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元スレモバP「フリーハグだァッ!! ぐへへへへ」
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P「"温もり"ですよ"温もり"!」
P「現代人は温もりを求めているんです!」
P「おわかりですか、ちひろさん」
ちひろ「はい?」
SSWiki :http://ss.vip2ch.com/jmp/1501230119
P「こちらをご覧ください」
P「昨日夜なべして作ってきました」
ちひろ「……」
ちひろ「なんですかこれ、プラカード?」
ちひろ「これがどうかしたんですか」
P「なんて書いてあるか、読んでみてください」
ちひろ「ええと……」
ちひろ「"FREE HUGS"?」
P「その通り!」
P「ちひろさんも聞いたことがあるんじゃないですか」
P「もしくは街中で見かけたことがあるかもしれませんね」
P「フリーハグってやつです」
P「自由にハグしていいよっていうサインですね」
ちひろ「……」
ちひろ「まさか」
P「そう、そのまさかです」
P「やりますよ、俺は」
P「アイドルのみんなに、"温もり"ってやつを届けてやりますよ」
P「今日一日限定で、フリーハグ、やってやりますよ!」
ちひろ「……」
ちひろ「Pさん」
P「はい」
ちひろ「セ」
P「セクハラだって言いたいんでしょう!」
P「断じて違いますよ!」
P「よく見てください、"フリー"ハグなんです」
P「つまり、俺はハグを強要するわけじゃないんです」
P「ただフリーハグというプラカードを掲げるだけです」
P「その上でするしないは相手の自由!」
P「ノットセクハラ、OK?」
ちひろ「……」
ちひろ「わかりました」
ちひろ「限りなく黒に近いグレーだと」
P「おわかりいただけましたか」
ちひろ「まあ、Pさんが奇行に走るのは」
ちひろ「今に始まった話ではないですし」
ちひろ「今回のだって、別に止めはしませんけどね」
P「さっすがちひろさん」
P「話がわかるゥ!」
ちひろ「ただ、騒ぎになったら困るので」
ちひろ「一つだけ制限させてください」
P「はい?」
ちひろ「絶対に私の目の届かない場所ではやらないこと」
ちひろ「特に事務所の外でハグするとかはやめてください」
P「変に噂になったら困りますしね」
P「了解しました」
P「じゃ、この部屋の中でだけやることにします」
P「プラカードはこの辺に立てかけておきますか」
ちひろ「そもそもの話」
ちひろ「誰がやってくれるんですかね?」
ちひろ「Pさんとハグしたいなんて人、いないんじゃないですか」
P「う」
P「い、いますよきっと」
P「というか、いてほしい」
ちひろ「いやーどうですかね」
ちひろ「魂胆みえみえですからね、こんなの」
ちひろ「ひっかかってくれる奇特なアイドルがいるかどうか」
P「誰もやってくれなかったら」
P「めっちゃ滑ってる感じになって悲しいですね」
P「頼む、誰かハグしてくれる優しい人――」
P「具体的にはキュートのアイドルとか来てくれ! 頼む!」
ちひろ「清々しいくらい欲望に忠実ですね……」
ガチャッ
凛・奈緒・加蓮「「「おはようございまーす」」」
P「げっ」
ちひろ「おはようございます」
ちひろ「今日はそろっての出勤なんですね」
凛「三人で合わせのレッスンがあるので」
奈緒「ちょっと早めに着いちゃったけどな」
加蓮「ていうか今」
加蓮「Pさん"げっ"って言ったよね?」
