のくす牧場
コンテンツ
牧場内検索
カウンタ
総計:127,542,202人
昨日:no data人
今日:
最近の注目
人気の最安値情報

元スレ八幡「雪ノ下が壊れた日」

SS+覧 / PC版 /
スレッド評価: スレッド評価について
みんなの評価 :
タグ : - 俺ガイル + 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。
1 2 3 4 5 6 7 8 9 次へ→ / 要望・削除依頼は掲示板へ / 管理情報はtwitter

1 :

それはいつも通りの日になるはずだった。少なくとも俺はそう思っていた。

この日は由比ヶ浜が部室に来るのが少し遅れるとの事だった。隣のクラスの友達と少し話す事があるらしい。俺と雪ノ下はいつも通り部室で本を読んで、由比ヶ浜、あるいは依頼が来るのを待っていた。

そんな時に、不意に雪ノ下が口を開いた。


雪ノ下「比企谷君、私、葉山君と付き合う事になったの」


八幡「…………」


咄嗟に声が出なかった。

SSWiki :http://ss.vip2ch.com/jmp/1446909455

2 = 1 :

雪ノ下が葉山と……。それだけは有り得ないと思っていた。いや、正確にはそう思い込んでいたって事になる。瞬間、頭の中が真っ白になった。まさかという思いよりも動揺の方が遥かに強かった。


八幡「そうか……」


辛うじて出た言葉がこれだった。雪ノ下が「ええ」と答えながら小説のページをめくる。その音がやけにかすれて聞こえた。

俺は何を雪ノ下に言えばいいんだろうか? 内心では酷く動揺している俺に比べて、雪ノ下はいつも通りだった。何も変わりがない。昨日と全く同じの、俺がよく知る雪ノ下雪乃だ。

文庫本から少しだけ目を離して俺の顔を見る雪ノ下の表情は、その名前通り雪の様に白く、そして凛としていた。

3 :

またこういうのか
てか名前いらなくね?

4 :

また八幡がgdgd愚痴ってる間に雪乃が不幸になる話?


とりあえずビール頼んでいい?

5 :

うーん、もうこっち系の需要はそんな無いと思うんだが……

6 :

走馬灯の様に嫌な想い出が甦ってきた。普段は自虐ネタとして使っているあれらだ。結局、俺は中学の時から何一つ変わっていない。期待するのをやめたと思っていたのに俺はまた不様にも期待していたのだ。

何が、なんて事は言いたくない。言えば急に安っぽいものに変わる気がした。この気持ちだけは何があっても自虐ネタとして使いたくもない。俺が言えるのはそれだけで、それ以上の事を言えば、感情が一気に溢れそうになる。理性の怪物だと自負する俺としては、それらを押さえつけて、別の答えを探す必要があった。

雪ノ下雪乃に何を言えばいいのか。

しばらく考えた末に、俺は結論を出した。これは『いつも』の事だ。俺は卑屈に俺らしく答えればいい。それは何も変わらない。

八幡「ぁ……」

一旦、口を開いて、慌てて俺は声を出す直前でまた閉じた。出した声が震え声になりそうで怖かった。雪ノ下が俺の方にしっかりと顔を向ける。気が付けば俺は、脳内で考えていた事とはまるで違う言葉を口から出していた。


八幡「よ……良かったな」

雪乃「…………」


まるで蛇がゆっくりと鼠を飲み込んでいくように、雪ノ下はその言葉を黙って聞いていた。長い長い時間をかけて、ようやく一言だけ。


雪乃「そうね」


そして、また読書に戻った。

7 :

また量産型居酒屋か
今ならもれなくレス貰えるもんな

8 :

そもそも選ばないとか現状維持は八幡自身が否定してるんだけどな

選ばないのは葉山。選ぶとか無しで現状維持したがったのは結衣だし

9 :

レスコジキの量産型に整合性求めるとか鬼畜やな

10 = 6 :

