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    元スレ麦野「ねぇ、そこのおに~さん」

    SS+覧 / PC版 /
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    みんなの評価 : ★★★×4
    タグ : - 黄泉川 + - むぎのん + - コラッタ + - バカテス + - フレンダ + - ブリス + - 上条 + - + 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。
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    751 = 749 :

    時は僅かに遡る―――

    上条「特売!特売ぃぃぃ~!!」

    もはやカリキュラムに組まれた補習を消化し、上条当麻は夕暮れの街を疾走する。
    目指す先は慎ましやかな上条家の家計を支える行き着けのスーパー。

    上条「やばい!やばい!あと三分しかない!うおおおぉぉぉー!」

    今朝は目覚まし時計が壊れ、アラームを告げる携帯電話は電池が切れていた。
    起床を促してくれる同居人もいなければ、モーニングコールやモーニングメールを寄越してくれるようなガールフレンドもいない。

    あまつさえ、今月頭に仕送りの入った財布を落としほぼ素寒貧。
    折り重なる度々の不幸は、上条の星の巡りの悪さを如実に表していた。
    それがこうして特売セールにひた走る理由である。

    上条「ひーっ、ひーっ、ま、間に合っ…!」

    球のような汗を流し、肩で息をつく。スーパーまでおよそ20メートル足らず。紙のように薄かった望みはどうにかつながった。

    上条「はあっ、はあっ、なんだ、やれば出来るじゃないか上条さん!―――ん?」

    …かに見えた。

    スキルアウトA「おいおいどこ見て歩いてんだよお姉ちゃん?目ついてんのか?聞こえてんのか?耳ついてんのかアア!?」

    上条「!?」

    752 = 749 :

    視線の先―スーパーの出入り口付近で届く怒声に上条の意識は向けられた。

    「………」

    上条「あー…」

    数人の見るからに粗暴そうな集団。それらに相対する女性と地面にぶちまけられた弁当…中身はシャケ弁だろうか?などとあらぬ方面に向けた意識は再び響き渡る怒号に奪われた。

    スキルアウトB「あー弁償だな弁償。これ鹿皮なんだぜ?どうしてくれんだよマジで」

    スキルアウトC「まーまー落ち着けって。金なんかよりいいもん持ってるぜこの女」

    スキルアウトD「はははっ、ちげえねえや。オイ、この女のガラ攫うぞ。現物支給で弁済してもらおうぜ」

    スキルアウトE「学校も行ってねえくせに弁済なんて難しい言葉使ってんじゃねえよ!ひゃっひゃっひゃっ!」

    スキルアウトF「まあそういう事だからさ?大人しくついて来てよお姉さん?」

    思ったよりも状況は悪そうだ、と上条は感じ取った。

    上条「やばいな…あれ」

    恐らく肩がぶつかっただの、そのせいでぶちまけられた弁当が相手のジャケットを汚しただの、その程度の因縁でつけられた因縁の末路は容易く予想がついた

    上条「うう~特売セール…ああちくしょおー!」

    集団が動く。女性を囲みながら。上条は追う。その後を。

    上条「(くうっ…!今晩はゆで卵だけか…!)」

    目と鼻の先にある今夜の慎ましい食事。しかし、見知らぬ誰かを見捨てて食うメシが美味かろうハズなどない。上条はそう考える。

    上条「(不幸だぁー!)」

    しかし彼の考えはそう遠くまで及ばなかった。

    近くまで迫る、本当の「不幸」にまでは…

    753 = 749 :

    上条「(やべえなここ…こんな奥まで…ってか長かったのかよ?)」

    スーパーからやや離れた路地裏。上条当麻はその入り組んだ迷路のような都市の死角を足音を立てずに進んでいく。

    上条「(一人二人蹴散らしたら逃げよう。そうしよう)」

    路地裏へ入っていったスキルアウトの集団の数、連れて行かれた女性、こちらは身体一つに右腕一本。出来る事はそう多くない。
    もしこの入り組んだ路地裏がスキルアウトの根城ならば、他にも仲間がいないとは限らない。短期決戦、一撃翌離脱、電撃作戦である。

    上条「(いた…!)」

    路地裏の行き止まり、ビルの林の狭間に解体工事を半ばで放り出されたかのようなやや開けた空間に、女性とスキルアウトの集団は居た。

    意を決する。たまたま通りがかったにしては奥まった場所で女性の知り合いを装うには不自然過ぎるきらいはあるが、上条は変わらずいつものように―

    上条「おお!こんな所にいたのか!悪い悪い待たせちまって―」

    出来うる限りフランクに、可能な限りクレバーに―

    ビヂャァッ

    754 :

    シャケ弁で切れたのか?ww

    755 :

    上条「えっ…?」

    聞き覚えのある音がした。

    スキルアウトA「ああぁ…!あああああァァァァァァあぁぁあァァー!!?」

    それは以前、上条が買い物袋から落としてしまったトマトを誤って力一杯踏み潰してしまった音に似ていた。

    スキルアウトB「な、なっ…なんだなんなんだなんな…がああああぁああぁあ!!!!」

    嗅いだ覚えのある匂いがした。

    スキルアウトC「う、腕、うでが!俺の腕が!わああああアアアアアア!!」

    それは以前、上条が家族と囲んだ焼肉で、隅に追いやられたまま焦げ尽くされた肉の匂いに似ていながら、鼻粘膜がそれを拒絶するほど強烈なそれだった。

    「…どーお?緩んだ頭のネジがケツの穴まで締め直されちゃったぁ?」

    テレビで見るハンドソープのCMに出るタレントよりも艶めかしくたおやかな手を僅かに上げ、白磁の指先から眩い光の残滓を輝かせながら、その女性は歌うように―吐き捨てた。

