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元スレ幼馴染「……童貞、なの?」 男「」.
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夢の内容を覚えていたので、意識がはっきりしたあとも、目を開けるのが少しだけ怖かった。
まさか、本当に妹がいなくなっているということはないだろうけど。
まさか、幼馴染が先輩と付き合ってなかったというのが夢だったわけではないだろうけど。
考えごとをしながら身体を揺すると、なにかの感触があった。
目を開くと、腕の中に妹がいた。
強く動揺した。
顔が近い。
いったいなにが起こったというのか。
なぜこうなった。
「……起きた?」
妹は心底困り果てたような声で訊ねた。
頷きながら、状況を分析しようとする。
なんだ、これ。
「起きたんなら、放してほしいんだけど。腕」
言われてから、自分が妹をなかば拘束していることに気付いた。
目を開けるとそこには妹が……って、さすがに驚く。
妹を解放する。
彼女はベッドから起き上がって居住まいを正した。
落ちつかなそうに視線を動かしながら、後ろ髪を撫でている。
なにがどうなった。
混乱する俺を尻目に(以前も言ったように尻目という言葉には独特の卑猥さがあるが、今はそんな場合ではない)妹は部屋を出て行った。
「朝ごはん、できてるから」
気まずそうな顔をしたまま去っていく。
ひょっとして記憶が飛んでるんじゃなかろうか。
携帯を開く。
月曜。昨日の記憶もはっきりとしていた。
なにが起こったのか、妹は結局説明してくれなかった。
「なんていうか」
通学路を並んで歩いていると、不意に幼馴染が口を開いた。
「シスコンだよね。妹ちゃんもブラコンだけど」
自覚はある。
「たぶん、寝ぼけて布団の中に引きずり込んでしまったんだと思うんだけど」
でも、それなら殴られるような気もする。反応がおかしかった。
ギャルゲーかなんかなら、寝てる間にキスでもされてるところだろうが、現実なのでありえない。
考え込んだ俺の姿を、幼馴染がじとりと睨んだ。
「なに?」
「別に、なんでもないよ」
言葉の割には不服そうな表情をしていた。
教室についてからは幼馴染と別行動をとった。
先週までのことを考えれば、突然一緒に行動するようになるのは不自然だというのもあるが、以前からそういうところがあったのだ。
お互い、教室にいるときはあまり話しかけあわない。
なにか理由があってのことではないが、いつのまにかそうなっていたし、特別不満は感じない。
急に手持ち無沙汰になる。
先週までどうやって過ごしていたかを思い出せない。
佐藤たちの大富豪に混ざったり、マエストロが俺の席で薄い本を読んでいたり。
思い返しながら佐藤たちの方を見る。今日も今日とて大富豪に興じていた。
俺は佐藤たちの円に割って入って大富豪に参戦した。
「今度は負けないぜ?」
佐藤は苦笑していた。
今日の俺は絶好調だった。2が一枚、Aが三枚、ジョーカーが一枚。
3も4もある。絵札も充実している。これならいける、と俺はほくそえんだ。
最初は様子をうかがうように強い数字を出し惜しむ三人に対して、絵札を駆使して一気に攻める。
強い数字を出し切ってから、A三枚とジョーカーで革命を起こす。ワイルドカード。
あとは大きい数字の順に出していくだけだ。
俺は勝利を確信しながら9を出した。
続く佐藤が、8を出した。八切り。
初手を取った佐藤は6を三枚とジョーカーで革命を起こす。
結果、俺は大貧民だった。
「……おかしいだろ、あの手札で勝てないって」
佐藤は困ったように笑っていた。
昼休みになってすぐ、あくびが出た。大きく伸びをすると、筋肉が心地よくほぐれていくのを感じる。
