私的良スレ書庫
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元スレ幼馴染「……童貞、なの?」 男「」.
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借りたものは返さなければ人の道にもとる。
俺は後輩から借りたCD(インディーズのロックバンドだった。微妙に良かった)をどう返すかを悩みに悩んでいた。
彼女の連絡先は知らなかったし、家に直接行くというのも少し抵抗がある。
どうしたものかと悩む。屋上さんにメールすればいいのだと気付いたのは一日悩んだあとの朝だった。
メールをするとすぐに返信が来た。今なら家にいるというので、さっそく押しかけることにした。
許可をとって準備を始める。時間には気を遣った。男友達と遊ぶのに遠慮はいらないが、女子の家はそれとはわけが違う。
遅すぎず早すぎず、あまり邪魔にならない時間帯に留意した。
ちょっと長居できるかもという打算も含めて。
原付で行くか自転車で行くか、迷う。せっかくなので原付で行こうと決めた。
妹に目的と行き先を告げて玄関を出る。彼女は微妙そうな顔をしていた。
後輩と歩いた道をなぞる。夜だったので分からなかったが、意外と悪くない雰囲気だった。
原付で行けるところまで行く。さすがに庭園までは乗り入れられない。道の脇に停めて鍵を抜いた。
玄関まで行ってどうしたものかと悩む。周囲を見回してからインターホンに気付く。
押してから、身だしなみが妙に気になって髪を手櫛で梳かす。すぐに中から声がした。
屋上さんか後輩が出ると思っていた俺は、少しだけ混乱した。出迎えてくれたのは小学生くらいの女の子だったからだ。
「こんにちは」
「こんにちは」
お互い硬直する。あ、俺がなんか言わなきゃダメなんだ。数秒後にそう気付いた。
「あの、アレだ、えっと」
……なんといえばいいんだろう。
そういえば後輩の下の名前は知らないし、屋上さんの方だって分からない。
困った。
俺がどうしたものかと考えていると、すぐに屋上さんが玄関にやってきた。髪は結んでいなかったけれど、眼鏡はしていなかった。
「どうも」
「……どうも」
お互い、気まずい空気になる。なぜか。
「ちい姉の友達?」
「うん、まあ」
「彼氏?」
「ちがう」
屋上さんは妹(と思われる少女)を手を払って追放した。気まずい沈黙が取り残される。
「……あの。上がれば?」
彼女も彼女で対処に困っているらしい。
客間に通される。彼女は麦茶を出してくれた。なんとなくお互いそわそわと落ち着かない。屋上さんはしきりに髪の毛先を弄っていた。
「あ、後輩は?」
「部活」
いないらしい。
「これ、CDなんだけど」
「あ、うん」
渡しておく、と屋上さんは頷いた。
また沈黙が落ちる。
どうすればよいやら。
困っているところに、先ほどの少女がやってくる。
「……彼氏?」
「ちがう」
俺が少女に目を向けていると、屋上さんはそれに気付いて、ほっとした態度で紹介してくれた。
「妹」
「どうも、妹です」
上二人の姉妹はどことなく雰囲気が似ていたが、一番下の妹はまるで違った。
天真爛漫で人見知りしない、ような印象。
「姉のことを末永くよろしくお願いします」
そして人の話を聞かないところがある。
「ちがうってば」
「どこで知り合ったんですか?」
「学校が一緒なんだよ」
「どうして平然と答えてるの?」
屋上さんは疲れきったように溜息をつく。
少しだけ緊張が取れた。なんとなく安心する。二人きりになったら固くなって何も言えそうになかった。とても助かる。
屋上さんは妹さんのことを「るー」と呼んでいた。名前を聞くにもタイミングが分からず、俺もそう呼ぶことにする。
基本的にコミュニケーションは苦手です。
るーちゃんは俺と屋上さんの関係をやたら気にしているようだった。
第三者に説明しようとして初めて気付くことだが、俺と彼女の関係はとても説明しにくい。
