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    元スレさやか「全てを守れるほど強くなりたい」

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    タグ : - 美樹さやか + - 覚醒さやかちゃん + - 魔法少女まどか☆マギカ + 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。
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    902 :


    まどかが契約しないで済むのだろうか

    903 :

    どうだかな、煤子さんがさやかと杏子の契約を誘導した様なもんだしマミの事故も防がなかったし

    904 :

    そこ変えちゃうとタイムパラドックス的にマズイので
    影響出ないギリギリで干渉してるんじゃないの
    これでワルプル越えたら今度は煤子さん自身の存在がパラドックス化しそうだが

    905 :


    私に差し伸べられた、少女の手。

    優しく、力強く、私に勇気をくれた。


    こんな私も大丈夫だと。

    かっこ良くなれるからと、励ましてくれた。


    掛け替えのない、友達の手……。


    だから私は、彼女を助け出したい。

    何度同じ時間を繰り返しても良い。

    何を犠牲にしても構わない。

    彼女を救い、また、共に歩いてゆける未来が見つかるなら。


    全てはまどかのために。

    私の最高の友達のために。

    906 = 905 :


    さやか「……」

    ほむら「ワルプルギスの夜を倒す。それが私の目的」

    さやか「そして、まどかに契約をさせない」

    ほむら「……ええ、絶対に」


    話を聞き終えた。

    内容は簡単だ。


    ほむらはまどかを救うために、未来からやってきた。

    彼女は何度も過去へ戻り、何度もワルプルギスの夜と戦ってきた。同じ数だけ負けてきた。


    そしてその中でほむらは、ソウルジェムの重大な秘密に気付いたんだ。

    ソウルジェムの穢れが限界を超えたとき、私達魔法少女は、魔女になる。


    ほむら「……ショックよね」

    さやか「……」

    ほむら「そうよね、そう……みんな受け入れられなかったもの。あの巴さんでさえ……」

    さやか「よく、頑張ったね」

    ほむら「え?」


    よくよく見れば。

    ほむらの体の細さも、顔つきも、実際のところは、彼女の性格に合っていない。


    彼女は一ヶ月前までは、弱気で病弱な少女だった。

    けれど、累計で何年にも及ぶ戦いを繰り返すうちに、その精神は身体を置き去りにしてしまったのだ。


    鋭い目、固く結ばれた口元。

    緊張を緩めない表情は、ミステリアスやクールの演出だけではない。

    まどかを救うために刻まれ続けた、戦士の傷なのだ。


    さやか「まどかのために……大変だったよね」

    ほむら「……」

    さやか「辛かったよね」

    ほむら「……やめて」


    私が彼女の頭を撫でていると、それは震え声によって拒まれた。

    潤みかけた鋭い目が、私を睨んでいる。


    ほむら「私はまだ、戦いをやめたくないの」

    さやか「……」

    ほむら「ここで甘えたくない……甘えたら私、ダメになる」

    907 :

    シリアスとはわかってるけど震え声って見るとなんか噴きそうになる

    908 :

    おつ?
    甘えていちゃラブしてまえ!

    909 = 905 :