ひさびさに授業に集中できた気がした。
妹が作った弁当を持って屋上へ向かう。結局月水が妹で、火木が幼馴染らしい。
屋上には、相変わらずの顔をした屋上さんがいた。
ポニーテール。退屈そうな視線。サンドウィッチをもさもさと食べる。
土日振りに見る彼女の姿は、先週までと少しも変わりなかった。
俺は彼女の隣に座って弁当をつつく。彼女は俺を一瞥したあと、視線をフェンスの向こうに送った。
「ツバメでも飛んでるの?」
「それが、いないんだよね」
月曜だからか、彼女は少し眠たそうだった。
沈黙が落ち着かなかったので、適当な話題を屋上さんに振る。
「テスト勉強してる?」
「まぁ、そこそこ」
俺は全然してない。
……本当にしてない。
「それはともかく」
分の悪い話題だったので話を逸らした。
自分で振っておいて、という顔で屋上さんがこちらを睨む。俺のせいじゃない、星の巡りが悪かったんだ。
「このまえさ、グーグルで『堤防』って入力して画像検索したのよ」
「突然なに?」
「したらね、すげえの。なんか癒されるの。あ、この町住みたい、って思うよ、きっと。今度やってみ?」
感動を伝えようと興奮するあまり口調が変化した。
でも、よくよく考えると喋り方なんていつも安定してないし、まぁいいか。
「こりゃあすごいと思って、次は『海』って検索したよ」
「そうしたら、どうなったの?」
「沖縄に行きたくなった」
湘南でもいい。なんか、海っぽいところであればどこでもいい。夏だし、どうにかしていけないものか。海。
この街から海を見に行こうとすると、車で一時間から二時間。自転車でどうにかできる距離じゃない。
「で、画像検索が楽しくなって、今度は『水着』で検索した」
「そしたら?」
――めくるめく肌色世界がそこにはあった。
「ごめん、言わなくてもいい。だいたい想像ついたから」
屋上さんは察しがいい。
昼食を食べ終えてから教室に戻ると、茶髪に声をかけられた。
「ネタバラシされたんだって?」
何の話か、と考えて、すぐに思い当たる。
幼馴染のことだ。
「茶髪、知ってたの?」
まぁね、と彼女は頷いた。幼馴染の言葉を思い出す。
――友達に、一度、相談したの。
こいつか。
「まぁ、元気が出たようで何よりだな、チェリー」
「いやまぁ」
あまりそのあたりには触れてほしくない。反応に困るから。
茶髪との話を終えて自分の席に戻る。授業の再開を待っていると、教室の入り口で誰かに呼び出された。
メデューサがそこにはいた。
彼女は俺を見て、一瞬だけ顔を強張らせた。
一瞬だけ警戒しかけたが、先輩が大丈夫と言っていたのを思い出す。実際、彼女は何もしてこなかった。
メデューサは気まずそうに俺から目を逸らす。ちょっとどきどきする。
「……あの」
「はい」
「……ごめんなさい」
謝られた。
なぜだか後ろめたい気分になる。
「私、自分のことしか考えられないというか、周りの様子が見えなくなるというか、感情的に行動してしまうというか、
ダメなのは分かってて直そうとしてるんだけど、どうしてもこう……」
メデューサはその大きな瞳を伏せた。
「ごめんなさい」
メデューサは謝った。俺はなんと返せばいいのか分からなくなった。
例の罵詈雑言はすさまじく恐ろしかったが、別段傷ついたりはしなかったし、実害はこうむっていない。
腹は立ったが、それは俺がそう思うからであって、メデューサからすれば自然な行動だったのだろう。
「別に怒ってませんよ」
自分のことしか考えられない、周りの様子が見えない、感情的に行動する、というのは別段悪いことではない。
周囲のことばかり気遣って、いつも周りとの距離を測っている、理性的な人間。
そういう人間よりは好感が持てる。
