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元スレエリカ「入れ替わってる……!?」 みほ「貴女の名は」
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華「では、秋山さんは……」
優花里「うーん、私は――」
エリカ「この子犬みたいな方のゆるふわは秋山、ねえ」
エリカ「夢の人物って、初見でも何故か名前を知ってるか、もしくはずっと名無しなものかと思ってたけど……」
エリカ「案外細かく設定されてるのね、この夢」
沙織「もお、くじ引きでいいよお」 ゴソッ
華「私は……なんでしょうこれ……」
華「あおてんあか……でしょうか?」
沙織「そうてんしゅ!」
沙織「さっきみぽりんが言ってたやつ!」
沙織「漢字はちょっと間違ってるかもしれないけど」
みほ「蒼天朱……」 ウワァ
優花里「また随分よりにもよってなチョイスをしましたね……」
エリカ「一昔前の魔法のiらんどか00ホームページで見かけたハンドルネームみたいね」
優花里「西住殿、お先にどうぞ!」
みほ「私は……っと」
みほ「……」
沙織「どれどれ……」
沙織「あ、どうしよう、みぽりんコマンドー引いちゃったんだ……!」
沙織「コマンドー嫌なんだったよね?」
優花里「私が言ったのはコマンドーじゃなくてコマンダーですよ」
沙織「似たようなもんじゃないの?」
優花里「いやでも、コマンドーって言うと、もっと全然別のものが頭に……」
みほ「そうだね……」
みほ「武器なんか……」
みほ「戦車なんていう武器なんか捨てて、かかっていきたかったのにね」
優花里「西住殿!?」
沙織「重い! 重いよみぽりん!?」
華「お、およそ戦車道の試合直前にする発言と表情じゃないですけど大丈夫ですか!?」
エリカ「その諦めたような笑顔が怖いわ……」
優花里「ま、まあ、何にせよこれで二席は埋まったわけですし……」
優花里「では私はこれで」 ヒョイ
優花里「」
みほ「?」
華「また変な誤字でも?」
優花里「南斗人間砲弾って書かれてるのですが」
沙織「あと1個なんだっけと思ってたら、さっき教官が言ってたのを思い出して」
エリカ「思い出さなくてよかったやつよそれ」
優花里「あの、南斗人間砲弾が何かご存知で?」
沙織「ううん」
優花里「人間を弾代わりに射出するんですよ」
沙織「!?」
華「!?」
沙織「それ、死んじゃうんじゃあ……」
優花里「死ぬでしょうね」
沙織「ひえっ……」 サーッ
華「なんて残酷な……」 サーッ
エリカ「実在しないからそんなポジション」
優花里「それに、装填手とは弾を文字通り装填する人のことなんです」
優花里「つまり……」
華「私が……秋山さんを死地に追いやる……?」 トゥンク
優花里「あれ!? 何かちょっとトキメイてません!?」
エリカ「ちょ、ヤバイわよこの女!!」
華「でも、これどうしましょう……」
エリカ「あの脳みそゆるふわの結果を見て、余った一個をそのストレートにやらせたらいいじゃない」
みほ「とりあえず、最後の一つが何なのかを見てみないことには……」
沙織「あ、そっか」
沙織「私のあまりものは――」
沙織「わっ、余り物に福がある!」
沙織「私社長だって!」
優花里「字が違いますよ……!」
沙織「そーなの?」
優花里「そんな移動に手間取ると貧乏神に取り憑かれそうな名前の役職はありません!」
エリカ「そのうえコマンダーとかぶってるわよ」
みほ「あ、あはは……くじ、私が作り直しますね……」
エリカ「よくよく考えれば、何とか長とか言ってた無知の人間にクジ作らせたらそりゃこうなるわ……」
