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    元スレ京太郎「俺はもう逃げない」 赤木「見失うなよ、自分を」

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    みんなの評価 : ★★
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    201 = 1 :

    「おかしいな…………」

    「え?」

    「俺の中だとな………努力してる時点で、そいつは輝くものなんだよ。
     だがお前は輝いていない。
     何か叶えたい望みがあって、それに向かって動けるだけで、人は幸せなはずなんだ………京太郎」

    「は、はい」

    「お前ひょっとして、努力を憎んでしかいないんじゃないか?」

    「え…………」

    「お前の場合、とにかく動いてみながら、あがいてみながらも………同時に、自分に足枷をはめちまってるんじゃあないか………? 
     じゃあその足枷とは何か………恐らく、その動こうとする努力自体を憎んじ待っていること………努力に何の価値も見出そうともしていない。
     本来命を輝かせるための動き、あがきを………逆に捉えてるんだ」

    「逆?」

    「お前の話を聞いているとどうも………お前は、努力に結果を求めすぎているように感じる。
     わからなくもない………あれだけ努力したんだ、だから当然、その対価は得て当然だ………と、そんな風に考えたくなるのもわかる。
     けど………それが強すぎるんだ。
     成功……繁栄………そんなものに目が行き過ぎて、結果の実らない努力を、辛さだけ押し付けてくる努力を、憎んじまってる………!」

    202 = 1 :

     俺は、赤木さんの言葉を聞いて、自分に訊いてみた。

     お前は、何のために努力しているんだ?


    (もちろん―――強くなりたい。
     強くなって、あいつらの隣にいて、恥ずかしくないくらいになりたいって―――)

    「だって…………」

    「ん?」

    「だって………そんなの、当たり前じゃないですか! 
     あいつらの傍にいて恥ずかしくないくらい強くなりたいっ、そう思って努力してるのに、実りのないまま、あいつらは俺を置いて行って、もっと強くなって………。
     努力してもしなくても変わんなくて………じゃあ、そんなのただの苦でしかないって考えるのは、当たり前でしょ………?」

    「普通は、そうなんだろうよ。だがそれは悪癖だ。よくある、多くの人間が抱えている悪癖だっ………! 
     確実な対価がなけりゃ、自分から何かをしようって気すら起きないのか? 
     だったらナマケモノみたいに、一日中ゴロゴロしてりゃあ幸せか? 違うだろう? 
     お前の求めるものは、お前しか知らないんだからっ………! 
     お前以外に、お前にそれを上げようとしてやれる奴なんていないんだっ………!」

    「ぐっ……」


     赤木さんの言葉に、俺は言い返せなかった。

     その通りだ。もし俺が俺の望むものを手に入れようとしたら、それは俺にしかできないことなんだ。

     毎日無為に過ごしていて、ある日突然強くなれるなんてあるはずがない。

    203 = 1 :

    「そりゃあ、誰だって傷つくのは嫌だ。嫌だって感じるのは構わないし、むしろそれが正常だ………が、そこで終わっちゃあいけない」

    「え?」

    「いいんだよ、いくら傷ついたって………。
     大体、お前の知っているその部活の仲間たちは、何の苦労もなく、ただ才能だけで偉業を成し遂げたもんなのか?」

    「いえ………、努力しています」

    「だろう? 誰だって、努力には傷つけられるものなんだ………。その傷を、次へ進む一歩の素と出来た者が、偉業を成し遂げられるんだ………。
     歴史上で偉人と呼ばれる連中だってそうだ。
     最初から成功だけ続けて、素直に無難に生き続けてそう呼ばれるようになった奴なんていやしない。
     お前はそんな偉業に、たったの1年もかけずに追いすがろうとしている………。
     そりゃあ傷つくさ………。尋常ではないほどに傷ついてしまいもするだろうさ………。
     だから、まだ決めつけるなよ………疑ってやるな………」

    「え?」

    「自分がこのまま、追いつきたい相手の元にたどり着けないで終わるなんてよ………考えるな。
     今のお前の傷つきは、その心配によって引き起こされるんだ………。
     本来傷つかないでいいところを、さらに余分に、過剰なまでに傷つく深みにはまっちまっている………。
     その心配という靄に囚われ、霞んじまってるんだ………それに………」

