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元スレ幼馴染「……童貞、なの?」 男「」.
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仕方ないので眠気を振り払って身体を起こす。妹がぼんやりとした表情で何度もまばたきしていた。
DVDを入れ替えて『バック・トゥー・ザ・フューチャー』をかける。
テンポよく進む話。先が読めるのに面白い演出。ちょっとした感動と少しのせつなさ。少しだけブラックなラスト近くの展開。
掻き鳴らされるギター。若さゆえの暴走。軽蔑。友情・努力・勝利。愛と未来への不安。まさに青春。
でも妹は開始三十分で寝た。たぶん疲れているのだろう。
スタッフロールを最後まで見ずにDVDをしまい、妹を起こした。
「風呂入らないのか?」
紳士に訊ねる。
「……一緒に?」
「は?」
なんか言ってる。
なんばいいよっとねこの子は。
思わず硬直した。
何拍かおいてから、妹は正常な意識を取り戻したようだった。
「待て。今のナシ。ナシだ」
彼女の口調は唐突に荒くなった。二重の意味で硬直する。凍結の重ね掛け。
お互い何も言えずに数秒が経過する。
しばらくしてから、妹は何かをごまかそうとするみたいに口を開いた。
「……お風呂入ってくる」
「いってらっしゃい」
仲がいいのも考え物だ。もう年頃だし。役得といえば役得だけれど。
その後、風呂に入っていざ寝るかとベッドに潜り込んだ瞬間、期末テストが近いことを思い出した。
……勉強しとこう。
ベッドから這い出て電灯をつける。カバンから筆記用具を取り出して机に向かった。
「……めんどくせ」
結局、教科書を一通り読み返すだけにした。何もしないよりはましだろう。
飽きてきた頃に教科書を開きながらPSPの電源を入れた。三国志Ⅷをプレイする。
強力な登録武将を大量に作成して新勢力で敵を圧倒した。
飽きたのでお勧めシナリオの赤壁の戦いから諸葛亮を選択してプレイする。
夏候淵に離間をかけ続けて内通、登用。都市ごと寝返らせて一気に三都市を制圧する。
少しずつ軍を進めて勢力を拡大していくが、なかなか人口が思うように増えない。
そうこうしているうちに夏候淵が曹操軍に都市ごと寝返る。太守変えとけばよかった。
前線だからと前に押し出していた大量の兵が露と消える。なんてことをしやがる。
むなしくなってやめた。
ゲーム機の電源を落とすと同時に、まったくページの進んでいない教科書が机に載っていることに気付いて愕然とする。
そんな馬鹿な。
気付けば深夜二時。
今までの時間はなんだったんだろう。どこに消えたんだろう。
無性にやるせない気分になり、ベッドに潜り込んだ。
寝てしまおう。明日、勉強しよう。
夢は見なかった。
三国志Ⅷとはいい趣味をしておる
クソゲー扱いされがちだけどいいゲームだと思うんだよね、アレ
クソゲー扱いされがちだけどいいゲームだと思うんだよね、アレ
翌朝、台所で洗い物をしていた妹から声をかけられる。
「今日、じいちゃんち行こうと思うんだけど」
じいちゃんち。結構遠い。車で三十五分。母方の祖父の家と思えば結構近い。いずれにせよ田舎だ。俺たちが住んでいるところもだが。
「お呼ばれですか」
家族が全員揃うことよりも、祖父母と食事をとることの方が多い。
両親がなかなか帰ってこないので、気を遣ってくれているのだろうというのは分かる。
妹も妹で、祖父母の家に行くのは嫌いではない(末の孫で、しかも女なのでやたら甘やかされる)。