沙織「じゃあ、改めて決まったことだし、乗り込もっか」
エリカ「……」
エリカ「ん?」
沙織「誰から入るとかあるの?」
エリカ「ちょ、待ちなさい!」
エリカ「あんたらから見ればただのⅣ号かもしれないけど、こっちは人間なのよ!?」
エリカ「人間の中に人間が入るって、出来るわけが――」
華「それでは、お邪魔します」
エリカ「無理無理無理無理!」
エリカ「そんなに入らないから!」
エリカ「ああああああああっ、入ってる! 入ってきてるぅ!!」
エリカ「戦車の搭乗口ガバガバだから痛みとかはないけれども!!」
エリカ「でもっ……でもなんか確実に体の中に何かが入ってきてるぅぅぅぅぅぅ!!」
エリカ「……」 ビクンビクン
エリカ「は、早く起きなさいよ私……」
エリカ「こ、これ、人として大事な何かが失くなりそう……」 ビビクン
華「……少し、鉄臭いです」
沙織「狭いうえに暑苦しい……」
エリカ「文句言うなら出ていきなさいよっ……!」
エリカ「最悪だわっ……!」
エリカ「おへそより下から体の中に固形物入れたことなんて座薬しかなかったのに……!」
エリカ「感覚的には完全に処女喪失じゃないっ……!」
エリカ「こんな感動もヘッタクレもない……!」
エリカ「……」
エリカ「私にもう少し才能があって、もっとゆとりがあれば、今頃恋人くらい作っていて既に終わらせていたのかしら……」
エリカ「鉄臭い血を股から流して、狭くてあったかいとか言われて……」
エリカ「……」
エリカ「考えたら気が滅入ってきたわ……」
エリカ「この最低な夢といい、欲求たまりまくってるのかしら……」
沙織「こんなんでドライブするの?」
亜美『それでは、全戦車、パンツァーフォー!』
優花里「へへ、いよいよ戦車を動かすときが……!」
エリカ「い、いよいよ動かされるのね……」 ゲッソリ
華「あの~……どうやって動かせば……」
エリカ「本ッ当に何も知らないのね」
エリカ「……黒森峰にも多少はいたとは言え……」
エリカ「こうも素人集団とはね」
みほ「まず、イグニッションを入れて」
華「これですか?」 ポチッ
エリカ「ひぎっ!?」 ブブブブブ
優花里「いやっほーう、最高だぜーーーっ!」
エリカ「け、痙攣っ痙攣しゅりゅっ!!」 ビクンビクン
沙織「ひ、人が変わった……」
エリカ「人から人よりっ……人から戦車に変わる方がやばっ……た、助けっ……」 ビクンビクンビクンビクン
みほ「パンツァーハイ……」
エリカ「たす……」 ビクンビクン
華「あの~それからどうすれば……」
エリカ「もういいから!!」 ビクンビクン
エリカ「もうそのままじいっとしてなさい!!!」 ビクンビクン
みほ「アクセルを踏んだら前進」
みほ「前のレバーが操縦桿で、右がシフトレバー」
華「ん……」
エリカ「ちょまっ……」
エリカ「人間として生きてるときは決して味わわない場所に触れるんじゃあないわよ!!」
華「んんんん……」 ギギギギギ
エリカ「~~~~~~~~~~っ!?」
エリカ「だめだめだめだめだめ、そんな風に人の体は出来ては――」
華「重いです……!」
エリカ「やめ――――――――――」
ガコン
エリカ「」 ビクッビク
みほ「よろしくお願いします」
エリカ「――――――――はっ!」
エリカ「あまりのことに何も考えられずにいたわ……」
エリカ「ならいっそ目が覚めるか、気絶でもしたらよかったのに……」
エリカ「……」
エリカ「さすが戦車……意識がほとんどなくても、操縦されたら動くのね……」
エリカ「自分の意志以外で体が動かされるのって気持ち悪いわ……」