    「それに…………?」

    「いいじゃないか…………!
     もし努力が何一つ結果に結びつかなくったって、すべてが失敗に終わったって………!」

    204 = 1 :

    「な…………」


     俺はその言葉に反応して、食いついた。


    「何で、そんなのっ、めちゃくちゃだ……!」


     身振り手振り加えて、自分の中の感情を吐き出す。


    「だって失敗したら、何にもならないじゃないですか!
     その、次の一歩につなげるとか、せめてそれにすらならないんじゃ、それこそ本当に努力する意味なんてないっ………!
     ただ辛いだけで終わるなんて、そんなのっ、赤木さんだっていやでしょう………!?」

    「くくく………まぁ、確かにそうだ。ないよりは、あった方がいいわな………」

    「でしょう!?」

    「だが、それは本当に、ないよりはましってだけの話なんだ……」

    「え…………?」

    205 = 1 :

     赤木さんはコップの中の最後の一口を飲み干し、笑って言った。


    「ただ……やってみようと、動いてみるだけでいいんだ。
     何かをやってみようと、熱を持って行動に踏み切ることっ………これが一番大事なことなんだ。
     そりゃあ、成功したい気持ちだってわかる。
     練習したなら、その分の力、実力………そんな見返りを求める気持ちもわかるっ………!
     だけどよ、それってそんなに必要なことか? 
     一緒にいればいいじゃないか………、お前が居たい相手と一緒に。そうしたいのなら………! 
     実力がなくたって………、どこの馬の骨とも知れない赤の他人から、指をさされて笑われようと………。望んだ結果でなくとも、お前は努力をしたんだ。
     いいか? 完璧な成功なんて、追っかけなくったっていいんだ。
     無駄になってもいい………一番最初に、自分の望むものを決めて、それを追いかけようと尽力したなら………それだけでいいんだよ。事の成否なんて、考えるな」

    「ぐっ……でも…………!」

    「いいか? 成功を目指すなと、最初から諦めろと言うんじゃない。
     その成否に思い煩い過ぎて、前へと進む熱を失ってしまうこと………命を輝かせる機会を端から完全に失うこと、これが一番まずい」


     瓶の中にわずかに残った、一、二口分のビールをコップにつぎ、俺に渡してくる。

    206 = 1 :

    「いいじゃないか…………!
     三流どころか、五流だって………! そうやって熱くいられれば、それだけで十分じゃあないか………! 
     怖がらなくっていいんだ……ただまっすぐ、自分の欲しいものがあるなら、それに向かうだけで………」

    「ッ…………!」


     俺は赤木さんの手からコップをひったくり、そのわずかな量のビールを飲み干した。


    「げほっ、けほっ! ぐっ………うっ………」

    「お前はお前で、自分を朧にしちまってる………。
     もういい加減、自分を褒めてやれよ…………そんだけ無茶な目標立てて、よく折れずに努力を続けられているなって………!
     ここまで傷つく程、それだけ頑張ったんだなって…………!」

    「うっ…………!」


     自分の膝に突っ伏すような姿で、涙をボロボロ流す。

     正直、赤木さんの言い分全てを正しいと思うことはできない。

     でも、そうやって努力しているだけで、その価値を認めてくれる人がいるというのは、この上なく心が救われた。


    「羨ましいもんさ。そうやって、自分以外の誰かのためにも頑張れるってのは………。
     俺は………こんなジジイになるまで、友達って存在のありがたさに、最後の最後まで気付けなかった………だから、お前があったかく思えるさ。
     いい生き方してるじゃねぇかよ、京太郎」

    「うっ………うああ……あ……うあああああああ…………!」

    207 = 1 :

    今日はここまでです。
    「天」の通夜編見て書いてこれかよって自分で思います。

    ちなみに書いてる途中アカギに自分が叱られてる気分で胸がえぐれそうでした。
    傷つくほどの努力、したっけ俺………てなる。

    あとやっぱ赤木さん出ると「……」の量が多くなる。

    208 :

