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    元スレ和「え? どの学年が一番強いかですか?」

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    52 = 1 :

    @実況室

    すばら「え……裏目らない?」

    「そりゃどういう意味だよ、初瀬ちゃん」

    初瀬「いや……言葉通りの意味です。これは近畿大会が終わったあとにたまたま先輩から聞いた話なんですけど、荒川憩選手の打ち方の特徴の一つとして、ほとんど裏目らないという事実があるそうなんです」

    「まったく、ではなく、ほとんど、という言い回しが気になりますね」

    初瀬「ええ……荒川選手も裏目るときはあります。けど……それは裏目ったというよりは……面子を一つ落としてるって感じらしいんです。それをすることで……より高い手を和了っているんだとか」

    「裏目らないのが事実なら大したもんだが……衣とか神代に比べると、イマイチすごさが伝わってこねえな」

    初瀬「えっと……先輩の受け売りなのであまりうまく伝えられないのが申し訳ないのですが。荒川選手の和了りは……ほぼ全て最速で手が作られているんだそうです。
     具体的に言うと、荒川選手が和了ったときの手牌と捨て牌……それら全てを合わせて……作り得る和了りの形を探ってみると……七割方は荒川選手が和了った形のただ一通りしか作れないのだそうです」

    「テンパイ効率が恐ろしく良い、ということですね。ちなみに、最速でない残りの三割はどういったパターンなんですか?」

    初瀬「それは……打点を上げているパターンです。荒川選手が和了ったときの手牌と捨て牌、それら全てを合わせて、作り得る最高打点の和了りの形を探ってみると、それが実際に荒川選手の和了った形になっているそうなんです」

    「つまり……あのナースちゃんはツモる牌が全て見えてるってことでいいのか?」

    すばら「ツモる牌全てって……それ、一巡先が見える園城寺さんより遥かにテンパイが速いってことになりますよね?」

    53 = 1 :

    初瀬「事実として……そうですね。荒川選手のテンパイ効率は近畿地区でも群を抜いています。ただ……荒川選手のそれは……見えるとか見えないとか、そういうオカルトではないそうなんです。あくまで技術の範囲内。
     しかし、その技術があまりに高度過ぎるので……結果だけ見ている私たちにはオカルトのようにしか見えないんだとか。
     先輩は計算機を例に話してくれましたね。三桁かける三桁の計算を一瞬でやってのける計算機。それを見て、魔法だと思うか、技術だと思うか、どっちだって。そして仮に、タネと仕掛けしかない技術だと思ったところで、同じことを自分ができると思うかって。
     荒川選手がやっているのは、そういう類の何からしいんです」

    「そう言われてみると、さっきの東一局の二巡目六筒切り……多少不自然な打牌だと思って見ていましたが、裏目らないと聞いた今では納得できます。確かに、荒川選手が和了ったとき、その手牌と捨て牌の中に四以上の筒子はあの六筒しかなかったですね」

    「しかしなぁ……オカルトか非オカルトかは別として……絶対に裏目らない程度の力で、魑魅魍魎が跋扈する全国で二位になれるとは到底思えないんだが……」

    初瀬「もちろんその通りです。荒川選手は、裏目らないだけでツモは普通の人と変わらないので、例えばノーテンで終わることだってあります。井上さんの言うことはもっともだと思います。ですが……」

    「荒川選手の打牌の特徴は……何も裏目らないというだけではない……ということですね」

    初瀬「そうです。荒川選手のやっていることがオカルトなら……絶対に裏目らないオカルト、だからテンパイが速い、すごい――で終わる話なのですが、荒川選手のアレはあくまで技術なので……もっと別のこともできるんです」

    すばら「例えば……どんなことができるんでしょう……?」

    初瀬「えっとですね……麻雀のゲームに、他家の手牌を晒した状態にするって設定がありますよね。確か、フルオープンモード。荒川選手の場合……速ければ三巡、遅くとも六、七巡目までには、そのフルオープンモードに入ります」

    「他家の手牌が透けて見えるのか? それも……三家全て……? 速ければ三巡でって……どんな技術だよ……あの風越の女も相当だが……あいつにだってそこまで速く正確には見えねえはずだぞ。もしそれが本当なら、下手なオカルトよりよっぽどひでえな……」

    「他家の手が透けて見えるのであれば、振り込むことはまずありませんし、たとえ先制リーチをされたとしても……いくらでも打ち回すことができますね」

    すばら「おおお!! ここで千里山女子・清水谷選手がテンパイっ!! これはリーチを掛けるでしょうかああ!?」

    55 = 1 :

    @対局室

     八巡目

    竜華(憩ちゃんが相手なら手は筒抜けやと思って間違いない。直撃を取るのはかなり厳しい……となれば、憩ちゃんが親のこの局は、ツモで憩ちゃんを削るチャンス……強引にでも行くで……!)

    竜華「リーチや!」スチャ

    (お、来よった来よったー。こっちはまだリャンシャンテン……ま、こっからやろな)タンッ

    洋榎(おーおー。調子づいとんなー)タンッ

    (清水谷部長のリーチ……荒川憩も洋榎さんも際どいところを切ってきた……安牌が増えたのは助かったけど……二人ともオリてへんっちゅうことやんな)タンッ

    竜華(憩ちゃんは怜とはちゃう……故意に一発をズラしたりとかはせえへん。やけど……憩ちゃんが一緒やと和了りにくくなるんは確かや。特に出和了りがしにくい……なんでかっちゅうと……)タンッ

    (清水谷の竜さんはなんや無理してるみたいやな。ほな……のんびり回すとしましょかー)タンッ

    洋榎(む……それは通るんか。やったら、こっちはとりあえず残しやな)タンッ

    (二人とも切り込んでいくな……清水谷部長の手が読めてるってことやろか。これは……うちもベタオリやあかんな……幸い道は二人が作ってくれとる……負けてられへんで……!)タンッ

    56 = 1 :

    竜華(三人ともオリる気配がない……まあ……憩ちゃんがそう誘導してるんやから……そうなるやろな。洋榎さんは上家の憩ちゃんを見て捨て牌を選んどる。泉は二人を見て選んどる。洋榎さんも泉も憩ちゃんの影響下にあるねん。
     うちの和了り牌を見抜いとる憩ちゃんが道を作れば……洋榎さんも泉も回しやすい。うちの和了り牌を掴んでも……そう簡単には出さへんやろ。やって……危険牌を出さなくてもテンパイにとれるように……憩ちゃんが安全な道を作ってくれとるんやからな。
     やけど……それは憩ちゃんの切り開いた道や……当然……先にゴールするんは……憩ちゃんやで……!)タンッ

    (おっ、イーシャンテン~。受けを広くすると振り込んでまうから、この場はここやろなー)タンッ

     十四巡目

    「ツモやっ。ピンツモ、700オールに一本付けでよろしくです~」カチャカチャパラララ

    竜華(三枚しかないうちの当たりを一枚持たれとる。それ……普通に手広く打っとれば途中で振っとったやん。参ったわ……完全に見透かされとる)

    洋榎(二連荘か。ま、安いし別にええやろ)

    (清水谷部長がかわされた……!? これが全国二位の悪魔……荒川憩さん……!!)