優花里「いよいよ攻撃開始ですねえ」
優花里「とりあえず撃ってみます?」
みほ「闇蜘蛛に撃っても……」
エリカ「5台で演習ってことは、殲滅戦よね」
エリカ「下手にこちらの場所を知らせるだけの砲撃をする意味なんてないわね」
エリカ「どこかと組めれば作戦の幅が広がるけど、そもそも地形が……」
エリカ「……」
エリカ「って、会話も出来ないのに、たかが夢の戦車戦にマジになってどうするのかしら」
沙織「ねえ、真っ先に生徒会潰さない?」
エリカ「あ、それは賛成ね」
エリカ「粉微塵にして許される枠でしょアレは」
沙織「教官、女の人だったんだもん」
華「まだ言ってるんですか?」
優花里「ある意味イケメンって言われて女子ウケしててもおかしくない人だったじゃないですか」
沙織「私にそっちのケはないの!」
華「……」
エリカ「何でそんなちょっぴり残念そうなのよ……」
エリカ「私にしか見えないからってそういう表情されるとちょっとマジっぽくてツッコミにくいからやめなさいよ……」
沙織「私が決めていいんでしょ、車長なんだから!」
みほ「え、うん……」
エリカ「ちょっと、こんなのに本当に車長やらせる気!?」
沙織「じゃあ、生徒会チームがいる方へ、前進!」
沙織「……」
沙織「で、どっち?」
ズドーーーーーン
エリカ「!?」
沙織「何!?」
沙織「何が起こったの!?」
エリカ「……不思議な感覚だけど……」
エリカ「車内の状況も、見ることが出来る」
エリカ「戦車の体に馴染んできたってことかしら」
エリカ「外の景色と同時には見られないけど、任意で切り替えはできるのね」
エリカ「外の様子はどうなってるのかしら」
これエリカが自分で体動かせないと大洗の戦闘を間近で見れる程度しか話として無いような……
エリカ「……」
エリカ「なんだろう、どんどん戦車に馴染んでいくというか……」
エリカ「戦車としての生き方が分かってきたというか……」
エリカ「首を動かすと考えるから駄目だったのね」
エリカ「目玉をぐるりと回すイメージ」
エリカ「そうすれば目玉は360度自由に動く」
エリカ「正面部に目がついてるから180度回すと車内が見えるのね」
エリカ「後ろ側の外は死角だけど……」
沙織「怖い、逃げよう!!」
エリカ「そこは中の人間がどうにかしてくれるでしょう」
エリカ「……」
エリカ「やっぱり不思議な感じだし、良くはないけど……」
エリカ「運転されるのも、そういうもんだとちょっと慣れてきちゃったわね……」 ゲッソリ
沙織「挟まれた!」
エリカ「へえ、初心者軍団だと思ったけど、普通の作戦を立てる程度の能力がある者はいるのね」
沙織「あっちに逃げよう!」
華「聞こえません!」
沙織「右斜前!!!」
ドグシャァ
エリカ「ちょっとこっちまで痛いからあまり叩き付けないでよ!」
みほ「っ!」
みほ「危ないっ!」
エリカ「え?」
キキィーーーーーーーーーッ
エリカ「あっっっっっぶなかったわ……」 プハー
エリカ「危うく人を轢き殺すところだったわ……」
エリカ「自分の肉体で人間轢き殺すとか、夢であっても最悪よ……」
エリカ「……」
エリカ(体をどう動かしたのかは分からない)
エリカ(でも……)
エリカ(気のせいじゃなければ、車体が少し言うことを聞いたような気がする……)
エリカ「よく考えると、動かすなと思ったときは操縦桿が硬かったようだし……」
エリカ「基本は操縦される存在だけど、全く介入できないわけじゃないのかしら」
エリカ「操縦手は手元の機械を使い小さな力で大きな戦車を動かす」
エリカ「逆に、戦車は大きな力を持ってすれば、逆に向こうに影響を及ぼせるのかしら」