「玉子が切れそうだったから頼んだら、晩御飯を食べにこないかと」
「迎えにくるの?」
妹が頷く。
「一応、お兄ちゃんも行くかもって言っておいたけど」
「俺も行く」
俺が行かないとなると、妹は俺の分だけ食事を作ってから祖父母の家に向かうだろう。
そんな手間をかけさせるくらいなら、一緒に行ったほうがマシだ。
というのは建前。孫たちと一緒に食事をするとき、祖父母の食卓は豪勢になる。
「じゃあ、早めに帰ってきて。夕方頃迎えに来るって行ってたから」
短く頷いて、カバンを抱える。ちょうど皿洗いが終わったようだった。
「暑い」
外はうだるような熱気だった。
「連日の猛暑で! 我々の体力は既に限界に達している!」
「暑いんだからあんまり騒がないでよ」
クールに言われる。涼しい顔をしているようでも、妹だって頬には汗が滴っていた。
学校に向かう途中で、サラマンダーと遭遇した。
サラマンダーは不愉快そうに眉間を寄せて俺を睨んだ。何かを話そうとしている。
やけに真剣な表情だ。俺には理解できないことを言おうとしているのかもしれない。
「しまぱんってあるだろ?」
高尚な話だ。
「水色かピンクか、ずっと考えてたんだよ。最良なのはどちらかって」
どっちも良いに決まってるだろ。
とは口に出さず、サラマンダーの言葉の続きを待つ。
「緑っぽいのもあるな。まぁともかく、しまぱんで一番すばらしい色の組み合わせは何かと、考えていたんだよ。一晩中」
寝ろよ。勉強しろよ。どちらを言おうか悩む。馬鹿なことに時間を使う奴だ。俺も人のことは言えないが。
そんなことをしてるから淫夢を見るのだ。
「で、思ったのよ、俺」
「……何を?」
「黒と白。どうよ?」
どうよと言われても、参考画像がないことには判断のしようがない。
そもそも、それはしまぱんと言えるのか?
サラマンダーと高尚な話題で盛り上がっていると、すぐに学校についた。画像に関してはあとでマエストロに要求してみよう。
教室では、茶髪が下敷きで自分の顔を仰いでいた。
「化粧落ちる?」
「落ちるね。汗で」
おんなのひとはたいへんです。
睫毛に汗の丸い雫が乗っていた。すげえ。ひょっとして本物か?
篭った熱気を逃がそうとしたのか、茶髪はぐしゃぐしゃと自分の髪をかき回した。
見栄えも気にしなくなっている。大人のおねえさんはどこへ行ったのか。
「暑い!」
暑かった。
「チロルチョコ食べる?」
ポケットから差し出す。溶けてるけど。
「食べない。なぜこの暑い中でチョコなど食うか」
そういえば、彼女は以前、夏は嫌いだと言っていた気がする。
「なんで?」
「暑いじゃん」
そんな会話をいつだったか、交わした。じゃあ冬は? と訊ねてみたら、寒いじゃん、という答えが返ってくる。そういう奴。
茶髪は気だるげに髪をかきあげる。その仕草が誰かに似ていた。
「茶髪、おまえ妹っていたりする?」
まさかな、と思いながら確認。あの後輩の姉がこいつというわけはないだろう。
「いないけど」
いないらしい。案の定といえばそうだが、肩透かしとも言えた。
暑さにうなる茶髪を放置して自分の席に向かう。今日はマエストロがいなかった。
オタメガネ三人組が教室の隅で大富豪に興じているのが目に入る。
せっかくなので参加した。ここいらでは大富豪と呼ぶのが定型。革命返しはアリ、八切りもアリ、それ以外はなし。
カードを配り終えてからジャンケンで一番最初に出す人間を決める。特に予備的な意味はない。
「童貞の力を見せてやる!」
デュエルスタンバイ!