俺はもちろんそれ以上何も言えない状態にあった。雪ノ下もきっとそうだろう。

つまり、由比ヶ浜が来るまで、この気まずい空気の中にいなきゃいけない事になる。俺はその時は理由もなくそう思っていた。これまでの経験から出た答えだから当然だ。

だが、現実はまるで違っていた。

それから数分ぐらい経った頃だろうか。雪ノ下が「比企谷君」と言って、不意に立ち上がった。俺の座っている席までゆっくりと移動してくる。


雪乃「この本、図書館から借りてきた物なんだけど」


座っている俺に対して、雪ノ下は立って目の前にいる。自然と俺は見上げる結果となる。


雪乃「あなた、返しておいてもらえるかしら」


その直後、俺の頬にかなりの衝撃が走った。耳元で激しい音が響き、そして頭の中にキーンという甲高い金属音が聞こえた。一瞬、何が起こったのかわからなかった。それを理解したのは、つかつかと部室から去っていく雪ノ下の後ろ姿と、床に落ちてよれ曲がっている文庫本を眺めた後だった。

はたかれたのだ。思いっきり。雪ノ下に、文庫本で、頬を……。

ぴしゃりと閉じられた部室の中で、俺は多分信じられないぐらいの間抜け面を晒していたと思う。実際、何が起きたかを理解した後でも、起こった出来事が信じられなかった。

あの雪ノ下雪乃が、文庫本を使って俺の頬を手加減なしに叩く……?

俺は口の中に血の味を感じながら、落ちた文庫本をそっと拾い上げた。その文庫本には書店のブックカバーがつけられていて、無論、図書館の管理カードも入っていなかった……。

11 = 6 :

とりまここまで

12 = 8 :

原作との整合性がある程度無ければ原作改変キャラ改変のきつい最低SSにしかならんからなー
居酒屋のも最初のスレの時点でで教科書みたいな最低SSだと言われたままで突っ走っただけだし

ある程度の改変ならともかく矛盾させたら駄目だろ

13 = 4 :

スレタイと雪乃の行動からして、この後はキチのんの奇行を楽しむギャグSSだという流れを期待する

14 :

案外葉山と付き合うってのはウソで、その事について何も言わなかった八幡に
対して、自分の事に関心が無いって誤解してしまい、結果壊れたっていう話か?

15 = 8 :

嘘吐いた時点で雪乃のキャラ崩壊だけどな

雪乃は嘘は吐かないで、黙るからな

16 :

また量産型のゴミが増えるのか

17 :

ゴミヒロインの雪ノ下が寝取られても痛くも痒くもないだろ。そんなに殺気立つなよ。

18 :

もう散々量産された人のパクリをしてまでレスが欲しいって
よほどリアルの人間関係に飢えてるのか?

19 :

無理やり付き合わされることになってとかじゃ

20 :

んほおおおおおセックス気持ちいいいいい→はい

嘘ついたー→キャラ崩壊だろ[ピーーー]


ガイジかな?

22 :

居酒屋の真似をした所で居酒屋には成れんて事だな

23 :

なんの罪もない文庫本が……酷いよ…

24 :

あれから一週間。

言葉にするとたったそれだけだが、ずいぶん長い時間が経った様に思う。

あの日、俺は由比ヶ浜が来るのを待たず早々に部室から去った。頬がきっと赤く腫れていただろうから、その姿を由比ヶ浜が見れば何か尋ねてくるに決まってる。帰るしかなかった。

案の定、帰り道の途中で由比ヶ浜から電話。「ヒッキー、それにゆきのん、今、どこにいるの?」

「用事があるとかで雪ノ下は帰った」

そう伝えた。伝えた後で、部室を出る前に由比ヶ浜に先に電話をしておくべきだったと気が付いた。そんな事も思い浮かばないほど、あの時の俺は動揺していた。

「じゃあ、ヒッキーはどこにいるの?」

帰る途中だ、とは言えない。

「今、部室にいるんだけど、誰もいなくて……」

「悪い。いきなり平塚先生から呼び出し食らったんだ。遅くなりそうだから、由比ヶ浜も今日は先に帰ってくれ」

「あ、うん……」

どことなく曖昧に由比ヶ浜は頷いたが、電話を切ろうとはしない。悪いと思ったが「それじゃあな」とこちらから電話を切った。通話が切れた液晶画面を眺め、それから軽く空を眺める。