エリカ「最初は操縦桿を固くしたように、今回は素人でも回避できるように回避行動がとりやすいように動いたみたいだし……」
エリカ「ということは、こちらの誘導次第でⅣ号の動きは劇的に変わるんじゃないかしら……」
エリカ「ただ、さっきのは無意識だったのよね」
エリカ「ボールが飛んできたらとっさに腕で顔をかばうのと同じ」
エリカ「戦車の体でつい反応したらああなった」
エリカ「……でも、ああなったということは、あの動きをどうにかすれば再現できるはず」
エリカ「アレをまたやれるかどうかで、この車輌の勝利の可能性が大きく変わるわね」
エリカ「……」
エリカ「まあ、夢なんだからどうだっていいと言えばどうだっていいんだけど……」
エリカ「……」
エリカ「でもまあ、例え夢でも戦車道」
エリカ「負けて終わるつもりなんてないわよ……!」
ちょっと疲れたので、休憩します
昼寝するので寝過ごしたら普通に明日まで投下ありませんが、起きれたらまた投下します
あと、今気づいたけど、>>48だと装填手が各車両二人いますね……
細かなミスは脳内補完して頂ければと思います
昼寝するので寝過ごしたら普通に明日まで投下ありませんが、起きれたらまた投下します
あと、今気づいたけど、>>48だと装填手が各車両二人いますね……
細かなミスは脳内補完して頂ければと思います
ボガーーーン
沙織「っとと!?」
エリカ「止まってお喋りしてる場合じゃなさそうね」
華「あの、人を保護したから中断してもらうよう頼むのは……」
沙織「やり方わからないよ!」
みほ「と、とりあえず中へ!」
エリカ「そうよ、さすがに人があんなの受けたら死ぬわよ!?」
沙織「ほら、麻子も!」
麻子「……」
エリカ「……」
エリカ「ん?」
エリカ「私、今、戦車だけど……」
エリカ「さっきから夢なのに痛みは妙にリアルにあるし……」
エリカ「これ、直撃されたら、下手すると痛みをモロに受けるんじゃ……」
エリカ「……」
エリカ「に、逃げるわよ! 全速前進っ!!」
麻子「うっ……酸素が少ない……」
エリカ「文句言うと叩き出すわよ」
優花里「大丈夫ですか……?」
沙織「麻子は低血圧で……」
みほ「今朝も辛そうだったもんね」
エリカ「はぁ!? 今朝ァ!?」
エリカ「ちょ……あ、あんたらまさか……!」
沙織「え、麻子と会っ――」
ドゴーン
沙織「きゃあっ!」
華「ど、どうしましょう、急に操縦桿が固く……!」
沙織「自動車部の整備は完璧だったんじゃないのお!?」
エリカ「あんたまさか、この女のためにまた戦車道始めたとか言うんじゃないでしょうね!!」
沙織「もうやだあ!」
みほ「……」
みほ「停車してください!」
エリカ「はぁ!?」
華「ぐっ……上手く止まらな……」
エリカ「ああもう、わかったわよ!」 ガクン
華「止まった……!」
エリカ「ほら、止めたんだから、全員きっちりさっきの問題発言に言及しなさいよ」
みほ「……」 ガチャ
エリカ「ちょ、逃げるんじゃないわよ!」
優花里「い、今出たら危ないです!」
みほ「二発目までは多分時間があるから大丈夫!」
沙織「た、多分って……!」
エリカ「いや……」
エリカ「おそらく実際まだ来ないわ……」
エリカ「さっきまでの砲撃の感覚からいっても、外に出るならば今……」
エリカ「それにしても、戻り損ねて全滅しかねない行動だけど……」
エリカ「……」
エリカ「なによ、あんた……根っこのところ、全然変わってないじゃない」
エリカ「臆病なくせにどこか大胆で」
エリカ「そのくせ的確に勝利に結びつける」
エリカ「ほんと……腹立たしいわね……」