とはいえ、さんざん好き勝手言われたのは事実。何も悪いことしてないのに責められて、少し落ち込んだ。
だから、いいところと悪いところを相殺するということにした。
プラスマイナスゼロ。
「先輩に怒られました?」
「……君を呼び出したことには、うん」
「ならいいです」
メデューサは不思議そうな顔をしていた。
そのとき、チャイムが鳴った。メデューサは俺の方を気にしながらも、慌てて去っていった。
放課後、帰る前に携帯を開くとメールが来ていた。妹。
買い物に行くから手伝って欲しいという旨。
了解の返信して、教室を出た。
家について荷物を部屋に置く。間を置かずに妹が帰ってきた。肩を並べて玄関を出る。
ファミレスやコンビニを通過してさらに五分歩く。いつも行く古いスーパー。
店内に入る。ひんやりとした冷房の空気。
生鮮食品が並ぶ。魚、肉、野菜、果物。
「今年、スイカちっちゃいよね」
「メロンくらい小さいな」
昔はもっと大きかった気がする。あるいは俺たちが知らず知らず歳を取ったのか。
そうかもしれない。毎年こんな会話をしている気がする。
「なにが食べたい?」
「ハンバーグ」
素直に答えたら変な顔をされた。
「……今、子持ちの主婦の気持ちが分かった気がする」
俺が子供ですか。
「どんな感じ?」
「しょうがないな、って気持ち」
完全に子供扱いだった。
妹は商品を次々とカゴに突っ込んでいく。
麺系の食品が多かった。ハンバーグに関係がありそうだったのは、合挽き肉とハンバーグヘルパーのみ。
楽だしね、ハンバーグヘルパー。
俺はカゴを持ちながら妹が買い物をする様子を見ていた。
不意に思うところがあって、その横顔に話しかける。
「なんか欲しいものとかある?」
「……そういうあからさまな質問、される側としてはすっごく困るんだけど」
察された。
もうすぐ妹の誕生日なのです。ちょうどテスト明けの日曜。
「今のところ、何か思いついてるの?」
「そうあからさまに訊かれると、考えてる側としてはすごく困るわけですが」
まぁ、別段サプライズを狙ったわけでもなし。
「夏だし、浴衣がいいかなと思ったんだけど」
「浴衣て」
妹はあきれ果てたような表情になった。
「いくらするか知ってる?」
「安いのなら一万は超えないでしょう」
贈る側の言葉としては最悪だった。
「そりゃそうだけど、いくら安くてもプレゼントにさらっと出す金額じゃないでしょ」
「うん、まぁ」
「第一、どうせ夏祭りのときくらいしか着ないし」
「うん」
「着付けできないし」
「うん」
サイズが分からないし、柄のこともあるので、結局は没になった案なのだが。
そもそも自分で選んだ方がいいだろうし、夏祭りの前にはどうせ買うことになるだろうから。
どちらにせよ、なにを選ぶにせよ、結局、俺の金というよりは、親の金で買うのだから格好がつかない。
「じゃあ、いらない?」
妹は少し黙ってから、
「……そうじゃないけど」
呟いた。
照れていたらしい。
着付けはユリコさんに頼もう、と密かに誓った。
「でも、浴衣は、ちょっと、だめ」
「なんで?」
「もったいないもん」
よく分からないことを言う。
「年に一回だけでしょ、着るの。どうせならいつも使うものがいい」
難しい注文をされた。
「つまり、俺をいつも感じていたいと」
「そうじゃなくて」
渾身の冗談だったが、あっさりとかわされた。
「せっかくだからね」
とりあえず、何か考えておこう
荷物を二人で分けて運ぶ。全部を持とうとしたけれど難しかったし、意地を張るほどのことでもなかった。
帰り道では、どちらも言葉を発しなかった。やがて家に着くというところで、突然強い雨が降り出した。
慌てて家に入る。さいわい少し濡れただけで済んだ。