    さやか「私も一緒に戦うよ、ほむら」

    ほむら「本当」

    さやか「もちろん、最初からそのつもりだったしね」


    自分のソウルジェムを掌の中で転がし、遊ぶ。

    一点の曇りもない群青は、深い海を思わせるように、静かに揺らめいていた。


    さやか「なるほどね、ソウルジェムが限界まで濁ったら魔女になる……予想はしてたけど、やっぱその通りかぁ」

    ほむら「ショックじゃないの」

    さやか「ううん。最初は“死ぬのかな”くらいに思ってたけど、あんま変わらないしね」


    ソウルジェム。魂。その穢れなのだから、無事で済むはずはない。

    けど、ぽっくり死ぬのも、魔女になるのも、私から見ればあんまり変わらない、些細な違いだ。

    杏子も気付いてるかもしれない。

    マミさんは……どうだろう。下手に言わないほうが良いかもしれない。


    さやか「とにかく! ワルプルギスの夜を倒す! まどかを魔女にしない!……この二つをクリアしちゃえば良いってことね?」

    ほむら「言うのは簡単だけど……」

    さやか「大丈夫! 今までほむらが出会ってきた私はどうだか知らないけど、このさやかちゃんには、必殺の武器があるのだ!」


    そう。ほむらから聞かされた、同じ時間を繰り返す話。

    かいつまむ程度の内容でしかないけれど、その中での私はいずれも、この私とは違うらしいのだ。

    過去での私は迷走したり、魔女になったり、情けない死に方したりと、色々やらかしたらしい。


    けど、この私自身や杏子は、それまでの私とは大きく違うという。

    願い事も違うし、戦闘能力も大幅に“改善された”(原文ママ)とのことだ。


    時間の流れが束になり、平行世界になっているとするならば、今回のほむらはきっと、随分な遠い並行世界へと来てしまったのだろう。


    そうでないとすれば……。


    私の中にある仮説。いや、きっとほむらも考えているであろう仮説。


    ……四年前に私と杏子の前に現れた、煤子さん。

    彼女こそ、この時間の流れの大きな鍵を握っていたに違いない。

    910 = 905 :


    私達は人通りの少ない、廃屋連なる路地裏へとやってきた。

    解体されず終いの家が乱立する、その一角。


    私とほむらは、風化寸前の室外機の隣に貼られた魔女の結界に向き合っていた。


    さやか「ドンピシャだね」

    ほむら「今までのも、場所は全部わかっていたから」

    さやか「なるほど……未来に生きてんなぁーほむら」

    ほむら「バカなこと言ってないで、行きましょう」


    ほむらはさっさと結界の中へ飛び込んでしまった。

    全く、つれないやつだよ。


    ……今回、快気祝い前に魔女の結界へと突入したのには訳がある。


    まず、私が新たに習得した魔法を確認するため。

    これは、対ワルプルギス作戦の中に組み込めるかどうかをほむらが判断するためのものだ。

    私も銀の篭手、セルバンテスを使ったバリアーがどういう性質なのか、完全には把握していないし、私自身の勉強も兼ねる。


    あと……。

    ……私のために使い込まれて品薄状態のグリーフシードを、集めるためでもあるのです。ええ。

    911 = 905 :


    結界の中は、マーブル模様で埋め尽くされていた。

    色は構造物によって様々で、床は黒や赤の暗いマーブル。

    障害物となる半球状のものや柱などは、青や紫、オレンジといった、もうちょっと薄い色が多い。


    色分けされているとはいえその景色は最悪で、遠くを見ようとしても遠近感は得られず、吐き気がこみ上げてくる。



    さやか「でやぁ!」

    使い魔「ぷぎゅ」


    そして厄介なのが、この使い魔たちだ。

    目も眩むマーブルの影から現れては、極彩色の身体でタックルを試みてくる。


    規則もへったくれもない使い魔の襲撃に、道中の会話もできず、私はちょっぴり苛立っていた。


    ほむら「邪魔よ」


    と、そんな私の心を代弁するかのように、腰だめのアサルトライフルがフルオートで唸る。

    惜しみなく吐き出される金属の弾は構造物ごと使い魔を蜂の巣にし、後ろにかくされた隠し通路すらこじ開けてしまった。


    さやか「……ひぃ~、すごいや」

    ほむら「私の盾の中には大量の武器が詰まってるわ。もちろん、対ワルプルギス用の物もね」

    さやか「ちなみにどこから」

    ほむら「それは聞かない約束ね」

    さやか「……そうしときますかね」


    出し惜しみせずに使い棄てる、同じデザインの純正品チックな武器達……。

    まとまった量をどこから仕入れたのか……いや、聞くまい、言うまい……。

    913 :

    ミクゥッ!

    914 :

    >>1を乙するなんて乙なんだ…
    乙だから乙なんだ乙乙…

    915 :


    ほむら「そろそろ魔女のいる大広間よ」

    さやか「おお、ついに」

    ほむら「その前にもうちょっとだけ使い魔が現れるから、それを相手に……」

    さやか「新しい魔法ね?」


    私はまだ新魔法セルバンテスを発動させていない。

    右手のサーベル一本だけで、苦もなく結界内を進めているためだ。


    ほむらの言うとおり、今のうちに披露しておかなくては、ぶっつけで魔女ということになってしまうだろう。

    それはちょっと、私自身も不安なテストだ。


    使い魔「ぴき」

    使い魔「ぴきー」


    噂をすれば、汚いマーブル模様の小人が湧いて出た。

    背丈は中肉中背ちょっぴり猫背。能面だけど色は過激な二体だ。


    さやか「じゃ、見ててよほむら」

    ほむら「銃は構えておくわね」

    さやか「もっと楽にしてていいのに」


    左肩をぐるぐる回し、前へ出る。


    さやか「……セルバンテス!」

    916 = 915 :