みほ「ゆっくり前へ!」
エリカ「ふうん……ここを渡るってわけね」
エリカ「いいわ、協力してあげる」
エリカ「大分動き方が分かってきたし、踏み外さないよう手を貸してあげるわ」
エリカ「その代わり――絶対勝ちなさいよ」
ブチブチッ
沙織「きゃあ!?」
みほ「ひゃあ!?」
エリカ「ちょっ、ちゃんと真っ直ぐ進みなさいよ!」
エリカ「このままだと、川に――――」
みほ「……っ!」
エリカ「……」
エリカ「川に落ちそう、か……」
エリカ「やっぱり、深層心理では、まだあのこと、私も引きずってるのかしら……」
ギャーギャー
ワー
エリカ「……ま、まずい!」
ズドーーーーーン
沙織「きゃあああああああああ!!」
エリカ「いっ……」
エリカ「だああああああああああああ!!!!!」
エリカ「な、何よコレいっっっっっっっったい!」
エリカ「か、体がっ! 体がバラバラになるっ!」
優花里「操縦手失神! 行動不能!!」
エリカ「わだっ……私もいっそ……気絶させて……」 ゼハー・・・ゼハー・・・
みほ「……」
みほ「操縦は苦手だけど、私がやるしか……」
ブロロロロロロ
麻子「……」
沙織「麻子運転できたんだ!?」
エリカ「よ、よし、ヤバイくらい痛いし、次貰ったら本当にまずいし、さっさと終わらせるわよっ……!」
麻子「今覚えた」
優花里「今ァ!?」
沙織「さすが学年主席」
エリカ「ええい、どうせ夢、なんだっていいわ!」
エリカ「この際シロートでもなんでもいいから、早く勝つわよ!!!」
そこからは、あんまり覚えてない。
酷い痛みの中、必死に動こうとしていたように思う。
結局自分の思い通りに動けていたのか、動かされていただけなのかは分からない。
けど――
あの子の声を、指示を、その耳に受けたことだけは、よく覚えている。
簡単な指示だったけど、それでも。
それでもそれは、あの頃の黒森峰にあった、そして今も未来もあり続けると思っていた、
頼りになる車長・西住みほの姿だった。
エリカ「ん……」
エリカ「朝……」
エリカ「ここ……寮の部屋よね……」
エリカ(って、当たり前よね……)
エリカ「……」
エリカ(また、あの子の夢を……)
エリカ(それも、何だか変にリアルな……)
エリカ「……」
エリカ(夢だから、どんどん朧気になるけど……)
エリカ(でも、夢の中で、私、あの子の指揮で――――)
小梅「あっ、逸見さん!」
小梅「おはよう、目をさましたの?」
エリカ「ん……」
エリカ「おはよう」
エリカ「早起きね」
小梅「あ、うん……」
小梅「その……」
エリカ「何よ、歯切れ悪いわね」
小梅「逸見さんが心配で……」
エリカ「……はあ?」
エリカ「昨日って……」
エリカ「……」
エリカ「ああ、隊長に何か聞いたの?」
エリカ「確かに寝不足で少し変なことを隊長には言ったかもしれないけど……」
小梅「……」
小梅「そっか、逸見さん的には、それは“昨日”のことなんだ……」
エリカ「はあ?」
小梅「その……」 スッ
エリカ「そのスマホがどうしたのよ」
小梅「日付。よく見て」
エリカ「……」
エリカ「えっ……」
エリカ「一日、飛んでる……!?」
エリカ「まさか、私……」
小梅「うん……一日中寝ていたの」
エリカ「うそ……」
小梅「本当だよ」
小梅「それも、息もして無くて……」
エリカ「待って」
小梅「試しに口元に紙切れ当ててみたら微塵も揺れないし……」
小梅「死んじゃってたらどうしようかと……」
エリカ「え、待って本当に」
小梅「動転して救急車を呼びそうになったけど、呼ばなくてよかったあ……」
小梅「直下さんが『救急車を呼ぶって重いんだぞ』って言ってくれてよかったよ」