    他の連中は咲さん以外まともに仲間だと思ってなかった模様

    209 :

    傷つくほどの乙

    210 :

    乙  晩年のアカギらしさが出てる気がする

    211 :

    顎と鼻が尖っていくほどの乙

    212 :

    おもしれーwwwwwwwwwwwwwwwwスレ主マジ神だはwwwwwwwwwwwwwwww

    213 :

    乙ー

    まぁ問題は他の面子が京太郎の事を都合のいい奴、としか見ていなかった事にあるんだけどな…
    久達も気づいたからマシにはなるんだろうけどしこりが残りそうだな

    214 = 1 :

    >>212
    黒歴史を嘲笑っている感じに見えるんだが

    215 :

    いないものの相手をするのはよせ!

    217 :

    スレ主さん続きはいつですか?

    218 :

    じゃあ麻雀部やめろよとでも言いたい
    部やめた方が逆に自由に打てるだろ

    219 :

    まともに読んでないからこんなずれたことを言う

    220 :

    >>217
    え? 今からだけど?

    つーことで始めて行きまーす

    221 = 1 :

     そのままどれだけ泣き続けていただろうか。

     目が腫れ上がっているのが、自分で分かる。

     赤木さんはその間、ただ静かに待っていてくれた。


    「すんません………勝手に一人で泣いてて………」

    「構わねぇよ。言ったはずだぜ、ただのジジイの暇つぶしだって」


    「失礼いたします」
    スッ


     ふすまが開いて、仲居さんが再びやって来た。

     両腕に、俺の制服とコートが抱えられている。


    「本当はクリーニングにお出しするのが一番いいのですが、流石に当旅館でそのようなことはできませんで………。ボイラー室で、急いで乾かしました。それと、こちらはポケットに入っていたものです」

    「あ、ありがとうございます」

    222 = 1 :

     クリーニングじゃなかろうが何だろうが、俺にとっては服を乾かしてくれるだけでありがたかった。

     若干生乾きだが、この雨の中なら傘を差しても幾らかは濡れてしまうことは避けようがないので、気にならなかった。


    「えっと、済みません。お客じゃないのにここまでしてもらった上に図々しいんですけど………、出来れば傘を貸してもらえないでしょうか?」

    「いえ、構いませんよ。清澄の生徒さんですよね? また今度返していただければ結構です」

    「すいません。ありがとうございます」


     丁寧に一々頭を下げてくる仲居さんにつられて、俺も頭を下げてしまう。

     お辞儀合戦を繰り広げる俺たちを、赤木さんは面白そうに見ていた。

     仲居さんが去ると、俺は部屋の奥の方でもう一度着替えて、自分の本来の服に戻った。

     赤木さんの服も格好よかったので少し名残惜しかったが、まさかこのまま着て帰るわけにもいかない。


    「それ………」

    「え?」

    「いや、そのお守り見せてくれねぇか?」

    「あ、はい」


     机の上に乗せられたまだ生乾きのハンカチ、生徒手帳、お守りを見て、赤木さんがお守りを指さしていた。

    223 = 1 :

    「そのお寺の名前、知ってるんですか?」

    「ああ。昔そりゃあ世話になってな………これは、石か?」

    「ええ。ひいじいちゃんにもらったんですけど、何でも麻雀の神様って呼ばれた人の墓石の欠片なんだそうです。ご利益はあんまりないみたいですけど………」

    「ああ………だからか………」

    「?」

    「いや、何でもない。ほれ」


     赤木さんは少しうれしそうな微笑みを浮かべると、俺にお守りを返してくれた。


    「赤木さん、ありがとうございました。少なくとも、さっきまでよりは気が楽になりました」

    「そうかい」


     俺は部屋に貼ってあったバスの時刻表を見て(赤木さんは時刻表が部屋の中にあったことに気づかなかったらしい)、学校行きのバスがあと5分ぐらいで来ることを確認した。

     これに乗れば、6時過ぎには学校に着くだろう。


    「これから部室に行って、みんなといろいろ話そうと思います」

    「そうか…………よし」

    「?」


     そういって赤木さんは、のっそりと立ち上がった。


    「俺もつれて行ってくれ。久しぶりに、麻雀を見たくなった」

    「え!? あ、いや、それは…………」


     俺は困惑した。部外者が学校に入れるものなのか?