    スキルアウトの一人の腕が肩口から…いや、鎖骨から真っ二つに両断されて地面に落ちた。同時に、切り開かれた傷口が鮮血が噴き出した。

    スキルアウトD「うわあああ!?やべえ!やべえなんだコイツ!なにがどうなって…!わああくるなこっちにくるなぁぁ!」

    突如起きた眼前の凶行は、瞬く間にスキルアウトの優位を恐慌へと塗り替える。

    いや―塗り潰すのだ。アイスブルーの妖光が。

    上条「…なんだよこれ!!」

    756 :

    遅いと思ったら携帯か
    大変だろうが頑張ってくれ

    757 = 755 :

    上条の制止の言葉をかけるより早く、スキルアウト達の生死を分かつ閃光は速く、その空間全てを静止させた。

    「あっはっはっはっはっはっはっ!!クッサいわねえ…ブタだってこんなヒドい匂いしないわよ?やっぱり食用に改良されたブタやウシとは違うのねえ?人の肉って」
    瞬き一つする間もない虐殺、息一つつく間もない殺戮、これで生首の一つでも手に携え掲げ持つならばサロメの一幕を演じてのけるだろう。

    「あーあ…くっだらねえ。くっだらないわ。もうコレ着れないわ。最悪。何が鹿皮よ。安物のクセに」

    先ほどぶちまけられた弁当の中身がそっくり解体された人体に入れ替わったような惨状を引き起こしながら、女は返り血と血煙に染まった衣服の心配をしているようだった。

    上条「(ヤバい…!)」

    上条は戦慄を覚える。いくつかの路地裏の喧嘩、常日頃「勝負」という名目にかこつけて追い掛け回してくる中学生とも違う、遊びのない暴力。

    「フレンダー?第七学区のスーパー近くの路地裏まで着替え持って来て。あと下っ端の連中に足と後始末の用意させて。そうそう。お気にのシャケ弁売ってるあのスーパー」

    758 = 755 :

    そんな上条の心胆寒かしめた当の張本人は、返り血にまみれた美貌になるべく当たらないよう少し顔から離しながら携帯電話で何処へと連絡を取っている。

    女は気づかない。もし上条が欠片でも敵意を、悪意を、殺意を抱いていたならばすぐさま女は察知しただろう。
    この猛獣が食い散らかしたような惨状を生み出した殺戮本能で。

    が、しかし

    カァァァーン…カラン…カラカラ…

    「んっ…?」

    女の放った幾つもの光芒による激しい余波の置き土産か、解体途中の工事現場の足場から工具が音を立てて落ちた。

    「あら…?あらあら?あれー?あれー?」

    音の出どころを探すべく周囲を見渡した女の視線が…女を救おうとした足を踏み出せず、また女が生み出した惨劇から足を後退る事も出来ずにいた

    上条「はっ…ははっ…」

    「…ごめーんフレンダ。また後でかけ直す。うん、すぐだから」

    偽善使い(フォックス・ワード)上条当麻の姿を捉え

    そして時間は現在にいたる。端役の退場した血塗れた舞台で。

    759 = 755 :

    読んでくれた方々がいらっしゃるようで嬉しいです。SSは初めてで、かつPCがぶっ壊れてモシモシからですがありがとうございます。

    蛇足ですが、ノープランで書き始めてしまった上に、時間軸がおかしいです。

    簡単な設定としてはインデックスに会う前で、この上条さんは記憶を失っていません(家族で焼肉の思い出があるのはそのためです)

    ただし、御坂御琴とはすでに出会っている設定です。
    本当に蛇足ですが、スキルアウトから麦野を救うという王道の出会いから少し外れて書いてみたかったので…では蛇足失礼します。

    760 = 755 :

    それは明確な殺害予告だった。それは明白な死刑宣告だった。

    「ハッ!」

    差し伸べた手に幾つもの光球が宿る。電子は波形と粒子の狭間を揺蕩い、アイスブルーの光芒が牙も爪も持たぬ狩られるばかりの狐(フォックス)へと。

    上条「ッ!」

    対する上条は見定める。退路を求めて駆け出せばその背を撃たれる。
    対する偽善使い(フォックス・ワード)は見極める。光球の角度を、女の息遣いを、凝縮された殺意を、濃縮された集中で―!
    轟ッッ!!

    放たれるアイスブルーの閃光。突き出される右手。共に仮名遣いの字を持つ

    上条「うおおおおぉぉぉぉーっ!!」

    原子崩し(メルトダウナー)の光芒を

    上条「ハアッ!!!」

    パキィィィィィィン!

    幻想殺し(イマジンブレイカー)が打ち砕く!

    「!!?」

    瞬間、女の整った顔立ちが驚愕に見開かれる。思わずバックステップを踏む。
    刹那、上条は食い縛った歯にさらに力を込めて迂回するように回り込み距離を詰める。

    「なんだ…!なんなんだよテメエは!!」

    詰められた距離を引き離そうとすべく再び放たれる光芒。しかし間近で撃たれたそれを上条は払いのけるように振った右手が打ち消す。

    上条「ただの―――レベル0だよ!!!」

    761 = 755 :

    振り払った右手を固く握り締め強く振り下ろす。女性に紳士たらんとする上条にとってさえ、目の前の女は―――

    「ふっ…ざけんなァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

    上条「!?」

    振り下ろされる右手を、栗色の髪を宙に広げながらかいくぐり、踏み込み、頭から突っ込むようにしてタックルを食らわせる。その辺りのスキルアウト以上の当たりの強さだ。


    上条「しまっ―――!」

    踏ん張ろうとした矢崎、「不幸」にも先程のスキルアウトの肉塊に後ろ足に取られ仰向けに倒れ込む上条。

    「―――[ピーーー]っ!!」

    押し倒し、「幸運」にも先程落下してきた解体工事の工具―レンチを手に取り襲いかかる女。

    上条「―――るかよっ!!」

    打ち下ろされるレンチを顔を背けて避ける。そして女の手を―――右手で掴む!

