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元スレ武内P「起きたらひどい事になっていました」
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武内P「諸星さん」
きらり「にょっわー☆☆☆Pちゃん、どうしたの~☆☆☆」
武内P「少し、テンションを抑えていきましょう」
きらり「抑えるってぇ?☆☆☆☆☆きらりはぁ、いつもこうだゆ☆☆☆☆☆」
武内P「はい。いつも、とても可愛らしいと思います」
きらり「……うぇへへ、急にどうしたの?/// は、恥ずかすぃー///」
CPアイドル達「……ツインテ優遇!」ゴソゴソッ
武内P「髪型は! 髪型はそのままで!」
美波「でも……私達も、褒められたいなぁ、って」
武内P「新田さんは、早く衣装を着てください」
きらり「にょっわー☆☆☆Pちゃん、どうしたの~☆☆☆」
武内P「少し、テンションを抑えていきましょう」
きらり「抑えるってぇ?☆☆☆☆☆きらりはぁ、いつもこうだゆ☆☆☆☆☆」
武内P「はい。いつも、とても可愛らしいと思います」
きらり「……うぇへへ、急にどうしたの?/// は、恥ずかすぃー///」
CPアイドル達「……ツインテ優遇!」ゴソゴソッ
武内P「髪型は! 髪型はそのままで!」
美波「でも……私達も、褒められたいなぁ、って」
武内P「新田さんは、早く衣装を着てください」
武内P「城ヶ崎さん」
莉嘉「はいはーい!☆」
美嘉「何ー?★ ってか、どっちかわかんないって★」
莉嘉「お姉ちゃんの言う通りだよ、Pくん!☆」
美嘉「ほらほら、照れてないで名前で呼んでみなって★」
莉嘉「カリスマJCとぉ」
美嘉「カリスマJKのぉ」
美嘉・莉嘉「☆オ・ネ・ガ・イ★」
武内P「……ステージには、上がらないでくださいね」
莉嘉「はいはーい!☆」
美嘉「何ー?★ ってか、どっちかわかんないって★」
莉嘉「お姉ちゃんの言う通りだよ、Pくん!☆」
美嘉「ほらほら、照れてないで名前で呼んでみなって★」
莉嘉「カリスマJCとぉ」
美嘉「カリスマJKのぉ」
美嘉・莉嘉「☆オ・ネ・ガ・イ★」
武内P「……ステージには、上がらないでくださいね」
みりあ「ねぇねぇ、プロデューサー」
武内P「? どうしましたか、赤城さん」
みりあ「ぱふぱふって、何?」
武内P「……誰から聞きましたか?」
みりあ「美嘉ちゃん」
武内P「そうですか、わかりました」
武内P「……逃げた、ようですね。後で、対応しておきます」
みりあ「何?」
武内P「……LIVEが終わったら、千川さんに聞いてください」
武内P「? どうしましたか、赤城さん」
みりあ「ぱふぱふって、何?」
武内P「……誰から聞きましたか?」
みりあ「美嘉ちゃん」
武内P「そうですか、わかりました」
武内P「……逃げた、ようですね。後で、対応しておきます」
みりあ「何?」
武内P「……LIVEが終わったら、千川さんに聞いてください」
武内P「前川さん」
前川「? どうしたんですか、プロデューサーさん?」
武内P「緊張されているようですが、眼鏡は外しましょう」
春菜「それを外すなんてとんでもない!」
武内P「! あんな所に、空飛ぶ眼鏡が!」
春菜「!?」
みく「……ちょっ、ちょっとウッカリしただけにゃ!」
みく「これでバッチリ! キュートなネコミミモードのみくにゃ!」
武内P「はい。しかしLIVE後、前川さん状態でのプロデュースも検討しようと思います」
前川「? どうしたんですか、プロデューサーさん?」
武内P「緊張されているようですが、眼鏡は外しましょう」
春菜「それを外すなんてとんでもない!」
武内P「! あんな所に、空飛ぶ眼鏡が!」
春菜「!?」
みく「……ちょっ、ちょっとウッカリしただけにゃ!」
みく「これでバッチリ! キュートなネコミミモードのみくにゃ!」
武内P「はい。しかしLIVE後、前川さん状態でのプロデュースも検討しようと思います」
武内P「多田さん」
李衣菜「はい! 今日も、ロックにかましてやりますよ!」
武内P「そうですね、ギターを置いてください」
李衣菜「見ててくださいね、私のギターソロ!」
武内P「それは、予定にありません」
李衣菜「そして終わったらピックを客席に……くうーっ、燃える!」
武内P「……エアギターというのも、最高にロックだと思いませんか?」
李衣菜「ギター、預かってて貰えますか?」
武内P「はい、おまかせください」
李衣菜「はい! 今日も、ロックにかましてやりますよ!」
武内P「そうですね、ギターを置いてください」
李衣菜「見ててくださいね、私のギターソロ!」
武内P「それは、予定にありません」
李衣菜「そして終わったらピックを客席に……くうーっ、燃える!」
武内P「……エアギターというのも、最高にロックだと思いませんか?」
李衣菜「ギター、預かってて貰えますか?」
武内P「はい、おまかせください」
武内P「そろそろ時間ですね」
CPアイドル達「はいっ」
武内P「皆さん、笑顔で楽しんできてください」
CPアイドル達「はいっ!」
美波「皆、プロデューサーさんを囲んで円陣を組みましょう!」
CPアイドル達「おーっ!」
武内P「皆さん?」
――ザッ!
武内P「……一瞬で、囲まれた……!?」
CPアイドル達「はいっ」
武内P「皆さん、笑顔で楽しんできてください」
CPアイドル達「はいっ!」
美波「皆、プロデューサーさんを囲んで円陣を組みましょう!」
CPアイドル達「おーっ!」
武内P「皆さん?」
――ザッ!
武内P「……一瞬で、囲まれた……!?」
美波「シンデレラプロジェクト!」
武内P「あの、何を……?」
美波「ファイトォォォ……――」
CPアイドル達「おーっ!」
つんつんつんつんつんつんつんつんっ!
武内P「!? や、やめてください! つっつかないでください!」ビクンビクンッ
美波「声が小さいわよ! もう一回! ファイトォォォ……――」
CPアイドル達「おーっ!!」
つんつんつんつんつんつんつんつんっ!
