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    元スレ佐天「ベクトルを操る能力?」

    SS+覧 / PC版 /
    スレッド評価: スレッド評価について
    みんなの評価 : ★★
    タグ : - 一方通行 + - 佐天涙子 + - 佐天通行 + - 御坂美琴 + 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。
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    51 = 1 :


    佐天「おっはよー。初春」

    初春「あ、佐天さん。今日は随分ギリギリの登校ですね」

    佐天「まあね。昨日、初春に『スプーン曲げしかできないヤムチャ』って言われてすごく傷ついてさ」

    初春「そ、そんなこと言ってませんよ!」

    佐天「そうだったっけ?」

    初春「あれは御坂さんが言ったんです!」

    佐天「でも、庇ってくれなかったってことは、少しはそう思ってるんでしょー?」

    初春「ううっ。それは……ですね……」

    佐天「あははっ。ゴメン、ゴメン。ちょっと意地悪しすぎたかな?」

    初春「酷いです。佐天さん」

    佐天「まあまあ。ヤムチャ呼ばわりしたことは許してあげるからさ!」

    初春「や、ヤムチャさんだって頑張ってるんですよ!」

    佐天「あー。そうかも……」

    初春「あ、そこは納得するんですね」

    佐天「でも、頑張ってる割には報われないキャラだよね」

    初春「確かに……」

    佐天「これ以上引っ張るのもあれだし、ここら辺で切り上げようか。もうすぐ授業始まるしさ」

    初春「あはは。そうですね」

    52 = 1 :


    ホームルームが終わると、すぐに1時限目の授業が始まった。
    科目は能力開発。
    学園都市ならではの教科で、文字通り能力の理論を学ぶ訳だ。
    その授業中に、1つ気づいたことがある。


    教師「つまり、『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』というものが、能力を使うにあたって重要で―――」


    それは、能力を獲得しても、勉強というものは退屈だ、ということだった。
    はっきり言って、自分の能力が発現したのは、知識というものによってではなく、レベルアッパーによる経験の方が大きかったように思える。
    確かに、「ああ、これがそうなのか」という部分もある。
    だけど、それは感覚的なもので、知識があるからできるというものでもないような気がした。


    佐天(能力があれば、少しは面白くなるかと思ったんだけどなー……)


    しかも、この教科は、各能力で共通である部分しか取り扱っていない。
    つまり、なぜ能力は使えるのかといったことや、どうやって向上させるのが効率的かといったことを学ぶのだ。
    それぞれの能力に合った能力開発を受ける訳ではないので、本当に意味があるのかどうかも怪しい。


    教師「このころから、五感を封じるガンツフェルト実験が行われるようになり―――」

    佐天(あー、もう退屈……)


    理論ばっかり覚えても、能力は使えないんじゃないかなーと考えていたせいで、睡魔という敵と戦うことになってしまった。

    53 = 1 :


    初春「―――ん。佐天さん」

    佐天「あ。初春。どうしたの?」

    初春「どうしたの? じゃありません。もう次の授業に行かないと遅れますよ?」


    どうやら、結果は惨敗。
    手鏡を出して、おでこが赤くなっていないかを確かめる。
    うん、大丈夫。問題なし!


    佐天「次の授業ってなんだっけー?」

    初春「体育ですよ、体育」

    佐天「げっ。私どこだったか確認してないや……」


    体育の授業も、外とは少し違った事情がある。
    簡単に言えば、クラス分けが少々異なる。
    男子、女子の区分ではなく、能力の似たもの同士が同じクラスに分類されるのだ。
    そのため、1クラスでは人数が少なくなるので、学年単位、他の学校では学校全体で一斉に体育を行うこともあるらしい。
    レベルの低い学校では、体育教師が多いのが普通で、高レベルの学校になると、一般教師が体育を受け持つところもあるそうだ。
    うちの学校では、レベル0が大多数を占めるため、学年単位で行っているという訳。


    初春「まったくもう! うちはクラス分けが少ないから、きっと特殊クラスですよ」

    佐天「あ、そっか。ありがと、初春」

    初春「いえいえ」


    うちの能力者のクラス分けは、『発火能力者(パイロキネシスト)』、『発電能力者(エレクトロマスター)』、そして『特殊クラス』の3つ。
    特殊クラスというのは、聞こえがいいが、つまりは『その他』ということのようだ。
    能力に合った運動というものでもあるのだろうか?