空は悔しい程に晴れていて、俺はすぐに地面に目を戻した。煙草の吸い殻やゴミが落ちているアスファルト、それを眺めていた方が遥かに心が落ち着く俺がいた。

25 = 24 :

「ねぇ、ヒッキー。今日は朝から雨でなんかあれだよね。テンションが上がらないって言うかさ」

「……そうだな」

そして、現在。俺と雪ノ下と由比ヶ浜は『いつも通り』部室にいる。いるだけで、それが普段の『いつも通り』なのかは別としてだ。

「ゆきのんもさ、雨の日はちょっとこう憂鬱気味になったりとかさ。そういう事あるよね?」

「……そうね」

「あ……ぅ……」

困ったように俺と雪ノ下の両方を間の席で代わる代わる眺める由比ヶ浜。それから小さく溜め息。この一週間はずっとこんな感じだ。

前も似たような事があった。その繰り返し、その再現だ。俺と雪ノ下は揃って喋らない。

奉仕部は一度崩壊しかけ、それが直ったと思ったらまた崩壊しかける。だったら、最初からなかった方が良かったと今の俺は思いはしないが、だからといって今回の場合は俺が動いて直せるものではないと思う。

例え、俺がいつもの様に雪ノ下と接したとしても、今の雪ノ下は恐らく何も会話する気はないと言わんばかりの返事しかしないだろう。それだけあの日の雪ノ下が取った行動は決定的であったし、そして雪ノ下雪乃らしさがまるでなかった。

26 = 24 :

俺は人間観察が得意だと自分で思っているし、それを裏付ける結果も少なからず出してきた。その俺がはっきり言える。

雪ノ下雪乃は、嘘をつかないし、暴力で事態の解決を図らない。

だが、それがイコール雪ノ下雪乃が誠実で平和的な人間だという事ではない。雪ノ下は聖人君子ではないし、ガンジーの様な平和主義者でもない。むしろ、肉食獣の様な攻撃的な一面すら持っている。だが、それでもあいつは嘘をつかないし、暴力に訴える事は絶対にない。もっと別のやり方であいつは動く。

これまで雪ノ下と長い間近くにいた俺だから確信を持ってそう言える。雪ノ下本人以上にそれは保証してもいい。

ところが、今回の場合、信じにくいが雪ノ下はその両方を行使した。それが何を意味するかは、深いところまで俺は理解できない。だが、はっきりと言える事もある。

雪ノ下は俺に対して怒りを覚えていて、それは恐らく非常に激しく理不尽な怒りだという事だ。

理屈を立てて俺を責められないから、雪ノ下は俺に暴力を振るった。それしか手段がなかったからだ。

それが何故理屈を立てられないかはわからないし、もしくはその理屈を俺に対して言えない事だったのかもしれない。だから、雪ノ下はその怒りを一旦鞘におさめたはずだ。

おさめたが何かがきっかけとなり、結局おさめきれず暴発した。

そう考えるのが妥当だろう。

そして、それは葉山と付き合う事になったという、その事に関係している様に俺には思えるのだった。

27 :

「悪いけど、由比ヶ浜さん」

意識が急に現実に戻された。伺うように目を向けると、本を鞄の中にしまって帰り支度をしている雪ノ下の姿が目に映った。

「今日はどうにも気分が優れないの。もう帰らせてもらうわね」

そう言って、返事も待たずに雪ノ下は部室の戸を開けて出ていった。「あ、あの、ゆきのん……」慌てて戸口まで追いかけて行った由比ヶ浜だが、諦めた様に一つ息を吐き、自分の席へと戻ってきた。

俺はと言えば、雪ノ下が断りを入れる時、俺の名前が出されなかったのが地味に傷ついていた。いつもの事だ、と思えないのがより辛い。出会った頃に時間を戻せれば、傷つく事もなかったんだろうなと考えている自分も嫌だった。