クラスメイトというのではないし、友達というには少し距離がある。その割には毎日のように顔をあわせていた。
彼女は俺のことも根掘り葉掘り訊ねた。
仕方ないので、おととし地球を侵略しに来た宇宙海賊ダークストライカーを撃退したことや、
幼少の頃は国中から天子と崇められていたが、魔人・九島秀則の呪術と謀略によって生まれ故郷を後にしなければならなかったことや、
夜な夜な町に出没する、白衣のマッドサイエンティストが作り出した黒き魔物と日夜戦いを続けていることつまびらかに語った。
「すごいですねー」
感心された。悪い気はしない。
屋上さんは呆れたようで、何も言ってこなかった。
「よくそんなに作り話が出てきますね」
感心のしかたが微妙に大人だった。この少女、侮れない。
もっと話して下さい、とるーちゃんはせがむ。
仕方ないので、これは秘密の話なんだけど、と前置きして話を始める。
魔術結社<輪廻>に追われていたときの話。
彼らの扱う魔術は、あまねく人々の命を刈り取ることで生まれる『ガイアの雫』と呼ばれる魔力を源にしていた。
強力な魔術であればあるほど多くの雫を必要とするので、大量の魔力を得るために彼らは多くの人間を犠牲にする。
けれど<輪廻>の最終目標である因果改竄術は、どれだけの人間を殺したところでとても間に合うような魔術ではなかった。
魔力の欠乏を解消しようと苦慮した彼らは、あるとき無限の魔力を持つ魔道人形の噂を聞き、彼女を手に入れようと目論んだ。
くしくも<輪廻>の魔の手がその少女へ伸びる前日、俺は街中で彼女と遭遇し、友達になっていた。
そして彼女とかかわったことで、俺は事件に巻き込まれ、<輪廻>との終わりなき闘争へと身を投じることになったのだが――
――という設定のライトノベルを書こうとしたことがある、と、るーちゃんに話した。
そのすべてを語るには少しばかり余白が足りない。
「正統派ですね」
正統派だろうか。
その後、三人で人生ゲームをして遊んだ。
最下位は俺で、一位はるーちゃんだった。なぜか納得のいく順位。
帰ってきた後輩を交えて四人で話をする。男女比率が夢のようだった。
「また来てくださいね」
るーちゃんはとても良い子です。
別れ際、屋上さんがなんだか困ったような顔をしているのが見えた。
なんだかなぁ。
お互い、上手く距離が測れていないのかもしれない。
でも、悪い気分じゃなかった。
翌朝目覚めたのは八時頃だった。
妹と一緒に穏やかな朝を過ごす。まったりと朝を過ごすのが久しぶりのような気がした。
「……そういえば」
「なに?」
不意に口を開くと、妹はきょとんとした顔でこっちを見る。なんだか最近、態度が柔らかくなった気がする。
「俺はおまえと結婚しなければならないようだ」
「何言ってるの?」
態度が柔らかくなっていたのは錯覚だったようで、絶対零度の視線は健在だったらしい。
とはいえ、至って正気である。回想する。
『姉って何歳の?』
『たしか、俺と同い年だったはず』
『同じ学校かもね』
『ないない。そんな偶然ない。あったらおまえと結婚する』
というやりとりが、以前あった。
「ね?」
「いや、ね、と言われても」
妹は困ったように眉を寄せた。
「同じ学校の人だったの?」
同じ学校の人でした。世の中って狭い。
妹は俺の言葉を無視して家事に励んだ。手伝おうかと名乗りを上げると洗濯物を任される。
洗濯物。
魔性の気配がする。
が、妹なのでなんら問題ない。
正午を過ぎた頃、幼馴染とタクミくんがやってきた。
「また来たよー」
気安げに幼馴染が言う。タクミくんは今日も今日とてゲームをぴこぴこしていた。
なんだかちょっと寂しいので、みんなで映画でも見ることにした。
『七つの贈り物』。ちょっと前に見た。眠くなるほど退屈な序盤。独特の空気。
話は広がるだけ広がり、それはなんの説明も伴わず進んでいく。眠くなる。
のだが、中盤を過ぎた頃に、その流れは一変する。