    54 = 1 :


    佐天「だーっ。疲れたぁー」


    結論。大差なし。
    これもレベルの低い学校ゆえなのだが、それならクラスごとに体育をやれと思わなくもない。
    あまり時間もないので、疲れた体にムチを打ち、次の授業の準備を始める。


    佐天「次は、歴史か……」

    初春「あの先生の授業は、眠くなっちゃうんですよねー」

    佐天「妙にゆっくりしゃべるからねえ」


    そんなことを話ているうちに、件の先生が教室に入ってきて、授業が始まる。
    中学で世界史、日本史と区分されているところは少ない。
    他に学ぶことが多いので、高校に行ってから本格的に学習するというカリキュラムが組まれることが多いのだ。
    ちなみに、この教科で学ぶことは外と大差ない。


    教師「えー。量子力学者であるシュレディンガーは……」


    能力に関する歴史が多少含まれている点以外は。
    もっとも、その辺は『能力開発』の授業と被っているところが多いため、どちらかを集中して覚えればいい点を取ることができる。


    佐天(やらないと、どっちも酷いことになるけどね……)


    と、佐天は苦笑しつつ、ノートをとっていく。
    今のところ、この2つはほぼ同じくらいの進行速度なので、さきほど居眠りしてしまった能力開発をカバーしなければならない。

    55 = 1 :


    昼休み前の4限は、記録術(かいはつ)の授業だった。
    能力開発の科目が、理論中心であるのに対して、この記録術の授業は、どちらかというと実践的なものになる。
    というよりは、実験的といった方が正しいか。


    佐天「今日は、投薬? それとも、暗示?」

    初春「えーと、投薬みたいですね」

    佐天「ってことは、体育館か」


    記録術というのは、投薬、暗示などによる『自分だけの現実』の開発を目的としている。
    この科目は、レベル0にとっては苦痛以外のなにものでもない。
    もちろん、成績的な意味で。


    佐天「ところで、私たちに使われる薬って安全なのかな?」

    初春「どうなんでしょう? あんまり気にしたことありませんけど」


    この感覚は特別ずれている訳ではないことを注釈しておく。
    実際に、投薬される側の生徒の意識はこの程度の認識であることがほとんどだ。
    先生が安全と言っているから安全。
    小さいときから学園都市にいる生徒ほど、これが当たり前だと思っている。


    佐天「裏では、かなり危ない薬を使っているっていう都市伝説があるんだけどさー」

    初春「佐天さんの持ってきた都市伝説の中では、一番リアリティがあって怖いですね……」


    この教科の人気は意外と高い。
    特に難しい知識を頭に入れる、肉体を酷使するといった訳ではないからである。

    56 = 1 :


    昼休みを挟んで、5、6限目は数学と英語だった。
    この2つは、外の授業と同じであるため割愛。
    学校は、6限目までなので、今日はこれでお終いだ。


    佐天「んーっ。今日も学校終わりー」

    初春「私はこれから風紀委員に行きますけど、佐天さんはどうします?」

    佐天「どうしようかなー……」


    初春の方から誘ってくるというのは珍しい。
    いつもは、佐天の方から勝手にお邪魔している。
    今日は特に用事がある訳でもないし、家に帰っても暇なだけだろう。


    佐天「それじゃ、今日も顔出そうかなー」

    初春「わー、助かります」

    佐天「え?」


    助かります?
    なんだろう嫌な予感がする。
    直感的に、佐天は初春のニコニコ笑顔から危険信号を感じた。
    それも、今日は支部に立ち寄ってはいけないというレベルの。


    初春「実は、手伝って欲しい書類が山ほど―――」


    部外者に手伝わせるくらいなんだから、相当やばい。
    初春が全てを言い終える前に、佐天は教室をダッシュで離脱することにした。

    57 = 1 :


    自室に帰り着くと、ふぅとため息をつく。
    初春から逃げ切れたという安堵感からではない。


    佐天「結局、何が変わったんだろ……」


    ついに、憧れの能力を獲得したものの、変わったことといえば、体育のクラス分け程度。
    喜んでくれる友達もいるし、能力自体に文句がある訳でもない。
    ただ、能力があれば何か変わると思っていたのに、結局、何も変わらなかったという現実が待っていただけ。