    泉:107900(-2100) 憩:123900(7300) 洋:92000(-2100) 竜:76200(-3100)

    57 = 1 :

    東三局二本場・親:憩

     十巡目

    竜華(張った……! タンピン三色ドラ一赤一……絶好球や。やけど……リーチかけるとさっきみたいに打ち回される。
     憩ちゃんを削りたいのは山々やけど……洋榎さんも今回手が良さそうやし……勝負しに来てくれはるんやったら出和了りも無理やないやろ……ここはダマで通すで……!)タンッ

    (おっ、大きいの張りましたねぇ。リーチしてこんってことは……洋榎さんから出てくるのを待っとるんやろか。
     やけど……清水谷の竜さん……悪いですけど……お二人とも……互いの和了り牌持ち合ってはりますよ。そのまま待つんやったら……今回もウチがいただきですわ)タンッ

    洋榎(ぶちかましたんで~)タンッ

     五巡後

    「タンピンツモ赤一……2600は2800オールやでー」カチャカチャパラララ

    竜華(またかいな……!!)

    洋榎(ふーん……)

    (ぜ……全然テンパイできひん……!!)

    泉:105100(-4900)憩:132300(15700)洋:89200(-4900)竜:73400(-5900)

    58 = 1 :

    @実況室

    すばら「さ……三連続和了……!! これは……不思議です……!! 清水谷選手も愛宕選手も決して悪くない手牌でしたし……ミスらしいミスもなかった……!! なのに……気付けば荒川選手がそれに追いついて追い越してしまう……!!
     これは……どういうことなんでしょう、初瀬さん!?」

    初瀬「えっ!? いや……急に振られても……私もちゃんと解説できるほど荒川選手のことをよく知っているわけじゃないですし……」

    「本当に魔法を見ているみたいだな。無理な鳴きを入れてるわけでもねえ、何かのオカルトで他家に圧力をかけてる様子もねえ。なのに……気付けば常に荒川憩が場をリードしてやがる」

    「よくよく見ると……いくつか普通では有り得ない打牌をしているときがあります。それによって他家の手をコントロールしているような感じがしますね。
     ただ……あくまで個人の技術のみで打っている荒川選手がどうしてそんな打牌ができるのかと言われると……うまく説明できる気はしません」

    すばら「こ……困りました……! どなたか、荒川選手に詳しい方をお呼びするのがいいでしょうか!?」

    小走「その必要はないっ!!」ドンッ

     王者、再登場ッ!!!

    59 = 1 :

    初瀬「先輩っ!? なぜ!?」

    小走「ニワカに解説はできんよっ! パートツー!!」

    すばら「というか、いつの間に!!?」

    小走「王者とは常に己のあるべき場所を知っている。それだけのことだッ!」

    「まーた呼んでもいねえのに来やがったな……」

    「小走さん……小走さんなら、あの荒川憩の打ち筋について解説ができるんですね?」

    小走「ふふ……任せてください、弘世さん。では、一つ一つ解きほぐしていくとしよう。魔物退治ならぬ悪魔祓いの時間だ!」

    すばら「お、お願いしますっ!」

    60 = 1 :

    小走「まず、みなさんお気づきだろうか? 荒川憩は配牌後……理牌をしない!」

    「そんなんとっくに気付いてるよ。和了るときになってやっとカチャカチャ牌を並び替え始めるよな。で、それがどうかしたのか?」

    小走「荒川憩は理牌をしない。では、荒川憩は、本来なら理牌しているときに、何をしていると思う?」

    初瀬「他家の理牌が終わるのを待ちつつ、自分の手牌をどうやって和了りにもっていくか考えているのでは?」

    小走「甘いな、初瀬。理牌をせずともミスなく対局を続けられるようなやつが、自分の手牌についてあれこれ考えるのにそんな時間をかけると思うか?
     大体、仮にそうだとしても、それなら普通は理牌するだろう。そっちのほうが絶対に速いし、考えやすい」

    初瀬「じゃあ……荒川選手は自分の手牌は見てないんですか?」

    小走「見てるよ。一瞬だけな。配牌を開けたそのときに、さーっと一瞬だけ手牌を眺めているだろ。それで終了だ。
     確か……清澄の原村和が第一打で少し悩むクセがあったはずだが……恐らくその時間で原村がやっているだろう計算を、荒川憩はあの一瞬で終わらせている。
     その……驚異的な計算速度……かの有名なラプラスの悪魔の如き知性――情報処理能力……それが、荒川憩の技術を支える力の一つだ」

    「荒川憩の計算能力が悪魔レベルに高いのはまあいいとして……話が本題から逸れてるぜ。あいつが理牌をせずに何をしてるのか、その答えはなんなんだ?」

    小走「荒川憩は、他家が理牌しているのを見ている」

    「他家の理牌を観察して……手の良し悪しなどを読んでいるということですか?」

    小走「そんなところです。しかし……あの悪魔の目が見ているのは……何も良し悪しだけじゃない。荒川憩は、他家の理牌を見ただけで、誰の手にどの牌が何枚ずつあるかを六割以上は把握できる」

    61 = 1 :

    すばら「六割って……! そんな……そんなことが……可能なんですか? 個人の理牌のクセとか……触らずの十四牌とか……そういうのは確かにありますけど、理牌を見ただけでそこまでわかるものでしょうか?」

    小走「理牌のクセ、触らずの十四牌。そうだな、そういうのも、荒川憩が他家の手を見るのに参考にしていることの一つだな」

    初瀬「え……? 他に……何があるんですか?」

    小走「心拍数や血圧、発汗、体温といったバイタルの変化。それに表情の変化や、牌を追う目の動き――どの牌を何秒見たか、どの牌を一番多く見たか、どの牌とどの牌を見比べていたか。
     それに……牌に触れたときにどういう身体反射を起こしたか……とかも見ているだろう。とにかく……荒川憩はそういった……人間が意識的無意識的に起こしてしまう僅かな変化を、一つ残らず見尽くしている」

    「見尽くしているって……なんだよそれ。そんなんオカルトと大差ねえだろ。まあ……心拍数やら血圧やらはわからんでもねえよ。そりゃ、良い手がくれば誰だって興奮して緊張するだろうし、悪い手ならその逆だろう。
     それはいいとして……一体なんなんだよ、牌に触れたときの身体反射って……」