武内P「意味がわかりません! 意味がわかりません!」
武内P「あの、何を……?」
美波「ファイトォォォ……――」
CPアイドル達「おーっ!」
つんつんつんつんつんつんつんつんっ!
武内P「!? や、やめてください! つっつかないでください!」ビクンビクンッ
美波「声が小さいわよ! もう一回! ファイトォォォ……――」
CPアイドル達「おーっ!!」
つんつんつんつんつんつんつんつんっ!
武内P「意味がわかりません! 意味がわかりません!」
・ ・ ・
「SAY☆いっぱい、輝く~♪ か~がや~く~星に、な~れ~♪」
LIVEも、もう終盤に差し掛かっている。
プロジェクトメンバー達の額には汗が見える。
疲労もあるだろうに、彼女達の笑顔には一点の曇りもない。
心からこのステージ、LIVEを楽しんでいるのだろう。
「……」
プロジェクトが始動した時は、彼女達がここまで成長するとは思っていなかった。
彼女達は、プロデューサーの私の予想を遥かに上回り、羽ばたこうとしている。
その事が嬉しくもあり、また、私自身も遅れぬよう努力せねばと身が引き締まる思いだ。
「運命~のドア、開けよう~♪」
しかし、今は少しだけ、私がプロデューサーという事を忘れてしまおう。
何故ならば、私は、彼女達のファン第一号なのだから。
彼女達の輝く姿を仕事を通してだけ見るというのは、余りにも勿体無い。
せめて、この最後の一曲だけは、ただのファンとして彼女達を見守りたい。
「今~未来、だけっ、見上げて~♪」
シンデレラプロジェクトのメンバー達の素晴らしい歌声が、耳に届く。
躍動感に溢れ、新鮮で、そして、様々な個性が折り重なって紡がれる奇跡。
ブルリ、と体が震えるのを止められない。
出来ることならば、観客席に行きファンの一人としてコールに参加したいとすら思わされる。
「……良い、笑顔です」
だが、私はそうは出来ないし、しない。
私がプロデューサーで、彼女達はアイドルなのだから。
全てを出し尽くし、彼女達が戻ってきた時に、最初に出迎える。
その役目だけは、誰にも譲れはしない。
「SAY☆いっぱい、輝く~♪ か~がや~く~星に、な~れ~♪」
LIVEも、もう終盤に差し掛かっている。
プロジェクトメンバー達の額には汗が見える。
疲労もあるだろうに、彼女達の笑顔には一点の曇りもない。
心からこのステージ、LIVEを楽しんでいるのだろう。
「……」
プロジェクトが始動した時は、彼女達がここまで成長するとは思っていなかった。
彼女達は、プロデューサーの私の予想を遥かに上回り、羽ばたこうとしている。
その事が嬉しくもあり、また、私自身も遅れぬよう努力せねばと身が引き締まる思いだ。
「運命~のドア、開けよう~♪」
しかし、今は少しだけ、私がプロデューサーという事を忘れてしまおう。
何故ならば、私は、彼女達のファン第一号なのだから。
彼女達の輝く姿を仕事を通してだけ見るというのは、余りにも勿体無い。
せめて、この最後の一曲だけは、ただのファンとして彼女達を見守りたい。
「今~未来、だけっ、見上げて~♪」
シンデレラプロジェクトのメンバー達の素晴らしい歌声が、耳に届く。
躍動感に溢れ、新鮮で、そして、様々な個性が折り重なって紡がれる奇跡。
ブルリ、と体が震えるのを止められない。
出来ることならば、観客席に行きファンの一人としてコールに参加したいとすら思わされる。
「……良い、笑顔です」
だが、私はそうは出来ないし、しない。
私がプロデューサーで、彼女達はアイドルなのだから。
全てを出し尽くし、彼女達が戻ってきた時に、最初に出迎える。
その役目だけは、誰にも譲れはしない。
・ ・ ・
美波「どうでしたか、プロデューサーさん!」
武内P「良いLIVEでしたが、服を脱ぐのが早すぎます!」
凛「ふーん! ふーん!」
アーニャ「ダヴァイ! ダヴァイ!」
武内P「私の回りをグルグル回らないでください!」
卯月「頑張りましたよね? 頑張りましたよね、私?」
智絵里「見捨てませんよね? 見捨てないでくださいね?」
武内P「はい! はい!」
美波「どうでしたか、プロデューサーさん!」
武内P「良いLIVEでしたが、服を脱ぐのが早すぎます!」
凛「ふーん! ふーん!」
アーニャ「ダヴァイ! ダヴァイ!」
武内P「私の回りをグルグル回らないでください!」
卯月「頑張りましたよね? 頑張りましたよね、私?」
智絵里「見捨てませんよね? 見捨てないでくださいね?」
武内P「はい! はい!」
・ ・ ・
翌日
武内P「昨日のLIVE、お疲れ様でした」
CPアイドル達「……」
武内P「LIVE自体は、とても素晴らしい、良いLIVEでした」
CPアイドル達「はいっ!」
武内P「しかし、その前後が、私には問題に思えます」
CPアイドル達「?」キョトン
武内P「おわかり頂けなくて、残念です」
翌日
武内P「昨日のLIVE、お疲れ様でした」
CPアイドル達「……」
武内P「LIVE自体は、とても素晴らしい、良いLIVEでした」
CPアイドル達「はいっ!」
武内P「しかし、その前後が、私には問題に思えます」
CPアイドル達「?」キョトン
武内P「おわかり頂けなくて、残念です」
武内P「皆さんは……少し、スイッチのオンオフが極端すぎると考えます」
ちひろ「待ってください。それは違います」
武内P「千川さん?」
ちひろ「皆、いつだって本気なんです」
武内P「本気……ですか?」
ちひろ「プロデューサーさんにも、アイドルのお仕事にも」
ちひろ「本気で、真剣に向き合ってるだけなんです」
CPアイドル達「……」コクリ
武内P「皆さん……」
ちひろ「待ってください。それは違います」
武内P「千川さん?」
ちひろ「皆、いつだって本気なんです」
武内P「本気……ですか?」
ちひろ「プロデューサーさんにも、アイドルのお仕事にも」
ちひろ「本気で、真剣に向き合ってるだけなんです」
CPアイドル達「……」コクリ
武内P「皆さん……」
武内P「本気で、真剣に向き合った結果が……ああ、だと」
CPアイドル達「はいっ!」
武内P「私に対してああする事で、素晴らしいLIVEが出来る、と」
CPアイドル達「いいえ!」
武内P「それならば、仕方がないのかも――」
武内P「――……いいえ?」
CPアイドル達「……あっ、ヤバ★」
武内P「待ってください。一人、紛れ込んでいます」
CPアイドル達「はいっ!」
武内P「私に対してああする事で、素晴らしいLIVEが出来る、と」
CPアイドル達「いいえ!」
武内P「それならば、仕方がないのかも――」