加蓮「何? アタシたちが来ちゃダメなことでもあった?」
P「いやいやそんなまさか」
P「めっそうもございません」ササッ
奈緒「……怪しすぎるな」
加蓮「なんか隠してるよね」
加蓮「凛!」
加蓮「Pさんの後ろ!」
凛「うん」
スッ
P「あ、ちょっ」
サッ
凛「……? 何、これ」
奈緒「プラカード?」
奈緒「えーっと」
奈緒「"ふりーはぐず"? でいいのかな?」
加蓮「あー知ってる! これ!」
加蓮「持ってる人見たことある!」
奈緒「何なんだ、これ?」
加蓮「凛も知ってるでしょ? 駅前とかにいるもん、たまに」
凛「うん」
凛「誰もやってなかったけどね」
奈緒「え? 凛も知ってるのか?」
加蓮「でも待って、Pさんがこれを持ってるってことは」
加蓮「ひょっとして……」
凛「……」ジー
P「凛」
P「その視線キツい」
奈緒「なあ、ちょっと」
奈緒「さっきからあたしだけ蚊帳の外なんだけど!」
加蓮「奈緒、つまりね」
加蓮「Pさんは今、ハグし放題なんだってさ」
加蓮「それで合ってる? Pさん」
P「……はい」
P「絶賛ハグし放題にございます」
奈緒「ハグ?」
加蓮「抱きしめることだよ」
加蓮「奈緒、よかったじゃん」
加蓮「Pさんにハグしてもらったら?」
奈緒「……は?」
凛「フリーハグって、そういう意味だよ」
奈緒「いやいや、意味は分かったけど……」
奈緒「……」
奈緒「いやいやいや!」
奈緒「ちょっと待て! おかしいだろ!!」
奈緒「それセクハラだろ!! 何やってんだよPさん!!」
P「言うと思った」
P「大丈夫、やるやらないは君らの自由だから」
P「別にこれ強制じゃないから」
P「だからセクハラじゃないんですー」
奈緒「ええ……なんだその屁理屈」
加蓮「いいじゃん奈緒、やってもらいなよ」
加蓮「Pさんもきっと喜ぶよ」
奈緒「ないないない!」
奈緒「ぜっったいやらないからな!!」
奈緒「だいたいPさんとハグなんて」
奈緒「どこ触られるかわかったもんじゃないだろ!」
凛「……ただハグするだけじゃないの?」
P「基本的にはそうだな」
P「俺はマネキンのように突っ立ってるだけで」
P「あとはハグするほうでお好きにどうぞ、てな具合だ」
凛「だってさ、奈緒」
奈緒「"だってさ"、じゃないよ!」
奈緒「なんであたしがやるみたいな流れになってるんだよ!」
加蓮「え、むしろやらないの?」
加蓮「こんな機会、めったにないんだよ?」
奈緒「は、はあ?」
P「そうだぞ」
P「今日一日の限定だからな」
加蓮「だってさ」
加蓮「これを逃したら一生ハグできないかもしれないよ?」
加蓮「奈緒、それでもいいの?」
奈緒「う、え……」
奈緒「……」
奈緒「いやいやいや!!」
奈緒「だまされないぞ! その手には乗らないからな!」
奈緒「あたしはやらない! やらないってもう決めたから!!」
P「そっか……」
P「俺と奈緒との絆は、そんなもんだったか……」
奈緒「え、ちょ、おい」
奈緒「そ、そんながっかりしなくても……」
加蓮「(Pさん、いけそうだよ!)」
凛「(後一押しすれば落ちるよ、きっと)」
P「(よっし、まかせろ)」
奈緒「だああ! 何目配せしてんだ三人とも!」
奈緒「もー決めた! 何があってもやらない!」
奈緒「天地がひっくり返ってもやらないから!!」
奈緒「さ、行くぞ二人とも! レッスンだレッスン!」
加蓮「あらら、残念」
凛「うまく行きそうだったのにね」
P「なんかちょっとショックだわ」
奈緒「ったく、もう!」
加蓮「……」
加蓮「ね、Pさん」
加蓮「アタシたちの前に、もうハグした人っていた?」
P「ん?」
