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    元スレ八幡「雪ノ下が壊れた日」

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    351 = 350 :

    「で、何? 雪乃ちゃんと何か楽しい進展でもあったのかなー? だったらお姉さん嬉しいんだけど」

    「……雪ノ下と葉山が付き合ってるって、雪ノ下さん、知ってますか?」

    「は?」

    それが雪ノ下さんからの返事だった。葉山や雪ノ下の反応からいって、雪ノ下さんがその事を知らない可能性はあるとは思っていたが、本当に知らなかったみたいだ。

    「比企谷君、何を言ってるのかなー? 雪乃ちゃんと隼人が付き合う訳ないじゃん。流石にそれは無理があるよ。それとも、そうやって私に雪乃ちゃんがフリーかどうか聞き出そうとか考えてる訳?」

    「……マジなんですけどね」

    陽乃さんは声を立てて笑った。

    「ないない。それに、もし雪乃ちゃんが隼人と付き合う事になったら、絶対、私の耳に入ってくるはずだもの。だから、余計な心配は無用だよ、比企谷君。遠慮なくいきなよ」

    何を遠慮なくいけばいいんですか、とか、いちいち構うつもりはなかった。

    「……証拠があるって言ったら、聞いてくれますか?」

    「は?」

    二回目のそれは、一回目のとはまったく異質な響きを含んでいた。

    352 = 350 :

    「証拠って何かな、比企谷君? 君は一体何を企んでるのか、お姉さん気になっちゃうんだけど? 隼人にでもお願いされたの?」

    完全に疑われてる。録音を先に録っといて良かったと、自分の疑い深さを改めて誉めたい気分だ。

    「違います。そうじゃなくて、言っても信じてもらえないだろうと思ってした事です。今回だけは素直に言いますけど、助けてもらえませんか」

    俺と雪ノ下の両方を。その言葉は流石に思いとどまった。

    「助け、ねえ……。君は何でも自分一人で片付けちゃう人間だと思ってたけど、違ったのかな?」

    嫌味の様に言われた。いや、俺がそう勝手に感じてしまうのかもしれないが。どちらにしろ、好感は持たれてない様ではあった。

    「文化祭の時の雪ノ下と同じで、貸しでいいです。後からその貸し、最大限に使ってもらって構わないんで、お願いできませんか」

    「君の貸しなんて私はちっとも嬉しくないんだけどね。何かの役に立つとも思えないし」

    葉山の言葉が思い出された。『あの人は興味のないものには何もせず、好きなものは構いすぎて殺すか、嫌いなものを徹底的に潰すことしかしない』だが、今はこの人以外に事態を解決出来そうな人はいない。

    「俺だけじゃどうにもならない事になって、困ってる事があるんで。それに雪ノ下が関わってます。俺の為じゃなくて、雪ノ下の為にお願いできませんか」

    「へえ……。ずいぶんつまんない事を言うようになっちゃったね、比企谷君。生意気な可愛さがなくなっちゃってるよ」

    雪ノ下の姉だけある。そう思った。

    「……雪ノ下さんが知らない妹の重要な情報を、赤の他人の俺が知っている、ってだけでも聞く価値はあると思いますけど」

    そう言うと、雪ノ下さんはまた楽しそうに笑い声を上げた。

    「いいねえ、うん。やっぱり比企谷君はそうでなきゃつまんないや。そういうところ、私は気に入ってるんだしさ」

    まったく喜ぶ気にはなれなかった。結局はオモチャ扱いされてるのと変わらないんだからな。

    353 = 350 :

    雪ノ下さんと駅で午後八時に落ち合う約束をつけて、俺は電話を切った。家には帰りたくなかったが、帰らない訳にもいかない。小町に何を言われるか想像しただけでも憂鬱な気分になる。

