けないほど強くなりたいのさ」
634 = 630 :
ほむら「何にも負けない程……?」
杏子「ああ、アタシと同じ魔法少女にも、最強の魔女にも!どんな奴にも負けないほど強くなりたいんだ」
修道服の井出達で、杏子は胸の前で力強い握りこぶしを作って見せる。
杏子「アタシは強い奴と戦えば戦うほど強くなれる……ワルプルギスの夜と全力で戦うことになれば、アタシはワルプルギスの夜を越えられる!」
ほむら「……!」
打倒ワルプルギスの夜ではなく、ワルプルギスの夜以上の力を求めている。
彼女は倒すことが目的なのではなく、倒す力を手に入れることが目的なのだ。
ほむら「す、酔狂ね……気を悪くしたならごめんなさい」
杏子「へっ、そんな些細なことは今更気にもしないさ……一般常識で見りゃあちょっとばかし力に溺れてるのは、アタシだってわかる」
ほむら「自覚があるのね」
杏子「それでもアタシは力が欲しいんだ……っと」
向かい側のコンビニのゴミ箱にペットボトルを投げ込むと、それは荒っぽい音を立てながらも、綺麗に入っていった。
杏子「ふー、ゲームでもしようかと思ったけど、やめだ、150円も使っちまったしな」
ほむら「……そう、話につき合わせて悪かったわ」
杏子「なに、アタシも一度話したかったから、いいさ」
シスターは手を振りながら去ってゆく。
杏子「あ」
去り際に一度だけ立ち止まり、淡白な無表情を半分振り向かせた。
杏子「……つーわけだから、風見野はアタシのテリトリーだ、近づくなよ」
それだけ言って、杏子は再び闇に向かって歩いてゆく。
後姿を見送るほむらは首を傾げた。
ほむら「……風見野」
635 :
† 8月14日
「やーいオカルトー!」
そこは公園だった。
夏休みともなれば、毎日必ず誰かしらが遊んでいる、どこにでもある普通の公園。
小学生であれば誰でもそこへ足を運んでも不思議ではないし、それは間違ったことではない。
「神様なんていねーよ!バカじゃねーの!」
「サギだ!サギ!」
だが歳相応の遊びを求めた彼女が訪れると、彼女を見知った同学年の男子数人は、彼女を排斥するよう囃し立てるのだ。
それは子供の頭が生み出す、ありきたりな文句だった。
彼女が敬虔な信者でなければ、互いに思い出にも残らないような口喧嘩で終わるはずだった。
杏子「……詐欺なんかじゃないもん」
彼女は涙を二つ、三つと落とす。
“神なんていない”。そんな言葉はありきたりで、月並みなクレームだ。
しかし杏子は、それに対する上手い返し方を、まだ知らなかった。
だから自分の信仰を否定し続ける彼らに対して何も言えず、ただ縮こまるばかりだった。
彼女は今日、ただブランコを漕ぎにきただけである。
「こんなのっ!」
杏子「あっ」
縋るように両手で握り続けていたアンクを、体格の良い男子小学生が奪った。
男子生徒はにやにやと笑いながら、手元の拙いつくりのアンクを眺めている。
636 = 635 :
男子生徒はひとしきりそれを眺めた後、といっても、それがハンドメイドの手作りであることも気付かぬうちに、両手で強く握り締めた。
「こんなもんっ!」
杏子「あっ!?やめて!返してよ!」
力を込めた体勢に顔を青くするも、取り巻きの二人の男子小学生が行く手を阻む。
「へへ」
「無理ー、進入禁止ー」
杏子「やめて……!」
「いぇへへ、バチなんて怖くねーぞ!」
手にほんのちょっとだけ力を込めただけで、アンクは真っ二つにへし折れた。
杏子「ああっ……」
「あれ?なんだこれ」
「中身、ただの木じゃん」
「木だ!安物だ!色塗ってあるだけじゃん!」
「サギだサギだー!」
杏子「……う、うう……」
けたけたと笑うクラスメイトの男子。
見せびらかすように目の前に突きつけられる二つに折れたアンク。
杏子は成す術もなく、ただ顔を赤く染めて、涙を砂の上に落とすばかりだった。
煤子「……」
夕陽の陰りに表情を潜めた一人の少女が、そこへ歩み寄る。
637 = 635 :
杏子「あ……」
杏子の背後から、背の低い女子中学生が姿を現す。
黒く長い髪を後ろで結った、大人びた風格の女子だった。
杏子は彼女を知っていた。
彼女は夕時になると教会を訪れ、何かを打ち明けるわけでもなく、ただ祈り続けている。
彼女の名前を聞いたことがある。名前だけは教えてくれたのだ。“煤子”と。
煤子「……寄越しなさい」
「あ、なにすん……」
同じ背ほどもある男子小学生から、二つに折れたアンクを強引に奪い取る。
それを手の中に握り締めて、目を逸らさずに言う。
煤子「あなた達に、他人の祈りを踏みにじる権利があるとでも?」
「……!」
煤子「だとしたら随分と傲慢なことね」
男子小学生にとって、中学生は雲の上の存在だ。
けれど彼らは感じた。目の前にいる彼女は、ただの中学生ではない。
自分の父親や祖父が本気で自分を叱る時のような、反発も反抗もできない凄みを湛えていたのだ。
「……!いこうぜ!」
「あ、ああ」
男子たちは煤子に気圧されて、足早に公園を去っていった。
638 = 635 :
杏子「あ……あの……ごめんなさい……」
男子達が去っていっても、杏子は顔を上げようとしない。
泣き通した顔を見られたくなかったというのもあるし、自分の信仰を守ることができなかったという負い目もあったのだ。
煤子「……謝ることなんて何もないわ、あなたは正しいと思ったことを貫いているのでしょう」
杏子「でも、私……何もできなくて……」
煤子「それを自ら折る必要なんて、ないわ」
杏子「……でも、私、弱いし……」
煤子「いいえ、あなたは強いわ」
白いハンカチを取り出し、杏子の頬を拭う。
上質な綿の優しい肌触りが心地よかった。
煤子「……あなたは強く、なれるわ」
杏子「なれないよ……」
それでも目は伏せたまま、眩しい煤子の顔を見上げることができない。
煤子「強くなりたいのでしょう?」
杏子「強く……なりたいよ……」
煤子「……信じれば、必ず叶うわ」
顔を伏せた杏子の目の前に左手をもっていく。
掌を開くと、そこには先ほど折られたアンクがあった。
杏子「……え?」
アンクは形を取り戻していた。
そればかりか、材質もまるで別の、赤い金属のような光沢を放つ、どこか高級感ある物へと変質していた。
煤子「自分の意志を貫くためには、とにかく、強くなくてはならないわ」
杏子「……」
もう目が離せない。
アンクから、煤子の瞳から逃げられなかった。
煤子「何が起こっても、何が否定しても……たった一人、最後の一人が自分だけになっても、信じていれば……願いはきっと、叶うのよ」
† それは8月14日の出来事だった
640 :
叶わなかった人チィーッス!