    左手が輝き、銀の篭手に包まれる。

    一回り大きくなった腕は、まるでロボットのようだ。


    ほむら「……それがさやかの特性魔法ね」

    さやか「うん、私の願いが生み出したのがこれ……」

    使い魔「ぴー!」


    話の流れなど理解できない使い魔が、私へと走り寄ってくる。

    ほんと無粋な連中だ。けど、話が早く進んでありがたいかもしれないね。


    ほむら「さやか!」

    さやか「へーきだって、ば!」


    左手を前へ突き出す。

    使い魔は次の瞬間にも、その汚らしい体での突撃に成功するであろう。


    しかし身を丸めた使い魔の身体は、私の寸前で大きく弾かれた。

    電線がショートしたような大きい音と共に“見えざる壁”は僅かな青で発光し、火花も散らしてみせた。


    使い魔「……!?」

    ほむら「これは……」


    使い魔は何が起こったのかと硬直していたが、再び考えなしに走り始める。

    今度は二体同時だった。

    917 = 915 :


    バチン、バチン。

    結果は同じだ。バリアーにも負担らしい負担はない。


    使い魔の体は突進と同時に大きく弾かれ、むしろバリアの反動によって、使い魔へわずかなダメージも入っているようだった。


    ほむら「これだけなら、普通の防御という感じはするけど……」

    さやか「これ、魔力の消費が少ないし、すごく丈夫っぽいんだ」

    ほむら「……なるほどね」


    思案を始めたほむら。私も、ちょっと考え事をしてみよう。これは私のためのテストでもあるのだ。


    さやか(……バリアは攻撃を受けると同時に、跳ねるように振動する)

    さやか(その振動が反動として、相手をふっとばしているんだ)


    これは杏子との戦いでも見ることの出来た効果だ。

    杏子のブンタツによる突撃では、終始バリアーはガクガクと震えていたけれど、本来はこの振動によって相手方が弾かれるべきなのだろう。


    さやか(このままだと、単なるバリアに過ぎないけど……)


    突き出した左手。

    やることもなく休んでいる、サーベルを握った右手。


    さやか(……もしかして)

    918 = 915 :


    おそるおそる、自分のシールドの裏面にサーベルの刃を近づける。


    そんな都合の良い事があるのだろうか。

    相手方には強いバリアー。

    自分にとってはなんともない、ただの空間。


    左手で守り、右手で攻撃の手は休まらないなど、そんな……。



    ほむら「……まさか」

    さやか「……まさかね」


    サーベルの先端が、バリアに触れた。



    バチン。



    ほむら「……」

    さやか「……あっれー」

    919 = 915 :


    おかしいな。

    普通ここは期待通りにサーベルが私のバリアをすり抜けて、攻防一体の無敵っぷりをアピールするところじゃなかったのか。


    ほむら「普通の防御壁として活用するのが良いみたいね」

    さやか「ぐぅぬぬぬ……いや、他にももっと、役立つはず!」

    ほむら「耐久試験でもしてみる?」

    さやか「ちょ、ちょっとさすがに後ろからそれ構えるのはやめて」


    バリアは一向に消える気配がない。

    これなら何時間でも展開していられそうだ。


    さやか「……左腕で殴ってみたらどうだろう」

    ほむら「やってみれば?」

    さやか「そうする……っせい!」


    左腕を一旦引き、拳として使い魔の顔を突く。


    使い魔「ぷぎっ!?」

    さやか「お!?」


    そこで新発見。

    どうやらこの左腕で殴る瞬間にも、殴った場所に小さなバリアが生まれるらしい。


    普通のパンチとは比べ物にならないほどの勢いで使い魔は吹き飛び、結界の障害物に激突した。


    さやか「……こっちだけで攻防一体になるんだね」

    ほむら「へえ」


    バリアの反動が力になるためか、私の拳や体への負担はない。

    使い魔相手なら、この使い方のが効率は良さそうだ。

    920 = 915 :