エリカ「いや見捨てて死人を出すことの方が重いと思うのだけど」
エリカ「いや、っていうかおかしいでしょ息してないって」
小梅「ほ、本当だよ!」
小梅「直下さんとか、同じ戦車のメンバーとか、色んな人に確認して貰ったもん!」
エリカ「だったらもうちょっと騒ぎになってても……」
小梅「ほら、エリカさんってストレス溜まってそうだし、睡眠時無呼吸症候群ってやつなのかなって」
エリカ「ストレス溜めてそうって思ってくれてるならもう少し手間をかけさせないでくれると有り難いんだけどね」
小梅「もう、そんなこと言わないでよお」
小梅「睡眠時無呼吸症候群って眠りが浅くて大変っていうし、たまにはゆっくり休ませてあげようと、先輩たちにもお願いしたんだから」
エリカ「それは……まあ、感謝しないこともないけど……」
小梅「安らかに眠れるようにって、お花も備えたし……」
エリカ「亡き者にしようとしてない?」
小梅「そんなことないよ、むしろニュー逸見さんに生まれてほしいと思ってるほどだよ!」
小梅「だから快眠できるよう、近所のフリマで買ってきた、赤ちゃん用のぐるぐる回るやつを天井に取り付けておいたし」
エリカ「はずせ」
小梅「でも、本当に昨日の逸見さんはおかしかったんだよ」
エリカ「今現在進行形で頭上でぐるぐる周り続けてるおもちゃのせいでおかしなことになってるのだけど」
小梅「そんなの目じゃなかったっていうか……」
エリカ「……」
小梅「学校終わりに皆でミニ四駆を整備しようってなったの」
小梅「それで、どうせだから、ガチで戦車みたいなメンテやカラーリングをしようってなって……」
小梅「戦車メンテ用のワックスだったり塗装液だったり、いろんなものを用意したんだけど……」
小梅「そしたらその臭いが部屋に充満して……」
エリカ「だからこんなに臭いのねこの部屋……」
エリカ「まあ戦車道を嗜む者として、慣れてはいるし、別に不快ではないけど……」
小梅「そうだよね」
小梅「普通戦車道をしてる子なら、そういう反応だよね」
小梅「でもね、昨日の逸見さん、寝ていたはずなのに、臭いがした途端何だか幸せそうな笑顔になってたの」
エリカ「……はあ?」
小梅「さらにね、直下さんがワックスをうっかり逸見さんにこぼしちゃって……」
エリカ「は?」
小梅「逸見さんがそれはもうローション相撲の大関みたいな風貌になっちゃったんだけど……」
エリカ「待って」
小梅「そしたら、本当にこの世の幸せ全てをその身に受けたみたいな表情になって……」
エリカ「本当に待って何一つ言ってることが理解できないのだけど」
小梅「ええとね、まず直下さんっていうのは」
エリカ「そこはさすがに分かるわよ!!」
エリカ「っていうか、冗談にも程があるでしょ?」
小梅「ほ、ほんとだよ!」
小梅「直下さん、写メに撮ってラインで拡散してたはずだから、多分頼めば証拠写真送ってくれるし……」
エリカ「あの野郎」
小梅「それから――」
エリカ「まだ何かあるわけ!?」
ドンドン
エリカ「……?」
エリカ「こんな朝っぱらから、一体――」
「赤星、起きているか?」
エリカ「た、隊長!?」
「その声……エリカか?」
「目を覚ましたんだな!!」
エリカ「うっ……」
エリカ(隊長まで冗談を……?)
エリカ(いや、とてもそうとは思えない……!)
小梅「隊長、すごく心配してたんですよ」
小梅「ずっと『睡眠時無呼吸症候群、そういう病気ではないんじゃないか』って言い続けていたし」
エリカ「良心」
エリカ(本当は化粧をしてからお会いしたいけど……)
エリカ(そこまで心配かけてしまったのならっ……!)