結果は惨敗だった。
「……一番でかいのがジャックって」
神様が俺を苛めたとしか思えない。
それから、あと二枚で上がりってときにトリプルを連続で出し続ける奴はどういう教育を受けてるんだ。
「負けたよ、ほら。賞品のチロルチョコやるよ」
一番に上がった佐藤に渡す。
「ヒキコモリの従妹にあげろ。な? 俺の名前ちゃんと伝えとけよ。会ってみたいって言っててくれる? すげえイケメンだよって」
「これ、溶けてるよチェリー」
「チェリーって言うな」
佐藤は変な顔をしていた。それ以上何かを言ったら冗談ですまなくなりそうだったのでやめておく。
そりゃあ自分の従妹をダシにされたら気分は悪いだろう。
それも黒髪色白物静かくまぱん美少女なら。
俺なら黒髪でなくてもかまわない。
なんならハーフで色素の薄い栗色の髪をしていてもいい。よく考えるとプラス要素だった。
とにかくちょっとくらい属性が変わっても可愛がられるタイプの従妹。
そんな従妹が欲しかった。
「悪かったよ、冗談だ、佐藤。八つ当たりしただけだ。本気で受け取るなって。ごめんな」
心底安堵したように、佐藤の顔から顔の引きつりが取れていった。
これからは言っていい冗談と悪い冗談くらいは考えよう。相手を選ぼう。
でも年下の従姉で童貞卒業したのは許さないよ。
なんとなく佐藤の態度に共感してしまった。今度から妹に関する相談はこいつにすることにしよう。
マエストロもサラマンダーも男兄弟しかいないのでそのあたりは頼りにならなかった。
オタメガネ三人組は、なぜか俺に対して一定の距離を置く。
言葉遣いとかが、クラスメイトに対するそれじゃない。ひょっとして嫌われてるのだろうか。
考えたらつらくなってきた。少人数でトランプやってるところに割り込んできて好き放題。溶けたチョコを押し付ける。他人の従妹をネタにする。
俺最悪じゃね?
いろんな場面で、口に出してから気付くことが多すぎる。
考えなしなのか、必死に会話を盛り上げて人の輪に入ろうとしているからなのか。
なんというか、あれだよ。
人がやってる大富豪に混じるのって、ほら。
仲がいいと思ってた数人の友達が、土日に一緒に遊んでて、そのとき俺だけ声もかけられなかった、みたいな。
親戚の集まりで、子供部屋に集められた子供たちが、全員、自分以外顔見知り、みたいな。
普段五人で集まってた友人同士で、バンド組もうって話になって、俺だけ話に入れてもらえなかった、みたいな。
そういう、ね。
なんというか、ね。
置いてけぼりの気持ち。
静かに立ち上がって教室の出口に向かった。
「どこいくの?」
人のいい佐藤はさっきのことをもう忘れたようだった。そう見えるだけで、内心不愉快に思ってはいるのかもしれない。
こんなふうに後ろ向きに考えてしまうことも失礼にあたるかな。
でもやっぱり考えてしまう。
どうも、人の輪に、馴染めないんです。僕。
「お花摘み」
短く答えると、三人組はそろって変な顔をしていた。
トイレは階段の近くにあるので、登校してくる生徒たちの姿がすぐに見つかる。顔を洗ってからすぐに廊下に出た。
先輩と幼馴染が、一緒に階段を登ってきたところに遭遇する。
呆然とした。
お前ら家の方向違うじゃん。
今までこんなことなかったじゃん。
校門で待ち合わせてたのか、メールで示し合わせてたのか。
でもそんなことどうでもよかった。
俺は幼馴染の彼氏じゃないし、先輩の友達でもない。
楽しそうだな、と思った。少し頬を紅潮させて、笑っていた。
なんだよこれ。
危うく泣き出しそうになりかけたタイミング。
幼馴染と目が合った。
次の瞬間、その肩越しに部長の姿を見つけた。
理由なんてなんでもよかった。
「部長!」
部長に声をかけて彼女と一緒に上の階へと向かった。
「どうしたんですか?」
部長は普段どおりの口調で俺に返事をしてくれた。穏やかな笑み。怪訝に思う様子もない。
どうやら俺は泣いていないようだった。
「いえ、ただ見かけたので」
そうですか、と部長は頷いた。部長についていく。ゆっくりとした歩調の彼女に合わせていると、後ろからさっきまで幼馴染と一緒にいた先輩が俺を追い越していった。