    小走「実際の医療現場で研究されている、立派な技術の一つだよ。例えば、阿知賀の松実宥じゃないが、人は寒色に触れると体温が下がり、暖色に触れると体温が上がるという。
     それに、例えば白と東では、彫り込みの有無から、指が牌に触れる面積も、感触も、大分違ってくるな。もちろん、誰もが普段はそんなこと意識せずに打っている。
     しかし、そういう僅かな違いに対しても、人間の身体っていうのは無意識レベルで反応してしまうようにできているんだ」

    「無意識レベル……ですか。それは、我々が人間である以上、どうしようもない変化ですね」

    小走「その通りです。荒川憩の悪魔の目をもってすれば、手牌なんて隠している意味はない。なぜなら、他ならぬそれを見て触っている人間が、まるで鏡となったかのように、知らず知らずのうちに全てを荒川憩に見せてしまっているのだからな。
     まあ……そこでいくと、荒川憩が、唯一個人で勝れない相手である宮永照を『ヒトじゃない』と表現したのも頷けるものがある。案外チャンピオンは本当にヒトじゃないのかもしれん。
     逆に言うと、ヒトである以上、荒川憩の目から逃れることはできないということだ」

    62 = 1 :

    すばら「えっと……荒川選手は他家の理牌を観察しただけで、もう他家の手が読める、と。ということは、同じようにして、他家の打牌を観察すれば、もっと色々なことがわかりますよね。今度は実際に見える牌も出てくるわけですから」

    小走「当然だ。ゆえに、初瀬が最初に言った通り、荒川憩は速ければ三巡、遅くとも六、七巡でフルオープンモードに入る。
     もしこれがネット麻雀で、純粋に捨て牌だけしか見えないのであれば、さすがの荒川憩もそんな神業――悪魔の所業と言うべきか――はできないだろうな。
     なんというか、宮永照をオカルトの頂点、原村和をデジタルの頂点とするなら、荒川憩はアナログの頂点だろう。ヒトを観察し、ヒトと触れ合うナースだからこそできる芸当だ」

    「ん……待てよ、今のでフルオープンモードの仕組みはわかったが……あいつはツモが見えるって言ってたな。それは……どうなってんだ?」

    「荒川選手の計算能力が原村選手のそれを遥かに凌ぐというのなら、いわゆるカウンティングでしょうか。他家の手牌が透けて見える荒川選手なら、どの牌が山に残り何枚あるのかを、実際に計算することができるでしょう。
     なら、最も確率がいいように手を進めていけば……当然、テンパイ効率は高くなる。あたかもツモる牌がわかっているかのように」

    初瀬「しかし……カウンティングって……結局は確率に頼ることになるんですよね? でも……荒川選手は『絶対』に裏目らない……それは計算だけじゃ説明できない気がします。
     似たようなことはデジタル最強の原村さんもやっていますが……原村さんは裏目ります。その差はどこにあるんでしょう」

    小走「そう……初瀬の言う通り。いかに荒川憩の観察能力と計算能力がズバ抜けていようと……山牌の並びまでは見えない……絶対に裏目らないというのはあまりにオカルトじみている……そう思っていた時期が……私にもあったよ」

    63 = 1 :

    すばら「ええっ!? それ……つまり、荒川選手には山牌まで透けて見えるってことですか!?」

    「いや、完全にオカルトだろ……それ。山牌は全自動卓がランダムに並べてるんだぜ? ヒトが触れているわけじゃないなら、荒川憩の悪魔の目とやらも機能しないんだろ?」

    小走「そうだな、そう考えるのが妥当だ。しかし、荒川憩は悪魔である前に……ナースなんだよ」

    「それが……何か?」

    小走「みなさん、ナースになる人間が備えているべき資質として……最も重要な要素はなんだと思う? 私は……博愛だと思う」

    初瀬「博く愛することですね」

    小走「博打を愛する、とも読めるな……まあそれは閑話休題。ところで、荒川憩は……あれほど麻雀が強いのにもかかわらず……名実ともに宮永照に次ぐ打ち手であるのにもかかわらず……あの天照大神とやらの仲間には入っていない。
     『牌に愛された子』……だったか」

    「そうですね。荒川選手は……その強さは申し分ありませんが、照や淡のような……まるで牌に慕われているかのような和了りはしません」

    小走「そうなんだ。まさにそう。荒川憩は、牌に愛されてはいない。けれど……荒川憩はナースだ。博愛だ。そして……その博愛主義は……何も人間へ向けられるだけじゃない……」

    初瀬「ま……まさか、荒川選手は……!」

    小走「そう。彼女は……いわば『牌を愛する子』なんじゃないかと……私は思う」

    64 :

    どんな牌でも受け入れられる器量が本質だと

    65 = 1 :

    「で、だからどうしたんだよ……?」

    小走「わからないか? 愛するということは、その対象の個性を認め、受け入れるということだ。人間を愛するように牌を愛するということは……個々の人間を見分けられるのと同様……個々の牌を見分けられる……そういうことにならないか……?」

    すばら「ガ……ガン牌……!!? 荒川選手は……ガン牌をしているんですか!!?」

    小走「それは故意に傷をつけたりして特定の牌に目印をつけるイカサマだろうが。荒川憩のそれは違う……彼女はきっと……牌の個性を感じ取っているんだ……いや……もしかすると自動卓の個性すら感じ取っているのかもしれない。
     牌や卓といった無機物すら、彼女にとってはヒトと同列に愛せる何かなんだ。そこには個性があり、カルテに載るようなクセや特徴がはっきりと存在する。
     だから……たとえそこに積まれているだけでも……『牌を愛する子』荒川憩にとって、それは診察を待つ患者の列みたいなものなのかもしれない」

    「愛とか言い出したら……そりゃオカルトになっちまうような気がしないでもないけどな。オレだって……牌は見えねえが……流れは見える。それは、案外……場を愛しているからなのかもしれねえぜ?」

    小走「いや……すまない。確かに、愛を引き合いに出すのはいかにもオカルト臭いな。ならば、一応科学的なことも言っておこう。
     理論上……例えば十円玉を投げたりサイコロを転がしたりするとき……裏と表がでる確率、一から六の目が出る確率が……完全に同率になるということはありえない。彫りの違いが重心の違いとなり、確率に影響する。
     麻雀牌だってそうだ。マイクロ単位で測れば、完全に同じ牌などはどうやってもありえない。その違いは確実に確率に影響する。
     自動卓が牌を並べるのだって、さっきは簡単に『ランダム』なんて言ってくれたが……完全なるランダムというのがいかに厄介なものであるかをわかっていないようだな。それはあくまで……人の目から見ていかにも乱雑であるというだけだ。
     ただ……荒川憩の持っているのは悪魔の目……ああやってアナログの牌でアナログな麻雀を打っている以上……常人にはランダムに見える場の中に……なんらかの規則性を見出していてもおかしくはない」