    「なによけてんだ獲物の豚野郎!狐狩りの最後は―――皮剥がしだ!!!」

    演算終了。彼我の距離も、出力の加減も、逃れようのない死を与えるには―――充分に過ぎる!

    ………………

    「なっ…んで?」

    原子崩しが………出ない!?

    762 = 755 :

    上条「いっ、イチかバチかだったけど…上条さんはやれば出来る子ですよ?」

    「テメエ…!なにが…レベル…0だ!」
    レンチを握った左手は上条の右手に掴まれ、放とうと演算を終えた原子崩しが…発動しないのだ。
    まるで力の出掛かりを、見えざる神の手に阻まれているかのように…!

    「この私を…!」

    32万人に一人の超能力者、レベル5の第四位…原子崩しの字を冠し、暗部組織アイテムを束ねる自分を…たかがレベル0の無能力者が―――!!!

    フレンダ「麦野ーーー!!!」

    麦野「!!?」

    そこに…女の名前を呼ぶ、金髪碧眼の美少女…フレンダが現れ―――

    上条「っおらぁぁぁぁぁ!!!」

    麦野「っあ!!」

    思わぬ声音に一瞬力の緩んだ麦野のマウントを押し返し、はねのけ、上条は駆け出す。

    麦野「逃がすか狐ぇぇぇ!!!」

    右手が離れた途端、力が戻る。演算が終わる。背中を向けた上条目掛けて照準を―――合わせ―――

    麦野「―――!?」

    射線上に駆ける上条と―――立ち尽くすフレンダが重なる!

    麦野「―――チッ!」

    すぐさま原子崩しを放つのを止める。しかしその僅かな逡巡の先に


    ―――上条当麻はフレンダの脇をすり抜け、路地裏を駆け抜け、姿を消した。

    763 = 755 :

    フレンダ「む、麦野!?これってば結局どういう訳よ?うわ臭い!何人殺ったんですか?ってさっきのアイツはー!?」

    麦野「…はあっ、いいわフレンダ。あんたが私の元にいのいちに駆けつけたその心根は誉めてあげるわ」

    名も知らぬ闖入者…いや、先程自分の事を「上条さん」と呼んだ少年を追跡し、見失ってから数分後…迎えのワゴンと事後処理の下部組織とフレンダがやってきた。
    どうやら下校する生徒達の雑踏の中に紛れこんだらしい。特徴的なツンツン頭も無個性な制服が隠れ蓑となり、フレンダは終ぞ発見する事が出来なかったのだ。

    そして二人は今、迎えのワゴンの後部座席に並んで揺られている。

    フレンダ「そりゃそうよ!なんせあそこのスーパーはサバ缶の品揃えも特売セールも…って違う違う!結局、麦野がいきなり電話切るから急いで駆けつけたって訳よ!」

    ダダ漏れの本音を適当に聞き流しつつ、それでもあのスーパーにフレンダがいた偶然は得難い。運は時としてどんな戦力より強力な味方だ。しかし…

    麦野「ふーん?で、まんまとあの狐野郎に煙に巻かれてすごすご帰ってきたと?」

    フレンダ「うっ…む、麦野まさか…!」

    自分達は「アイテム」。言うなれば道具。先程麦野が得物に使ったレンチと同じ…使えなければ何の価値も生み出さない…消耗品だ。

    麦野「オ・シ・オ・キ・カ・ク・テ・イ・ネ」

    フレンダ「むっ、麦野っ…いやぁー!!」
    後部座席から響き渡る甘やかな悲鳴を、無骨な運転手は黙って聞き流した。
    こんな仕事は落ちぶれたスキルアウトにでもやらせればいい、そう胸中で苦虫を噛み潰しながら。

    764 = 755 :

    そして一頻りフレンダへの制裁を終えた麦野沈利は乾いた返り血も気にせず頬杖をつきながら、車外に広がる夕闇を見つめていた。

    麦野「(今日の損害。お気にのシャケ弁、それと服、あとはあの狐野郎)」

    名乗った上条という字、原子崩しを真っ向から無力化したレベル0、見ようによっては見れなくもない顔、歪な情報を整理しながら麦野は思いを巡らせる。

    麦野「(アイツ…なんであそこにいたの?あのクズ共の仲間じゃない…?見られた…フレンダの馬鹿が私の名前呼んだ…迂闊…多分顔も覚えられた…殺さなきゃ)」

    今回の件は「仕事」ではない。どうとでももみ消せる。「仕事」とは関係ないからフレンダへの制裁もお仕置きの範疇だ。しかし

    麦野「([ピーーー]前に…調べなきゃ。そうだ。フレンダにやらせよう。失敗を挽回するチャンスを与えるのもリーダーの役割ってね)」

    麦野沈利は完璧主義者である。ノーミスでクリア出来なければエンディングにすら価値を見い出せない。最低でもハイスコアを更新しなければ満足出来ない。そう言うタチなのだ。