何度も追い越しやがって、と思う。
でも彼は悪い人じゃなかった。
悪い人だったらよかったのに。
女を食い物にするような悪人だったらよかったのに。
それだったら、幼馴染を取り戻す大義名分ができたのに。
「ままならないな」
ぼそりと呟く。
部長にまで変な顔をされてしまった。
ままならない。
でも、しょうがないことだ。
家に帰ったらギターでも弾こう、と不意に思った。
そう考えてから、今晩の予定を思い出す。
妹の顔を思い浮かべると、強張った表情が少しだけ緩んだ気がした。
「今日は、部活に来ますか?」
教室に引き返しかけたとき、部長から尋ねられた。
「いや、今日は放課後、ちょっと予定があるので」
うちの部活は水曜日以外は自由参加だ。
「そうですか」
特に感慨もなさそうに、部長は頷いた。
短く部長に挨拶して、階段を引き返す。教室に戻ると同時に、幼馴染と目があった。
なぜだか、声をかけることができない。
自分が嫌いになりそうだった。
――たまに小学生だった頃のことを思い出す。
大半の記憶はおぼろげで、ろくに思い出すこともできないのに、ときどき、そのときの出来事を鮮明に思い出すことがある。
小三くらいの頃だったろうか。恋の話が流行った。
おまえ好きな人誰? おまえこそ誰だよ。そんな会話が何度も繰り返されて、みんなに聞いて回って女子に報告する奴もいた。
報告する奴は、なんのつもりだったんだろう。遊びのつもりか、女子に媚を売っていたのか。
小間使いにされている時点で、相手になんてされてないのに。それでも少し羨ましかった。
小三の俺は生意気な子供だった。恋だの愛だの馬鹿じゃねーの、とまでは行かないが、そういう話からは距離を置いていた。
なんとなく、自分には過ぎたことのように思えたから。
でも追い掛け回された。
小間使いに、好きな人言えよ、誰なんだよ、って。
くすぐられながら「言わないよ!」って答えたら、「言わないってことはいるんだな?」と問い返される。
とても困る。
呼吸が苦しくなるほど笑いながら、教室から廊下から校舎中を逃げ回る。休み時間がなくなるまで。
授業が始まったら席について、授業が終わったらまた追いかけっこ。
逃げ回ってるとだんだん疲れてくる。
どっかに隠れるか、と思う。
図書室のカウンターの中。
他の学年の教室。
トイレ、は汚いから嫌だった。
最終的には、自分たちの教室の給食台の下に隠れた。
どう考えてもすぐに見つかる。
子供だから、ばれないと思った。
で、見つかる。小間使いに。
でも、教室にいた女子には見つからなかった。俺にとっては幸運なことに。
女子は隠れる俺に気付かずに給食台の脇を通過する。
その日、スカートだった。
ぱんつみえた。
黒かった。
俺のフェチ的原体験。俺が窃視的な画像に興奮を覚えるのはこのときの体験に起因していると見た。
なぜこんなことを思い返しているのだろう。
小間使いの、「あ、おまえスカートの中覗いただろ!」という声が教室に響く。
「ち、ちがうよ!」と俺は悲鳴に近い声をあげる。
なんだか、そんなこともあったなぁ、とふと思った。
ほほえましい過去。笑い話。
あのときから幼馴染は、学校にスカートを履いてこなくなったのだ。
『……童貞、なの?』
……なにがあろうと、あいつのぱんつを初めてみた男は多分俺だ。父親除く。
ふへへ。
くだらない。
でも、ちょっと笑えそうだ。
とりあえず、元気出せ俺。
何も世界が終わるわけじゃない。
ぱんつが見れなくなるわけでもなし。
「そう思うよね?」
「何の話?」
屋上さんはきょとんとしながらミックスサンドをかじっていた。なんでツナサンドを食べないのだろう。
「童貞こじらせると、ちょっとのことで鬱になっちゃって」
「……急に、なに。どう……ああもう。そんなこと言われても困る」
「屋上さんを困らせたくて」
「いっぺん死ねば」
屋上さんはとても辛辣です。
「まぁとにかく」
彼女は今日も今日とてフェンスの向こうを眺めている。
「元気出しなよ。落ち込んでてもろくなことないし」