「ねぇ、ヒッキー」

まるで平塚先生の様に、言葉の前に深い溜め息をついてから、由比ヶ浜が俺を呼んだ。

「ゆきのんと何があったの?」

その表情は俺を責めているというより、心配している様な印象の方が強かった。

28 :

Q:雪ノ下の「葉山と付き合うことになりました」といういきなりの報告に戸惑いつつもとりあえず善意から「おめでとう」と言ったら、何故か文庫本で血が出るくらい強く殴られました。それから彼女とは何の音沙汰もないのですが、俺はどうすればいいのでしょうか。

29 :

何もない、と言うのは簡単だ。だが、由比ヶ浜はきっとその返答では納得しないだろう。むしろ、これまで一言もその話題について触れてこなかったのが驚きなぐらいだ。

多分、由比ヶ浜は由比ヶ浜で、俺と雪ノ下の事について気をつかっていたのだろう。ただ、それも限界にきていた。俺も似たような気分だった。

「……直接的には何もない」

俺はそう嘘をついていた。雪ノ下と違って俺は嘘をつく事に躊躇や迷いはない。この嘘で雪ノ下や由比ヶ浜が傷つく事もないだろう。なら、別に構わない。あの事は口にするべきではないと思ったし、口にしたとしても恐らく由比ヶ浜は信じないだろう。俺と由比ヶ浜が逆の立場でもきっとそうだ。「雪ノ下はそんな事をしない」その一言で片がつく。

「ただ、雪ノ下が葉山と付き合う事になったという話を雪ノ下から聞いた」

「え!?」

由比ヶ浜は自分の口に手を当てる。そりゃ当然驚くだろうな。聞いていないなら尚更だ。むしろ、どうして今まで雪ノ下はその事を由比ヶ浜に言わなかったのか、そっちの方が不思議なくらいだ。

30 :

八幡を試したのかどうか知らんけど雪乃下まじでコミュ障だな

32 = 29 :

「ヒッキー、それ、本当?」

「嘘や冗談でこんな事言えるか」

本当に。まったく確かに。

「でも、ゆきのんが隼人君と付き合うなんて……」

由比ヶ浜の表情は戸部の時のそれと違って、目を輝かせてなんかいなかった。それどころか真逆だ。物憂げな目を俺に向ける。

「ねぇ、ヒッキー。それ、どこ情報? 誰から聞いたの」

「……雪ノ下本人からだ」

「ゆきのんが?」

「ああ。だから俺は雪ノ下に難癖つけられないよう、大人しくしてる。中学の頃から常に恋愛対象外にいた俺が今更雪ノ下と話したところで、葉山は誤解も嫉妬もしないだろうが、万が一の危険は避けたいからな」

自分で言っていてこれほど空しくなった自虐もそうはなかっただろう。だが、由比ヶ浜はそれには耳も向けず、再び同じ事をこれ以上はないというほど真剣な表情で確認してきた。

「ヒッキー、それ本当なんだよね?」

「……ああ、本当だ。雪ノ下は今、葉山と付き合っているって俺はそう聞いた」

「そうなんだ」

由比ヶ浜は一つ小さく頷くと、何かを決意したかのように鞄を手にさっさと立ち上がった。

「ヒッキー、悪いけど私も今日は先に帰るね。鍵、お願い」

そして、駆け足気味に走り出した。戸を開け廊下へと出ていく。やや急ぎ足に聞こえる足音がそのままの速度で遠ざかっていった。


俺はしばらくじっと席に座っていた。雪ノ下がさっきまで座っていた空間を眺め、由比ヶ浜が座っていた空間も眺める。当たり前の事かもしれないが、誰もいない部室はいつもよりも広く思えた。

雪ノ下雪乃は葉山隼人と付き合っている。

思えば、口に出してそれを言ったのはこれが初めての事だった。

俺は立ち上がって、鍵を返しに行くため職員室に向かった。俺一人しかいない奉仕部は奉仕部ではない。だから、俺がここにいる必要もない。真剣にそう思えた。

33 :

>>28
A:左の頬を差し出しましょう

34 :

おもしろい。
まーた格安チェーン店かと思いきや
糞SSと格の違いを見せつけつつあるな。

35 = 29 :