開けっ放しにしていた窓を閉める。家中の窓を確認してから料理を手伝おうとキッチンに向かったところで、妹の大声が響いた。
「わあっ! うわあっ! いやあ!」
ほとんど悲鳴だった。
慌ててキッチンに入ると、緑色の何かが飛び跳ねていた。
「かえる! かえるー! かえるがいる!」
めちゃくちゃ怯えていた。
かくいう俺も、
「うわあ! なんだこいつどっから入った! こっちくんな! あ、そっちにもいくなっ!」
半狂乱だった。
最終的にはなんとか蛙を屋外追放できたが、他にも隠れているんじゃないかとしばらくのあいだ落ち着かなかった。
いつから蛙を怖がるようになったんだろう。大人になったのかもしれないなあ、と少し切ない気持ちになった。
料理の手伝いを申し出ると、ひたすら合挽き肉とハンバーグヘルパーを混ぜ合わせたものをこねさせられた。
言うまでもなく夕食はハンバーグだった。いつのまに用意したのかデミグラス的なソースまであった。
その夜はずっとプレゼントのことを考えていたが、いいと思える案はなかなか浮かんでこなかった。
なんでかえる可愛いんだwwwwww
かえるを怖がる妹、でした
かえるを怖がる妹、でした
まさかカエルがフラグになるとは
この時は誰も気づかなかった。
そう、カエルのなく頃に…
この時は誰も気づかなかった。
そう、カエルのなく頃に…
鉈を持った幼なじみが夜訪ねてきて一緒の布団で寝ていた妹を見て発狂し朝日が出るまで家中追い回される
てか
乙~
デミグラス的なソース、的なカエルの体液に、カエルが混ざり込んだハンバーグか。トラウマだな
デミグラス的なソース、的なカエルの体液に、カエルが混ざり込んだハンバーグか。トラウマだな
>>324
ハンバーグ食えなくなるからよせ
ハンバーグ食えなくなるからよせ
ハンバーグ食えなくなるで人肉ハンバーグを思い出したが心底関係なかった
食肉用のカエルがいるくらいだから、混ざってても不思議でわない
味はとりに近いらしい…
味はとりに近いらしい…
>>1が書きたかったのは幼馴染じゃなく妹なのかも
妹カワユス支援
妹カワユス支援
テストが着実に近付いていた。
ろくに勉強もしないまま、テスト前期間はあっという間に過ぎていく。
サラマンダーやマエストロはなんだかんだで真面目な人種で、残された時間を使って器用に勝率を上げ続けているだろう。
幼馴染も一見普段どおりだったが、彼女はそもそも普段から少しずつ勉強しているタイプだった。
屋上さんは部活がないとストレスがたまるらしく、微妙に声をかけづらい雰囲気だったが、相変わらずツナサンドをかじっていた。
一応、俺もテスト勉強はしていたものの、どこまで効果があるかは怪しいものだった。しないよりはマシだと信じるしかない。
一問でも解ける問題が増えれば、点を取れる確率はあがっていくわけだし。
テスト開始前日、幼馴染と妹の誕生日について話をした。
「プレゼント、決まってるの?」
「いや、それが……」
まだ決まっていない。
CDや本なんて買っても喜ぶタイプじゃないし、化粧品だとまだ早いような気がする。
かといって服なんかは自分で選びたいだろうし、アクセサリーは買っても学校につけていけない。
ぬいぐるみなんかを喜ぶタイプでもない。難しい。
「去年はなんだったっけ?」
「エプロン」
それまで使っていたのが家に置いてあった母のお下がり(ろくに使ってない)だったので、新しいのを買ったのだ。
あまりわざとらしいのは個人的に嫌だったので、水色のシンプルなものにした。気に入ってるらしい。
「とりあえず、考えてもちっとも思いつかないので、土曜につれまわして自分で選ばせることにした」
幼馴染は微妙な顔をしていたが、比較的マシな案だと思えた。
そこで俺が選んだものと妹が欲しがったものを渡せば一石二鳥。我ながら良い案。