P「いや、誰もいないけど」
加蓮「ふーん……」
P「なんかあった?」
加蓮「Pさん、そこ立って」
P「?」
加蓮「いいから立つの!」
P「は、はい、立ちました」
加蓮「ばんざーいってして」
P「ばんざーい」ヒョイ
加蓮「誰もいないんだよね」
加蓮「いままでハグした人」
P「うん」
ギュッ
P「!」
凛「!」
奈緒「!!」
加蓮「じゃ、アタシが一番乗りだ♪」
奈緒「ちょ、ま、かれ……!」
凛「……」
加蓮「なーに? 二人とも」
加蓮「別にアタシがやってもいいんだよね?」
加蓮「だってフリーハグだもんねー」
P「う、うむ……」
加蓮「それにこのまま誰にもハグされなかったら」
加蓮「Pさんかわいそうでしょ?」
加蓮「だったらちょっとくらい、いい思いをさせあげたいじゃない?」
P「ど、どうも……」
加蓮「それでどう? Pさん」
加蓮「ファーストハグの感想は」
P「あの……」
P「たいへん情けないことに」
P「体が緊張して動けないです」
P「銃口を突きつけられたみたいになってる」
加蓮「ふふっ、体硬くなってるよね」
加蓮「いいよ、腕降ろしても」
加蓮「せっかくなんだから、もっとリラックス、しよ?」
P「……うむ」
スッ
P「……」
加蓮「落ち着いてきた?」
P「ああ」
P「びっくりした」
加蓮「他に感想は?」
P「他?」
加蓮「ハグされてるのに、何もないの?」
P「……」
P「加蓮、いい匂いがするな、と」
加蓮「んふふ、そうでしょ」
加蓮「アタシもPさんの匂いがするよ」
P(臭くないだろうか……)
加蓮「他は?」
P「他は……」
P「密着してる部分が熱いな、って」
P「腰に回してる手の部分とか……」
加蓮「……うん」
加蓮「アタシも何か、熱くなってる」
加蓮「でもあんまり嫌いじゃないかも」
加蓮「むしろ落ち着く感じ」
P「……確かに」
加蓮「……」
P「……」
ギュー
奈緒「ど、どーすんだよ、凛!」
奈緒「完全に二人の世界になってるじゃんか!」
凛「奈緒、落ち着いて」
凛「……ねえ加蓮、そろそろいいんじゃない?」
加蓮「……んー? ふふっ、そう?」
加蓮「じゃあPさん、名残惜しいけどここまでね」
加蓮「これ以上やると、二人が怖いもんね」
パッ
P「……ぶはー」
P「なんかめっちゃ疲れたような」
P「反面、癒されたような……複雑な心境だ」
加蓮「でも、良かったでしょ?」
P「……うす」
P「たいへん助かりました」
P「このままだとハグ0ってこともありえたからな」
加蓮「ふふっ、どーいたしまして」
加蓮「またいつかやろーね」
奈緒「あ、あのなあ加蓮!」
加蓮「さーさー二人とも、レッスンの時間だよっ」
加蓮「それともどうする? 二人もPさんとハグしていく?」
奈緒「えっ」
凛「……ううん、私はいいかな」
加蓮「へー」
加蓮「凛はいいんだ、意外」
加蓮「じゃ奈緒だね」
奈緒「だ、だからあたしは……っ!」
加蓮「まーまー、そんなたいしたものじゃないって」
加蓮「海外で挨拶するときとかよくやってるし」
加蓮「それにけっこう癒されるよ?」
加蓮「Pさん、なんかおとなしい熊みたいだったし」
P「熊て」
奈緒「う……」
加蓮「(ほら、Pさん!)」
P「(え?)」
加蓮「(どーみても奈緒迷ってるでしょ!)」
加蓮「(今がチャンスだって!)」
P「……ええと」
P「奈緒、あのー、なんだ」
P「俺本当に、全然動かないからさ」
P「人形かなんかだと思ってくれていいんで」
P「軽い気持ちで、どうぞよろしくお願いします」
奈緒「……Pさんは、どーなんだよ」
P「俺?」