    佐天「もっと勉強しなくちゃダメなのかなー?」


    そんなことを言いながらベットに倒れこむ。
    凡人ゆえに一歩ずつ進まなければならないということは分かっていたけれど、次のステップまでは遥かに遠い。
    まるで、先が見えない。


    佐天「能力がないときは、能力があれば十分って思ってたけど、能力が手に入ってからは、それだけじゃ満足できないなんてね」


    持っていないから欲しくなる。
    手に入れたら、もっと上を。
    あ、これって、能力だけじゃないのかも。


    佐天「確かにあんまり変化はないけど、それでも前に進んでるよね」


    確実に前へ進んでいるなら、それでいっか、といつもの結論にたどり着いたところで、お腹がぐーと鳴った。
    いつの間にか外は真っ暗な夕闇に包まれている。


    佐天「よーし! 今日ははりきって料理しよっ!」


    テンションをあげつつ、ベットから跳ね起きて、まずは冷蔵庫を確認することにした。
    ゆっくりでも、そんなに大きく変わらなくても、毎日が楽しければそれでいい。
    それが佐天涙子の日常なのだから。

    58 = 1 :







    ―――だが、このとき既に、その彼女の日常が急激に変化しつつあることを、彼女はまだ知らなかった。





    59 = 1 :

    よくある引きで今回の分は終了。学園都市の授業風景をメインにしてみたり。

    体育教師は、体育の授業以外では警備員(アンチスキル)をしているという設定。

    今のところタイトルあんまり関係ないけど、そろそろ一方さんの出番も近いです。

    60 = 22 :

    乙!

    やっぱ能力得ても佐天さんは佐天さんだな。
    まぁ、でも第一位と同じ能力なら、学園都市が黙ってるわけないよな……

    次も楽しみにしてる。

    61 :

    乙!
    ちょうど前スレ読み終わったとこだわ
    面白いな

    62 :

    これは一方通行と同じ流(ry

    63 :

    まさかクローン初春が…

    64 :

    乙!!
    一通もこんな時代があったのか……ってあいつはガキの頃から銃弾跳ね返してたか。
    佐天さんが闇堕ちしませんように!

    65 :

    超乙です

    SSSさんのスレほど安心してwktkできるスレは他にない

    66 = 33 :

    ていとくんはでないのかよ・・・・
    ていとくんが一位と同じ能力持ちの佐天さんの存在を知って対一方のシュミレーション相手にするためとして佐天さんにベクトルについて教えるんだけど、そのうちていとくんが佐天さんに恋愛感情が芽生える展開があると思ったのに・・・・
    まあがんばれ>>1応援してる。

    67 :

    >>66
    そういうのやめろよ
    反省しろ

    68 :

    >>66
    要望の押し付けは紳士的じゃないぜ。2度も言う必要ないし

    69 = 33 :

    >>67
    すまん・・・・ちょっと原子崩し喰らってくる・・・・
    あと>>1ひとつ質問していい?
    一方さんは理論上は自転エネルギー使えば、ほぼ光速でのダッシュすら可能なはずたけど、ここじゃできるけどやらないだけ?原作基準で少なくとも作中の自転砲は亜光速ではなかったことになるのか?

    70 :

    原作のスレいって聞けば?

    71 = 64 :

    とりあえず67はしばらく黙ったら?

    72 = 41 :

    >>1 乙。これ面白いな。超期待

    73 = 46 :

    安価が全角って時点でもう既に何もかもお察し

    74 :

    初春の本体が暴走して戦う展開まだ?

    75 :

    健康診断と称したDNAマップの採取か
    早い段階の方が価値も低いしな

    76 :

    渦を巻くイメージってところで螺旋丸でも出すのかと思った

    77 :

    >>71
    お前がだまってろ

    78 = 76 :

    早速脳味噌が可哀想な奴が沸いて来た

    79 :

    >>69自転パワー使ったら地球の回転が少し狂うだろ
    前のは5分遅れだっけ?