    66 = 1 :

    「いや、おかしいだろ。そこまで行けばオカルトと何も変わらねえよ」

    小走「だから、初瀬が最初に言っただろう? 高度過ぎる技術は魔法と区別がつかない。荒川憩がやっているのは、高度過ぎる技術を駆使した何か。それを技術と呼ぶかオカルトと呼ぶかは……人それぞれだとな」

    「だったらオレはオカルトでいい。要するに、あのナースちゃんは、他家の手牌が見えるし、山牌も見える。そういう麻雀をするってことだろ」

    小走「ふん、ニワカが。甘いな、甘過ぎる。その程度の認識で勝てるのは、さっきの神代小蒔のような人外を相手にしてるときだけだ。荒川憩は……人間だ。それも……悪魔的な人間。能力を見破っただけで勝てるほど……二年連続全国二位の称号は安くない」

    初瀬「ど……どんな風に悪魔的なんですか……?」

    小走「まあ……見ていればわかるよ……」

    すばら「それでは見守るとしましょうっ!! 荒川選手の三連荘で、東一局三本場ですっ!!」

    67 :

    憩ちゃんすげえ

    68 = 1 :

    @対局室

    東一局三本場・親:憩

    (まずいで……三連荘はさすがにマズい。何があかんかったのかわからへんけど……荒川さんは清水谷部長と洋榎さんを相手に回してなお走っとる……それだけでもう十分レッドゾーンやで……なんとか止めな……!)タンッ

    竜華(泉……焦ったらあかんで……! それこそ憩ちゃんの思う壺や……憩ちゃんは手牌だけやない……人の心まで見抜いて翻弄する。それこそ悪魔のようにな。
     みんな……憩ちゃんに弄ばれとると気付かないまま……いつの間にか魂を喰らわれとんねん……!)タンッ

    (いやいや……清水谷の竜さん……そんなピリピリせんでも大丈夫やて。ウチかてなんも全部が全部思い通りにできるわけやない……ただ……見えるだけや。
     ウチは……ただちょーっとウチのやりやすいように他人を誘導してるだけやねんて……それで……もし誰かが破滅したとしたら……それはやっぱりその誰かが自分でそうなっただけで……ウチのせいやあらへんよ。ウチはなんもしとらへん……)タンッ

    「ポ、ポンッ!」タンッ

    (發……特急券……! これで連荘を蹴る……!)

    竜華(憩ちゃん……泉に鳴かせよったな……何が狙いや……!)タンッ

    「そ……それもポンで!」タンッ

    竜華(なっ……!!? 泉に何かしとるんやと思うたら……うちも手の平の上やったんか……!!)タンッ

    (手の平の上ってなんやねん……ウチが不要牌を切ったらあの子が鳴いた……竜さんが不要牌を切ったらあの子が鳴いた……それだけのことやんな……)タンッ

    洋榎(ポンポンとツモを飛ばされんのは面倒やなー。ま、うちの勢いはそんなことでは殺されへんけどなー。さあ……ぼちぼち和了るでー……!)タンッ

    (よし……! ドラが入った……これで……ドラが重なってくれば發ノミやったんが満貫も見れんで……!)タンッ

    69 = 1 :

     五巡後

    (イーシャンテン……發ドラ二……悪くないんやけど……あと一歩が重いな……あれから鳴くチャンスもあらへんし……)タンッ

    竜華(テンパイはできたけど……なんや憩ちゃんが静かなんが不気味やな……それに……洋榎さんが力を溜めとる感じがする……ここはリーチするんは危険かもな……)タンッ

    (さて……そろそろやんな……)タンッ

    洋榎「ほな行くで~、リーチやっ!」スチャ

    「それポンやー。一発消し~」タンッ

    洋榎「地っ味やなー。ま、さっさとツモを回してくれておおきにっ!」

     洋榎、ニヤリと笑って手牌を倒す。

    洋榎「ツモッ! リーピンツモ……裏々や! 2000・4000は2300・4300やで!!」

    (っと……裏々やと……? 愛宕の洋榎さんはホンマ怪物やでー。こういう天に味方されとるようなタイプは苦手やわー)

    洋榎「なんや……思惑とちゃうみたいな顔しとんなー?」

    「ん、ウチ、そんな顔しとりました?」

    洋榎「しとったしとった。自分、他家がリーチかけてきても滅多にオリひんしな。どうせ一発消して回して先和了ろーとか思っとったんやろ」

    「ま……それくらい誰だってやりますわ。ベタオリばっかや勝てへんでしょ?」

    70 = 1 :

    洋榎「ははっ! それが甘いっちゅーんや! 誰がリーチかけとると思てんねん!? うちこと愛宕洋榎やで!! うちがリーチかけたら太閤さんでもベタオリやねんっ!
     回して先に和了ろーなんて、そんなんどこぞの竜には通じたかもしらへんけど、うちには通じひんな。一緒にしてもろたら困る――格が違うわっ!!」ドンッ

    「言いはりますなー。ま、肝に銘じておきますわ」ニコッ

    竜華「いや……ちょっと待ちや、洋榎さん。誰と誰が格が違うて?」ゴゴゴゴ

    洋榎「えっ……? あ……いや、だ、誰やろなー……あははー」アセアセ

    竜華「どないしよっかなー。洋榎さんがまーた対局中に相手のことおちょくってはりましたーって監督に言うてまおかなー。監督はマナーに厳しいからなー」

    洋榎「そ……それだけは堪忍やっ! 竜ちゃん……仲良く麻雀しようや! なっ!?」

    竜華「ふふ……やっぱり素直でええ子やね、洋榎さんは。さすが監督の愛娘や。行儀もええし礼儀もわきまえてはりますなー」

    洋榎「せ……せやなっ! やっぱり対局中のマナーは守らなあかんよなっ! これ終わったら清澄の久とかにもキツーく言うておくわっ!! いや~インターハイの準々決勝はひどかったな~。宮守のちっこいのがずーっとキリキリしてはったわー……」

    (えっと……部長は洋榎さんに強くて……洋榎さんは荒川憩さんに強くて……荒川憩さんは部長に強いん……? なんやねん、その三竦み……)

    泉:102800(-7200) 憩:128000(11400) 洋:98100(4000) 竜:71100(-8200)

    71 = 1 :

    @実況室

    すばら「愛宕選手の満貫ツモが決まりましたあああ!! これで荒川選手の連荘はストップ!! 愛宕選手の親番ですっ!!」

    小走「ほらな、まさに悪魔のような闘牌だったろう?」

    すばら「えっ!? 一体どこがですか? 第一、荒川選手は満貫の親っ被りを食らってますよ……?」

    「しかし、序盤の泉選手の二つの鳴き……あれによって、愛宕選手がツモるはずだったドラの対子が泉選手に流れました。荒川選手があそこで發を切らなければ、愛宕選手の手はドラドラで二飜ほど高くなっていたはずです」