武内P「――……いいえ?」
CPアイドル達「……あっ、ヤバ★」
武内P「待ってください。一人、紛れ込んでいます」
武内P「……しかし、皆さんの思いは伝わりました」
武内P「LIVEを成功させる事と、私にちょっかいを出す事」
武内P「この二つに関係が無いとわかり、安心しました」
CPアイドル達「……いいえ」
武内P「皆さん、今から私がやろうとしている事が、わかりますか?」
CPアイドル達「はいっ!……いいえ!」
武内P「皆さん、あと五分でLIVEが終わります」
おわり
武内P「LIVEを成功させる事と、私にちょっかいを出す事」
武内P「この二つに関係が無いとわかり、安心しました」
CPアイドル達「……いいえ」
武内P「皆さん、今から私がやろうとしている事が、わかりますか?」
CPアイドル達「はいっ!……いいえ!」
武内P「皆さん、あと五分でLIVEが終わります」
おわり
「はい、行っておいで」
今日は、高垣くんの宣材写真の撮影に来ている。
さすがは元モデル、慌てることなく、落ち着いた様子だ。
そんな彼女を送り出し、私は隣に立つ無口な男に声をかける。
「……さて、どうなると思う?」
「何も、問題は無いと思います」
無表情に、カメラに向けてポーズを取る高垣くんを見ながら言った。
ふむ、問題は無い、か。
キミも、私と同じ事を考えていたようだね。
「あっさりOKを貰えてしまいました……」
確かに、元モデルの高垣くんの魅力が引き出された、最高の一枚が撮れた。
だが、
「あの……今ので良かったんでしょうか?」
それじゃあ駄目だ。
その事を彼女も自然とわかっていたのだろう。
一発でOKが出たと言うのに、問いかける声には不安が混じっている。
「せっかくアイドルになったのに、モデル時代と変わらない、無表情な写真……」
「ふむ、OKは出たんだよ?」
さあて、彼女は自分自身で気付けるかな?
確かに、ここで私が答えを言うのは簡単だ。
「少し、何と言うか……心残りです」
しかし……それでは面白くない。
こちらだよと手を引いて辿り着けるのは、所詮手を引ける所までなのだから。
今は、彼女自身の歩く力を養う場面。
そうでなければ、この先もアイドルとしてやっていく事は出来ても、先細りになってしまう。
目指す場所は同じでも、辿り着き方というのは非常に重要なのだ。
「……高垣さんは、いつも無表情なのでしょうか?」
ほう、ここで助け舟を出すか。
しかし……キミがそれを言うかね?
「はい。雰囲気が良いから、そのまま……って」
高垣くんは、モデル時代との違いに戸惑っている。
カメラマンも、彼女の堂々とした姿にやられてしまっても仕方ない、か。
しかし、忘れてはいけないのは、宣材写真の主役はあくまでアイドル。
アイドル、高垣楓自身の魅力を最大限に伝えなければならない。
「普段から感情も出さない方ですし……」
成る程、彼女は自分自身をそう評しているのか。
それならば、撮影時にモデル時代のように振る舞ってしまうのもわかる。
だがね、此処にはキミ以上に感情を表に出さない男が居るのだよ。
「そう、でしょうか? 私には、貴女がとても表情豊かに見えます」
「えっ?」
ふうむ、今は少し感情的になっているようだね。
そうなってしまうのは、キミがやはり根っからのプロデューサーだからだろう。
よしよし、中々にいい傾向じゃあないか。
「アイドルらしく無い、と……思っていたんですけど」
「高垣さんの考える、アイドルらしさとは何ですか?」
男の問いかけに対し、高垣くんは頬に手を当てて少し考え、言った。
「……試しに、表情を作ってみてもいいでしょうか」
このままでは手応えがありませんから、と。
はっは! 言うに事欠いて手応えがないとは、こりゃあ大物だ!
さあて、キミは、一体どんな表情を見せてくれるのかな?
「こんな感じ?」
それは、小さな微笑み。
しかし、私にはそれが、先程の最高の一枚を軽く超えるものに見えた。
小さな微笑みだが……これは、大きな一歩だ。
「もう少し、笑って頂けますか」
おいおい、キミは誠実で不器用なだけかと思っていたが、案外欲張りだね!?
「小さい……ですか?」
私は、先程の小さな微笑みで満足してしまった。
あれだけでも十分に彼女の魅力は伝わると思ってしまった。
だが、隣に立つこの男はそうではなかったらしい。
無言で頷く彼の横顔を見ながら、あの時引き止めて良かったと、心の底から思った。
「難しいですね……何か楽しい事でも思い出せれば……」
だが、若造にやられっぱなしというのも癪だ。
年寄りならではの、経験からくる老獪さというのも見せてやろうじゃあないかね。
「ふむ、楽しい思い出ねぇ」
と、顎に手を当てて隣に立つ男を見る。
私の視線に二人は気付き、それぞれが違う反応を示す。
一方は、無言で右手を首筋にやり、
「……」
そしてもう一方は、手を顔の前でパンと合わせ、
「ありました。あの思い出……ふ、ふふふふふっ」
そのまま手を口元にやって、コロコロと笑いだした。
彼女が何を思い出しているのかまではわからない。
わからないが、男にチラリと視線をやる度に、その笑みが深くなっていく。
「思い出すと止まらなくなっちゃうから、忘れようとしてたのに……!」
「……」
ううむ、こりゃあちょいとばかり笑いすぎじゃあないかな。
確かにとても魅力的な表情ではあるが、体がカタカタ震えているよ。
それじゃあ写真を撮ってもブレにブレてしまう。
「高垣さん……あの、もう」
「ああ、すみません……うふふっ! もう、こっちを見ないでください、ふふふっ!」
「……仕方ない人ですね」
成る程、キミが苦笑いをするとそういう顔になるのか。
・ ・ ・
「……ふふっ、あぁ、楽しい!」
ひとしきり笑って満足したのか、高垣くんはふぅと息をついた。
いつの間にか、撮影ブースに居るスタッフが全員彼女に注目していた。
人を引きつける魅力。
アイドルに欠かせない資質を彼女は持っている。
「もう一度、撮り直しをなさいますか?」
それを引き出すきっかけを作った男は、無表情に言った。
質問をしているが、彼女が返す答えはわかっているのだろう。
勿論、私もわかっているとも。
彼女ならば、こう言うに決まっている。
「はい、お願いします」
……とね。
幸い、一枚目を撮るのに時間が殆どかからなかったので、まだ余裕はある。
むしろ、最初の撮影時間よりも、彼女が笑っている時間の方が長かったくらいだ。
……おやおや、こちらが何も言わなくても、もう撮影の準備を始めているとは。
撮影スタッフもリベンジ、といった所かな?