     いや、取材か何かだと言えば入るだけならできるかもしれない。でも、赤木さんが部室に現れたらみんなは何というだろう?


    「無理なら構わんが…………」

    「い、いえ。やるだけはやってみます」

    224 = 1 :

    「案外すんなり通れたもんだな」

    「すんなりっていうか………」


     20分後、俺と赤木さんはバスを使ったおかげで大して濡れることなく、学校に戻ってこれた。

     とりあえず最初に思い付いた無難な嘘として、適当な麻雀雑誌の取材の方だと主事さんには言ってみた。

     主事さんは赤木さんを見た途端にビビってしまい、無言でコクコク頷いて入校証を渡してくれた。

     今俺の隣にいるのは、『近代麻雀』の赤木さんということになっている。

     放課後でほとんど人がいないから誰とも会うことはなかったが、よく知っているこの校舎を赤木さんと歩くのはすごく奇妙な感覚だった。


    「そういやぁ、高校っていう場所に来るのは初めてだな」

    「え?」

    「俺は中学も中退して、博打の腕一本だけで生きてきたからよ。一番やったのは麻雀だな。で、お勉強とはついぞ縁がなかった」

    「へ、へぇ…………」


     ひょっとすると、俺はかなり危ない人を招いてしまっているのではなかろうか?

     どうやって会話したらいいものか悩んでいると、あっというまに部室前までついてしまった。

     咲たちに、何と言えばいいのだろう。

     何事もなかったかのように入って、皆に混ざるのは叶わないだろう。

     とにかく、思っていたことをすべてぶちまけてしまおう。

     覚悟を決めて、俺は部室のドアをノックした。

    225 = 1 :

    今日はここまで、次でようやく仲直りだよ。
    書き溜めていた分を結構吐き出してきてるから、仲直りシーンが終わったあたりから更新速度落ちるかも。

    227 :

    最強の保護者
    安心感が凄い

    228 :

    京太郎をここまで追い詰めた清澄女子は罪深いよな。制裁を受けてほしい、特にタコスは土下座してほしい。

    229 :

    同意、制裁が無理なら少なくとも咲達5人は
    京太郎が卒業するまでの間ずっと償いや罪滅ぼしをし続けるくらいはしてほしい
    あれだけ京太郎が辛い思いをしたのに咲達5人が謝って、それを京太郎が許して、はい仲直り
    なんてムシが良すぎる。

    230 :

    じゃあそういうSSを自分たちで書けば良くね?

    231 :

    >>230
    自演荒らしだから触るな
    SS潰したいだけ

    232 :

    京太郎が勝手に劣等感いだいて自滅してるだけなのにな

    233 :

    乙!続きゆっくり待ってるっす

    234 :

    ぶっちゃけコレって京ちゃん、部活やめた方が双方のためだと思う清澄で育成していくの無理だわ

    235 :

    京太郎が分不相応とは言え目標が咲達で追いつこうと努力してるのに辞める選択肢はなかろう

    236 :

    いや、別に麻雀部辞めても時々うちに来るぐらいはできるやろ

    237 :

    どうでもええわ

    238 :

    被告!!「清澄」!!被告!!「化け物(咲とか)」!!判決は死刑!!死刑だ!!死刑死刑死刑死刑死刑死刑!!

    239 :

    京太郎チョロいから謝ればすぐ許しちゃうよ

    240 :

    やめーや

    241 :

    なんて謝るのか?私たちお前より次元が違うくらい強いのに傲慢にならず謙虚な態度でごめーんねってか?

    243 :

    【名前】 秋田 美羽 あきたみう
    【性別】 女
    【容姿】 長身だが胸はそんなにない
    【性格】 常に余裕ぶっており超然としている
    【学年】 2年
    【高校】 清澄
    【特記】観察力が強く相手の考えを予測できる

    244 :

    >>242
    すっごいよく出来た自画像ですね!