    「それに、あのナースちゃんの第一打もまた怪しいな。いきなりの四筒切り。チャンタ系を匂わす一打だ。それを見て、愛宕は浮いていた一索を落とした。あとあと振り込まないように捨てたんだろう。
     だが……愛宕の手にはその後二索と三索が入ってきた……もしあそこで一索を残していれば、三色もついていたな」

    初瀬「ドラは九索でしたから……愛宕選手のあの手なら……うまくいけば平和純全帯三色ドラドラになりますね……倍満確定です」

    すばら「そ……それらが全部計算尽くだったんですか……!?」

    小走「荒川憩は恐らく、配牌の時点でこの局はどうやっても愛宕に先を越されるだろうと見切った。だから、できる限り安く親を流そうと……第一打から画策したわけだな。それも、荒川憩自身はぴくりとも動かずにだ。
     自分は仕事をせずに場を思い通りにコントロールする……まるでマクスウェルの悪魔のようじゃないか。エントロピーを凌駕している」

    72 = 1 :

    すばら「し……しかし! もし荒川選手にそこまで正確に山や手牌が見えているのであれば……自分が連荘することも可能だったんでは!?」

    小走「その辺りが荒川憩の絶妙なところだな。多少無理をすれば……愛宕の手を潰して自分が和了るように仕向けることもできたんだろう。しかし、荒川憩は決して無理をしない。悪魔の目を持っていながら、彼女はその力に呑まれないんだ。
     強い力という劇薬の副作用をよく知っているんだろう。天江衣や大星淡のように平気で無茶をしてくる輩とは一線を画している。荒川憩は……常に最高を目指す打ち方はしない……それは能力に縛られることを意味するからな」

    「常に最高を目指さないというのは……照と好対照ですね。照は常に最高を目指す。その辺りが、一位と二位を分ける差なのかもしれません」

    「そこでいくと、今の愛宕のような打ち方が荒川憩にとっては一番堪えるのかもしれねえな。他には目もくれず、持てる力をフル活用して和了る力強い闘牌。
     荒川憩は、そういう元気っ子っつーのか、病気とは無縁の健康優良児が相手だと……基本的には放っておくことしかできないって感じだ。
     今だって、愛宕は純全帯と三色ドラドラを削られながらも、リーチツモ裏々でただの平和を満貫に押し上げた。ああいう何をやっても動じない強さを持ったやつは……オレも苦手だな」

    73 = 1 :

    初瀬「あの……ところで、荒川選手は愛宕選手のリーチ宣言牌を鳴いてますよね? あれは……一体どんな意図が?
     そのまま普通に続けていれば、愛宕選手は和了り牌をツモらずに、泉選手が愛宕選手の和了り牌を掴みます。それを泉選手が一発目から切り出すとは思いませんが……泉選手が後々振り込むにせよ、流局するにせよ、荒川選手は無傷なわけですよね?
     どうして……それまで自ら動くことのなかった荒川選手が……あの場面であんな鳴きを入れたんでしょう」

    小走「いいところに目をつけたな。さすが私の後輩だ」

    初瀬「あ、ありがとうございますっ!!」

    「小走さんには……あの鳴きの意図がわかるんですか? 私にはどうにも、理が通らないような気がしますが……」

    小走「さあ……実は、私にもわかりません」

    「なんだよ、しゃしゃり出てきたからにはちゃんと解説しやがれ」

    小走「無茶言うな……私はいたってノーマルな一般人だ。客観的なデータを色々と考察することはできるが……さすがに人ならざる者の心までは読めんよ。
     さっきの神代とはまた違った意味で……荒川憩という悪魔もまた……人の価値観では動いていない可能性がある。一体荒川憩が何を狙っているのか……最後まで見れば……あの悪魔が何を考えてあんな鳴きを入れたのかも……わかるのかもしれんな」

    すばら「まだまだ荒川選手の底は見えないようですっ!! がっ! 勝負は始まったばかり、大阪の竜虎が黙っているとは思えません!! 東二局の開始ですっ!!」

    76 = 1 :

    @対局室

    東二局・親:洋榎

     九巡目

    (これはこれは……竜虎激突って感じやろか。となると……鍵になるんは千里山の一年生やね。あの子がどう動くか……それによって今後の打ち回しも変わってくる……ここは一つ……その器を量らせてもらいましょ)タンッ

    洋榎(テンパイ……っと。どないしよっかなー……いつもならガンガンリーチにいくところやねんけど……。
     千里山の大将は……口うるさいのはともかくとして……打ち筋もオカンに似たとこあるからなー……不用意にリーチかけるんは危険や……困ったわ……どうにもやりにくくてしゃーないなっ!)タンッ

    (洋榎さん……この巡目で中張牌を手出し……張っとるんやろか? ただ……うちもそれを鳴けばテンパイに取れる……。
     やけど……親を流すとか……そんなことばっか考えてても勝てへん……他家の親は安手で流して自分の親で連荘して稼ぐ……なんて戦略は……この面子相手には通用せんやろな。せっかくできたイーシャンテン……大事にせな……!)ツモッ

    (おっ……鳴かなかったんやね。さっき江口さんも似たようなことやっとったけど……ええ判断や……それが正解やで……)

    (張った……! よし……これなら押せる……いつまでも先輩ら相手に黙っててもラチが開かん……思いっきり前傾で行くで……!)

    「リーチですっ!」スチャ

    77 = 1 :

    竜華(泉がリーチか……っと、とりあえずツモ切り安牌やな)タンッ

    (これで……勝負ありかな……よう頑張ったね……千里山の一年生)タンッ

    洋榎(リーチかいな……ま、そんなんに振り込むうちやないで~)タンッ

    竜華「ロン。タンピン一盃口ドラドラ赤一……12000」

    洋榎(げー! しもたー!!!)

    竜華(なんやその顔……微塵もテンパイ気配感じ取ってへんかったんかい……洋榎さん、油断しすぎやわ)

    洋榎(とか思われとったらどないしよー!? うっわー……やってもうたー! 一生の不覚やでこんなん!)ズーン

    竜華(よし……これでとりあえずプラスや。泉の頑張りを潰してしまったんは申し訳ないけど……卓についた以上は敵同士……一位は譲れへんよ)

    (清水谷部長……綺麗な手を張ってはりましたか……なかなかどうして敵わへんっすわ……)

    (竜虎対決はひとまず竜に軍配やね……千里山の一年生もちょっとばかしやりよるようやし……最後まで楽しめそうやんな……ほな……ウチもまだまだ行かせてもらうでー!)