明かされる主人公の背景。過去。事実。目的。それらが前半に積み重なった伏線と同調して急展開を迎える。
多少の不満点はあるが、それを補ってあまりある勢いがある。
終盤ではストーリーが一気に転じて、ラストシーンへと静かに収斂していく。
おしまい。
見終わった後、しばらく四人で並んで黙っていた。
「いい映画だったねー」
幼馴染が最初に口を開くが、彼女はだいたいの映画に「いい映画だったね」という感想をつける。眠らない限り。
妹と俺は一度見たことがある。二度目なので余計面白い部分もあった。
タクミくんは一本の映画を丸々見たせいで疲れたらしい。
気付くと彼は眠っていた。ソファに寝かせてタオルケットをかぶせる。
妹とは四歳くらい違うのだろうか。ちょうど昨日会ったるーちゃんと同じくらいの年齢。
このくらいの年頃のとき、俺はどんな子供だっただろうか。よく覚えていない。友達がいなかったことだけは覚えている。
ちょっとしてから、屋上さんからメールがあった。
『るーが会いたがってる』
……ええー。
どんだけ懐かれたんだよ、と自問。そこまで好かれるようなことをした記憶がない。
今、親戚の子が来ているのでいけない、と返信する。厳密には違うが、まぁそんなようなものだろう。
これなら引くだろうと思ったのだが、屋上さんは難攻不落だった。
『実はもう向かってる』
俺の家知らないはずなのに。
後輩か。
そういえばこの間送っていったときに、途中で通った。
「……うーん」
まぁ、いいか。
別に問題ないような気がしてきた。
いや、問題はあるのだけれど、そこまで必死になって阻止するようなことでもない。
迎えに行くとメールして、玄関を出た。いったい何が彼女らをそこまで駆り立てるのか。
ちょっと歩くと、三姉妹が歩く様子が見えた。
屋上さんが気まずそうな表情をしているのが分かる。
家に連れて行く。寝ているタクミくんと二人の少女を見て、るーちゃんが「どっちが恋人ですか?」という。どっちも恋人じゃない。
幼馴染は意外にも屋上さんと面識があったようで、すぐに話を始めた。
妹は後輩に挨拶をしながらこちらを睨む。なぜ?
そういえば、幼馴染以外の女子を家にあげるなんて初めてだった。
混乱する。
るーちゃんは俺に会いにきたはいいものの、何を話せばいいのか分からずに戸惑っている様子だった。
仕方ないのでみんなでトランプを始めた。
人数は大したものだった。俺、妹、幼馴染、屋上さん、後輩、るー、それにタクミくんが目覚めると七人になる。
これだけの人数がいるにもかかわらず、なぜか俺が負けた。
昼過ぎに、食料を求めてコンビニへと歩いていくことになった。
ジャンケンによって選出された二名が。
やっぱり負けた。
もう一人は屋上さんだった。
話をしたかったので、ちょうどいい。
が、最近ちょうどいい偶然が起こりすぎているような気もする。
頭の中でずっとエンターテイナーが流れている気分。
「突然押しかけて、ごめん」
彼女は何かを扱いかねているような表情で俯いた。
屋上さんは眼鏡は外していたけれど、髪は下ろしていた。私服が大人しい雰囲気のもので、それが妙に似合っている。
普段のイメージとまるで違うため、違和感はある。こうしていると誰か別人と歩いているようだった。
虎の威を借る狐の化けの皮を剥いだら、やたら可愛い狐が出てきた感じ。
いや、ちょっと違う気もするけれど。
そのせいか、気分がとても落ち着かない。
さっきまで大人数でいたせいでなんとかごまかせていたのだが、
とても、落ち着かない。
なんだかなぁ、と思う。
屋上さんの態度も、なんだか妙だった。
妙というか、変だった。
距離を測りかねている感じ。
「るーが」
と、屋上さんは話を始めた。
「はしゃいでるというか。私が家に友達入れるの、初めてだったから」
友達、と言われて、一瞬、歓喜に浮かれると同時に、暗い罪悪感に包まれた。
そもそも俺はまっとうな友達作りというものができない人種なのだ。