    「ちょっと、お兄ちゃん。なにその怪我どうしたの!?」

    完璧なまでに予想通りだった。口をあんぐりと開けて、鳩が豆鉄砲を乱射された時の様な顔を見せる。

    「イジメ!? イジメだよね! 誰にやられたの!? ちゃんと証拠写真は撮った!?」

    こっちも流石に俺の妹だ。アホの子だが、そこらへんの思考回路は似てる。つうか、お前もイジメ前提かよ。

    「イジメとかじゃない。野球のボールが当たってこけたんだ」

    「嘘だよ、そんなの! お兄ちゃんがチームスポーツをやるなんて有り得ないし」

    「いや、ボールが当たる事と、野球をやるやらないは別の事だからな?」

    「あ、それもそうか……。でもでも、それ本当にボールが当たって出来た怪我なの? そんな感じしないんだけど」

    「他にどうやったら出来るんだよ。言っとくが俺のぼっちスキルは不良にすら絡まれないレベルだぞ。最早、完全に空気だからな。いても、背景と一緒だ。相手にすらされない」

    「それ、自慢気に言う事じゃないんだけど……。ていうか、いきなりそんな怪我して帰ってきたら、イジメだと思って心配になるの当たり前じゃん。あ、今の小町的にポイント高い!」

    いつものやり取りに戻った。内心、胸を撫で下ろす。

    354 = 350 :

    「つう訳で……ボール当てた相手がお詫びに飯を奢るって言ってきてるから、俺は八時前には出掛けるからな」

    「ふうん。そっか。……でも、なんかお兄ちゃんらしくないね。めんどくさいし気まずいから嫌だって言って断りそうな感じなんだけど」

    俺ってそんな感じか? と思ったが、間違いなくそんな感じだ。見知らぬ人間と飯だとか、むしろ苦痛でしかないだろ。

    「……向こうがどうしてもって譲らなかったんだ。断りきれなかったんだよ」

    「ふうん……」

    まるで鑑定士が壺を見る様な目つきが俺に向けられた。昨日の引っ掻き傷の事もあるしやはり疑われてるのだろう。だが、疑わしきは罰せずという言葉が世の中にはある。とりあえず、更に新しい怪我を作ってこなければこれ以上疑われる心配はないはずだ。

    「じゃ、そういう訳なんで、俺は引きこもる。コミュ力を温存しておきたいからな」

    「コミュ力って温存出来るような力だっけ?」

    「俺の場合はそうだ」

    そんな感じで小町の質問を回避しつつ自分の部屋に。スマホの充電をして、時間が来るまで待った。気が重いのはどうしようもない。

    355 = 350 :

    午後七時五十分。駅前の待ち合わせのカフェまで行くと、雪ノ下さんはもう先に来ていた。手を上げて「ひゃっはろー」と言いかけ途中で固まる。この人の驚く顔を俺は初めて見た気がする。

    「なに、比企谷君。君、ボクシングでも始めたの?」

    おたくの妹さんにやられたんですけどね。

    「ちょっとこれも訳ありなんで……。それより、これ」

    俺は席につくとすぐに鞄からスマホとヘッドホンを出した。「その中の録音アプリの中に言ってたものが入ってます。葉山のと雪ノ下の二つです。長い方が雪ノ下です。これ、ヘッドホンなんで。それつけて聞いて下さい」

    雪ノ下さんは眉を寄せながらも受け取った。警戒四割、戸惑い六割というところか。

    「聞けばわかるの? 君のその怪我の事とかもさ」

    「全部はわからないと思うんで後から説明はします。ただ、先に聞いてもらった方が話が早いと思ったんで」

    「訳のわからない事ばかりだね。君の雰囲気も微妙に変わってるし」

    「雰囲気?」

    「気付いてないの? まあ、自分じゃ気付かないかもね。特に君の場合は」

    「……何か変わったんですか?」

    「そうやって素直に聞いてくるところとか、だよ」

    獲物が罠にかかったかのように、にんまりと笑う。やはりこの人の事はあまり好きになれない。

    「……わからない事は恥ずかしがらずに聞けって、昔から母ちゃんにしつけられてるんで」

    「そっか、そっか。なら君はごく最近までその躾を守ってなかったんだねえ」

    楽しそうに笑う雪ノ下さん。あくまで表情はだが。実際何を考えているかなんてわかりはしない。

    356 = 350 :