「おじさんたちは?」
幼馴染が尋ねる。少し戸惑った。
「いつも通りだな」
彼女は納得したように頷く。
「まぁ、当たり前っていったら当たり前だけど」
「そうでもないだろ」
「そう?」
彼女は不思議そうに首をかしげる。俺が間違っているような気分になってきた。
俺たちは当たり前だと思ってはいけないのです。
昼休み、屋上にいくと、彼女はやはりそこにいた。
屋上さんはサンドウィッチを食べながら単語帳をめくっている。
「……お勉強ですか」
もぐもぐとサンドウィッチを咀嚼しながら彼女は頷いた。
「ねえ、屋上さん、自分が誕生日プレゼントをもらうならなにがいい?」
参考までに訊いてみることにした。
「なんでもいいかな」
気のない返事。
「なんだってうれしいもんでしょ。プレゼントって。あることが重要なのであって」
適当かと思えば、案外まじめな意見。
とはいえ何の参考にもならなかった。
「じゃあ、兄弟っている?」
「妹が二人」
「誕生日にプレゼントってあげてる?」
「まぁ、一応ね」
頷いてから、彼女は俺に疑問を返した。
「誰かの誕生日?」
「妹」
「いるんだ」
彼女は少し意外そうにしていた。
話題がなくなる。俺は必死になって頭の中をあさり話の種を探した。
できれば夏休みになるまえまでに距離を詰めておきたいという下心。
四十連休の間、ずっと会わなかったら忘れられてしまいそうだ。
とはいえ、本当に距離が縮まったら、それはそれで戸惑ってしまうだろう。
このくらいの距離感がちょうどいい、という見方もできる。
ずるいかもしれない。
「ところで屋上さん、ちょっと気になったんだけどさ」
「なに?」
「たとえばここで、女子が着替えてるとするじゃん?」
「何言ってるの?」
頭大丈夫? 的な目で見られる。
「でさ、じっと見てるとするよね、俺が」
心配そうに見つめられる。
照れる。
できれば夏休みになるまえまでに距離を詰めておきたいという下心。
四十連休の間、ずっと会わなかったら忘れられてしまいそうだ。
とはいえ、本当に距離が縮まったら、それはそれで戸惑ってしまうだろう。
このくらいの距離感がちょうどいい、という見方もできる。
ずるいかもしれない。
「ところで屋上さん、ちょっと気になったんだけどさ」
「なに?」
「たとえばここで、女子が着替えてるとするじゃん?」
「何言ってるの?」
頭大丈夫? 的な目で見られる。
「でさ、じっと見てるとするよね、俺が」
心配そうに見つめられる。
照れる。
「でも、下着とか一切見えないんだよ、不思議と」
「さっきから何が言いたいのかまったく分からないんだけど」
「たとえば屋上さんが制服からジャージに着替えるとするでしょう」
「ええ」
「そのとき、屋上さんはスカートのまま下にジャージを履いて、そのあとスカートを脱ぐよね?」
少し考え込んだ様子の屋上さんは、やがて「ああ」と納得するような声を漏らした。
「それが?」
「女の子っていつのまにああいう技術を習得するの?」
彼女は少し呆れてながら、ちょっとだけ考えて、俺の疑問に答えてくれた。
「たぶん、男子の着替えって、周りに人がいても気にしないんだよね?」
「ああ、まぁ」
男子同士でも気にならないし、女子がいても、別になんとも思わない。
騒がれたらまずいので目の前では着替えないだけで。
「でも女子って、男子だろうと女子だろうと、見られるのが嫌なわけね」
「……女子だろうと?」
「女子だろうと。ていうか、男子なら恥ずかしいだけだけど、女子だと本当に見られたくない」
なんとなく理由は想像がつくものの、今まで気付きもしなかった感覚だった。
「それで、毎回毎回隠しながら着替えているから、もはや習性」
習性。面白い言葉が出た。習性だったのか。
和やかな会話をしながら、屋上さんと昼食をとった。