そんなに落ち込んでいるように見えるのだろうか。屋上さんに慰められるとは思ってもみなかった。
「だから、そんなふうに励まされると惚れてしまう」
「惚れっぽいね」
「惚れっぽいんだ」
屋上さんはもさもさとサンドウィッチをかじる。俺は弁当を箸でつつく。
並んでいるのに遠い気がする。距離がある。なぜだろう。
沈黙が降りた。あ、会話終わっちゃう、と思う。なんか言わなきゃ。
とりあえず、
「惚れてまうやろー」
人のネタを借りた。
屋上さんはクスリともしなかった。
……俺にどうしろっていうんだ。
放課後、教室から出るときに担任に呼び出された。
ちびっこは俺を手招きして教壇へと召還する。
リトルサモナー。ファンタジーゲームなら人気の出そうな立ち位置。ロリキャラだし。
「おまえ、これ昨日忘れていっただろ」
薄い本を手渡される。
「……おお」
忘れてた。
父まで売ったのだから、手に入れておかなければなるまい。
「私も忘れてたんだけどさ」
だろうと思った。ちびっこ担任に「さようならー」と小学生的な挨拶をして教室を出る。
誰かと会わないかな、と思いながら歩いていたら、誰とも会わずに校門を出てしまった。
顔見知りが少ないって損だ。
家につく。妹は既に帰宅していて、私服に着替えていた。
慌てて俺も着替えるが、実際に祖父が迎えにきたのはその一時間後だった。
車に揺られて祖父の家につく。祖父は女にめっぽう甘いが、男には厳しい。立派であってほしいとかなんとか。そういうものかもしれない。
祖父母の家につく。犬の'はな'が吼える。おーよしよし。
噛まれる。俺が嫌いか。
玄関から入ってすぐに、独特の匂いがする。ザ・祖父母の家、という匂い。だいたいの人にはこれで伝わる。
和風の居間。家具は大体が古いが、テレビとテレビ台だけがいやに新しい。
じいちゃんは上座で何かの小物を弄っていた。腕時計。壊れたものを修理しているのだろう。物持ちのいい人なのだ。
もう料理は並びはじめていた。台所の方から包丁の音が聞こえる。ザ・おばあちゃん、という気配。
腰を下ろして周囲を見回す。何年も前から変わらない。
俺はテレビの近くへと向かった。テレビ台の中に映画のDVDが収納されている(千円くらいで安売りされてる奴が多い)。
結構な量があるので、なかなか全部は見切れない。
「これ借りて良い?」
じいちゃんに訊くと渋られるので、食器を準備していたばあちゃんに訊く。
「いいんじゃない?」
ばあちゃんも適当な人だ。
時計に集中していたじいちゃんが顔を上げる。
「ああ、好きなの持ってけ」
ときどき、じいちゃんはすべてのDVDを一気に渡そうとしてくる。さすがにそれは無茶だ。
「インデペンデンス・デイ」と「ターミナル」のふたつを借りていくことにした。なぜか洋画が多い。
食卓には刺身が並んでいた。
マグロ。サーモン。タコ。カツオのたたき。
好物。
食事を堪能したあと、帰りの車の中で妹は眠っていた。そもそも寝るのが好きな奴なのだ。
玉子を膝に抱えたまま、やっぱり来てよかったな、とほくそえむ。美味いものは正義。
家について、祖父の車を見送ってから、ひとまず妹をリビングのソファに寝かせて「ターミナル」をかけた。
妹は終わるまでずっと寝ていたが、俺はひたすらに感動していた。
泣いた。
こんな映画を撮りたい、と真剣に思った。
リビングの引き出しにしまっておいた家族共用のビデオカメラを取り出す。
俺は映画監督になる。
とりあえず試しにビデオを起動して妹の寝顔を撮影した。かわいい。
……変態っぽい。
やめようかな、と思ったところで、運悪く妹が目を覚ます。
――ビデオカメラを構える兄。寝顔を撮影される妹。
誤解とは言いにくい状況。
妹は絶対零度の視線を俺に向けてから何も言わず部屋に戻っていった。
何やってるんだろう、俺。
「ああ、好きなの持ってけ」
ときどき、じいちゃんはすべてのDVDを一気に渡そうとしてくる。さすがにそれは無茶だ。
「インデペンデンス・デイ」と「ターミナル」のふたつを借りていくことにした。なぜか洋画が多い。
食卓には刺身が並んでいた。