    泉:101800(-8200) 憩:128000(11400) 洋:86100(-8000) 竜:84100(4800)

    78 = 1 :

    東三局・親:泉

    (親番か……稼ぐとしたらここやろな……ここまでうちは焼き鳥……わかっていたことやけど三人とも強過ぎる……まったく思うようにいかへん……まるで……あのインターハイの準決勝みたいや……)

    (あのインターハイ……うちら千里山はまさかの準決勝敗退やった。
     姫松もそうやったな……新設校の阿知賀と清澄に負けた大阪の強豪……試合が終わったあと……けっこう地元の新聞や雑誌なんかに叩かれたんや……監督が……色んな人に頭下げてんの……うち……見てしもうてん……)タンッ

     ――回想・千里山女子麻雀部・二週間前――

    「監督ー、部室の掃除終わったんで稽古日誌と鍵を返し……」

    記者「いやー残念ですわー。うちらも決勝に行くもんやとばかり思ってましたからー」

    雅枝「ほんに申し訳ありません。私の力不足で……」ペコ

    (あれは……週刊雑誌の人か……インターハイ前にも取材に来とった……)

    記者「あーいやいや! 監督さんが頭下げるようなこと違いますよ。一年生をレギュラーにせんとあかんかったような苦しい状況で、監督さんはよう戦いましたわ」

    (一年生……レギュラー……うちのことか……)

    記者「ほなら、穴は別の記事で埋めますわ。千里山さん……まあ、三年生が抜けてまうと厳しいかもしらんですけど、今後も応援させてもらいまっせ!」

    79 = 1 :

    雅枝「おおきに。せやけど……すんません、私の聞き間違いかもしれませんけど……今、一年生がどうとか言わはりませんでした……?」ギロッ

    記者「えっ!? ああ、いや、これは申し訳ない。そういう書き方をしてるところもね、あるってだけの話ですわ! 千里山さんがインターハイに一年生を使うことは珍しいもんですからっ!!
     なんや……ホンマはもっと強い上級生がおったのに……大会前に調子崩したんちゃうかー、ベストメンバーやなかったんちゃうかーって……」

    雅枝「言うてることがようわかりませんね……一年生がレギュラーでもベストメンバーな学校はいくらでもありますけど……」ゴゴゴ

    記者「い、いやっ! やけど、千里山さんはほら、超名門やから! そんな……こないだまで中坊やった新人をレギュラーにするなんて……白糸台とか清澄みたいな例外でもなければ、そこらへんの層の薄い学校のやることやし……」

    雅枝「一年生がレギュラーになるんは層の薄いことになるんですか……?」ゴゴゴゴゴゴ

    記者「え……! えっと……そういう分析をしてはったプロもどっかにおったってだけの話で……!!
     その……昔の千里山では一年生がレギュラーになることなんてまずあらへんかったですし……最近は少子化で……なかなかええ選手ばかりに恵まれるっちゅうんが難しくなったんかもしらんなーって……そんな話を……」

    雅枝「どこのゴミプロがそんなこと言ってたんや!!! 今すぐそいつをここに連れて来いや!!!!」バァン

    記者「ひ……ひいいいい……!!!?」

    80 = 1 :

    雅枝「そんなふざけた記事を書いてたとこがあったとは知りませんでしたわ!! ほな……自分らんとこにはちゃんとしたこと書いてもらわんとあきまへんなっ!! 監督の私が責任持って明言しますわっ!!
     今年の千里山はなんの不手際もアクシデントもない、完全なベストメンバーです。コラっ! ちゃんとメモ取らんかい自分!!」ゴッ

    記者「す……すいません……!!」

    雅枝「そのベストメンバーの中に一年生が混じっていたことについては……純粋にあの子が他の二、三年生の誰よりも強かったからです。たとえ昔の千里山におってもあの子はレギュラーやったでしょう。
     今回の結果は全て……監督の私の力が至らんかったのが敗因です。選手らはようやってくれたし、私はあの子らが昔の千里山より弱いなんて思ったことはありません。今年の五人は千里山の歴史の中でも最高クラスのチームやった。
     その中でレギュラーを勝ち取った五人や……五人を支えた部員たちを……層が薄いだの弱体化だの……そんな風に分析しはるナメたプロっちゅうんがおるんやったら……!! どこの誰やろうと関係あらへん……!! 私が直々にシバいたりますわ!!!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

    記者「は……はい……!! こ……このまま記事にさせていただきます……!!」

    (か……監督…………)

     ――――――

    81 :

    かっこいい

    84 = 1 :

     十二巡目。

    「ロン、断ヤオドラ三……7700や」カチャカチャパラララ

    竜華「……はいな(あかんな……ちょっとでも無理を通そうとするとこれや)」

    (清水谷部長のリーチが……また撃ち落された……!? これで荒川憩の一人浮きかいな……うちが手も足も出ん部長と洋榎さんを相手に断トツやと……!? くっ……まだや……まだまだ……勝負は終わっとらへん……!!)

    泉:101800(-8200)憩:136700(20100)洋:86100(-8000)竜:75400(-3900)

    86 = 1 :

    東四局・親:竜華

     七巡目

    「リーチ……」スチャカチャカチャ

    洋榎(お……珍しい。リーチ掛けてきよったな……)タンッ

    (リーチ……っちゅうことは……まさか高いのか……? それとも他に何か狙いが……?)タンッ

    竜華(憩ちゃんがリーチを掛けてきた。なら……張り替えで狙い撃ちされる心配はない……親やし……泉の手前……やっぱ攻めるで……!)タンッ

    竜華「うちも追っかけリーチやっ!」スチャ

    「(竜さん攻めてきはりますね……けど甘いですわ……それも計算済みです)なんで三筒やねーん」タンッ

    洋榎(三筒は通るんか……なら……)タンッ

    「そら通らんなー。ロンや。リーピン……裏一……3900」パラララ

    洋榎「む……(六・九かいな……ふん……後ひっかけなんてセコい真似しよって……こんくらいすぐに取り返したるわっ!)」

    竜華(憩ちゃん……まさかうちのリー棒を誘い出したんか……!? それに洋榎さんから六筒を引き出すために……後ひっかけになることも見越してのリーチ……?
     いや……それだけやない……憩ちゃんには裏一まで見えてたのかもしれへんな……だとしたらホンマ悪魔やで……この子……!)

    (洋榎さんまで……!? 嘘やろ……いくらなんでも……! これが……全国二位……!? 宮永照に最も近い打ち手……宮永照でなければ勝てない悪魔……!! どうすれば……どうすればこの人に勝てんねん……!!?)