    さて仲直り編始まり始まり

    245 = 1 :

    「………部長」

    「……………………」

    「部長!」


     和の呼びかけにはっとして、久が顔を上げる。


    「あ、ああ、ごめんなさい。えっと…………」 


     部室の中は、お通夜のような空気に沈んでいた。

     久は度々うわの空になり、打牌にも思い切りの良さがなく、縮こまっていた。


    「それ、ロンです。3900」

    「あちゃあ…………」


     そのくせ、振り込む頻度もなかなかに高かった。

     いつもの久なら、待ちを躱した上で逆に悪牌待ちで安い手でも絡めとっていたはずだ。


    「久、せめて対局中だけは京太郎のことは忘れい」

    「ごめんまこ。頭ではわかっているんだけどね………」


     少しでもぼうっとしてしまうと、昼間の京太郎の今にも泣きそうな顔を思い出す。


    『あんたで弱いっていうなら俺は―――!』

    「っ―――!」


     手足の筋肉が引きつるような感覚を覚える。

     否が応でも、自分は今まで京太郎のことを軽視していたのだという事実を突きつけられる。

    246 = 1 :

    コンコン

    「?」

    「誰でしょう? こんな微妙な時間に」


     時計の針は6時を過ぎていた。


    「あの………すいません」

    「京ちゃん!」

    「須賀君!」


     そろりと少しだけ開けられたドアの隙間から申し訳なさそうに顔をのぞかせたのは、京太郎だった。

     泣いた跡と疲労から来るくまで、目の周りは大変なことになっていた。


    「えっと、今、俺が入っても大丈夫でしょうか………?」

    「いいに決まってるよ、ほら!」


     咲が京太郎の腕を引っ張って、部室に引きずり込む。


    「えっと、その、部長………お昼のことなんですけど………」


     久のことを見づらそうにしながら、京太郎が言う。


    「うん、出来れば私も、そのことを話したかった」


     久も卓から立ち上がり、京太郎に面と向かった。


    「その、部長。まずはその………失礼なことを、まるで部長に八つ当たりするようなことを言って済みませんでした」


     京太郎が腰を直角に曲げて、頭を下げる。


    「頭を上げて頂戴。部長として、あなたのことを蔑ろにしていた私の非よ。
     それと、お昼に言ったことの他にも、私たちに不満があるなら、いい機会だから言っちゃって。私を含め、皆がいる前で」

    「はい………」


     久に促されて、京太郎はゆっくりと、二学期に入ってからずっと感じていたことを吐き出した。

    247 = 1 :

    「俺………インターハイが終わってからこっち、ずっと辛かったです………。
     皆は全国で指折りの選手になったのに、俺は弱いのが情けなくて………、それで強くなりたいって思ったんです」

    「うん」

    「麻雀の教本買ったり、ネト麻で実践したり、みんなの牌譜を見て勉強したりって、頑張ったんです。
     でも、ほとんど強くなれなくって………」

    「うん」


     鼻にツンとした痛みが走り、一息入れて京太郎が先を続ける。


    「そうして結局また停滞してる間に大会が近くなって………。
     また雑用が増えてきて、もう11月に入ってからずっと夜1時より前に寝れなくって………、だんだん辛さが増してきて………」

    「うん」


     久は相槌を打つだけで、途中で話の腰を折らない。


    「でも、やっぱりみんなの傍に胸張って居たいから………、そんな全国クラスの実力なんていいから、
     せめて人並みに打てるようになりたくって、それで頑張り続けて………」
     

     声が震える。


     鼻に奔る痛みが鋭くなり、視界が涙で歪む。


    「でも、全然だめで………。皆と打たせてもらう機会も減って行って、一局も打たない日も出てきて。
     だからせめて、派手な打ち方はできないけど、振り込まないように逃げるだけ逃げて、配牌とか運が傾いた時に全力を注ごうっていう方針で打って、
     点数だけは皆に食らいつけるようになってきたら、姑息だって…………。
     馬鹿にされたけど、これは俺が弱いからだって、もっと頑張ろうとしたけど、それでもみんなは俺より速くさらにどんどん強くなって、全然追いつけなくて………」

    「うん……」

    248 = 1 :