    さやか「せっ」


    姿勢を低く、左拳のアッパーを仕掛ける。

    使い魔の体は高く浮き上がり、無防備な姿を晒した。


    さやか「大! 天! 空!」

    使い魔「ぷぎぎぎぎ」


    浮き上がった使い魔の背後へと飛び、右手のサーベルを縦横無心に走らせる。

    アニメやゲームでよくあるような、八つ裂きだ。


    さやか「はぁっ!」


    着地する頃には使い魔は跡形もなくなっていた。


    ほむら「何遊んでるの」

    さやか「えへへ、やってみたかったんだー、これ」

    ほむら「……気持ちはわからないでもないけど」


    ほむらにも共感できるところがあるらしい。

    なるほど、昔に何かをやらかしたようだ。


    さやか(……篭手で下から殴れば、簡単に相手を浮かせることができる。これはなかなか良い発見かな)


    バリアの反動がエネルギーになるため、これも当然私の腕力を必要とはしない。

    思った方向へと敵を弾くことができるのは、なかなか便利な能力だなと思った。

    921 :

    楽しそうだな乙

    922 :

    余裕ぶっこくのはまどマギではフラグ…(例:黄色い人)

    924 :


    ほむら「杏子との戦いで、随分と成長したみたいね」

    さやか「へへ、まあね」


    分厚い鉄の扉を開き、下水道のような通路を進む。

    弱いオレンジ色の防爆灯が等間隔に、しかし寂しげに道を示している。


    魔女の部屋までもう少しだ。


    ほむら「今回戦う魔女は、以前に戦った虫の魔女と同じような相手よ」

    さやか「つまり、私の苦手分野かぁ」

    ほむら「今ではどうかしら」

    さやか「自身はあるよ」


    以前は大量の使い魔を相手に攻めきれなかったけど、今なら心強いバリアーがある。

    たとえ物量で圧して来ようとも、私の守りを壊すことはできないだろう。

    さやかちゃんぶっ飛びパンチもある。


    ほむら「何それ」

    さやか「左手(これ)で殴る」

    ほむら「好きに戦うといいわ、見させてもらおうから」


    もうちょっと乗ってくれてもいいのに。


    さやか「じゃあ、入るよ?」

    ほむら「その前に、さやか」

    さやか「ん?」

    ほむら「ヒントは要る?」

    さやか「謎解き要素有り! こりゃ楽しみになってきたね!」


    垣間見えた親切心を振り切り、錆びた扉を開け放つ。

    925 = 924 :


    さやか「よっ」


    扉を開け、広い暗闇の空間へと飛び出す。

    数メートルの湿っぽい空気の浮遊感。そして金網へと着地した。


    さやか「……」


    ここが魔女の結界の最深部。

    その広さは、暗さも相まって計り知れない。高さもある。

    とにかく、足元に広がっている金網の足場以外には、内装らしいものが一切ない。


    さやか「……――」


    指笛を鳴らし、音を辺りへ振りまいてみた。

    音が広い室内に反響する。


    天井はある。高さは数十メートルはあるだろう。

    足元の金網、その下は不明だ。奈落の底かもしれない。

    横の広さは不明だ。ひょっとしたら、どこまでも広がっているかもしれない。


    けどとりあえず、天井があることはわかって良かった。


    さやか「さあ、掛かってこい!」

    「……ブシュゥゥウ」


    均一な結界内で唯一、はっきりと濁った音を響かせた天井へとサーベルを向ける。

    注視して初めて姿を認めることができた魔女は、天井に張り付く大きなカニの姿だった。



    ◆奉仕の魔女・アグニェシュカ◆

    926 = 924 :


    「ブシュッ、ブシュッ……」


    天井に鉤脚を突き立てて歩く音が聞こえてくる。

    魔女が私の頭上へ移動しているのだ。


    さやか「!」


    空を切る音に、咄嗟に飛び退く。

    私が立っていた場所から、粘っこい水がは弾ける音がした。


    さやか「……なるほど、そういう攻撃か」

    「ブシュ、ブシュ」


    びたん。びたん。

    魔女は天井を移動しながら、私がいる場所へとヘドロらしきものを落としているのだ。

    空間内が薄暗いために、水の正体はわからないが……直撃だけは避けなくてはならないものだろう。

    ただのドロ水ではないことだけは確かだ。

    927 = 924 :