その翌日は明らかに教室の雰囲気が違っていた。

多分、この雰囲気の違いに気付いてるのは俺と当事者ぐらいなものだろうな、というその程度のものだが、変化ははっきりとしていた。

当事者は葉山グループだ。いつもの活気がそこには存在してなかった。戸部なんかが何とかして盛り上げようと空回りしているのが余計に痛々しい。

その原因は恐らく葉山だろう。例えば、他の奴等がテンション低くても葉山グループ全体には特に影響をもたらさないが、中心がぐらつけばそれは別の話だ。そして、それに輪をかけるようにして、今日は女王蜂の三浦が休んでいる。

由比ヶ浜も海老名も男子グループには接触しようとせず、教室の端の方で何やら声を抑えてずっと話していた。由比ヶ浜の表情は浮かず、海老名も似たようなものだ。俺は寝たふりをしてそれらを観察していたが、たまに海老名が俺の方に視線を向けてくるのが見えた。その後、また由比ヶ浜と二人で何やら話し出す。

この状況からいって、何となく会話の内容は想像出来た。三浦が休んだ理由もだ。このタイミングで額面通り風邪をひいたと思えるほど、俺の脳は馬鹿正直じゃない。

恐らく昨日、由比ヶ浜が三浦とかに尋ねて確かめたんだろう。そして、知らなかった三浦がそれを葉山に思いきって確かめた。確信はないがそういう事としか思えなかった。

だとしたら、その過程で何があったかは簡単に想像出来る。葉山は隠していた事を話し、三浦の片想いは終わりを告げた。それだけの事だろう。どこにでもあるし、よく聞く話だ。大して珍しくもない。

本当に、大して珍しくもない。

俺は寝たふりをやめて目を閉じた。疑っていた訳ではないが、本当に雪ノ下は葉山と付き合っていたという事だ。でなければこんな状況が生まれるはずがない。

別に大した事じゃないけどな。そう自分に言い聞かせた。とある高校で一組の美男美女カップルが人知れず誕生していただけの事だ。客観的に見るなら、本当にそれだけの事でしかないのだから。

36 :

細かくてすまんが八幡は海老名には「さん」付けでっせ

37 = 29 :

とはいえ、正直、部活に行く気には俺はまったくなれなかった。

行ったところでいつもの気まずい沈黙が待っているだけだ。依頼が訪れるというならまだ話は別だが、そういった雰囲気は皆無に思えた。元から依頼が少ない部なのだからより期待出来ない。

つつがなく不毛な時間が過ぎるだけだ。しかもそれはその場にいる人間にとって決してプラスにはならず、むしろマイナスまである。なのに、足をわざわざ運ぶ自分が馬鹿の様に思えた。

そういう気分も手伝って、俺はこの日の授業後、部室に立ち寄る前に生徒会室を覗いてみた。いつもなら廊下で待っている由比ヶ浜が今日はいなかったのも理由の一つだ。

しかし、駄目な時は駄目だし、ついてない時はとことんついてない法則とでもいうのか、一色の姿はそこには見当たらなかった。いれば、生徒会の手伝いという名目でサボる事も出来ただろうが、それも叶わない。仕方なく足を部室へと向ける。途中、廊下で誰か知り合いと出会わないかと考えていたが、残念な事にそれもなかった。元から知り合いが極端に少ない事が完全に災いしていた。

一つ大きな溜め息をついてから、俺は戸に手をかける。そして、手をかけた瞬間、固まった。中から俺の名前を含んだ会話が聞こえた様な気がしたからだ。

38 = 29 :

「比企……君……それ……事……を見……だか……」

声が小さくてよく聞き取れなかったが、それは雪ノ下の声に間違いなかった。俺は咄嗟にステルスモードを全開にして聞き耳を立てる。ぼっちにとってこれはほとんど条件反射の様なものだ。自分の名前が出てくる話題については非常に敏感に反応する。

「そういう意味にお……比企谷君は……確かに……だけど……結局のと……必要で……事なの……」

それから、しばらくの沈黙が流れる……。結局、聞き耳を立てても雪ノ下が何を言っていたのかまではよくわからないのか。が、不意打ちのように今度は由比ヶ浜のはっきりとした声が聞こえた。