テスト前日の夜は必死に勉強をした。
一夜漬け。とはいっても付け焼刃にしかならないと分かっていても、必死になってノートにかじりつく。
早めに眠って、翌日に備える。万全の準備をした。
が、それだけ前準備をしていたにもかかわらず、終わってみればテストの手ごたえはほとんどなかった。
「だいたいさ、おかしいだろ」
俺の呟きに、幼馴染は心底同情するような視線を向けた。
「だって、テストに出ることってだいたい教科書に載ってるじゃん。だったら、分からないことがあったら教科書を見ればいいわけで」
俺は大真面目に言ったつもりだったのだが、彼女は苦笑するだけで同意はしてくれなかった。
元素周期表なんてものは必要としている奴が壁にでも貼っておけばいい。本当に必要としているならそのうち覚えてる。
家に帰ってからもしばらく憂鬱な気分は続いたが、終わったことをずっと考えていても仕方ないので、俺は土曜日のことを考えた。
一応、妹に行き先と目的を告げて出かけることは言ってある。
財布をいつもより厚くしておく。
妹だけに決めさせるのも申し訳ないので、俺もいくつか案を考えておいたが、実際に見て気に入ったものがあればそれにすればいいだろう。
ベッドに倒れこんで一日の反省をした。
勉強、せねばなるまい。
蝉の声に耳を傾けてしばらくぼーっとしていると、あるときを境にその音が耳が痛くなるほど大きくなった。
窓に目を向けると、蝉が網戸に止まっていた。
「おお! すげえ! 近い!」
思わず携帯で写メる。
蝉の腹の画像がデータフォルダに保存された。
夏だなぁ。
網戸を一度開けて、がんっ! と閉めなおした。蝉は羽を広げてどこかに飛んでいく。
もう一度がらりと開ける。青い空が広がっていた。
「夏――――ッ!」
思わず叫ぶ。
近所の犬が呼応するように吼えた。
子供たちの笑い声が聞こえる。
テストは終わった。
もう夏休みは目前だ。
土曜は近場のショッピングモールへと行った。
日用品から服、インテリア、楽器屋、靴屋、雑貨屋、ギフトショップ、アクセサリーショップ、ペットショップ、フードコート。
大小含めておびただしい数のテナントが並んでいて、大勢の人々がさまざまな店に出たり入ったりしている。
冷房の効いた店内に入っても、人波は独特の熱気を持っていてとても涼めはしなかった。
店が多いのはいいものの、おかげで一日で回りきれるほどの広さではない。
ある程度目的を決めて動かないといけない。
とりあえずぼんやりと決める。
服屋はなしにして、鞄、財布なんかを回るのがいいか、それとも小物か、アクセサリーか。
考えるのが面倒になったわけではないが、妹に先導をまかせて後をついていくことにした。
普段はあまり来ないところだからか、妹はいつもよりはしゃいでいた。
人ごみは得意ではないはずなのに、疲れた様子を見せることもない。
この反応だけで、まぁいいか、と思ってしまう。
雑貨屋を回る。クッション、ペン立て、本棚、クッション、ぬいぐるみ、さまざまなものが置いてあった。
妹はいろいろなものを触ったりしながらいろいろと見て歩いた。
俺も追いかけながら、いろいろと手にとってみる。
次にアクセサリーショップを見に行くが、これにはあまり食指が動かないようだった。
いつも身につけていられるとはいえ、金額も相応だし、学生はおおっぴらには付けて歩けない。
そもそも兄にプレゼントをされたネックレスやらなにやらを身に付ける女子というのも微妙な塩梅だ。
そうなるとやっぱり家の中で使うものがいいだろう。あるいは財布のようなもの。
「財布は、別になあ」
と妹は言う。そもそも財布にこだわる感覚が分からないのだろう。
使いやすくてあまりデザインのひどくないものなら何でもよさそうだ。