    「それじゃ、聞かせてもらうよ。でも、その前にさ、君も何か頼みなよ。君だけ水ってのもあれだし」

    そう言ってメニューを俺の前に広げる。「ちなみに比企谷君、ご飯は食べてきた?」

    「いえ……。帰りにどこかで食おうと思ってたんで」

    「そ。なら、ついでに好きなものを頼んだら。私の奢りだよ。年下の君に払わせるなんてけちくさい真似はしないから、遠慮なく頼んでいいよ」

    にっこりと笑いかけてくる。ただ、この人の場合、笑顔なんてコピーペーストして貼り付けてる様なものだ。何の判断材料にもならない事を俺は知っている。

    「いえ。後が怖いんで、自分で払います。ただより高いものはないって言いますし」

    「何を言ってるのかなー? ただより安いものなんて私見た事ないよ。大丈夫、比企谷君?」

    「……浦島太郎はただでもらった宝箱を開けて爺さんになってるじゃないですか。昔話から教訓を学ぶ男なんで、俺は」

    「違うんだなー、それ。浦島太郎は鶴になって飛び立っていったってのが本当なんだよ。鶴は神様の使いだから、結局得をしてるんだよ。浦島太郎は」

    「鶴になりたかったらそうでしょうね。俺は人間でいたいんですよ」

    「ふーん、残念。折角、私が奢ってあげようって言うのに、それを断っちゃうんだー」

    「自分の分を自分で頼むだけです。気を悪くさせたなら、謝ります」

    「本当だよねー。これがデートだったら完全失格だよ、君。女の子には気を使わないと」

    そう言いつつも雪ノ下さんはそれ以上絡んでは来なかった。俺が持ってきた小さめのヘッドホンをして、スマホを確認するように操作し始める。

    俺はその間、注文したアメリカンクラブハウスサンドとかいう長ったらしい名前のサンドイッチをどう行儀よく食うべきかで苦闘していたが、食べ終えてモカカプチーノとかいう甘くないコーヒーに手をつけた時には、雪ノ下さんの表情はかなり厳しいものに変わっていた。何も喋らず、軽くヘッドホンに片手を当ててじっと聞いている。

    この人のこういう顔を見たのも、俺は初めてだった。

    357 = 350 :

    「……ふうん」

    三十分ほど後の事だ。全部再生し終えたのか、雪ノ下さんはようやくヘッドホンを外し、それをテーブルの上にコトンと置いた。俺に目が向けられる。

    「ちなみにさ、比企谷君。この録音、コピーしても構わないよね?」

    「……どうぞ」

    「ありがと」

    そう言うと雪ノ下さんはすぐにバッグからノートパソコンを取り出した。端子も一緒に出して、スマホと繋ぐ。

    「丁度持ってきといて良かったよ」と言ってはいたが、偶然ではなく初めから持ってくるつもりだったと俺は推測している。証拠と言えば写真や録音テープが基本だ。そして、そのどちらもスマホで取れるものだ。これぐらいの事は予測してそうな人だし、今この会話をこっそりノートパソコンで録音していたとしても俺はまったく意外とは思わない。

    358 = 350 :

    「さてと……それじゃ本題に入ろうか。でも、その前に場所を変えよう。ここでするような話じゃないし、ちょっと長居し過ぎてるからね」

    そう言うや否や、伝票を掴んでレジの方に歩いていく。会計を払おうと俺も後を追ったが、雪ノ下さんがさっさと先に支払ってしまった。この場で支払いの事で揉めるのは流石に人目につく。そうでなくても俺は今、人目につく様な派手な顔面をしている。結局、そのまま店を出て、一人で勝手に歩いていく雪ノ下さんの後に続く事になった。

    「比企谷君さあ、横に並んでくれない。話しにくいじゃん」

    不意に雪ノ下さんが軽く振り返ってそう告げた。「歩きながら話したいからさ、横に来て」

    仕方なく横に並ぶ。それと、さっき用意した俺の会計分を差し出した。「受け取ってもらえますか」

    「ああ、さっきの会計の分ね。まあいいや、もらっておくよ」

    意外なほど素直に受け取った。その金を財布にしまいながら雪ノ下さんが口を開ける。

    「ちょっと最初から詳しく話してもらおうか、比企谷君。私がそれを信じる信じないかは別の話だけどね。君の怪我の事についても、最後らへんに入ってた雪乃ちゃんの痛みを堪える様な声についても、詳しく教えてもらうよ。その上で雪乃ちゃんからも話を聞いて確かめさせてもらうから」

    さっきまでのテンションとはうってかわって、静かで落ち着いた声だった。かぶっていた仮面が一枚取れた気がしたが、あと何枚仮面をかぶっているかは伺いしれないところはある。

    359 :