「――それでは、行ってきます」
高垣くんの、綺麗なお辞儀。
その、顔を上げた時の表情を見られたのは、幸運だった。
それは、今まで見たことのない、とてもキラキラしたものだったから。
「良い、笑顔です」
笑顔。
それは、アイドルには欠かせないもの。
それを最大限に引き出すのが、プロデューサーの役目だ。
遠くなっていく高垣くんの背中を見ながら、隣に立つ男に問いかける。
「プロデューサー、またやろうとは思わないのかね?」
返事は無い。
だが、彼女に出会う前まで、彼はそれを頑なに拒否してきた。
私は、無口な車輪に、昔と変わらない一本の軸が通ったのを感じていた。
おわり
「……ふふっ、あぁ、楽しい!」
ひとしきり笑って満足したのか、高垣くんはふぅと息をついた。
いつの間にか、撮影ブースに居るスタッフが全員彼女に注目していた。
人を引きつける魅力。
アイドルに欠かせない資質を彼女は持っている。
「もう一度、撮り直しをなさいますか?」
それを引き出すきっかけを作った男は、無表情に言った。
質問をしているが、彼女が返す答えはわかっているのだろう。
勿論、私もわかっているとも。
彼女ならば、こう言うに決まっている。
「はい、お願いします」
……とね。
幸い、一枚目を撮るのに時間が殆どかからなかったので、まだ余裕はある。
むしろ、最初の撮影時間よりも、彼女が笑っている時間の方が長かったくらいだ。
……おやおや、こちらが何も言わなくても、もう撮影の準備を始めているとは。
撮影スタッフもリベンジ、といった所かな?
「――それでは、行ってきます」
高垣くんの、綺麗なお辞儀。
その、顔を上げた時の表情を見られたのは、幸運だった。
それは、今まで見たことのない、とてもキラキラしたものだったから。
「良い、笑顔です」
笑顔。
それは、アイドルには欠かせないもの。
それを最大限に引き出すのが、プロデューサーの役目だ。
遠くなっていく高垣くんの背中を見ながら、隣に立つ男に問いかける。
「プロデューサー、またやろうとは思わないのかね?」
返事は無い。
だが、彼女に出会う前まで、彼はそれを頑なに拒否してきた。
私は、無口な車輪に、昔と変わらない一本の軸が通ったのを感じていた。
おわり
「待ってください! まだ、早すぎます!」
部屋に、大きな声が響き渡った。
予想はしていたが、これほどまでに大きな反応を見せるとは。
いつもの無表情は鳴りを潜め、焦燥と困惑がその顔で陣取っている。
だが、私は自分の意見を変え気は無い。
「いいや、彼女にはLIVEを行って貰う」
彼女――高垣楓くんの、デビューLIVE。
少々強引な形になってしまったが、なんとか取り付けた。
プロダクションの規模からすれば、とても小さな小屋だ。
だが、今はそれで十分。
「高垣さんには、まずは握手会等で経験を積んでもらい――」
「――場に慣れ、自信がついた時には……いくつになっているのだろうねぇ」
「それ……は……!」
彼は、高垣くんが無理なく、一歩一歩階段を上れる道を示している。
しかし、それではあまりにも時間がかかりすぎてしまう。
彼女がまだ年若い、それこそ十代の少女だったならばそれでも良いだろう。
着実に、踏み外さないようにゆっくりと階段を上る……結構な事だ。
「それにね、キミ」
私自身も、これが必ずしも彼女にとって最善だと思っていない。
だが、彼女を取り巻く環境等を考慮すると、今しか無いのだ。
アイドルの寿命というのは、短い。
一瞬でも輝ければそれで十分、とは、私の立場ではとても言えない。
「彼女……高垣くんのプロデューサーは私だよ」
高垣くんには、駆け足で階段を昇ってもらう。
当然、無理をさせてしまう事にもなるだろう。
今回のように、次の段に足がかからないかもしれない場面も出てくるだろう。
「……!」
そんな時のために、我々が居る。
不器用で、誠実で、何よりも情熱を持った男よ。
己の無力感に苛まれる前に、早く思い出せ。
・ ・ ・
「やあやあ、バッチリ決まっているじゃあないか!」
控室に入り、目に飛び込んできた高垣くんの姿に目を奪われた。
緑を基調とした衣装が、
アイドルらしい華やかさと、彼女の持つ神秘的な雰囲気を見事に調和させている。
「部長さん……」
しかし、その表情はすぐれない。
昨日は緊張でよく眠れなかったのだろうか、少し、目が充血している。
人前で歌う、という事自体が初めての経験だ、無理もない。
ぎこちなく上がった口角は、笑顔とはとても呼べるものではない。
「初めてのLIVE、緊張するかね?」
わかりきっている事をあえて聞く。
「……はい、とても」
言葉に出すことで、更にそれを自覚し、深みにはまっていく。
いいや、今のは私がそうさせたのだったね。
「そうか……緊張するか」
残念だが、キミのプロデューサーはとても意地悪なのだよ。
キミがそうなってしまうのは、わかっていた。
「そりゃまた、どうしてだね?」
しかし、この程度の苦難は乗り越えてもらわなければ。
私はね、キミの姿を見て、歌声を聞いた時に確信したんだ。
高垣くん、キミはトップアイドルになる、とね。
「どうして……ですか?」
そのためならば、私も手を尽くそうじゃあないか。
なあに、階段が高く、目の前にそびえる壁のように見えたとしても、何てことはない。
軽いステップで、ひょいと次に進めると思わせてしまえば良いだけのこと。
「やあやあ、バッチリ決まっているじゃあないか!」
控室に入り、目に飛び込んできた高垣くんの姿に目を奪われた。
緑を基調とした衣装が、
アイドルらしい華やかさと、彼女の持つ神秘的な雰囲気を見事に調和させている。
「部長さん……」
しかし、その表情はすぐれない。
昨日は緊張でよく眠れなかったのだろうか、少し、目が充血している。
人前で歌う、という事自体が初めての経験だ、無理もない。