    追いかけながら、遥か上から攻撃してくる魔女。

    本気の跳躍でなら、この空間の天井まで跳べないこともない。

    しかし跳ぶという行為はそのものが、隙を伴うリスクだ。

    相手が何をしてくるかもわからないし、勢い余って、あの泥だらけの体に激突したら……。タダで済むかはわからない。



    さやか「でも、今の私には盾がある!」

    「ブシュッ……」


    真上からのヘドロ爆撃に、左腕をかざす。

    ボン、と弾ける音と共に、汚泥の玉は青い障壁に阻まれ、弾けて消えた。


    「……?」


    攻撃は直撃したはずだ。カニはそう困惑しているのだろう。


    「ブシュシュシュ……」


    私がまだ無傷であることに気付くと、再び口の中から泥を絞り始める。

    もろもろと溢れてくるヘドロが、真下の私目掛け、滝のように降り注ぐが……。


    さやか「へっ」


    接触する度に弾けて振動するバリアーは、粘着質の液体であろうとも構わず外へ散らしてしまう。

    ヘドロは私に掠ることもなく、遠く離れた金網の下へ落とされていった。


    さやか「……ん」


    今も尚、開きっ放しの蛇口のように泥を落とし続けるカニの魔女。

    けどおかしい。吐き出す量が、あまりに尋常じゃない。


    この量の泥、まるで……自分の身体まで、全て吐ききってしまうような……。



    「――ブシャッ!」

    さやか「!」


    足元の金網が、巨大なハサミに引き裂かれる。

    928 = 924 :


    足元の金網から姿を見せたのは、カニだ。

    天井に居た魔女と同じ、カニの魔女。

    魔女が複数いる。そんなはずはない。


    さやか(自分を泥状に落として、足元の金網で再生したのか!)


    ハサミの二裁ち目で足場を無くされる前に、飛びつくようにその場から離れる。

    金網の上を転がりながらも、なんとか奈落への落下を防ぐことはできた。


    「ブシュ……」


    網に空いた大穴から、ヘドロ色の巨大蟹が姿を現した。

    濁った色も溶けかけた姿も汚らしいが、口元でぶくぶくと音を立てる気泡が一番不快だ。


    さやか「顔を潰す」


    篭手の左腕とサーベルの右腕を両方前に出し、魔女へゆっくり歩み寄る。

    私には最強の盾がある。いくら相手に近付いても、その鋭利なハサミでやられることは有り得ない。

    隙を見せた瞬間に、サーベルで一突き。それでゲームセットだ。


    「ブクブクゥ……」

    さやか「――」


    ――なんてことは相手も解っている

    ――じゃあ何故こいつはその場から動かないのか



    ほむら「さやか!」


    ほむらの声に反応するより先に、私はバリアーを展開した。

    929 = 924 :


    魔女の攻撃がコマ送りのようにスローになる。

    死ぬ直前の冴える頭でないことを祈りたいが、目の前の光景はちょっと切羽詰っていた。


    「――ブワッ」


    魔女の口に溜まっていた泡が大きく弾け、広い範囲に飛び散ろうとしているのだ。


    目の前から来る泥飛沫だけならまだなんとかなるだろう。

    が、飛び散り、上から降りかかってくる泥までは防ぎきれない。

    後ろへ下がるだとか、上からのをマントで防ぐだとか、目の前の飛沫をバリアして急いで上からのもバリアだとか、そんなことは出来っこない。

    それはコンマ秒ほどの出来事でしかないのだから。


    この、ちょいと体を動かすだけしかできないような時間の中で、私が足掻けることは何か。



    さやか(――あ)


    あった。

    考えている暇はない。出来ると信じよう。


    私は右足で、正面に展開したバリアを蹴り付けた。


    相手の泡爆弾が炸裂したのと、バリアに蹴りが入ったのは、全くの同時だ。

    930 :