    適当に駅前あたりを歩きながら、俺は最初から順番に雪ノ下との事を話していった。葉山と付き合っていると告げられたあの日の事からだ。途中、合間合間に雪ノ下さんが質問を挟んで詳しく聞いてきたので、終わるまでには結構な時間がかかった。時刻は既に十時近くになっていた。

    俺は雪ノ下との事について、一切嘘をつかなかったし、包み隠さず話した。

    雪ノ下を文庫本で思いきりはたいた時の事、取っ組み合いの喧嘩になった事は、俺にとって喋らない方が有利な事実だろうというのはわかってる。だが、それは俺の立場にとって有利だというだけであって、雪ノ下の現状にとっては何らプラスにならない。俺は雪ノ下を糾弾したいのではなく、雪ノ下が元の『雪ノ下雪乃』に戻ってくれる事を願っているのだ。隠す意味がないし、それは俺にとってもマイナスにしかならない。

    告げた時は雪ノ下さんの眉が上がったが、それでも雪ノ下さんは最後まで大人しく聞いていた。そして、聞き終わった後に大きな溜め息をついた。

    「わかった。雪乃ちゃんの事は大体わかった。信じにくい事も多いけど、録音の事もあるし一応は信じてあげるよ。後で雪乃ちゃんと隼人にも確認するけど」

    「助かります」

    俺は軽く頭を下げた。とりあえずこれで一段落ついたのは確かだった。

    360 = 359 :

    「原因は多分隼人だろうね。あいつがきっと何かやらかしたんだろうけど」

    雪ノ下さんはそう言った。だが、俺はその逆だと思っている。雪ノ下が何かをし、それを葉山が隠していると考えている。それを口にするかどうか迷ったが、その前に雪ノ下さんから俺の方に質問が飛んできた。

    「それで、君はどうしたいの? 慰謝料とか要求したい訳?」

    そうじゃない。すぐさま反論しようとしたが、雪ノ下さんの顔を見てそれを思いとどまった。普段は滅多に見せないほどの、ひどく真面目な顔をしていた。俺は一旦息を吸う。

    「いえ……。そんなもの俺は欲しくないです。雪ノ下が普段通りに戻ってくれればそれで。……怪我も大した事ないですし、俺も雪ノ下に反撃してるんで」

    「ふうん。つまり痛み分けでおさめてくれるって認識でいいかな? もちろん雪乃ちゃんが君より酷い怪我をしてたら、それは逆になるだろうけどさ。でも、そうでなかったら、この件はこれでお仕舞いにしてくれるって思って間違いない?」

    「ええ、そう思ってもらっていいです。俺からどうのこうのは言いませんので」

    「そう。それなら助かるかな。うちの母親はこういうのうるさいからさ。いざとなれば、裁判でも警察でもどこでも持ってくだろうし、面倒くさいんだよね。事実だと信じようとしないし、その事実の方を揉み消しにかかるタイプだから」

    不意に、少し気になって尋ねた。

    「……雪ノ下さんはどういうタイプなんですか?」

    「私? どうだろうね。私も似たようなタイプじゃないかな。雪乃ちゃんと私が違うのはそういうところかも。むしろ、雪乃ちゃんの方が異端なんだよ、雪ノ下家の中では」

    「…………」

    「とにかくもういいよ、わかったから。雪乃ちゃんの事は私が引き受ける。だから、君はもう何もしないでもらえるかな」

    その言葉には見えないトゲが幾つも混ざっている様な気がした。

    「具体的には、しばらく雪乃ちゃんに近付かないでもらおうかな。でないと、雪乃ちゃん、更に酷い事になりそうだしね。君が原因とは私は思わないけど、トリガーになってるのは間違いないだろうから」

    「トリガー?」

    「雪乃ちゃんの憎しみのトリガー。それが君」

    そう雪ノ下さんは断言した。

    361 = 359 :