642 :
乙です。
杏子はこれはこれで、ひねくれて育った感じも。
643 :
乙
ああ、別方向に解釈しちまったかー
645 :
さやか「……」
朝起きて、枕の横に置いたはずの携帯を枕の下から発見すると、メールが2通届いていた。
一通目、マミさんから。受信は昨日の夜中。
:明日は夕方から魔女退治に出かけようと思うんだけど、どうかな?
二通目、ほむらから。受信はついさっきの十分前。
:今日の夕方、巴マミと一緒に魔女退治(パンチ絵文字)必ず来て(猫絵文字)
さやか「……」
私はほむらから受信したメール画面を見ながら洗面台へ向かった。
顔を洗った後もメール画面を見つめ続け、朝食の席でお母さんに叱られるまで、ずっとそれだけを眺めていた。
さやか(二人が言ってるし、魔女退治、行くっきゃないよね)
恭介への見舞いは夜にしようかなとも思っていたけど、そういう事情なら仕方ない。
予定を変更して、昼間に病院へ行こう。
もちろん魔女退治が嫌なわけがない。私の本望だ。
もっと沢山、魔女との闘いを経験したいと思っている。
646 :
ほむらのメール可愛いなおい
647 = 645 :
昨日の杏子との闘いは、個人として言いたい文句や不満も色々あるけれど、それ以上に沢山の収穫があったことが悔しくてならない。
収穫ってのは何かって、そりゃあもちろん、戦闘経験です。
お菓子だらけの結界の中に迷い込んだときに戦った魔女も、モニターみたいな変な魔女も、それぞれ一般常識の通用しない空間での戦いだったので、そういう場面に慣れる意味では大切な闘いではあったけど。
実際に面と向いて戦う場面になった場合、異世界だろうが実世界だろうが、基本となる肉体の動きが重要だ。
魔法少女という力の上乗せがあってもそれは変わらない。
杏子との戦いではそれを思い知った。
キュゥべえが以前に言っていた、私の素質がマミさんの三分の一という話は本当なのだろうけど、それでも勝負の命運を分けるのは、別のものなんじゃないかなって思う。
剣道だって、背の高い低い、筋肉量の多い少ないは、あまり関係ないのだし。
さやか(……いけない、なんでまた杏子と戦いたいとか考えちゃってるんだ、私)
さっさと恭介の病院に向かおう。
今度は同じ道を通らないように、遠回りをして。
648 :
ほむはぐう可愛
649 :
絵文字で変な声出た
650 = 645 :
恭介「さやか」
さやか「おいすー」
だだっ広い病室には、いつも通り恭介がいた。
表情に憂鬱さは消えていないが、多少は和らいだか、気が紛れたか。
机の上の検診表と端が重なるようにして置かれている本がそうさせたのかもしれない。
さやか「どした恭介ー、最近さやかちゃん分が足りなくて参ってるのかー」
恭介「さやか分は昔に摂り過ぎてるからいらないよ」
さやか「なにぃ?毎日基準値まで取りなさいよ」
恭介「昨日は暁美さん分を補給したから、いらないよ」
さやか「え?」
あけみさん、と言ったか。今。
さやか「ほむらが来たの?」
恭介「うん、一人でね。さやかなら別に不思議なことでもないんだけど、転校して間もないのに、随分と早く仲良くなれたね」
さやか「ははは、ま、彼女もまたさやかちゃんの友達思いな所に惹かれたのでしょう」
ほむらに恭介の話はしていない。
入院している私の友達がいるとも話していない。
ほむらが自発的に、クラスメイトの欠員の見舞いに行ったとは考え難い。
さやか「で、本当に美人だったでしょ」
恭介「ああ、美人だね、歳相応ではないというか……あ、恥ずかしいから本人には言わないでくれよ?」
さやか「むふふー」
恭介「おい、そういうの友達なくすぞ」
さやか「どうしよっかなー」
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