    ああ、こんな無茶苦茶な蹴り方、小学一年の男子に混じってやったサッカー以来かもしれない。

    ただ力強く脚を前方に振り払うだけのキック。

    つま先だか足の甲だかがバリアに衝突すると共に、私の体を強烈な衝撃が襲った。それがバリアの“反動”であることは、すぐにわかった。


    さやか「っぐぁ!」


    金網の上を二、三回バウンドし、ようやく止まる。

    目算八メートル。私がバリアと接触することで弾かれた距離だ。


    「ブシュシュ……」


    だけどそのおかげで、魔女の泡攻撃を避けることには成功した。

    その場でバリアを広げているだけでは、魔女の泥を少なからず浴びていたことだろう。


    さやか「……」


    魔女の攻撃は多彩だ。

    泥を垂らすことも、塊にして投げることも、弾けさせて散らすこともできる。

    魔女の全身が泥なのだから、接近武器を持つ私にとっては確かに、苦手な相手と言えるだろう。


    けどもう大丈夫。

    今ので私は、私が思いつく限りでは最高の戦術を閃いた。


    「ブシュゥウウッ!」

    さやか「よぉーし! そろそろ本気でいっちゃうぞっ!」


    魔女が口元で泡を溜め込み始める。

    同時に、私は姿勢を低く、その場でジャンプした。

    銀の左手を足元へと向けて。

    931 :


    自分で展開したバリアーを自分で踏みつける。


    さやか(――うわっ)


    高層ビルを一気に昇るエレベーターのような強い重力が全身にかかる。


    さやか(うわっ!?)


    そんな感覚に意識を手放していたわけではない。

    ほんの少しだけ驚いて、注意がそれていただけなのだ。


    それでも私の体は確かに、結界の天井近くにまで打ち上げられていた。


    私は理解した。私自身が生み出した願いの形を。


    全てを守れるほど強くなりたい。

    守るためのこの手を、より遠くまで伸ばしたい。

    そのワガママな願いは、より克明に魔法の中へ取り込まれているようだ。


    さやか「――勝てる!」


    虚空に左手をかざし、バリアーを蹴り付ける。

    バリアーの反動が推進力を生み、体は目にも留まらぬ速さで空中を駆けてゆく。


    さやか(すごい)


    縦横無尽に魔女の周囲を飛び回る。


    さやか(翼でも生えたみたい)


    しばらくの間めまぐるしく跳び回り、ついに無防備な魔女の背後へやってきた。

    カニはもう私の姿を見失っている。


    さやか「……さやかちゃん――」

    さやか「ぶっ飛びパンチ!」

    932 = 931 :


    至近距離からのバリアパンチ。

    バリアが持つ反動の衝撃は強く、泥で塗り固められた魔女の体積のほとんどを爆発させてしまった。

    泥飛沫は全てバリアに阻まれ、こちら側へは跳んでこない。


    「――ブシュゥ……」


    そして魔女の体の中心部分に、小さな紅いビー玉のような本体を発見した。


    さやか「六甲の閂」


    静かなサーベルの横一線がビー玉を断つ。

    ヘドロの魔女はその場で崩れ、金網の下にすり抜けて見えなくなった。



    ほむら「……お見事。本当に、お見事よ」

    さやか「……へっへ」


    入り口からの控えめな拍手に祝福されながら、結界は形を失ってゆく。

    933 :

    素晴らしい成長ぶりに泣ける

    934 :

    できるさやかちゃんですね

    935 :


    落ちてきたグリーフシードを掴み取り、ほむらへと投げ渡す。

    突然の送球に二、三度お手玉しながらも、彼女はしっかりとキャッチした。


    ほむら「……バリアー、それを利用した空中での高速移動。ワルプルギスの夜と戦うには十分な魔法ね」

    さやか「相性良いってこと?」

    ほむら「剣が届く、それだけで心強いわ」


    確かに、上空何百メートルの相手に攻撃を当てるには、この能力はうってつけだ。

    フェルマータを連続発射するわけにもいくまい。


    ほむら「……できれば、杏子とも協力関係を結びたいんだけど」

    さやか「んー」

    ほむら「……それよりも、巴さんとも対ワルプルギスの話をしなければならないわね」

    さやか「マミさんなら絶対に協力してくれると思うよ。信じてくれるとも思う」

    ほむら「……さあ、そう上手くいくかしら」

    さやか「大丈夫だって、私もいるしさ」


    苦い表情の詳しい訳は知らないけど、マミさんならワルプルギスの夜とも共闘関係を継続してくれるはずだ。

    936 = 935 :