「ゆきのん。真剣に答えて。ゆきのんは本当に隼人君の事を好きなの」

「ええ、そう……そんな事……きってるじゃないの……好きでもない人と……私は付き合わ……」

「それ、本当? 今だから言うけど、私はゆきのんがヒッキーの事を好きじゃないかってずっと思ってた。本当の本当にゆきのんは隼人君の事が好きなの? ヒッキーの事はどう思ってるの」


今だから言える。俺はこの時、この場から即立ち去るべきだった。俺は聞かなくていい事を聞いていたのだ。


「比企谷君は……なく奉仕部……一員よ……。そして、友……それ以上でも……ない……。葉山君は……よく……だから私は……事にしたの……」

「本当にそうなんだね、ゆきのん? 嘘じゃないって信じるよ、私。ゆきのんは隼人君と付き合っていて今幸せだって、そう思うよ。ヒッキーは恋愛対象として元から見てないって、そう信じるよ、私」

「ええ、それ……そういう……構わない……」


今更だと思う。俺は遅まきながら、その場から静かに立ち去った。

廊下をしばらく歩いて階段を下り、下駄箱の前まで来てから俺はポケットを探ってスマホを取り出した。

由比ヶ浜にメールを打つ。

『悪い。今日は家の用事がある。部活は休む』

これも中学の時からよくあった事だ。今更の事だ。いつもの事だ。いつもの俺が戻ってきただけの事だ。

告白する前に女子にフラれる。一般的にこれも結構よくある事だ。そして、俺はこの時、雪ノ下が好きだったという事を初めて自分でもしっかりと認めた。

認めなければ、捨てる事も出来ないのだから。

39 = 29 :

ここまで

>>36
サンクス、気を付ける

41 :

これはもう壊れてるのか?
あるいはこれから段々壊れるのか?
壊れるのは雪ノ下か?雪ノ下家か?
八幡の中にあった「雪ノ下」像か?

なかなか面白くなりそうなSSだな

42 = 23 :

スピードワゴンさん……

43 :

今のところはまぁまぁかな
今のところは

45 :

結衣がこれを機に傷心の八幡を慰めて八幡と恋人になり、雪ノ下が壊れる可能性も…。

46 :

◆2


誰が最初に言ったかなんてのは知らないが、こういう言葉がある。

『作るのは難しい。しかし、壊すのは簡単だ』

今日は由比ヶ浜が学校を休んだ。

三浦は来ていた。ただし、葉山と話そうとはせず、海老名さんと二人で、昨日の由比ヶ浜と同じ様に教室の隅で何やら声を抑えて話していた。

流石に葉山グループの面々も今の不穏な空気に気付き始めているのだろう。いつもならうるさいぐらいに聞こえてくる戸部の声も今日は小さくなりがちだった。しかし、それでもグループ内の会話はずっと続いている。パッと見だけなら、以前と同じ様な明るさで。

それは、どこか倒産間際の会社を見ている様だった。社長は経営の悪化を喋らない。しかし、社員は雰囲気で薄々それに気付いている。路頭に迷いたくないものだから、社長と社員は前の経営が良かった頃に戻そうと努力する。しかし、そんな程度で戻るのなら、元々、傾いたりはしないのだ。

三浦は恐らくだが、もう葉山グループには戻らない気がした。

あいつはあいつで葉山から自然と距離を置いていき、それが段々と当たり前の様になり、その内、三浦を中心とした新しいグループが別に形成されるんじゃないだろうか。もしもその予想が当たっていたとしたら、事実上、葉山グループは現時点で消滅したと言える。葉山の現状維持をしたいという願いは結局葉山自身の手によって消える事になりそうだなと俺は観察していた。

なら、俺の所属していた雪ノ下グループはこれからどうなるんだろうな。

良いも悪いもなく、奉仕部は雪ノ下が中心だった。あいつが部長で、中心で、雪ノ下の周りに俺達はくっついた。周りに合わせて生きるぐらいならむしろ孤独でいたがった俺が、気が付けばそんなグループに所属していてそれを心地好いと思っていた。それが壊れてしまった今だからこそ、俺はその事実を否定できない。

由比ヶ浜は風邪だそうだ。

風邪とはどうしても思えない俺がいる。

47 :

昨日。あの後。雪ノ下と由比ヶ浜の間では他の会話も交わされたはずだ。あれだけで終わって、じゃあまたね、なんて事は有り得ない。

その結果が今日の休みなんじゃないのか?