人の輪に入るということができない。自分が邪魔をしているように感じる。
だから、サラマンダー、マエストロ、後輩、部長、屋上さん。
一人でいる人にばかり声をかける。
そもそもやり方が卑怯。
そんなことは、たぶん言っても分かってもらえないだろうけれど。
だから、多人数でいると取り残されたようで不安になる。
置いてけぼりの気持ち。
でもまぁ、そんなことを考えたって仕方ない。
屋上さんはそれっきり押し黙ってしまって、コンビニにつくまでずっと無言だった。
買い物をしている間も、なぜか、なんとなく、話しかけづらい雰囲気。
でも、それは悪い意味ではなくて。
照れくさいような、気恥ずかしいような気持ち。
俺だけかも知れないけれど。
いつのまにか頭の中の音楽がエンターテイナーからジュ・トゥ・ヴに切り替わっている。
単純。
どっちもどっかで聞いたことがある感じのする曲には変わりない。
食べ物、飲み物、アイスを購入し帰路に着く。蝉の声はほとんどしなかった。
帰る間も、互いに言葉を交わすことはなかった。
落ち着かない気持ち。
なんだかなぁ、という気持ち。
何かを言うべきなような気もするし、何も言うべきではないような気もする。
まぁいいか、という気持ち。
その後、昼食をとってから夕方までゲームを交代しながら遊んだりした。
後輩、屋上さん、妹の三人は、ほとんど遊びには参加しなかった。ダイニングのテーブルに腰掛けて話をしていた。
夕方を過ぎた頃ユリコさんが迎えに来た。
タクミくんは遊び足りなそうな顔をしていたけれど、また今度、というと少しだけ表情を明るくした。
「今度バーベキューやろうと思うんだけど」
ユリコさんはまた唐突に言う。普通は親戚同士で盛り上がるのではないのか。
「行っていいんですか?」
「予定ないならだけど」
予定はほとんど白紙だが、普通なら遠慮するところだ。
「じゃあ決定ね」
決定されていた。表情から予定の有無を見抜くのはやめてほしい。
「そっちの人たちも来る?」
と、彼女は三姉妹に声をかける。
「他にも友達呼びたかったら呼んでいいから」
勢いだけで乗り切られる気がした。
「……えー」
人、増えすぎだろう。
この場にいる子供七人大人一人。その段階でも既に多すぎるくらいなのに。
かといって男女比的にこのままでは困る。
「やっぱり俺は遠慮……」
「できません」
「俺、ノーと言える日本人なので」
「イエスと言い続ける日本人の方が潔くて好きです」
ユリコさんには反論できない。
仕方ないので後で連絡の取れる男子三人に予定を訊いてみようと思った。
仮に全員揃ったとして、人数はゆうに十人を超える。
増えすぎだろ。
ちょっと怖い。
そんなふうにして一日が過ぎていった。
翌日、妹は幼馴染と一緒に出かけた。水着を買いに行くらしい。
水着て。
暑いからプールに行きたいらしい。
一人家に取り残されて、俺は暇を持て余していた。
夏休みの過ごし方としては、だらだら家でひとり過ごすというのも正しい気がする。
暇だったのでテレビをぼんやり眺める。
すぐに飽きた。
麦茶を飲みながら静かに時間を過ごす。
課題やってねえ、と不意に思った。
でも、めんどくさい、と思った。
そういえばバイトしようと思ってたのも忘れていた。
まぁいいか、と思う。
ダメ人間ここに極まれり。
暇なのでゲームをする。
なぜかちっとも楽しめない。
仕方ないので昼寝をする。
目が覚めた頃には夕方だった。
一日があっという間。
夏休み、という感じ。
夜は妹と二人で食事をとった。
穏やかな日々。
「今度プール行くってことになったけど、お兄ちゃんも行く?」
「行く」
当然。
いい年して一緒に遊びに行く相手が妹以外にほとんどいないってどうなんだろう。
マエストロは基本的に趣味に没頭するタイプだし。
サラマンダーは自分の世界に閉じこもってるし。
キンピラくんとは微妙に距離があるし。
友達ほしい。
その夜は暑くて寝苦しかった。
あれ……幼馴染至高派だったはずなのに屋上さんよくね……?