    「つまり、俺が憎まれてるって事ですよね……それ?」

    そうは思えないと否定する感情がある。だが、やはりかと思う気持ちもある。俺自身、どちらなのか、どう捉えてどう考えればいいのか、その自信がない。

    だが、雪ノ下さんは当たり前だとばかりに、そう決めつけた。

    「それ以外考えられないからね」

    「由比ヶ浜も、雪ノ下から暴言受けてるんですけど……」

    「だから、君個人じゃなく、周りのもの全部に悪意を撒き散らしてるだけだって言いたいの? 違うよ。引き金を引いてるのは君だけだよ。それについては間違いないだろうね」

    何でそんな事が断言出来るのか。そもそも何で俺が雪ノ下から憎まれる事になったのか。

    「どうして、俺……そこまで雪ノ下に嫌われてるんですかね?」

    「君がそういう風に何もわかってないからだよ」

    答えはそれだけだった。それ以上の事を雪ノ下さんは答えない。

    「この場に雪乃ちゃんがいたら、きっとまた殴られていただろうね。良かったねー、比企谷君」

    おまけに、明らかに侮蔑を含んだ口調でそう付け加えられた。何か反論しようと思ったが、結局、言葉が出てこない。

    不意に雪ノ下さんが真顔に戻った。

    「まあ、私も雪乃ちゃんの事が全部わかってる訳じゃないんだけどね。大体わかったつもりでいるだけだよ。でも、雪乃ちゃんが何をしたいかはわかる。別に変な風になんかなってないよ。雪乃ちゃんは目的があってそうしてるだけ。多分、それで合ってる。ただ、隼人と付き合うってところだけわかんないけどね。こっちは隼人から聞き出した方がいいか」

    半ば独り言の様に雪ノ下さんは言う。

    「という事でさ、比企谷君」

    思い出した様に俺の方を見て、雪ノ下さんは裁判官が判決を下す時のように告げた。

    「しばらくは雪乃ちゃんと話すの禁止だから。私がいいよって言うまでは絶対に会話しないようにしなよ。もしも雪乃ちゃんの方から何か言われても相手にせず無視する事。雪乃ちゃんには近付かない様にする事。これが私からのお願い。わかったよね?」

    それは有無を言わせぬ口調だった。お願いと言ってはいるが、ほとんど命令と捉えて間違いないだろう。

    「わかった?」

    雪ノ下さんは顔を近付けて覗き込むように念を押してくる。俺は少し迷ったが、結局は頷いた。

    俺よりも雪ノ下さんの方が今の雪ノ下の事をわかっているのは、恐らく確かだ。そして、俺にはこれ以上どうしていいかわからない。だから、雪ノ下さんを頼った。その雪ノ下さんが俺にそう言ってきている。逆らう理由が俺にはなかったのだ。

    362 = 359 :

    ここまで

    363 :


    ちょっと予想外の展開

    366 :

    「君がそういう風に何もわかってないからだよ」
    これだけで君は殴られても蹴られても仕方がないと、妹がふるった暴力を正当化するのか。
    察しろよって感じが凄いな。まだどう転ぶか分からし続き待ってる。

    367 :

    >>366
    それの一つ前のレスを読むんだ

    368 :

    これ八幡視点だから読んでる方も全然わからんけど、
    周りから見れば一目瞭然ってくらい八幡の方がおかしいのかね

    369 :

    確かにかなり八幡は雪乃に執着というか、過剰に心配してるとは思うが…おかしいのはやっぱ雪乃に思うんだがなぁ…
    ていうか何も詳しいこと話さずに、曖昧な言葉で濁してるのに、何もわかってないとか言われても困るだろ…。分かるわけねぇだろ

    370 = 369 :

    詳しいことは何も言わない癖に、わかってないからだとか…どうすればいいんだよ。分かるわけねぇ

    371 :

    >>366
    こういう文盲なやつってつっこみ待ちなの?釣りなの?
    理由を聞かれたから答えた→妹の暴力正当化  ってほんとに同じ日本語読んでるの?

    陽乃は双方事実確認ののちに示談の方向で話進めてるのに正当化?ww

    372 :

    あれやな、日本人特有のさっしろみたいな感じ。

    373 :

    どこの国の人だろうが構わない
    最後まで書いてくれ

    374 :

    俺は素直に面白いと思ってる。続き楽しみにしてる。

    375 :

    楽しみなんだけど、放置されかかってる!?

    376 :

    投下きたってろくに話進みゃしないんだし放置でも大した変わりはないような気もする

    377 :

    人は誰でも本音と建前を使い分ける。要は人間関係を悪化させないように、嘘をつく訳だ。

    例えば、その相手が苦手だったり嫌いだったとしても、わざわざそれを口にするのは戦争を始める様なものだ。相手に嫌われたり憎まれたりしても構わないという意思がない限り、人はまずそれをしない。

    俺と葉山、三浦と雪ノ下とかがそうだ。俺の場合は葉山の誘いを断りたかったからそれを口にした面もあるが、三浦の場合は感情をストレートにぶつけただけだ。どちらも相手に嫌われたとしても何ら不都合はないからそれをした。逆に言えば、そうでない場合は、まず自分の感情を隠して建前で通す。

    それなら雪ノ下もそうだったのか……?