    80 :


    前スレの上条と神裂の雰囲気もよかったけど
    こういうシリアス気味なのもいいね

    81 :

    ベクトル変換なのかベクトル操作なのか

    82 = 25 :

    >>79
    香ばしいのに安価飛ばすなって。触れないが吉

    83 :

    >>1

    >>67が反射しろに見えた

    84 :

    今北産業

    85 :

    >>84
    佐天
    ベクトル操作能力
    レベル1

    86 :

    こういうのいいよいいよー期待してるー

    87 :

    ケンカ良くない。

    なんだか妙に筆が進んだので、続きを更新。

    88 = 1 :


    数日後 放課後
    佐天「退屈な授業はどうにかならないものかねー……」

    初春「それを私に言われても……」

    佐天「ま、そうなんだけどさー」

    初春「それにしても、佐天さんはちょっと居眠りが多すぎるんじゃないですか?」

    佐天「あははは。それを言われると苦しいかも」

    初春「能力者になったんですからしっかりしてくださいよね!」

    佐天「あ。そういえば、今日は風紀委員はあるの?」

    初春「はい。残念ながら。ここのところは妙に忙しいんですよね」

    佐天「何々? なにかまた大きい事件?」

    初春「そういう訳じゃないんです。ただ、白井さんが書類をサボっているのが溜まってしまって……」

    佐天「それって、元々初春の書類だったりしないよね?」

    初春「ノーコメントです」

    佐天(やっぱりか……)

    89 = 1 :


    佐天「ここ最近、いつもの公園にたいやき屋が来てるらしいからどうかなーと思ってさ」

    初春「たいやき屋さんですか?」

    佐天「うん。あのクレープ屋の隣に来てるんだってさ。ライバル出現だねー」

    初春「たいやきですかー。いいですねえ」

    佐天「まあ、風紀委員の仕事じゃ仕方ないし、御坂さん誘って行ってみようかなー」チラチラ

    初春「ううっ」

    佐天(もう一押しかな? 今日は粘るね~)

    初春「さ、さすがに今日サボったら、白井さんに何されるか分からないので、行けないですっ!!」

    佐天「あらら」

    初春「ううう……。ですので、明日にでも感想を聞かせてください」

    佐天「わ、分かったから、そんな泣きそうな目で見ないでよ!」

    初春「ところで佐天さんは、たいやきの中身は何派ですか?」

    佐天「えーっと、やっぱりオーソドックスに餡子かな」

    初春「ですよね! キワモノの感想とかいらないんで、餡子のたいやきの感想をお願いしますっ!」

    佐天「あー、はいはい。それじゃまた明日ねー」

    初春「絶対ですよー?」

    佐天「覚えてたらね」

    初春「絶対ですよ!!」

    佐天(それじゃ、御坂さんに連絡しますか)

    90 = 1 :


    佐天は、御坂に連絡を入れると、オッケーとの返事が返ってきたので、公園でのんびりと待つことにした。
    今日は天気も良く、肌寒くなり始める季節というのが嘘と思えるほどの陽気で、公園にもちらほらと散歩をしている人がいる。


    御坂「ごめーん。お待たせー」


    ぼーっとしていると、待ったというほどの時間も経っていない内に、待ち人が到着する。
    常盤台中学のレベル5、御坂美琴。
    自分とは違って、こういう人のことを天才というのだろう。


    御坂「どうかした?」

    佐天「あ、いえ。ちょっと考え事を」

    御坂「ふーん?」


    できれば、何を考えていたか触れないで欲しい。
    自分が凡人だということは分かっているつもりだが、それを彼女が聞いたら、自分も凡人だと言い出しそうだ。
    彼女の口から、直接そんなことを言われたら、ちょっと悲しくなる。いろいろな意味で。
    だから、聞かないで欲しい。


    御坂「そっか。じゃ、行こっ!」

    佐天「はい」


    結局、その思いが通じたのかどうか、彼女はそれ以上の追求をしてはこなかった。

    そうそう。
    今日の目的はたいやき屋。
    初春に感想を聞かせることになってるから、うーんと悔しがらせてあげなくちゃいけないんだ。

    91 = 1 :



    佐天「悪くないですねー」

    御坂「んー。こっちのイチゴ味は失敗かも」


    2人はベンチでたいやきを食べながら談笑していた。
    佐天は、初春から強く言われていた餡子。
    一方の御坂は、チャレンジ精神あふれるイチゴジャムを選択。
    組み合わせ的には悪くなかったのだが、何故か真ん中に餡子も入っていたのが失敗の原因だった。