奈緒「その、あたしに、だ、抱きしめられるとか」
奈緒「Pさん、イヤじゃないのかよ?」
P「……」
P「いや、普通に嬉しいけど……」
奈緒「そ、そうなのか?」
P「奈緒に抱きしめられるとか」
P「どんなご褒美だよって思っちゃうわ」
奈緒「そ、そっか……」
加蓮「いっちゃえいっちゃえ」
奈緒「ああもうっ! 加蓮はうるさい!」
加蓮「はーいっ♪」
奈緒「じゃ、じゃあ……」
奈緒「Pさん、ば、ばんざーいってして、くれる?」
P「はい」
ヒョイ
P(これ毎回やんのかな)
奈緒「よ、よし」
奈緒「Pさん絶対動くなよ、絶対だぞ!」
P「ハイ」
奈緒「……」スーハースーハー
加蓮「(深呼吸してる)」
凛「(かわいい)」
奈緒「い、いくぞっ!」
奈緒「っ!」
ガバッ
P「……」
奈緒「……」
ギュー
P(これは……)
P(ハグというか……)
P("しがみつかれてる"って感じだ)
奈緒「~~っ!」
ギュウゥ
加蓮「なーおー」
加蓮「それじゃ意味ないでしょー」
加蓮「もっとこう、腕を背中に回して」
加蓮「ぎゅーっとやんないと、ぎゅーっと」
凛「今のだと、ただ寄りかかってるだけだね」
奈緒「む、無理! もう無理!」
奈緒「限界! これが限界っ!!」
奈緒「は、は、恥ずかしすぎる…っ!」
ギュー
P「ぐええ」
加蓮「おお」
凛「力はいったね」
P(……いかん)
P(奈緒の頭が、目の前に)
P(髪の毛、すっごい近い)
P(なんだろう)
P(めっちゃ、なでたい……)
P(でも、勝手になでるのはNGだったハズ)
P(くそっ、俺の両手はどこに置けば……っ)
P「~~っ」
奈緒「~~っ」
加蓮「なんか、二人とも悶えてるね」
凛「あんまり癒されてないっぽいね」
ガバッ
奈緒「ぶはっ!」
加蓮「あ、離れた」
奈緒「はー、はー……」
凛「奈緒、大丈夫?」
加蓮「肩で息してるけど……」
奈緒「だ、大丈夫……」
奈緒「ちょっと、息止めてただけだから……っ」
加蓮「そ、そんなに?」
P(危なかった)
P(こっちはこっちで誘惑に負けるところだった)
加蓮「ちょっと不安ですが」
加蓮「感想聞いてみましょう」
加蓮「奈緒、どーだった?」
奈緒「いや、あの、ゴメン」
奈緒「全然覚えてない」
奈緒「とにかく恥ずかしかった……」
凛「だと思った」
P「なんか、悪いことしたな」
奈緒「いや、Pさんが謝ることじゃないけど!」
奈緒「だけどなんていうか、こういうのは慣れが必要っていうか!」
奈緒「い、いきなりだとうまくできないっていうか……」
加蓮「へー」
加蓮「さっきのじゃ足りないってさ、Pさん」
奈緒「か、加蓮! 何言ってnーー」
凛「もう一回やれば?」
奈緒「り、りーんー!!」
P「まあまあ、二人ともあんまりからかうな」
P「俺は結構よかったぞ」
奈緒「えっ」
P「なんつーか、いい意味でどきどきしたな」
P「癒しとかそういうのはなかったかもしれないけど」
奈緒「そ、それって……」
P「なんでかしらないけど」
P「懐かしい気持ちになったな」
P「いい思いしたわ、ありがとう、奈緒」
奈緒「う、うん」
奈緒「ま、まあ、Pさんがよかったっていうなら……」
奈緒「あたしも、別に、イヤじゃなかったし……」
加蓮「」ニヤニヤ
凛「」ニヤニヤ
奈緒「な、何笑ってんだよ! 二人とも!」
加蓮「べっつにー」
凛「なんでもないよ」
凛「それよりいいの? 二人とも」
凛「もうこんな時間だけど」
加蓮「あ」
奈緒「あわわ、やっばい! は、早く行かなきゃ!!」
加蓮「なーんだ、残念」
加蓮「もっと奈緒のかわいいところが見られると思ったのに」