エリカ「隊長っ!」 ガチャ
まほ「」 ビクッ
まほ「エリカか……」
エリカ「はい」
エリカ「その……ご心配おかけしました」
まほ「……ああ」
まほ「心配した」
まほ「私が連れ回したせいだとしたら、すまないことをした」
エリカ「あ、頭を上げて下さい隊長!」
エリカ「あれ、本当に楽しかったですし、感謝してるんですから!」
エリカ「隊長のせいなんかじゃありませんし、仮に昨日のことが一昨日隊長と神社に行ったことが原因だとしても!」
エリカ「私は隊長に謝ってほしいなんて思いませんから」
まほ「そうか……そう言ってくれるなら、助かるよ」
まほ「だが……隊長として少しだけお小言を言わせてもらえるなら……」
まほ「体調管理は大事だぞ」
まほ「別に、体調管理は出来てて当然なので甘えずに無理して出てこい、なんて無茶なことを言うつもりはない」
まほ「休むなとも言わない」
まほ「日頃からきちんと休めるときには休み、不調を感じたら回復に全力を注ぐ」
まほ「病気になれば病院を頼り時間をかけてでも完治させる」
まほ「健康的でなくては、戦車道なんて成し得ないんだ」
まほ「努力家なのはいいが、あまり無理だけはしないでくれ」
まほ「……お前まで、失うわけにはいかないんだ」
エリカ「隊長……」
小梅「隊長が……体調のことを……」
小梅(あ、やばい、ちょっとツボ……だめ、堪えないと……) プフッ
エリカ「ちょっと、隊長が素晴らしい話をしてくれてるのよ!」
まほ「ああ、いや、いい、いい、大丈夫だ」
まほ「それより、その、あと、なんだ、朝起きたら鏡を見る癖を……」
エリカ「はい?」
まほ「……」
まほ「いや、なんでもない」
まほ「それじゃあ。今日はちゃんと授業に出るんだぞ」
エリカ「は、はい! ありがとうございました!!」
エリカ「ああ、なんて幸せ……」
エリカ「隊長が私を心配して下さって、しかも訪問してくれるなんて……!」
エリカ「でも鏡って……どういうことかしら」
エリカ「スッピンはよくないってことかしら……」
小梅「……」
小梅「とりあえず……」
小梅「洗面所に行って、アドバイス通り鏡に向かってみて顔でも洗うとか」
エリカ「……?」
エリカ「鏡って、何が――――」
『バカ』『犬』『誰だお前は』その他、諸々
エリカ「な、ななななによこの文字の数々は!?」
小梅「その、さっき話そうとしてたんだけど……」
小梅「色々あったのに全然起きないから、逸見さんの顔をキャンバスに落書き大会が始まって……」
エリカ「あ、あの馬鹿……!」 バタバタ
エリカ「いないっ……もうベッドが空っ……!」
エリカ「直下のバカはどこ!?」 ガルルルル
小梅「ええと、朝から学園艦の最北端までパウワウ捕まえに行きました」
エリカ「かえんほうしゃで焼き尽くしてやろうかしら」
つまりサンダースのファイアフライの17ポンドを逸見戦車のケツに受けてしまうことに……
<夜>
エリカ「はあ……今日は散々だったわね……」
エリカ「何よ、オイル拭おうとしたら瞼開けちゃって、そのまま閉じずに眠り続けたって……」
エリカ「私がそんなことしてたっていうの……?」 グギギ
エリカ「それにしてもファラオって!!」
エリカ「ファラオって!!!!」
エリカ「悪口みたいなあだ名付けるなら本人の耳に届かないよう徹底しなさいよ!」
エリカ「はあ……」
エリカ「やっぱりボクササイズは落ち着くわね……」
エリカ「あとは布団でネットサーフィンでもしましょう」
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