    麦野「(見つけたら、殺さなくちゃ。そうよ、引き裂いてやる…上下左右バラバラに)」

    だからこそあのイレギュラーは看過出来ない。する訳にはいかない。しかし―

    麦野「(左手が…熱い。あの狐野郎に掴まれたから―)」

    麦野の手首にしっかりと残り、今なお熱を持つ―上条当麻の手形を見やってから…麦野沈利は返り血にまみれたまま、舟を請いで微睡みの中へ落ちていった。

    お仕置きされてヒクヒクしているフレンダを踏んづけたまま―



    「偽善使い×原子崩し」終わり

    765 :

    乙乙。記憶無くす前のKJと麦のんか

    766 :

    超頑張れ

    768 :

    続きはまだかね

    769 :

    終わらせないで~

    770 = 755 :

    レスをありがとうございます。「偽善使い」を書いた者です。
    相変わらずPCはオシャカですが、なんとかPCで売った文章を携帯に移しながら投下出来そうです。(何故かネットに繋がらなくて…)
    ですので投下の続きをさせていただきます。


    注意点
    ・この物語は七月以前の時間軸となっているため上条当麻の記憶は失われていません。
    ・ただし御坂御琴と上条当麻は既に出会っています。
    ・アイテムの面々も出て来ますが、時間軸の都合上、浜面仕上は出て来ません。
    ・基本的にノープランのSS初心者です。申し訳ありません。口調が変だったらお許し下さい…

    では投下いたします。

    771 = 754 :

    二次創作なんだしいちいち矛盾に突っ込んだりはしないから存分に書いてくれ

    772 = 755 :

    ~とある高校~

    土御門「おーいカミやん。その背中どうしたんぜい?またいつもの人助けかにゃー?」

    青髪「なんやなんやー?その爪立てられたみたいなやらしー痕は!“昨夜はお楽しみでしたね”って抜け駆けは許さんでカミやん!」

    上条「はあ…上条さんにそんな浮いた話は一つもないっつの。へこむような不幸には売るほどあるけどな…」

    「偽善使い」上条当麻と「原子崩し」麦野沈利の会敵から一夜明け…四限目の体育に向けて着替える中、デルタフォースの内二人は目敏く上条の身に起きた異変を見抜いたのだ。

    麦野のスピアータックルをまともにくらい、砂利だらけの路地裏に倒れ込み痛々しいまでに赤く擦り切れてしまった上条の背中に。

    土御門「痛そうだにゃー…こりゃあ染みるなカミやん。ご愁傷様ぜよ」

    上条「ったく…でもこんくらいで済んだのは不幸中の幸いだぜマジで。でもシャワー浴びたら痛くってさあ…」

    青髪「なんやて!いつもはもっと激しいんか!?」ズイッ

    上条「だからないっつの!近い青髪!顔が近い!つーか授業始まる!グラウンド行くぞ!」

    背中に刻まれた痛みが否応無しに告げる。あれは幻想(ゆめ)ではなく紛れもない現実だったのだと。どんな言葉より雄弁に。

    麦野『ブ・チ・コ・ロ・シ・カ・ク・テ・イ・ネ』

    逃げ帰る最中もあの女の言葉が絶えずリピートされ、登校する道中も誰かに尾行されているように感じる。もう一度鉢合わせたら今度は振り切る自信がない。そう考えると上条は吐かざるを得ない。大きな溜め息を。

    上条「(不幸だ…)」

    青髪「………」

    そしてそんな友人の嘆息を、青髪は微苦笑を浮かべながら見つめていた。

    773 = 755 :

    ~とあるファミレス~

    絹旗「麦野、その包帯どうしたんですか?超大丈夫ですか?」

    いつものファミレス、いつもの席、いつもの面子で卓を囲う四人の面々の内、最も幼く愛らしい顔立ちをした少女…レベル4「窒素装甲」絹旗最愛が口火を切った。

    麦野「大丈夫よ絹旗。少しひねっただけ。で、フレンダ?何かわかった?まさか昨日の今日でまた手ぶらだなんて事はないわよね~?」

    それを受けて包帯の巻かれた左手をプラプラと振って返すは学園都市第四位にしてレベル5…「原子崩し」麦野沈利。暗部組織「アイテム」を束ねる最年長者だ。

    フレンダ「も、もっちろんよ!結局、あの後下っ端の連中でハッキングが上手いヤツがいて、ちょちょっと書庫(バンク)を漁らせたって訳よ!ほら!」

    水を向けられた金髪碧眼の美少女、フレンダが慌てたようにポーチから何枚かの書類を取り出しテーブルに広げる。
    そしてそれを無感動な視線で…遠くを見るような寝ぼけているような眼差しで一人の少女が読み上げる。

    滝壺「かみじょうとうま…レベル0(無能力者)…○○高校一年七組在籍…住所、第七学区○○高校男子学生寮…うん、大丈夫。覚えたよ」

    滝壺理后。レベル4「能力追跡」を持ち、麦野を頂点とする「アイテム」の中にあってその中核を担う少女である。そのどこか浮き世離れした雰囲気とピンク色のジャージ姿とのミスマッチさが、他の三人とはまた違った華を添えている。

    774 = 755 :

    麦野「○○高校ね…よくスクールバスが走ってるの見かけた事あるわ…よし、下校時刻になったら行きましょう」

    絹旗「えっ!?ちょっ、超待って下さい麦野!」

    麦野「なによ絹旗。見たい映画でもあった?」

    絹旗「あっ、いや、その…麦野も超行くんですか?たかがレベル0に?」

    麦野「そうよ」

    怪訝そうに絹旗が上目使いで麦野を見上げる。「仕事」ならいざ知らず、いくら顔を見られたからと言っても今回の件については十分にもみ消せる範疇だ。現に証拠となるスキルアウトの連中の遺体はとうに炉の中である。