奈緒「そんなこと言ってる場合か! ほら、急ごう!」
加蓮「はーい、じゃーね、Pさん」
P「うす」
P「お気をつけて」
ガチャ
凛「……」チラッ
P「?」
バタン
タタタタ……
ちひろ「……終わりましたか」ヒョコッ
P「うわっ」
ちひろ「0ハグ回避、おめでとうございます」
ちひろ「幸先いいスタートでなによりですね」
P「ど、どうも」
ちひろ「それで、与えられましたか?」
ちひろ「"温もり"とやらは」
P「いや~、どうでしょうね」
P「逆に元気をもらってる側な気がしますね」
ちひろ「完全にもてあそばれてましたしね」
ちひろ「まあ、健全な範囲だったので、不問としましょう」
ちひろ「今後も変なことはしないようにお願いしますよ」
P「あ、はい」
P「そうか、温もり、温もりか……」
P「よし、次こそ主導権をとってみせるぞ」
P「キュートのアイドル、来てくれ~」
ちひろ「……」
ガチャッ
未央・茜・藍子「「「おはようございまーすっ!」」」
P「お」
P「パッション勢か」
未央「おっはよー、Pさん!」
茜「おはようございます!!」
藍子「おはようございます、Pさん」
P「はい、どうも」
P「お揃いのところ恐縮だけど」
P「今これ、やってるよ」サッ
藍子「……なんですか、これ?」
茜「ふりー……読めません!!」
未央「あっ! フリーハグだ!」
未央「Pさん、これフリーハグのカードでしょ!」
P「ご明察」
茜・藍子「「ふりーはぐ?」」
未央「ん? 待てよ、ということは……」
未央「……ふぅーむ、なるほど、なるほど」
未央「Pさんも、なかなかワルですなあ」ニヤリ
P「なにをいう」
P「俺は純粋な気持ちからだな」
未央「まーまー、いいっていいって細かいことは!」
未央「それで、どうかな? 成果はあったのかな?」
P「まあ、おかげさまで」
P「ご好評いただいております」
未央「おー! いたんだ、やってくれる人!」
未央「え、だれだれ!? これって聞いてもいいのかな!」
P「うん、さっきな……」
藍子「……茜ちゃん、二人が話してること、わかる?」
茜「はいっ!」
茜「まったく!!」
未央「ふふふ、茜ちんにわかるよう簡単に言うとね」
未央「Pさんが練習台になってくれるんだってさ」
未央「タックルの」
P「ちょ」
未央「しかも無料で、何回でもオッケーだって!」
茜「!!」
茜「本当ですかっ! Pさんっ!!」
P「ぜってえこうなると思った」
P「落ち着け茜」
P「俺が言いたいのはな……」スッ
未央「あっ、立ったよ!!」
未央「いまだっ! 茜ちんっ!!」
茜「はいっ! いきますっ!!」
茜「うおおおぉおっ! ぼんばーーーっ!!!」
ドムッ
P「ぐふっ」
未央「よーし、あたしも続くぞー!」
P「まって」
P「これ以上はむr」
未央「ぼんばーーっ!!」
ドゴォッ
P「オアアーッ!」
バターン
藍子「わああ! P、Pさんっ!?」
―――
P「座れ」
未央・茜「ハイ」
P「聞け」
P「人の話を」
未央・茜「ハイ」
P「まず君らのはハグではない、いいね?」
茜「えっ!」
茜「違うんですか!?」
P「あんな殺意をこめたハグがあるか」
P「激しすぎるわ」
未央「はいはい! せんせーじゃあ質問でーす!」
未央「普通のハグってなんですかー!」
P「うん」
P「いい質問だ」
P「そいつをこれから披露しようと思う」
P「そう、俺と――」
P「……」チラッ
藍子「えっ」
藍子「わ、私ですかっ?」
P「藍子、そういうわけなんだ」
P「すまないがひとつ、頼まれてくれるか」
藍子「えっ、ええっ」
藍子「といわれても私、そんな、あの……」