乙
乙
いつの間にかチェリーに主人公補整かかってるんだけど
こっち側の人間だと思ってたのに…
こっち側の人間だと思ってたのに…
ふざけんな このチェリーはやく爆ぜろ
後輩と屋上さんは俺が頂く
後輩と屋上さんは俺が頂く
>>488
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幼馴染さいこー
年齢が確定できる文ってあったっけ?
部長だけかな?
チェリー達は高校1or2?
後輩、妹が中学でたくるーが小学?
年齢が確定できる文ってあったっけ?
部長だけかな?
チェリー達は高校1or2?
後輩、妹が中学でたくるーが小学?
翌日は部活があった。
最近、ろくでもない生活を送っている気がする。
目を覚ます。食べる。寝る。起きる。食べる。寝る。食べる。寝る。遊ぶ。寝る。
課題してない。
さすがにまずいよな、と学校に課題を持ち込む。どうせやることがない部活。
なんだか気が抜けている。
遊んでばかりだからだろうか。
このままじゃいけない、と思うが、何がいけないのかが分からない。
よくよく考えれば学生の夏なんてだらけているのが当然という気もする。
ひんやりとした校舎。
音が遠く聞こえる下駄箱に響く、上靴が床を叩く音。
自分の起こす音だけが、やけに大きく聞こえる世界。
太陽は相変わらず喧しいような光で地上を照らしている。緑の木々が潤んだ風に揺れて、ひそやかに夏を彩る。
木漏れ日の下の水道に、休憩中の運動部が笑いながら近付いていく。
体育館から響くボールが跳ねる音。掛け声。グラウンドからバッドとボールがぶつかり合う音が聞こえる。
吹奏楽部の練習の音。廊下の途中で通った教室で、誰かが話す気配。
部室に向かう途中で、ちびっこ担任と出会った。以前とあんまり変わった様子はない。
「おう」
「どうも」
言葉を交し合う。あんまり個人的に言葉を交わしたことがない。そもそも教師があまり得意ではなかった。
「どう? 調子」
「何の?」
「いや。いろいろ?」
ちびっこも、訊ねておいて困っているようだった。彼女の立場で想像すると、確かに「いろいろ」としか言いがたいかもしれない。
「まぁ、そこそこ充実した夏を送ってますね」
「妬ましいな。呪われろ」
自分から訊いておいて呪うこともないと思う。
「まぁ、ほどほどにな」
大人っぽい言葉を投げかけられる。
部室に行く。やっぱり来ている部員は少なかった。
それでも部長はいる。彼女は窓際の椅子に腰掛けて本を読んでいた。
ドアを開けて部室に入ったとき、その音に気付いた部長が顔を上げた。
話しかけるのは邪魔になる気がして、頭を下げるだけにとどめる。
適当な位置に荷物を下ろして課題を進める。
開けっ放しの窓から入る風が、日に焼けた薄いカーテンを揺らしていた。
静かな時間。
数人の先輩たちが一箇所に集まって話をしていたけれど、それは気をつければ聞こえないほど小さな声だった。
休み前の騒々しさと比べると、あってないようなものとすら言える。
部室はやけにひんやりと涼しかった。
自分でも驚くほど集中して課題を進められた。静かな時間。こういうのも、たまには必要なのかもしれない。
部活を終えて家に帰る。玄関のドアを開けなくても、中で人が騒いでいるのが分かった。
妹、幼馴染、タクミくん。
屋上さん、後輩、るーちゃん。
すっかり遊び場にされてしまった様子だった。
リビングに入ると、みんながいっせいに俺の方を見た。一瞬動揺する。