    加えて現場となった解体工事現場はフレンダがまとめて爆破した。もともと途中で放り出されていたものだ。故に「上条当麻」なる学生がアンチスキルに通報した所で、もはや検証は不可能。そして今のところアンチスキルに動きはない。

    そう、言わば「念には念を」入れる程度の後始末だったハズだ。追跡に失敗したフレンダだけでは心許ない、だから自分達を呼び出したのではないかと絹旗最愛は考える。しかし

    麦野「…詳しい事は私にもわからない。けれどね絹旗。そのレベル0の狐野郎はね―」

    そこで麦野はチラと包帯の巻かれた左手を見つめる。その下にある、絹旗の知らない「上条当麻」が麦野につけた手形を。

    麦野「私の原子崩し(メルトダウナー)を破ったのよ。アンタの言う“たかが”レベル0が、ね」

    775 = 755 :

    昼間の投下はここまでです。推敲無しなので誤字脱字は申し訳ありません…
    読んで下さった方々、本当にありがとうございます。

    776 :

    夜まで待つ

    777 :

    待たない。早く書けよ

    778 = 755 :

    「とある星座の偽善使い(フォックスワード)」の者です。投下させていただきます。読んで下さる方、レス下さる方、ありがとうございます。

    779 = 755 :

    ~第七学区・通学路~

    青髪「うーわ!仕送り無くすとかとことんついてへんなあカミやんは…どないする?僕の下宿先来る?売れ残りのパンやったら分けたるで~?」

    上条「頼む青髪…もう限界だ…昨日から何も食ってない…あ、肉の入ったヤツは勘弁してくれ…」

    青髪「なんやダイエット中?あかんで~無理なダイエットは。僕みたいに大きゅうなれへんで!」

    下校時刻。上条は中間テストのあまりの悪さから、青髪は担任教師によるつきっきりの補習目当てに、それぞれ居残り勉強を終え二人並んで通学路を歩む。上条の顔色は優れない。

    上条「(あんな衝撃映像見てお肉が食べれるほど上条さんの胃袋と神経は太くないの事ですよ)」

    麦野が繰り広げた地獄絵図の後、上条はゆで卵を食べる気さえ起きず、昨夜からこの時間まで断食同然であった。
    その上今月分の仕送りをまるまる失った上条の事情を知り、見かねて青髪が誘い水をかけたのだ。持つべき者はパン屋住まいの友である。

    青髪「なあカミやん?サンドイッチって卑猥な響きがせえへん?」

    …前言撤回を心に誓う上条であった。

    780 = 755 :

    上条「はあっ…ま、いいか!よーし食いまくるぞ食いまくるぜ食いまくってやるの三段活用!」

    上条当麻は知らない。間もなく訪れる夕闇が、古来どのように呼ばれていたかを。

    青髪「現金やなあカミやん…ん?なんやああれ?うわ見てみーなカミやん!ものごっつどえらい別嬪さんやで!」

    上条「えっ?」

    青髪が指差す先。通学路の終わり。
    沈み行く夕闇を指して、光源を持たず、己の足元もわからぬ夕闇の中で古来の人々はこう言った

    (たそ)彼(かれ)は…『彼は誰?』と。

    麦野「はあーい?奇遇ねえ?」

    上条「…!」

    それが現在に連なる黄昏(たそがれ)の語源となる言われの一つ。そして夕陽が沈み夜の帳が降りるその時をこうも言った。

    麦野「昔ねえ?星座占いの本に書いてあったのよ。一度会うのは偶然、二度逢えば必然、ってね」

    『逢魔が時』…魔と対峙しやすくなる危険な時間帯、だとも。

    麦野「こんばんは“上条当麻”クン?“昨日はありがとう”?」

    人の形をした魔―――麦野沈利が、そこにいた。

    781 = 755 :

    青髪「なんやなんやカミやん!こないな美人なお姉さんの知り合いおるんやったらなんで僕に言うてくれへんねん水臭いわ!」

    麦野「あらあら?当麻くんのお友達ですか?はじめまして、麦野沈利と申します」

    上条「(………ヤバい、ヤベえぞ!)」

    どうやって調べたのか、上条は待ち伏せされていた。よりにもよって関係ない青髪がいるのを狙いすまして。親しげなふりまでして、名乗りまであげて。それはつまり―――

    上条「(オレが逃げたら…青髪が殺される!)」

    上条がこの場で遁走すれば間違いなく青髪は殺される。この女はやってのける。このような無言の人質宣言をするまでもない。上条は知っている。この女は必ず[ピーーー]。二人で逃げ出す算段をつける間に、必ず。

    麦野「ねーえ当麻くーん?お姉さん昨日の『お礼』がしたいなあ…これから、どっか食べに行かない?青髪くんも良かったら…」

    上条「だ、ダメだ!!!」

    青髪「ええっ!?そない殺生な~!」

    思わず大きな声が出る。青髪は連れていけない。麦野は今、この通学路だから強引な手段に出ず牽制に留めているだけだと上条は察する。青髪は連れていけない。だから―

    上条「ははっ、悪いなあ青髪?このお姉さんとどうしても『二人っきり』になりたくてさ!すまん!今度ジョセフでなんかおごるから!」

    青髪「は~カミやんは友情より恋を優先するんやね!あ~もうシドいわシドいわ僕という者がありながら!」

    麦野「あら…ごめんなさい青髪くん…当麻くん(の顔)ちょっと借りるわね?」

    青髪「たは~かなわんわあ!えーもん!明日はカミジョー裁判やで覚悟しいや!根掘り葉掘り聞いたんで!ほなお邪魔虫は馬に蹴られて死ぬ前に帰るわ!ばいなら~」

    即興の道化芝居。麦野と上条にしかわからない符帳を使いながらなんとか青髪を丸め込み、三人は二人と一人に別れて通学路から散った。

    782 = 755 :