未央「ちょちょちょちょちょ!」
未央「まったー! まったまった!!」
P「なにか?」
未央「なにか? じゃないよ!」
未央「私のあーちゃんに何させようとしてるのさっ!」
P「別に俺は何とも言っていないぞ」
P「ただ、頼まれてくれるか? って聞いただけだ」
P「なあ、藍子?」
藍子「え、あの……え?」
未央「あーちゃんダメだよ耳を貸しちゃ!」
未央「これ、Pさんのいつものやり口だもん!!」
未央「こうやって数多の女の子を口説(スカウト)いてきたんだから!」
P「ほーう」
P「何か知ってる風じゃないか、未央」
未央「うっ」
P「本当は俺が教えずとも、わかっているんじゃないかね」
P「"普通のハグ"とはいったい何なのかを」
未央「ううっ!」
未央「な、なんて卑劣な!」
未央「あーちゃんを人質に、私たちを脅そうって腹だね!」
茜「?」
未央「あーちゃん! 私の後ろに隠れてっ!」
未央「一刻も早くPさんの魔の手から遠ざけないと!」
藍子「え?」
P「ふふふ……」
P「さあ藍子、こちらにくるがよい……!」
藍子「えっ? えっ?」
茜「?」
茜「??」キョロキョロ
ちひろ(……)
ちひろ(茜ちゃん、完全に置いてきぼりじゃないですか)
P「――と、冗談は抜きにしても」
P「君らのはちょっと、あっけらかんとしすぎてる」
P「ハグってのはもっとこう、慈しみの精神が無いとダメなんだよ」
P「二人きりで、静かで、豊かで……」
未央「な、なんか語り始めたっ」
P「ハグソムリエの俺から言わせてもらうと」
P「全体的に軽いんだよね、君らのスキンシップは」
P「もっと恥じらいっていうか、しっとりした感じがほしいよね」
未央「うわあ……」
未央「ハグを要求するだけでもアレなのに」
未央「シチュエーションにも口を出し始めるとか」
未央「どん引きですよ、未央ちゃんは」
P「この三人相手だと」
P「好き勝手言えて楽だわ」
P「それに実際、ハグには癒し効果があるみたいなんだよ」
P「脳内でオキシなんちゃらとかいうホルモンが分泌されて」
P「幸せな気持ちになれるんだって」
藍子「……幸せ、ですか?」
未央「なるかなー、Pさんとハグして」
P「俺とハグして幸せになるかは、人によるだろうけど」
P「アイドル業は何かとストレスフルだろ?」
P「精神的なケアがやっぱり必要かなって思うわけよ」
P「俺としては少しでも力になりたいわけよ、アイドルたちの」
P「だからできることは何でもしてやりたいのよ」
未央「ほうほう」
未央「たいへんご立派なことですけれども」
P「だろ?」
未央「でもやっぱり、見え隠れしちゃうよね」
未央「Pさんの下心? っていうのがさ」
P「……しゃーない、それは」
P「もはや俺も隠しません! そういうところは!」
未央「うわっ、開き直った!」
P「すべて承知の上で、ハグしてほしい!」
P「ただただアイドルからのハグがほしい!」
P「私からは以上です!」
P「どうじゃっ! 誰か、誰かおらぬかっ!」
未央「……などと意味不明な供述をしておりますが」
未央「二人とも、いかがかな?」
藍子「……」
茜「あのっ!」
茜「結局、タックルとハグって何が違うんですかっ!!」
P「そこからか?」
P「茜はそこから説明しないとダメか?」
未央「ふふふ」
未央「あんまり響いてないっぽいねー」
藍子「……」
藍子「あの」
藍子「私、少し、興味があるかもしれません」
P「えっ!」
未央「うえっ!?」
P「こ、これは意外なところから……!」
未央「だ、ダメだよあーちゃん!」
未央「考えてみてよ? 相手はあのPさんだよ!」