ぎこちなく上がった口角は、笑顔とはとても呼べるものではない。
「初めてのLIVE、緊張するかね?」
わかりきっている事をあえて聞く。
「……はい、とても」
言葉に出すことで、更にそれを自覚し、深みにはまっていく。
いいや、今のは私がそうさせたのだったね。
「そうか……緊張するか」
残念だが、キミのプロデューサーはとても意地悪なのだよ。
キミがそうなってしまうのは、わかっていた。
「そりゃまた、どうしてだね?」
しかし、この程度の苦難は乗り越えてもらわなければ。
私はね、キミの姿を見て、歌声を聞いた時に確信したんだ。
高垣くん、キミはトップアイドルになる、とね。
「どうして……ですか?」
そのためならば、私も手を尽くそうじゃあないか。
なあに、階段が高く、目の前にそびえる壁のように見えたとしても、何てことはない。
軽いステップで、ひょいと次に進めると思わせてしまえば良いだけのこと。
「沢山の人の前で、歌を披露するのは初めてで……」
彼女の言う事はもっともだ。
「遅かれ早かれ、経験する事さ。確かに、今回はちょいとばかり早いけどね」
しかし、アイドルならば、やって当然。
「けれど、失敗をしてしまったら、お客さんをガッカリさせてしまいますし……」
素晴らしいプロ意識だ。
相手を――ファンを楽しませるのがアイドルだと、理解している。
そのせいで身動きが取れなくなっているのなら、話は早い。
「はっはっは! デビューLIVEに完璧を期待する人間はいないよ!」
元モデルという事の弊害、か。
写真を撮り直し、完璧を求めていくのが今までの彼女の仕事だったのだろう。
だが、アイドルは違う。
「高垣くん、キミは新人アイドルだ」
完璧な歌を求めるのならば、レコーディングされたものを聞けば良い。
完璧なダンスを求めるのならば、それこそその道の人間のものを見るのが一番だ。
だが、LIVEは必ずしもそうではない。
ましてや、新人アイドルのデビューライブなら言わずもがな。
「新人アイドルが皆完璧だったら、ベテラン達の立つ瀬が無くなってしまうよ」
両手を上げて肩をすくめ、おどけた調子で言う。
それを見て、高垣くんが小さくクスリと笑った。
よしよし、まずは第一関門突破、と言った所かな。
「なあ、キミもそう思うだろう?」
と、隣に立ち、空気に徹していた男に話をふった。
彼は、右手を首筋にやり、無言。
他人事ではないよ、キミ。
キミにはこれから、アイドルのために大いに働いてもらうのだからね。
「高垣くん、キミは、アイドルだ」
ゆっくりと、染み込ませるように。
「心細さも、わかる。不安も、わかる」
それでも、キミならば大丈夫だと確信している。
「だが、キミは一人ではない」
私も居るし、この男も居る。
それに、何より――
「――キミには、応援してくれるファンが居るんだからね」
新人アイドルの、デビューLIVEの、小さな箱。
そこにわざわざ足を運び、彼女の姿を見、歌を聞こうとする人々。
ハッキリ言ってしまえば、変わり者の集団さ。
だが、変わり者のキミに相応しく……とても頼もしいファン。
「だろう?」
と、ウインクをしようと思ったのだが、出来なかった。
何故ならば、目の前のアイドルの卵のカラにヒビが入り、
中から溢れてくる光から目が離せなかったから。
「――はい」
そこには、先程までの心細さと不安に押しつぶされそうな少女は居なかった。
アイドル、高垣楓がそこに居た。
・ ・ ・
「初めてのLIVE、緊張するかね?」
今日、二回目となる質問を高垣くんにする。
此処はステージ脇。
本番まで、時間は残されていない。
「ええ、少しだけ」
だが、大丈夫だと、彼女の表情が物語っている。
はっは、実に良い顔をしているじゃあないか。
「うん。実に、良い笑顔だ」
彼女がこれから踏み出すステージは、最初の一歩。
これから駆け登っていく階段の、一段目。
だが、彼女はこの一歩目をとても大切にしてくれるアイドルになるだろう。
その事で何か大きな機会を逃す事になるかもしれない。
しかし、私は彼女の選んだ道が、素晴らしいものになると思っている。
「……うん?」
そんな中、高垣くんが、両手をこすり合わせているのが目に入った。
手が、冷えているのだろうか。
LIVE前の緊張や、彼女の体型、空調等も考慮すると無くは無いが……。
こりゃあ困ったな。
「キミ、彼女の手を握って温めてやりなさい」
男に言うと、狼狽えたような様子を見せた。
何を恥ずかしがってるんだね!
思春期でもあるまいし、この程度で慌てるなど情けない!
「いえ、それは部長が……!」
「馬鹿を言っちゃいかん。私の手は冷たいんだよ?」
手先どこじゃない、足先だって冷え切っている。
ああ、これは別に緊張しているからとかじゃなく、普段からさ。
だからと言って、煙草を辞める気が微塵も無いがね。
「初めてのLIVE、緊張するかね?」
今日、二回目となる質問を高垣くんにする。
此処はステージ脇。
本番まで、時間は残されていない。
「ええ、少しだけ」
だが、大丈夫だと、彼女の表情が物語っている。
はっは、実に良い顔をしているじゃあないか。
「うん。実に、良い笑顔だ」
彼女がこれから踏み出すステージは、最初の一歩。
これから駆け登っていく階段の、一段目。
だが、彼女はこの一歩目をとても大切にしてくれるアイドルになるだろう。
その事で何か大きな機会を逃す事になるかもしれない。
しかし、私は彼女の選んだ道が、素晴らしいものになると思っている。
「……うん?」
そんな中、高垣くんが、両手をこすり合わせているのが目に入った。
手が、冷えているのだろうか。
LIVE前の緊張や、彼女の体型、空調等も考慮すると無くは無いが……。
こりゃあ困ったな。
「キミ、彼女の手を握って温めてやりなさい」
男に言うと、狼狽えたような様子を見せた。
何を恥ずかしがってるんだね!