    ~第七学区・スクランブル交差点付近~

    麦野「へえ…?ちょっと見直しちゃったわ。通ってる学校のランクほど血の巡りは悪そうじゃないのねえ?」

    上条「…何の用でせうか…」

    上条当麻は今、右腕を麦野沈利に組まれ、はたから見ればカップルのように信号待ちをしている。
    もちろん、内情はそんな甘ったるい話では決してない。単に上条を逃がさないためにそう振る舞っているに過ぎない。

    麦野「決まってるじゃない…テメエを[ピーーー]ためだよ狐野郎。さっきのイカレた青頭にも私の仲間がついてる…下手な動きをしたらすぐさまあの世行きよ」

    上条「…!」

    この場にフレンダ・絹旗・滝壺がいないのはそういう理由である。思わず上条は息を飲む。
    目の当たりにする、自分の住んでいる世界とは違うやり口に。徹底して遊びのない殺し間に相手を追いやる『暗部』の手口に。
    上条「…どうにもならないのか?オレが死ななきゃ、青髪は助からないのか?」

    信号が変わる。赤から青へ。人混みが動き出す。麦野が上条の腕を取る。歩みを進める。死出への旅路へと。

    麦野「そうね。でも光栄に思ってくれていいわ。こーんな綺麗なお姉さんのエスコートつき地獄にいけるんだ・か・ら」

    上条「クソッ…!」

    ニコッと瞳の笑わない微笑を向ける麦野。もちろん上条を始末した後は青髪も消す。フレンダと絹旗が跡形も残さずやり遂げる。自分達は『アイテム』。暗部組織の一角を統べる存在。今や麦野は首狩りの女王だった。


    ―――だった。

    スキルアウトG「見つけたぞ売女ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

    上条・麦野「!!?」

    783 = 755 :

    ~第七学区・スクランブル交差点路上~

    スキルアウトGは復讐に猛り狂っていた。仲間が塒(ねぐら)に帰って来ないのだ。それだけなら気ままな彼等の事だ。或いは喧嘩でもしているのかと。

    しかし、彼等の消息を知る者がいた。『第七学区でいい女を拉致った。これから輪姦すから良かったら来いよ混ぜてやるから』という一本の電話だった。

    それは麦野の原子崩し(メルトダウナー)によって右腕を切り落とされ、挽き肉にされたスキルアウトCからの最後の通話だった。

    スキルアウトGは一晩中彼等が姿を消した第七学区で聞き込みを始めた。時に恫喝で、時に暴力で。そして知る。彼等が消える直前に、栗色の髪の女と一悶着あった事を。

    輪姦すはずだった女だけが裏路地から血塗れで現れ、自分達以上に剣呑な空気を纏った男達の並ぶ車に乗り込み去って行った事を…スキルアウトGは血痕を覆い尽くすような瓦礫の山を前に、目撃者からその話を聞いたのだ。

    だから…彼は今―――

    スキルアウトG「見つけたぞ売女ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

    上条・麦野「!!?」

    アンチスキルの武装にも対抗し得る、大砲を受けても横転すらしない特注の装甲ハンヴィーでスクランブル交差点に突っ込む。第七学区にスキルアウトならではの人海戦術を駆使した網に掛かった麦野を―――!

    784 = 754 :

    ハイペースだな
    頑張れ

    785 = 755 :

    ~再び第七学区・スクランブル交差点路上~

    麦野「湧いてんじゃねぇぞブタ野郎!ブリキのオモチャ引っさげてこの私(ハートの女王)を潰せるつもりかよぉぉぉぉぉ!!!」

    麦野は察知する。どの敵対勢力かなど考えない。あれは敵。敵は潰す。敵は[ピーーー]。煮えたぎる殺意が心を沸騰させ、冷徹なまで原子崩しを放つ演算を行う―――終了。

    麦野「いーち…」
    逃げ惑う人々、立ち尽くす麦野。捧げるように差し伸べる左手。

    麦野「にー…」
    光球が現出する。あんなチープな装甲車など、原子崩しの光芒の前には濡れたウエハースも同然だ。

    麦野「さーん…!」
    思い知らせてやる。ウェルダンにしてやる。骨の欠片、血の一滴、灰のひとつまみも残さずメルトダウナーで焼き尽くして殺してやる…!

    そう、決めていたはずなのに

    「――――――避けろ麦野ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――!!!!!!」

    ドンッ、と突き飛ばされた。

    麦野「へっ…?」

    なんの取り柄もないはずの、なんの力も持たないはずのレベル0(無能力者)

    上条「――――――」

    ゴガッ、ガッシャァァァァァァァァァァァァァァァァン

    ―上条当麻が麦野沈利を突き飛ばし、装甲車からの車線上から彼女を追いやり…

    麦野「あっ…あああ…」

    ひしゃげた信号機、歪む電信柱、飛び散る血潮がアスファルトを染める。

    麦野「ああ…ああっ…」

    初めて出会った時とは逆に、麦野は返り血を浴びておらず、上条は自分の血の海の中に沈んでいた

    上条「…ははっ…今日は…ついてる…誰も怪我…してねえぞ…」

    へたり込む麦野、つくばう上条。[ピーーー]側であった人間が、殺される側であった人間に救われるという絶対矛盾。

    上条「だから…青髪を…青髪だけは…」
    血溜まりの中、別れた友達を呼びながら…上条当麻は―――

    上条「見逃し―――………」
    偽善使い(フォックスワード)上条当麻は、意識を手離した

    麦野「ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!」
    誰に向かって叫んだのか、内なる何が叫ばせたのか、それすらわからない麦野沈利を残して。