    俺は今、そんな事を考えている。初めから俺が嫌いで、それでもこれまでずっと我慢してそれを隠してきたのだろうかと。普段のあの毒舌を冗談とかと捉えず、全て悪意から吐かれた言葉だと考えると、それが納得出来てしまうのだった。


    『それ以外考えられないからね』

    『雪乃ちゃんの憎しみのトリガー。それが君』


    だが、それならあのキスは何だったのかと問う俺がいる。嫌いな相手に、憎んでいる相手にそれをするだろうか。だが、雪ノ下さんはそれを聞いた上でそう言った。それが、俺の『何もわかってない』というその理由なのだろうか。

    「それじゃ、私は今から雪乃ちゃんのマンションに行くから。……一応聞くけど、送らなくても平気だよね?」

    俺が頷くと雪ノ下さんはタクシーをつかまえて、それで早々と去っていった。「何かあったらこっちから連絡するから」その言葉を残して。

    つまり、それ以外は連絡してくるなと言われた様なものだ。雪ノ下と会う事も禁止されているのだから、これからどうすればいいかを考える必要すら俺にはなくなってしまった。

    378 = 377 :

    その日は家に帰るとすぐに眠りに落ちた。昨日、ろくに寝れなかったのが影響した。どんな形だろうと心配事が消えてしまった事もその原因かもしれない。泥のように眠り、気が付けば朝だ。小町に起こされ、そこで急がないと遅刻する時間だという事を知らされた。

    頭が重い。出来れば休みたかった。普段は使わない勤勉的な精神力を無理矢理使ってなんとか起きた。

    洗面所で頬の湿布を張り替える。由比ヶ浜に怪我の事を聞かれるだろうな、と思い、また行く気がなくなった。だが、遅刻すれば怪我の事もあって、一瞬とはいえクラス中の注目を集めるだろう。それは出来れば避けたい。

    鏡の前の俺は相変わらず死んだ目をしていた。眠たさも相まって酷い目付きだ。深夜にでもうろうろしてたら不審人物として通報されるまである。

    さっさと鞄を用意して、俺は外へ出た。陽射しが痛いぐらい眩しくて吸血鬼の様な気分になった。

    379 = 377 :

    「八幡! どうしたの、それ!」

    学校に着き、教室に入るなりそう言われた。というか、戸塚、声大きい。心配してくれるのは嬉しいけど、やめて、目立っちゃうだろ。

    「何があったの! 誰かに殴られたみたいなそんな怪我だよ!」

    「いや、これはだな、戸塚」

    説明をしようとしたら、横から更に大きな声。

    「あっれー! なにそれ、ヒキタニ君! 誰かに殴られたってそれマジで!?」

    ……やめろ、戸部。お前の声、教室中に響くんだから、マジで!

    「ちょっとちょっとー、しかも結構痛そうじゃーん! どしたの! カツアゲでもされたん?」

    そう言いながら俺の方へ好奇心六割な表情で、素早く近寄ってくる。勘弁してくれないか。

    「なに、ヒキオ。あんたカツアゲされたん? どこで、誰に?」

    三浦まで近寄ってきた。それにつられる様に海老名さんや大岡・大和まで俺の席の方へと寄ってくる。放っておいて欲しい時だけ、どうしてリア充はやって来る習性があるのか。

    380 = 377 :

    教室をさりげなく見回すと、やはりと言うべきか視線のほとんどが俺へと突き刺さっていた。別に心配している訳ではなく野次馬と同じで好奇心による視線だ。相模に至っては、ざまあみろ、といった薄笑いまで浮かべていて、逆にそっちの方が安心出来るまである。

    例外はと言えば、葉山と由比ヶ浜だ。葉山は軽く俺に冷たい視線を向けただけで、すぐに別の方を向いた。由比ヶ浜は何か言いたげに俺に厳しい視線を向けている。

    戸塚が不意に俺の袖を軽く引っ張った。

    「ねぇ、八幡……。泣き寝入りは僕、良くないと思うんだ。それに、八幡の事が心配だし……だから」

    上目遣い。なにこれ反則だろ可愛い。いや、だけど俺カツアゲされてる訳じゃないからね? 何でそれいつのまにか確定してるの?