思春期でもあるまいし、この程度で慌てるなど情けない!
「いえ、それは部長が……!」
「馬鹿を言っちゃいかん。私の手は冷たいんだよ?」
手先どこじゃない、足先だって冷え切っている。
ああ、これは別に緊張しているからとかじゃなく、普段からさ。
だからと言って、煙草を辞める気が微塵も無いがね。
「それに、キミは私に言ったじゃあないか」
「あの……何をですか……?」
やれやれ、もう忘れてしまったのかい?
自分が言ったことには、責任を持ちたまえ。
「高垣くんには、まずは握手会等で経験を……とだよ」
良かったじゃないか、図らずもキミの方針の通りになった。
もしかしたら、これを想定していたのかい? なんてね。
「握手会……それなら、口下手な私でも出来そうですね」
高垣くんが、クスクスと笑いながら、男に手を差し出す。
男はチラリと時計を確認すると、観念したように手を差し出し、彼女の手を包み込んだ。
じんわりと伝わる手の平の熱を感じてか、彼女の表情が和らぐ。
「握手会ならば、会話をしなければいけないね」
「会話するものなんですか? いきなりハードルが上がりましたね……」
口下手を自称する彼女には、無茶な振りだったか。
ならば、無口とは言え、キミがきっかけを作るべきだろう?
「アイドル、高垣楓のファン第一号として、何か言う事は?」
後ろから、男の背中をポンと叩いてやる。
LIVE直前の彼女に、キミは一体何を言うのか楽しみだ。
男は、彼女の手を包み込んだまま、ふと考えた。
「笑顔で……楽しんできてください」
その言葉は、アイドルである彼女を応援する、ファンとしての言葉だったのだろう。
記憶を思い返してみても、今の彼の顔は初めて見る。
「……」
男は、笑顔で言った。
高垣くん……驚くのはわかるが、LIVE前だというのに表情が吹き飛んでいるよ。
「あの……高垣さん?」
男は彼女からそっと手を離すと、呆けている彼女に声をかけた。
すぐにハッとなって、すみません、と言いはしたが……。
ううむ、別の困ったことにならなければ良いが。
彼女には、これからアイドルとして活躍してもらわなきゃならんのだから。
「大丈夫、ですか?」
「えっと……ちょっと、ビックリしちゃって」
「ビックリ……ですか?」
自分が何をしたかわかっていない男は狼狽えている。
そんな男に、
「前から思ってたんですけど……可愛らしい所がありますよね」
高垣くんは、これまた見たことの無い笑みを浮かべた。
いたずらっぽく言うその仕草は、まるで子供の様に無邪気なもの。
からかわれているのがわかっていないのか、男は右手を首筋にやって困惑するばかり。
全く、女心――この場合は子供心か――が、わからない男だね、キミも。
「……さて、そろそろ出番だ」
もう、十分に緊張もほぐれたことだろう。
声をかけると、高垣くんの表情はアイドルのものになった。
さて……プロデューサーとして、彼女に何と声をかけようか。
初々しいものを見せられたから……うん、バランスでも取ろうかね。
「ここは、ライトがく、ライト思うんだよ。だから――」
オヤジギャグ?
ダジャレと言ってくれたまえ!
「――キミが輝いて、照らしてくれるかい?」
返事は、正に輝くような笑顔だった。
・ ・ ・
「……」
ステージの脇で、歌う高垣くんを見守る。
見守るのは、私一人だ。
彼かい? 彼なら、私の隣でアイドルに見入っているよ。
「良い、LIVEだねぇ」
だが、私は仕事で此処に来ているんだ。
一人のファンとして、彼女のLIVEに参加したい気持ちもある。
しかし、今私に出来る仕事は彼女を見守る事だけではない。
「今度、新しく立ち上がるプロジェクトがある」
十代の新人だけを集め、大きなグループを結成。
さらに、その中で小さなグループを組み、それぞれが個別に活動する。
346プロダクションでもやったことのない、新たな取り組みだ。
「だがね、プロデューサーが誰になるか決まっていない」
非常に挑戦的な企画だ。
今、担当しているアイドルが居るプロデューサーでは手がまわらないだろう。
それに、有能さも求められる。
十代の少女の集団をプロデュースするなど、私だったらゴメンだね。
それこそ、とても大きな情熱でも無ければ、上手くいきはしないだろう。
「いやぁ……実に困った」
当然、衝突は起こるだろう。
プロデューサーとアイドルだけでなく、アイドル同士の衝突も。
私が据えようとしている人間は、誠実だが不器用で無口なので、確実に起こる。
だがね、それすらも糧として輝くアイドル達が居たとしたら?
その輝きはきっと、とても素晴らしいものに違いない。
「……申し訳ありません」
何度も聞いた、拒絶の言葉。
だが、その言葉の響きは、それまでと違っていた。
「……高垣さんのLIVEが終わった後、詳しくお聞きしますので」
燻っていた心に、風が吹き込み、火が燃え上がった。
私は響く歌声に耳を傾けながら、二つの光に目を細めた。
おわり
「……」
ステージの脇で、歌う高垣くんを見守る。
見守るのは、私一人だ。
彼かい? 彼なら、私の隣でアイドルに見入っているよ。
「良い、LIVEだねぇ」
だが、私は仕事で此処に来ているんだ。
一人のファンとして、彼女のLIVEに参加したい気持ちもある。
しかし、今私に出来る仕事は彼女を見守る事だけではない。
「今度、新しく立ち上がるプロジェクトがある」
十代の新人だけを集め、大きなグループを結成。
さらに、その中で小さなグループを組み、それぞれが個別に活動する。
346プロダクションでもやったことのない、新たな取り組みだ。
「だがね、プロデューサーが誰になるか決まっていない」
非常に挑戦的な企画だ。
今、担当しているアイドルが居るプロデューサーでは手がまわらないだろう。
それに、有能さも求められる。
十代の少女の集団をプロデュースするなど、私だったらゴメンだね。
それこそ、とても大きな情熱でも無ければ、上手くいきはしないだろう。
「いやぁ……実に困った」
当然、衝突は起こるだろう。
プロデューサーとアイドルだけでなく、アイドル同士の衝突も。
私が据えようとしている人間は、誠実だが不器用で無口なので、確実に起こる。
だがね、それすらも糧として輝くアイドル達が居たとしたら?