    無断で何日も戻らなかったことなどについて、両親からの激しいお咎めを受けました。

    仕方ないです。ごめんなさい。

    けどさやかちゃんは今日から一週間、悪い子になります。


    対ワルプルギスの夜作戦会議、その準備、きっと色々あるだろうから。

    ひょっとしたら、私の人生の中で一番忙しい一週間になるかもしれない。

    力及ばずで、後悔はしたくないもんね。



    さやか「……」


    ベッドの上でソウルジェムを眺める。

    澄んだ青の輝きに、改めて自分のあり方を夢想するのだ。


    小さい頃から願い続けてきた強い自分。

    全てを守ることができる自分。

    大海の青の深みの中に、私の願いは込められている。


    この海を、迫り来る敵にぶちまける時が近付いている。


    心躍るといったら、ほむらに対しての配慮がないかもしれない。

    けどやっぱり、心躍ってしまうんだ。


    だって、なかなかいないと思うよ?

    この世界には、大切な何かを守りたくても守れない、そんな人はいくらでもいるのだから。


    守る力を手に出来た幸運に感謝をしながら、私は目を閉じた。


    明日はまどかやマミさんと話ができたら、いいなぁ。

    937 = 935 :


    杏子「……」


    QB「攻撃しないでくれ」


    杏子「……ああ、今はそんな気分じゃない」

    QB「良かった、珍しいこともあるものだね。普段ならこう言って出てきてもすぐに潰してくるのに」

    杏子「何の用? こんな場所にさ」

    QB「祈りに来たわけじゃないよ、杏子」

    杏子「黒グリーフシードは無いよ」

    QB「いいや、もうちょっとちゃんとした用があるんだ」

    杏子「回りくどいな、ぶった切るぞ」

    QB「それは困る」

    杏子「言え」


    QB「ワルプルギスの夜のより正確な出現位置が予測できたよ」

    杏子「へえ」

    QB「最初の予測にほとんど間違いはないと思う」

    杏子「ほとんど、ってどんくらいだ」

    QB「何とも言い難いところだね……」

    杏子「ふん、まぁ、別にいいけどね」


    杏子「もう良いよ、さっさと失せな」

    QB「そうさせてもらうよ」


    QB「……」

    杏子「うう」

    QB「これはおせっかいかもしれないが」


    QB「祈るなら、教会内に何か、ひとつでもシンボルを設置するべきなんじゃないかな」

    杏子「最後だ、失せろ妖怪」

    QB「ああ、今度こそね」


    杏子「……」


    杏子「……――煤子さん」

    938 :

    正直この布陣でマミがいても不安要素にしかならない気が

    939 = 934 :

    >>938
    お荷物だよな

    940 :

    そんなことないだろ
    このスレでは唯一の回復魔法得意な人だぞ
    さやかちゃんは原作の超回復力が無いんだし

    941 :

    でも杏子にあうとメンタルが

    942 :

    >>940
    でもその分マミの火力とリボンがまったく価値なくなってるからな
    回復「しかできない」メンバーを入れるような余裕ないと思うんだが
    勝手に自分が怪我して勝手に消耗してるだけとかなりかねん

    943 :

    他が活躍してるのを見て無茶してやられそう

    944 :

    対人戦とハトムギ描写のお陰で二人共凄いように見えてるが相手はゴジラさんだぞ?
    正直、杏子やさやかはどうやって闘うんだよって気がしないでもない

    945 :

    マミを叩きたいだけなのか知らないけど遠距離高火力に回復で十分でしょ
    今までのループにない攻撃の威力上げる描写だってされてるし

    946 :

    タイムパラドックスでなにが起きるかわからないとしてもマミさんを放置はいけなかったな……

    947 :


    † ――月――日



    ほむら「……」

    QB「暁美ほむら。君が時間遡行者であることはわかっている」

    ほむら「……“無駄な足掻きはやめたらどうかな”……百回以上は聞いたわ」

    QB「……やはりね」

    ほむら「さっさと出て行って頂戴、インキュベーター。あなたの言葉にはもう、煩わしさしかないの」

    QB「そういうわけにはいかない」


    QB「僕は交渉に来たんだよ、ほむら」

    ほむら「……」

    QB「この交渉を成功させなければ、僕の個は本幹領域に同期できなくなってしまった」

    ほむら「……どういうことかしら」

    QB「聞いてくれるのかい? ありがとう」


    QB「これから話すことは、君にとってデメリットを減らすものとなるだろう」

    QB「よく聞いてほしい」

    ほむら「……」

    948 = 947 :