これは推測というより、俺の不安に近いかもしれない。だが、昨日、何があったのかを俺は正確に知りたかった。何もなかったなら笑い話で済む話だ。何もなさそうな気がまるでしないから、俺は心配になっている。

知る手段は、あるにはある。由比ヶ浜にメールなり電話なりをして聞けばいい。それが最も早く、最も効率がいい。だが、俺にはそれが出来ない。

由比ヶ浜に聞いても本当の事を言うとは限らない。聞いても教えてくれないかもしれない。そもそも電話に出る事すらないかもしれない。もしくは全部俺の思い違いで本当に風邪をひいただけの事かもしれない。

そういう聞かないで済む言い訳は山ほどある。だが、それとは別に、やはり俺は由比ヶ浜に昨日何があったのかを聞けないのだ。

俺は自分の左頬を軽く押さえる。

痛みはもうない。傷は癒えてる。

俺は出していたスマホをそっとポケットの中にしまいこんだ。駄目だ、やはり由比ヶ浜には聞けない。俺の中の何かがそれを強く否定していた。

48 :

戸部の音量マジで雰囲気のバロメーターだな便利

49 :

授業が終わり、俺は部室へと重い足を運ぶ。由比ヶ浜が休みだという事を伝えなければならないし、それ以外にも大事な用件があったからだ。

戸を開けると雪ノ下はもう来ていた。『いつも通り』椅子に座って文庫本を読んでいる。背筋が綺麗に伸びていて、それだけで育ちの良さが伺える、あの座り方でだ。

「……うす」

「…………」

雪ノ下は無言。顔を上げようともしない。俺も期待していないから別に構わないが。あれからずっとこんな感じなのだから。

「今日は由比ヶ浜は休みだ。風邪をひいたらしい」

「…………」

そう言いながら、俺は鞄の中から一冊の文庫本を取り出した。あの日からずっと鞄の中に眠り続けていた本だ。今日はこれを雪ノ下に返すと決めていた。昨日の夜からそう決めていた事だ。

「これ……図書館の本じゃなかったからな。お前に返すぞ」

雪ノ下に近付いて、机の上にそれを置いた。表紙はブックカバーによって隠されているが、その本の題名は『夜と霧』だ。中身を勝手に読むのは気がとがめたので、見ずにネットで調べてみたが、第二次世界大戦中のドイツの強制収容所での話だそうだ。有名な文学作品らしい。雪ノ下が読んでいても不思議ではない系統の本だなと思った。

「ここに置いとくからな」

そう言って少しだけ本を雪ノ下の方に寄せた。雪ノ下は眉一つ動かさなかった。

俺は踵を返して定位置の椅子へと座る。雪ノ下が軽く読んでいた文庫本のページをめくった。紙がめくれる微かな音が、静かな部室にやけに響いた。

その音はこれまで積み重ねていた何かが終わりを告げた様に俺には感じられた。だが、雪ノ下の中ではこれは始まりの音に聞こえていたのかもしれない。

50 :

内容は割と良いけどちょっと投下スピードが遅いな


1 2 3 4 5 6 7 8 9 次へ→ / 要望・削除依頼は掲示板へ / 管理情報はtwitterで / SS+一覧へ
スレッド評価: スレッド評価について
みんなの評価 :
タグ : - 俺ガイル + 追加: タグについて ※前スレ・次スレは、スレ番号だけ登録。駄スレにはタグつけず、スレ評価を。荒らしタグにはタグで対抗せず、タグ減点を。

類似してるかもしれないスレッド


トップメニューへ / →のくす牧場書庫について