その輝きはきっと、とても素晴らしいものに違いない。
「……申し訳ありません」
何度も聞いた、拒絶の言葉。
だが、その言葉の響きは、それまでと違っていた。
「……高垣さんのLIVEが終わった後、詳しくお聞きしますので」
燻っていた心に、風が吹き込み、火が燃え上がった。
私は響く歌声に耳を傾けながら、二つの光に目を細めた。
おわり
「とても素晴らしい、良い、LIVEでした」
彼が、あの時と同じように、同じ言葉を言った。
その表情は、昔に比べて穏やかで、無表情とはとても言えない。
知らない人からすればわかりにくい、とは思うのだけど、ね。
「えへへ!」
あの時と違うのは、私の周囲には沢山のアイドルの子達が居ること。
今日のLIVEは、346プロダクションに所属するアイドル達が集う、舞踏会。
私達のような、所謂ベテランと言われる組。
美城専務が直接指揮する、プロジェクトクローネ。
そして、彼が大事に育ててきた、シンデレラプロジェクトのメンバー達。
他にも、沢山の子達が舞踏会に参加した。
「プロデューサーって、いっつもそれだよね!」
後輩の一人が彼をからかうと、笑い声が上がった。
そうなの、彼ったら、いっつもあの台詞なのよ。
右手を首筋にやって困った顔をしてるけど、たまには違う言葉が聞きたいわ。
「いえ、その……正直に、言っただけですので……」
ええ、そうよね。
いつだって、貴方は不器用だけど、とても真っすぐ。
それが危なっかしくて、けれど、頼もしくて……ちょっぴり可愛らしい。
皆もそう思っているのか、彼に向ける視線はとても優しい。
「今日は、ありがとうございました」
彼を取り囲む列の中から、声をかける。
すると、自然と皆の視線が私と彼に集まった。
こういう時は、
「そんなに注目されたら、チューもください、って言いたくなっちゃうわ」
と、ダジャレを言うタイミングだ。
ねえ? と、振った子が、困ったような笑みを浮かべている。
あら……いつも、貴女が言ってる台詞を真似てみたんだけど、失敗しちゃった?
「お陰様で、笑顔で……とても、楽しめました」
呆れたような皆に構わず、話を続ける。
こういう時は、こだわってちゃ駄目なのよね。
次に言うタイミングを探すのが良いって、教わったもの。
「それは、貴女達自身の力によるものです」
貴方ならそう言うと、わかってました。
だけどね、此処に居る皆はそれだけじゃないって思ってるんですよ。
貴方が諦めず、シンデレラプロジェクトを存続させた。
それだけじゃなく、他の多くの子達もすくい上げた。
「何謙遜してるの。褒められてるんだから、素直に喜べば良いのに」
だからこそ、今日が。
今日のこの日、このLIVEが最高のものになったんです。
もっと、自分に自信を持ってください。
「はあ……」
もう、十代の女の子にお説教されるだなんて。
けれど、それは彼とこの子達との距離が近い事の証明。
それがとっても嬉しくて、ちょっとだけ、寂しい。
「プロデューサーさんは、とっても頼もしいです♪」
彼に自信をつけさせるためか、声が上がった。
そこかしこから同じ様な声が上がる。
それは当然だろう。
だって、こんなに輝くアイドルをプロデュースする人が自信なさげで居るのは、違う。
「皆はこう言ってるんですが……信じられませんか?」
意地悪な問いかけ。
私は、彼がこう言われたら信じざるを得ないのを知っている。
だって、彼はアイドルを信じているから。
「……」
けれど、彼ったら無言で右手を首筋にやって困るばかり。
もう! なんて頑固なのかしら!
「もう! 本当に、仕方のない人ね」
私達がここまで言っているのに、自分を曲げないのは立派だと思います。
それが、プロデューサーとしての貴方だとするなら。
それならば、私がアイドルとして、魔法をかけてあげます。
魔法だったら、頑張れば貴方を曲げられると思うの。
「あの……た、高垣さん……?」
彼にツカツカと歩み寄り、首筋に行っていない、
手持ち無沙汰な左手を掴んで、強引に握手する。
その手は温かく、昔あった光景が思い出される。
あの時とは包み込んでいる側が逆だけれど、ね。
「今から、貴方に魔法をかけます」
真っすぐに彼の目をみつめる。
困惑しているけれど、彼は、私から視線を逸らすことはしなかった。
だって、この人がアイドルから目を離すなんて事、出来る訳ないもの。
「……」
続く言葉を待っている彼の左手に、少し力が込められた。
何を言われるのかと、待ち構えているのね。
緊張……しているとしたら、本当にあの時と立場が逆。
首筋にやっていた彼の手が、ゆっくりと降ろされる。
「……」
でも、どうしたら良いのかしら。
つい、勢いで行動したけど……何を言うか、考えてなかったわ。
「……うふふっ」
その事がおかしくて、笑いだしてしまった。
「ふふっ……うふふっ」
魔法をかけるだなんて言ったけど、どうしましょう。
ああ、けれど、楽しくなっちゃって、笑うのが止められない。
きっと、皆も、彼も戸惑って呆れてるに違いないわ。
「ふふっ……うふふふっ!」
そんな、笑う私の左手に、そっと添えられる手。
わかったからもう離しなさい、という事かしら。
そうでしょう?
「高垣さん」
低い声に釣られ、顔を上げる。
目に飛び込んできたのは、無表情……と言うより、夢遊病ね。
彼のこんな顔、初めて見たわ。
「結婚してください」
まあ、自信をもてと言われたら、すぐそんな話を?
それはちょっと、急な話すぎると思うんです。
結構、結婚――
「……」
――……待って?
今、この人は何と言ったの?
冗談……よね?