    QB「君の願い、時間遡行の魔法が、鹿目まどかという一人の少女の因果を高めていることには、気付いている?」

    ほむら「随分と前に聞いたわ」

    QB「それを聞いてもなお、幾度となく遡行を続けているわけだ。まぁ、それはいいよ」


    QB「率直に問題を言おう、これ以上の時間遡行はやめてもらいたい」

    ほむら「断るわ」

    QB「これは知性集合体(スペース)からの要請でもある、僕というインキュベーター個人よりも高度な場所からの頼みだ」

    ほむら「穏やかでは、ないみたいね」

    QB「経緯を説明しよう」


    QB「君の宇宙結束によって、平行世界の特定値は上昇し続けていた」

    QB「これは何十回程度の結束であれば問題ないレベルの偶然として片付けることができるのだが、さすがに数千を越えるのはやりすぎだね」


    QB「鹿目まどかの因果量、そして魔力係数は臨界を迎えつつある」

    QB「スペースはついに、鹿目まどかという個体に対して第二種の警戒令を発動した」

    QB「だが僕たちが鹿目まどかの因果異常を観測し認識できるのは、16日のその日からだ」

    QB「こんな辺境の星に、しかも一ヶ月以内に対応者を派遣することはできない」

    QB「対処できるのは、駐在しているインキュベーターの僕だけだ。しかも、現地生物への要請という遠まわしな形限定でね」

    949 = 947 :


    ほむら「要請とは」

    QB「これ以上の時間遡行をやめてもらいたいのと」

    QB「暁美ほむら、君に宇宙結束の解除をしてもらいたい」


    ほむら「……やめたくはないし、解除の仕方なんていうのも知らない」

    QB「理由を説明しなくてはならないね」


    QB「まず、これ以上の時間遡行はNGだ。契約上強制はできないのだが、やめてもらわなくては全宇宙の生命が死滅する」

    ほむら「……」

    QB「鹿目まどかの因果量・魔力量は、もう容量限界に達しつつある。臨界を迎えようとしているんだ」


    QB「臨界によって、鹿目まどかはその姿を保てなくなり、宇宙ごと歪ませてその存在を消滅させるだろう」

    ほむら「……嘘ね」

    QB「こんな嘘を今更つくと思うかい?」


    QB「暁美ほむら、君の時間遡行は無限ではないことを知っておいてほしい。これから先の遡行は、0.01%以上の確率で宇宙の死が待っていると思ってくれ」

    ほむら「……」

    950 = 947 :


    QB「けど本題、要請の本懐はこっちにある」

    QB「暁美ほむら、君による宇宙結束の解除作業をやってもらいたい」


    ほむら「……それは何なの」

    QB「簡単に言えば宇宙の治療行為だ」


    QB「君が鹿目まどかを軸に束ねた、一ヶ月間の宇宙たちを平行状に解き、元の状態に修復してほしい」

    ほむら「……そうすれば、まどかの因果が消える?」

    QB「完全消滅はしない。君が初めて出会った頃のまどかに戻るはずだ。魔法少女としての才能が消えることはないよ」

    ほむら「……」

    QB「宇宙結束の解除が行われれば、一点に集中した因果も拡散する。宇宙は救われるわけだ」


    QB「君にとってもデメリットはないはずだよ。その状態に戻せば、君は再び時間遡行を行うことができるのだからね」

    ほむら「甘言ね。どうせ何か裏があるのでしょう」

    QB「僕たちにとっては、宇宙が無事であることは最優先事項だ」

    QB「まどかの感情エネルギーなどはあくまでも二の次、生産品に過ぎないからね」


    ほむら「また時間を巻き戻し続けて、同じことになるかもしれないわよ」

    QB「その間に君が事故死してくれることを願うばかりだよ、暁美ほむら」

    ほむら「ふ、ついに包み隠さずに言ってくれたわね」

    QB「こんな面倒事は何度も起こってほしくないからね」


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