マグロ。サーモン。タコ。カツオのたたき。
好物。
食事を堪能したあと、帰りの車の中で妹は眠っていた。そもそも寝るのが好きな奴なのだ。
玉子を膝に抱えたまま、やっぱり来てよかったな、とほくそえむ。美味いものは正義。
家について、祖父の車を見送ってから、ひとまず妹をリビングのソファに寝かせて「ターミナル」をかけた。
妹は終わるまでずっと寝ていたが、俺はひたすらに感動していた。
泣いた。
こんな映画を撮りたい、と真剣に思った。
リビングの引き出しにしまっておいた家族共用のビデオカメラを取り出す。
俺は映画監督になる。
とりあえず試しにビデオを起動して妹の寝顔を撮影した。かわいい。
……変態っぽい。
やめようかな、と思ったところで、運悪く妹が目を覚ます。
――ビデオカメラを構える兄。寝顔を撮影される妹。
誤解とは言いにくい状況。
妹は絶対零度の視線を俺に向けてから何も言わず部屋に戻っていった。
何やってるんだろう、俺。
その日の夜、俺は変な夢を見た。
夢の中で、俺とサラマンダーとマエストロはファミレスにたむろしていた。
男三人、夏の暑さを屋内の冷房でごまかすため、ドリンクバーだけで何時間も粘る。
と、逆ナンされた。
女は三人組で、それぞれ独特の可愛さを持っている。ちなみに配役は、幼馴染、妹、茶髪が担当していた。
向かい合って一緒の席に座る。マエストロが調子に乗って財布の紐を緩め、「好きなだけ食べていいよ!」と言った。
「じゃあ私フライドポテト!」という俺の声を、マエストロは黙殺する。
マエストロは妹に目をつけた。夢の中では妹は俺の妹ではなく、ごく普通の赤の他人になっていた。
彼女はマエストロの「俺が作ったエロ小説、芥川賞とっちゃってさぁ」という自慢話を「えー、そうなんですかー」と笑いながら聞いている。
仕方ないので茶髪の方に目を向けると、彼女はサラマンダーに肩をもませていた。
席の仕切りが邪魔になって肩を揉むのは困難なはずだが、サラマンダーは簡単そうに彼女の指示に従っている。
最後に残った幼馴染と目が合う。すぐそらされた。なぜ?
彼女は悲しそうに目を伏せてから、俺にこう語った。
「私、身長、一七○センチ以下の人とはお付き合いできないんです」
俺の身長は一六七センチだ。
そうこうしているうちに、俺より遥かに身長の高い男が他の席から現れて彼女をさらう。
「ああ、待って! あと一年待って!」
悲壮な声で叫ぶが、届かない。気付けば他の二組も、どこかにいなくなっていた。
薄暗い店内にひとり取り残された俺は、フライドポテトを齧りながら周囲に目を向ける。使用済みの皿が山積みになった自分たちの席。
俺が口にしたのはフライドポテトだけだった。どことなく物悲しい気持ちのままフライドポテトを食べ続ける。
いくら食べてもぜんぜん減らない。いやになって、そろそろ店を出ようかと思ったとき、財布を忘れていたことに気付いた。
これじゃあ、いつまで経っても店を出ることができない。困った。俺はポテトを食べ続けるしかない。
ときどきサラマンダーが、炭酸系のジュースをことごとく混ぜ合わせたミックスジュースを俺に渡しに来た。
それがとんでもなくまずいのだが、なぜだか俺は飲み干さなければならなかった。
それ以外は、どこかで見たような顔が店内で馬鹿騒ぎしているだけで、誰も俺には話しかけない。
またこれだ。
取り残されていく。
置いてけぼりの気持ち。
ふと気付くと、隣の席には部長が座っていた。
「どうしたんですか?」
そんなふうに、彼女は俺を見つめる。
席の脇の通路には、後輩が立っていた。
「デートっスか」
そんなふうに、彼女は俺を見下ろす。
なんだかなぁ、という気分になった。
俺が口にしたのはフライドポテトだけだった。どことなく物悲しい気持ちのままフライドポテトを食べ続ける。
いくら食べてもぜんぜん減らない。いやになって、そろそろ店を出ようかと思ったとき、財布を忘れていたことに気付いた。
これじゃあ、いつまで経っても店を出ることができない。困った。俺はポテトを食べ続けるしかない。