しばらくいろんな店を見て回ると、あっというまに昼時になった。
混み始めてからだと困るので、早めにフードコートへ向かったが、それでも人は大勢いた。
昼食にラーメンがいいんじゃないかと提案したところ、妹がひどく不機嫌になった。ラーメン、悪くないのに。
仕方ないのでハンバーガーにする。これも妹は少し難色を見せたが、他よりはマシと判断したらしい。基準が分からない。
「こうしてると、デートみたいだね」
と、言ってみた。俺が。
「馬鹿じゃないの?」
反応は辛辣だった。ひでえ。
腹ごしらえを終えて、少し休憩していると、聞き覚えのある声に話しかけられた。
後輩だった。
「どもっす」
「おす」
「どうも」
後輩は前にファミレスで会ったときと変わらない様子だった。
「デートすか」
「デートっす」
「違います」
示し合わせたような会話に、後輩はけらけら笑う。
「そっちはデート?」
「ああいや。家族です」
彼女はちらりと遠くの席を見た。
少しの間、話をしていると、食器の載ったトレイを持ったまま後輩に誰かが話しかけた。
どこかで聞いたような声だと思って振り向いたが、その顔に見覚えはなかった。
太い縁の赤い眼鏡。まっすぐ下ろした髪。その表情はどこかで見たことがあるような気がした。
彼女は一瞬だけ俺を見ておかしな反応をした。その直後、後輩を置き去りにして早々に去っていく。
「待って、ちい姉!」
後輩の言葉を耳ざとく追いかける。ちい姉。「ち」がつく知り合いはいない。たぶん気のせいだったのだろう。
「それじゃ、私行くんで。デート楽しんでください」
「デートじゃないです」
後輩は颯爽と去っていった。スタイリッシュ。
混み合ってきたフードコードを出る。人の出入りが多い。はぐれないようにあまり離れないように注意する。
「手でもつなぐ?」
「冗談でしょ」
半分くらい本気だったが、そう言われては仕方ない。
結局さっきの雑貨屋が一番よさそうだったので、その中を歩いてみることにする。
「マグカップ。どうよ?」
無難なものを押す。
妹は満更でもなさそうだった。
長い間、彼女はさまざまなマグカップの形や色や柄を眺めていた。
やがてこれだというものを見つけたらしく、俺に向けてそれを得意げに抱えた。
外側が黒く塗られた、シンプルな形のものだった。
一瞬怪訝に思う。本当にこれでいいのか? 受け取ってよく観察してみると、側面に小さな猫の後ろ姿が白線で描かれていた。
そしてその足元にはアルファベットが並んでいる。不器用そうなフォントで『can't sleep...』。切なげな猫だ。
「これでいいの?」
真っ黒というのも変なものだと思う。
「うん。これがいい」
いたく気に入ったらしい。そこまで言うならと早々に決定した。
満足顔の妹を横目に笑う。安上がりな奴。もうちょっと贅沢をしても誰も責めないのに。
俺はレジに寄る前に写真立てのコーナーを探した。少なくない種類がある。どれも同じに見えたが、一応意見を聞いておいた。
「どれがいいと思う?」
妹はよく分かっていない顔をしていたが、それでもちゃんと選んでくれた。シンプルであまり気取っていない木製のもの。
カメラは帰りに使い捨てのものでも買うか、と思ったが、デジカメがあるのでそれをプリントすればいいと気付いた。データのまま保存できるし。
写真屋で現像を頼むことなんていつの間にかなくなった。
せっかく来たのでもう少しだけ回って歩こうかとも思ったのだが、割れ物を持ち歩くのは少し怖いし、人ごみに疲弊しつつもあった。
早い時間だが家に帰ることにした。
妹は帰る途中も期限をよくして鼻歌を歌ったりしていた(鼻歌は歌うで合っているのだろうか)。
最近は「馬鹿が割り増しになったよね」とか言われることもなかったし絶対零度の視線を浴びせられることもなくなった。