未央「絶対ハグだけじゃすまないって!」
P「俺の評価って基本低いよね」
P「そんなに信用されてないのかっていう」
藍子「あ、いえ、ハグはできないかもしれないんですけど……」
P「へ?」
藍子「さっきのPさんの話、すごく共感するところがあったんです」
藍子「私もよく、"幸せ"について考えますから」
藍子「アイドルとして、どうやったらみんなに幸せになってもらえるかなって……」
未央「あー」
未央「確かにあーちゃんよく言ってるイメージある」
藍子「だから、本当に幸せになる効果があるかどうか」
藍子「興味があって、確かめてみたいんです、その……」
藍子「は、ハグは私にはハードルが高いかもしれませんけど……」
P「……ふむ」
P「そういうことなら俺も譲歩しよう」
未央「譲歩?」
P「さっき俺、ホルモンの分泌がどうのって言ってただろ?」
P「アレは別に、ハグだけに限った話じゃないらしい」
P「抱っこするとか肩を組むとかでも同じ効果が得られるんだそうな」
未央「というと?」
P「要するに肌の触れ合いがあるかどうかが大事で」
P「方法はなんでもいいみたいだ」
未央「へー」
未央「柔道の寝技とかでもなるのかな」
P「タックルもそうだけど」
P「お互い敵意がないことが大前提ですからね」
未央「あ、そっか、そうだよね」
P「まあ、だから別にいいよ、ハグじゃなくても」
P「藍子の好きなようにしてくれていい」
P「どうだろう、これで」
藍子「は、はいっ」
藍子「それならなんとかできるかもしれません」
未央「ええー……あーちゃん本気でやるの?」
藍子「ふふっ、大丈夫ですよ」
藍子「未央ちゃんと茜ちゃんにも協力してもらいますから」
未央「協力?」
茜「ですか?」
藍子「じゃあ、Pさんは座ったままで」
P「ハイ」
藍子「こっちのイスお借りしますね」
藍子「それで、みんなで座って輪になりましょう」
茜「輪?」
未央「よくわかんないけど、やってみよっか」
――
藍子「……みなさん輪になりましたか?」
P「うす」
茜「はいっ!」
未央「オッケーだよっ」
藍子「そしたら、両隣の人と手をつなぎましょう」
藍子「私はPさんと、未央ちゃんに……」ギュッ
未央「わわっ」
藍子「そしたら未央ちゃんは茜ちゃんとも……」
未央「う、うん」ギュッ
茜「そして最後に私がPさんと手をつなげばいいんですね!」ギュッ
藍子「はいっ、これで輪になりましたね」
P「なるほどね」
P「まあ手をつなぐのが一番ハードル低いわな」
藍子「Pさん、どうでしょう、こんな感じで」
P「当初の目論見からは大きく外れてしまったが……」
P「平和な感じにおさまったんで、まあオッケーです」
藍子「ふふっ、ありがとうございます」
茜「それで、これからどうしましょうっ!」
茜「みんなで回転しますか!? それともジャンプしますか!?」
茜「もしくはスクラムを組みますかっ!?」
藍子「あ、茜ちゃん落ち着いて」
藍子「何もしなくていいんだよ」
茜「……何、も?」
藍子「そう、ただ手をつないでじっとしているだけでいいんです」
藍子「そのまま楽にして、ゆったりした時間を過ごしましょう」
茜「楽に……わかりました!」
未央「しっかし相手があーちゃんと茜ちんとはいえ」
未央「ずっと手をつないでいるってのは気恥ずかしいねー」
藍子「ふふっ、私も同じです」
藍子「でもきっと、じきに慣れますよ」
藍子「のんびり静かに、いきましょう」
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