    「で、いくら取られたん、ヒキオ? そいつ、うちの学校のやつらなん?」

    「ヒキタニ君、言って言ってー。流石にこれは酷いからさー。俺らも協力すっから、取られたお金、取り戻そうぜー。な? 二人も協力してくれるっしょ?」

    「ああ、もちろん」

    「だよな」

    大岡、大和。お前ら目立たないのにいいやつだな……。

    「ほら、二人ともこう言ってくれてるしー。それに、優美子たちもそうっしょ?」

    「ま、ね。ちょい許せないしさ。あーし、そういうの大嫌いだから」

    「私もこれは酷いと思うからね。ヒキタニ君、出来るだけ力にはなるよ」

    本当にこんな時だけいいやつらだな、おい……。いや、三浦も戸部も他の面子も元からそこまで悪いやつじゃないが。

    しかし、今の俺にとっては逆に迷惑でしかない。小さな親切、余計なお世話って言葉があるだろ。リア充ってのはそこらを理解しない事が多い。目立たなく生きたいという思いがどうしてわからないのか。

    381 = 377 :

    非常に面倒だったが、俺は昨日小町にしたのと同じ嘘を並べて、だから別にカツアゲでもイジメでもないという事を説明した。

    「野球のボールとかマジで危ないっしょー。ヒキタニ君マジで運ないわー。ついてなさすぎじゃね、これ?」

    「ヒキオ、それマジなん? そういう風に言えって脅されてるとかじゃないわけ?」

    覗き込むように俺を見てくるあーしさん。ホント、こいつ、たまに普通にいいやつだよな。

    「ああ、本当だ。向こうにも、もう謝られてるし、謝罪の菓子折りまでもらった。わざとじゃないから、俺も何も言う気はないし……」

    「ふーん……。ならいいけどさ」

    「でも、カツアゲじゃなくて良かったね。あ、ごめん、ヒキタニ君的には悪い事なんだろうけど」

    「僕、すごい心配したよ、八幡。その怪我、痛まない? 平気?」

    戸塚からも覗き込まれた。なにこれ可愛い。萌え死にするまである。

    「でも、そんな話、聞いた事ないけどな……」

    大岡が誰ともなしに呟く。しまった、そういえば大岡は野球部だったか。だが、その呟きを聞いていたのは俺ぐらいだったらしい。丁度それにかぶさるようにして戸部が上げたすっとんきょうな声の方に全員の関心が集まったからだ。

    「あれ、そういえば隼人君いなくね?」

    そう。いつのまにか葉山は教室からいなくなっていた。いつ出ていったのか誰も気が付かなかった。戸部たちが隼人君隼人君騒ぐ中、三浦だけが顔を俯けてぽつりと呟いていた。

    「隼人、最近変だし……。前なら真っ先に来てたのに」

    その声には、心配というより、若干非難する様な雰囲気があった。

    382 = 377 :

    昼休みになり、俺がベストプレイスで焼きそばパンを頬張っていたら、由比ヶ浜が現れた。休み時間中もずっと見られていて、話しかけるタイミングを探していたようだから別に驚きはしない。

    「ヒッキー」

    すぐ隣に座る。そして、目を逸らさず真っ直ぐに言われた。

    「その怪我……本当はゆきのんだよね? そうなんでしょ?」

    悪い意味で予想通りだった。だが、俺はもう由比ヶ浜を誤魔化す気はなかった。

    「ああ……。雪ノ下からだ」

    そう答え、取っ組みあいになった事とその経緯を話した。流石に雪ノ下が下着を脱いでそれをかぶせてきたという話は出来なかったから、その事だけは伏せて、小町に対するとある脅しを受けたとだけに留めたが。

    「やっぱりゆきのん、どうかしてるよ……。いくらなんでもそこまでするなんて……」

    下唇を噛む由比ヶ浜。俺は溜め息をついた後、天を仰いだ。今日は雲一つない青空で陽射しが眩しかった。俺の気分と天気はまるで反比例している様だった。

    383 = 377 :

    「それで、ヒッキー……。どうするの? まだゆきのんに構うつもり……?」

    構う? その言い方に違和感を覚えたが、俺は雪ノ下さんに頼み込んだ事を告げて、それから会うのを禁止された事も一緒に告げた。「だから、俺もしばらくの間は、奉仕部には出ないつもりだけどな」