    御坂「これなら、餡子はいらないと思うんだけど」

    佐天「あははっ、完璧な蛇足ですねー」


    自炊をしている佐天にも経験がある。
    何を作ったとは言わないが、キムチと天ぷらの相性は最悪だということはお伝えしておこう。


    御坂「そういえば、あれから能力の方はどう? スプーン曲げ以外にも何かできるようになった?」

    佐天「あー、それですかー」


    話が途切れたところで、その話題を持ち出される。
    能力を獲得してから、そろそろ1週間になるだろうか。
    あれからも、少しは勉強や練習をしたのだが、一向に風は発生する気配がなく、ただ手のひらと睨めっこしているだけという結果になってしまっている。


    御坂「でも、レベルアッパー使ったときはできてたんでしょ?」

    佐天「そうなんですよねー」


    何が悪いのか見当も付かない。
    ほんのちょっとでも風が生まれれば、大喜びなのに。

    92 = 1 :



    御坂「どんな感じで練習してたか教えてくれる? 何かヒントがあるかもしれないし」

    佐天「ええと……」


    たしか、手のひらで渦を作るイメージで……。
    あとは、レベルアッパーのときのことを思い出してたかな?


    御坂「それなら、少しくらいは操作できてもおかしくないはずなんだけど……」

    佐天「ん? あ、そっか」

    御坂「何か分かった?」


    風を生み出すイメージじゃなくて、操作するイメージなんだ。
    だから、閉め切った部屋の中じゃ、風がなくてできなかったんだ。


    佐天「それなら今なら……」


    今日は天気が良く、風も少ない。
    だが、まったく風がない訳ではない。
    手のひらを上に向け、集中する。
    風を操作するイメージ。風を操作するイメージ。


    御坂「あっ!」

    佐天「え?」


    一体何が起こったのか、すぐには分からなかった。
    だが、目の前では、風が旋回をするように渦巻いている。
    うちわにも劣る勢いではあるのだが。
    ちょっとしたことに気づいただけで、こんな簡単にできるなんて。

    93 = 1 :



    佐天「やった! やりましたよ、御坂さん!」

    御坂「ちょ。落ち着いて、佐天さん」


    ついつい、嬉しさのあまり、隣に座っていた彼女に熱烈なハグをしてしまう。
    そのせいで、発生していた風の渦はあっけなく消え去ってしまったのだが、そんなことは些細なことだ。
    さっきできたのなら、きっと今だってできる。
    そう確信することができる。


    御坂「そういうことの積み重ねが、能力の向上に繋がるのよ」


    少し時間を置いて、冷静になった佐天に、御坂がそう告げる。
    1回できれば、それだけ『自分だけの現実』が強固なものになっていくらしい。


    御坂「試しに、また風を操作してみて」

    佐天「え、えーっと」


    手のひらの上で風を操作するイメージ……。
    ん。よし、できた。
    そよそよと、心地よい風が、手のひらの上で渦巻いている。
    たしかに、さきほどよりも簡単に、風の渦を作ることができたような気がする。


    御坂「『自分だけの現実』っていうのは、簡単に言えば思い込みなのよ。そう単純に成功しないようなことだと、なかなか確立は難しいんだけどね」

    佐天「分かったような、分からないような……」


    イマイチ、イメージが掴みにくい。
    抽象的な説明だからだろうか?

    94 = 1 :



    御坂「例えば、時計を見ながら、今何時かを答えることはできるわよね?」

    佐天「はい? それは当たり前じゃないですか?」


    彼女が言いたいことが良く分からない。
    それと『自分だけの現実』と何が関係しているのだろう。


    御坂「じゃあ、時計を見ないで今何時か答えられる?」

    佐天「え? それはちょっと厳しいですね」

    御坂「そういうこと」

    佐天「?」

    御坂「適当に答えれば、時間は当たるかもしれない。けど、その次も正確に答えられる可能性は低い」

    佐天「はあ……」

    御坂「能力も同じで、時間を答えるのに成功したとき、それを当然と受け止めるか、偶然と受け止めるかの違いなのよ」


    つまり、それを当然と受け止められれば、次も時間を当てられる。
        ・ ・ ・ ・ ・ ・
    そう、事実を歪めて。

    その歪みが能力に該当し、成功するのが当然と受け止める気持ちが『自分だけの現実』になるそうだ。


    佐天「じゃあ、さっきのは、私が風を操作するのが当然だと思っていたから成功したってことですか?」

    御坂「そう。さっきのだけじゃなくて、能力っていうのはそういうものなの」


    能力とは、現実を侵食する力。
    なかったことをあるようにしたり、あったことをなかったことにしたりと。

    95 = 1 :