    786 = 755 :

    以上、投下でした。ありがとうございました。

    787 = 754 :

    寸止めだと…

    788 :

    続き待ってるよ 乙です

    789 :

    神があらわれた…
    乙です

    790 = 768 :

    私待つわ

    夜中まで待つわ

    791 = 755 :

    「とある星座の偽善使い(フォックスワード)」の者です。本日最後の投下をさせていただきます。
    一応、これで第一部が終わる感じです。よろしくお願いいたします。

    792 = 755 :

    ~第七学区・とある病院~

    ピコーン…ピコーン…ピコーン

    麦野「………………」

    麦野沈利は病院にいた。

    ピコーン…ピコーン…ピコーン

    規則的な山なりの形を示す心電図を、光を失った闇色の瞳で。

    上条「シュー…シュー…シュー…」

    見つめている―――酸素マスクと無数のチューブによって繋ぎ止められている、上条当麻を。

    麦野「…とんだザマね、偽善者(ヒーロー)さん?」

    麦野が一人言ちる。鼻で笑うような冷笑を湛えて。

    麦野「なに?あれ?まさかあれで私を助けたつもり?自分が救おうとする命はみんな正しいモノだとでも思ってるの?」

    それは上条に対してか、はたまた自分に対してか―――恐らく、両方。

    麦野「あんな事で私が死ぬって?こんな事でアンタの友達が助かるって?はっ…バカは死ななきゃ治らないんだから本当に死んじゃえば?」

    しかし、上条当麻はその言葉に対して返す術を持たない。麦野沈利はベッド脇に備えつけられたパイプ椅子から立ち上がり―

    麦野「手伝ってあげよっか?このチューブ一本外せばアンタはお陀仏よ?ねえわかる?アンタの命を握ってるのは…私なんだよ!!」

    793 = 755 :

    上条の首筋に、擦過傷から痛々しい絆創膏の貼られた穏やかな寝顔に、息巻くように…チューブの一本に手をかける。

    麦野「一人助けりゃ良いことか!?救った命は正しいの?答えろよヒーロー(偽善者)!!!テメエのくだらねえ[田島「チ○コ破裂するっ!」](自己満足)で勝手にイって一人で寝てんじゃねえよ!答えろ!!答えろよ狐野郎!!!」

    麦野沈利は揺れている。生殺与奪を握っていた相手に身を呈して庇われ、命を救われ、そしてさらに悪い事に

    麦野「このまま死んだら…あんた…犬死にだよ?ねえ…なにやってんのよ…あんなクズの命まで背負い込んで死んで満足かよ!ええ!?」

    今回の事件で、死傷者はいないのだ。ただの一人も。あの装甲車で襲撃してきたスキルアウトさえもが

    794 = 755 :

    ~とあるファミレス~

    フレンダ「…あの後、アンチスキルが来て事態は収集、あの馬鹿なスキルアウトは装甲車の中で伸びてただけでそのまま連行…結局…世は事もなしって訳よ」

    絹旗「…麦野、超見てらんなかったです。あんな取り乱した麦野…見た事ないです。…滝壺さん?」

    滝壺「…大丈夫。むぎのはきっと大丈夫。…かみじょうもきっと…大丈夫」

    一人欠けた「アイテム」の面々は第七学区のファミリーレストラン「ジョセフ」に集まっていた。

    三人は元々麦野からの指示が出れば即、上条当麻と最後に接触を果たした青髪ピアスを抹消する手筈であった。しかし、待ちわびた電話の第一声はこうだった。

    麦野『上条当麻が轢かれた。今第七学区の病院にいる。もう持ち場を離れてもいい』…そう言っていた。震える声で。自分が轢かれたように苦しげに。

    当のスキルアウトは衝突の瞬間、つきすぎた勢いのまま防弾ガラスを破らん勢いで顔面を強打しそのまま失神。通行人にも怪我は一人もなく、犠牲者は信号機と電柱、そして上条当麻ただ一人であった。

    フレンダ「結局、ババ引いたのはあのウニ頭一人って訳よ。…馬鹿じゃないですか。たかがスキルアウト一人に、麦野が遅れを取る訳ないって言うのに」

    滝壺「ふれんだ…」

    事件のあらましを聞いたフレンダはすぐさま調べ上げ、上条当麻が麦野を庇ってひかれた事を知った。第一はリーダーである麦野の安否。元々[ピーーー]はずだった予定の標的も消え、結果としてアイテムに損失はない。が

    絹旗「…なんであのツンツン頭は麦野を助けたんでしょうね…なんで麦野はあのツンツン頭の側にいるんでしょうね…超気になります…」

    三人「………………」

    カラン、絹旗のアイスコーヒーの中の氷が音を立てた。

    795 = 755 :

    ~再び第七学区・とある病院~

    冥土帰し「気分は少し落ち着いたかい?」
    麦野「…はい」

    冥土帰し「うん。そう落ち込む事はないよ?こういう時、誰しも気が動転するものだし、冷静さを失うのも無理からぬ話だからね?」

    麦野沈利はアイスコーヒーを片手に病院内にある自販機にカエル顔の医者と共にいた。
    先程病院内で目を覚まさない上条に対し激昂する麦野を見咎めて、患者の様子見に回っていた冥土帰しが連れ出したのだ。
    『一息いれよう?これでは君が先に参ってしまうよ?』と