    泉:101800(-8200) 憩:141600(25000) 洋:82200(-11900) 竜:74400(-4900)

    87 = 1 :

    @実況室

    すばら「圧倒的いい!! 荒川選手!! 他家をまったく寄せ付けませんっ!! 個人成績ではプラス25000の一人浮き……!! 全国二位の力をまざまざと見せ付けていますっ!!
     果たしてこのまま荒川選手が走りきるのか……!? それとも他家が待ったをかけるのか……!! 勝負は南場へと移りますっ!!」

    小走「ま、さすがの荒川憩ってところだな」

    (ってか、こいつこのままここに居座るつもりじゃねえだろな……)

    「しかし、他家もこのまま黙っているとは思えません。千里山の清水谷選手も、姫松の愛宕選手も、同地区の荒川選手とは個人戦で何度もぶつかっているはずです。これが初手合わせというわけではない。
     今は翻弄されているように見えますが、実力はそれほど開いていないでしょう。荒川選手もそれはわかっていると思います」

    初瀬「しかし……山や手牌を透視できる荒川選手を相手に、どうやって勝つつもりなのか……私には対策が思いつきません」

    「だが、小走先輩曰く荒川憩のあれはあくまで悪魔な技術なんだろ? 完全に牌が透けて見えてるわけじゃない。見落としもあれば見間違いもあるはずだぜ」

    小走「そういうことだ。果たして……悪魔に食らいつくのは竜か虎か……それともここまで見せ場のない一年生か……今後の展開が楽しみだな」

    すばら「さああ!! 中堅戦後半っ!! 南入ですっ!!」

    89 = 1 :

    @対局室

    南一局・親:憩

    洋榎(まさか南入時点でうちがラスとはな……やってくれるやんけ。ま……いつもいつも楽勝やと張り合いもあらへん……たまーにこないなオモロい相手がおるから……麻雀はやめられへんのや……)タンッ

    洋榎(三箇牧の荒川憩……うちは南大阪やから……インターハイの予選ではぶつからん……南北大阪か近畿大会……もしくは全国の個人戦で当たるくらいやな……)タンッ

    洋榎(千里山はな……北大阪やけど……オカンがおるせいかちょいちょい練習試合を組む。お互い強豪同士……顔合わせと手合わせは年中行事みたいなもんや。
     清水谷の竜ちゃんは……その千里山ん中でもいっちゃん苦手な相手やわ……ピーク時の竜ちゃんは止まらへんしな……ホンマに……あれを見たときは千里山と地区が違うてよかったと思うたわ……)タンッ

    洋榎(それに比べると……荒川憩はうち的にはそんなに面倒な相手やない……普通に打っとれば二回に一回は勝てる……勝率は五分五分……三箇牧にいたっては負ける気がせん。これくらいのハンデは……ちょうどええで……!!)タンッ

    洋榎(ま……そら強いのは認めとるけどな。個人の成績は向こうのほうが上やし。やけど……荒川憩かて周りが言うほど完璧やない。
     見透かしたような打ち方をしはるけど……それやって中盤からや……序盤ならまだ穴がある……針の穴みたいな小さい穴やけど……それを見抜けへんうちやない……今からそこに大きいのをブチ込んだるわ……!)

    洋榎「リーチやっ!」スチャ

    90 = 1 :

    (速っ……まだ五巡目やで……!? さすが洋榎さんやな……点差も相手も関係なく……常に強い……この安定感は見習いたいとこやわ……!!)タンッ

    竜華(洋榎さん……どんな状況でも楽しそうに打ちはるなぁ。全然打ち方がブレへん……それでいて強いんやから言うことナシやわ。うちは考え過ぎなんやろか……憩ちゃんを意識し過ぎて少し手が弱っとるような感じするわ。
     さっきからちょいちょいリー棒で損しとったから……ここは大人しくダマでええかな思うてたけど……泉が見てる前でそんなヒヨった麻雀は打てへんよな……!! じゃあ……何度でも攻めとこか……!!)

    竜華「うちもリーチやっ!」スチャ

    (ぶ……部長も張ってたんですか!? ツモ切りリーチって……それじゃ前巡から……!? もしかして……荒川憩さんが独走してるように見えてたんはうちだけなんか……!!?
     この場……この三人……ほんのちょっと何かの刺激が加われば……簡単に均衡が崩れる……!!!)

    (ここで竜虎の同時リーチかいな……ホンマに……常人離れしたテンパイ速度やで……こんな序盤にそないな大きい手を張るとか……一瞬でも隙を見せたら取って食われてまうな……さて……どないしようか……)

     憩、長考。

    91 = 1 :

    (姫松の洋榎さん……この人は……全国の中でも宮永照に匹敵するポーカーフェイスやわ。宮永照は単純に見て取れる情報量が少ないから……ウチの目でも捉えきれへんのやけど……洋榎さんはその逆。読み取れる情報量が無駄に多い。
     それも玉石混交……虚実入り乱れや……手牌が読めんのもそうやし……はっきり言って何考えとるのか全然わからん。何も考えとらんのかもしれへんけど……何も考えとらん人に負けるようなウチやない。
     きっと洋榎さんには洋榎さんなりの思惑があるんやろうね。実際……ウチらは公式戦で五分五分なわけやし……)

    (見えるところから察するに……洋榎さんの手はチャンタ系や……ドラの一筒を配牌から抱えとんのは見えとる……第一打も迷わず手出しの赤五筒やしな……リーチチャンタドラ三……それだけでもうハネ満やん……)

    (千里山の竜さんは……赤含みの平和手で萬子の高め一通……こっちは和了り牌が見えとる……一・四萬や。振り込むことはまずない。竜さんは少し心配性のきらいがあるからな……どちらかと言えば考えが顔に出易いタイプ……ウチから見れば戦い易い相手や。
     ただまあ……団体戦のときにたまーに見せるヤバさが半端ないけどな……あれはウチら三箇牧が千里山に勝てへん理由の一つや……今日は比較的落ち着いてるほうやからええけど……本気になった竜さんの相手はウチも気が進まへんで……)

    (このままオリれば……竜虎の食らい合いになるやろ。
     それもそれでええけど……山の具合もよさそうやし……ウチもあと数巡すれば無理なく追いつける。その頃にはもっといろんなもんが見えとるやろうし……この一発さえ凌げば……二人をかわして連荘することが可能や。
     大丈夫……結果はほとんど見えとる……あとは……進むだけや……)タンッ

     憩、確信の四筒切りッ!

     その――直後ッ!!

    92 = 1 :

    (あ……しもた……これ……ヤバ……!!?)ゾッ

     憩、誤算ッ!!!

    洋榎「フフ……なんや……さっきの忠告をもう忘れたんか? この愛宕洋榎がリーチをかけたからには……どこぞの竜でもあらへん限り……ベタオリせなあかんってな……!!」ゴゴゴゴッ

    (そんな……そこ……よりにもよってそこで待つんかいな……!!?)