    佐天「そうだったんですか。そんなことすら知りませんでしたよ」

    御坂「本当はこういうことを授業でやるはずなんだけどね」

    佐天「似たようなことは聞いたかもですけど、難しくて理解できなかったんででしょうねえ」


    シュレディンガーがどうのこうのと教える前に、こんな風に分かりやすく教えてくれればいいのに。
    理屈よりも分かりやすさ重視で、というのは学問の街としてはダメなのだろう。
    学者先生たちは、小難しい言葉が好きだし。


    御坂「でも、そこに気づけたなら、今までよりも能力開発は楽になるわよ、きっと」

    佐天「なんだかそんな気がしてきました」


    根拠なんてないけれど、そんな気がしてくる。
    あ、これも『自分だけの現実』なのかな?


    御坂「そうやって、ちょっとずつ『自分だけの現実』を確立していくことで、確実にレベルアップしていくのよ」

    佐天「な、なるほど」


    しかし、彼女はレベル1からレベル5になったという話だが、どれだけ努力すれば、その領域にまで達することができるのだろう?
    今までも、相当の努力をしていたらしいということは知っていたが、実際に能力を得てみると、その凄さがひしひしと感じられる。


    佐天「やっぱり、御坂さんはすごいですね」

    御坂「そうかな?」


    やっぱり、御坂さんはこんな反応。
    でも、また分かったことが1つ。
    1人で行き詰ったら、他の人の力を借りよう。
    そうすれば、少しだけかもしれないけれど、先が見えてくるはずだ。

    96 = 1 :



    佐天「それじゃ、またやってみますね」

    御坂「そうそう。その調子」


    今日は大きな前進。
    たいやきを包んでいた紙くずを、手のひらの上で飛ばして遊ぶ。
    これだけでも、私にしてみれば、人類が初めて月に立ったというレベルの出来事だ。


    御坂「なかなかいい感じなんじゃない?」

    佐天「そうですか?」


    そういえば、風の強さも、ほんのわずかだが強くなっている気がする。


    御坂「佐天さんの場合はベクトルの操作だから、どこからどこまでの風のベクトルを操作するかによって強さも違ってくるのよ」

    佐天「はい?」

    御坂「つまり、操作範囲の指定ね。始点と終点を意識するといいかも」


    急に難しいことを注文してくれる。
    範囲の指定って言われても、今だって特に意識していないのに……。


    佐天「え、ええっと……」


    四苦八苦しながら、範囲の指定のコツを掴もうといろいろ努力はしてみた。
    が、すぐに能力が打ち止めになってしまったので、続きはまた今度、と言い残して今日は解散することにした。

    97 = 1 :


    時間戻って、2人が解散する少し前。
    佐天が紙くずを飛ばして遊んでいるころ、そんな2人を遠くから眺めている男がいた。
    電磁レーダーの外に位置していたため、御坂が気が付かなかったもの仕方ない。
    2人を眺めている男に、たいやきを持って近づいてきた女が話し掛ける。


    ???「どうしたの? また、好みの小さい女の子でも見つけた? あひゃひゃひゃひゃ!!」


    その顔から出たとは思えないような下品な笑い声。
    目の前の男を挑発しているようにしか聞こえない。
    だが、男の方は、大して気にした様子も見せずに、2人を眺め続けていた。
    そのうち、男は首筋に手を当てると、舌打ちをして、何かを確信したようにボソリとつぶやく。


    ???「あの女……」


    その白髪の男の真っ赤な瞳は、確実に佐天涙子の方を見据えていた。

    98 = 1 :

    ここまでー。かまちーの理論を自己解釈したんだけど、こんな感じだよね?

    佐天さんが能力獲得するSSは多いけど、地道に努力してステップアップしていくのは少ない気がする。

    少しずつ地の文も上達してきてるはず……。

    99 :

    乙。

    一通さんキターーー!
    これから佐天さんはどうなるのか?
    期待期待。

    100 :

    風を使ってスカート捲りする、百合展開が来るか?と思ったの俺だけじゃないはず


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