彼女らはそろって「おじゃましてます」と言ってから、またがやがやとした騒ぎの中に戻っていった。
なぜこうなった。
幼馴染は俺の方を見て少しだけ申し訳なさそうな顔をした。
「来たらいなかったから」
いなかったから?」
「勝手にあがったの」
だろうね。
妹がいたから勝手とは言いがたいけど。
屋上さんの方を見る。彼女は気まずそうに目を逸らした。
「一応、メールしたんだけど」
ポケットから携帯を取り出す。マナーモード。メールが来ていた。
俺が悪かった。
「うちの兄は人気者のようで大変誇らしいです」
妹は不機嫌を隠そうとするとき敬語になる。
なぜ機嫌が悪いのかはちっとも分からない。
こんなに人数がいては収拾がつかない。
「よし、タクミくん、るーちゃん! ザリガニ釣りに行こうぜ!」
「暑い」
「ジュース買ってくれます?」
ノリの悪い子供たちだった。
るーちゃんに至っては、「遊びに行きたい子供に仕方なくついていく年上の姉」みたいな雰囲気すら滲ませている。
なんだろうこの気持ち。ちょっといいかもしれない。
嘘だ。
「なんだよもう、どうしろっていうんだよ」
「どうもしなくていいんじゃないすか」
後輩が楽しそうに笑う。
じゃあもうどうもしなくていいや。
「先輩、私とオセロします? オセロ」
「なんでオセロ?」
「あったからです」
後輩とオセロをする。
るーちゃんとタクミくんは――もうめんどくさいので「るー」と「タクミ」でいいや。二人は仲良くアニメのDVDを見ていた。
ぶっちゃけサラマンダーとマエストロに押し付けられた深夜アニメなのだが、楽しんでいるならいいだろう。そのうちパンツシーンが来る。
麦茶を飲む。幼馴染と屋上さんが何か話をしていた。今度いくプールの話。幼馴染が屋上さんを誘っているらしい。
「先輩、ひょっとして迷惑でした?」
後輩が言う。
「なにが?」
「来たの」
「まさか」
本音だった。にぎやかなのは嫌いじゃない。騒がしいのは好きじゃないけど、意味が違う。
赤の他人の子供の泣き声と、親戚の子供の泣き声くらい、意味が違う。
「さ、勝負勝負」
後輩とオセロをしている間に、子供たち二人は眠ってしまった。
よく寝るなぁ。もう昼寝が必要な年齢でもないだろうに。
それだけはしゃいでいたのだろうか。
ジャンケンで食料の買出しにいく人間を決める。いっそ準備しておけばいいのかもしれない。
当然のように俺が負ける。
もう一人は後輩だった。
毎日のようにコンビニで金を浪費している気がする。
このままじゃいけない、と思う反面、夏だし、アイスくらい誰でも買うよな、という言い訳がましい部分もあった。
「まぁ、なんだかんだでいい機会なのかもしれないです」
コンビニ帰り、ポッキーをかじりながら、後輩は不意にそんなことを言った。
「何の話?」
「うちのきょうだい」
何の話かが分からず、続きを待って口を閉ざす。後輩の言う言葉の意味がよくわからなかった。
「ぶっちゃけ、そんなに仲良くないんですよね。嫌いとかじゃなくて。なんというか……」
「距離を測りそこねている」
「そう、そんな感じ」
ようやく後輩が言わんとしていることを理解する。三姉妹の間に、どことなく距離がある、というのは俺も感じていた。
互いに直接言葉を交わすことが少ないし、会話するにしてもなぜか他者を中継する。
距離を測りそこねている感じ。
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