    洋榎「三年生からの貴重なアドバイスを聞かへんからそういうことになる。自分の弱点はそれや。どこまで見えてんのか知らんけど……どないな状況になっても自分は絶対にベタオリせえへん。必ず回して様子を見る。
     それがわかっとれば裏をかくのは簡単や。なんも……手牌が透けて見えるんは自分だけやないで……ロンッ!!」パラララッ

     洋榎手牌:①①①④123789南南南:ロン④:ドラ①

    (あ……ありえへんやろ……っ!! いや……そらこの手みたいに……ドラや役牌が絡んで十分に高い手なら……リーチかけて……チャンタと見せかけた中張牌単騎とかは確かによくあることやけど……!
     それにしたって普通の人間やったら赤五筒を残すやろ……! せやったらツモで倍満も狙える……やのになんで残したのがその隣の四筒やねん!!
     しかも……それ配牌からずっと持っとったやつやん……っちゅうことは……あの第一打……両面搭子崩しの赤五筒切りだったってことやんな……? 嘘やろ……洋榎さんからは微塵も迷いが読み取れへんかったで……? そないなことができるんか……?
     普通の人間やったら……いくら迷彩のため言うても……理に反する打牌をしたらその揺らぎが絶対に見えるはずや……やのに……洋榎さんからはそれが全く見られへんかった。いくらポーカーフェイスや言うても……それは人間の生理から逸脱しとる……!
     まさか……このヒトも……ヒトやないんか……!?)

    93 = 1 :

    洋榎「なんや……そんなびっくりせんでもええやんか。まるでうちがけったいな超能力でも使ったみたいやん……ちゃうちゃう。そんなんやない……ただ……うちは確信してただけや」

    「確信って……ウチが四筒を持っとるっちゅう確信ですか……?」

    洋榎「わかっとらんなー、自分。そうやない。うちはうちが勝つっちゅうことを信じとるだけや。どうせ勝つのはうちなんやから、何を一々迷う必要があんねん!!」ドンッ

    (自信て……!? ええええっ? それだけ!!? 赤五筒を捨てようと……両面搭子を崩そうと……自分なら和了れるって……そういう自信があるからどんな一手だろうと迷いなく打てる……!? んなアホな……!!!)

    竜華「…………洋榎さん、何か忘れとらへん?」ギロッ

    洋榎「おおおっと!! せやせやっ!! お喋りに夢中で裏を捲るの忘れとったわー……ホンマ堪忍なー……ほな……今ちゃっちゃと点数申告しますんでー……」ペラッ

    (は――!? もう……大した自信やな……ホンマに!!)

    洋榎「ハハ……ほーれ見てみい、全国二位。うちにかかればざっとこんなもんや。リーチ一発ダブ南ドラ三裏々……16000ッ!」

    (うっわー……信じられへん……! まさかここまで見越しての赤五筒切りやったとは思わへんけど……ただの自信家で終わらないんが洋榎さんのすごいところやね……! ちゅうか……久しぶりに大きいの食らったなー……!!)

    洋榎「どや……思ったより痛いんちゃうかー?」ドンッ

    竜華「…………洋榎さん、次、親やろ?」ギロッ

    洋榎「せ、せやったな!!! 決め台詞でカッコつけとる場合ちゃうなっ!! よっしゃー……さっさとサイコロ回すでーっ!!」コロコロ

    (っちゅうか……清水谷の竜さん……洋榎さんにはグイグイいきはるよねー……なんでなん……?)

    泉:101800(-8200)憩:125600(9000)洋:99200(5100)竜:73400(5900)

    95 = 1 :

    泉:101800(-8200) 憩:125600(9000) 洋:99200(5100) 竜:73400(-5900)

    96 = 1 :

    南二局・親:洋榎

    竜華(まったく……洋榎さんは強いのにホンマ余計な一言が多いんやから……お目付け役としてしっかり躾けんとな……監督によーく見張っとくよう言われて来とるわけやし……)タンッ

    竜華(まあ……マナーのことはさておき……今ので洋榎さんはプラス収支で個人成績では二位浮上。うちはというと……マイナス収支の三位やな。
     混成チームも……トップの二年選抜とは五万点差……いくら宮永照が控えてる言うても……さすがに厳しいやろ……これは……助っ人として参戦したからには……取り返さなあかん……)タンッ

    竜華(何より……この場は大阪最強を決める戦いやねん。姫松と千里山……それに三箇牧の戦争や。千里山の部長である自分が……後輩の泉の前で……負けるわけにはいかへんのや……!)タンッ

    竜華(ごちゃごちゃ考えるんは対局が終わった後でもできる……! やけど……勝った負けたは対局後にどうにかできることと違う……! とにかく和了ること! それを今やらんでいつやるねん……!
     大体……負けっぱなしは……性に合わへんのや……!!)ゴゴゴゴッ

    (っとっとっとー……ここに来て本気モードでっか……こうなると竜さんは誰にも止められへんなー)タンッ

    洋榎(千里山の竜ちゃん……ようやくお目覚めかいな……とんだお寝坊さんやなっ!)タンッ

     十四巡目

    竜華「ツモや。小三元發中ツモ……三暗刻……赤一。4000・8000や」パラララ

    (高め大三元……阿知賀の玄ちゃんとはまた別のドラゴンやね……これを鳴かずに和了ってくるんやから頭痛いわ……)

    洋榎(うわっ……親っ被りでマイナスにされてもうた! これやから竜ちゃんの相手は嫌やねん!!)

    泉:97800(-12200)憩:121600(5000)洋:91200(-2900)竜:89400(10100)

    97 = 1 :

     火花を散らす三強ッ!!

     その力は完全に拮抗し、予測は悪魔ですら不可能ッ!!

     ただ……その一方で……じわじわと追い詰められている者が一人……!!

    100 = 1 :

     九巡目

    洋榎「リーチや……!」ゴゴゴゴゴッ

    (また先を越された……!? やけど……これ以上は点をやれへん……!! どうにかして……かわして……和了るんや……!!)タンッ

     三巡後

    (来た……テンパイ。どうする……洋榎さんのリーチもある……ダマで通すか……? やけど……あのインターハイでは……それは通じひんかった……!!)

    (あの人ら相手に……ダマもなんもなかった……完全に読み切られとった……策を練れば潰され……強引に行っても跳ね返され……賢く打ち回しても射抜かれた。
     ホンマ……何をやっても歯が立たへんかった……今日やって……そういう人らを相手にしとる……このままやったら……きっと今日も負けてまう……!!)

    (やけど……セーラ先輩は言ってくれはった。負けても……うちには来年再来年がある……! そこでリベンジしたらええねんって……言ってくれはった……!!)

    (リベンジするためには……今のままじゃあかん……もっと力をつけなあかん……そのためには前に進まな……!!
     壁にぶつかっても……乗り越えるなり回り道するなりして……!! ズタボロに負けても……見苦しくても這ってでも……先へ先へと進んでいく……!! そうやって……今より上を目指していくんや……!!)

     泉、真っ向勝負ッ!!

    「リーチですっ!」スチャ


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