良い傾向なのか悪い傾向なのかは分からない。
まぁ、考え事をしたって仕方ないし、と割り切る。
家に帰ってからひとりで買い出しに出た。
自分で自分を祝う食事を作るのも妙な話なので、明日の食事の準備は俺がすることになっている。
せっかくなので大量に作ることにした。豪勢に。好きなものを。
買い物を終えて家に帰ると幼馴染とユリコさんがいた。
どうやら妹の誕生日前日ということで、プレゼントを置きにきたらしい。
彼女たちはプレゼントを妹に渡してわずかに言葉を交わしたあと早々に帰っていった。
その後俺たちは夕飯をとってリビングで暇を持て余した。
テストが終わったばかりで、何もすべきことが見当たらない。
とにかく映画でも観るかと思ったけれど、もう見飽きたものばかりで見たいものがない。
結局その日は何もせずに眠った。
後で聞いた話だが、幼馴染からは熊のぬいぐるみ的ストラップ、ユリコさんからは熊型目覚まし時計だったらしい。
なぜ熊なのかは疑問だが、本人が気に入っているようなのでよしとする。
翌日。
基本的にはいい親ではない両親も、妹の誕生日だけはきっちりと休みを取る。
というのも、一度大幅に遅刻した際に妹がかなりのダメージを負ったからだ。
大泣きした。後にも先にもあんなに泣いたのはあのとき限りだ。
普段忙しい人たちで、ゆっくり話をすることも難しいので、特別な日くらいは帰ってきてほしいと思ったのだろう。
その日は結局待ちきれずに先に寝てしまった。かなり落胆していたのか、その日は同じ部屋で寝ようとしたほどだった。
実際、同じ部屋の同じベッドで眠ろうとしたが、それは今は関係のない話だし、俺が役得を感じていたかどうかもどうでもいいことだ。
結局二人が帰ってきたのは日付が変わる頃だった。
物音で目を覚ました俺たちは、両親を出迎えた。嫌な見方をすれば、彼らとしてはなんとか体裁を整えられたということだ。
間に合ったといえば間に合ったけれど、間に合わなかったといえば間に合わなかった。
生活が切迫しているわけでもないのに、それでもどちらかが仕事をやめたりしないのは、やっぱり好きだからなのだろうか。
ふて腐れるような歳ではないにせよ、あんまり面白くない。もうちょっと家庭を顧みろ。
日曜の朝、妹と二人で朝食をとっていると、父が寝室から出てきた。寝癖をつけたまま。
仕事に行くときはぴしっとしているが、家にいるときはひたすらにだらしない。
おはよう、って言うとおはようって言う。挨拶は魔法の言葉です。
三人でダイニングテーブルに向き合って食事をとる。今度は母が降りてきた。
両親の分も食事を用意するのは妹だった。世話を焼いているだけで楽しそうなのでよしとするが、あまり釈然としない。
とはいえ俺も甘んじて世話を受けているわけで、まぁ人のことはとやかく言えない。
だらだらと一日を過ごす。
遠出をしても疲れるし、ゆっくりと過ごすのが休日の正しい過ごし方。
我が家に安心を見つけることで、人々は安らぎを得ることができるのです。
会話がないが、誰かがそれを不服に感じることはない。
仕事の話なんて聞いたところでちっとも面白くないし、学校のことを話したって仕方ない。
ぼんやりテレビを見ながら、それでもリビングに揃う。
二時を過ぎた頃、渋る三人を押し出すようにして出かけさせた。とりあえず店でも回ってきて、帰りにケーキでも買ってくるといい。
「いかないの?」
妹が尋ねる。
「晩御飯は腕によりをかけようと」
不服そうだったが、俺がいないほうが両親も落ち着いて妹と話せるだろう。両方いるとどっちと話せば良いか分からないだろうし。
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