ときどきサラマンダーが、炭酸系のジュースをことごとく混ぜ合わせたミックスジュースを俺に渡しに来た。
それがとんでもなくまずいのだが、なぜだか俺は飲み干さなければならなかった。
それ以外は、どこかで見たような顔が店内で馬鹿騒ぎしているだけで、誰も俺には話しかけない。
またこれだ。
取り残されていく。
置いてけぼりの気持ち。
ふと気付くと、隣の席には部長が座っていた。
「どうしたんですか?」
そんなふうに、彼女は俺を見つめる。
席の脇の通路には、後輩が立っていた。
「デートっスか」
そんなふうに、彼女は俺を見下ろす。
なんだかなぁ、という気分になった。
俺はふたりに返事をせずにフライドポテトを食べ続ける。だんだん胃がもたれてきて、具合が悪くなる。
でも、トイレの近くでは大勢の人間が踊りを踊っていて、あと何時間か待たないといなくなってくれないのだ。
「元気だしなよ」
不意に、他の雑音がすべて消えて、屋上さんの声が響き渡った。
いつのまにか、店内には彼女と俺のふたりきりになっていた。
屋上さんは、現実ではみたことのないような綺麗な笑みをたたえて、俺の目の前の席に腰掛けていた。
彼女はしずかに、首をかしげて笑った。
「ね」
――なぜか、
その瞬間、店内が正常な明るさを取り戻した。
屋上さんは笑顔を打ち消してから立ち上がった。さりげなく伝票を手に取る。止めようとしたけれど、俺は財布を持っていなかった。
レジにいた店員が何かを言った。
「お会計」までは聞き取れるが、そのあとの金額の部分はまるで聞き取れなかった。想像を絶する金額だったのかもしれない。
店を出てから、屋上さんは飲み屋を出たよっぱらいみたいに夜空を見上げた。
星が綺麗な夜だった。
「ねえ、キスしようか」
不意に彼女は言う。
俺はひどく戸惑った。セックスしようか、なら迷わなかった。でも、キス、だとダメなのだ。童貞だから。
セックスなんて、好きでもない女とでもできる。童貞だから分からないけど。でも、キスはダメなのだ。それはとても重要なこと。
子供っぽいな、と自分でも思う。
「私のこと好きじゃないの?」
――分からない。
「そっか」
屋上さんは呆れたような表情をした。
俺は何かを言おうとしたが、けっきょく何も言うことができずに押し黙る。
最後に、誰かの表情が頭の隅を過ぎった。
それまでに遭遇した誰かであることは疑いようもないのに、それが誰なのか、まるで分からない。
たぶん、その女の子は――。
……そこで、夢は途切れる。
目を覚ますと深夜三時だった。俺は風呂に入らずにベッドに倒れこんだことを思い出して起き上がる。お肌が荒れてしまうわ。
シャワーを浴びて目を覚ます。歯を磨いて顔を洗う。
もうこのまま起きていようか、とも思ったが、明日(というより今日)に響きそうなのでやめておいた。
変な夢を見たことだけは覚えていたが、内容はちらりとも思い出せなかった。
眠れなかったので、リビングに下りて「インデペンデンス・デイ」を鑑賞した。
見終わる頃には朝だった。
俺は何をやってるんだろう。
もう考え事にふけるのはやめよう。
期末も近い。明日からは普段どおりに過ごそう。
手始めに、マエストロに嫌がらせのメールを送ることにした。
「ツインテールとツーサイドアップってどっちがかわいいと思う?」
返信はすぐにきた。
添付ファイルを開くと同時に、思わずのけぞる。
ウルトラ怪獣ツインテールの画像が添付されていた。
ふざけんなしね。びびったわ。
三十分ほど仮眠をとってから、ベッドから起き上がった。
六時を過ぎたころ、マエストロからもう一通メールが来た。
黒髪ツーサイドアップの美少女が、笑顔でスカートを翻して、お尻をこちらに向けていた。ちょっとリアルな等身と塗り。
白黒しまぱん。
アリだ。
乙
更新早くて有難いが正午近くとは、どんな生活をおくってるのか気になるなwww
更新早くて有難いが正午近くとは、どんな生活をおくってるのか気になるなwww
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