    冥土帰し「…君は彼の…ええと恋人かい?」

    麦野「違うわ…今日会ったのだって二回目…そういうんじゃない」

    冥土帰し「そうかい?」

    そのあまりの憔悴ぶりに、冥土帰しは麦野を上条当麻の恋仲かと思ったのだ。しかしまさか麦野も「[ピーーー]はずだった目撃者」とは言えない。

    冥土帰し「僕は何度かこの病院で彼を目にした事があるよ?もっとも、その時は患者ではなかったがね?」

    麦野「…?」

    冥土帰しはコーヒーを一口あおるとフッと息を一つ吐いて語る。上条当麻という人間を。

    冥土帰し「ある時はスキルアウトから抜けようとしてリンチを受けた少年を連れてきた事も、またある時は怪我をした女の子を連れてきた事もあった。彼自身も少なからず怪我をしていてね?」

    麦野「………………」

    冥土帰し「みんな、彼に感謝していた」

    796 = 755 :

    冥土帰しは語る。上条当麻という人間を。自らを偽善使い(フォックスワード)と嘯く少年を。フレンダに漁らせた書庫(バンク)には載っていない、剥き出しの上条当麻という人間の生き様を。

    冥土帰し「きっと彼の腕は長いんだろう。あれもこれも誰も彼も…助けようとする。まるで、両手いっぱいにオモチャを持ちたがる子供のようだ。捨てる事を知らない」

    麦野「…それだって、あのワケのわからない腕の力のおかげでしょう?なんでもかんでも消しちゃう、あの能力で」

    麦野は俯きながら呟く。自分のメルトダウナーを防ぎ、未だに痣の残る手形を残し、自分を装甲車から救い出した…あの腕で。あの能力で。

    冥土帰し「いや?それはあまり関係ないんじゃないかな?」

    が、冥土帰しはそれをやんわりと否定した。

    麦野「え…?」

    冥土帰し「―――前に彼が言っていたよ?この右手は異能の力しか打ち消せない、だからスキルアウト達にナイフなんて出されたらもう逃げ出すしかないとね?」

    797 = 755 :

    ~第七学区・上条当麻の病室~

    麦野「…聞いたわよ。偽善使い(フォックスワード)さん。アンタ、私が思ってたよりずっとずっと…頭、悪いわ」

    麦野沈利は横たわる上条当麻の手を握っていた。全ての異能を打ち消すその右手を。されど、己の幸福すら掴めない不運な右手を。

    麦野「…本当に馬鹿よアンタ…私、アンタとアンタの友達、殺そうとしたのよ?あんなにたくさんたくさん…人を殺してきたんだよ?アンタが助けて来た人達より…ずっとずっとたくさん」

    麦野沈利は祈るように手を握り締める。何故そうしているのかわからない。何故こんな、ロクに言葉も交わしていない男のために、自分にすらしない神頼みの祈りを捧げているのかが。

    麦野「ねえ…答えてよ。私は壊す事しか知らない。私はこれ以外の生き方がわからない―――ねえ、私、どうしてこんなのになっちゃったのかな?」

    何が偽善使い(フォックスワード)だ。ふざけるな。
    身体を張って、心を砕いて、魂を削ってまで、そこまでやってまだ偽善か。だとすれば上条当麻の言う『善人』とは―――

    麦野「目を、覚ましなさい…こんな、こんなくっだらねえ女救って、死んで、アンタ満足?違うでしょ?ねえ違うでしょ?」

    798 = 755 :

    能力の有る無しなど関係なく誰も彼も救おうとする上条当麻。誰もが羨むレベル5の力を持ちながら暗部に身を落とした麦野。

    きっと、能力を交換しあっても上条は麦野のような生き方を選ばない。麦野だって上条のような生き方を選べない。

    でも

    でも

    麦野「私が、アンタが今まで救った来た“何百人の人間の一人”に過ぎなくても」

    昼間の、表の世界で生きる上条当麻と

    闇夜の、裏の世界で生きる麦野沈利とが

    麦野「アンタは、私を救った“たった一人”の人間なんだよ…?」

    初めて出会ったのは、そのどちらでもない夕闇の中であった事は、如何なる意味を持つのか

    麦野「ねえ―――」

    今はまだ、誰も知らない。

    799 = 755 :

    ~第七学区・とある病院・朝~

    上条「ん…おお?」

    午前五時過ぎ。見知らぬ天井を見上げながら…上条当麻は目を覚ました。

    上条「(…どこだ…ここ…痛っ、イタタ…!?)」

    身体が起き上がれない。口元に取り付けられた酸素マスクに違和感を感じる。
    どこからだ?どこから記憶が―――そうだ、確かあのスクランブル交差点で―――

    上条「(んっ…んおおおおお!!?)」

    そこで上条当麻の薄ぼんやりした思考の糸は断ち切られ、一気に覚醒へと促される。それもそのはず―――

    麦野「スー…スー…スー…」

    上条「(な、な、なんでこのお姉さんがここにいるんでせうか…)」

    朝焼けの光の中、上条の手を握り締めながらベッドに上体を預け、微睡む麦野沈利が、そこにいたからだ。

    上条「(なにがどうなってこうなってああなったんですかと上条さんは三段活用ですよ!)」

    冥土帰しの腕は、致死必至だった上条当麻を容易く現世へと連れ戻した。しかし、その上条当麻を現世へと繋ぎ止めていたのは
    麦野「くー…くー…くー…」

    血塗られた微笑でも、妖絶な艶笑でもない…疲れきっていながらも穏やかな寝顔を浮かべて眠る、一人の少女だった。

    800 = 756 :

    良いね頑張れ


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