    「情けなくて………。弱い自分がめちゃくちゃダサくって…………そんな状態で、みんなが、自分のことをまだまだ弱、いとか、そうやって、言うのを、聞いて、いたら…………!」


     ずずっ と音を立てて、鼻をすすり、あふれる涙を、まだ湿気たままのコートの袖で拭う。


    「みじめで………。皆に全然敵わない俺は、じゃあ一体何なんだよって思って…………、皆がそういうつもりじゃないのは、わかってた、けれど、ずっと、馬鹿にされ続けてたように感じて…………! 死ぬほど悔しくて………うっ、く………!」


     コートの袖を目許に押し付けて、泣いている顔は見られないようにする。


     すると、見えはしないが、自分以外の誰かがすすり泣く声が耳に入った。

    249 = 1 :

    「ご、ごめんなさ、い。京ちゃ………」


     ごしりとひときわ強く目許を拭った後、声の主を見やる。

     京太郎を部室に引っ張った後、隣で立っていた咲が、涙をボロボロこぼして泣いていた。


    「ごめんなざい………! ぎょうぢゃん、ごめんなざぁい………!」


     両手の甲で涙を拭うが、止どめなく涙は落ちてくる。

     京太郎より、咲の方が大泣きしていていた。


    「わ、わだしだぢ、ずっど、きょ、京ちゃんに、頼りっぱなしで、
     ぜ、全然お礼も言って無ぐって、任せっきりで、ひどいこと、ばっがりしで…………!」

    「咲…………」

    「きょ、京ちゃん、ずっと遅くまで起きてて、寝れなくて、先生にも叱られてたのに、皆京ちゃんのこと、馬鹿にしてたのに、でも、怒らないでたのに………!
     ずっど、わだしたちの、為に。がんばっでくれでだのに……!」

    「咲、もう、いいから………」


     部内で唯一、京太郎の疲労や心労に気付きかけていた咲は、
     それを指摘できないままここまで京太郎を思い詰めさせてしまった自分を責めていた。


    「ごめんなざい………! 部長から、京ちゃんが怒ってたって聞いて、あ、謝らなきゃって………!」

    「咲………、いいから、泣かないでくれ………!」


     30センチも背の低い幼なじみが大泣きしてるのを見て、京太郎もつられてさらに涙があふれてくる。

     根が純粋な京太郎は、自分のせいで誰かが泣いているという事実に、心がどうしようもなく痛んだ。

     どれだけ酷いことをされたとしても、咲が自分のせいで傷ついていたら、これまでのことも忘れて、咲を心配してしまう。


    「京ぢゃあああああん…………ごめんなざぁいいぃ………う、うあああああああぁん………!」


     京太郎が先の両肩に手を置くと、咲は京太郎の肩に縋りついて泣き声を上げた。

    250 = 1 :

    「ひっ、ひくっ………」


     そのまま5分近く経ち、咲の泣き声がすすり泣きに変わって落ち着いてくると、久が声をかけた。


    「須賀君…………」

    「はい…………」


     同じく京太郎の告白の途中から、無言のまま涙を流し始めていた久は、目許を拭った後、真っ赤な目で京太郎と向かい合った。


    「本当に、本当にごめんなさい……。
     私、自分のことで頭がいっぱいで、ううん。本当は須賀君のことも気づいていたのに、都合よく忘れようとしてた。
     須賀君は…………どうせ須賀君はそこまで大した成績を残せないって、勝手に高をくくって、じゃあ須賀君に身の回りのことをしてもらって、自分たちが打てばいいって考えになってた………」

    「いえ………多分その通りでしょうし、俺もそうやって、打てる機会が減ってるのは、だからだって自分に言い聞かせてました」

    「元々は、部員数も規定に達するか危ないくらいだったのに、そんな部に初心者なのに入ってくれた須賀君を蔑ろにして………。
     咲を連れてきて、私を団体戦に出れるようにしてくれたのも須賀君だったのに………。
     本当なら、須賀君にはその恩返しに、一生懸命指導をしてあげなくちゃいけなかった。
     でも私はインターハイが終わった後ですら、それをしようとしなかった。
     プロ推薦をもらえて、天狗になって、自分がもう一度活躍することしか頭になかった………」


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