「……」
彼の真意がわからなくて、ジッと視線を送り続ける。
私も、彼も、回りに居る子達の誰も言葉を発しない。
嵐の前の静けさ、というのは、正にこの事。
「……」
誰でも良いから、何か言って欲しい。
そうじゃないと、バクバクと鳴る心臓の音がうるさくてしょうがない。
誰でも良いから、この状況を何とかして欲しい。
そうじゃないと、彼から視線が逸らせないし、手の平の温もりを感じてしまう。
「……」
お願いします、誰か。
私が、アイドル、高垣楓でいる内に。
「――あっ」
その誰かとは……目の前に立つ、彼だった。
夢遊病のようだった顔が、波が引くように一気に青ざめた。
目は口程にものを言う。
彼の目は、とんでもない事を口走ってしまったと、雄弁に語っていた。
「……!」
唇を引き締め、私の手を包んでいた右手をバッと離す。
だけど、残った左手は私の手に捕まっているため、二人の距離はそのまま。
私は、驚きのあまり彼の手を両手で思い切り握りしめていた。
「たっ、高垣さん!」
慌てる彼が、この先言う言葉がわかる。
きっと、プロデューサーとして相応しくない言葉を発した事を。
そして、そんな言葉を放ってしまった私に対して謝罪する。
それで、彼はプロデューサーで。
私は、アイドルのままでいられる。
「――あっ」
私の口から、間抜けな声が飛び出た。
……ねえ、今、私の背中を押したのは誰?
おかげで、私が彼の胸に飛び込む形になって、彼の言葉が中断されてしまった。
「……あの」
彼の胸の中で、顔を上げられないでいる、私。
そんな私を見ながら、彼は何を思っているのだろう。
そして、どんな思いで、あの言葉を放ったのだろう。
――知りたい。
「どうして、あんな事を……?」
結婚に興味はあるけれど、今、貴方に求婚されるだなんて。
そんな事露ほども考えてもいなかったし、本当に驚きました。
ねえ、どうしてなんですか?
「……すみません」
「質問してるんです。謝らないで……答えてください」
「……」
教えてくれるまで、逃しません。
私は、貴方を立派なプロデューサーさんだと思っていたんですよ。
理由によっては、絶対に許しません。
だって、これは裏切り行為みたいなものなんですもの。
「……笑顔です」
笑顔? と、問い返す。
私の声が小さいのは、きっと彼の胸に顔をうずめているせい。
決して、恥ずかしいとか、そんな乙女な感情からでは、無い。
「貴女の笑顔をずっと見ていたいと、そう、思いました」
「……だったら、プロデューサーと、アイドルで良いじゃないですか」
そんな理由じゃ……今のお話、お受け出来ません。
そもそも、私達はそういった関係じゃないでしょう?
なのに、貴方はどうして――
「貴女の笑顔だけは譲れない、と……そうも思ったので」
――そんなに、真っすぐ私を見ているの?
「そう……ですか」
我ながら、何て気が利かない台詞だろう。
彼の視線が、私を捉えて離さない。
けれど、私の両手もまた、彼の手を掴んで離さない。
離れようと思えば離れられるのに、お互い、そうしない……そうさせない。
「はい」
普段の彼だったら、絶対にこんな事はしないだろう。
……ああ、そうだったわ。
私は、彼に魔法をかけると言ったんだった。
「お願いを……聞いてもらっていいですか?」
でも、シンデレラは魔法を使えないはずよね。
シンデレラは、かけられる側だもの。
現に……今の私は、魔法にかけられている。
「はい。私に、出来ることでしたら」
なのに、彼は本当に魔法にかかったように突き動かされたみたい。
もしかしたら、私はシンデレラではなく、魔法使いだったのかしら。
そして、魔法使いでも、魔法にかけられてしまうものなの?
……聞いてみないと。
「幸せにしてください」
私達は今から少しの間だけお話が出来なくなるから……後で、ね。
宙を彷徨っていた彼の右手が、私の背中に添えられた。
皆が見ているというのに、なんて大胆なのかしら。
……でも、もうお願いを叶えてくれるなんて、とっても優秀な魔法使いさんね。
最初のダジャレのお願いと、今のお願い。
不器用だと思ってたのに、一度に叶えちゃうなんて。
おわり
書けてびっくりしました
途中でギャグって逃げるかと思いきやいけました
寝ます
おやすみなさい
途中でギャグって逃げるかと思いきやいけました
寝ます
おやすみなさい
感覚的には、前作の主人公と裏ボスの激闘を書いた感じです
武内Pを倒すのに三ヶ月以上かかりました
書きます
武内P「ホモ疑惑、ですか」
武内Pを倒すのに三ヶ月以上かかりました
書きます
武内P「ホモ疑惑、ですか」
未央「うん。だから、ちょっと静かにしててね」
卯月「とっても大事な事ですから……すみません」
凛「卯月は謝ることないよ」
美嘉「だね。そんな疑惑が立つアイツが悪いんだしさ★」
武内P「……」
武内P「あの、ここで検討するのでしょうか?」
卯月「とっても大事な事ですから……すみません」
凛「卯月は謝ることないよ」
美嘉「だね。そんな疑惑が立つアイツが悪いんだしさ★」
武内P「……」
武内P「あの、ここで検討するのでしょうか?」
未央「ごめんね、プロデューサー。仕事の邪魔かな」
卯月「でも……他に、こんな話を出来る場所が」
凛「うん。担当プロデューサーがホモかなんて、話しにくい」
美嘉「アタシは担当じゃないけどさ、長い付き合いだしね★」
武内P「……」
武内P「いや……おかしいとは、思いませんか?」
卯月「でも……他に、こんな話を出来る場所が」
凛「うん。担当プロデューサーがホモかなんて、話しにくい」
美嘉「アタシは担当じゃないけどさ、長い付き合いだしね★」
武内P「……」
武内P「いや……おかしいとは、思いませんか?」
未央「おかしい、か……確かにおかしいよね」
卯月「はい。プロデューサーさんって、その……」
凛「私達の事、異性として全く意識してないよね」
美嘉「それ、わかる! いくら相手がアイドルだからって、変だよね!」
武内P「……」
武内P「あの、皆さん?」
卯月「はい。プロデューサーさんって、その……」
凛「私達の事、異性として全く意識してないよね」
美嘉「それ、わかる! いくら相手がアイドルだからって、変だよね!」
武内P「……」
武内P「あの、皆さん?」
未央「うんうん。確かに、プロデューサーとアイドルって問題があるよ?」
卯月「はい……でも、プロデューサーさんも男の人ですし……」
凛「少しくらいは、意識するはずだよね」
美嘉「……やっぱり、ホモなのかなぁ」
未央・卯月・凛・美嘉「うーん……」
武内P「皆さーん!?」
卯月「はい……でも、プロデューサーさんも男の人ですし……」
凛「少しくらいは、意識するはずだよね」
美嘉「……やっぱり、ホモなのかなぁ」
未央・卯月・凛・美嘉「うーん……」
武内P「皆さーん!?」
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