    辞めるとは言わない。言えない。

    だが、それを聞いて由比ヶ浜は安心したように一つ息を吐いた。

    「うん。それがいいと思う。そっか。雪ノ下さんにお願いしたんだ。そっか」

    納得した様に何回か小さく頷く由比ヶ浜。その表情がどこか嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。

    「それでいいと思う。ゆきのんとヒッキーはもう会わない方がいいって私も思うし」

    その言葉は錆び付いた鉄を使って塗り絵をする様に、俺の心に何かざらついた物を塗りたくっていった。

    384 = 377 :

    しばらく俺も由比ヶ浜も無言だった。俺は焼きそばパンをまるで深海魚の様にゆっくりと食べつつ、グラウンドを眺めていた。由比ヶ浜は下を眺めながらじっとしていた。

    パンを食べ終わる。と、タイミングをようやく捕まえたかの様に由比ヶ浜が口を開いた。

    「……ねえ、ヒッキー。学校、明日休みだよね」

    唐突にそう尋ねてくる由比ヶ浜。だが、それは質問でも確認でもなかった。由比ヶ浜はまた俺の目を覗き込んで真っ直ぐ見つめてくる。

    「どこか遊びに行かない? 気分転換って訳じゃないけど……」

    じゃあ、どういう意味なんだ。思わずそう尋ねそうになった。そもそも今俺は『遊ぶ』なんて気持ちになれなかった。家でひたすら引きこもっていたい。

    俺が黙ってると、由比ヶ浜は少し困った様な表情を見せた。

    「その……ええとね。正直、気分転換したいのは私っていうか……」

    俺の反応を見るかの様にそこで止める。それでも俺が黙っていると、由比ヶ浜は仕方なくといった感じで続けた。

    「ゆきのんの事でショック受けてるの、ヒッキーだけじゃないよ……。私もなんだよ。ヒッキーもそれ、わかってくれるよね……?」

    それはわかる。

    いや、わかると思うだけかもしれない。

    自分で思ってるよりも雪ノ下の事が好きだと言っていた由比ヶ浜。雪ノ下が困っていたら助けてと頼んできた由比ヶ浜結衣。奉仕部を辞めろと言われ、邪魔だと本気で言われたのなら、雪ノ下に愛想を尽かすというのもわかる。それが恐らく普通だろう。だが、これまでの雪ノ下と由比ヶ浜の付き合いを思うと、それが酷く軽薄な言葉の様に俺には感じられるのだ。

    所詮は、うわべだけの付き合いだったのではないかと、俺はそう思ってしまうのだ。

    なら、俺と由比ヶ浜の付き合いもその程度のものなんじゃないかと。

    由比ヶ浜結衣は優しい。誰かが悩んでたり落ち込んでたりすれば放っておけない。それがわかっているからこそ、俺は余計にその領域に足を踏み入れるのが怖いのだ。

    これまで奉仕部で色々とあった。そして紆余曲折を経て、俺はその領域に普通に足を踏み入れていた。だが、その『普通の領域』が、今の俺にはまた怖く感じられるのだった。

    385 = 377 :

    ここまで

    388 :


    >>小さな親切、余計なお世話って言葉があるだろ。リア充ってのはそこらを理解しない事が多い
    自分のことは棚に上げる設定、イイネ…

    389 = 375 :

    続ききてよかった。

    今後も期待してます

    390 :

    乙。続き楽しみ

    391 :

    お疲れ様です
    続き待ってます

    392 :

    この話の八幡さんは由比ヶ浜が同じことしたら見捨てるんだろうな

    394 :

    こういうのって人が書いたものを読むから意味があるんだよね。続きを自分の頭で妄想してもなんか虚しいだけ。

    395 :

    こういうの大好き

    396 :

     今更かもしれないけど、このssは雪乃が持ってた文庫本に大きな要素がありそう。
     
     3冊のうち2冊題名が書かれてるから、あらすじだけ調べてみたらいかにも関係がありそうな内容ですた。

    397 :

    こういう空気読めない馬鹿ってさあ…

    398 :

    まあまあ変に叩く奴よりいいじゃん

    399 :

    続き待ってるぜ笑笑

    400 :

    数日振りに来てみたら進んでない


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